No.415 高Na(ナトリウム)血症

血清Na濃度が160mEq/Lを超えると高Na血症です。体内からの水分の喪失が多くなって発現するのが一般的です。通常、喉の渇きが最初の症状です。進行すると、元気消失、衰弱、震え、方向感覚の喪失、行動異常、運動失調、発作、昏迷、昏睡などが現れます。これらの症状の原因は神経細胞の脱水です。体液は細胞内から細胞外へと移動するため、重症になると脳が萎縮し髄膜の血管が障害を受けて破裂して、出血、血腫、静脈血栓、脳梗塞、虚血が発生します。体内で脱水があっても皮膚へは影響がないので見た目の脱水状態はありません。

重症度はNa濃度の増加と進行速度に関連します。通常はNaが170mEq/Lを超えない限り症状は発現しませんが、進行が急速な場合は170mEq/L以下でも症状が出てくることがあります。緩徐なナトリウム濃度の上昇ではより高値になってから症状が出ます。

血液検査で高Na血症が確認されたら基礎疾患を調べます。特に尿比重の測定は有用です。高Na血症になるとバソプレシン(脳下垂体の後葉が分泌する血圧上昇ホルモンで抗利尿作用を持っています)の放出が刺激されて高張尿になります。

高Na血症の主な原疾患には、
水分の欠乏
・胃腸管の異常(嘔吐、下痢、腸閉塞)
・腎不全
・糖尿病(浸透圧利尿に続発)
・尿崩症(バソプレシンの減少、または機能異常によって病的に薄い尿が作られてしまう病気)
水分摂取量の増加
・副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
・高アルドステロン症
などがあります。

尿崩症のように水分のみの喪失があって電解質の喪失を伴わない場合や、消化管での水分喪失、腎不全による水分と塩分の両方の喪失の場合と、水分の喪失の方が勝る場合とがあります。高齢などによる水分摂取量の低下による体液減少も水分欠乏状態にあたります。また、神経疾患による潜在性口渇や口渇機能異常、パソプレシン分泌における浸透圧調節の異常などからも高Na血症になります。

治療は、原疾患の治療と細胞外液量を正常に戻して脱水を改善することを目指します。合併症に注意しながら点滴を行いNa濃度を改善しながら基礎疾患を治療します。Naが増えるとK(カリウム)が減少しているはずで、脱水に対する点滴にはKを添加した生理食塩水を用います。ただし、急速な点滴の投与は禁忌です。体液が急速に増量し細胞外液が希釈されると、細胞内への溶液の移動が生じて脳浮腫が起こります。点滴中に神経症状や発作起こった場合は大脳に浮腫が起こっていると考えられるので、マンニトールなどの脳圧降下・浸透圧利尿剤での補正が必要となります。徐々に点滴を行うことで脳細胞では蓄積した細胞内溶質を徐々に減少させて浮腫を起こさずに細胞内外の浸透圧を平衡に保つことができます。

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No414低Na(ナトリウム)血症
No.304 糖尿病
No300慢性腎不全(CKD)のステージ分類


No.414 低Na(ナトリウム)血症

低Na血症とは血液中のNa濃度が低い状態のことです。健康な動物では腎臓が尿の排泄量を調節することで体内で一定の濃度が保たれていますが、何らかの原因で水分とNa量のバランスが崩れると、体内の水分量に対してNaの量が少ない状態になります。Naは体内の浸透圧を調節したり、神経や筋肉を正しく機能させたりする役割をもっています。体内のNa濃度が下がると疲労感や震えがみられはじめ、重症化すると痙攣を起こしたり、昏睡状態に陥いります。

低Na血症を引き起こす原因には、ホルモン分泌異常や腎疾患、心疾患、薬物によるものなど様々なものがあります。腎機能が低下する高齢動物でよくみられます。ただし、下痢や嘔吐、激しい運動後や厚い季節に水分を補給しようと水を多量に摂取することなどでも低Na血症を引き起こすことがあります。また、ホルモン分泌異常は年齢を問わずみとめられます。

低Na血症がみられた場合は体の水分量とNa量のバランスから考えられる原因を特定します。細胞外液(血漿と間質液より構成される細胞外の体液)量とNa量のバランスがどのように変化しているかによって3つのタイプに分けられます。

細胞外液が少ない場合:体内の水分とNaが共に失われていますが、水分よりもNaの減少量が大きいために低Na血症を発症している状態です。アジソン病、強い嘔吐や下痢、膵炎、腸閉塞、広範囲の火傷、ある種の利尿薬の使用などが原因となっています。

細胞外液が正常な場合:体内の水分量を調節するホルモン(バソプレシン:抗利尿ホルモン)の分泌異常が原因のときにみられる特徴です。抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、甲状腺機能低下症、ユーサイドシック症候群,、腫瘍や炎症、脳疾患やある種の精神病薬や抗癌剤、胃薬などで引き起こされる可能性があります。

細胞外液が過剰な場合:ネフローゼ症候群、腎不全、肝硬変、心不全、多量の水分摂取などでよくみられる特徴で、いわゆる浮腫(むくみ)の状態です。多量の水分が体内に保持されるためNa濃度が低下します。

低Na血症の診断は血液検査で血中のNa濃度を調べることで分かります。診断基準は検査を受ける医療機関によっても異なりますが、一般的には血清Na濃度が135-138mEq/L未満のときに低Na血症と診断されます。しかし原因を特定することは簡単ではなく、他の症状や他の血液検査結果、ホルモン検査、服用している薬、場合によっては、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などを含め総合的に判断し、考えられる病気を推測します。

治療は、早期発見が出来て症状が軽い場合、または無症状の場合は原因疾患の治療のみで改善する場合が多いです。
原因疾患の治療だけで不十分な場合は、細胞外液量が減少しているタイプに対しては、病態に応じて生理食塩水や高タンパク食、高塩分食によるNaの補充、副腎のはたらきを改善する薬剤などを使用します。これだけで不十分な場合は、Naの点滴投与や、体の水分の排出を促すための利尿薬を使用することもあります。
細胞外液量が正常か増加しているタイプに対しては水分の摂取量を制限します。
細胞外液量が増加している場合は、それに加えNa摂取の制限、利尿薬が原因になっている場合は使用量の減量や薬の中止を行います。
Naの投与スピードが速いと浸透圧性脱髄症候群と呼ばれる神経症状が現れることもあるため、数日間にわたってゆっくりとNaの補正を行います。低Na血症の程度が大きい場合は脳に重篤な影響を及ぼすこともあるため、直ちにNaを補充する必要があります。ただしこの場合も急激にNa濃度を上げすぎることで脳に影響を及ぼすことがあるため、症状や継続の検査結果を観察しながら慎重にNaを投与します。

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No300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No80 副腎皮質機能低下症
No77 犬の甲状腺機能低下症
No30 心臓疾患時の徴候2
No29 心臓疾患時の徴候1


No.413 乾燥性角結膜炎 (KCS:keratoconjuctivitis sicca)

乾燥性角結膜炎はKCSとも呼ばれ、涙の量の低下に伴い角膜や結膜の慢性炎症と視覚機能の異常を引き起こす眼疾患です。犬ではよく見られますが、猫では稀です。ヒトのドライアイと症状などがよく似ているので同じ意味で使われることがありますが、厳密には違う疾患です。

原因は、先天性、後天性に分かれます。犬では後天性の自己免疫疾患と呼ばれる免疫の異常が一般的だとされています。イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ヨークシャー・テリア、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズー、パグ、ペキニーズ、サモエドなどが好発犬種です。

症状は状態により様々ですが、乾燥した眼の表面、ねばついた目やに、結膜の充血や、色素沈着が見られます。眼を擦ったりする行動が出る場合もあります。また、眼が乾いた状態が続くと角膜に傷がつきやすいので注意が必要です。

診断には、シルマー涙液試験と呼ばれる涙の量を測定する検査を行います。涙液量が15mm/分より少なければKCSと診断します。症状の似ている緑内障との鑑別が重要です。

一般的な犬の自己免疫疾患によるKCSの治療では、免疫抑制剤であるシクロスポリンの眼軟膏を使用します。また眼表面に潤いを与える目的で人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液を組み合わせて併用する場合もあります。治療反応は様々で、効果が得られるまで長期間を要する場合もあります。また、点眼をやめてしまうと再発するケースも少なくありません。長期に治療が必要な疾患です。


KCSのパグ

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No.369 緑内障


No.412 病的な震え(振戦)と痙攣2

 前回の続きです。

脳神経疾患
癲癇や水頭症、脳炎など中枢神経系の疾患により震えや痙攣などの神経症状が見られる事があります。

・癲癇、てんかん
癲癇は、2回以上反復的に起こる痙攣発作をさし、MRIや脳脊髄液の検査などで原因となる異常が認められない場合を特発性癲癇と呼びます。特発性癲癇の原因はわかっていませんが遺伝的な関与が強く疑われています。痙攣発作時以外は正常であることも特徴です。発作のタイプで最も多いのは全身がピーンと伸びて、足や口を細かくガタガタと震わせる強直性痙攣です。その他にも、脳の一部分が興奮することによって起こる焦点性発作(部分発作)というものもあります。焦点性発作では、全身ではなく体の一部分だけが痙攣を起こしたり、流涎、チック(思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声)などが見られる事があります。

・水頭症
水頭症は、脳室と呼ばれるスペースに過剰な脳脊髄が貯留し、脳の実質に異常な圧がかかってしまう病気です。先天性と後天性(二次性)があります。先天性の場合はチワワなどの小型犬に多く見られます。症状は程度によって様々です。ぼーっとしている、元気がない、寝ている時間が多くなるなどの症状が一般的で、進行すると震えや痙攣、歩行障害などが出てきます。

・脳炎
脳炎にはさまざまな原因があり、ジステンパーウイルスによる感染性脳炎や、パグなどの犬種で見られることの多い壊死性脳炎、肉芽腫性髄膜脳炎などが挙げられます。これらの脳炎によって震えや痙攣、運動失調、ふらつきなどの症状が見られる事があります。

・小脳疾患
小脳は四肢の協調運動、姿勢保持、歩行調節、平衡感覚の調節などの中枢を担っています。小脳の機能異常などにより、震えや運動失調、ふらつき、痙攣発作などが生じる事があります。

痛みによるもの
痛みにより震えの症状が見られる事があります。

・椎間板ヘルニア
犬でよく見られる病気のひとつに、椎間板ヘルニアがあります。椎間板ヘルニアは、脊椎の椎骨の間にある椎間板というクッションが飛び出して、脊髄を圧迫し、神経に異常を生じる病気です。症状はグレードによって様々ですが、痛みや違和感、震え、歩きたがらないなどの症状が見られます。神経麻痺の程度が進行すると、ふらついて歩けない、脚を動かせない、排尿障害が見られる事があります。

・膵炎
膵炎は、膵臓自ら作り出す膵液が何らかの原因で活性化することによって、膵臓自体が強い炎症を起こす病気です。膵炎の症状は嘔吐や下痢、脱水、食欲不振、腹部痛などが挙げられます。症状は程度によって様々ですが、重症化するとショックや呼吸困難、凝固障害を引き起こし命に関わることもある怖い病気です。膵炎による腹部痛により、震えや触られるのを嫌がったりするなどの症状が見られることがあります。

筋肉の異常

・筋ジストロフィー
遺伝性の疾患で、筋力低下や筋萎縮、易疲労性が見られる病気です。筋肉の病気なので、震えや運動や歩行能力の低下が見られます。咀嚼や嚥下困難、流涎や開口困難を認めることも多いです。

・筋炎
筋肉に炎症が見られる病気です。骨格筋に対する自己免疫疾患と考えられています。全身の筋肉の虚脱や筋萎縮が生じ、起立時などで震えが見られる事が多いです。

・特発性振戦症候群
全身性に細かな震えを引き起こす病気です。若齢の小型犬に発症が多く、特にミニチュア・ピンシャーが好発します。以前は白い毛の犬に好発すると考えられていましたが(ホワイト・ドッグ・シェイカー・シンドローム)、実際には他の毛色でも発症します。病態はまだわかっていない事が多い病気です。

犬の震えや痙攣の原因は様々です。病気が原因の場合、命に関わることもあります。先述した生理的な震えを引き起こす要因に思い当たることがなかったり、他にも元気・食欲の低下、下痢や嘔吐などの別の症状もあるようでしたら早めの受信がオススメです。

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No411 病的な震え(振戦)と痙攣1
No410 生理的な震え
No258 犬の脳炎
No189 膵炎
No89 癲癇、てんかん
No83 椎間板ヘルニア2
No82 椎間板ヘルニア1


No.411 病的な震え(振戦)と痙攣1

代謝異常
病気の場合に考えられる症状として、腎機能異常、肝機能異常、電解質異常、低血糖、高アンモニア血症、低カルシウム血症、低リン血症など代謝性疾患によるものが考えられます。

・急性腎不全、慢性腎不全
腎臓は、血液を濾過し、余分な水分や老廃物などを尿として体外へ排出する機能を担っています。腎臓の機能が低下すると、排出されるはずの老廃物が犬の体内に蓄積されて血中の老廃物濃度が高まります。老廃物や毒素が体内に蓄積し、様々な障害を生じる状態を尿毒症といい、深刻な全身症状をもたらします。尿毒症の原因としては、急性腎不全、慢性腎不全、中毒などがあげられます。尿毒症では震えや痙攣が起こることが多いです。それ以外の症状として、食欲低下、元気消失、口臭、脱水、嘔吐・下痢などが見られる事があります。

・肝機能障害
肝臓機能低下や門脈体循環シャントなどにより肝性脳症が生じ、震えや痙攣が起きることもあります。肝性脳症とは、本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの体内代謝物や毒性物質が、肝臓でうまく解毒されないために全身を循環してしまい脳へ影響を与え、神経系等に障害をきたす症状を言います。他に嘔吐、よだれ、ふらつき、元気消失、徘徊行動、旋回行動、昏睡や意識障害などがみられます。

・低血糖
低血糖症とは、血液中の糖分濃度が著しく下がってしまう状態です。震えやひどくなると痙攣が起こります。その他、ふらつくき、ぐったりする、嘔吐などの症状が見られることが多いです。原因としては、子犬の長時間の空腹、糖尿病患者に対してインスリンの過剰投与、キシリトール誤食、インスリノーマ、肝機能低下による糖の産生低下、副腎皮質機能低下症などのホルモン疾患などが考えられます。

・低カルシウム血症
血中のカルシウム値が低値になると、神経や筋の興奮の異常が生じ、震えやひどい状態では痙攣が起こることあります。それ以外の症状としては、神経過敏、ぐったりする、嘔吐などの消化器症状が見られることがあります。原因としては上皮小体機能低下症、エチレングリコール中毒、出産による乳汁への過度のカルシウム移動などが考えられます。

中毒
体にとって毒性のある物質や、犬が食べてはいけないものを食べてしまうことで生じる有害作用を中毒といいます。これらの中毒によって、先述した尿毒症や肝性脳症、低血糖などの状態になると、震えや痙攣の症状が見られることがあります。誤食による震えの可能性がある場合、ただちに病院を受診する必要があります。
犬に震えや痙攣を起こす可能性のある物質
チョコレート
キシリトール
キシリトール
カフェイン
ニコチン
マカデミアナッツ
消炎鎮痛薬(人の痛み止めや解熱剤など)
殺虫剤など

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No410 生理的な震え
No408 ニコチン中毒
No402 誤食をしたかもしれない時
No395 犬の低血糖
No365 門脈体循環シャント
No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療
No300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬


No.410 生理的な震え

震えは振戦(しんせん)ともいい、リズミカルにみられる反復的な筋肉の収縮をさします。震えは、実際には普段から目に見えない形で存在しています。この見えない震えが何らかの原因によって増強されると飼主さんが見てもわかる震えとして認識されます。これを生理的な震えといいます。生理的な震えは、主に寒さ・興奮・恐怖・不安・興奮・虚弱などによって生じることが多いです。また、震えるという場合、振戦も痙攣も同じようにとらえがちですが違いがあります。

振戦:リズミカルにみられる反復的な筋収縮。生理的なものは比較的心配のいらない場合が多いです。
痙攣:脳の異常な活動によって、体の全体もしくは一部が強直したり振動したりするような状態です。一般的には意識がなくなり呼びかけに反応しませんが、稀に意識があるように見える痙攣も存在します。

振戦とけいれんの区別がつきにくい場合も多いです。判断に迷ったら、震えの様子を動画で撮っていただくと診断の役に立ちます。

生理的な震えの原因を挙げていきます。

生理的な震え

・寒さ
犬が寒さを感じた場合、体の熱を保とうとして、全身の筋肉が小刻みに震えます。これは筋肉が細かく動くことによって熱を発生させ体温を維持しようとする生理的な現象です。体温調節が苦手な子犬や高齢犬、チワワやトイプードルなどの小型犬などではは寒い時期によく起こります。お散歩時や室温には気を付けましょう。急に寒い戸外に出るのではなく、散歩前に軽くマッサージやストレッチなどを行ったり、暖かい洋服を着せるなどして軽く体を温めてから出かけるのが良いです。室内は暖房器具などでうまく温度管理を行い、快適な室内を保ちましょう。寒さによる震えは生理的な反応ですが、実はその影に、体温調節がうまくできなくなるような病気(甲状腺機能低下症など)が隠れている場合もあるので注意が必要です。

・不安、緊張、ストレス
犬は恐怖や不安、緊張、ストレスなどを感じると、自律神経系のバランスが崩れて震えが生じることがあります。どの年齢やどの犬種でも起こりえますが、遺伝的に不安傾向の強い犬種も存在します。まずは震えが起こった際、特定の環境や状況によって誘発されるようなものなのかを確認しましょう。この場合の震えは、行動学的な対策やトレーニングを行うと改善がみられる場合があります。例えば注射などの嫌なことをしない日に動物病院へ行き、好きなおやつをもらうことを繰り返します。これにより病院のイメージを変更するという行動修正を行います。雷や花火、工事の音などの環境の問題で震えが出る場合は環境の改善を行います。ケージの位置を変えたり、音の聞こえにくい場所に寝床を置くなど、不安を感じにくいような環境設定が重要です。また普段から不安や恐怖を引き起こさないように、体罰や叱責を含め不安感が増すような行為は止めましょう。不安な状態になったときに安心できる場所へ誘導できるよう、クレートトレーニングなどを行っておくこともおすすめです。震えの症状だけでなく食欲低下、下痢・嘔吐など体調面に影響が出る場合には、心を落ち着かせるような薬を使うことがあります。

・楽しい、嬉しい
恐怖や不安などのネガティブな感情だけでなく、犬は楽しい、嬉しいなどのポジティブ感情が高まった場合でも、自律神経が乱れ震えが起きる場合があります。興奮時は飼主さんの声が届きにくくなり、事故に遭いやすくなったり、過度の興奮により攻撃行動が出ることもあるので気をつけましょう。興奮した犬を落ち着かせるのは難しいので、まずは興奮させないことが大切です。日頃からどんなタイミングで興奮するのかを把握し、対策を行いましょう。

・老犬の脚の筋力低下
高齢になると筋肉量はだんだんと低下していきます。最初に後肢の踏ん張りが効かなくなり、立ち上がったりしゃがもうとする際に足腰がプルプル震えることがあります。これは筋肉量の低下・筋の虚弱による震えです。高齢になるとある程度の筋肉量の低下は仕方がないことです。なるべく若いうちからしっかりと運動し、あらかじめ筋力をつけておくことは重要です。また高齢犬の場合、過度な運動は足腰や関節に負担がかかるので、無理しない範囲で散歩するなどし筋肉量を維持できるようにしましょう。屋内では滑り止めなどを利用して、脚が踏ん張りやすく歩きやすいような環境作りが必要です。肉球は滑り止めの役割をしているので、足裏の毛が伸びているならカットし肉球の保湿も行います。

次回は病的な震え、痙攣です。

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No197 クレートトレーニング
No15 学習その2古典的条件づけ


No.409 ウサギの胸腺腫

ウサギは犬や猫に比べると胸腔が狭く、呼吸器疾患による呼吸状態の悪化を引き起こしやすい動物です。胸腔内には胸腺と呼ばれる臓器が存在します。胸腺はリンパ球であるT細胞の分化や成熟など、免疫系 に関与する一次リンパ器官(リンパ球のT細胞・B細胞の発生において重要な役割をする器官)です。胸小葉とよばれる二葉から構成されています。多くの動物では成長に伴い退縮していきますが、ウサギは大人になっても遺残しており、この胸腺が腫瘍化することで胸腺腫が発生します。胸腺腫は胸腺上皮由来の良性腫瘍です。中齢から高齢で発生が認められます。腫瘍化してしまうはっきりとした要因については不明です。

軽度では、元気や食欲の低下などが認められることもありますが、無症状の場合が多く、症状が進行すると腫瘍が肺や血管を圧迫することにより、瞬膜突出、眼球突出、呼吸促拍などが認められます。稀ですが剥離性皮膚炎が起こる場合もあります。胸腺における異常な抗原提示によるT細胞の関連が考えられています。重症化すると呼吸困難に陥ります。注意が必要な疾患です。

胸腺腫の診断には、レントゲン検査やエコー検査で胸腔内の腫瘤病変を確認し、細胞診や組織生検を行って確定診断していきます。

治療は外科的な切除が理想ですが、多くの場合は困難なので、治療はステロイドやシクロスポリンといった免疫を抑える薬の内服と代替医療が中心となります。呼吸困難を引き起こすほどの大きさになった場合は嚢胞の穿刺吸引を行います。これらの治療によって腫瘍が縮小することが多いですが、投薬を休止すると胸腺腫が再度増大することが多いため、長期的な治療が必要となります。


ウサギの胸腺腫


No.408 ニコチン中毒

動物にとってもタバコが有害だとというと、ヒトの様にタバコの煙を直接または間接的に吸うことによる病害だろうと想像しがちですが、最も危険なことはタバコそのものを誤って食べてしまう(誤食)による中毒です。これをニコチン中毒と呼びます。

通常タバコには1本あたり9~30mgのニコチンが含まれています。より危険なものが電子タバコです。電子タバコ内の液体には80mg/mlのニコチンが含まれています。これらのタバコを誤飲した場合、迅速に体内に吸収され、しばしば数分以内で血中濃度はピークに達してしまいます。ニコチンは極めて毒性が高く、ヒトでは10mg/kgが最低致死量と言われていて、子供では1mg/kgのニコチン摂取で中毒が発症するとされています。動物での正確な致死量は不明ですが、ある研究では、タバコの銘柄にもよりますが、体重5kgの犬で1/4~1/3本で中毒、2本摂取すると致死量と言われています。

ニコチンを摂取すると脳や中枢神経、循環器系に対して、低用量では興奮作用、心拍数・血圧の増加、高用量では抑制作用、徐脈・低血圧、抑鬱症状がみられます。ニコチンの神経系や循環器系への作用は用量依存性です。大量摂取すれば症状は重くなります。

ニコチンは水溶性で吸収が早く、実際には摂取してから15~40分で、筋肉の震戦、高血圧、頻脈、頻呼吸、嘔吐、下痢、血便、血尿、流涎、虚脱、痙攣発作、呼吸麻痺などの症状が現れることがあります。どの中毒にもいえることですが、その時の食事の量や内容、体調や年齢などによっても吸収に差が出るので、摂取後3日間くらいは注意が必要です。

治療は、他の中毒の場合の処置と同様に、催吐剤、胃洗浄、活性炭による吸着、輸液、徐脈に対するアトロピン投与などを行います。タバコを誤食した時は迅速な対応が必要です。


催吐処置したタバコ

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No402 誤食をしたかもしれない時
No396 ユリ科の野菜の誤食
No350 誤食の予防
No.9犬、猫に与えてはいけない食品、薬


No.407 歯肉腫(エプリス)

歯肉腫(エプリス)とは歯肉に生じる歯肉と同色の色調の平滑な腫瘤です。外観上は歯肉を内側から盛り上げるように成長しいわゆる「シコリ」の総称となっています。犬でよくみられ、口腔内腫瘍のおおよそ15~30%を占めるといわれています。エプリスには歯肉に炎症などの刺激が続くことにより発生する非腫瘍性の炎症性エプリスと、良性腫瘍による腫瘍性エプリスがあります。腫瘍性エプリスは形態学的な特徴により、線維性エプリス、骨性エプリスに分類されます。これらは同時に歯石の蓄積や歯周病などの口腔内の環境悪化を伴っています。

ほとんどのエプリスは症状を伴わない状態で、飼主さんの観察や身体検査により発見されます。歯石が重度の場合は歯石の下から発見されることもあります。腫瘤が小さいうちは症状はなく、他の口腔内にできる腫瘍と同様に、大きくなるに従って、流涎、口臭、咀嚼や嚥下に問題が生じるようになります。確定診断には病理検査が必要です。

エプリスの治療は外科的な摘出ですが、良性の病変であるはずの線維性エプリスや骨性エプリスを局所摘出した場合でも、おおよそ10%の確率で再発するといわれています。一般的に正しく摘出された境界の明瞭な良性腫瘍は再発をあまり起こしませんが、エプリスが再発しやすい背景には腫瘍が歯槽骨に付着する歯肉の深部、歯周靱帯から発生してくるためと、腫瘤の下がすぐに歯槽骨という構造もあって、サージカルマージン(切除する際の安全域)を取るのが難しく、歯肉部のみの局所切除を行った場合に不充分な切除となりやすいためです。当院では局所再発を防ぐためレーザーメスを用いた手術を行います。

エプリスを局所摘出した場合には定期的に再発のチェックを行うことと、歯石や歯周病の管理が必要です。


線維性エプリス

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No359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏
No98 歯周病2
No97 歯周病1
No18 歯石


No.406 副腎腫瘍

犬の副腎腫瘍は中高齢での発生が多いとされています。近年は画像診断機器の発達に伴い、診断される機会が増えてきました。猫では稀です。犬の副腎に腫瘤ができた場合、以下の可能性を疑います。
・良性腫瘍:副腎腺腫
・悪性腫瘍:副腎腺癌(副腎皮質由来)、褐色細胞腫(副腎髄質由来)、転移性腫瘍
・過形成

症状は通常、多飲多尿、左右対象の脱毛、被毛が薄くなる、皮膚が薄くなる、腹囲膨満が見られます。褐色細胞腫の場合は頻脈、失神、不整脈などが見られることがあります。また症状がなく、健康診断や他の疾患の検査の際にエコー検査で偶発的に発見されることもあります。

診断は、症状、身体一般検査、血液検査、尿検査、レントゲン検査、腹部超音波検査などを行います。症状と検査から副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)が疑わしければ、クッシング症候群を診断するための内分泌検査、ACTH刺激試験を行います。ACTH刺激試験の値が高ければ、下垂体性か副腎性かの鑑別を行い、副腎性が疑わしければ手術計画の立案ためにCT検査を実施します。

副腎腫瘍の治療に関しては外科療法が推奨されますが、比較的高い周術期死亡リスクを伴うことから、病態の重症度、基礎疾患、併発疾患をよく考えて実行する必要があります。特に右側は容易ではありません。内科治療という選択肢もありますが、症状を抑えられない場合があります。内科治療はトリロスタンという薬が用いられます。褐色細胞腫が疑われる場合は血圧や心拍数のコントロールも必要となります。血栓症の予防も行います。いずれにしても早期発見が重要です。


超音波検査で見つかった副腎の腫瘍

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No79 犬の副腎皮質機能亢進症