No.163 脳腸相関(Brain-gut interaction)

腸は非常に原始的で基本的な機関です。発生学的にも脳より先に出現します。また、体内に侵入した外敵やストレスに対して、脳が考えるより先に反応する腸は「第二の脳」と呼ばれ、独自の神経ネットワークを持っています(腸は脳に次いで神経細胞が多いです)。

以前から脳と腸の関係については議論がありましたが、その連絡はあくまでも、脳から腸への一方通行と考えられてきました。しかし、今ではこの道は両側通行であることがわかってきました(図参照)。

自律神経系の一部をなす腸管神経系は、食道から肛門までの消化管壁に、消化管の蠕動運動に関与している筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)と、粘膜上皮における電解質や水の分泌制御に関与している粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)からなる神経ネットワークを構築しています。

これらは、腸神経系とも呼ばれ自律神経からの調節を受けますが、腸管神経系自体が消化管を支配する完全な反射回路を持っているので、脳や脊髄からの指令がなくても独立して基本的な諸機能を果たすことができます。

試験の前にお腹が痛くなったり、大勢の前で発表するときに緊張してトイレに駆け込んだり、お腹が空いているのに極度の緊張で食欲が出ないなど、経験上、私たちは精神的な状態とお腹の調子に関係があることに気づいています。これは、脳が自律神経を介して腸に刺激を与えているからです。逆に、腸に病原体が侵入することによって脳で不安感が増加するという報告もあります。また、脳で感じる食欲にも腸から放出されるホルモンが関係しているといわれています。

このように脳と腸は双方向に情報伝達を行って作用を及ぼし合っています。これを『脳腸相関』と呼んでいます。最近では、病原体だけでなく、腸内に常在する細菌も脳の発達や機能に影響を及ぼしているという研究も注目されていて、『脳-腸-微生物相関』という言葉が提唱されています。

次回はこの『脳-腸-微生物相関』の話です。