No.505 多飲多尿症(PUPD)の主な疾患

病的にたくさんの水を飲みたくさんの尿が出る状態を多飲多尿症(PUPD)と呼びます。固体差もあり目安ですが、健康な犬や猫では1日に体重1kg当たり50~60ccの水を飲み20~40ccの尿を排出します。多飲:>100cc/kg/day・多尿:>50cc/kg/dayが犬猫での目安です。この値よりも、飼主さんの印象『普段よりも飲水量・尿量が増えている』が重要です。

飲んだ水は、必要量が体内に蓄積され、余分な量や熱の調節、老廃物の排出のために汗や吐く息、そして便や尿として体外へ排出されます。飲む水と出ていく水の量は、主に脳と腎臓の働きによりバランスがとられています。

例えば、体から水が大量に失われたり、塩分を大量に摂取したりすると、血中Naなどのイオンバランスが変化します。この変化を脳が感知し、尿を作っている腎臓が水を引き戻す(再吸収)ための命令(抗利尿ホルモン:ADH)を出します。また、渇きを刺激し飲水量を増加させます。さらに腎臓自身もホルモンを出し、体内で水分を保つ反応が起こります。逆に、体中に水が大量に存在する場合は、腎臓が尿へと水をどんどん排出します。

脳あるいは腎臓の機能のいずれかが障害されると、飲む水と出る水のバランスが崩れてきます。多飲多尿症とは、ある疾患と必ずしも1対1で現れる症状ではなく、その背景に脳や腎臓の機能に関係する様々な疾患が隠れている可能性があります。また、多飲多尿は「たくさん水を飲むため尿が出る」よりも「たくさん尿が出るために水を欲しがる」場合の方が多いといわれています。主な原因には以下のようなものがあります。

腎臓疾患:腎臓の主な機能は、血液中の老廃物を体の外に排出するために尿を作ることですが、その過程で体内に必要な水分や塩分を引き戻す再吸収を行います。再吸収は、腎臓の尿細管や集合管と呼ばれる部分で行われますが、この部分が壊れてしまうと尿中にどんどん水分が失われ多尿が起こります。この水分の喪失に反応して多飲が起こります。

糖尿病:インスリンが不足するために、血液中の過剰な糖分が尿中に漏れでてしまう病気です。尿に糖分が多く含まれるために再吸収がうまく行われず、腎臓は水分の回収に失敗し多尿が起こり、次いで多飲が起こります。

副腎皮質機能亢進症:副腎皮質で作られるステロイドホルモン(グルココルチコイド)が過剰になり、このホルモンが水分の調節に係る脳の働きを鈍らせ、腎臓では脳からの命令を妨げ多尿が起こります。クッシング症候群ともいいます。犬で多いです。

甲状腺機能亢進症:高齢の猫で多く、甲状腺から過剰にホルモンが産生される病気です。このホルモンが、尿中の塩分を増加させることや体内の熱産生に影響することは知られていますが、多飲多尿を示す原因は明らかになっていません。

子宮蓄膿症:不妊手術をしていない中~高齢の動物に多い病気です。子宮の中に細菌感染が起こり膿が貯まります。細菌の出す毒素が、腎臓で脳からの抗利尿ホルモンを妨げるために多尿が起こり、次いで多飲が起こります。

尿崩症:腎臓に対し脳が水を再吸収させる命令をうまく出せない中枢性尿崩症と、脳からの命令に腎臓がうまく反応できない腎性尿崩症の2つに分けられます。原因は脳あるいは腎臓にありますが、どちらも腎臓が水の再吸収に失敗することで多尿が起こり、次いで多飲が起こります。中枢性は脳の腫瘍が原因となることが多く、腎性だと先天的であったり他の病気によるものであったりします。診断が困難な病気です。

高Ca血症:腎臓の遠位尿細管の機能が低下して、水分の再吸収が阻害されて多尿が起こります。そのため脱水が起こり喉が渇きます。また、腎臓での抗利尿ホルモンの感受性も低下します。上皮小体機能亢進症、リンパ腫やアポクリン腺癌などの可能性があります。

浮腫み:肝臓、腎臓や小腸の疾患による低Alb血症、犬の甲状腺機能低下症などで浮腫みが生じると、血液の浸透圧が下がり体液が血管外に漏れやすくなり浮腫みが生じます。この浮腫みが腎臓を刺激し、余分な水分を排出しようとして、尿量が増え喉が渇きます。

痛み:痛みによるストレスで交感神経が活性化されると喉が渇きます。胃の疾患で胃酸が増えてる場合は、胃酸を薄めるために水を飲みたくなります。下痢や嘔吐がある場合も脱水のために飲水量が多くなる場合があります。

多飲多尿症は何らかの病気が隠れている可能性があります。飲水量や尿量が増えてきたという印象がある場合は早期の検査をお勧めします。また、必要で飲んでいる事が多いので、原因が分かるまでは水を欠かさないように与えてください。


原因が分かるまでは水は切らさない様に

こちらもご参照下さい
No.483 小鳥の多飲多尿
No.437 肛門嚢アポクリン腺癌 (AGACA)
No.406 副腎腫瘍
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)
No.56 慢性腎臓病(CKD)2
No.55 慢性腎臓病(CKD)1
No.3 飲水量とPUPD


No.504 可愛いものを見ると

可愛いにきちんとした定義はありませんが、子犬や子猫を見ると多くのヒトは可愛いと感じます。広島大学大学院総合科学研究科の入戸野宏准教授らの研究グループは、幼い動物の可愛い写真をみた後には、注意を必要とする作業の成績がよくなることを実験によって示しました。

大学生132名を対象として実験を行い、幼い動物(子犬や子猫)の写真7枚を好きな順番に並び換えるという作業を90秒行ってもらった後では、手先の器用さを必要とする課題や、指定された数字を数列から探して数える課題の成績が、写真を見る前と比べそれぞれ44%、16%向上しました。成体の写真を並び換えた場合は成績向上は生じず、美味しそうな食べ物の写真を並び換えることにも効果はありませんでした。

また、可愛い写真を見ることが注意の範囲に与える効果も検討しました。通常、ヒトの視覚情報は対象の細部よりも全体に注意を向けるので、全体的な特徴の方が素早く脳で処理されます。しかし、可愛い写真を見た後には細部が注目されるようになり、細部と全体の処理に要する時間差がなくなりました。可愛いという感情には対象に接近して詳しく知ろうとする機能があるため、このように細部に注意を集中するという効果が生じた可能性があると考えられます。また、90秒以上見ることは逆効果だという結果も出ています。

本研究は、可愛いものを見ると気分が良くなるだけでなく行動も変化することを示しています。可愛いはキャラクターや商品として生産されるとともに、日本のポップカルチャーを代表するキーワードkawaiiとして世界に拡がっています。しかし、可愛いとは何か、可愛いと何が良いのかについては学術的な説明はなされていません。この実験の知見は可愛いものが普及する心理的背景を説明する1つのヒントとなるかもしれません。


可愛いものを見るのは90秒以内で


No.503 小腸性下痢

小腸性下痢とは、小腸(十二指腸、空腸、回腸をまとめて小腸と呼びます)が原因場所になっている下痢の総称です。通常は排便の回数は正常ですが、1回の排便量が多くなり、軟便~水様便となるのが特徴です。

小腸性下痢の場合、大腸で水分は吸収されますが、小腸で栄養分が吸収されていないため便の量が増えます。慢性化すると体重の減少がみられたり、出血があると黒色便(メレナ)となります。初期の頃はしぶりはあまりみられません。

小腸性下痢の原因は、大腸性下痢より複雑である場合が多く、主な疾患には以下の様なものがあります。

・低ALB血症
・リンパ球形質細胞性腸炎(慢性腸症)
・好酸球性腸炎
・炎症性腸疾患(IBD)
・リンパ腫
・消化管腫瘍
・食事反応性腸炎
・抗生物質反応性腸炎
・感染性腸炎(ウイルス、細菌、原虫、寄生虫など)
・膵炎
・膵外分泌不全
・異物

診断は、症状、糞便検査、血液検査、レントゲン検査や超音波検査に加え、原因が分からず一般的な治療で改善しない場合は、便のPCR検査や消化管内視鏡検査が必要な場合があります。とくに嘔吐や食欲減退などの他の症状を伴っている場合、1週間以上下痢が続いている場合などには、小腸性、大腸性に限らず、きちんと診断を付け、原因に沿った治療を早期に行うことが望まれます。


No.502 リンパ球 (Lymphocyte)

リンパ球とは白血球の一種で免疫に関わる細胞です。白血球には顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、リンパ球があり、それぞれが免疫機能において重要な働きをしています。リンパ球はB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)に分類されます。

B細胞(Bリンパ球):白血球のおおよそ20~40%の割合を占めている免疫細胞です。侵入した抗原(ウイルス、細菌、カビ、微生物、原虫、寄生虫、花粉など)が危険であるかどうかを判断し排除する働きがあります。このB細胞が成熟すると形質細胞になります。形質細胞は、ヘルパーT細胞と協力をして、抗体(有害な抗原が体内に入ってきた際に攻撃をするタンパク質)を作り放出します。抗原と戦ったB細胞の一部はメモリーB細胞となって次回の感染に備えます。また、一度侵入したことのある抗原の情報を記憶しておくことができ、病気にかかりいくい状態を作ります。

T細胞(Tリンパ球):リンパ球のうち60~80%の割合を占める細胞です。ヘルパーT細胞は、樹状細胞(皮膚や血液中に存在する免疫細胞)から抗原の情報を伝達してもらい(抗原掲示)、キラーT細胞に指示をしたり、B細胞と協力して異物が危険なものかどうか判断したり、B細胞やマクロファージを活性化させます。マクロファージは全身に広がっている免疫細胞で、体内に侵入した抗原を食べて消化、殺菌することで感染を防ぎます。キラーT細胞は、ヘルパーT細胞から指令を受け、ウイルスなどに感染してしまった細胞を壊します。また、免疫細胞が過剰に働きすぎないようにコントロールするのが制御性T細胞です。各細胞に攻撃の終了を指示することで免疫異常を防いでくれます。このようにTリンパ球は免疫応答の司令塔の役割をします

ナチュラルキラー細胞(NK細胞):リンパ球の約10~30%を占めています。殺傷能力の高い免疫細胞で、全身をパトロールし、癌細胞やウイルスなどを見つけたら直ちに攻撃します。生まれつき体に備わっている免疫細胞(自然免疫)に分類されます。NK細胞には、レセプター(受容体)と呼ばれる、抗原を調べるためのアンテナのようなものが2種類備わっています。これらをうまく使い分けることで、ウイルスなどに感染した細胞と健康な細胞を見分けています。

リンパ球は、基本的に骨髄で作られます。ただし、B細胞に関しては、胎児の時は肝臓で作られており、生まれてからは骨髄で作られるようになります。リンパ球が最初に分化(細胞がそれぞれ機能を持つこと)する場所を一次リンパ組織といい骨髄や胸腺が該当します。B細胞やT細胞は、それぞれ骨髄や胸腺で少しずつ形を変えていき、免疫における自分の役割を明確にしていきます。免疫細胞が、ウイルスなどの異物に反応し、攻撃したり排除しようとする働きを免疫反応と呼びます。そして、その免疫反応が起こる場所のことを二次リンパ組織と言います。二次リンパ組織には、脾臓やリンパ管が該当します。


Bリンパ球のイメージ画


Tリンパ球のイメージ画


NK細胞のイメージ画

こちらもご参照下さい
No.500 免疫力
No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.121 体表リンパ節の腫大 (Swelling of a lymph node)


No.501 レプトスピラ (Leptospirosis)

先日、金沢区の方でレプトスピラを発症した犬が報告されました。

以前にも書きましたが、レプトスピラは人獣共通の細菌(スピロ ヘータ)の感染症で、病原性レプトスピラは、主に保菌動物(ドブネズミなど)の腎臓から尿中に排出されます。保菌動物の尿で汚染された水や土壌 から経皮的あるいは経口的に感染します。河川や田んぼの周辺など、とくに大雨の後は注意が必要です。2003 年より 4 類感染症として届出が義務付けられている疾患です。

症状は、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充血などの感冒症状から重症となると多くは黄疸を呈します。急性腎不全によって多尿または無尿となっている場合もあります。治療が遅れると、炎症に起因する DIC(播種性血管内凝固症候群)や SIRS(全身性炎症反応症候群)による多臓器不全に移行し死に至ることもあります。

レプトスピラは、250 以上の血清型に分類されそのうち 7 血清型が届出対象となっています。血清型は地域によって偏りがあり、臨床症状とも合致しません。異なる血清型のワクチンは基本的に予防に有効ではありません。

診断は、PCR による遺伝子検査で感染は確定できますが血清型の分類はできません。感染初期は抗体が産生されていないため抗体価のみでは診断は困難です。感染初期には全血を材料とする遺伝子検査で、腎不全の認められる時期には尿を材料とした遺伝子検査で陽性となれば診断ができますが、陰性であっても本症を否定できないので1週間以上間隔をあけたペア血清を用いて抗体価を測定することが理想的です。また、ワクチンによっても抗体が検出されることがあります。

治療は、ストレプトマイシンやアンピシリンやアモキシリンという抗生剤を腎障害に注意しながら使用します。寛解後はドキシサイクリンという薬を数週間を投与し、尿中への排菌を防ぎます。治療が成功し回復した犬も、数か月から数年間、尿中にレプトスピラを排菌することがあるといわれています。

予防はワクチンですが、上述の様に全ての血清型に効果的ではありません。(ご心配な方にはワクチンのご用意はあります)現実的には、大雨の後に河川敷での散歩を控える、ドブネズミのいる場所に近寄らない、感冒症状がみられたら早期に受診することが重要です。


大雨の後の河川敷の散歩に注意して下さい

こちらもご参照下さい
No.433 肝細胞性黄疸
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.337 レプトスピラ症の発生続報
No.335 犬のレプトスピラ症 (Leptospirosis)
No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)
No.136 犬ウィルス抗体価検査 (Canine VacciCheck)
No.132 人畜共通伝染病2 (Zoonosis)
No.55 慢性腎臓病(CKD)1


No.500 免疫力

免疫力とは、体が病原体(ウイルス、細菌、寄生虫など)や異物に対して防御する能力を指します。具体的には体内に侵入した病原体を識別し、これを排除するために働く免疫システムの全体的な機能や効果を意味します。免疫力が高いほど、感染症にかかりにくく、病気からの回復も早くなります。免疫力は自然免疫と獲得免疫の2つから成り立っています。

自然免疫(先天免疫)
動物が生まれつき持っている防御機構で、病原体が体内に侵入した際に最初に反応する免疫システムの一部です。これは特定の病原体に対する防御ではなく、一般的な侵入者に対して広範囲に働くため、非特異的免疫とも呼ばれます。以下のような要素が含まれます。
物理的・化学的バリア:皮膚や粘膜、胃酸、涙などが病原体の侵入を防ぎます
細胞性免疫:マクロファージ、好中球、自然リンパ球(NK細胞)などの免疫細胞が病原体を識別し、攻撃・排除します
炎症反応:病原体の侵入により、感染部位が腫れたり熱を持つことで、免疫細胞が集まりやすくします
補体系:補体と呼ばれるタンパク質が、病原体を直接破壊したり、免疫細胞を引き寄せる役割を果たします。
自然免疫は、すぐに反応を開始するため、感染初期に重要な役割を果たしますが、一部の病原体に対してはこの免疫だけでは不十分な場合があり、その場合、獲得免疫が働きます。

獲得免疫(適応免疫)
自然免疫とは異なり、特定の病原体に対して体が学習して反応する免疫システムです。これにより、体は特定の病原体に対する記憶を持ち、同じ病原体が再び侵入した際には、迅速かつ効果的に対応できるようになります。以下の特徴があります。
特異性:獲得免疫は特定の病原体や異物に対して特異的に反応します。これにより、感染の種類に応じて適切な免疫応答が起こります。
免疫記憶:獲得免疫には記憶機能があり、一度遭遇した病原体を覚え、再感染時に素早く強力な応答を引き起こします。これがワクチンが効果を発揮する基盤です。
リンパ球:獲得免疫は主にBリンパ球(B細胞)と Tリンパ球(T細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)というリンパ球によって実現されます。
Bリンパ球;特定の抗原(病原体の一部)を認識し、成熟して、抗体(免疫グロブリン)を大量に産生する形質細胞となり病原体を無力化し、メモリーB細胞に記憶します。
Tリンパ球;ヘルパーT細胞が司令塔となり、キラーT細胞に指示を出しウイルスに感染した細胞を直接攻撃します。また、制御性T細胞が免疫系の暴走を起こさないように制御・調整します。
ナチュラルキラー細胞;殺傷力が高く、癌細胞やウイルスを見つけたらただちに攻撃します。
獲得免疫が一度活性化されると、その病原体に対する免疫力が長期的に持続することがあり、これが長期間の免疫記憶につながります。このため、一度かかった病気に対しては、二度目以降は軽症で済むことが多いです。獲得免疫は永遠にもっていられる場合ばかりでなく、一定時間が経過するとなくなってしまう場合も多いです。とくにワクチンで獲得した免疫は期間が短いといわれています。

免疫力を高めるためには、動物種によって異なりますが、日常生活の中で以下のような習慣や対策を取り入れることが有効です。
バランスの取れた食事:偏った食生活、肥満や痩せ過ぎには注意しましょう
十分な水分補給:とくに高齢動物や猫では水分が不足しがちです
腸内環境の整備:便の状態をよく観察してください
十分な睡眠:規則正しい時間に十分に眠ることが重要です
適度な運動:無理のない範囲で動物種や年齢に合わせた運動をしましょう
ストレス管理:長い時間1人にさせたり過干渉は止め、動物と良い距離感を持ちましょう。1人になれる場所、安心出来る場所を作ることも重要です
受動喫煙の防止:受動喫煙はリンパ腫はじめ様々な疾患の発生率を上げることが分かっています
衛生管理:飼育場所の掃除はこまめに、定期的なシャンプー、ブラッシング、動物種によっては水浴び、砂浴びを行いましょう
日光浴:ホルモンバランスを保ち、幸せホルモンといわれるセロトニンの分泌が活発になり、自律神経にも良い影響があり、認知症の予防にもなります
環境エンリッチメント:とくにエキゾチックペットでは飼育場所を広くしたり、本来の生息地の環境に近づけたり、給餌回数を考えるなどの工夫が重要です

これらの習慣を日常生活に取り入れることで、免疫力を維持し、強化することが期待できます。また、定期的に健康診断を行い体調管理を怠らないことも大切です。

こちらもご参照下さい
No.493 カロリー計算
No.485 動物の受動喫煙
No.428 日光浴
No.168 タンパク質の「質」
No.164 脳-腸-微生物相関
No.13 エンリッチメント


No.499 気象病

梅雨時期や台風が近付き気圧が下がると体調が悪くなることがあります。これを一般的には気象病と呼んでいます。気象病は、気圧の変動や湿度の上昇などの気象条件が人体に与える影響によって引き起こされる症状の総称です。ヒトの気象病の主な症状は、頭痛、めまい、倦怠感、眠気、食欲不振、イライラなどです。これらは、気圧の変化によって体内の血液や組織の圧力が変化し、血管や神経に影響が及ぶことにより生じます。獣医療では気象病という言葉は一般的ではありません。しかし気候の変化によって体調が悪くなる動物は多くみられます。

気圧が急激に下がると、てんかん発作などを持っている場合やセンシティブ動物の場合は、ウロウロと落ち着かなくなり、熟睡できなかったり、わかりにくいのですが頭痛を起こしている可能性もあります。気圧の変動は、胃腸の問題を引き起こすこともあります。検査では問題ないのに腸の運動が低下し、消化不良や腹痛、食欲不振を引き起こすことがあります。また、無駄吠えをしたり、攻撃的になったり、猫ではトイレに行かなくなってしまう場合があります。

多くの動物は雷や雨の前に変化を察知します。まだ晴れているうちからわかっている場合もあります。気圧の変動や静電気の増加などの前兆により不安や恐怖心を感じます。震えて部屋の隅に隠れたり、走り回ったり、家具をかじったりすることがあります。少し前の犬の研究では、激しい雷が起こると、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの血中濃度は40分にわたって270%も上昇するという結果でした。

梅雨時期や台風時は、動物に安心感を与えることが重要です。気象病に対処するために、以下の方法が役立ちます。
安全な場所の提供:落ちつける場所を提供しましょう。狭いスペースやベッドの下など、自分が守られていると感じる場所を見つけてあげることが大切です。パニックになっても怪我をしない様にしましょう。クレートや可能なら防音の処置ができると良いです。
そばにいる:多くの動物は飼主さんの存在で安心感を得ます。気象病の症状が現れる際にはそばにいて落ち着かせることも重要です。
リラクゼーション:動物がリラックスできるように、撫でられたりマッサージが好きな場合は行ってあげて下さい。普段からTVや音楽が好きな場合はかけてあげるのも良いです。

あまりに怖がっている場合は無理をせず、怪我をしない場所でしばらく1人にします。このような事をしても激しいパニックになる場合は薬の使用もありだと思います。今はかなり安全な抗不安薬があります。

気象病は、敏感な動物に影響を与えることがありますが、適切なケアとサポートによって症状を軽減できます。気圧の変化が激しいときに食欲が落ちる、動きが鈍いなどがあれば気象病かもしれません。そのような適切な対処の仕方を知っていることが大切です。


子犬と雨の日の子どもたち いわさきちひろ 作


No498 ドライフードとウェットフードの違い

ドライフードとウェットフードの違いのなかでとくに大きなものは水分の含有量です。水分含有量はドライフードでは10%程度、ウェットフードは75%程度となっています。ドライフードは水分量が少ない分必要な栄養素がバランスよく凝縮されています。カリカリ感を出すため炭水化物が多く含まれています。穀物を多く使用していて、アレルギーを持っている動物には使用できないことがあります。製造過程での加熱や乾燥によりタンパク質が変性することもあります。また、ウェットフードは柔らかく、炭水化物は少なめに作られているものが多いのが特徴です。

ドライフード
メリット:

・市販されている多くのドライフードが総合栄養食で、一日に必要な栄養素がバランスよく摂取できる
・種類が多く販売されており、種や年齢に合わせた選択ができる
・長期保存ができ、ウェットフードに比べ安価なものが多い
・フードをふやかしたり、知育トイに入れるなどアレンジができる
デメリット:
・水分量が少ないため、フード以外での水分摂取が必要
・粒が硬いため、口や歯の異常がある場合や消化機能が十分でない幼齢や高齢動物には向かないことがある
・匂いが弱く食いつきが悪いことがある

ウェットフード
メリット:

・豊かな香りで嗜好性が高い場合が多い
・タンパク質が多く炭水化物が少ない
・水分含有量が多いため、飲水が少ない場合や腎臓や膀胱疾患を抱えている場合によい
・柔らかく食べやすいため、口腔内や歯の異常がある場合や消化機能が低い場合も食べやすい
・カロリーが少ないため肥満の予防になる
デメリット:
・開封後は傷みやすい
・ドライフードに比べると高価な場合が多い

上記のようなものが挙げられます。一昔前は、ドライフードの方が歯石が付きづらいとか、咀嚼筋が鍛えられるといわれていましたが、歯石の付き方はどちらもそう変わりませんし、成体になってからドライフードを食べたからといって咀嚼筋が鍛えられる事もありません。様々な研究ではウェットフード中心の方が長生きという結果が出ています。

多くの量が必要な中型犬や大型犬はドライを中心に、腎臓の悪くなってきたシニアの動物にはウェットを中心になど、メリット、デメリットを知って両者を上手に使うことが大切です。フードの選択肢も増えることから、若いうちは両者を与えることがオススメです。


上手く使い分けましょう

こちらもご参照下さい
No.493 カロリー計算
No.192 ペットフード
No.8 ペットフードと手作りフード


No.497 猫マイコプラズマ感染症

マイコプラズマは細菌の一種で、ヘルペスウイルスやカリシウイルス、クラミジアなどと同じように、猫風邪の原因の一つです。そのため猫風邪にとても似ている症状がみられ、鑑別も難しいことがあります。

猫マイコプラズマは常在菌として健康な猫にも普通に存在しています。健康な状態で免疫力に問題が無い場合には感染しても発症することは多くはありません。しかし、栄養状態や免疫力が落ちていると発症することがあります。

特徴的な症状は、涙眼とくしゃみです。症状が進むと熱が出たり、鼻が詰まって食欲が落ちてきます。他の猫風邪と混合感染することが多い疾患です。混合感染した場合には重症化して肺炎や副鼻腔炎になってしまうこともあります。とくに子猫は免疫力が弱く重症化しやすいので注意が必要です。感染した猫の涙や鼻水などの分泌物の中に、猫マイコプラズマが含まれています。そのため、涙やくしゃみなどの飛沫から感染します。多頭飼育の場合、マイコプラズマに感染している猫は他の猫から隔離しておく必要があります。通常は症状から治療的診断を行いますが、確定診断にはPCR検査が用いられます。

治療には、マクロライド系の抗生剤を使用します。1月ほどの投薬が必要です。治療のポイントは症状を悪化させないことです。適温、敵湿度の環境にして、眼や鼻周りの汚れを綺麗にして、脱水を防ぐためにも水を飲ませ食事をきちんと採らせる。免疫力が落ちないようにして、定期的なワクチン接種で他の猫風邪を予防して合併症にならないようにしましょう。通常はヒトにはうつりません。


猫風邪の子猫

こちらもご参照下さい
No.394 猫ヘルペスウイルス感染症 (Feline Herpesvirus Infection)
No.312 副鼻腔炎 (Sinusitis)
No.287 猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)


No.496 猫喘息

猫喘息とは、突然呼吸困難に陥る慢性気管支疾患です。気管支に炎症が起こり、空気の通り道が狭くなっていく状態が徐々に進行していきます。肺や気管支での様々な変化は、最初は元に戻る変化ですが、慢性的になると元に戻り辛くなります。また、猫喘息は2~3歳ぐらいの若齢で発症すると重症化しやすく、4~8歳ぐらいの中齢で発症すると軽度から中等度の症状になりやすいといわれています。

症状は呼吸に関するもので、咳、呼吸が早い、疲れやすい、遊ばなくなった、喘鳴(息を吐くとき音がする)、開口呼吸などがあります。

犬は呼吸による空気の出し入れにより体温調節を行うので、口を開けて呼吸をしているところをよく見かけますが、猫が開口呼吸をしているときは、重度の呼吸器障害や状態の悪化であることが多く要注意です。また、猫喘息は発作的に呼吸困難や咳が起こり、突然激しい呼吸器症状が現れます。この発作は突然死を招く危険性があります。

原因や発症の仕組みは明確には分かっていませんが主にアレルギーによるものと考えられています。アレルギーの原因となるのは、ハウスダスト、花粉、洗浄剤、消臭剤、ヘアスプレー、煙草の煙、香水など、呼吸で吸い込むアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)です。カーペットや家具を新しく新調したり、新しい家に引っ越したりしたときに新たなアレルゲンにさらされることもあります。

猫喘息の診断は、症状、聴診、血液検査、X線検査、気管支鏡検査などによって行います。

治療は、気管支拡張薬、ステロイド剤、免疫抑制剤などを用い、重度なら酸素吸入を行います。また、代替医療が著効する場合もあります。投薬と同時に、環境中から疑わしいアレルゲンを除去するよう努めます。猫喘息は慢性疾患なので症状の改善があっても内服薬を急に中止することは出来ません。


喘息の猫の胸部レントゲン写真