No.463 リクガメの尿路結石

カメは尿路結石を形成することがしばしばあります。特にリクガメは結石を生じやすく注意が必要です。

結石が生じる要因は大きく3つあります。
1.脱水:慢性的な環境中の水分不足や下痢、腎臓病などから
2.高タンパク食:バランスの崩れた食事、マメ科の野菜や野草、ヒトの食物などの多給
3.尿路感染:膀胱の細菌感染から

最も多い原因が水分の不足です。リクガメは湿度がそれほど必要ないと勘違いされて水入れを常備していないなどの飼育環境の不備が多いです。また、リクガメの種類によっては湿度が低くなると鼻水が慢性的に流れだし、結果として脱水がさらに進むことがあります。食欲不振から水分摂取量が減少し、体内で結石が形成される場合もあります。

カメの尿路結石の症状としては、いきみや総排泄腔周辺が常に尿で濡れている、食欲の低下などです。確定診断にはレントゲン検査が必要です。

治療は内科治療と外科治療があり、内科治療は、点滴などで脱水の改善を行い、食事中の水分を増やしたり、温浴によって排尿を促し結石の自然排出を助けます。外科治療は、総排泄腔から結石を粉砕する(全身麻酔が必要な場合もあります)、それでもダメな場合や結石が大きければ、全身麻酔下で腹側の甲羅を切開(開甲手術)、もしくは後肢の付け根から切開を行い結石を摘出します。外科治療はリスクが高いので早期発見が大事です。


ギリシャリクガメの尿路結石


No.462 SAA (Serum Amyloid A:SAA)

SAAとは急性相蛋白(炎症の急性期に血中に増加する蛋白成分)の血清アミロイドAのことで、炎症が起きた際にサイトカインの刺激を受け肝臓で作られて血中に放出されます。急性相蛋白は他にも種類がありますが、その中でもSAAは反応が早く変動率が大きいことが特徴です。

炎症は発熱が重要な指標になりますが、ネコは興奮によっても体温が上昇してしまいます。SAAは興奮で数値が上昇しないため体の状態を正確に把握することができます。犬で用いられるCRPはネコの場合では炎症時にほとんど変動しないことが分かっていて、使用することができません。

また、SAAは白血球よりも比べて早く変動するので、値の変動を見ることで治療方針が正しいのか、改善傾向にあるのかを推測することができます。例えば、外科手術後のモニターとして用いた場合は、術後24~48時間でピークに達し、通常4~5日ほどで基準範囲内に低下します。術後にSAAが基準範囲内に低下しない場合は精査する必要があります。

SAAの上昇しやすい疾患としては、急性膵炎や急性胃腸炎、猫伝染性腹膜炎(FIP)が代表的ですが、炎症性疾患以外でも糖尿病ではおよそ38%、甲状腺機能亢進症では50%というように、一部の内分泌疾患でも上昇が認められる場合があります。高齢のネコに多い慢性腎臓病(CKD)においてもSAA 濃度の高値が報告されています。これらの疾患でSAAが上昇する機序はまだわかっていませんが、SAAの上昇は基準範囲内である場合と比較すると、生存期間が短いことから予後を評価するのに役立つと考えられています。以前は外注検査でしたが、現在では院内で測定が可能です。

こちらもご参照下さい
No.461 CRP (C-reactive protein:CRP)
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)
No.56 慢性腎臓病(CKD)2
No.55 慢性腎臓病(CKD)1


No.461 CRP (C-reactive protein:CRP)

皆様、あけましておめでとうございます。
と言うのも憚られる1年のスタートになってしまいました。亡くなられた方々、動物たちにお悔やみ申し上げます。被災された方々には心からのお見舞いを申し上げます。今の状況を乗り越えて1日も早く通常の生活に戻れますよう願います。

炎症の有無や程度を反映する検査を炎症マーカーと総称します。一般的に炎症マーカーとして用いられているのは、炎症の急性期に血中に増加する蛋白成分(急性相蛋白)の血中濃度の測定です。そして、急性相蛋白の代表として、C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)があり犬の炎症マーカーとして臨床応用されています。

急性相蛋白は、炎症部位に侵入してきた炎症細胞が分泌する炎症性サイトカインの刺激を受けて、主として肝臓で合成されます。炎症性サイトカインは急性の発熱物質でもあり、視床下部においてプロスタグランジンE2を介して発熱が誘導されます。炎症性刺激が加わった6時間後ぐらいから急性総蛋白の血中濃度が上昇し始め、24~48時間でピークに達します。

CRPは急性相蛋白の中でも特に反応性に優れ、ピーク時の濃度は平常時の100から1000倍にまで達します。また、半減期は数時間~12時間程度と考えられており、炎症性刺激が消失すれば速やかに血中濃度が低下します。そして、興奮や運動などの影響をほとんど受けないとされています。従って、CRPの血中濃度の測定によって、炎症の存在やその程度を客観的に把握することが可能です。

具体的には、なんとなく元気がない、発熱だけなどの曖昧な症状の場合に、炎症の有無を明らかにすることが可能です。また値の変動を見ることで、まだ必要な治療を早期に終了してしまったり、逆に効果の乏しい治療を延々と続けてしまったりという事を軽減することができます。

CRPは、炎症性疾患、感染症、腫瘍がある場合に高値となることが多く、特に全身に影響が及ぶ疾患において顕著です。例えば子宮蓄膿症、膵炎、特発性多発性関節炎、無菌性結節性脂肪織炎などの感染性あるいは炎症性疾患、血管肉腫やリンパ腫といった腫瘍の症例において、高い割合でCRPの高値が認められます。また、免疫介在性溶血性貧血やバベシア症においても、CRPが上昇することが知られています。一方で、膀胱炎や鼻炎、平滑筋肉腫などの、病変が限局的である場合はCRPの上昇はみられません。以前は外注検査でしたが、現在では院内で測定が可能です。

こちらもご参照下さい
No.331 子宮蓄膿症(Pyometra)
No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)

本年もよろしくお願いいたします。


No.460 肺高血圧症 (Pulmonary hypertension:PH)

肺高血圧症(PH)とは肺動脈壁の弾力性低下や硬化を特徴とする進行性の病態であり、肺動脈の血圧が持続的に上昇している状態を指します。これは疾患の名前ではなく病態を表す名称です。小型犬によく起こり、猫などその他の動物では稀です。PHは様々な病気によって引き起こされます。進行してから見つかることが多く、無症状の場合もありますが、安静時の頻呼吸、発咳、運動時に疲れやすいなどが初期症状です。病態が進み重度になると、失神、チアノーゼ、腹水などが生じます。心臓病や慢性的な呼吸器症状のある場合にはPHを合併している可能性があります。進行すると治療が困難なため、早期の発見が大事です。

犬のPHを引き起こす病態は主に3つです。
・肺血流量の増加 (先天性短絡性疾患など)
・肺血管抵抗の増加 (肺疾患、フィラリア症、特発性肺高血圧症など)
・肺静脈圧の増加 (左心不全など)

さらにACVIM(アメリカ獣医内科学会)のガイドラインではPHの原因を以下の6つに分類しています。
1.肺動脈性PH:特発性肺高血圧症、薬剤誘発性、先天性短絡性心疾患(動脈管開存症、心室中隔欠損症など)
2.左心疾患に伴うPH:心筋症、僧帽弁粘液腫様変性(僧帽弁粘液腫様変性の犬の14~31%は肺高血圧症を合併しており心不全犬での合併率は約70%に上ります)
3.呼吸器疾患・低酸素血症に伴うPH:咽喉頭疾患、気管・気管支虚脱、気管支拡張症、肺実質性疾患(肺線維症、好酸球性肺炎、細菌性肺炎、肺腫瘍)
4.血栓性・閉塞性疾患に伴うPH:肺血栓塞栓症
5.寄生虫性疾患に伴うPH:フィラリア症
6.他因子または原因不明の肺高血圧症:甲状腺や上皮小体の異常、肥満、その他

PHの確定診断には心臓カテーテル検査が必要ですが、この検査は全身麻酔が必要です。臨床診断は症状と以下の様な検査を用いて総合的に行います。
症状
初期:無症状、疲れやすい、安静時・運動時の頻呼吸や努力呼吸、発咳
中期:低酸素血症に伴うチアノーゼ、失神
末期:右心不全に伴う肝腫大、腹水
SPO2測定
PHでは低酸素血症が起こるため、血中の酸素濃度が低下し息苦しくなります。この検査では小さなクリップを耳や指先に挟み、動脈中の酸素濃度を測定します。測定値が≧95%だと正常ですが、<95%は異常です。
胸部レントゲン検査
PHの原因となる呼吸器疾患や心不全の有無を評価するために実施します。拡大した肺血管や後大静脈、肝腫大などが認められる場合には肺高血圧症の可能性があります。
超音波検査
PHでは肺動脈圧と共に右心室圧が上昇し、結果として三尖弁逆流が高率に発生します。三尖弁逆流がある場合は逆流速度から収縮期肺動脈圧を推定することでPHの診断が行えます。ヒトでは安静時の平均肺動脈圧が≧25mmHgの時にPHと診断されますが、犬では肺動脈圧が≧45mmHg(三尖弁逆流速度>3.4m/sec)の時にPHと診断します。この基準は初期のものは見逃されるかもしれませんが、治療が必要な状態を検出することができます。さらに進行した場合は右心室内腔の拡大と心室中隔の扁平化、肺動脈の拡大、腹部では腫大した肝臓に加え、肝静脈の拡大が認められます。ガイドラインでは三尖弁逆流速度に加え、以下に示すような所見と合わせて診断することを推奨しています。

治療はPHを引き起こす基礎疾患の治療を優先して行い、加えて肺動脈圧を低下させ症状を緩和させるため肺動脈拡張薬も使用します。予後は基礎疾患によって様々です。肺腫瘍や肺線維症の場合には数週間で亡くなることもあります。左心不全では1年後の生存率は50%以下です。重度になると有効な治療法がないため早期発見が重要です。


No.459 水晶体脱臼

水晶体は眼球の中間部に位置しており、網膜にピントをあわせるために必要な重要な組織です。カメラの絞りに例えられる毛様体から連続するチン小帯という組織が360°付着しており、遠くを見たり近くを見る際にチン小帯を通じ、水晶体を伸ばしたり縮めたりすることで網膜に焦点を合わせています。ヒトでは様々な原因によってチン小帯の脆弱化が生じ、チン小帯が断裂することで水晶体の位置が本来の中心の位置からずれることがあります。水晶体の偏位が軽度である場合を水晶体亜脱臼といい、完全に偏位している場合を水晶体脱臼といいます。

動物においても、水晶体亜脱臼や水晶体脱臼が生じます。特にテリア種を中心とした犬種においてチン小帯の断裂が生じやすい遺伝的な素因があるとされ、原発水晶体脱臼(PLL)を生じることが報告されています(他の品種でも起こります)。またぶどう膜炎や緑内障、外傷といった様々な疾患に続発して水晶体脱臼が生じることもあります。

水晶体脱臼では、水晶体は本来の位置から様々な場所に偏位し、それぞれ症状が違います。硝子体側(眼の奥側)へ偏位する水晶体後方脱臼では、後部の眼内組織である網膜に障害を与え、網膜剥離を生じる危険性があります。また前房へ偏位する水晶体前方脱臼は、緑内障や角膜浮腫を引き起こすだけでなく、強い疼痛を生じるため、緊急的な治療(多くは外科手術)が必要です。


犬の水晶体前方脱臼


No.458 フェレットの脱肛

肛門から赤色をした粘膜や直腸下端の一部が脱出すること脱肛と言います。正常な動物でも排便時に腹圧がかかることにより、一時的な肛門の脱出がしばしば見られます。通常は排便後に自然に戻ります。 肛門の脱出が習慣となり、元に戻らない状態になったものが、疾患としての脱肛と定義されます。

フェレットの多くの個体は幼体期に肛門脇にある2つの臭腺を除去する手術を受けています。この臭腺を取り除いたがために、肛門括約筋に余裕が生じ排便時に脱肛しやすくなると考えられています。軽い脱肛であるならば自然と治まることもありますし、軽度だと軟膏などを塗って粘膜の炎症を抑えるようにすると治ることもあります。しかし、繰り返す場合は外科手術が適応となります。また、逸脱した粘膜にブドウ糖シロップなどを塗り、浸透圧差で腫張した粘膜が萎む作用を利用して指や綿棒で押し込む方法が良いなどと書かれているサイトがありますが、とても痛い処置です。そもそも良くはならないので絶対にやらないでください。

外科手術は、粘膜を中に入れて肛門周囲を巾着縫合します。多くは1~3週間後に抜糸すると完治します。巾着抱合で上手くいかない重度の場合は、開腹して大腸を腹壁に縫う手術を行います。


脱肛は痛いです


No.457 短頭種気道症候群(Brachycephalic Airway Syndrome:BAS)

フレンチブルドッグ、イングリッシュブルドッグ、パグ、ペキニーズ、ボクサー、ボストンテリア、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、狆などの犬種を短頭種と呼び、その多くは、口吻部(マズル)、鼻孔、鼻腔、喉頭などの上気道の形態が原因で、閉塞性の呼吸を示す傾向があり、この一連の呼吸器疾患の病態を、短頭種気道症候群(Brachycephalic Airway Syndrome:BAS)と呼びます。ペルシャ、ヒマラヤン、マンチカン、ブリティッシュショートヘア、スコティシュフォールドなどの猫の短頭種にも似た病態が起こります。

原因は先天的に、軟口蓋過長、外鼻孔狭窄などの呼吸の妨げとなる形態異常を持ち、これにより慢性的に声門に過剰な吸気時陰圧がかかることで、喉頭小嚢反転などの二次的な形態異常が起こります。さらに重症化すると最終的には喉頭虚脱気管虚脱などを引き起こします。BASは慢性的に進行する疾患です。

BAS犬の多くは生後間もない時期から、スターター(興奮したときや運動時にズーズーといった鼻が詰まったような呼吸音)や、ストライダー(ガーガー、ブーブーといった喉に引っかかったような呼吸音)が生じます。子犬時に仰向け姿勢を好む傾向も初期兆候です。症状が悪化することで、鼾の悪化、無呼吸症候群と発展し、努力性呼吸(胸を激しく動かすような呼吸)、運動不耐性(少し動くだけで息が上がって、動けなくなる)の発現、最終的にはチアノーゼや呼吸困難になってしまい命にかかわってきます。また、呼吸器徴候の重症化に伴い、消化器徴候の発生および重症化も示唆されています。これらの症状は成長と共に悪化します。肥満も悪化因子です。猫の場合は、長期間の努力呼吸によって肋骨の骨折が認められることあり、抱っこを嫌がるといった症状が出ることがあります。

動物が苦しそうに呼吸し、それが時間の経過とともに悪化する様子があれば早期に積極的な外科治療が必要です。症状の軽いうち(4~24ヵ月)に予防的な手術をすることが推奨されますが、多くの場合症状が深刻化してから来院される傾向があります。術前に上気道の異常を詳細に評価し、過長軟口蓋切除、鼻孔狭窄の矯正、喉頭小嚢切除などの術式を選択します。上気道閉塞が深刻化した患者は麻酔に関連した気道閉塞や窒息、麻酔後の合併症による死亡事故率が高いことが知られています。BASが深刻化する前に麻酔、手術をすることが推奨されます。


軟口蓋過長

外鼻腔狭窄

以下もご参照ください
No.392 鼻腔狭窄
No.101 気管虚脱と軟口蓋過長症2 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)
No.100 気管虚脱と軟口蓋過長症1 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)


No.456 毛包嚢胞

毛包嚢胞は、通常直径0.5-2.0cm程の犬の皮膚に比較的よく見られる腫瘤の1つです。他の動物種でもみられます。発生年齢は中高齢で多い印象がありますが、きちんとした疫学はありません。触診所見は比較的硬いことが多く、見た目は通常皮膚から隆起しています。体表のしこりに飼主さんが気付かれる場合や、トリミングなどで見つかる場合、健康診断などで偶然に発見される場合が多いです。

診断はFNA(針生検)で行います。角化物が採取されて、炎症や悪性腫瘍を示す細胞がないといったものになります。実際には他の毛基質由来の腫瘍(皮内角化上皮腫など)の可能性もあります。いずれにしてもその多くは良性病変です。確定診断は外科手術で切除した腫瘤を病理検査で確定する組織生検が必要です。

治療は、薬で消える様なものではないので外科手術になりますが、悪性のものではないので、通常は月1回毎くらいの経過観察で十分です。しかし、急に大きく成長したり、自潰したり、動物が気にする様ならば外科的切除をお勧めしています。良性病変ですから腫瘤の周りを大きく採る必要はありません。できた場所にもよりますが、多くは局所麻酔での処置が可能です。個体差がありますが、多発する場合もあります。また、稀ですが自分の免疫力で消えてしまう場合もあります。


犬の皮膚にできた毛包嚢胞

こちらもご参照ください
No.382 皮膚のしこり(結節)2
No.381 皮膚のしこり(結節)1
No.296 生検
No.215 犬の皮膚腫瘤


No.455 マイボーム腺

マイボーム腺とは、まぶたに存在する涙の油分を分泌する器官です。涙が蒸発するのを防ぐ重要な働きをしています。このマイボーム腺が腫瘍化したものをマイボーム腺腫といいます。中高齢の犬でしばしば見られる腫瘍でほとんどが良性です。しかし、大きくなってくると角膜に刺激を与え痛みや炎症の原因となります。皮脂腺腫が多いです。

マイボーム腺腫の治療は、一般的に全身麻酔下で腫瘍を切除して治療します。腫瘍が発生した瞼を一部切除した後、瞼を細めの糸で縫合します。この時、眼球に縫合糸が当たってしまうと眼に傷がついてしまうので縫い方に少し工夫が必要です。眼瞼の1/4-1/3くらいまでの大きさなら手術は大変ではありませんが、それ以上になると、他の部位の皮膚で眼瞼を形成する必要があり手術が頻雑になります。とくに腫瘍が角膜表面に当たってしまっている場合は早目の治療が必要です。小さい内はレーザーメスで簡単に終わる場合もあります。手術後は自分で擦ったり掻いてしまわないように、縫った傷が治るまではエリザベスカラーの装着が必要です。

また、マイボーム腺に細菌が感染して炎症を起こしたものを麦粒腫(ものもらい)、マイボーム腺が詰まって炎症を起こしたものを霰粒腫といいます。麦粒腫の治療は抗生剤の点眼、霰粒腫はマイボーム腺を絞り出したり、状況によっては外科的切開を行います。


霰粒腫

こちらもご参照ください
No.330 眼瞼腫瘍


No.454 軟部組織肉腫 (Soft Tissue Sarcoma ; STS)

軟部組織肉腫(STS)は動物の悪性腫瘍の1つのグループで、線維肉腫、血管周皮腫、神経鞘腫、脂肪肉腫などいくつかの腫瘍が含まれます。これらの腫瘍は共通した特徴を持っているので、軟部組織肉腫(STS)というくくりで診断され治療が行われます。

STSは高齢の犬に多く、主に胴体や足などの体の表面に発生し、いわゆる「しこり」として気付くことが多いのですが、体内にできることもあります。通常STSは痛みを伴いませんが、発生部位や大きさによっては周囲の臓器などに影響を与え、様々な症状が出ることがあります。

STSは根が深く(局所浸潤性が強いといいます)、再発率が高いです。この腫瘍からは目に見えない根が周囲に伸びています。見えて触れるしこりだけを手術で取っても根が残ってしまい再発します。また、腫瘤が大きい方、固くくっついているものの方が、悪性度が高い傾向にあります。悪性度によって異なりますが、比較的転移が起こりにくいという特徴も持っています。つまりSTSは、根が深く広いためそれを手術で全部取るのは大変ですが、転移が比較的起こりにくいため十分な手術ができれば完治することもめずらしくない悪性腫瘍です。

診断の最初はFNA検査(針吸引検査)です。その結果、STSが疑われたら、レントゲン検査、超音波検査、場合によってはCT検査で転移の有無や手術計画を立てます。

治療で最も重要なものは外科手術です。最初の手術でいかに腫瘍を取りきるかが大切です。すでに転移を起こしている場合、手術が難しい場合、悪性度が高い場合などに放射線治療や抗癌剤治療なども行われますが効果は低いです。早期に発見・診断して、しっかりとした手術を行うことが推奨されます。


STSは根が深いです