No.397 犬の股関節形成不全 (Canine Hip Dysplasia:CHD)

股関節形成不全(Canine Hip Dysplasia:CHD)は、主に大型犬種または超大型犬種に発生する整形外科学的疾患です。小型犬種および猫にも発症します。生まれた時は正常な股関節に徐々に緩みが生じ、股関節が変形し異常に成長してしまう疾患です。アメリカなどでは素因のある固体の繁殖を禁止してかなり減っている疾患ですが、日本ではまだまだ多くみられます。

股関節形成不全に関連した症状の発症する時期には2つの型があります。1つは若齢期に発症する型です。様々な程度の緩みが股関節に生じ、その緩みが股関節の支持組織(関節包、滑膜、大腿骨頭靭帯)の炎症の原因となり疼痛を示すこととなります。もう1つの型は中齢から高齢にかけて発症する型です。こちらは若齢期発現型とは異なり、股関節の緩みはないことが多く、関節構造の形成異常が認められる状態となります。関節の構造異常(不整合性、不安定性)に関連して骨関節炎 (Osteoarthritis: OA) が発症し進行し、関節軟骨の損傷、そして関節の可動域の減少が認められるようになります。

この疾患の特徴的な症状は後肢のふらつきです。両側後肢で同時に地面を蹴るように走行し、この走行形態をウサギ跳び様走行と呼んでいます。飼主様が気付かれるのは下記の様な症状です。また、多くの場合、症状が少しずつ進行していると感じているようです。

・散歩を嫌がるようになった
・散歩の途中に座りたがる
・寝ている状態から起き上がってからすぐの歩様がおかしい。
・長距離を歩けない。
・段差をいやがる
・車に飛び乗らなくなった

これらの症状は他の整形外科学的疾患(膝関節疾患、前十字靭帯断裂)や神経学的疾患(脊髄疾患、馬尾症候群)および後肢や骨盤領域の腫瘍性疾患などにおいても同様に認められる場合があるので鑑別する必要があります。

診断は、犬種、症状、触診、レントゲン検査などで行います。レントゲン検査は麻酔下で行うことが必要です。場合によってはCT検査が必要なことのあります。

治療は、内科的治療法と外科的治療法があります。どちらの治療法を選択したとしても、体重制限、運動制限、そして滑りやすい場所にマットを敷くなどの環境要因の整備を含めた保存療法が必須となります。

内科的治療法:薬剤や半導体レーザー、代替医療などを用い、疼痛を軽減することを目的として行います。股関節形成不全の主要な原因と考えられる股関節の緩みを矯正せず、障害された関節を回復させないため根本的な治療とはなりません。関節疾患の多くに言えることですが、内科的治療により疼痛を軽減させることは可能であり、管理が上手くいった場合には治療を必要としなくなることもあります。しかし異常な関節構造を正常に戻している訳ではないため完全に回復することはありません。

外科的治療法:現在、障害された関節を人工器具に置換する股関節全置換術 (Total hip replacement; THR) または障害された関節を切除する大腿骨頭・骨頚切除術 (Femoral head and neck osteotomy; FHO)があります。後者は当院で可能ですが、前者は専門医の手術が必要です。

一般的に、中齢から高齢で発症し体重の軽い個体の場合は、内科的療法で上手く行く場合が多いです。若齢で発症した場合や中型~大型犬や肥満の場合は、外科的な対応が必要となります。


両側の股関節形成不全

こちらもご参照下さい
No200 半導体レーザー
No103 前十字靱帯断裂2
No102 前十字靱帯断裂1
No31 膝蓋骨脱臼


No.396 ユリ科の野菜の誤食

玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどのユリ科の野菜を犬や猫に与えてはいけないのは、有機チオ硫酸化物という中毒成分が含まれているからです。この物質は、犬や猫の赤血球の中と膜に影響を与えて赤血球を壊し、溶血性貧血を起こします。ヒトは有機チオ硫酸化物を消化する酵素を持っているのでよほど過剰に摂取しない限り中毒にはなりません。

1.赤血球の中:有機チオ硫酸化物は、赤血球の中のヘモグロビンを酸化させてハインツ小体という物質を赤血球の中に作り、これが脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージという掃除屋さんに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、ハインツ小体だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。
2.赤血球の膜:有機チオ硫酸化物が赤血球の膜のタンパク質を酸化し、Eccentrocyteという凹んだ形の赤血球となり、やはり、脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、凹んだ形の部分だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。

溶血性貧血とは、血液中の赤血球が破壊されることで全身に酸素が行きわたらなくなり、酸欠状態になってしまうことです。そして、最悪の場合には破壊された赤血球からカリウムが流れ出し、高カリウム血症になって死に至ります。有機チオ硫酸化物は加熱しても効果を失わないため、加熱した食材だからといって安心はできません。また、液体にも溶け出る性質があるので、スープやお味噌汁なども要注意です。

ユリ科の野菜の中毒量はとても個体差が大きいため定められていません。個体によってはごく少量でも中毒症状を起こしてしまう場合があります。また、一般的に中毒が出る量は体重と比例するため、体重が軽い小型犬や猫の場合、大型犬よりも注意が必要です。少量なら症状が出ないこともあります。

中毒症状が出ると、貧血によって元気がなくなったりふらついたりします。貧血は数日間続くこともあります。溶血したヘモグロビンが赤い血色素尿として排出される場合もあります。また、嘔吐や下痢が起こることもあります。これらの症状は食べた後すぐに起こるとは限りません。数時間後~数日後に始まることもあります。無症状でも3~4日間は注意が必要です。食べてすぐの症状では、玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどに対するアレルギー症状が起こっていることもあります。急性の嘔吐・下痢、痒がる、発疹などの症状が出た場合にはアレルギーも疑います。

犬や猫がユリ科の野菜を食べてしまった場合は、なるべく早く病院に連れて行ってください。口の中に残っている分を取り出しガーゼなどの布を水で濡らして、歯や口腔内を拭いて少しでも有機チオ硫酸化物のエキスを取り除くと応急処置になります。

治療は、誤食してから1時間以内であれば吐かせる処置を行います。催吐剤を使う場合と内視鏡で胃洗浄を行う方法があります。また、血液検査を行って溶血が起こっているかどうかも検査します。溶血が起こっていた場合は、抗酸化剤やステロイド剤を投与し赤血球の破壊を止める治療を行います。また、ビタミン剤、強心剤、利尿剤などを投与して対症療法を行う場合もあります。それでも溶血が止まらない場合は輸血が必要になる場合があります。特効薬はありません。


らっきょう、アスパラガス、百合根もユリ科です


No.395 犬の低血糖

低血糖とは、血液中のブドウ糖の量を表す血糖値が極度に低下した状態のことです。低血糖になると、ぐったりしたり元気がなくなるといった活動性が下がる症状が現れます。散歩に連れ出そうとしてもあまり喜ばなくなります。さらに重度になると、後肢の麻痺や痙攣発作、嘔吐、失禁、震え、下痢などが起こる場合もあります。脈拍が早くなったり体温が低くなることもあります。

低血糖の原因は犬の年齢や犬種によっても異なります。また年齢に関係なく、キシリトールを摂取することで低血糖になることがあります。キシリトールは低カロリーの甘味料です。ヒトの糖尿病患者さんなどに利用されますが、犬には危険なので与えないようにしてください。

子犬の場合
生後3-4ヶ月程度の子犬が低血糖になる例がたびたび見られます。特にチワワやトイプードルなど小型犬の子犬に多いです。子犬は肝臓の糖を貯蔵する機能が不十分であることが原因です。空腹や体の冷えなどによって生じやすいので、食事を小分けにして与えたり、室温に注意するなどの方法で予防します。まれに重度の感染症、先天性の肝臓の病気が原因となる場合もあります。

成犬の場合
成犬の低血糖症はゴールデンレトリバーや5歳以上の中~大型犬に多く見られます。原因は、副腎皮質機能低下症によるホルモンバランスの崩れ、肝臓または膵臓の腫瘍などです。具体的な原因を突き止めることが重要です。

老犬の場合
老犬でも、低血糖の症状が現れることがしばしば見られます。元気がない、散歩の時に腰がふらつくなどを老化現象だと判断してしまいがちですが、低血糖症の可能性もあります。成犬の場合と同様にインスリノーマなどの膵臓の腫瘍や副腎の異常を考えます。

疾患を持っている場合
糖尿病の治療中でインスリン投与を行っている場合は、過剰なインスリンによって低血糖症になることがあります。その場合、インスリンの量が適切ではないのでインスリンの量を検討します。

応急処置
低血糖の発作が起きた場合、そのままにしておくと死亡する可能性もあります。直ちに応急処置が必要です。応急処置はガムシロップ、砂糖水、ブドウ糖といった糖分を与えることです。砂糖水の作り方は砂糖と水の割合を1:4で混ぜるだけです。無理に飲ませようとすると、気管に入るかもしれないので、注意しながら少量ずつ与えます。けいれん発作が起きているときは、歯茎にこすりつけるようにしてください。症状が落ち着いたらなるべく早く動物病院へお連れください。


No.394 猫ヘルペスウイルス感染症 (Feline Herpesvirus Infection)

猫ヘルペスウイルス感染症は、猫ヘルペスウイルス(Feline herpesvirus-1; FeHV-1)によって引き起こされる感染症の総称で、鼻炎と結膜炎などの上部気道炎が主な症状で、猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)とも呼ばれています。感染猫の口腔・鼻腔・結膜からの分泌物にウイルスが大量に含まれており、それを同居の猫などが口・鼻・眼の粘膜より取り込むこんで感染が成立します。感染したウイルスは鼻腔粘膜上皮で増殖後、結膜、咽頭、気管、気管支、細気管支に広がり発症し、その結果として粘膜表面の糜爛、潰瘍が起こり、結膜炎や鼻炎となります。稀ですが樹枝状角膜潰瘍という特徴的な角膜の症状が出る場合もあります。

典型的な症状は、発熱、沈鬱、食欲不振、結膜の充血、鼻汁、そして稀に流涎や発咳です。細菌などの二次感染が起こると分泌物は膿性となります。感受性の高い子猫では肺炎やウイルス血症を引き起こし、一般症状が悪化して時に死に至る場合もあります。口腔や皮膚の潰瘍、皮膚炎、神経症状、流産が認められることもあります。角膜の浮腫、血管新生、炎症細胞の浸潤、時に失明を伴う角膜実質炎と慢性の副鼻腔炎 は、FeHV-1感染により誘導された免疫介在性の疾患です。それ以外にも、好酸球性角膜炎、ブドウ膜炎などもFeHV-1によるものと考えられています。他の呼吸器病原体である、猫カリシウイルス、猫クラミジア、ボルデテラ菌、マイコプラズマなどと重感染を引き起こし重症化します。

猫以外にも、ライオンやチーターなどのほとんどの猫科動物が感染します。ワクチン未接種の飼育猫で高い抗体陽性率を有していることから、ほぼすべての飼育猫が感染する機会があります。急性症状から回復しても、ウイルスが神経節(主に三叉神経節)に潜伏感染し、生涯にわたりウイルスを保持することになります。その場合、ストレスや副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制剤の使用により、ウイルスは再活性化し、症状の再発や他への感染源となる場合があります。胎盤感染はありませんが、出産・泌乳がストレスとなりウイルスが再活性化し、その結果として新生児が感染します。新生子猫は移行抗体により防御されますが、この防御は抗体量に依存し、移行抗体(母親から初乳によってもらう免疫)が多い場合は発症を免れますが、少ない場合は発症します。多頭飼育がFeHV-1感染の重要なリスクファクターとなっており、シェルターや繁殖施設、猫カフェなどでの飼育はハイリスクとなります。

診断は通常症状やワクチン履歴から行い、状況に応じて、ウイルス抗原あるいは核酸の検出と抗体を検出する血清学的診断法や、迅速診断が必要な現場ではPCRによるウイルス核酸の検出を行います。

治療の基本は対症療法で、食欲不振、脱水などが認められれば点滴や強制給餌を行います。近年では少し高価ですがファムシクロビルという抗ヘルペス薬も使用します。二次感染予防のために、広域スペクトラムの抗生物質の投与も有効です。予防はワクチンですが、しっかりとしたプランで接種しないと効果がありません(とくに初年度が大切です)。また、免疫力の弱い個体では接種しても効果が出ない場合もあります。生活環境やストレスへの対策も必要です。


猫ヘルペスウイルス感染症の猫の結膜炎


No.393 咳の分類

咳は気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に出そうとする生体防御反応です。過剰な咳は動物のQOL(Quality of life;生活の質)を低下させます。咳が続く場合は、まず、1.持続期間、2.種類、3.原因部位を考えていきます。

1.持続期間
・~2週間
:発咳が始まって2週間くらいの場合の急性の咳の原因はボルデテラなどの感染症の場合が多く、同居動物の状態、ホテルやドッグランなどでの他の動物との接触、発熱や炎症マーカーの上昇などから判断します。
・2週間~2ヶ月:2週間から2ヶ月よくならない咳の原因は、免疫疾患やホルモン疾患(クッシング病など)、ステロイド剤や鎮咳剤による気道クリアランスの低下が考えられ、感染症の可能性は低くなります。
・2ヶ月~:感染症以外の原因を考えます。感染症の場合は耐性菌の出現や2次感染を考慮します。

2.種類
・湿性の咳:気道内分泌物(痰)が増加する疾患。慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支肺炎、誤嚥性肺炎、猫の気管支炎、喘息など。鎮咳剤は禁忌です。
・乾性の咳:喀痰を伴わず機械的刺激が関与する疾患。喉頭炎、心拡大による気管支軟化症、左主気管支の菅外性圧迫、腫瘍など。

3.原因部位

呼吸器の3区分

・咳のタイミング
上気道性(喉頭性);摂食・飲水時、吠えた時、興奮時、寝起き時
中枢気道性;動作・散歩時、興奮時
末梢気道性;安静時、睡眠時、寝起き時
・咳のタイプ
咳反射;深い吸気が先行する咳→末梢性
呼気反射;深い吸気が先行しない咳→ 喉頭性、中枢性
・Terminal retch(おじさんのえずきのような症状)の有無:
必発→喉頭性、末梢性
必発ではない→中枢性
・咳時の様子
立ち止まる→喉頭性、末梢性
動き回っている→中枢性
・咳の持続時間
単発性→喉頭性
持続性→中枢性、末梢性
1回の咳の時間
短い→喉頭性、中枢性
長い→末梢性

喉頭性:主に上気道の疾患
摂食・飲水時、吠えた時、興奮時、寝起き時
咳時は立ち止まる
単発性で短く強い
Terminal retchを伴う
中枢性:主に気管・気管支(気道内径2mm以上)の疾患
動作・散歩時、興奮時
動き回りながらの咳
持続性
Terminal retchは必発ではない
末梢性:主に末梢気道(気道内径2mm以下)、肺実質の疾患
安静時、睡眠時、寝起き時、散歩時には少ない
咳時は立ち止まる
持続性の長い咳、高調
Terminal retchを伴う


No.392 鼻腔狭窄

鼻腔狭窄

鼻腔狭窄とは生まれつき鼻の穴が狭い状態のことを言います。見た目ですぐに分かります。鼻が狭くて症状が重いと鼻呼吸をする際にブーブーと音が鳴ります。症状が軽くても運動時や興奮した際に音が出る場合もあります。

鼻腔狭窄を起こしやすい犬種は短頭種と呼ばれるブルドッグやフレンチブルドッグ、パグ、シーズーなどのいわゆるマズル(鼻)が短い犬たちです。短頭種では短頭種気道症候群(BAS)と呼ばれる、鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、喉頭小嚢反転、気管虚脱などを引き起こすことがあります。スコティシュフォールドやマンチカンなどの猫の短頭種でも起こります。

鼻の穴が狭いと呼吸をするときに息を吸う強さが強くなります。常に強い力で息を吸う状態が続いてしまうと気道の圧力が上がり、喉頭虚脱や気管虚脱の原因となります。さらにその状態が継続すると喉頭虚脱や気管虚脱のグレードが進行し、呼吸困難や体温調節がうまくできずに高体温や失神の原因になり、悪化すると命に関わる状態になります。

根本的解決には外科治療で鼻の穴を広げる外鼻腔拡張術を行います。これは鼻の穴の狭い部分を切り取って鼻の穴を広げる手術です。術後は鼻の通り道が広がり、鼻呼吸がとても楽になります。今までブーブー聞こえていた呼吸音がなくなってスースー通るようになります。

また、鼻腔狭窄を患った子の多くは軟口蓋過長症を持っている場合があり、ガーガーを巻き込まれるような呼吸音も伴っている場合が多く、この病気も気管内圧を上昇させる一因となります。

鼻腔狭窄を患った1歳未満の犬に外鼻孔拡張と軟口蓋切除を行った場合の短頭種気道症候群の改善率は96%の一方で、より高齢で手術を行った場合の改善率は69%です。また、病態が進行した場合の短頭種の麻酔はハイリスクとなりますのでメリットとデメリットを検討し、総合的に判断します。気管が変形する前に予防的に手術をすることもポイントとなります。


鼻腔狭窄のパグ

こちらもご参照下さい
No101気管虚脱と軟口蓋過長症2
No100気管虚脱と軟口蓋過長症1


No.391 腸重積

腸重積は腸管の一部が腸管の中に入り込んでしまい抜けなくなる状態をいいます。腸閉塞を併発するため、緊急対応が必要な重篤な疾患のひとつです。猫よりも犬で多くみられ、とくに1歳未満の幼犬に起こりやすいといわれています。また、回腸と盲腸で起こりやすいといわれています。ひも状の異物により物理的に重責を起こしている場合もあれば、消化管内の寄生虫やその他の原因により、慢性的な腸炎を引き起こしているような場合に多いとされています。とくに成体では腫瘍などが引き金になっている場合もあります。特定の原因が見つからないこともあります。

症状は下痢、嘔吐、食欲不振などですが、腸重積を起こした犬や猫はあまり治療に反応しない、もしくは一度よくなってもすぐに再発します。体調に波があることも多いです。典型的な症状の場合、腹部を入念に触診すると腸の一部が固くなっているような場所を見つけることができるのですが、腹部の疼痛により腹圧が上昇し、あまりうまく触知できないこともあります。レントゲン検査、超音波検査が有用ですが、腹腔内の腫瘍と鑑別が困難な場合も多くあります。結局のところ、多くの場合では犬や猫の年齢、病状などから仮診断を付け、後付けで検査や治療を行っていくことがほとんどです。

基本的には外科手術が唯一の治療法になります。腸重積を起こしている腸の箇所は、重積部を解除したときにあまり損傷がないように見えたとしても、高い確率で再陥入をおこすため、重積が見られている腸を切除し、正常な腸同士を吻合する必要があります。症状が出てから時間が経っている場合、腸の壊死が起こります。このような腸は取り除かないといけないので、腸管を大きく取らなければならない場合もあります。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
猫の大腸の腸重積


No.390 カメの冬眠

温帯域に棲息するカメは寒くなると冬眠します。カメが冬眠をすると言うのは、自然界では当然のことであり、カメが寒さに対応する対策として本能的に行うものです。しかし、飼育下で冬眠させるのは簡単ではありません。健康に飼育するためには必ずしも冬眠が必要なわけではなく、一年中暖かな環境をつくることにより快適な生活をさせることが可能です。ただし繁殖を目的とした場合は冬眠が必要となります。また熱帯産のカメは冬眠できません。本州に棲息する野生のクサガメ、イシガメ、帰化したミシシッピーアカミミガメは通常11月頃から冬眠に入り、翌年3月中旬頃に冬眠から覚めます。これらのヌマガメは水温が20℃以下になると食事をやめ、水温の低下に伴い冬眠の準備のため池や川の水底にある泥や落ち葉の中にもぐるようになりますが、かなり冷えるまではときどき水面に出て呼吸します。水温が15℃以下になると完全な冬眠に入り、潜ったままでてくることはなくなります。この間の呼吸は咽頭の粘膜や総排泄腔内の毛細血管、皮膚呼吸によって賄っています。

冬眠のさせかた
冬眠に先立って、夏場に十分な栄養を与えることが重要で、栄養状態の悪いカメや小さなカメは冬眠を見合わせたほうがよいです。水槽で冬眠させる場合、深さが30cm以上のものを用意します。平均気温が20℃ぐらいに下がってからは食餌は与えず、水底に落ち葉や泥を15cm以上入れます。水底に潜っている時間が長くなってきたらできるだけ涼しく静かな場所に水槽を置きます。暖房等の影響を受け中途半端に温度の上がる場所は、完全な冬眠に入れずカメの体力を消耗させてしまいます。水深はカメの様子をみながらできるだけ深くしていった方が水温が安定しやすいです。冬季は水温が15℃以下で、凍ってしまわないような管理が必要です。冬眠から覚め、カメが動き出したら通常の水槽に戻しますが、すぐには食餌をせず、水温が上昇していき25℃に近づくと食べ始めます。衰弱しているようであれば自然に温度が上がるのを待つより、ヒーター等で温度管理した水槽に早めに移すほうが安全です。屋外の池で飼育している場合は、底に泥や落ち葉があれば寒くなると自然に冬眠します。水深40cm以下の浅い池や、水が凍るほど寒い地方では冬眠させないほうが安全です。

基本的には飼育下でのカメの冬眠はオススメしません。飼育環境を25℃以上、水中の温度は20℃以上の環境を継続して作って下さい。また、バスキングライトなどで、ホットスポットと呼ばれるカメの日光浴の代わりになる場所を必ず用意しましょう。気温差があると、中途半端に冬眠してしまう可能性があるため、冬眠しないように暖かく保つようにします。


No.389 カメの飼育

カメ目の自然界での生活様式は種により多様化していて、飼育管理法も大きく異なります。一般に飼育されることの多い種を生活環境によって以下の4つのグループに分けてみます。この4つのグループ以外にウミガメもありますが、水族館以外での飼育は困難なため割愛します。また、カメの飼育に重要な照明と食事についてもご説明します。

水棲ガメ(ミシシッピアカミミガメ等)
生活場所のほとんどを池や川、湖などの淡水域とするもので、通常鋭い爪とみずかきのある四肢を持ち水陸いずれにも対応できるものが多いです。小学校で飼育されることの多いミドリガメ(ミシシッピーアカミミガメの幼体)やゼニガメ(イシガメやクサガメの幼体)はいずれもヌマガメ科でこのグループです。

半陸棲ガメ(ハコガメやヤマガメ等)
ヌマガメ科の中でもハコガメやヤマガメの仲間は水辺の草むらや森林に棲息し、水を好む反面、より陸上での生活に適しています。天然記念物に指定されているセマルハコガメやリュウキュウヤマガメがこのタイプです。中国産のセマルハコガメやマレーハコガメ、スペングラーヤマガメといった種がよく飼育されています。

より水棲傾向の強いカメ(スッポンモドキ等)
産卵等の特殊な状況以外にはほとんど陸に上がらない種です。スッポンモドキのようにオール状の四肢で遊泳するものや、マタマタやワニガメのように水底でじっとしていることが多いもの、スッポンのように水底の泥の中に潜むものなどがこのタイプです。

陸ガメ(ギリシャリクガメやロシアリクガメ等)
生活場所のほとんどを陸上としていて、歩行に適した丈夫な四肢と乾燥に耐える皮膚を持ちます。通常草食性です。ロシアリクガメやギリシャリクガメなどの温帯域に生息するものはそれほど大きくなく飼育しやすく人気があります。陸ガメは大人しく平和的な動物ですが、ゾウガメやケズメリクガメといった大型種は力が強く、相応の設備が必要です。

照明
室内でカメを飼育する際には、照明に配慮が必要です。中波長紫外線(UVB)ライトと全てのカメに必要なわけではありませんがバスキングライトを用意します。日中は明るく、夜は暗くすることは多くの動物と同様、生活のリズムをつくる上で重要です。多くのカメが十分な明るさのもとで食欲や行動が活発となり、暗くなることで安心して休息することができます。

・中波長紫外線(UVB)ライト
多くのカメが正常な骨代謝に不可欠なビタミンD3を合成するために、中波長紫外線(UVB)が必要です。特に陸ガメでは、その食餌となる植物質のほとんどがビタミンDを含有しないことからも、UVBの照射は重要です。最良の方法は定期的な日光浴ですが、困難な環境ではUVBを含む広域スペクトルの照明灯の使用が必要です。このような照明灯はいくつかのメーカーから市販されていて、放出されるUVB量は製品によって差があります。カメにおけるUVB要求量の詳細は明らかにされていませんが、ペットショップで売っているもので通常充分です。

・バスキングライト
赤外線を出し亀の体温を上昇させる役割をもつライトです。一般にバスキングスポット(ホットスポット)を30~35℃程度に温められれば良いとされています。また、長時間点灯させているバスキングライトは高温になっており火傷に注意してください。バスキングライトの取り付け位置があまりに下過ぎると、カメが触ってしまう可能性があります。触れやすいのは頭や手です。水棲ガメの場合は夜間は温度の下がりにくい水中にいることも多いので使う必要性は薄いと思われます。

食餌管理
イシガメ、クサガメ、ミシシッピーアカミミガメ、スッポン等の水棲ガメの多くは肉食傾向が強く、自然界では小魚や甲殻類、その他の水棲生物を捕食しています。また種によっては水草等の植物質も多少食べています。飼育下では食用の魚介類を与えることもできますが、注意すべき点は、骨や内蔵を含む丸ごと与えられていないと長期的には栄養障害を起こす危険性があることです。生餌しか受け付けない種ではメダカや金魚、ドジョウ等の淡水魚やヌマエビ、ザリガニ等の甲殻類、その他の水棲生物、ミミズ等を与えます。ただし多くの種は水棲ガメ用のペレットを食べるので、質のよい製品を選べばこれだけでも栄養的に十分で衛生的です。また、小松菜やチンゲンサイのような葉野菜も少し与えるとよいです。給餌は幼体には毎日、成体には週に2~3回を目安に行います。
ハコガメやヤマガメのような半陸棲ガメの自然界での食性は様々ですが、飼育下では雑食性として解釈するとよいです。多くの種に推奨される給餌内容は50%の動物質と50%の植物質で、動物質のものとしてミミズ、ナメクジ、昆虫、その他の節足動物、もしくはドッグフードや水棲ガメ用のペレットを与え、植物質のものとして緑黄色野菜や豆類、イモ類等の野菜を主に少量の果物を与えるとよいです。偏食しがちな種が多く、幼体の頃から、できるだけいろいろな食物を食べるように訓練しないと栄養性疾患に陥りやすいです。ハコガメ専用のペレットも市販されており、食べる場合はこれらを主食でもよいです。給餌は幼体には毎日、成体には2日に1回ぐらいを目安に行います。
陸ガメのほとんどは草食性であり、通常は植物質のものを与えます。一般的に推奨されている給餌内容は90%以上の葉野菜(濃緑色の葉を持ち、カルシウムと繊維質に富んだもの、小松菜、チンゲンサイ、ダイコンの葉、サラダ菜、モロヘイヤ等)と10%までのその他様々な野菜(マメ類、イモ類、カボチャ、ニンジン等)です。ペレットを利用するのも便利です。果物は嗜好性のよいものが多いですが、草食性のカメに適した栄養組成のものはほとんど存在しないため、与えてもごく少量にすべきです。食事は毎日与えます。


No.388 高エネルギー外傷

高エネルギー外傷とは、名前の通り高いエネルギーが加わって生じた外傷のことをいいます。高いエネルギーが加わって生じた外傷の場合、一見元気そうに見えても、実は重篤な外傷である可能性が生じてきます。高エネルギー外傷の動物が救急搬送されてくる場合には、重篤な外傷が起こっているかもしれないと考えて治療します。

ヒトの外傷初期診療ガイドラインJATEC( Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)にはこう記載されています。

高エネルギー外傷
・高所墜落
以下の自動車事故
・同乗者の死亡
車の横転
車から放り出された
車が高度に損傷している
・歩行者・自転車が車に衝突された
・車に轢かれた
・転倒したバイクと運転者の距離が大きい
・機械器具に巻き込まれた
・体幹部が挟まれた

これを見ると、確かにエネルギーの高そうな事故ばかりです。都会では、犬の場合リードを外して逃亡をして交通事故に遭遇する、猫は高層階からの落下事故が多いです。

JATECでは、もう少し細かく高エネルギー外傷について記載されているのでそちらもご紹介します。

高エネルギー外傷の詳細
・高所墜落
成人:>6.1m (2階)
小児:>3.05m、もしくは伸長の2-3倍
・自動車事故  >45.7cmの車の陥入
車から放り出された(部分的もしくは完全に)
同乗者の死亡
・歩行者・自転車
車に轢かれた
>32.2km/hの速度の車と衝突
・バイクで>32.3km/hの速度での事故

高所墜落に関して成人と小児でその基準が異なることには注意が必要です。小児の場合には、例え1.5メートルからの転落でも高エネルギー外傷として対応する必要がある場合があるわけです。ヒトよりも体が小さい動物の場合、ヒトの基準より厳格な基準で考える必要があります。繰り返しになりますが、交通事故や落下事故などは、元気そうにみえても重症の場合が多くあります。事故にあわないことが一番ですが、万が一事故が起こってしまった場合は様子見をせず早目に受診して下さい。