No.439 フトアゴヒゲトカゲの肺炎

フトアゴヒゲトカゲは、喉を黒くして膨らませる姿がアゴ髭みたいに見えることから、フトアゴヒゲトカゲと名付けられ、フトアゴの愛称で呼ばれています。性格は温厚で昼行性、人に馴れやすく仕草もかわいいので近年ペットとしてとても人気があります。寿命は8-10年で成体は40cm-55cmくらいになります。

飼育環境は
温度:昼間30~38℃ 夜間23~27℃ 体温調節できるように暖かい場所と涼しい場所が必要です。
湿度:60~70%
UVB:1日に12時間程度
温浴:36~40℃のお湯で5~10分程度、3日に1回程度
食事:雑食性で成長に伴い食性が昆虫食メインから野菜メインに変わるので成長に併せて変えていく必要があります。ペレットが使いやすいです。Ca不足に注意しましょう。

フトアゴヒゲトカゲの疾患の中でも、最近は呼吸器疾患で来院するケースが多いです。中でも肺炎が多くみられます。原因はウィルスや細菌の感染です。季節の変わり目に発症する場合が多いです。

症状は吐きそうな動きをすること(実際は何も吐きません)、喉を鳴らす、口をくちゃくちゃする、大きなため息をつくなどです。一般に爬虫類は通常鼻呼吸をしますが、開口呼吸に変わったら呼吸がかなり辛い状態です。

治療は飼育環境の整備、抗生剤、点滴、状態によっては酸素吸入、当院では代替治療も行います。食欲が落ちていたり、他の症状も伴っているようなら入院治療が推奨されます。いずれにしても早期の診断と治療介入が必要です。

フタアゴヒゲトカゲの肺炎のレントゲン写真

こちらもご参照ください
No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)


No.438 冷房病と熱中症

動物もヒトと同じように、冷房に当たり続ける、体が冷え過ぎる、冷え過ぎた部屋から外に出ることなどを繰り返すことで自律神経が乱れ、元気がない、食欲不振、嘔吐、下痢、咳、鼻水など全身の不調を起こすこと、いわゆる冷房病にかかることがあります。

しかし、冷房病を恐れて室温の高い部屋で過ごさせると、熱中症を起こす可能性が高まります。動物は全身毛に覆われていること、汗があまりかけないこと、お散歩では地面からの温度の影響を受けやすいことなどから熱中症になりやすく、また、冷房病よりも熱中症の方が重症化するリスクが高いです。過剰にお部屋を冷やす必要はありませんが、まずは熱中症にならない様にしましょう。

飼育環境のコントロールが難しい季節ですが、動物の体温調節の機能は、品種や年齢、持病などによって個体差があるので、暑がりの動物もいれば寒がりの動物もいます。寒がりだと冷房の効いた部屋でお腹が冷えやすくなったりしますが、真夏に冷房のない部屋で過ごすと、今度は熱中症や夏バテを起こしやすくなります。犬や猫なら、洋服を着せたり、ブランケットや毛布などをお部屋の中に用意しておくなどの工夫も良いです。

よくあるトラブルは、お家の中に冷房が効いたお部屋があるのに、暑い部屋に行ってしまうので、寒過ぎたんだとヒトが判断してしまい、そのまま熱中症になってしまうケースです。動物は暑いから涼しい部屋に行こうと思わない場合があります。あくまで個体差があり目安ですが、以下の快適な温度と湿度をご参考にしていただいて、動物もヒトも事故の無いように夏を乗り切ってください。

夏場に推奨される室温と湿度の目安
犬:室温20~24℃、湿度40~60%
猫:室温20~25℃、湿度40~60%
フェレット:室温15~24℃、湿度40~60%
ウサギ:室温16~22℃、湿度30~60%
チンチラ:温度15~20℃、湿度30~40%
モルモット:室温18~24℃、湿度50~60%
ハムスター:室温20~26℃、湿度40~60%
セキセイインコ・オカメインコ:室温20~28℃、湿度40~60%
文鳥:室温25~28℃、湿度50~60%
ヒト:室温25~28℃、湿度50~60%


熱中症のチンチラ 一番高温に弱い動物はチンチラです

こちらもご参照ください
No.124 夏に気をつけたいこと
No.54 動物が快適な気温・湿度
No.85 涼しくしてあげてください
No.73 夏のトラブル
No.19 熱中症、熱射病


No.437 肛門嚢アポクリン腺癌 (AGACA)

肛門嚢アポクリン腺癌(AGACA)は、肛門嚢にできる腫瘍で、発生率は犬の皮膚腫瘍全体の約2%で、猫では極めて稀です。性差はないといわれています。局所浸潤性が強く、転移しやすい性質を持ち、一般的な転移部位は局所リンパ節(腰下リンパ節群)です。時に非常に小さな肛門嚢の腫瘍が、非常に巨大な転移巣を形成することもあります。また、症例の約25~51%で腫瘍に起因する高カルシウム血症がみられることがあります(腫瘍から上皮小体ホルモン関連タンパクが放出されることによります)。症状は肛門周囲の腫大(特に4時と8時の位置)、腫大したリンパ節に大腸が圧迫されることによるしぶり、便秘、便の形状変化(通常、平らになるかリボンのような形になります)、多飲多尿(高カルシウム血症による)、食欲不振、後肢の虚弱や跛行などがみられます。

診断は、肛門周囲の視診や触診、直腸検査などにより腫瘤を発見することでできますが、中には小さすぎて発見できず、リンパ節の転移病巣や高カルシウム血症で気付かれることもあります。臨床所見と細針吸引(FNA)で、ある程度AGACAであることは予想できますが、確定診断は切除後の病理組織学的検査になります。

治療は外科的治療が推奨されます。腰下リンパ節群に転移があっても手術適応となります。高カルシウム血症が存在する場合には、術前に生理食塩水による積極的な輸液や利尿剤の投与を実施し、腎臓からのカルシウムの排泄を増加させ状態を安定化させます。腰下リンパ節群への転移があり高カルシウム血症あるいはしぶりや便秘がある場合には、肛門嚢の腫瘤とともに可能な限り腰下リンパ節群の切除を実施します。それにより、高カルシウム血症の改善や排便困難の症状の緩和が得られます。手術に伴う合併症は、出血、感染、便失禁、低カルシウム血症、肛門周囲瘻孔の形成などがありますが、腰下リンパ節群は血管が入り組んだ領域に存在するため、切除は比較的難易度が高く、致死的な出血の報告もあります。

確定診断が付いた場合、可能であれば、会陰部および骨盤領域への外部放射線照射が推奨されています。また、手術不可能あるいは再発症例などにも症状を緩和する目的で放射線治療が利用されることもあります。放射線照射に伴う合併症には、急性障害として、大腸炎、放射性皮膚障害、膀胱炎、尿道炎です。晩発障害としては、慢性大腸炎、腸穿孔、胃腸管の狭窄、膀胱の線維化、骨壊死などがあります。放射線治療を実施できる施設は限られるため、様々な理由から実施できないこともあります。AGACAの犬の転移率は高いため、術後、カルボプラチンやアドリアマイシンなどの補助的化学療法の実施が推奨されます。化学療法単独では生存期間が短いため、外科手術との併用で実施されます。

クリックすると摘出した肛門嚢アポクリン腺癌の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
摘出した肛門嚢アポクリン腺癌


No.436 胸腺腫

胸腺腫は犬猫では比較的稀ですが、「前縦隔」と呼ばれる部位に出来る腫瘍では最も発生が多い腫瘍です。通常は被膜で覆われており良性ですが、周囲の臓器へ浸潤を示すことがあります。こちらは浸潤性の胸腺腫で悪性腫瘍です。良性の胸腺腫でも非常に稀に遠隔転移を認めることがあります。どの年齢でも発生しますが、中高齢(平均約10歳)での発生が一般的です。発生原因は不明です。

胸部レントゲン検査にて前縦隔部分に腫瘤状の陰影を認めた場合、本当に胸腺腫なのかどうかが重要です。前縦隔に発生する腫瘍は胸腺腫以外にもあります。他の前縦隔の腫瘤で多いのはリンパ腫、稀ではありますが、異所性甲状腺癌、鰓性嚢胞、ケモデクトーマ、異所性上皮小体癌、胸腺癌などがあります。確定診断には、FNA検査(針生検)や、はっきりしなければ組織検査が必要です。

症状は、無症状から重度な呼吸困難まで様々です。胸腺腫が大きくなり周囲の臓器を圧迫すると、元気消失、発咳、吐出、頻呼吸、呼吸困難を呈します。また、胸水が貯留しだすと、重度の呼吸困難などで致命的になることがあります。また、稀に前大静脈症候群が起こることがあります。これは腫瘍により前大静脈が圧迫され、頭頚部や前肢の静脈が鬱血して浮腫みが出ます。

また、胸腺腫では腫瘍随伴症候群(腫瘍がホルモンなどを過剰に産生したり、正常にはない物質を作ったりすることで体に悪さをする病態)の発生が一般的であり犬での発生は約67%です。腫瘍随伴症候群には、重症筋無力症(GM)、剥奪性皮膚炎、高カルシウム血症、リンパ球増加症、貧血、多発性筋炎があります。特にGMは胸腺腫の犬の40%で起こります。猫でも起こることが知られています。重症筋無力症により巨大食道が起こると、誤嚥性肺炎が約40%で併発します。腫瘍随伴症候群はいつ発生するか分からず、診断前、診断後、時には胸腺腫の切除後に起こる場合もあるので注意深い経過観察が必要です。

胸腺腫の治療は、外科手術、放射線療法、化学療法がありますが、一般的に、切除可能な場合の第一選択は外科切除です。手術によって切除可能なのかどうかの評価にはCT検査が必須です。CT検査により、前縦隔周囲の重要な血管や臓器との関連性がある程度把握できます。外科治療がこの3つの治療法の中で唯一の根治的な治療法です。但し、麻酔をかけることが出来ないほど呼吸状態や全身状態が悪化している場合は、化学療法を組み合わせます。化学療法により腫瘍をある程度縮小させる、または腫瘍随伴症候群の症状を改善させてから手術を実施します。放射線療法の反応率(完全に消失または部分的に縮小する率)は75%です。化学療法に関しては、胸腺腫の犬に対して高用量のプレドニゾロンの投与で長期間の効果があったという報告はありますが、単独治療でのまとまった報告はなく効果はよく分かっていません。一般に化学療法単独で完全に腫瘍が消失することは稀であり一時的に縮小しても再増殖の危険性があります。

通常の胸腺腫は良性の腫瘍であり転移することは一般的にはありません。しかし、放置して巨大になる、または腫瘍随伴症候群が起こると命を脅かす腫瘍です。早期発見が重要です。中年齢(7歳以上)を超えるくらいから、年に1~2回の健康診断を心がけるようにしましょう。


緑の丸内が胸腺腫


No.435 閉塞性黄疸

胆道の物理的な閉塞に伴って、抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)を胆管や腸管に排出できずに黄疸が生じる場合で、腹部超音波にて肝内外胆管拡張や胆嚢粘液嚢腫を確認することが診断の糸口となり、肝内胆汁鬱滞型との鑑別点となります。胆道系の閉塞性黄疸の場合、右季肋部痛、発熱などの症状を伴う場合があります。

閉塞性黄疸は高度の黄疸を呈してから受診するケースが少なくありません。確定診断はCT、MRI、などに委ねられる場合があります。便は腸に入ったビリルビンが腸内細菌の働きでウロビリノーゲン、さらにステルコビリンとなるシステムが働かず、ステルコビリンが減るため灰白色(粘土色)となる場合があります。動物では以下の様な場合に閉塞性黄疸が起こります。

・胆管結石
・胆嚢粘液嚢腫
・胆管炎(好中球性、リンパ球性)
・膵炎
・悪性腫瘍:胆管癌、胆嚢癌、膵癌など
・敗血症
・血球貪食症候群
・移植後拒絶(Graft versus host disease )


胆嚢粘液嚢腫のエコー所見

こちらもご参照ください
No.434 肝内胆汁鬱滞性黄疸
No.433 肝細胞性黄疸
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.434 肝内胆汁鬱滞性黄疸

肝内胆汁鬱滞は、抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)を上手く胆汁に混ぜらず、胆汁排泄障害が起こっている状態です。

多くは肝内細胆管が炎症などで障害される事によって生じ、総ビリルビン Total bilirubin;T-bil (実際にはD-bil )の上昇に加え、通常、胆道系酵素である ALPやGGT の上昇が見られます。急性の場合は中毒が多く薬物の誤飲の確認が必要です。また、各種の肝疾患や特定の薬剤から慢性に経過して生じる場合もあります。ヒトでは各種の遺伝病が報告されています。診断のために、肝FNA検査や肝生検が必要な場合も多くあります。以下のような疾患でよくみられます。

・肝リンパ腫
・肝内胆管炎・胆管肝炎(好中球性、リンパ球性)
・薬剤性(exp 猫へのセルシン投与での劇症肝炎)
・妊娠性(動物では稀)

とくに、胆管炎・胆管肝炎で、好中球性とリンパ球性を鑑別するのは治療にとても重要です。


肝リンパ腫の細胞

こちらもご参照ください
No.433 肝細胞性黄疸
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.433 肝細胞性黄疸

肝細胞障害のため、非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin(I-bil)を抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)に上手く変換できない状態です。通常、血清肝逸脱酵素(AST.ALT)が上昇します。ヒトでは痒みを伴う場合もあります。

肝細胞性黄疸を呈する疾患としては、肝炎や肝硬変が一般的です。ヒトだとウイルス性とアルコール性のものが多いですが、犬では肝炎→脂肪肝→肝硬変の変化が多く。肝臓の代謝のメカニズムが違う猫では(外来のグルクロン酸抱合が上手く出来ない)、肥満猫での肝リピドーシスがよくみられます。抱合化する機能は比較的維持されることが多いので、肝細胞性黄疸でI-bilの割合が大きい場合は肝機能障害が高度である場合が多いです。

動物での確定診断には肝FNAや場合によっては肝生検が必要な場合が多いです。近年サプリメントなどによる肝障害も報告されており注意が必要です。

・急性肝炎、慢性肝炎
・脂肪肝、肝リピドーシス(猫)
・肝硬変
・銅蓄積性肝炎
・薬剤性
・悪性腫瘍(原発・転移性)
・レプトスピラ


肝リピドーシスの猫の黄染した皮膚

こちらもご参照ください
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.432 溶血性黄疸

赤血球の破壊亢進により、肝細胞内におけるビリルビンの処理(抱合)が追いつかない場合は、非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin(I-bil)優位の黄疸が生じます。これは主に各種溶血性疾患の際にみられます。過剰生産でなくてもI-bilを肝臓に取り込めない場合にも溶血性黄疸が起こります。赤血球の凝集、網状赤血球の増加を認めた場合は溶血性黄疸を疑います。肝疾患でI-bilが高値となるものとしてはヒトでは遺伝性の体質性黄疸がありますが動物ではよくわかっていません。肝硬変においても非代償性の場合や、あるいは劇症肝炎のような著しく肝予備能が低下した場合に、ビリルビン抱合能低下によりデータ上I-bilが優位となる場合があります。I-bilは水に溶けないため、尿中ビリルビンは増加しません。動物では主に以下のような疾患で溶血性黄疸が生じます。溶血性黄疸は他の黄疸と比べて致死率が高いことが知られています。早期の治療の介入が必要です。

免疫性:免疫介在性溶血性黄疸(IMHA) 、不適合輸血など
感染性:バベシア、ヘモプラズマ、レプトスピラなど
ハインツ小体性:玉ねぎ、DLメチオニン、アセトアミノフェン、メチレンブルー、プロピレングリコールなど
機械的刺激:大静脈塞栓症、心臓弁膜症、DIC、非典型的溶血性尿毒症症候群(D-HUS)など
有棘赤血球の増加:血管肉腫、猫の肝リピドーシスなど
敗血症
重度肝障害
遺伝病:ピルビン酸キナーゼ欠乏症、ホスホフルクトキナーゼ欠損、メトヘモグロビン血症など
新生児黄疸(ヒト):RBCが多いくグルクロン酸抱合の力が弱いため


IMHA時の赤血球凝集

こちらもご参照ください
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.396 ユリ科の野菜の誤食
No.384 輸血
No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)
No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)


No.431 黄疸 (Jaundice)

黄疸は血中ビリルビン濃度の異常高値です。古くなった赤血球が破壊されるときに生成されるビリルビン(黄色い色素)によって、皮膚や眼球結膜が黄染した状態となります。通常、ビリルビン値が2~3mg/dlを超えると顕性黄疸といって眼に見えてわかるようになります。また、血清ビリルビン値は上昇しているものの、黄染があきらかでない場合を不顕性黄疸といいます。 黄疸の原因疾患は多岐にわります。入院加療や緊急処置が必要となる場合も多いため、診断は迅速かつ正確であることが求められます。

ビリルビンは血液で肝臓に運ばれグルクロン酸抱合され胆汁中に排泄されます。肝臓で抱合される前のビリルビンを『非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin;I-bil』、抱合された後のビリルビンを『抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin;D-bil』といい、あわせて『総ビリルビン:Total bilirubin;T-bil』と呼びます。通常、T-bilは血液中にごくわずかしか存在していません。黄疸は以下のように分類されます。

溶血性黄疸:溶血性貧血などで赤血球が過剰に壊されてしまい、肝臓で処理しきれなくなりI-bilが血中にあふれる状態です。過剰生産ではなくても、薬剤、敗血症などにより、I-bilを肝臓に取り込めない場合も起こる場合があります。
肝細胞性黄疸:肝臓にI-bilを取り込めても、肝炎、肝硬変、肝臓癌などで肝臓の細胞に障害があって、I-bilをD-bilに変換できない状態です。
肝内胆汁鬱滞性黄疸:D-bilに変換できても、細胆管が障害されて胆汁に混ぜることができず肝臓内に溜まってしまう状態です。
閉塞性黄疸:D-bilが胆汁に混ざっても、胆管や腸管に排出するルートが閉ざされている状態です。
体質性黄疸(ヒト):I-bilをD-bilに変換する際に必要な酵素が欠乏していている状態です。動物ではよくわかっていません。

黄疸の種類によっても異なりますが、皮膚や眼球結膜の黄染以外の一般的な臨床症状は、嘔吐(63.5%)、食欲不振(62.6%)、嗜眠(55.7%)、発熱(18.3%)です。動物種、品種、年齢、詳細な病歴の聴取や身体所見、症状によりある程度の鑑別が可能ですが、血液検査、画像検査にてさらに鑑別診断を進め、素早く治療を開始することが重要です。また、疾患によっては緊急手術が必要な場合もあります。


黄疸で眼球結膜が黄染したロシアンブルー

こちらもご参照ください
No.426 猫の肝リピドーシス
No.420 猫の原発性肝臓癌
No.365 門脈体循環シャント (Portosystemic Shunt:PSS)
No.344 犬の胆嚢粘液嚢腫
No257 犬の原発性肝臓腫瘍
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.72 肝臓の検査2
No.71 肝臓の検査1
No.70 胆嚢疾患(Gallbladder disease)


No.430 ヒョウモントカゲモドキの卵詰まり

ヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)の卵詰まり、もしくは卵の前段階の殻のない卵胞が詰まる卵胞鬱滞は命に係わる大きな疾患です。これらを直接引き起こす原因は以下のようなものが考えられます。
・産卵場所が適切な環境でない
・低カルシウム血症
・卵管の感染症
・栄養状態が悪い
・同居の個体に産卵を邪魔される
・重度の肥満
・初産

症状はお腹がふっくらとしていて元気食欲がないという場合が多いです。卵胞鬱滞では卵胞に感染が生じて卵胞が破けてしまうことがあります。そうすると卵黄(卵胞の中身)が体腔内に漏れ出て強い炎症が起こります(体腔炎)。体腔炎が起こるとより重症化します。

診断は、症状、レントゲン検査、エコー検査、血液検査などの結果から総合的に行います。治療はカルシウム剤とオキシトシン剤の投与、栄養の補給、環境の整備です。適切な産卵場所を作るのは重要です。

産卵するための部屋は、底の浅いタッパーなどを使用し蓋に孔を空けます。この穴は出入口です。 中が狭すぎると産卵してくれないのである程度の動きがとれる広さが必要です。部屋の中には床材を敷きます。ヤシガラ土、黒土、赤玉土、水苔、バーミキュライト、パーライトなどが使用できます(誤食には十分注意してください)。これらを適度に湿らせておきます。乾燥しすぎでも湿らせすぎでも産卵してくれなくなります。

どうしても産卵してくれない場合は外科手術が必要になります。手術はどれだけ体力が残っているかによって大きく結果が異なります。待ちすぎると体力が落ちて外科手術の成功率が落ちます。


卵詰まりのヒョウモントカゲモドキ