No.257 犬の原発性肝臓腫瘍

高齢化や超音波などの検査器具の性能の向上によって、犬の肝臓の腫瘍の発見が増えています。当院でも肝臓の手術は年々多くなっています。肝臓の腫瘍も原発性と転移性に分けられます。今回は原発性の肝臓腫瘍の話です。症状は、食欲不振、体重減少、嗜眠、嘔吐、多飲多尿、腹水による腹囲膨満等が一般的ですが、重度の場合、黄疸、肝性脳症なども認められます。また、無症状で健康診断などで偶発的に発見されることも多くあります。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、腫瘍が発生しても症状が出にくく、発見時には重症化している場合があります。また、高齢で発生するので、手術をすべきか迷われる飼主様も多いのが実情です。原発性の肝臓腫瘍の多くは手術で根治が見込めますが、年齢や健康状態によっては手術を回避せざるを得ない場合もあります。

肝臓は腸が吸収した栄養分を代謝・解毒するための臓器であり、肝細胞・胆管・血管からなります。肝臓に発生する主な腫瘍としては、肝細胞由来、胆管由来、血管由来の腫瘍が挙げられますが、肝細胞由来(結節性過形成・肝細胞腺腫・肝細胞癌)が最も多く、全体の 8 割以上を占めます。基本的に、これら3 疾患は孤立性の発生であれば、手術により良好な予後が期待できます。以下、主な肝臓腫瘍を簡単にご説明します。

手術で取りきれれば予後が良好なもの
結節性過形成:悪性のものではないが進行性に大きくなる場合は切除の必要あり
肝細胞腺腫:良性腫瘍、進行はゆっくり
肝細胞癌:肝臓の悪性腫瘍の約50%、進行はゆっくりで他の臓器への転移も稀

再発に注意が必要なもの
肝胆管癌:肝細胞癌と胆管癌の中間の悪性度

肝内転移、他の臓器の転移が起こりやすく、予後は不良の場合が多いもの
胆管癌:多くは多発性で手術適応にならない場合も多い
血管肉腫・カルチノイド・肥満細胞腫・その他の悪性腫瘍:進行が非常に早く多発性、他の臓器への転移も早い

肝臓腫瘍の手術の危険度は、腫瘍が肝臓のどこに発生しているのかによって大きく変わります。犬の肝臓は右肝区域(外側右葉、尾状葉)、中央肝区域(内側右葉、方形葉、胆嚢)、左肝区域(内側左葉、外側左葉)からなり、左肝区域は分布する血管が長く、比較的 後大静脈から距離があるため摘出しやすいのに対し、中央肝区域と右肝区域の腫瘍は血管の結紮・切断の際の出血リスクが高くなり危険度が上がります。また、肝葉の辺縁から発生している腫瘍は比較的安全に切除できますが、肝葉の基部に発生した腫瘍では摘出の難易度は高くなります。 個々の症例において、術前の超音波検査や、可能ならCT 検査を実施してどの肝葉から発生している のか、どの血管を処理すれば摘出できるのかを評価しておくことは、手術のリスクを下げるために重要です。

肝細胞癌
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苦手な方はクリックしないで下さい