No.133 人畜共通伝染病3 (Zoonosis)

ズーノ-シスの最後は、真菌(かび)、寄生虫、原虫によるものを解説します。

原因が真菌によるもの

皮膚糸状菌症(真菌症):白癬などともいい、皮膚病(糸状菌症)にかかっているイヌやネコ、ウサギ、ハムスターなどと接触することで感染し、ヒトでも動物でも、円形の発疹、かゆみ、化膿などを起こします。ヒトは通常は抗真菌薬を塗ればよくなりますが、動物の治療も並行して行い感染源をなくすことが重要です。動物では通常内服薬での治療になります。真菌は非常にしつこいので、きちんとした治療が必要です。

原因が寄生虫によるもの

トキソカラ症(回虫症):犬には犬回虫、猫には猫回虫が感染することがあり、これらの回虫はトキソカラ属に分類されています。犬や猫の便の中に出てきた回虫の虫卵をヒトが飲み込むと腸の中で孵化し幼虫が生まれます。幼虫はヒトの体内では成虫になれず(稀に猫回虫では成虫になる場合があります)、眼、肝臓、心臓、肺、脳などを移動します。このような内臓幼虫移行症をトキソカラ症といいます。犬回虫の幼虫が眼の中に移動したものを「眼トキソカラ症」、犬回虫、猫回虫の幼虫が眼以外の体内に移するものを「内臓トキソカラ症」といいます。眼トキソカラ症の場合には、視力の低下、飛蚊症、視野が狭くなったり、視野内で見えない部分があるなどの視覚異常などが起こります。内臓トキソカラ症の場合には、気づかないときもありますが、全身の倦怠感や体重減少、吐き気や軽い腹痛などを起こすことがあります。また、肝臓に肉芽腫ができることもあります。
犬や猫では感染していても症状が現れない「不顕性感染」がほとんどです。しかし、幼犬に多数の成虫が寄生した場合は、お腹の異常なふくれ、吐く息が甘い、異嗜(いし:食べ物ではないものを食べること)、元気がない、発育不良、やせる(削痩)、貧血、皮膚のたるみ(皮膚弛緩)、毛づやの悪化、食欲不振、便秘、下痢、腹痛、嘔吐を起こします。体内に幼虫が寄生している雌犬が妊娠すると、胎盤や乳汁などを通して子犬にも感染します(母子感染)。

エキノコックス症:エキノコックス症は、キタキツネや犬が多包条虫とよばれる寄生虫に感染し、糞便と一緒に排泄された虫卵が、何らかの拍子に人の体内に侵入し、重い肝機能障害を起こす病気です。潜伏期間は5~15年で、発症すると病巣を外科的に切除する以外に有効な治療法はありません。日本では北海道だけに存在すると考えられてきましたが、2005年には埼玉県で捕獲された犬の糞便から、また、2014年4月には愛知県知多半島で捕獲された犬からエキノコックスの虫卵が確認されました。
犬はほとんどの場合、感染していても症状が現れない「不顕性感染」です。感染した野ネズミを食べたり、口にくわえたりすることで虫卵が体内に侵入し、感染します。感染した犬は、糞便中にたくさんの虫卵を排泄します。
エキノコックス症の予防方法としては、虫卵が口に入らないよう、一般的な衛生対策を行うことです。

原因が原虫によるもの

トキソプラズマ症:トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫の感染によっておこる動物由来の感染症です。 人を含めた多くの哺乳類や鳥類に感染することが知られています。ペットではとくに猫からの感染が問題となります。
ヒトを含む多くの動物が不顕性感染ですが、幼令や免疫機能が低下している場合は、重篤な症状が出ることがあります。注意が必要なのは、ヒトの先天性トキソプラズマ症です。これは、母体が妊娠の6ヶ月前~妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合、まれに胎盤を経由して胎児が感染し発症するものです。症状は、脈絡網膜炎(失明に至る眼の炎症)、肝臓や脾臓の腫大、黄疸、痙攣、水頭症、頭蓋内石灰化、精神遅滞、死流産等です。 胎児の発症率は、母体の感染が妊娠後期になるにつれて高くなります。妊娠初期では、胎児へ伝染するリスクは低くなりますが、万一感染した場合の症状は重くなります。
外に出る猫は、ネズミや鳥を捕食することでや土壌等を舐めてしまうことにより、感染することがあります。ヒトは感染した動物の糞便から感染しますが、感染力を持つようになるには4~5日かかるので、トイレはすぐに片づけるようにしましょう。そして、妊娠中はとくに注意しましょう。トキソプラズマ症の予防という観点からは、妊娠しても現在飼っているネコを手放したり、隔離したりする必要はありません。ご心配な方は医師、獣医師とよく相談してください。