No.362 気管腫瘍 (Tracheal tumor)

気管腫瘍には、腫瘍が気管や気管支壁内に隆起する場合と、気管壁の外の腫瘍が気道内に浸潤する場合があります。気管の外の腫瘤が気道を圧迫するものは気管の腫瘍には含まれません。限局的なものと広範に拡がるものがあります。ヒトの原発性気管腫瘍の発症率は10万人に0.1人で90%は悪性といわれています。犬や猫の気管腫瘍は稀で報告は少ないです。発症率、腫瘍のタイプ、臨床徴候、診断方法、治療、予後などはよく分かっていません。

気管壁内や隣接する組織が腫瘍の発生源となるので様々な腫瘍が認められます。頸部気管に軟骨腫や軟骨肉腫が報告されていてアラスカンマラミュートやシベリアンハスキーで好発傾向があります。若齢犬における気管骨軟骨腫は気管軟骨輪の異形成を示します。その他、良性の気管腫瘍にはオンコサイトーマ(好酸性腺腫)や平滑筋腫が報告されています。ヒトでは気管支炎症性ポリープがよく報告されています。犬でも報告があります。犬の悪性気管腫瘍にはリンパ腫や扁平上皮癌がよく認められ、骨肉腫、肥満細胞腫、漿液粘液性腫瘍の報告もあります。猫では腺癌や扁平上皮癌がときどき認められます。多くの腫瘍は中高齢で発生します

腫瘍の大きさと位置により身体検査所見は異なり、運動不耐性、呼吸困難、ストライダー(喉頭口から胸腔外気道の閉塞で吸気時に聞こえる「グーグー」や「ゼーゼー」などの低調な音)、咳、ギャギング(えずき)、血痰などが、数ヶ月かけて次第に進行します。頸部触診にて触診可能な非対称性腫瘤を触知できることがあります。気管腫瘍は非特異徴候が先行し、発症後期に急に致命的な気道閉塞となります。気管断面が85%以上閉塞すると呼吸困難が生じ始めるので、早期発見と適切な診断処置が大事です。

診断はレントゲン検査で疑った像が見られたら、超音波検査、可能ならCT検査、FNA検査などを行います。しかしすでに重度気道閉塞が認められる場合、診断と切除を含めた処置、もしくは救命的に気管内ステント留置も避けられない状況もあります。

早期発見や良性腫瘍やリンパ腫では、予後は要注意ですが適切な処置で救命可能です。しかし、どのような腫瘍であれ、呼吸困難が重度で発見が遅れた場合は予後不良です。アメリカのペンシルバニア大学の動物病院では、1999~2000年の10年間で気管腫瘍は10例でした。犬4例、猫6例で、うち3例は治療は成功、3例は未治療で安楽死、リンパ腫の1例は外科切除と化学療法で1年以上生存し、その他3例は経過不明でした。

成書では発症は稀といわれてますが、現在、画像診断や気管支鏡の技術が向上し、一方で化学療法や放射線療法などのアジュバント療法(手術の補助療法)の選択肢も現れ、犬でも猫でも気管腫瘍を確定診断し治療する機会は次第に増加しています。


◯の中が気管腫瘍です