No.318 臨床イナーシャ (Clinical Inertia)

イナーシャとは慣性という意味で、外からの力の影響を受けず、そのままの状態にある性質をいいます。惰性と言い換えることもできます。このうち、臨床イナーシャやクリニカルイナーシャと呼ばれるものは、たとえば獣医師側からみて、治療目標に達していないのに、いままでの治療を漫然と続けていたり、病因を検索しないまま放置していたり、動物の状況を確認しないまま、同じ薬を処方し続けていたりすることを指します。

こうしたイナーシャは、動物自身の身体を害することにつながりあってはならないことです。また、患者さん側のイナーシャも、治療における大きな壁となります。疾患によりますが、運動不足、飼育環境の改善などができないままでいたり、必要な検査を受けないでいると、将来、どんな薬も効かないなどの、取り返しのつかない状態になってしまう危険もあります。医療におけるイナーシャは健康や生命と常に隣り合わせです。

動物の医療で臨床イナーシャに陥りやすい疾患には、以下のものがあります。
・糖尿病(→No304糖尿病)
・上気道疾患(→No100気管虚脱と軟口蓋過長症1No101気管虚脱と軟口蓋過長症2)
・耳疾患(→No57外耳炎1No58外耳炎2No188外耳炎3)
・肝胆道系疾患(→No70胆嚢疾患)
・膵疾患(→No189膵炎)
・前立腺疾患(→No177犬の化膿性前立腺炎)
・関節炎(→No102前十字靭帯1No103前十字靭帯2)
・心疾患(→No194犬の僧房弁閉鎖不全症No222猫の肥大型心筋症No259高血圧)
・腎疾患(→No55慢性腎臓病1No56慢性腎臓病2No300慢性腎不全のステージ分類)
このように多くの疾患が挙げられます。慢性の病気のほとんどは1度なったら完治はしません。適切な治療と管理、病状が落ち着いていても定期的な検査が必要です。