No.249 オクラシチニブ (アポキルJAK阻害剤)

4年前から日本でも販売されているオクラシチニブ(商品名アポキル)は、アトピー性皮膚炎、その他のアレルギー性皮膚炎(ノミアレルギー、食物アレルギー、疥癬など)の痒み止めとしてとても優秀です。

痒みは、皮膚で起きる炎症と神経系の相互作用によって引き起こされます。抗原が体内に侵入し、皮膚で何らかの炎症が発生すると、ランゲルハンス細胞(見張り役の細胞です)が異常を感知し抗原を取り込み、ヘルパーT細胞に提示します。ヘルパーT細胞にはTh1とTh2があり、通常は主にTh1が司令塔となりB細胞から免疫グロブリンG(IgG抗体)を産生します。これが正常な免疫反応です。しかし、アトピーの場合はTh2が主な司令塔となってしまい、体内での情報伝達物質として働いているサイトカインと呼ばれる物質が産生されます。痒みにおける主要なサイトカインは、IL(インターロイキン)4.5.10.13.31で、とくに犬ではIL-31が重要です。

炎症によって放出されたIL-31ですが、これはまず、知覚神経の細胞膜表面の受容体に結合します。すると、その受容体に存在するヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素が反応し、痒みを伝えるタンパク質が形成されます。このタンパク質形成により、痒み刺激が知覚神経をつたって脊髄、そして脳へ伝わり、「痒み」として認識されます。

痒みを脳が認識すると、つぎに「ひっかく」という行為を引き起こします。このひっかく行為により、皮膚表面が傷つけられ、さらに炎症が起こり、サイトカインが放出され神経に伝わり、さらなる痒みとして認識されるようになります。また、ひっかく行為は皮膚のバリア機能も低下させるため、アレルゲンが体内に入りやすくなり、少しの刺激にも敏感になり、炎症が起きやすい土壌の形成にもつながります。一度炎症が起きて、脳に痒みとして認識されてしまうと、炎症→痒み→ひっかく→炎症…という負の循環が完成してしまいます。

ひっかくことで痛くなり、痒みが治まったような感覚になったことは皆さん経験があると思います。これにも神経が関与しています。痛みと痒みはそれぞれ担当する神経が異なっており、痛みを感じる神経が活性化すると、痒みを伝える神経を抑える神経伝達物質を放出すると考えられているのです。ヒトのアトピー性皮膚炎などでは、この痛み神経による痒み神経の鎮静経路に異常があり、かいてもかいても痒い、という状態になっているのではと推察されています。

オクラシチニブは、IL-31が知覚神経の受容体に結合したのちの、最初のステップであるヤヌスキナーゼ(JAK)の反応を阻害します。JAKを特異的に阻害すれば、IL-31が放出されたとしても、その後のステップが進まず、痒みを脳が認識しづらくなります。そのため、ひっかく行為につながらず、負の循環に陥りづらくなるという仕組みです。このように、ある特定の物質のみに作用する薬は「分子標的薬」と呼ばれています。人では癌の治療薬で最も研究に力の注がれている分野で、獣医領域においても最近ちらほらと薬がでてきました。分子標的薬の良いところは、特定の物質のみを標的としているため、全身に影響を与えることが少ないところにあります。

オクラシチニブは飲み薬ですが、ヒト用の外用のJAK阻害剤(デルゴシチニブ、商品名コレクチム軟膏)も登場しました。


こちらもご参照下さい
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No24 アトピ-2
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