No.384 輸血

輸血の時に供血する動物のことを「ドナー」、受血する動物のことを「レシピエント」と呼びます。輸血は移植医療の一種で必ずしも安全ではありませんが、事故などによる大量の出血、重度の貧血、低タンパク血症、止血異常の時は輸血が必要となる場合があります。

レシピエント側の輸血の副反応としては発熱が一般的ですが、涎、失禁、嘔吐などが起こる場合もあります。重度の場合はドナーの血液がレシピエントの血液を破壊する「急性溶血反応」などの命に関わる症状が発現します。初回の輸血の場合は抗体がないため、副反応のリスクは少ないですが、2回目以降の輸血の場合は抗体ができている可能性があるため副反応を起こす可能性があります。また、原因は明らかになっていませんがレシピエント側に妊娠歴があると重篤な副反応を起こしやすいとされているため注意が必要です。

輸血が必要な時は生命にかかわる危機が迫っています。動物の医療では血液バンクがないので慢性的に血液が不足しています。動物の高齢化によって輸血の必要な場面も年々増えています。ドナーにご理解いただける方はご協力ください。

理想的なドナーの条件(病院によって多少の違いがあります)


年齢:1~8歳
性別:♂;自然交配経験・予定なし ♀;妊娠・出産経験なく不妊手術済み
体重:15kg以上
予防:狂犬病ワクチン 混合ワクチン(5種以上) フィラリア予防 ノミ・ダニ予防
生活環境:室内外どちらでも可能
その他:健康であること レシピエントの経験がないこと


年齢:1~8歳
性別:♂;自然交配経験・予定なし ♀;妊娠・出産経験なく不妊手術済み
体重:3.5kg以上
予防:混合ワクチン(3種以上)ノミ・ダニ予防
生活環境:完全室内飼育
そ の 他:健康であること 猫白血病ウイルス・猫エイズウイルスが陰性(-)であること レシピエントの経験がないこと

輸血の流れ
1.獣医師がドナーの健康状態をチェックします(異常があった場合には献血を中止します)。
2.ドナーとレシピエントから少量の採血をしてクロスマッチ試験を行います(輸血をしても大丈夫な相性かどうかを確認するものです)。
3.ドナーの頚または脚の血管から輸血用の採血をします。採血量はドナーの体重や体の大きさによって変わりますが、犬で150ml-400ml、猫で35-60ml程度です(当然ですがドナーに問題が起こらない量しか採血しません)。
4.レシピエントの静脈から輸血を行います。副反応が出ないか確認します。
5.ドナーに採血量と同量程度の点滴を行い、獣医師が健康状態をチェックしてドナーは退院です(ドナーにご協力いただいた動物は3ヶ月間はドナーになれません)。

ドナーご協力のお礼
当院では、当日の血液検査と次回のワクチンを無料とさせていただいております。

こちらもご参照ください
No174猫の血液型と輸血
No173犬の血液型と輸血


No.383 尿道閉塞(尿閉)

尿は腎臓で産生され、尿管を介して膀胱に貯留されます。膀胱に貯留した尿が体外に排出されるときの通り道となる管状の器官を尿道と言い、結石や栓子(細胞や炎症産物が塊になった物)などが原因となって尿道が閉塞してしまい、排尿ができなくなることを尿道閉塞(尿閉)といいます。尿道がペニスの部分で細く会陰部でS字状に湾曲している雄猫に多くみられます。また、飲水量が低下しやすい寒い時期に多く発生します。肥満も尿閉の発症リスクを高めることが分かっています。

血尿や頻尿、粗相などの初期症状に加え、元気食欲の低下、嘔吐、トイレでつらそうに鳴くなどの症状が見られたら要注意です。排尿が完全に不可能となった場合には症状が急速に進行し、治療介入が遅れると急性腎障害により死にいたる危険性もあります。24時間で腎障害が危険な状態になり、48時間放っておくと亡くなるといわれています。

問診や触診で尿閉が疑われた場合、直ちに尿道カテーテルや生理食塩水などを用いて塞栓子を膀胱内に押し戻し尿道の詰まりを解除します。これら緊急処置の後、血液検査にて腎障害の程度を評価し、レントゲン検査や超音波検査で他の尿路系に異常がないかどうかをを調べます。通常、腎機能や膀胱機能が回復するまでの間、入院での治療が必要になります。入院期間は重症度にもよりますが、数日から10日程度となることもあります。

一度尿閉を起こした動物はそのままでは再発の可能性が極めて高い為、食事の変更や環境の改善など内科的な再発予防を行います。それでも再発を繰り返す、あるいはそのリスクが高い場合は、外科的な再発予防手術(会陰尿道路形成術)の適応になります。

当院でも毎年多くの尿閉の動物を診察しますが、治療する上で何よりも大切なのは早く病院に連れてきて頂くことです。緊急性のある疾患なので、少しでもおかしいと思ったらまずはご相談ください。とくに雄猫は注意です。


猫の尿道カテーテル(トムキャット)

こちらもご参照下さい
No328尿石症:腎・尿管・膀胱・尿道結石


No.382 皮膚のしこり(結節)2

しこり(結節)やコブは多くの場合、皮膚の増生(過形成)または炎症性の病変を含むタイプと腫瘍に分けることができます。

皮膚の増生や炎症性病変
皮膚の増生は、細胞が増えることで組織が周囲の皮膚から突き出た良性(非腫瘍性)のしこりを言います。また、炎症性病変とは細菌などに感染して皮膚が腫れたり、それが慢性化して硬くなったりするものを指します。比較的多く見られる病変には以下のようなものがあります。

膿瘍:咬傷、創傷または異物からの感染の結果として形成されるしこりです。痛みを伴うことが多く、大量の血液と膿を含んでいることがあり、破裂することもあります。

アポクリン嚢胞:皮膚腺の1つであるアポクリン腺が詰まってできる嚢胞です。ヒトのにきびのようなものと考えてください。これも破裂することがあります。

毛包嚢胞:毛包組織由来の非腫瘍性の嚢胞性病変です。通常であれば表皮の毛穴の部分から体の外に向かって毛は生えますが、毛包を含む嚢胞が皮内で破裂し炎症を起こし、皮内に膿や被毛が貯留したものです。

血腫:外傷後に皮膚の下に血液が溜まったときに起こります。痛みを引き起こすことがあります。

注射部位反応:注射後に皮膚の下に小さなしこりができることがあります。これは圧痛があることがありますが、多くは2~3日から数週間で消失します。

蕁麻疹、その他のアレルギー反応:蕁麻疹はアレルギー反応から生じる痒みのある腫れた皮膚の膨らみです。これ以外にもアレルギー反応からさまざまなタイプのしこりが生じることがあります。

皮膚腫瘍のタイプ
腫瘍とは、異常な細胞が蓄積して形成される組織の塊で、良性腫瘍と悪性腫瘍があります。 腫瘍という言葉は、飼主さんが耳にすることのある病名のうち恐れられている単語の1つですが、すべての腫瘍が悪性とは限りませんし、また、たとえ悪性腫瘍であったとしても治療ができないわけではありません。よくある腫瘍の種類について知っておきましょう。

組織球腫:比較的若い犬の頭部、耳介、脚に生じることが多い、小さくて硬いドーム形の良性腫瘍です。治療しなくてもしばしば自然に退縮します。

脂肪腫:過体重の犬で多く、脂肪細胞が集まってできた軟らかくて平滑な良性腫瘍です。多くは胸部、腹部、前脚に発生します。ゆっくりですが非常に大きく成長し、場所によって歩行障害や圧迫等が問題になるケースもあります。

脂腺種:皮脂(皮膚を滑らかにする脂性物質)を分泌する腺やその周囲の細胞が増殖したときに形成されます。良性腫瘍で、しばしば犬の頭部や、脚、胴体、まぶたに疣状に発生します。

形質細胞腫:中齢~高齢犬の体幹および四肢の皮膚や粘膜皮膚に多く発生します。そのほとんどは孤立性でピンク色~赤色の隆起したしこりとして認められます2~5%は多発性と言われています。

悪性皮膚腫瘍:癌性の腫瘍のことで、自然に治癒することのない皮膚上の目立ったしこり、または痛みを伴う病変として現れます。早期発見、早期治療が大事です。


犬のパットの皮膚形質細胞腫

こちらもご参照下さい
No381皮膚のしこり(結節)1
No296生検
No215犬の皮膚腫瘤


No.381 皮膚のしこり(結節)1

動物を撫でていると、皮膚の表面、あるいは皮膚の下にしこり(結節)やコブを見つけることがあるかもしれません。そんな時はまずは慌てずに、他の部分にもないかきちんとチェックして、場所や大きさを記録しておきましょう。動物が気にしているかどうか、大きくなって来ていないかも重要です。写真が撮れれば撮ってください。動物の体の表面にできるしこりの原因として考えられるのは、皮膚にできる腫瘍(良性、悪性含む)のほか、皮膚の炎症や外傷でもしこりのように見えたり触れたりすることもあります。しこりやコブの正体が、実は単純な炎症だったということもあります。

動物に最も多く見られる腫瘍は皮膚腫瘍であるという報告があります。動物の皮膚を定期的にチェックすることは、健康を保つために必要なケアの1つです。週に一度くらいは、鼻先からしっぽの端までの全身をくまなく調べるようにしましょう。見落としがちな場所、たとえば足指の間、尾の裏側、嫌がらなければ口の中なども念入りにチェックしてください。

しこりを正確に診断するためには、いくつかの検査が必要です。検査の一例として針生検(FNA)ががあります。これはしこりやコブを評価するための低侵襲の手技の一つで、細い針を使って細胞を採取するものです。採取した細胞をスライドグラスに載せて染色し、顕微鏡で検鏡します。しこりのタイプによってはその場で診断がつくこともありますが、検査機関にスライドを送って専門家に評価してもらわなければならないこともあります。しこりのタイプによっては、メスやパンチを使ったもっと大きな生検や組織切除が必要になることがあります。これらは穿刺吸引よりも侵襲性が高い手技で、局所麻酔、鎮静あるいは全身麻酔処置が必要になります。

こちらもご参照下さい
No296生検
No215犬の皮膚腫瘤


No.380 猫アレルギー性皮膚炎

猫アレルギー性皮膚炎とは、アレルギー症状を起こす原因物質であるアレルゲンによって、猫の体の中の免疫機構が過剰に反応するために生じる皮膚炎のことをいいます。大きく分けて「食物アレルギー性皮膚炎」「ノミアレルギー性皮膚炎」「環境アレルギー性皮膚炎」に分かれ、「環境アレルギー性皮膚炎」をいわゆる「アトピー性皮膚炎」といいます。また「環境アレルギー性皮膚炎」は「吸引アレルギー性皮膚炎」と「接触アレルギー性皮膚炎」に分けられます。原因が1つでない場合もあります。どの猫腫でも起きますが、とくにロシアンブルーで症状が酷くなる印象です。

・食物アレルギー性皮膚炎
アレルゲンとなる食物を摂取することによって引き起こされます。タンパク質が原因となることが多く、牛乳や肉類等が挙げられます。
・ノミアレルギー性皮膚炎
ノミの唾液中にあるタンパク質がアレルゲンとなり、ノミが猫の皮膚に寄生して吸血することでアレルギーを起こします。腰や尾の付け根、背骨に沿って病変が出ることが特徴です。
・吸引アレルギー性皮膚炎
ハウスダストや花粉、カビなどがアレルゲンとなり、これらを吸引することによって発症します。
・接触アレルギー性皮膚炎
じゅうたんや食器等など、身の回りにあるあらゆるものがアレルゲンとなり、アレルゲンに皮膚が触れることによって引き起こされます。

アレルギー性皮膚炎では、皮膚の痒みが主な症状で、体をしきりに舐めたり噛んだりする行動が見られます。症状が進行すると脱毛や発疹が見られます。食物アレルギーでは同時に外耳炎や、下痢などの消化器症状を引き起こすこともあります。また、接触アレルギーでは、原因となるアレルゲンと接触した部分に皮膚炎がみられます。

診断は、症状に加え、他の皮膚疾患や行動学的異常がないかどうかを鑑別診断し、アレルギー性皮膚炎の疑いが強ければ、ノミがいた形跡がないかどうか、除去食試験で食物アレルギーがないかを調べて、アトピー性皮膚炎かどうかの除去診断をしていきます。難治性の場合、診断が困難なときは皮膚生検を行う場合もあります。

内科治療にあたっては、副腎皮質ホルモン剤や悪い免疫反応を止める薬などを用いることによって、症状の緩和を行ないます。他に減感作療法を試みる場合もあります。アレルギーの原因をゆっくり身体に入れて最期には体に慣れさせてしまおうという治療法です。これらの治療にあわせて、猫のいる環境を清潔にすることでアレルゲンとなりうる物をなるべく排除するという環境づくりも重要となってきます。

予防は、食物性アレルギーや接触性アレルギーで原因物質がわかった場合はそれらと接触しないようにすることが、ノミアレルギー性皮膚炎ではノミの駆虫剤を定期的に使用することで予防することが出来ますが、他が原因となる場合や原因が特定できない時は予防は難しくなってきます。猫が痒がるという仕草はよく見られ、その原因はたくさんあります。飼い主さんの日々の観察が、原因の早期発見につながり、また猫の環境や、食事内容等を正確に伝えていただくことで早期治療が可能となります。普段から、猫とのスキンシップを心がけましょう。


猫のアレルギー性皮膚炎


No.379 東洋眼虫

東洋眼虫は、西パキスタンのパンジャブ産のイヌの瞬膜から発見されたのが最初です。8mm~16mmの白い細い小線虫の一種です。通常は犬、猫、キツネなどの眼結膜面に寄生しますが、ヒトにも寄生することがあります。成虫はその寄生部位の眼結膜面で卵を生み出し、虫卵は涙液や眼脂などに混入します。そのような涙液や眼脂をメマトイ(眼の周りにまとわりつく蠅の仲間)が摂取すると、その消化管に取り込まれ、発育し、約2週間後に感染幼虫となって吻近くに現れます。このメマトイが再び犬や猫の眼部で涙液や眼脂を摂取する時、結膜面に感染幼虫が放出され感染します。ヒトも同様の経過をとります。以前は西日本に多かったのですが、近年、関東地方でもみられるので注意が必要です。

症状は、結膜上や眼球上で東洋眼虫が動くので、物理的な刺激によって炎症を起こします。白眼が赤く充血し、結膜が腫れたり、目脂や涙が増え、眼をしきりに掻いたり擦りつけたりします。ヒトも同様な症状ですが、犬や猫よりも痛みが強いといわれています。

診断は、瞼をめくり、東洋眼虫が寄生していないか肉眼的に観察します。また、生理食塩水で眼を洗浄することで、虫体が押し出されて寄生が確認できることもあります。小さく細く白い虫なので見逃さない様に注意が必要です。

治療は虫体の除去です。除去の方法は、点眼麻酔、場合によっては全身麻酔を施した後、生理食塩水で眼を洗い、東洋眼虫を洗い流したりピンセットや綿棒で直接虫体を除去しますが、1回では取り切れないこともあり、数日の間に複数回の処置が必要なこともをあります。また、補助的な治療、予防としてフィラリア予防に使われる薬を投与しますが、成虫には効果がありません。


東洋眼虫


No.378 骨髄検査

骨は内部が空洞になっていてゼリー状の骨髄という組織で満たされています。ここに針を刺して骨髄血を採取する検査を骨髄穿刺、より太い針(ジャムシディー針)で骨髄の一部(組織)を採取する検査を骨髄生検といいます。通常同時に行います。

骨髄は血液を作る工場で、酸素を体内で運搬する赤血球、外敵から身を守る白血球、傷ができた時に血を固めてくれる血小板などの細胞を作っています。骨髄で作られた細胞は血液中に出て行きそれぞれの働きをします。血液の病気になるとこれらの細胞が少なくなったり、多くなることがあります。結果、体の抵抗力が低下したり、貧血になったり、血が止まりづらくなったりします。この様な異常の診断は、最初は血液を調べます。それだけで原因が特定できない場合は、原因が骨髄にあるのか、あるいは他の場所なのかを調べるために骨髄検査が実施されます。また、様々な癌が骨髄の中に入り込んでしまうことがあり、どれくらい癌が広がっているのかを調べる目的で検査をする場合もあります。

ヒトでは腸骨(骨盤の骨)や胸骨(胸の骨)で行いますが、犬や猫では大腿骨で行います。骨に太い針(ジャムシディー針)を刺すため、ヒトでは局所麻酔で行いますが、動物では短時間の全身麻酔が必要です。また、処置自体は10分程度で終わり、動物への負担はほとんどありません。

骨髄検査をすることで、通常の血液検査ではわからない血液の状態が把握できます。得られる情報によって治療の方法が見つかる場合もあります。

ジャムシディー針

以下もご参照下さい
No372血小板増多症
No278免疫介在性血小板減少症
No277自己免疫性溶血性貧血


No.377 認知症(Cognitive Dysfunction Syndrome;CDS)の見つけ方

認知症(CDS)は老化が悪化因子ではありますが病気です。以前は「痴呆症」ともいわれていました。老化に関連した症候群であり、認知力の異常、刺激への反応低下、学習・記憶の欠損にいたる疾患です。進行がゆっくりなため気付きにくいです。体の酸化ストレスによって産生されるフリーラジカルによって、タンパク質、脂質、核酸にダメージを受けます。通常は生体内の抗酸化成分がフリーラジカルからのダメージを防御していますが、加齢によりこの機構が低下して起こります。とくに脳はフリーラジカルの影響を受けやすいです。


・11-12歳の犬の約28%
・15-16歳の犬の約68%

・11-14歳の猫の約30%
・15歳以上の猫の約50%
にCDSの症状が出ているという報告があります。また、日本犬に多い印象でしたが、犬種・猫腫より、雌、不妊手術を受けた動物、小型犬がリスクが高いといわれています。

CDSの臨床徴候としてDISHAAの徴候があります。
・見当識障害 (Disorientation)
・相互反応変化 (Interaction Changes)
・睡眠あるいは行動の変化 (Sleep or Activity Changes)
・トイレトレーニングを忘れる (Housetraining is Forgotten)
・活動の変化 (Activity changes)
・不安 (Anxiety)

DISHAAの徴候を具体的に説明すると以下のようになります。() 内の%はどれくらいのCDSの犬猫でみられるかを表しています。
1.排泄の失敗(25%)
2.よく吠える(鳴く)ようになる(23%)
3.ヒト(家族)とのコミュニケーションの変化(20%)
4.命令にしたがわない(20%)
5.家の中や庭で迷う(14%)
6.睡眠周期の変化(8%)
7.部屋の隅で動けなくなる(8%)

上記のような症状がみられたら認知症を疑います。他の脳神経病、内分泌疾患、問題行動などと鑑別診断して、CDSと診断が出たら早期に治療を開始しましょう。

治療には、行動療法、食事療法、サプリメント、薬物療法、代替医療などがあります。どの程度の治療が必要かはケースバイケースですが、早期に介入しないと期待したような治療効果が出ません。

こちらもご参照下さい
No147認知症(CDS)4
No112認知症(CDS)3徘徊
No111認知症(CDS)2夜鳴き
No110認知症(CDS)1


No.376 カメの卵詰まり

カメの卵詰まりは、毎年10%ほどの個体で発生するというデータもあるほど、頻繁に起こる疾患です。主な症状としては、食欲不振、脱水、産卵行動、活動性の亢進・低下、息み、総排泄腔脱、体重減少、後躯麻痺(後肢麻痺)、嗜眠などがあります。ただし、一見症状が見られない場合もあるので注意が必要です。正常な発情でも食欲は低下しますが、極端に低下することはありません。食欲が落ちても産卵直前の数日だけのことが多いです。極端に食欲が落ちている場合は早目の対処が必要です。

春から初夏(4月~7月)に食欲がなくなってきたり、元気がなくなってきたら卵詰まりの可能性があります。後肢で土を掘るようなしぐさをしている場合もあります。状態が悪化すると、1日中眼を閉じたままになったり、口から泡を出すこともあります。腹腔内にたくさんの卵を持っている場合は、卵によって周囲の神経が圧迫されて、後肢の動きが悪くなることがあります。また、卵によって周囲の臓器を圧迫し、便や尿が出にくくなったり、腎不全を引き起こしたりすることもあります。卵が総排泄腔で詰まった場合、亀は激しく息みますが、この状態が長く続くとぐったりし、卵によって総排泄腔が塞がれて排便や排尿が完全にできなくなることがあります。このような状態になると、たとえ卵を取り出せたとしても体力が回復せずに亡くなってしまうことがあります。

カメは間隔をあけて何度かにわけて産卵する場合もあるので、一度産卵が終わったからといって、しばらく卵詰まりは大丈夫と安心してはいけません。雄を同居させていなくても、雌単独で無精卵を形成し詰まることがあります。

診断は、レントゲン検査、エコー検査などで行います。治療は、カルシウム剤やビタミン剤を投与します。それでも産卵しなければ、オキシトシンというホルモン剤も使用します。また、飼育環境の見直しも必要です。具体的には卵詰まりの亀に最適な温度や湿度で管理して適切な産卵場を用意します。リクガメでは特に温浴(35℃の温水で15分程度)を行うことも重要です。狭い場所で飼育している場合は卵詰まりが起きやすいです。適度な硬さの土も必要です。

内科的治療でよくならない場合は、食道瘻チューブで栄養を補ったり、最終手段は手術による卵の取り出しを行います。手術は爬虫類ならではの麻酔の問題がありますが、早期に行った方が救命率が高いです。


カメの卵詰まりのレントゲン


No.375 乳歯遺残

ヒトと同様、犬や猫も子犬、子猫の時期に乳歯から永久歯へと生え変わります。この時、本来であれば抜け落ちるはずの乳歯が、生え変わりの期間(約6-7カ月齢)を過ぎても抜け落ちずにそのまま残ってしまい、新たに生えてきた永久歯と併存してしまうことがあります。これを乳歯遺残といいます。

チワワやトイプードル、ポメラニアンなどの人気の小型犬種に多くみられます。猫でも起こります。犬歯が最も多くみられますが、切歯や臼歯にも起こります。乳歯遺残は、永久歯の生え方に影響する上、歯垢・歯石がつきやすく歯周病のリスクも高まるなど、長期的な歯の健康に関わります。

歯が生え変わる準備として、破骨細胞(はこつさいぼう)が乳歯の根元(歯根部)を溶かすことで乳歯が抜けやすくなるよう、かつ永久歯が生えてきやすいようにしているのですが、乳歯の根元がうまく吸収されない、永久歯が萌出する場所が正しくないなど、このプロセスに何らかの支障が出ると乳歯が抜けきれずに居残ってしまいます。7か月齢以上で乳歯が抜けていない場合、ほとんどの場合、乳歯遺残となり、そのままでは抜けません。抜歯には全身麻酔が必要なので、去勢手術や不妊手術時に抜歯をするのが推奨されます。


細い犬歯が乳歯遺残です