No.367 無麻酔歯石取りの危険性

近年、無資格者や一部の獣医師による、麻酔をかけずに行う、犬や猫に対する無麻酔歯石取りによる弊害が多発しています。無麻酔での歯科処置は、アメリカ獣医歯科学会をはじめ国内外複数の団体によって、危険で不適切な行為であると注意喚起されています(日本小動物歯科研究会→無麻酔で歯石をとる?! (sadsj.jp))。獣医師以外による動物の口腔内への施術は法律的にも認められていません。動物の状態を正しく評価せずに、無麻酔で長時間動物を押さえつけて実施する歯科処置は、動物に恐怖や苦痛を与えるだけでなく、十分な歯科処置ができない上に非常に危険です。

歯石除去は、各歯1本1本のきちんとした評価をして、歯周ポケットや歯の裏側まできちんと行うことが重要です。状態によっては抜歯や様々な口腔内の治療も必要となります。歯石は細菌の塊です。動物が処置中にむせて、取った歯石が気道に入ると気管支炎や肺炎を起こすことがあります。菌血症となり心臓や肝臓などのトラブルに発展する場合もあります。一見健康そうに見える歯の歯根や骨にトラブルが起こっている場合はよくあって、臨床獣医師の多くが経験しています。また、歯石や歯周病によって下顎骨が弱っている動物に処置を行って骨折させた例もあります。押さえつけることによる股関節脱臼や膝蓋骨脱臼も報告されています。

安全に適切な歯科処置を行うためには全身麻酔下で処置を行う必要があります。全身麻酔は100%安全とは言い切れませんが、適切な術前検査や麻酔管理によってリスクは限りなく小さくすることができます。動物の年齢や性格、持病の有無などの情報だけでは歯石取りや麻酔のリスクは判断できません、術前検査(血液検査、レントゲン、超音波検査など)によって当日の健康状態や持病の重症度などを詳細に評価することが重要です。持病を持つ高齢動物でも、検査結果に基づいて麻酔薬を選択したり起こり得るリスクを予測し、予め対策・準備するなど適切な麻酔管理を行えば、多くの場合安全な麻酔下での歯科処置が可能です。


猫の下顎骨折のレントゲン写真

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