病的にたくさんの水を飲みたくさんの尿が出る状態を多飲多尿症(PUPD)と呼びます。固体差もあり目安ですが、健康な犬や猫では1日に体重1kg当たり50~60ccの水を飲み20~40ccの尿を排出します。多飲:>100cc/kg/day・多尿:>50cc/kg/dayが犬猫での目安です。この値よりも、飼主さんの印象『普段よりも飲水量・尿量が増えている』が重要です。
飲んだ水は、必要量が体内に蓄積され、余分な量や熱の調節、老廃物の排出のために汗や吐く息、そして便や尿として体外へ排出されます。飲む水と出ていく水の量は、主に脳と腎臓の働きによりバランスがとられています。
例えば、体から水が大量に失われたり、塩分を大量に摂取したりすると、血中Naなどのイオンバランスが変化します。この変化を脳が感知し、尿を作っている腎臓が水を引き戻す(再吸収)ための命令(抗利尿ホルモン:ADH)を出します。また、渇きを刺激し飲水量を増加させます。さらに腎臓自身もホルモンを出し、体内で水分を保つ反応が起こります。逆に、体中に水が大量に存在する場合は、腎臓が尿へと水をどんどん排出します。
脳あるいは腎臓の機能のいずれかが障害されると、飲む水と出る水のバランスが崩れてきます。多飲多尿症とは、ある疾患と必ずしも1対1で現れる症状ではなく、その背景に脳や腎臓の機能に関係する様々な疾患が隠れている可能性があります。また、多飲多尿は「たくさん水を飲むため尿が出る」よりも「たくさん尿が出るために水を欲しがる」場合の方が多いといわれています。主な原因には以下のようなものがあります。
腎臓疾患:腎臓の主な機能は、血液中の老廃物を体の外に排出するために尿を作ることですが、その過程で体内に必要な水分や塩分を引き戻す再吸収を行います。再吸収は、腎臓の尿細管や集合管と呼ばれる部分で行われますが、この部分が壊れてしまうと尿中にどんどん水分が失われ多尿が起こります。この水分の喪失に反応して多飲が起こります。
糖尿病:インスリンが不足するために、血液中の過剰な糖分が尿中に漏れでてしまう病気です。尿に糖分が多く含まれるために再吸収がうまく行われず、腎臓は水分の回収に失敗し多尿が起こり、次いで多飲が起こります。
副腎皮質機能亢進症:副腎皮質で作られるステロイドホルモン(グルココルチコイド)が過剰になり、このホルモンが水分の調節に係る脳の働きを鈍らせ、腎臓では脳からの命令を妨げ多尿が起こります。クッシング症候群ともいいます。犬で多いです。
甲状腺機能亢進症:高齢の猫で多く、甲状腺から過剰にホルモンが産生される病気です。このホルモンが、尿中の塩分を増加させることや体内の熱産生に影響することは知られていますが、多飲多尿を示す原因は明らかになっていません。
子宮蓄膿症:不妊手術をしていない中~高齢の動物に多い病気です。子宮の中に細菌感染が起こり膿が貯まります。細菌の出す毒素が、腎臓で脳からの抗利尿ホルモンを妨げるために多尿が起こり、次いで多飲が起こります。
尿崩症:腎臓に対し脳が水を再吸収させる命令をうまく出せない中枢性尿崩症と、脳からの命令に腎臓がうまく反応できない腎性尿崩症の2つに分けられます。原因は脳あるいは腎臓にありますが、どちらも腎臓が水の再吸収に失敗することで多尿が起こり、次いで多飲が起こります。中枢性は脳の腫瘍が原因となることが多く、腎性だと先天的であったり他の病気によるものであったりします。診断が困難な病気です。
高Ca血症:腎臓の遠位尿細管の機能が低下して、水分の再吸収が阻害されて多尿が起こります。そのため脱水が起こり喉が渇きます。また、腎臓での抗利尿ホルモンの感受性も低下します。上皮小体機能亢進症、リンパ腫やアポクリン腺癌などの可能性があります。
浮腫み:肝臓、腎臓や小腸の疾患による低Alb血症、犬の甲状腺機能低下症などで浮腫みが生じると、血液の浸透圧が下がり体液が血管外に漏れやすくなり浮腫みが生じます。この浮腫みが腎臓を刺激し、余分な水分を排出しようとして、尿量が増え喉が渇きます。
痛み:痛みによるストレスで交感神経が活性化されると喉が渇きます。胃の疾患で胃酸が増えてる場合は、胃酸を薄めるために水を飲みたくなります。下痢や嘔吐がある場合も脱水のために飲水量が多くなる場合があります。
多飲多尿症は何らかの病気が隠れている可能性があります。飲水量や尿量が増えてきたという印象がある場合は早期の検査をお勧めします。また、必要で飲んでいる事が多いので、原因が分かるまでは水を欠かさないように与えてください。
原因が分かるまでは水は切らさない様に
こちらもご参照下さい
No.483 小鳥の多飲多尿
No.437 肛門嚢アポクリン腺癌 (AGACA)
No.406 副腎腫瘍
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)
No.56 慢性腎臓病(CKD)2
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No.3 飲水量とPUPD