No.361 ダニによる感染症

春から秋にかけては、キャンプ、ハイキング、屋外のドックランなど、山や草むらで、ペットと活動する機会が多くなる季節です。ヒトも犬や猫もダニに刺されることで感染症を起こすことがあります。 病気を正しく知って、感染症から身を守るために、適切な予防と行動をすることが大切です。

ダニによる感染症は、ウイルスやリケッチア(動物やヒトの細胞内で増殖する細菌)を保有するダニに刺されることにより起こる感染症です。2011年に初めて特定されたウイルス(SFTSウイルス)を保有するマダニに刺されることによって引き起こされる「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」や、リケッチアや細菌などの病原体を保有するマダニに刺されることで感染する「日本紅斑熱」「ライム病」「回帰熱」また、つつが虫に刺されることによって感染する「つつが虫病」などが主な病気です。いずれも、すべてのマダニ、つつが虫が病原体を持っているわけではありませんが、刺されないための注意が必要です。

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)
ダニに刺されてから6日~14日程度で発症する、原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が症状の中心ですが、時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳など)、出血症状(紫斑、下血)など様々な症状を引き起こします。重症化し死亡することもあります。また近年、犬や猫もSFTSウイルスに感染するとヒトと同様に発熱、嘔吐、下痢などの症状が認められることが分かり、SFTSウイルスに感染した犬や猫の唾液等から感染したと思われるヒトのSFTS事例が報告されています。

つつが虫病
マダニではなくマダニよりも少し小さいツツガムシというダニから感染するリケッチアが原因です。つつが虫病は刺されてから10~14日後に、高熱、発疹、刺された部分が赤く腫れ、中心部がかさぶたになることが特徴的な症状です。犬や猫に吸着した場合、痒みや皮膚炎を起こしたりしますが、それほど重症化はしないと考えられています。

日本紅斑熱
日本紅斑熱は、1984年に徳島県で初めて確認された疾患で、関東以西の地域、特に中国、四国地方に多く 見られます。リケッチアの一種である日本紅斑熱リケッチア(Rickettsia japonica)によって引き起こされます。マダニに刺されてから、2~8日後に、紅斑(毛細血管拡張などが原因で皮膚表面に発赤を伴った状態)が高熱とともに四肢や体幹部に拡がっていきます。紅斑は痒くなったり、痛くなったりすることはありません。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もあります。犬や猫に感染して症状をあらわすかどうかは明らかではありません。

ライム病
ライム病はボレリア菌(Borrelia spp.)という細菌によって引き起こされる人獣共通感染症(ズーノーシス)の1つであり、マダニ類が吸血する際に媒介されます。日本では、北海道や長野県で発生が多く報告されています。ダニに刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。症状が進むと病原体が全身性に拡がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られます。犬や猫に症状が見られることはまれですが、急性症状として、元気消失、食欲不振、跛行や起立不能、発熱が見られることがあります。なお、マダニが吸血を開始して17時間以降でボレリア菌が伝播されるといわれています。

マダニ媒介性の回帰熱
回帰熱には、ダニが媒介するものとシラミが媒介するものがあり、ダニ媒介回帰熱はアフリカ大陸、イベリア半島(とくに地中海地域)、中央アジア、中東の一部、インド、中国、アメリカ大陸など非常に広い範囲で分布し、シラミ媒介回帰熱はエチオピア、スーダン、ソマリアなどアフリカ大陸の高地、インド、アンデス山地などで見られます。ダニに刺されてから、12~16 日程度で 発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの風邪のような症状が出現し、時に神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れます。犬や猫、豚なども感染しますが、現在日本での発生はありません。

いずれの疾患も、症状には個人差があり、ダニに刺されたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。見た目だけでの診断は困難です。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もありますので、早めに医療機関に相談しましょう。犬や猫にダニが付着しているのを見つけたら、むやみに取らず、動物病院にご相談下さい。

予防は、現在様々な薬が出ていますが、フロントライン(犬猫)、ネクスガード(犬)、シンパリカトリオ(犬)、ブラベクト(犬猫)などがおすすめです(レボリューションは耳ヒゼンダニには効果がありますが、マダニには効果がありません)。詳しくはお問い合わせ下さい。