No.159 呼吸困難1 (Dyspnea)

一口に呼吸困難といっても様々な呼吸状態があります。ヒトでは「息苦しい」と感じている状態が呼吸困難であり、「呼吸困難感」と表すこともあります。動物が「呼吸困難感」をもっているだろうと我々が予測できるのは、視診において以上な呼吸パターンを認識することからですが、その表現方法には様々な基準が存在し、日本の獣医学では今のところ統一性がありませんが、まずは簡単にご説明します。

呼吸パターンの表現方法
1.呼吸数↑・1回換気量→:多呼吸(Polypnea)、頻呼吸、呼吸促拍、あえぎ(Panting 100breaths/mim前後)
2.呼吸数↑・1回換気量↑:過呼吸(Hyperpnea)、呼吸亢進
3.呼吸数↑・1回換気量↓:浅呼吸(Hypopenea)、浅速呼吸、あえぎ(Panting 200breaths/mim超)
4.呼吸困難:呼吸困難(Dyspenia)、呼吸促拍

動物の呼吸が悪い場合、まずは緊急状態かどうかを見極めます。呼吸状態が悪いと、一般的な身体検査もできないような場合もよくあります。このような時は酸素室に入れて様子を観察し(原因によっては効果がない場合もあります)、状態が落ち着いてから検査・治療を行います。緊急の場合は人工呼吸器につないで、麻酔をかけて検査・治療をする場合もあります。

呼吸困難になる主な病気を挙げてみます。

短頭種気道症候群:チワワ、ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグ、キャバリア、シーズーなどのいわゆる短頭種における、軟口蓋過長、外鼻孔狭窄、気管低形成、気管虚脱などの複合的な呼吸器疾患の総称です。とくに呼気が上手く出来ません。症状は加齢と共に、いびき、睡眠時無呼吸症候群、運動不耐性などがみられ、重症例では、チアノーゼ、陰圧性肺水腫(上部気道閉塞の際に息を吸おうとして、過大な吸気陰圧をかけることで発症する肺水腫)や突然死を引き起こします。

喉頭麻痺:喉頭内筋の神経支配の障害により披裂軟骨や声帯壁の内転・外転が阻害され、とくに吸気時に問題が起こります。一般的に大型犬に発生が多いですが、中型犬、小型犬にもみられます。軽度では無症状、中等度以上では嗄声(しわがれ声)やストライダー(上部気道の閉塞とくに咽喉頭の問題で発生する喘鳴音)が生じます。重度では、陰圧性肺水腫、誤嚥性肺炎などを伴い突然死することもあります。多くは特発性(原因不明)ですが甲状腺機能低下症との関係が指摘されています。治療は軽度では内科的治療ですが重度では『披裂軟骨側方化術』という手術を行います。

次回に続きます。