No.468 木天蓼(またたび)

「猫に木天蓼(またたび)」ということわざがあるように、多くの猫はまたたびが好きです。猫はまたたびを与えると陶酔したように楽しく動き回る姿を見せます。そういった行動は非常に可愛らしいものですが、与え方を間違えると危険です。

またたびとは、マタタビ科マタタビ属の木で山に自生しています。またたびの木には、正常な実と虫癭果(ちゅうえいか)と呼ばれる実の2種類がなります。猫が好むとされているのは虫癭果で、ハエやアブラムシが実に卵を産み付けることで変形したものです。表面がつるんとした楕円形の正常な実に対し、虫癭果は表面が凸凹としています。またたびは夏梅とも呼ばれ、6月頃から葉っぱが白くなり梅に似た白い花が咲きます。

商品としては、枝や実、粉末やスプレー状のものなどが市販されており、猫が舐めたり匂いを嗅いだりすることで反応が起きます。またたびによる反応は、猫の上顎にあるヤコブソン器官(フェロモンを感知する器官)が、マタタビラクトンやアクチニジンといった成分を感作することにより引き起こされます。これらが中枢神経に作用し、転げ回ったり走り回ったりといった酔っ払った陶酔したような姿を見せます。一時的なもので依存性はほとんどないとされています。

反応には個体差がありますが、使いどころには以下の様なものがあります。

ストレス解消:一時的に活発になり、運動することでストレス解消が見込めます。運動不足解消におすすめです。

食欲増進:食欲が少し落ちている時に効果が期待できます。しかし、食欲不振は病気の可能性もあるので、様子がおかしい場合は早めに病院に連れて行ってください。

老化防止:猫は食事をする時にあまり咀嚼をしないので、またたびの入ったオモチャをかじることで脳が刺激を受け、老化防止につながると言われています。

このような良い効果が期待されるまたたびですが、与え方を間違えると危険性もあります。大量に与えすぎると、中枢神経が麻痺を起こし呼吸困難になってしまうことがあります。また、飼い主さんが出かけている時に、猫がまたたびを見つけて丸呑みしてしまうなどの事故にも気を付けて下さい。他にも、またたび入りのオモチャが壊れて中の粉末が出てきてしまうなどの事故により過剰摂取をしてしまうケースは少なくありません。このような事態を防ぐためには、与え方や保管場所に注意しておく必要があります。

また、粉末、液体、実、枝の順で作用の強度が高いとされています。強度によって適量が変わります。最初は少し嗅がせる程度から始め、個体差があるので、様子を見ながら少しずつ量を増やしていき適量を判断しましょう。幼猫のうちは与えない方が良いです。体内の器官が十分に発達していないとパニックを起こす可能性があります。また、老猫や心臓に疾患がある猫にも体に負担をかけてしまうので与えない方が無難です。

与え方は、匂いを嗅がせる方法と直接食べさせる・舐めさせる方法があり、それぞれ特徴があります。匂いを嗅がせる方法は刺激は弱いですが長続きします。オモチャに入れるのが一般的です。直接食べさせる・舐めさせる方法は、刺激は強いものの効き目が短いです。美味しそうに舐めることがありますが、上顎のヤコブソン器官に擦り込んでいると考えられていて、飲み込むとすぐに効果が薄れます。毎日だと効果が薄れていくので、しつけのご褒美といった特別な時に与えるなどが良いです。


またたび(夏梅)の花


No.467 犬の唾液腺嚢胞

唾液腺嚢胞は唾液を産生する組織(耳下腺、下顎腺、舌下腺)や唾液を輸送する管に破綻が生じ、唾液が皮下などにたまって唾液瘤(コブ状のもの)を形成する疾患です。犬に多く、猫にもまれに起こります。舌下に溜まってしまう場合には、ガマガエルののど袋のような外観になることからガマ腫と呼ばれます。下顎から首回りに唾液瘤ができるものを一般的に唾液腺嚢胞と呼びます。

外傷などによるものや唾石が管に詰まってしまう場合もありますが、原因が特定できないこともあります。一部の犬種では遺伝的な影響も考えられています。リードなどにより頸に無理な力がかからないよう努めることや、口腔内を刺激するおもちゃや歯磨きなどで、唾液腺の導管を傷つけないように注意することが肝要です。反対側に症状が起こる場合もあります。

症状は、喉元や首周りにコブ状の腫れ、波動感のある(ブヨブヨとして液体のような)無痛性の腫瘤、FNA検査(針吸引検査)すると白血球を少量含んだ粘稠性唾液が採集されるなどですが、炎症の存在や大きさにより臨床症状が異なります(痛み、嚥下困難、呼吸への影響など)。レントゲン、CT検査などにより、他の組織(リンパ節など)への炎症の波及や腫瘍との鑑別が必要ですが、確定診断は摘出して病理検査を行うまでわからない場合もあり、実は癌だったという例もあります。

導管の破綻部位を特定することは通常困難で、漏出を起こしている部位の唾液腺を外科的に摘出することで治療します。同時に付随する導管も出来る限り分離し取り出します。通常、手術による合併症は少なく、適切に原因が除去されれば予後は良好ですが、再発や残った唾液腺が嚢胞化することもあります。大きくなると手術も大がかりになります。なるべく小さな内の外科手術が推奨されます。


大きくなった犬の唾液腺嚢胞


No.466 誤嚥性肺炎と歯周病

誤嚥とは唾液や食物、胃液などが気管に入ってしまうことをいいます。肺炎と誤嚥性肺炎は原因が異なります。肺炎は細菌や真菌やウイルス、アレルギーなどによって気管や気管支、肺胞などに炎症が起こる疾患です。一方、誤嚥性肺炎は誤嚥によって口腔内の細菌が食べ物と一緒に肺に入り込み炎症が起こる状態です。この誤嚥性肺炎は主に高齢動物に多く見られます。また、寝たきりの状態になるとよく起こります。

通常、食べたものは食道を通って胃に送られ消化されていきます。誤嚥性肺炎は食物が誤って気管に入り込んでしまい生じます。健康な動物でも唾液が誤って気管に入ってしまうことがありますが、嚥下反射という反射機能が働き、むせ返る程度で通常は大事に至りません。しかし高齢動物は嚥下反射の力が低下していて誤嚥が起こりやすくなっています。

口腔中には多くの細菌がいて、その中には肺炎を引き起こす細菌も含まれています(主に嫌気性菌)。不衛生な口腔内では、唾液の誤嚥によって肺に細菌が入り込んでしまうことで肺炎を引き起こす事があります。その細菌の代表格が歯周病菌です。歯周病は加齢とともに増加し、高齢動物のほとんどが歯周病に罹患しています。歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こすのは、肺炎の原因菌が肺や気管支に棲みつくのを助けるからといわれています。

また、歯周病時は歯肉に炎症が起こり炎症性物質が放出され、歯肉の毛細血管から全身に入り、様々な病気を引き起こしたり悪化させる原因となる事も知られています。炎症性物質は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせ糖尿病のリスクを上げます。また、早産や低体重児出産などの出産のトラブルや、肥満、動脈硬化による心臓病、脳梗塞にも関与しています。このように、歯周病は口腔内のトラブルだけにとどまらず、様々な疾患の原因、悪化要因となります。日頃のプラークコントロールと、定期的な歯石除去で口腔内を清潔に保ちましょう。


歯周病は誤嚥性肺炎の原因になります

こちらもご参照下さい
No.445 誤嚥性肺炎
No.367 無麻酔歯石取りの危険性
No.359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏
No.248 スケーリングと犬の寿命
No.134 プラークコントロール (Dental plaque control)
No.108 高齢動物の歯の疾患
No.98 歯周病2 (Periodontal disease)
No.97 歯周病1 (Periodontal disease)

農林水産省の犬の歯石除去に対する見解
農林水産省のウェブサイトに、犬の歯石除去に対する見解が掲載されました。
小動物獣医療等に関するよくある質問:農林水産省 (maff.go.jp)


No.465 インコの毛引き症

毛引き症とは、その名の通りインコが自ら毛をむしったり噛んでしまい、脱羽や出血、傷を負ってしまう問題行動を指します。原因は病気からの場合とストレスがあります。とくにストレスが問題になる場合が多く、遺伝や幼鳥時の母鳥との関係も影響するといわれています。毛引きは癖になり習慣化してしまうと羽毛が減り、体温調節がしにくいなどの弊害が出てきます。

・病気
毛引きを発見した際には、まず、病気や怪我が無いか確認します。皮膚炎やダニなどの寄生虫による痒みや痛みで違和感を感じている場合があります。また、甲状腺能低下症や栄養障害、ウイルス感染が原因の場合もあります。

・ストレス
野生の鳥類は仲間とコミュニケーションを取り、自由に飛んだり獲物を捕まえ、生きていくため忙しく動き回っているので滅多に毛引きしませんが、飼育下では暇を持て余し、コミュニケーション不足や運動不足からストレスを抱え込みやすく毛引きするといわれています。多くは心因性のストレスが原因です。原因を特定して取り除いてあげることが必要です。鳥類は外部の刺激にストレスを感じやすく、そのままの状態が続くと衰弱して突然死する場合もあります。他の動物と飼育スペースが同じ、体調不良、騒音や温度変化など様々な事が原因となります。常習化してしまうと原因を取り除いても、症状が無くならない場合もあります。また、神経質だったり臆病だったりすると、些細な事にもストレスを感じ毛引きを続ける様になります。飼主さんが日常的にコミュニケーションを取り、行動パターンや性格を把握して、それぞれに合った飼育スタイルにする事が大切です。

毛引き症に至るストレスの原因として、よくあるものをご紹介します。
・発情
発情期は気持ちが不安定、神経質になりイライラしやすくなります。そんな状態を発散させようと毛引きが始まる場合があります。発情行動は生後6ヶ月をくらいから見られ、季節に関係なく発情期になるインコもいれば、野生と同様に春先と秋口に発情する場合もあります。発情期の特徴としては、動きが活発になり陽気に踊るような仕草を見せたり、鳴き声が激しくなる場合もあり、細かい仕草には違いがありますが、落ち着きなく動きが大きくなりピョンピョン跳ねます。また、飼主さんに対して攻撃的になる場合もあります。興奮状態で自分の気持ちをコントロールできなくなり毛引きを行います。1年中発情期の状態が続くと発情過多となり、体調不良や寿命を縮める要因にもなります。落ち着いて生活できる様に、複数飼育の場合、別々の部屋を用意することが必要な場合もあります。
・退屈・暇
飼育下では運動不足になりやすく時間を持て余しがちです。お腹もいっぱいで特にやることもない状態になると、退屈になり毛引きが始まる場合があります。暇で退屈な状況を回避するため、放鳥したり、コミュニケーションを取る、おもちゃを与えるなども大切です。インコによっては構いすぎてしまうと、逆にストレスになってしまうことがあるので注意が必要です。性格や好みを考え、適度な距離感でコミュニケーションを取りましょう。
・寂しい
インコはヒトに慣れ、おしゃべりしたり、手乗りになったりと愛嬌のある姿を見せてくれます。甘えん坊の場合は、飼主さんが長時間家を開けた状態でいると寂しさから毛引きします。長時間1羽だけでいる状況はストレスが溜まりやすく刺激もないため毛引きが起きやすくなります。留守番の時間が長くなってしまう場合は、おもちゃや齧り木を入れておくなどケージ内の工夫をしましょう。ご家族の中で早めに帰れる方がいればお留守番する時間をなるべく短くしてあげるのも良いです。

治療の第一はストレスの原因を取り除き、良い環境で飼育することです。栄養バランスのとれた食事と十分な睡眠、適度なコミュニケーション、放鳥などの運動も必要です。また、部屋の温度管理、発情しにくい環境作りもポイントです。毛引き症になるインコは怒りっぽい場合が多いですが、ほとんどは不安やイライラからの影響です。神経質で臆病な性格の場合は、ドアの開閉音や車の音にもストレスを感じます。静かな風通しの良い適度に日の当たる場所にケージを設置し、おもちゃや齧り木なども使用します。

薬物治療は一時的に症状をよくする場合はあっても完全には治りませんし、安全性も証明されていません。エリザベスカラーも1つの方法ですがストレスの原因となる場合があります。当院では、生活の改善とともに代替医療(ホメオパシー、音響療法、漢方薬など)をおすすめしています。症状が出てからの時間の経過が長いと治療にも時間がかかります。毛を抜きやすい箇所として、胸や羽の付け根、肢などがあげられます。健康な時でも時々ボディーチェックをして早めに発見してあげるのが大切です。

毛引き症の治療は時間がかかります

以下もご参照下さい
No.405 小鳥の出血
No.354 病気の小鳥のご家庭でのケア
No.217 小鳥の卵詰まり
No.91 小鳥の基本


No.464 猫伝染性腹膜炎 (Feline infectious peritonitis: FIP)

 猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫で見られるコロナウイルス科の猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染症で、全年齢の猫で発症がみられますが、多くは1歳未満の幼猫で発症します。以前は発症するとほぼ100%亡くなってしまう非常に恐ろしい病気でした。発症の仕組みは現在でもきちんと解明されていませんが、コロナ渦でコロナウイルスの治療薬に対する研究が進み、早期に発見して治療を行えば、現在では80-90%の猫ちゃんを救命できるようになりました。

 猫腸コロナウイルス(FECV)は猫の腸管の上皮細胞で増殖します。病原性は比較的低く、感染しても症状を示さないことや症状はあっても軽度の下痢程度であることがほとんどで、糞便や鼻汁などを介して他の猫に伝染します。このウイルスが猫の体内で突然変異すると、FIPVが発生します。こちらは病原性が非常に強く、感染が成立しFIPを発症するとほぼすべての猫が亡くなってしまいます。FIPVは腸管内では増殖できないため、糞便中へウイルスが排出されることは基本的にはなく、FIPVが同居の猫に伝染することは少ないと言われています。

 症状はウェットタイプとドライタイプに分類されますが混在パターンも存在します。いずれのタイプにも共通して発熱、元気消失、食欲低下や体重減少などが現れます。
ウェットタイプ:子猫に多く、小麦色の腹水や胸水の貯留を伴う腹膜炎および胸膜炎が特徴的です。腹部膨満や呼吸困難などが起こります。
ドライタイプ:多臓器に化膿性肉芽腫と呼ばれる病変を形成します。黄疸や前ぶどう膜炎、発作、後ろ足の麻痺などの症状が引き起こされます。

 FIPには決定的な臨床症状や検査が存在しません。そのため1つの症状や検査から診断することはできず、複数の検査を行なって総合的に診断します。FIPを疑う臨床症状や背景がある猫では次のような検査を行います。

CBC:血液中の血球数やヘモグロビン濃度、ヘマトクリットなどを測定する検査です。FIPの猫では軽度から中程度の貧血や白血球の増加が見られることが多いです。また、FIPでは全身の血管に血栓が形成される播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる状態に陥ることがあり、その場合は血小板数の減少も見られるようになります。

生化学検査:血清中の成分を化学反応や酵素反応を利用して分析する検査です。FIPでは高蛋白血症が多くの場合見られます。中でもグロブリンの増加が特徴的です。高グロブリン血症はウェットタイプの約50%、ドライタイプの約70%で認められます。また、傷害を受けている臓器によっては高ビリルビン血症や肝酵素や腎数値の上昇などが確認されることがあります。中でも高ビリルビン血症はよく見られる異常の1つです。炎症マーカーであるSAAも上昇します。

レントゲン検査:典型的なウェットタイプの場合、胸水や腹水がみられます。これをレントゲンで確認し穿刺して胸水や腹水を抜いて調べます。無色~麦わら色の細胞数が少なく粘稠度の高い液体が採取されます。

抗体検査:FIPの猫では多くの場合コロナウイルス抗体価の上昇が確認されます。しかし、FIPVだけでなく、FECVの感染でも抗体価は上昇してしまうため注意が必要です。抗体価が上昇している場合は、それがFIPVによるものなのかどうかをしっかり見極める必要があります。症状がない猫でも抗体価の上昇が確認されることがありますが、この場合はFIPと診断されませんが100%ではありません。

病理組織検査・免疫組織化学染:これらはFIPの検査のゴールデンスタンダードと言われていて、組織の一部を採取し、病理組織像の確認を行います。FIPが疑われる猫では病理診断で血管炎や肉芽腫が見られることが多いです。免疫組織化学染色は抗体を使って組織内のウイルス抗原を検出する方法です。抗原の存在を顕微鏡下で確認することができます。ただし、抗原が検出されなかったとしてもFIPを除外することはできません。病理組織検査でFIPを疑う病変を確認し、さらにその病変内に抗体に反応するマクロファージの存在を確認できれば確定診断することが可能です。

PCR法:検査試料中にウイルス遺伝子が存在するかどうかを確認する方法です。PCR法には猫コロナウイルス全般の遺伝子を検出する方法とFIPVの遺伝子を検出する方法の2種類があります。いずれの方法でもウイルス遺伝子が検出されなかったとしてもFIPを除外することはできないため注意が必要です。

 治療は50年以上対症療法しかありませんでしたが、コロナ渦で開発されたレムデシビルやムティアンという抗コロナウイルス薬が使用され始め結果も良好な事が確認されましたが、輸入が必要な上とても高価でした。しかし、現在ではモヌルピラビルという薬が発売され手に入りやすくかなり安価になりました。治療後の後遺症などについての研究はまだまだこれからですが、一番可愛いさかりの猫ちゃんたちを襲うFIPが治療可能になったのはとても嬉しい事です。

モヌルピラビル

こちらもご参照下さい
No.462 SAA (Serum Amyloid A:SAA)
No.228 猫コロナウイルス(Feline coronavirus: FCoV)と猫伝染性腹膜炎(FIP)
No.209 胸水(Pleural fluid)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)


No.463 リクガメの尿路結石

カメは尿路結石を形成することがしばしばあります。特にリクガメは結石を生じやすく注意が必要です。

結石が生じる要因は大きく3つあります。
1.脱水:慢性的な環境中の水分不足や下痢、腎臓病などから
2.高タンパク食:バランスの崩れた食事、マメ科の野菜や野草、ヒトの食物などの多給
3.尿路感染:膀胱の細菌感染から

最も多い原因が水分の不足です。リクガメは湿度がそれほど必要ないと勘違いされて水入れを常備していないなどの飼育環境の不備が多いです。また、リクガメの種類によっては湿度が低くなると鼻水が慢性的に流れだし、結果として脱水がさらに進むことがあります。食欲不振から水分摂取量が減少し、体内で結石が形成される場合もあります。

カメの尿路結石の症状としては、いきみや総排泄腔周辺が常に尿で濡れている、食欲の低下などです。確定診断にはレントゲン検査が必要です。

治療は内科治療と外科治療があり、内科治療は、点滴などで脱水の改善を行い、食事中の水分を増やしたり、温浴によって排尿を促し結石の自然排出を助けます。外科治療は、総排泄腔から結石を粉砕する(全身麻酔が必要な場合もあります)、それでもダメな場合や結石が大きければ、全身麻酔下で腹側の甲羅を切開(開甲手術)、もしくは後肢の付け根から切開を行い結石を摘出します。外科治療はリスクが高いので早期発見が大事です。


ギリシャリクガメの尿路結石


No.462 SAA (Serum Amyloid A:SAA)

SAAとは急性相蛋白(炎症の急性期に血中に増加する蛋白成分)の血清アミロイドAのことで、炎症が起きた際にサイトカインの刺激を受け肝臓で作られて血中に放出されます。急性相蛋白は他にも種類がありますが、その中でもSAAは反応が早く変動率が大きいことが特徴です。

炎症は発熱が重要な指標になりますが、ネコは興奮によっても体温が上昇してしまいます。SAAは興奮で数値が上昇しないため体の状態を正確に把握することができます。犬で用いられるCRPはネコの場合では炎症時にほとんど変動しないことが分かっていて、使用することができません。

また、SAAは白血球よりも比べて早く変動するので、値の変動を見ることで治療方針が正しいのか、改善傾向にあるのかを推測することができます。例えば、外科手術後のモニターとして用いた場合は、術後24~48時間でピークに達し、通常4~5日ほどで基準範囲内に低下します。術後にSAAが基準範囲内に低下しない場合は精査する必要があります。

SAAの上昇しやすい疾患としては、急性膵炎や急性胃腸炎、猫伝染性腹膜炎(FIP)が代表的ですが、炎症性疾患以外でも糖尿病ではおよそ38%、甲状腺機能亢進症では50%というように、一部の内分泌疾患でも上昇が認められる場合があります。高齢のネコに多い慢性腎臓病(CKD)においてもSAA 濃度の高値が報告されています。これらの疾患でSAAが上昇する機序はまだわかっていませんが、SAAの上昇は基準範囲内である場合と比較すると、生存期間が短いことから予後を評価するのに役立つと考えられています。以前は外注検査でしたが、現在では院内で測定が可能です。

こちらもご参照下さい
No.461 CRP (C-reactive protein:CRP)
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)
No.56 慢性腎臓病(CKD)2
No.55 慢性腎臓病(CKD)1


No.461 CRP (C-reactive protein:CRP)

皆様、あけましておめでとうございます。
と言うのも憚られる1年のスタートになってしまいました。亡くなられた方々、動物たちにお悔やみ申し上げます。被災された方々には心からのお見舞いを申し上げます。今の状況を乗り越えて1日も早く通常の生活に戻れますよう願います。

炎症の有無や程度を反映する検査を炎症マーカーと総称します。一般的に炎症マーカーとして用いられているのは、炎症の急性期に血中に増加する蛋白成分(急性相蛋白)の血中濃度の測定です。そして、急性相蛋白の代表として、C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)があり犬の炎症マーカーとして臨床応用されています。

急性相蛋白は、炎症部位に侵入してきた炎症細胞が分泌する炎症性サイトカインの刺激を受けて、主として肝臓で合成されます。炎症性サイトカインは急性の発熱物質でもあり、視床下部においてプロスタグランジンE2を介して発熱が誘導されます。炎症性刺激が加わった6時間後ぐらいから急性総蛋白の血中濃度が上昇し始め、24~48時間でピークに達します。

CRPは急性相蛋白の中でも特に反応性に優れ、ピーク時の濃度は平常時の100から1000倍にまで達します。また、半減期は数時間~12時間程度と考えられており、炎症性刺激が消失すれば速やかに血中濃度が低下します。そして、興奮や運動などの影響をほとんど受けないとされています。従って、CRPの血中濃度の測定によって、炎症の存在やその程度を客観的に把握することが可能です。

具体的には、なんとなく元気がない、発熱だけなどの曖昧な症状の場合に、炎症の有無を明らかにすることが可能です。また値の変動を見ることで、まだ必要な治療を早期に終了してしまったり、逆に効果の乏しい治療を延々と続けてしまったりという事を軽減することができます。

CRPは、炎症性疾患、感染症、腫瘍がある場合に高値となることが多く、特に全身に影響が及ぶ疾患において顕著です。例えば子宮蓄膿症、膵炎、特発性多発性関節炎、無菌性結節性脂肪織炎などの感染性あるいは炎症性疾患、血管肉腫やリンパ腫といった腫瘍の症例において、高い割合でCRPの高値が認められます。また、免疫介在性溶血性貧血やバベシア症においても、CRPが上昇することが知られています。一方で、膀胱炎や鼻炎、平滑筋肉腫などの、病変が限局的である場合はCRPの上昇はみられません。以前は外注検査でしたが、現在では院内で測定が可能です。

こちらもご参照下さい
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)

本年もよろしくお願いいたします。


No.460 肺高血圧症 (Pulmonary hypertension:PH)

肺高血圧症(PH)とは肺動脈壁の弾力性低下や硬化を特徴とする進行性の病態であり、肺動脈の血圧が持続的に上昇している状態を指します。これは疾患の名前ではなく病態を表す名称です。小型犬によく起こり、猫などその他の動物では稀です。PHは様々な病気によって引き起こされます。進行してから見つかることが多く、無症状の場合もありますが、安静時の頻呼吸、発咳、運動時に疲れやすいなどが初期症状です。病態が進み重度になると、失神、チアノーゼ、腹水などが生じます。心臓病や慢性的な呼吸器症状のある場合にはPHを合併している可能性があります。進行すると治療が困難なため、早期の発見が大事です。

犬のPHを引き起こす病態は主に3つです。
・肺血流量の増加 (先天性短絡性疾患など)
・肺血管抵抗の増加 (肺疾患、フィラリア症、特発性肺高血圧症など)
・肺静脈圧の増加 (左心不全など)

さらにACVIM(アメリカ獣医内科学会)のガイドラインではPHの原因を以下の6つに分類しています。
1.肺動脈性PH:特発性肺高血圧症、薬剤誘発性、先天性短絡性心疾患(動脈管開存症、心室中隔欠損症など)
2.左心疾患に伴うPH:心筋症、僧帽弁粘液腫様変性(僧帽弁粘液腫様変性の犬の14~31%は肺高血圧症を合併しており心不全犬での合併率は約70%に上ります)
3.呼吸器疾患・低酸素血症に伴うPH:咽喉頭疾患、気管・気管支虚脱、気管支拡張症、肺実質性疾患(肺線維症、好酸球性肺炎、細菌性肺炎、肺腫瘍)
4.血栓性・閉塞性疾患に伴うPH:肺血栓塞栓症
5.寄生虫性疾患に伴うPH:フィラリア症
6.他因子または原因不明の肺高血圧症:甲状腺や上皮小体の異常、肥満、その他

PHの確定診断には心臓カテーテル検査が必要ですが、この検査は全身麻酔が必要です。臨床診断は症状と以下の様な検査を用いて総合的に行います。
症状
初期:無症状、疲れやすい、安静時・運動時の頻呼吸や努力呼吸、発咳
中期:低酸素血症に伴うチアノーゼ、失神
末期:右心不全に伴う肝腫大、腹水
SPO2測定
PHでは低酸素血症が起こるため、血中の酸素濃度が低下し息苦しくなります。この検査では小さなクリップを耳や指先に挟み、動脈中の酸素濃度を測定します。測定値が≧95%だと正常ですが、<95%は異常です。
胸部レントゲン検査
PHの原因となる呼吸器疾患や心不全の有無を評価するために実施します。拡大した肺血管や後大静脈、肝腫大などが認められる場合には肺高血圧症の可能性があります。
超音波検査
PHでは肺動脈圧と共に右心室圧が上昇し、結果として三尖弁逆流が高率に発生します。三尖弁逆流がある場合は逆流速度から収縮期肺動脈圧を推定することでPHの診断が行えます。ヒトでは安静時の平均肺動脈圧が≧25mmHgの時にPHと診断されますが、犬では肺動脈圧が≧45mmHg(三尖弁逆流速度>3.4m/sec)の時にPHと診断します。この基準は初期のものは見逃されるかもしれませんが、治療が必要な状態を検出することができます。さらに進行した場合は右心室内腔の拡大と心室中隔の扁平化、肺動脈の拡大、腹部では腫大した肝臓に加え、肝静脈の拡大が認められます。ガイドラインでは三尖弁逆流速度に加え、以下に示すような所見と合わせて診断することを推奨しています。

治療はPHを引き起こす基礎疾患の治療を優先して行い、加えて肺動脈圧を低下させ症状を緩和させるため肺動脈拡張薬も使用します。予後は基礎疾患によって様々です。肺腫瘍や肺線維症の場合には数週間で亡くなることもあります。左心不全では1年後の生存率は50%以下です。重度になると有効な治療法がないため早期発見が重要です。


No.459 水晶体脱臼

水晶体は眼球の中間部に位置しており、網膜にピントをあわせるために必要な重要な組織です。カメラの絞りに例えられる毛様体から連続するチン小帯という組織が360°付着しており、遠くを見たり近くを見る際にチン小帯を通じ、水晶体を伸ばしたり縮めたりすることで網膜に焦点を合わせています。ヒトでは様々な原因によってチン小帯の脆弱化が生じ、チン小帯が断裂することで水晶体の位置が本来の中心の位置からずれることがあります。水晶体の偏位が軽度である場合を水晶体亜脱臼といい、完全に偏位している場合を水晶体脱臼といいます。

動物においても、水晶体亜脱臼や水晶体脱臼が生じます。特にテリア種を中心とした犬種においてチン小帯の断裂が生じやすい遺伝的な素因があるとされ、原発水晶体脱臼(PLL)を生じることが報告されています(他の品種でも起こります)。またぶどう膜炎や緑内障、外傷といった様々な疾患に続発して水晶体脱臼が生じることもあります。

水晶体脱臼では、水晶体は本来の位置から様々な場所に偏位し、それぞれ症状が違います。硝子体側(眼の奥側)へ偏位する水晶体後方脱臼では、後部の眼内組織である網膜に障害を与え、網膜剥離を生じる危険性があります。また前房へ偏位する水晶体前方脱臼は、緑内障や角膜浮腫を引き起こすだけでなく、強い疼痛を生じるため、緊急的な治療(多くは外科手術)が必要です。


犬の水晶体前方脱臼