No.117 全身麻酔 (General anesthesia)

動物を診療する上で全身麻酔をかけなければならない場面はヒトの場合よりも多くあります。各種の手術はもちろん、ヒトでは通常全身麻酔なしでできる、歯石の除去や抜歯などの歯科の治療、内視鏡、CTやMRIの画像の検査。レントゲン撮影も場合によっては全身麻酔が必要です。今回は全身麻酔の流れについてご説明します。

動物に全身麻酔をかけるときの第一歩は、その動物に対して安全に麻酔がかけられるかどうかを判断することです。身体一般検査のほか、通常、血液検査、レントゲン検査などを行います。動物が高齢の場合や持病がある場合などは、超音波検査、血圧測定、心電図、その他の検査をする場合もあります。これらを術前検査といいます。
術前検査の結果をふまえ、手術において予想される侵襲の度合いや、興奮しやすい、ひどく臆病などの動物の性格なども考慮します。これらの情報を総合してリスク評価を行い麻酔プランをたてます。

実際の全身麻酔の流れは、
・準備:点滴、酸素化など
・前投与:心臓を守るための副交感神経遮断剤、鎮静剤、鎮痛剤などの投与
・導入:麻酔薬の静脈注射、マスクや麻酔BOXで導入し、気管tubeなどを挿管。局所麻酔薬の投与
・維持:吸入麻酔薬、麻酔薬の持続点滴で維持。鎮痛剤の投与
・覚醒:気管tubeなどの抜管、鎮痛剤、拮抗薬の投与
・術後管理
簡単にいえば上記のような流れになります。

導入時からは麻酔管理を行います。麻酔管理には2つの大きな目的があります。
1.術中・術後の痛みを取り除く
2.手術時の危険から命を守る
この目的のために、血圧・脈拍・心電図・呼吸数・体温・尿量・意識・血中酸素濃度、呼気時の二酸化炭素濃度などを測定・記録します。これをチャートと呼びます。

麻酔科学が発達した今でも、術中は大きな危険が潜んでいます。除痛と同じく「命を守る」働きが欠かせません。アメリカの大きな動物病院の統計では、犬猫における術前検査で全身麻酔をしても大丈夫だと判断して麻酔を行った場合の麻酔事故は1/1000だったそうです。

現在では、「安全」、「快適」、「確実」といった言葉が当然のように麻酔にも投げかけられています。当院でも日々そうした目標に近づくべく努力しています。

今年の飼主様向けセミナーは、麻酔・鎮痛の専門医の長濱正太郎先生をお迎えしての麻酔のお話です。参加ご希望の方は締め切りがせまってますのでお早目にお申込みください。


麻酔器と麻酔モニター