No.443 認知的不協和理論 (Cognitive dissonance theory)

認知的不協和理論とは「自分が認知していることに2つの矛盾する考えや行動がある場合にストレスを感じる」ことを表した心理学的用語です。例えば、「タバコを吸いたい」という認知と「タバコは身体に悪い」という2つの認知がある場合、「タバコを吸う」欲求と「タバコは吸ってはいけない」という考えに矛盾が生じるためストレスを感じるわけです。

ヒトは、この認知的不協和を解消するために、自分にとって都合が良いように行為を正当化します。この行動を、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー博士は「認知的不協和理論」として提唱しました。

前述したタバコの例でいえば「タバコを吸うのは頭をスッキリさせるため」「タバコを吸っている姿は格好いい」などと考えることで、自分の中で矛盾を解消します。言い方を変えると「つじつま合わせ」や「自己正当化」と言えるかもしれません。

これを病気に置き換えてみましょう。例えば、
「食欲がない」と「病院に行くべき」という認知→「夏で暑いから」と考える
「嘔吐が続く」と「検査を受けるべき」とい認知→「ストレスのせい」と考える
「蚊が出てきた」と「フィラリアの予防をすべき」という認知→「あまり散歩に行かないから大丈夫」と考える

などです。ヒトでも動物でも、認知的不協和が起こると病気の発見を遅らせてしまう場合があります。おかしなことがあれば、あまり様子を見ずに早目の対処をしましょう。


レオン・フェスティンガー博士

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No.229 様子を見る


No.442 卵巣嚢腫

卵巣嚢腫とは、卵巣内に液体が溜まる袋状の病変ができることです。卵胞嚢腫と黄体嚢腫があります。卵胞嚢腫は卵胞が発育して、排卵しないまま卵胞が成長し続けるもので、黄体嚢腫は卵胞嚢腫の卵胞壁が黄体化を起こしたものです。多くの動物で起こりますが、猫やウサギは交尾刺激が無いと卵胞が排卵して黄体が形成されないため、黄体嚢腫の方の発症はほとんどありません。

症状は、卵胞嚢腫ではエストロジェンの作用により発情が持続することが多いです。その影響で、外陰部の腫大や、発情出血などの発情兆候が持続して見られます。エストロジェンの産生が起こらない卵胞嚢腫もあります。その場合は発情兆候が出ませんので発見が遅くなりやすいです。また、黄体嚢腫ではプロジェステロンの分泌により、子宮蓄膿症を併発することがあります。

診断は、腹部超音波検査により卵巣の腫大や嚢胞を確認します。また血中エストロジェン値や、プロジェステロン値を測定することもあります。超音波検査で、卵巣嚢腫と似たような所見がみられる事のある卵巣腫瘍との違いは、病変摘出後の病理検査によって確定診断されます。

治療の第一選択は外科的切除です。手術が選択できない場合は、注射でのホルモン剤投与による排卵誘起処置を行います。ただし成功率は高くないことと、発情毎に再発する可能性が高いです。いずれの治療でも、長時間発情が持続していた場合は外陰部や乳頭の腫大などの症状が完全に消失しないことがあります。予防は不妊手術です。


卵巣嚢腫の超音波画像

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No.331 子宮蓄膿症
No.286 不妊手術(Spay)


No.441 チンチラに多い疾患

チンチラはツンデレで慣れるととても可愛く、昔から人気があるペットです。野性ではアンデス山脈の寒い荒れた岩場で粗食(低木草・根・樹皮~サボテンの根・葉など)で群れで暮らしています。臆病で神経質で好奇心旺盛、耳が良く音に敏感で、高温に弱い動物です。また、長生き(平均寿命10-17年)で、妊娠期間が長く(105-118日)、 抗生物質に弱いのが特徴です。

よくある疾患は、
・胼胝:踵の角質層の増殖、ほとんどのチンチラでみられます
・骨折:ケージの金網に四肢を引っかけて起こることが多いです
・熱中症:理想温度10-20℃、理想湿度<50%です
・ペニス脱:被毛やゴミが絡んで起こります
・ファースリップ:精神的な恐怖から被毛が抜け落ちることがあります
・子宮蓄膿症:尿に血が混じる事から発見されることが多いです
・不正咬合:すべての歯が常生歯のためイネ科の牧草(チモシー)などで摩耗が必要です
・う蝕:虫歯が多いです
・毛球症・胃の鬱滞:被毛の手入れ、ラキサトーンなどでの予防が重要です
・尿路結石:水分摂取が少ないと起こりやすいです
・抗生物質関連腸炎:クロストリジウム菌が増え大腸炎から全身状態が悪化する場合があります
・皮膚糸状菌症:鼻、眼、耳介周囲、あるいは前足に脱毛とフケがみられ、特に鼻の周りによく発症します。砂浴びで蔓延し、ヒトにうつる場合があります。

チンチラはこのような疾患に注意してください。


皮膚糸状菌症のチンチラ


No.440 犬の前庭疾患

前庭疾患とは、様々な原因で平衡感覚を失ってしまう病気全般を指します。動物の身体には、平衡感覚を司る三半規管が両側の内耳に存在します。三半規管が感知した頭の動きや位置が神経を通じて脳幹へ伝えられ平衡感覚が生まれます。片側の三半規管やその信号を受け取る脳幹が機能しないと、世界がグルグルと回ってしまうような感覚に陥り眩暈やふらつきが起こります。

犬の前庭疾患の主な症状は、首を傾けたように頭が斜めになる捻転斜頸、眼球が意思とは関係なく小刻みに揺れる眼振、一方向に円を描くようにぐるぐる回る旋回などの神経症状です。眼球が揺れる方向が縦方向か横方向かなどが病態把握のヒントとなります。100%ではありませんが、水平方向に眼球が動く「水平眼振」の場合は耳の病気が疑われ、垂直方向に動く「垂直眼振」の場合は脳の病気が疑われます。また、嘔吐や食欲不振、元気消失が伴うことも多く、歩くとよろめいて横転し、立っていられない状態になることもしばしばあります。

前庭は、末梢前庭と中枢前庭に分けられます。
・末梢前庭:内耳の三半規管と前庭と前庭神経(内耳神経のひとつ)
・中枢前庭:橋、延髄の一部。小脳の一部(片葉:へんよう)
発症する前庭疾患の多くは末梢性のものです。中枢性前庭疾患は比較的稀ですが経過が悪いです。

原因もそれぞれ末梢と中枢で分けられます。
末梢性前庭疾患の主な原因
・中耳炎、内耳炎
・老犬の特発性前庭疾患
・内耳腫瘍、ポリープ
・外傷
・先天性
・聴毒性のある薬剤、化学物質
・甲状腺機能低下症
など
中枢性前庭疾患の主な原因
・脳炎
・腫瘍
・脳梗塞
・外傷や出血
・薬物(メトロニダゾール中毒など)
・甲状腺機能低下症
など

前庭疾患で起こる症状は他の神経症状が現れる疾患でもよく見られるものもあります。観察や検査により前庭疾患かどうか、またどの部位で異常が起こっているのかを明らかにしていきます。正確な診断のためは病歴と神経学的検査がとても大切です。また、以下のような検査も行います。
・耳鏡検査
・歩行検査
・神経学的検査
・血液検査(とくに甲状腺検査)
・CT検査、MRI検査

治療は、中耳炎・内耳炎や内耳の腫瘍・ポリープは投薬や手術によって治療されることが多いですが、障害が重度な場合には治療をしても機能が完全には回復しないこともありますので早期の積極的な治療が大切です。三半規管に毒性のある薬によって起こった前庭疾患は、障害を受けた三半規管は治りませんが徐々に慣れて症状が改善する事があります。また、同時に聴覚が障害を受けることがあります。特発性前庭障害は原因不明の病気で急激にひどい症状が出ることが多いですが、4~5日後から徐々に改善し始め、数週間で回復することが多い疾患です。脳腫瘍、脳炎、脳梗塞などは原因の病気を治す事が大切ですが、脳幹は手術が非常に難しい部位なため、脳腫瘍の治療は一般的に困難です。メトロニダゾールは下痢などの治療によく使われる抗生物質ですが、長い期間飲んだりたくさん飲んだり肝機能が低下していて十分に代謝できない状態だと中毒を起こすことがあります。通常は4~5日間の入院治療で回復します。甲状腺機能低下症は犬で多く、上記の様に末梢性前疾患でも中枢性前庭疾患でも認められます。眼振の症状を犬で認めたら甲状腺のチェックが必要です。


前庭疾患で捻転斜頸を呈した犬

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No.320 フレンチブルドッグの中耳炎
No.266 ウサギの斜頸
No.258 犬の脳炎
No.77 犬の甲状腺機能低下症 


No.439 フトアゴヒゲトカゲの肺炎

フトアゴヒゲトカゲは、喉を黒くして膨らませる姿がアゴ髭みたいに見えることから、フトアゴヒゲトカゲと名付けられ、フトアゴの愛称で呼ばれています。性格は温厚で昼行性、人に馴れやすく仕草もかわいいので近年ペットとしてとても人気があります。寿命は8-10年で成体は40cm-55cmくらいになります。

飼育環境は
温度:昼間30~38℃ 夜間23~27℃ 体温調節できるように暖かい場所と涼しい場所が必要です。
湿度:60~70%
UVB:1日に12時間程度
温浴:36~40℃のお湯で5~10分程度、3日に1回程度
食事:雑食性で成長に伴い食性が昆虫食メインから野菜メインに変わるので成長に併せて変えていく必要があります。ペレットが使いやすいです。Ca不足に注意しましょう。

フトアゴヒゲトカゲの疾患の中でも、最近は呼吸器疾患で来院するケースが多いです。中でも肺炎が多くみられます。原因はウィルスや細菌の感染です。季節の変わり目に発症する場合が多いです。

症状は吐きそうな動きをすること(実際は何も吐きません)、喉を鳴らす、口をくちゃくちゃする、大きなため息をつくなどです。一般に爬虫類は通常鼻呼吸をしますが、開口呼吸に変わったら呼吸がかなり辛い状態です。

治療は飼育環境の整備、抗生剤、点滴、状態によっては酸素吸入、当院では代替治療も行います。食欲が落ちていたり、他の症状も伴っているようなら入院治療が推奨されます。いずれにしても早期の診断と治療介入が必要です。

フタアゴヒゲトカゲの肺炎のレントゲン写真

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No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)


No.438 冷房病と熱中症

動物もヒトと同じように、冷房に当たり続ける、体が冷え過ぎる、冷え過ぎた部屋から外に出ることなどを繰り返すことで自律神経が乱れ、元気がない、食欲不振、嘔吐、下痢、咳、鼻水など全身の不調を起こすこと、いわゆる冷房病にかかることがあります。

しかし、冷房病を恐れて室温の高い部屋で過ごさせると、熱中症を起こす可能性が高まります。動物は全身毛に覆われていること、汗があまりかけないこと、お散歩では地面からの温度の影響を受けやすいことなどから熱中症になりやすく、また、冷房病よりも熱中症の方が重症化するリスクが高いです。過剰にお部屋を冷やす必要はありませんが、まずは熱中症にならない様にしましょう。

飼育環境のコントロールが難しい季節ですが、動物の体温調節の機能は、品種や年齢、持病などによって個体差があるので、暑がりの動物もいれば寒がりの動物もいます。寒がりだと冷房の効いた部屋でお腹が冷えやすくなったりしますが、真夏に冷房のない部屋で過ごすと、今度は熱中症や夏バテを起こしやすくなります。犬や猫なら、洋服を着せたり、ブランケットや毛布などをお部屋の中に用意しておくなどの工夫も良いです。

よくあるトラブルは、お家の中に冷房が効いたお部屋があるのに、暑い部屋に行ってしまうので、寒過ぎたんだとヒトが判断してしまい、そのまま熱中症になってしまうケースです。動物は暑いから涼しい部屋に行こうと思わない場合があります。あくまで個体差があり目安ですが、以下の快適な温度と湿度をご参考にしていただいて、動物もヒトも事故の無いように夏を乗り切ってください。

夏場に推奨される室温と湿度の目安
犬:室温20~24℃、湿度40~60%
猫:室温20~25℃、湿度40~60%
フェレット:室温15~24℃、湿度40~60%
ウサギ:室温16~22℃、湿度30~60%
チンチラ:温度15~20℃、湿度30~40%
モルモット:室温18~24℃、湿度50~60%
ハムスター:室温20~26℃、湿度40~60%
セキセイインコ・オカメインコ:室温20~28℃、湿度40~60%
文鳥:室温25~28℃、湿度50~60%
ヒト:室温25~28℃、湿度50~60%


熱中症のチンチラ 一番高温に弱い動物はチンチラです

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No.124 夏に気をつけたいこと
No.54 動物が快適な気温・湿度
No.85 涼しくしてあげてください
No.73 夏のトラブル
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No.437 肛門嚢アポクリン腺癌 (AGACA)

肛門嚢アポクリン腺癌(AGACA)は、肛門嚢にできる腫瘍で、発生率は犬の皮膚腫瘍全体の約2%で、猫では極めて稀です。性差はないといわれています。局所浸潤性が強く、転移しやすい性質を持ち、一般的な転移部位は局所リンパ節(腰下リンパ節群)です。時に非常に小さな肛門嚢の腫瘍が、非常に巨大な転移巣を形成することもあります。また、症例の約25~51%で腫瘍に起因する高カルシウム血症がみられることがあります(腫瘍から上皮小体ホルモン関連タンパクが放出されることによります)。症状は肛門周囲の腫大(特に4時と8時の位置)、腫大したリンパ節に大腸が圧迫されることによるしぶり、便秘、便の形状変化(通常、平らになるかリボンのような形になります)、多飲多尿(高カルシウム血症による)、食欲不振、後肢の虚弱や跛行などがみられます。

診断は、肛門周囲の視診や触診、直腸検査などにより腫瘤を発見することでできますが、中には小さすぎて発見できず、リンパ節の転移病巣や高カルシウム血症で気付かれることもあります。臨床所見と細針吸引(FNA)で、ある程度AGACAであることは予想できますが、確定診断は切除後の病理組織学的検査になります。

治療は外科的治療が推奨されます。腰下リンパ節群に転移があっても手術適応となります。高カルシウム血症が存在する場合には、術前に生理食塩水による積極的な輸液や利尿剤の投与を実施し、腎臓からのカルシウムの排泄を増加させ状態を安定化させます。腰下リンパ節群への転移があり高カルシウム血症あるいはしぶりや便秘がある場合には、肛門嚢の腫瘤とともに可能な限り腰下リンパ節群の切除を実施します。それにより、高カルシウム血症の改善や排便困難の症状の緩和が得られます。手術に伴う合併症は、出血、感染、便失禁、低カルシウム血症、肛門周囲瘻孔の形成などがありますが、腰下リンパ節群は血管が入り組んだ領域に存在するため、切除は比較的難易度が高く、致死的な出血の報告もあります。

確定診断が付いた場合、可能であれば、会陰部および骨盤領域への外部放射線照射が推奨されています。また、手術不可能あるいは再発症例などにも症状を緩和する目的で放射線治療が利用されることもあります。放射線照射に伴う合併症には、急性障害として、大腸炎、放射性皮膚障害、膀胱炎、尿道炎です。晩発障害としては、慢性大腸炎、腸穿孔、胃腸管の狭窄、膀胱の線維化、骨壊死などがあります。放射線治療を実施できる施設は限られるため、様々な理由から実施できないこともあります。AGACAの犬の転移率は高いため、術後、カルボプラチンやアドリアマイシンなどの補助的化学療法の実施が推奨されます。化学療法単独では生存期間が短いため、外科手術との併用で実施されます。

クリックすると摘出した肛門嚢アポクリン腺癌の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
摘出した肛門嚢アポクリン腺癌


No.436 胸腺腫

胸腺腫は犬猫では比較的稀ですが、「前縦隔」と呼ばれる部位に出来る腫瘍では最も発生が多い腫瘍です。通常は被膜で覆われており良性ですが、周囲の臓器へ浸潤を示すことがあります。こちらは浸潤性の胸腺腫で悪性腫瘍です。良性の胸腺腫でも非常に稀に遠隔転移を認めることがあります。どの年齢でも発生しますが、中高齢(平均約10歳)での発生が一般的です。発生原因は不明です。

胸部レントゲン検査にて前縦隔部分に腫瘤状の陰影を認めた場合、本当に胸腺腫なのかどうかが重要です。前縦隔に発生する腫瘍は胸腺腫以外にもあります。他の前縦隔の腫瘤で多いのはリンパ腫、稀ではありますが、異所性甲状腺癌、鰓性嚢胞、ケモデクトーマ、異所性上皮小体癌、胸腺癌などがあります。確定診断には、FNA検査(針生検)や、はっきりしなければ組織検査が必要です。

症状は、無症状から重度な呼吸困難まで様々です。胸腺腫が大きくなり周囲の臓器を圧迫すると、元気消失、発咳、吐出、頻呼吸、呼吸困難を呈します。また、胸水が貯留しだすと、重度の呼吸困難などで致命的になることがあります。また、稀に前大静脈症候群が起こることがあります。これは腫瘍により前大静脈が圧迫され、頭頚部や前肢の静脈が鬱血して浮腫みが出ます。

また、胸腺腫では腫瘍随伴症候群(腫瘍がホルモンなどを過剰に産生したり、正常にはない物質を作ったりすることで体に悪さをする病態)の発生が一般的であり犬での発生は約67%です。腫瘍随伴症候群には、重症筋無力症(GM)、剥奪性皮膚炎、高カルシウム血症、リンパ球増加症、貧血、多発性筋炎があります。特にGMは胸腺腫の犬の40%で起こります。猫でも起こることが知られています。重症筋無力症により巨大食道が起こると、誤嚥性肺炎が約40%で併発します。腫瘍随伴症候群はいつ発生するか分からず、診断前、診断後、時には胸腺腫の切除後に起こる場合もあるので注意深い経過観察が必要です。

胸腺腫の治療は、外科手術、放射線療法、化学療法がありますが、一般的に、切除可能な場合の第一選択は外科切除です。手術によって切除可能なのかどうかの評価にはCT検査が必須です。CT検査により、前縦隔周囲の重要な血管や臓器との関連性がある程度把握できます。外科治療がこの3つの治療法の中で唯一の根治的な治療法です。但し、麻酔をかけることが出来ないほど呼吸状態や全身状態が悪化している場合は、化学療法を組み合わせます。化学療法により腫瘍をある程度縮小させる、または腫瘍随伴症候群の症状を改善させてから手術を実施します。放射線療法の反応率(完全に消失または部分的に縮小する率)は75%です。化学療法に関しては、胸腺腫の犬に対して高用量のプレドニゾロンの投与で長期間の効果があったという報告はありますが、単独治療でのまとまった報告はなく効果はよく分かっていません。一般に化学療法単独で完全に腫瘍が消失することは稀であり一時的に縮小しても再増殖の危険性があります。

通常の胸腺腫は良性の腫瘍であり転移することは一般的にはありません。しかし、放置して巨大になる、または腫瘍随伴症候群が起こると命を脅かす腫瘍です。早期発見が重要です。中年齢(7歳以上)を超えるくらいから、年に1~2回の健康診断を心がけるようにしましょう。


緑の丸内が胸腺腫


No.435 閉塞性黄疸

胆道の物理的な閉塞に伴って、抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)を胆管や腸管に排出できずに黄疸が生じる場合で、腹部超音波にて肝内外胆管拡張や胆嚢粘液嚢腫を確認することが診断の糸口となり、肝内胆汁鬱滞型との鑑別点となります。胆道系の閉塞性黄疸の場合、右季肋部痛、発熱などの症状を伴う場合があります。

閉塞性黄疸は高度の黄疸を呈してから受診するケースが少なくありません。確定診断はCT、MRI、などに委ねられる場合があります。便は腸に入ったビリルビンが腸内細菌の働きでウロビリノーゲン、さらにステルコビリンとなるシステムが働かず、ステルコビリンが減るため灰白色(粘土色)となる場合があります。動物では以下の様な場合に閉塞性黄疸が起こります。

・胆管結石
・胆嚢粘液嚢腫
・胆管炎(好中球性、リンパ球性)
・膵炎
・悪性腫瘍:胆管癌、胆嚢癌、膵癌など
・敗血症
・血球貪食症候群
・移植後拒絶(Graft versus host disease )


胆嚢粘液嚢腫のエコー所見

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No.434 肝内胆汁鬱滞性黄疸
No.433 肝細胞性黄疸
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No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.434 肝内胆汁鬱滞性黄疸

肝内胆汁鬱滞は、抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)を上手く胆汁に混ぜらず、胆汁排泄障害が起こっている状態です。

多くは肝内細胆管が炎症などで障害される事によって生じ、総ビリルビン Total bilirubin;T-bil (実際にはD-bil )の上昇に加え、通常、胆道系酵素である ALPやGGT の上昇が見られます。急性の場合は中毒が多く薬物の誤飲の確認が必要です。また、各種の肝疾患や特定の薬剤から慢性に経過して生じる場合もあります。ヒトでは各種の遺伝病が報告されています。診断のために、肝FNA検査や肝生検が必要な場合も多くあります。以下のような疾患でよくみられます。

・肝リンパ腫
・肝内胆管炎・胆管肝炎(好中球性、リンパ球性)
・薬剤性(exp 猫へのセルシン投与での劇症肝炎)
・妊娠性(動物では稀)

とくに、胆管炎・胆管肝炎で、好中球性とリンパ球性を鑑別するのは治療にとても重要です。


肝リンパ腫の細胞

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