No.460 肺高血圧症 (Pulmonary hypertension:PH)

肺高血圧症(PH)とは肺動脈壁の弾力性低下や硬化を特徴とする進行性の病態であり、肺動脈の血圧が持続的に上昇している状態を指します。これは疾患の名前ではなく病態を表す名称です。小型犬によく起こり、猫などその他の動物では稀です。PHは様々な病気によって引き起こされます。進行してから見つかることが多く、無症状の場合もありますが、安静時の頻呼吸、発咳、運動時に疲れやすいなどが初期症状です。病態が進み重度になると、失神、チアノーゼ、腹水などが生じます。心臓病や慢性的な呼吸器症状のある場合にはPHを合併している可能性があります。進行すると治療が困難なため、早期の発見が大事です。

犬のPHを引き起こす病態は主に3つです。
・肺血流量の増加 (先天性短絡性疾患など)
・肺血管抵抗の増加 (肺疾患、フィラリア症、特発性肺高血圧症など)
・肺静脈圧の増加 (左心不全など)

さらにACVIM(アメリカ獣医内科学会)のガイドラインではPHの原因を以下の6つに分類しています。
1.肺動脈性PH:特発性肺高血圧症、薬剤誘発性、先天性短絡性心疾患(動脈管開存症、心室中隔欠損症など)
2.左心疾患に伴うPH:心筋症、僧帽弁粘液腫様変性(僧帽弁粘液腫様変性の犬の14~31%は肺高血圧症を合併しており心不全犬での合併率は約70%に上ります)
3.呼吸器疾患・低酸素血症に伴うPH:咽喉頭疾患、気管・気管支虚脱、気管支拡張症、肺実質性疾患(肺線維症、好酸球性肺炎、細菌性肺炎、肺腫瘍)
4.血栓性・閉塞性疾患に伴うPH:肺血栓塞栓症
5.寄生虫性疾患に伴うPH:フィラリア症
6.他因子または原因不明の肺高血圧症:甲状腺や上皮小体の異常、肥満、その他

PHの確定診断には心臓カテーテル検査が必要ですが、この検査は全身麻酔が必要です。臨床診断は症状と以下の様な検査を用いて総合的に行います。
症状
初期:無症状、疲れやすい、安静時・運動時の頻呼吸や努力呼吸、発咳
中期:低酸素血症に伴うチアノーゼ、失神
末期:右心不全に伴う肝腫大、腹水
SPO2測定
PHでは低酸素血症が起こるため、血中の酸素濃度が低下し息苦しくなります。この検査では小さなクリップを耳や指先に挟み、動脈中の酸素濃度を測定します。測定値が≧95%だと正常ですが、<95%は異常です。
胸部レントゲン検査
PHの原因となる呼吸器疾患や心不全の有無を評価するために実施します。拡大した肺血管や後大静脈、肝腫大などが認められる場合には肺高血圧症の可能性があります。
超音波検査
PHでは肺動脈圧と共に右心室圧が上昇し、結果として三尖弁逆流が高率に発生します。三尖弁逆流がある場合は逆流速度から収縮期肺動脈圧を推定することでPHの診断が行えます。ヒトでは安静時の平均肺動脈圧が≧25mmHgの時にPHと診断されますが、犬では肺動脈圧が≧45mmHg(三尖弁逆流速度>3.4m/sec)の時にPHと診断します。この基準は初期のものは見逃されるかもしれませんが、治療が必要な状態を検出することができます。さらに進行した場合は右心室内腔の拡大と心室中隔の扁平化、肺動脈の拡大、腹部では腫大した肝臓に加え、肝静脈の拡大が認められます。ガイドラインでは三尖弁逆流速度に加え、以下に示すような所見と合わせて診断することを推奨しています。

治療はPHを引き起こす基礎疾患の治療を優先して行い、加えて肺動脈圧を低下させ症状を緩和させるため肺動脈拡張薬も使用します。予後は基礎疾患によって様々です。肺腫瘍や肺線維症の場合には数週間で亡くなることもあります。左心不全では1年後の生存率は50%以下です。重度になると有効な治療法がないため早期発見が重要です。