No.327 ウサギの骨折

ジャンプ力に優れているウサギの骨は、ヒトや犬、猫などと比較するとずっと軽くて薄く、脆いです。体重に対して骨の占める割合を比べると、人間は18%、犬は14%、猫は13%に対し、ウサギは7%です。ウサギは、外敵から逃げやすくするために骨が軽くなったといわれています。そのため、外傷では骨折がとても多いです。特に肢や腰の骨の骨折が多いですが、全身の骨が脆いのであらゆる骨を骨折します。

骨折の原因は、高い場所からの落下、着地の失敗、誤ってヒトに踏まれる、ケージやドアに挟まる、すのこに肢を引っ掛ける、抱っこを嫌がり暴れるなどですが、筋肉量に対して骨の量が少ないため、自分の筋力(いわゆる足ダンでも)で骨折を起こしてしまうことがあります。また、病気(上皮小体機能亢進症や骨粗鬆症、腫瘍など)に付随して起こる場合もあります。

治療は、骨をピンやプレート(→No180ロッキングプレート)で固定する手術、バンテージでの固定、ケージレスト(動きを制限すること)などを組み合わせて行います。骨折した部位や受傷部位の状態、うさぎの年齢や一般状態などにより、どの治療方法を取るかを判断しますが、体が小さい場合が多く、プレートなどの強固な固定が可能なインプラントが使えない場合があるのと、骨が脆いため、犬や猫よりも治療が難しい場合が多いです。

骨折の治療はウサギに限らず、最初の2週間がとても重要です。自己治癒能力で、骨折を治すための細胞や蛋白がどんどん産生されるのが初めの2週間です。また、術後の安静も重要です。ウサギは穴を掘るのが好きなため、とくに前肢の骨折では、環境の整備やきちんとした看護が必要です。繰り返しになりますが、骨が脆いため、犬や猫なら2-3ヶ月くらいで完治するものがウサギはそれ以上かかります。最悪の場合断脚の可能性もあります。


ウサギの橈尺骨折 ピンディングでの治療


No.326 口蓋裂(Cleft palate)

口蓋裂(こうがいれつ)とは、上顎に亀裂があり、口腔と鼻腔がつながってしまってる状態です。 鼻水、くしゃみ、咳、口臭、食欲不振などの症状が見られます。 子犬・子猫の場合は、ミルクなどがうまく飲み込めずに肺に入ってしまい、呼吸困難や誤嚥性肺炎などを引き起こすことがあります。長く放っておくと副鼻腔炎(→No312副鼻腔炎)を発症する場合もあります。

口蓋裂の原因は先天的な形態異常のことが多いです。 先天的な発症の原因としては、胎児のころに母犬や母猫への薬物投与が行われたことやウイルス感染したことなどが挙げられますが、 遺伝性の要因が多いと考えられています。口蓋裂がある場合は、他の先天性の異常がある場合も多いので注意が必要です。後天的な発症の原因としては、交通事故や落下事故、感電などが挙げられます。

治療は、外科手術によって裂けている口蓋をふさぎます。離開している場所や大きさ、年齢などにもよりますが、口蓋裂の手術は難しく、中途半端に行うと再発します。通常は、硬口蓋でフラップを作り口蓋裂を閉じます。それでもダメな場合は、抜歯をして唇の粘膜の移植をします。術後すぐは痛みも強く、すぐに食事はできないので、食道瘻チューブや胃瘻チューブ(→No325胃瘻チューブ)から与えます。入院も7-10日間程度は必要です。複数回の手術が必要になることもあります 。飲水や食事のたびに苦しいので、早目に手術をしてあげたい疾患です。誤嚥性肺炎や副鼻腔炎を予防するためにも早期治療が必要です。


猫の口蓋裂


左唇の粘膜の移植手術後


No.325 胃瘻チューブ (PEGチューブ)

何らかの理由で食事が取れなくなった動物に対し、体の外から胃に直接食べ物を運ぶ道を胃瘻(いろう)と呼び、そのチューブを胃瘻チューブといいます。口や喉の病気で物理的に食べることが出来なくなってしまって長期間食事が出来ない場合や、大きな病気で食欲がなくなってしまい治るための栄養が足りなくなる場合などに、体に充分な栄養を与えるために行う治療です。化学療法を行う場合も設置することがあります。

胃瘻とは直接胃に設置するチューブ全般を指しますが、PEGとはPercutaneous Endoscopic Gastrostomyの略であり、消化管内視鏡を用いて設置する胃瘻チューブのことを指します。全身麻酔は必要ですが、通常15-20分で設置可能です。消化管内視鏡を用いずに開腹手術にて直接チューブを設置する場合もあります。

病気と闘うためには栄養が必要です。動物が十分に食事を取ってくれている場合には栄養が足りていますが、大きな病気と戦っている時に食欲が減ってしまうことは少なくありません。動物がご飯を食べることを嫌がる場合にはヒトが助けてあげなくてはいけません。強制給餌では、流動食などを動物の口に運んであげて食べさせる必要がありますが、なかなか食べてくれないことも珍しくありません。一生懸命食べて貰おうとしても逃げてしまったり、嫌がって口を閉ざしてしまうこともあります。口や喉の病気などでは飲み込むことが出来ない場合もあります。そんな場合にはチューブを使って直接胃に送ってあげることで必要な栄養を取ることが出来ます。

胃にチューブを設置するということに抵抗感がある飼主さんは多いと思います。しかし、胃瘻チューブによって動物は口からイヤイヤご飯を食べなくても栄養を取ることが出来ます。動物はじっとしているだけですみますし、飼い主さんも嫌がる動物に無理をせずに治療を行うことが可能となります。同時に薬も入れることも可能です。全身麻酔の負担はありますが、それを乗り越えてしまえばメリットの方が多いです。胃瘻チューブの設置は積極的な治療のために行うことであり、”無理な延命”のために行うものではありません。病気と闘っている動物を助けてあげるとても大事な方法の1つです。


胃瘻チューブ


No.324 ヒョウモントカゲモドキ (Leopard gecko)

ヒョウモントカゲモドキの人気がすごいです。女優の新垣結衣さんも飼っているそうです。ヒョウモントカゲモドキはレオパードゲッコー(レオパ)とも呼ばれ、全長18-25cm、体重45-60gの小型のトカゲで、夜行性、元々は乾燥地帯の地上にハーレム(♂1頭に数頭の♀)で住んでいて、至適温度は昼24-28℃、夜18-24℃で、湿度は40-60%です。卵生(楕円形2個/回、年に最大6回)、昆虫、節足動物、小型両生類・爬虫類を食べる動物食です。水分は夜霧や朝霧で取ります。舌が長く、自分の眼も舐めることができます。腋窩にポケットがあります(役割はわかっていません)、寿命は10-15年くらいです。尾が太い時は健康状態が良いです。性格は温和で咬みつくことがなく、動きも早くないのでペットに向いています。

以下の様な疾患が多いです。
・先天性のブドウ膜炎、緑内障
・床材等の誤食
・低カルシウム血症:チックや異常行動が出ます
・総排泄腔脱、直腸脱:消化管のうっ滞、誤食、MBD(→No323代謝性骨疾患)も原因となります
・脱皮不全:乾燥しすぎる環境が原因になることが多いです。指先の壊死や眼瞼の異常が出ます
・顔の膿瘍(→No311齧歯類と爬虫類の膿瘍)
・ヘミペニス脱
・卵胞のうっ滞・卵塞:栄養が良すぎて、産卵を繰り返すとなりやすいです
・クリプトスポロジウム症:腸炎を起こし痩せていきます
・尾の自切:栄養状態が悪いと切れやすいです
ほとんどの疾患が生活環境や食事を気を付けることで予防できます。

ヒョウモントカゲモドキは飼いやすいです


No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)

代謝性骨疾患は爬虫類・両生類でよくみられます。様々な理由により体内のカルシウムが不足して起こりますが、主な原因は、カルシウム・ビタミンDの不足、紫外線不足、リンの過剰摂取です。カルシウムは、丈夫な骨や甲羅の形成に必要不可欠なミネラル分ですが、爬虫類・両生類飼育において不足しがちです。体は血中のカルシウム濃度が低下すると、骨からカルシウムを放出して不足分を補います。骨から放出した分のカルシウムを正常に再供給できない場合、低カルシウム血症による症状と、骨の変形が起こります。

低カルシウム血症による症状
・食欲不振
・活力の低下
・チック(急に出現する運動や音声が不随意に繰り返し出現する状態)
・痙攣
・異常行動
・総排泄腔脱
・便秘
・卵塞

骨の変形
・各部の骨の変形(とくに下顎骨)
・嘴の変形(受け口)
・病的骨折
・骨が太く脆くなる
・歩き方がおかしくなる
・甲羅の変形(亀)
・甲羅が柔らかくなる(亀)

治療はカルシウムとビタミンの投与、紫外線の照射です。状態が上がってくるまでは、強制給餌や点滴なども必要です。予防には適切な食事内容を考えることが第一です。主にカルシウムやビタミンDといったサプリメントを上手に使うことが重要です。このほか、有効な紫外線の照射や適切な飼育温度を保つこと、十分に運動できるスペースを確保することも大切です。


上腕の病的骨折


No.322 去勢手術 (Castration)

去勢手術の流れについてご説明します。手術中の写真が苦手な方は見ない様にして下さい。去勢手術のメリット・デメリットについてはこちらをご参照下さい。(→No125 去勢手術・不妊手術)

1.全身麻酔下(→No117 全身麻酔)で剃毛し、睾丸の頭側を切開します(写真、右側が頭側です)。皮下組織を剥離し、筋膜を切り、筋肉を剥離し、睾丸にアプローチします。
術中写真1

2.睾丸を展開して腹腔外に出します。
術中写真2

3.デバイス(→No275 外科手術用エネルギーデバイス)を用い血管と組織を切断します。吸収性縫合糸で結紮し切断する場合もあります。精管と血管を用いて結紮することも出来ます。2と3を左右行います。
術中写真3

4.漿膜・皮下組織を縫合します。猫の場合は縫合が必要ありません。
術中写真4

5.皮膚を縫合します。ステープラー(外科用ホッチキス)を使用することもあります。猫の場合は縫合は必要ありません。
術中写真5

6.取り出した睾丸。
術中写真6

7.実際の手術時間は5分くらいです。出血もほとんどありません。上記の写真はいずれも小型犬のものですが、猫やフェレット、ウサギでも切開部位が若干違うくらいで手順はほぼ同じです。当院では1泊の入院をしていただいていますが当日返しも可能です。抜糸は術後1週間くらいで行います。猫の場合は抜糸も必要ありません。


No.321 セキセイインコの肥満

セキセイインコは肥満になりやすい動物です。個体差がありますが、
40g以上 肥満
40-35g 太り気味
35-30g 適正
30-25g 痩せ気味
25g以下 痩せ過ぎ
が、目安です。普段からご自宅でも週に1度くらいの体重測定を行うと良いです。

体重以外にも、胸やお腹が膨らむ、飛ばなくなる、便秘、便の切れが悪くなるなどは肥満のサインかもしれません。

肥満になる原因は、病気、加齢による代謝の減少、食べすぎ、運動不足などです。病気の場合、甲状腺腫や甲状腺機能低下症が原因の場合が多いです。甲状腺の機能が低下すると代謝が悪くなり肥満となります。加齢の場合は運動量が減り代謝が悪くなります。脂肪分の高い食事を控え老鳥用などのフードに切り替えましょう。遊んであげたり放鳥も必要です。

しかし、1番多い理由は食べ過ぎです。通常セキセイインコは、1度にたくさん食べるのではなく、自分でペース配分をしながら1日に必要な量を数回にわけて摂取します。太っているインコは、さまざまな理由からペース配分を誤り食べ過ぎてしまいます。

太って来たなと感じたら、まずは甲状腺の病気などがないか判断し、生活環境を見直しましょう。太りやすい環境は
・おやつを入れっぱなし(粟穂、かじりま専科など)
・脂肪分の多い餌を与えている(カナリヤシード、オーツ麦、麻の実など)
・放鳥時間や遊ぶ時間が短いなどの運動不足(おもちゃを上手く使ってください)
・羽切り(クリッピング)をしている
・睡眠時間が短い(1日12時間以上暗くしましょう)
・食べる事以外の楽しみがない
・一度にたくさんの食事を入れてしまう
上記のような環境であれば改善が必要です。


肥満(55g)のセキセイインコ


No.320 フレンチブルドッグの中耳炎

フレンチブルドッグは人気犬種ですが中耳炎(→No319中耳炎)の発症が増えています。通常、中耳炎は外耳炎が波及して発症しますが、フレンチブルドッグの中耳炎は、一見外耳道はきれいなのに、中耳の炎症・感染が起こります。若い犬で多く進行も早いです。解剖学的・遺伝的素因が原因とされていますが、実際にはよくわかっていません。

症状は、耳の痒みや痛み、耳垢の変化、耳の臭いの異常、症状が進めば、内耳にも炎症が波及して、斜頸や眼振、顔面神経麻痺などの神経症状も出ますが、無症状の場合も多いです。無症状だったのに急に中耳炎の症状を発症します。とてもやっかいな疾患です。

中耳炎の確定診断には、麻酔下でのビデオオトスコープ(VOS)、CT、MRIが必要ですが、日頃から外耳道を精査し、とくに水平道に異常があれば、なるべく早くの詳細な検査が推奨されます。

中耳炎の治療は、通常全身麻酔下で行います。一度悪くなった中耳や外耳道は完全には元に戻りません。病態が進行してしまうと、外耳道亜全摘出などの大きな手術が必要となります。予防は外耳道の観察、お手入れくらいしかなく、目に見えての症状が少ないので、早期発見もなかなか困難ですが、フレンチブルドッグの飼主さんは中耳炎に注意して下さい。


フレンチブルドッグは中耳炎に注意

こちらもご参照下さい
No319中耳炎


No.319 中耳炎 (Otitis media)

中耳は耳のうち、鼓膜から鼓室胞までを指し、鼓室胞の上部には耳小骨と呼ばれる3つの骨が存在しており、鼓膜側からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨といいます。通常は空気で満たされ音を伝導しています。これを骨伝導といいます。骨伝導のおかげで鼓膜が破れても音は聞こえます。

犬の中耳炎の多くは細菌性外耳炎による鼓膜の障害から波及し、猫では中耳や耳管の構造異常に起因する無菌性の液体貯留が原因の大部分を占めます。猫の中耳炎は稀です。また、犬猫問わず、耳道内にできた良性や悪性の腫瘤に続発する場合もあります。感染の有無や炎症の程度によって症状は様々で、軽症のうちは単なる外耳炎と見分けのつかない例や、全く症状を示さない場合もあります

中耳炎の診断には、耳鏡を用いた耳道の確認や細胞診、レントゲン検査を行いますが、よほど重度で典型的な例でなければこれらのみで確定診断はできません。中耳は鼓膜の奥にあるため通常の耳鏡で視認することは困難です。また、炎症のため耳漏や腫脹のある耳道では深部の確認がより困難になります。よって、確定診断にはCT、MRI といった麻酔下の画像検査を用います。CT、MRIは検査時に麻酔を必要とする代わりに、中耳の様子だけでなく周囲の組織の状態も正確に把握することができます。最近はビデオオトスコープ(VOS)と呼ばれる耳専用の内視鏡を用いた診断・治療も行われています。VOSは耳道や鼓膜を詳細に観察しながら同時に洗浄や採材、異物除去などを行うことができるため、難治性の外耳炎や中耳炎の症例に対し、非常に効果的かつ低侵襲な治療を行う事ができます。重度の外耳炎により外耳道が狭窄してしまっている場合や慢性的な中耳炎によって中耳周囲の骨や軟骨、鼓室胞が融解してしまっている場合など、VOSでの処置が選択できない場合には外科手術が適応となります。


緑の矢印が中耳炎の所見

こちらもご参照下さい
No57外耳炎1
No58外耳炎2
No188外耳炎3


No.318 臨床イナーシャ (Clinical Inertia)

イナーシャとは慣性という意味で、外からの力の影響を受けず、そのままの状態にある性質をいいます。惰性と言い換えることもできます。このうち、臨床イナーシャやクリニカルイナーシャと呼ばれるものは、たとえば獣医師側からみて、治療目標に達していないのに、いままでの治療を漫然と続けていたり、病因を検索しないまま放置していたり、動物の状況を確認しないまま、同じ薬を処方し続けていたりすることを指します。

こうしたイナーシャは、動物自身の身体を害することにつながりあってはならないことです。また、患者さん側のイナーシャも、治療における大きな壁となります。疾患によりますが、運動不足、飼育環境の改善などができないままでいたり、必要な検査を受けないでいると、将来、どんな薬も効かないなどの、取り返しのつかない状態になってしまう危険もあります。医療におけるイナーシャは健康や生命と常に隣り合わせです。

動物の医療で臨床イナーシャに陥りやすい疾患には、以下のものがあります。
・糖尿病(→No304糖尿病)
・上気道疾患(→No100気管虚脱と軟口蓋過長症1No101気管虚脱と軟口蓋過長症2)
・耳疾患(→No57外耳炎1No58外耳炎2No188外耳炎3)
・肝胆道系疾患(→No70胆嚢疾患)
・膵疾患(→No189膵炎)
・前立腺疾患(→No177犬の化膿性前立腺炎)
・関節炎(→No102前十字靭帯1No103前十字靭帯2)
・心疾患(→No194犬の僧房弁閉鎖不全症No222猫の肥大型心筋症No259高血圧)
・腎疾患(→No55慢性腎臓病1No56慢性腎臓病2No300慢性腎不全のステージ分類)
このように多くの疾患が挙げられます。慢性の病気のほとんどは1度なったら完治はしません。適切な治療と管理、病状が落ち着いていても定期的な検査が必要です。