No.394 猫ヘルペスウイルス感染症 (Feline Herpesvirus Infection)

猫ヘルペスウイルス感染症は、猫ヘルペスウイルス(Feline herpesvirus-1; FeHV-1)によって引き起こされる感染症の総称で、鼻炎と結膜炎などの上部気道炎が主な症状で、猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)とも呼ばれています。感染猫の口腔・鼻腔・結膜からの分泌物にウイルスが大量に含まれており、それを同居の猫などが口・鼻・眼の粘膜より取り込むこんで感染が成立します。感染したウイルスは鼻腔粘膜上皮で増殖後、結膜、咽頭、気管、気管支、細気管支に広がり発症し、その結果として粘膜表面の糜爛、潰瘍が起こり、結膜炎や鼻炎となります。稀ですが樹枝状角膜潰瘍という特徴的な角膜の症状が出る場合もあります。

典型的な症状は、発熱、沈鬱、食欲不振、結膜の充血、鼻汁、そして稀に流涎や発咳です。細菌などの二次感染が起こると分泌物は膿性となります。感受性の高い子猫では肺炎やウイルス血症を引き起こし、一般症状が悪化して時に死に至る場合もあります。口腔や皮膚の潰瘍、皮膚炎、神経症状、流産が認められることもあります。角膜の浮腫、血管新生、炎症細胞の浸潤、時に失明を伴う角膜実質炎と慢性の副鼻腔炎 は、FeHV-1感染により誘導された免疫介在性の疾患です。それ以外にも、好酸球性角膜炎、ブドウ膜炎などもFeHV-1によるものと考えられています。他の呼吸器病原体である、猫カリシウイルス、猫クラミジア、ボルデテラ菌、マイコプラズマなどと重感染を引き起こし重症化します。

猫以外にも、ライオンやチーターなどのほとんどの猫科動物が感染します。ワクチン未接種の飼育猫で高い抗体陽性率を有していることから、ほぼすべての飼育猫が感染する機会があります。急性症状から回復しても、ウイルスが神経節(主に三叉神経節)に潜伏感染し、生涯にわたりウイルスを保持することになります。その場合、ストレスや副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制剤の使用により、ウイルスは再活性化し、症状の再発や他への感染源となる場合があります。胎盤感染はありませんが、出産・泌乳がストレスとなりウイルスが再活性化し、その結果として新生児が感染します。新生子猫は移行抗体により防御されますが、この防御は抗体量に依存し、移行抗体(母親から初乳によってもらう免疫)が多い場合は発症を免れますが、少ない場合は発症します。多頭飼育がFeHV-1感染の重要なリスクファクターとなっており、シェルターや繁殖施設、猫カフェなどでの飼育はハイリスクとなります。

診断は通常症状やワクチン履歴から行い、状況に応じて、ウイルス抗原あるいは核酸の検出と抗体を検出する血清学的診断法や、迅速診断が必要な現場ではPCRによるウイルス核酸の検出を行います。

治療の基本は対症療法で、食欲不振、脱水などが認められれば点滴や強制給餌を行います。近年では少し高価ですがファムシクロビルという抗ヘルペス薬も使用します。二次感染予防のために、広域スペクトラムの抗生物質の投与も有効です。予防はワクチンですが、しっかりとしたプランで接種しないと効果がありません(とくに初年度が大切です)。また、免疫力の弱い個体では接種しても効果が出ない場合もあります。生活環境やストレスへの対策も必要です。


猫ヘルペスウイルス感染症の猫の結膜炎