No.412 病的な震え(振戦)と痙攣2

 前回の続きです。

脳神経疾患
癲癇や水頭症、脳炎など中枢神経系の疾患により震えや痙攣などの神経症状が見られる事があります。

・癲癇、てんかん
癲癇は、2回以上反復的に起こる痙攣発作をさし、MRIや脳脊髄液の検査などで原因となる異常が認められない場合を特発性癲癇と呼びます。特発性癲癇の原因はわかっていませんが遺伝的な関与が強く疑われています。痙攣発作時以外は正常であることも特徴です。発作のタイプで最も多いのは全身がピーンと伸びて、足や口を細かくガタガタと震わせる強直性痙攣です。その他にも、脳の一部分が興奮することによって起こる焦点性発作(部分発作)というものもあります。焦点性発作では、全身ではなく体の一部分だけが痙攣を起こしたり、流涎、チック(思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声)などが見られる事があります。

・水頭症
水頭症は、脳室と呼ばれるスペースに過剰な脳脊髄が貯留し、脳の実質に異常な圧がかかってしまう病気です。先天性と後天性(二次性)があります。先天性の場合はチワワなどの小型犬に多く見られます。症状は程度によって様々です。ぼーっとしている、元気がない、寝ている時間が多くなるなどの症状が一般的で、進行すると震えや痙攣、歩行障害などが出てきます。

・脳炎
脳炎にはさまざまな原因があり、ジステンパーウイルスによる感染性脳炎や、パグなどの犬種で見られることの多い壊死性脳炎、肉芽腫性髄膜脳炎などが挙げられます。これらの脳炎によって震えや痙攣、運動失調、ふらつきなどの症状が見られる事があります。

・小脳疾患
小脳は四肢の協調運動、姿勢保持、歩行調節、平衡感覚の調節などの中枢を担っています。小脳の機能異常などにより、震えや運動失調、ふらつき、痙攣発作などが生じる事があります。

痛みによるもの
痛みにより震えの症状が見られる事があります。

・椎間板ヘルニア
犬でよく見られる病気のひとつに、椎間板ヘルニアがあります。椎間板ヘルニアは、脊椎の椎骨の間にある椎間板というクッションが飛び出して、脊髄を圧迫し、神経に異常を生じる病気です。症状はグレードによって様々ですが、痛みや違和感、震え、歩きたがらないなどの症状が見られます。神経麻痺の程度が進行すると、ふらついて歩けない、脚を動かせない、排尿障害が見られる事があります。

・膵炎
膵炎は、膵臓自ら作り出す膵液が何らかの原因で活性化することによって、膵臓自体が強い炎症を起こす病気です。膵炎の症状は嘔吐や下痢、脱水、食欲不振、腹部痛などが挙げられます。症状は程度によって様々ですが、重症化するとショックや呼吸困難、凝固障害を引き起こし命に関わることもある怖い病気です。膵炎による腹部痛により、震えや触られるのを嫌がったりするなどの症状が見られることがあります。

筋肉の異常

・筋ジストロフィー
遺伝性の疾患で、筋力低下や筋萎縮、易疲労性が見られる病気です。筋肉の病気なので、震えや運動や歩行能力の低下が見られます。咀嚼や嚥下困難、流涎や開口困難を認めることも多いです。

・筋炎
筋肉に炎症が見られる病気です。骨格筋に対する自己免疫疾患と考えられています。全身の筋肉の虚脱や筋萎縮が生じ、起立時などで震えが見られる事が多いです。

・特発性振戦症候群
全身性に細かな震えを引き起こす病気です。若齢の小型犬に発症が多く、特にミニチュア・ピンシャーが好発します。以前は白い毛の犬に好発すると考えられていましたが(ホワイト・ドッグ・シェイカー・シンドローム)、実際には他の毛色でも発症します。病態はまだわかっていない事が多い病気です。

犬の震えや痙攣の原因は様々です。病気が原因の場合、命に関わることもあります。先述した生理的な震えを引き起こす要因に思い当たることがなかったり、他にも元気・食欲の低下、下痢や嘔吐などの別の症状もあるようでしたら早めの受信がオススメです。

こちらもご参照ください
No411 病的な震え(振戦)と痙攣1
No410 生理的な震え
No258 犬の脳炎
No189 膵炎
No89 癲癇、てんかん
No83 椎間板ヘルニア2
No82 椎間板ヘルニア1