No.31 膝蓋骨脱臼

犬に非常に多い膝蓋骨脱臼についてです(猫でも稀に見られます)。膝のお皿のことを膝蓋骨(しつがいこつ)といいます。大腿骨の端にある膝蓋骨を受ける部分を滑車溝(かっしゃこう)といいます。

膝蓋骨脱臼とは、滑車溝から膝蓋骨が変位した状態を言います。平たく言えば、膝のお皿が外れることです。原因によって、外傷性と先天性に分類されます。内方に変位した場合を『膝蓋骨内方脱臼(MPL)』と言い小型犬に多く見られます。外側に変位した場合は『膝蓋骨外側脱臼(LPL)』と言い大型犬に多いです。重症になると、内にも外にも脱臼するようになることもあります。

外傷性膝蓋骨脱臼の原因は、交通事故や咬傷などの強い外的圧力によって、膝周辺の組織が損傷を受けることです。先天性膝蓋骨脱臼の原因は、滑車溝の形成不全、大腿四頭筋の変位、頸骨粗面(膝のお皿の靭帯が脛の骨にくっつてる部分)の変位などの構造的異常が考えられていますが、決定的な原因は解明されていません。膝蓋骨脱臼の原因は、ほとんどはこちらの先天性のものです。

症状は破行(正常な歩行が出来ない状態)です。ケンケンをする、膝を痛がる、膝を使わないで歩くなどですが、軽症の場合は無症状のこともあります。重症度の判定にはSingletonの分類が代表的な分類法です。

Singletonの分類

グレード1:膝蓋骨は手で押すと脱臼するが、手を離せば正常位にもどる。

グレード2:膝蓋骨は膝を屈曲するか手で押せば脱臼し、膝を伸展するか手で押せば整復される。

グレード3:膝蓋骨は常時脱臼したまま、手で押せば整復、手を離せば再脱臼する。

ゲレード4:膝蓋骨は常時脱臼し、手で押しても整復されない。

内科的な治療は、痛みがあれば非ステロイド系の鎮痛剤(NSAIDs)やレーザー、ホメオパシーなども有効な場合があります。内科的な治療は、グレード1~グレード2の比較的症状が軽い場合に行われます。

グレード2で症状が進んで来てしまった場合、グレード3~グレード4については、外科的な治療が推奨されます。手術は症例に応じて色々な術式を合わせて行いますが、中心になるのは、滑車溝形成術(膝の溝を掘る)、頸骨粗面転移術(お皿の靭帯が頸にくっついている部分をずらす)、内側広筋解放術(内方脱臼の時、大腿部の内側の筋肉を切る)、外側大腿膝蓋靭帯筋膜の縫縮術(内方脱臼の時、大腿骨の外側の筋膜を締める)も考慮します。

また、幼年期にO脚が激しい犬は、屈伸運動(ヒンズースクワット、I-Z運動などとも呼びます)により、膝蓋骨脱臼を予防出来る場合があります。