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No.473 ジャーキーの過剰摂取

ジャーキーの過剰摂取により犬や猫に腎疾患(ファンコーニ様症候群)が起こることが知られています。最初はアメリカからの報告でしたが日本でも確認されています。なぜかあまり報道されていませんが中国の工場で作られたものに多いとされています。大手メーカーでも中国の工場で生産されている製品に注意して下さい。袋の裏面まで見ないとわからない場合が多いです。

ファンコーニ症候群とは腎臓の近位尿細管障害により糖やアミノ酸、が尿中に排泄されてしまう状態を言います。遺伝性疾患(バセンジー)の他には何らかの腎障害を引き起こす物質の摂取や感染症が原因となります。初期には多飲多尿がみられますが、高血糖をともなわない尿糖が起こるため他に血液検査に異常がないことが多く、進行していくと体重減少や毛艶の悪さ、元気消失、食欲不振、嘔吐などの腎不全の症状が見られます。また、尿糖により膀胱炎などの尿路の感染症も起こりやすくなります。重症化しなければ、通常摂取を止めると2~3ヶ月で治癒しますが、重症になると死亡例も多くあります。

ジャーキーの過剰摂取に関しての腎障害の原因物質は明らかにされていませんが、おやつの与え過ぎには注意しましょう。また、とくに安い製品には注意して下さい。


大手メーカーの製品も生産地に注意です

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No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.119 テフロン (Teflon)
No.9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬


No.472 ヒトの薬で犬や猫にとって危険なもの

ヒトの薬やビタミン剤の中には、犬や猫にとって危険なものも多いです。ASPCA (米国動物虐待防止協会 中毒事故管理センター)が発表した危険ランクの高いものをご紹介します。

1.非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)
イブプロフェン、ナプロキセンなどで、症状は胃腸の潰瘍、猫は腎臓にもダメージを受けます。 少量でもとても危険です。約4.5キロの犬の場合4錠で深刻な腎臓障害がでるという報告があり、鎮痛、解熱剤などで、多くの市販薬に使用されています。有名な薬はエスタックイブ、コルゲンコーワなどです。

2.アセトアミノフェン (Acetaminophen)
犬は肝障害、服用量によっては赤血球がダメージを受けます。猫では赤血球にダメージを受け、酸素供給能力に支障をきたします。特に猫に影響が出やすく、効き目の強いタイプの錠剤1錠で致命傷となります。解熱鎮痛薬の1つで、発熱、寒け、頭痛などの症状を抑える解熱剤、鎮痛剤として用いられる薬物の主要な成分です。バファリン、ルル などにも入っているメジャーな鎮痛剤の成分です。

3.合成エフェドリン、偽エフェドリン、プソイドエフェドリン、シュードエフェドリン (Pseudoephedrine)
心拍の増加、血圧・体温の上昇を起こします。鼻詰まり緩和のための薬に入っています。花粉症対策のための薬などにも使用されている場合があります。

4.抗うつ剤、抗うつ薬 (Antidepressants)
嘔吐、無気力、高体温、血圧と心拍の増加、失見当、鳴く、震え、発作などを起こします。少量でも危険です。当院では1番多い中毒です。

5.ビタミンD誘導体 (Vitamin D derivatives)
嘔吐、食欲不振、腎不全のによる頻尿などが起こります。皮膚疾患の治療の1つである皮膚外用療法に用いられる医薬品です。

6.抗糖尿病薬 (Anti-diabetics)
血糖値の低下による発作が起こります。

7.メチルフェニデート 興奮剤 (覚醒剤Methylphenidate for ADHD)
ナルコレプシーや18歳未満の注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者さんに対して使われるアンフェタミンに類似した中枢神経刺激薬です。心拍の増加、血圧・体温の上昇、発作、呼吸停止が起こります。

8.フルオロウラシル (Fluorouracil)
犬で、厳しい嘔吐、発作、心臓停止を起こします。フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、抗悪性腫瘍薬です。犬にとってはわずかでも危険です。

9.イソニアジド (Isoniazid)
犬で厳しい発作による死亡の恐れがあります。結核の予防や治療の第一選択薬である有機化合物で、とくに犬は代謝できないため危険です。

10.バクロフェン (Baclofen)
症状は、鳴く、発作、昏睡(死亡の恐れ)です。中枢神経系を弱める筋弛緩薬で、神経・細胞膜などに作用して筋肉の動きを弱めます。

7以下は、通常の生活ではまず無い事故でしょうが、市販薬の風邪薬、花粉症の薬、抗精神薬には十分に注意して下さい。万が一犬や猫が摂取してしまったら、様子を見ずにすぐに受診して下さい。


市販薬にも注意して下さい

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No.471 ウサギの子宮疾患

ウサギの子宮疾患は、子宮内膜炎、子宮水腫、子宮蓄膿症、子宮腺癌、子宮平滑筋肉腫、腺扁平上皮癌などがあります。不妊手術をしていない4~5歳以上で多く発症が見られます。ある程度進行しないと症状を見せないため、なかなか気が付きにくい疾患の一つです。

一番多い症状は血尿です。血尿は尿全体が赤くなったり、尿の中に血の塊がみられたり、鮮血が陰部から出てきたりと程度や状態は様々です。持続的に血尿がみられることは稀で、時々血尿になったり普通の尿になったりを繰り返すことが一般的です。また、初期には一過性のことも多く様子を見てしまいがちです。乳腺の腫れや腹部膨満などの症状が見られることもあります。重症になると元気や食欲がなくなってきます。

診断は超音波検査で行います。あまり大きくなってない子宮の場合は判断が難しい事もあります。また、レントゲン検査や血液検査も行い、他の病気との区別や重症度の判定を行います。

治療は、抗生剤や止血剤などで症状の改善がみられることもありますが、内科療法で完治させることは困難です。放置すると腹腔内出血や腹水貯留、播種性血管内凝固症候群(DIC)などを起こし、手遅れになってしまうこともありますので、なるべく早期に卵巣子宮摘出手術を行います。病気が進行し貧血や多臓器に癒着を起こしてしまうと手術のリスクが高くなります。確定診断には摘出した卵巣・子宮の病理診断が必要です。

予後は原因よって異なりますが、早期発見して手術・治療をして、悪性のものではなかった場合はほとんどの予後は良好です。また、若いうちに不妊手術しておくことで病気の予防に繋がります。肥満している場合には麻酔や手術のリスクが高くなるので、年齢とともに子宮の周囲にたくさんの脂肪を蓄える傾向があることや、年齢とともに他の病気にかかる確率も高くなることを考えると、不妊手術は、性成熟後の6ヵ月~1歳齢くらいがオススメです。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
ウサギの子宮の腫瘍

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No.286 不妊手術(Spay)
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No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)


No.470 心臓腫瘍と心タンポナーデ

心臓腫瘍は、犬では血管肉腫や大動脈小体腫瘍が多く、猫では発生自体が稀ですがリンパ腫が多いとされています。いずれの腫瘍でも腫瘍による圧迫や腫瘍細胞の浸潤で正常な組織が減ることで心臓の働きが悪くなりますが、心タンポナーデという状態になり、急に元気や食欲がなくなってしまうことも少なくありません。心臓は心外膜という膜に包まれており、心タンポナーデではこの心外膜と心臓の間に急速に液体(多くの場合は腫瘍から出血した血液)が溜まり、心臓が十分に拡がることができなくなり、結果として血液を十分に送り出すことができなくなります。心タンポナーデは心臓腫瘍だけではなく、僧帽弁閉鎖不全症時の心臓破裂や明らかな原因の認められない特発性心膜液貯留など他の原因によっても起こります。

血管肉腫は、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーなどの大型犬に多く発生し、心臓での好発部位は右心耳または右心房で、心膜腔側に突出して拡大するのが一般的ですが、右心房内腔へ突出したり、心基部など他の領域を巻き込みながら拡大することもあります。

大動脈小体腫瘍は、ブルドックやフレンチブルドックなどの短頭種での発生が多く、慢性的な低酸素との関連が指摘されています。比較的ゆっくり大きくなるので症状を示さないこともあり、多くは偶発的に発見される腫瘍です。大動脈小体は、大動脈起始部に存在する抹消性化学受容器の一種であり、動脈血液中の酸素分圧をモニタリングしています。その解剖学的特徴から健康診断などでは発見されにくい特性があります。

心臓腫瘍の症状は、心臓腫瘍による心臓への圧迫や腫瘍組織の浸潤で心臓の働きが悪くなると、疲れやすくなったり、むくんだり、お腹や胸に水が溜まったりします。心タンポナーデになると、急に動けなくなり、歯肉や舌などの色が薄く悪くなり、呼吸促迫、不活発、起立困難などがみられます。急速な低血圧で嘔吐する場合もあります。また、循環不全に陥り、失神、虚脱、呼吸困難となり突然死するケースもあります。

心臓腫瘍は完全切除が難しい場合が多く、腫瘍自体にもよりますが、多くの場合化学療法や代替医療の使用で緩和を目指します。また、働きに悪くなった心臓をアシストするための内服薬を使用する場合もあります。

心タンポナーデの状態では心膜を針で刺して心臓の圧迫の原因となっている液体を抜去します。そうすると一時的には心臓は圧迫が解除され働きは改善しますが、心臓腫瘍が原因の場合には繰り返し心タンポナーデを発症する事が多く、その際には手術で心臓を包んでいる心膜を切除することを検討します。心膜切除を実施する際には、腫瘍の一部を生検し、腫瘍の種類を特定することで予後の見通しの確認や治療法の検討に役立てることができます。一部の腫瘍では経過の長いものもありますが、一般的には心臓腫瘍の予後は良くありません。


心臓腫瘍の超音波

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No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)


No.469 水腎症

水腎症は、尿を腎臓から膀胱へと輸送する尿管の通りが悪くなり、腎臓内部に尿が溜まって膨らんでしまった状態です。

主症状としては、お腹が張って見えたり、血尿、頻尿、腹部や腰部の疼痛、食欲不振、発熱などがみられる場合もありますが、症状を示さない事も多いです。その他にも、多飲多尿、食欲不振、嘔吐、削痩、脱水などが見られることがあります。

水腎症には、先天性のものと後天性のものがあり、先天性の水腎症は、腎臓や尿管の奇形などによって起こります。後天性の水腎症で最も一般的な原因は尿路の閉塞で、結石や腫瘍、雌の場合は不妊手術の影響などによる腎臓や尿管の閉塞に関連したものが多くみられます。

治療としては、原因となっている疾患、腎不全を起こしているかどうかによって異なります。結石や腫瘤の摘出など、尿路の閉塞を取り除くための外科的な処置が必要となる場合もあります。片側性の水腎症で、腎臓に重度の感染や腫瘍があったり、腎臓が巨大化して他の臓器を圧迫していたりする場合などは腎摘出を検討します。腎不全の症状がある場合には、その治療を行います。

予防方法としては、定期的な健康診断で尿路閉塞の原因となる疾患を早期発見、早期治療することが重要です。特に腎結石や尿管結石などがある場合は注意が必要です。また、尿路が完全閉塞を起こすと、数時間~数日という短期間のうちに急激に腎臓の機能が低下することもあるので注意が必要です。


水腎症の超音波所見


No.468 木天蓼(またたび)

「猫に木天蓼(またたび)」ということわざがあるように、多くの猫はまたたびが好きです。猫はまたたびを与えると陶酔したように楽しく動き回る姿を見せます。そういった行動は非常に可愛らしいものですが、与え方を間違えると危険です。

またたびとは、マタタビ科マタタビ属の木で山に自生しています。またたびの木には、正常な実と虫癭果(ちゅうえいか)と呼ばれる実の2種類がなります。猫が好むとされているのは虫癭果で、ハエやアブラムシが実に卵を産み付けることで変形したものです。表面がつるんとした楕円形の正常な実に対し、虫癭果は表面が凸凹としています。またたびは夏梅とも呼ばれ、6月頃から葉っぱが白くなり梅に似た白い花が咲きます。

商品としては、枝や実、粉末やスプレー状のものなどが市販されており、猫が舐めたり匂いを嗅いだりすることで反応が起きます。またたびによる反応は、猫の上顎にあるヤコブソン器官(フェロモンを感知する器官)が、マタタビラクトンやアクチニジンといった成分を感作することにより引き起こされます。これらが中枢神経に作用し、転げ回ったり走り回ったりといった酔っ払った陶酔したような姿を見せます。一時的なもので依存性はほとんどないとされています。

反応には個体差がありますが、使いどころには以下の様なものがあります。

ストレス解消:一時的に活発になり、運動することでストレス解消が見込めます。運動不足解消におすすめです。

食欲増進:食欲が少し落ちている時に効果が期待できます。しかし、食欲不振は病気の可能性もあるので、様子がおかしい場合は早めに病院に連れて行ってください。

老化防止:猫は食事をする時にあまり咀嚼をしないので、またたびの入ったオモチャをかじることで脳が刺激を受け、老化防止につながると言われています。

このような良い効果が期待されるまたたびですが、与え方を間違えると危険性もあります。大量に与えすぎると、中枢神経が麻痺を起こし呼吸困難になってしまうことがあります。また、飼い主さんが出かけている時に、猫がまたたびを見つけて丸呑みしてしまうなどの事故にも気を付けて下さい。他にも、またたび入りのオモチャが壊れて中の粉末が出てきてしまうなどの事故により過剰摂取をしてしまうケースは少なくありません。このような事態を防ぐためには、与え方や保管場所に注意しておく必要があります。

また、粉末、液体、実、枝の順で作用の強度が高いとされています。強度によって適量が変わります。最初は少し嗅がせる程度から始め、個体差があるので、様子を見ながら少しずつ量を増やしていき適量を判断しましょう。幼猫のうちは与えない方が良いです。体内の器官が十分に発達していないとパニックを起こす可能性があります。また、老猫や心臓に疾患がある猫にも体に負担をかけてしまうので与えない方が無難です。

与え方は、匂いを嗅がせる方法と直接食べさせる・舐めさせる方法があり、それぞれ特徴があります。匂いを嗅がせる方法は刺激は弱いですが長続きします。オモチャに入れるのが一般的です。直接食べさせる・舐めさせる方法は、刺激は強いものの効き目が短いです。美味しそうに舐めることがありますが、上顎のヤコブソン器官に擦り込んでいると考えられていて、飲み込むとすぐに効果が薄れます。毎日だと効果が薄れていくので、しつけのご褒美といった特別な時に与えるなどが良いです。


またたび(夏梅)の花


No.467 犬の唾液腺嚢胞

唾液腺嚢胞は唾液を産生する組織(耳下腺、下顎腺、舌下腺)や唾液を輸送する管に破綻が生じ、唾液が皮下などにたまって唾液瘤(コブ状のもの)を形成する疾患です。犬に多く、猫にもまれに起こります。舌下に溜まってしまう場合には、ガマガエルののど袋のような外観になることからガマ腫と呼ばれます。下顎から首回りに唾液瘤ができるものを一般的に唾液腺嚢胞と呼びます。

外傷などによるものや唾石が管に詰まってしまう場合もありますが、原因が特定できないこともあります。一部の犬種では遺伝的な影響も考えられています。リードなどにより頸に無理な力がかからないよう努めることや、口腔内を刺激するおもちゃや歯磨きなどで、唾液腺の導管を傷つけないように注意することが肝要です。反対側に症状が起こる場合もあります。

症状は、喉元や首周りにコブ状の腫れ、波動感のある(ブヨブヨとして液体のような)無痛性の腫瘤、FNA検査(針吸引検査)すると白血球を少量含んだ粘稠性唾液が採集されるなどですが、炎症の存在や大きさにより臨床症状が異なります(痛み、嚥下困難、呼吸への影響など)。レントゲン、CT検査などにより、他の組織(リンパ節など)への炎症の波及や腫瘍との鑑別が必要ですが、確定診断は摘出して病理検査を行うまでわからない場合もあり、実は癌だったという例もあります。

導管の破綻部位を特定することは通常困難で、漏出を起こしている部位の唾液腺を外科的に摘出することで治療します。同時に付随する導管も出来る限り分離し取り出します。通常、手術による合併症は少なく、適切に原因が除去されれば予後は良好ですが、再発や残った唾液腺が嚢胞化することもあります。大きくなると手術も大がかりになります。なるべく小さな内の外科手術が推奨されます。


大きくなった犬の唾液腺嚢胞


No.466 誤嚥性肺炎と歯周病

誤嚥とは唾液や食物、胃液などが気管に入ってしまうことをいいます。肺炎と誤嚥性肺炎は原因が異なります。肺炎は細菌や真菌やウイルス、アレルギーなどによって気管や気管支、肺胞などに炎症が起こる疾患です。一方、誤嚥性肺炎は誤嚥によって口腔内の細菌が食べ物と一緒に肺に入り込み炎症が起こる状態です。この誤嚥性肺炎は主に高齢動物に多く見られます。また、寝たきりの状態になるとよく起こります。

通常、食べたものは食道を通って胃に送られ消化されていきます。誤嚥性肺炎は食物が誤って気管に入り込んでしまい生じます。健康な動物でも唾液が誤って気管に入ってしまうことがありますが、嚥下反射という反射機能が働き、むせ返る程度で通常は大事に至りません。しかし高齢動物は嚥下反射の力が低下していて誤嚥が起こりやすくなっています。

口腔中には多くの細菌がいて、その中には肺炎を引き起こす細菌も含まれています(主に嫌気性菌)。不衛生な口腔内では、唾液の誤嚥によって肺に細菌が入り込んでしまうことで肺炎を引き起こす事があります。その細菌の代表格が歯周病菌です。歯周病は加齢とともに増加し、高齢動物のほとんどが歯周病に罹患しています。歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こすのは、肺炎の原因菌が肺や気管支に棲みつくのを助けるからといわれています。

また、歯周病時は歯肉に炎症が起こり炎症性物質が放出され、歯肉の毛細血管から全身に入り、様々な病気を引き起こしたり悪化させる原因となる事も知られています。炎症性物質は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせ糖尿病のリスクを上げます。また、早産や低体重児出産などの出産のトラブルや、肥満、動脈硬化による心臓病、脳梗塞にも関与しています。このように、歯周病は口腔内のトラブルだけにとどまらず、様々な疾患の原因、悪化要因となります。日頃のプラークコントロールと、定期的な歯石除去で口腔内を清潔に保ちましょう。


歯周病は誤嚥性肺炎の原因になります

こちらもご参照下さい
No.445 誤嚥性肺炎
No.367 無麻酔歯石取りの危険性
No.359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏
No.248 スケーリングと犬の寿命
No.134 プラークコントロール (Dental plaque control)
No.108 高齢動物の歯の疾患
No.98 歯周病2 (Periodontal disease)
No.97 歯周病1 (Periodontal disease)

農林水産省の犬の歯石除去に対する見解
農林水産省のウェブサイトに、犬の歯石除去に対する見解が掲載されました。
小動物獣医療等に関するよくある質問:農林水産省 (maff.go.jp)


No.465 インコの毛引き症

毛引き症とは、その名の通りインコが自ら毛をむしったり噛んでしまい、脱羽や出血、傷を負ってしまう問題行動を指します。原因は病気からの場合とストレスがあります。とくにストレスが問題になる場合が多く、遺伝や幼鳥時の母鳥との関係も影響するといわれています。毛引きは癖になり習慣化してしまうと羽毛が減り、体温調節がしにくいなどの弊害が出てきます。

・病気
毛引きを発見した際には、まず、病気や怪我が無いか確認します。皮膚炎やダニなどの寄生虫による痒みや痛みで違和感を感じている場合があります。また、甲状腺能低下症や栄養障害、ウイルス感染が原因の場合もあります。

・ストレス
野生の鳥類は仲間とコミュニケーションを取り、自由に飛んだり獲物を捕まえ、生きていくため忙しく動き回っているので滅多に毛引きしませんが、飼育下では暇を持て余し、コミュニケーション不足や運動不足からストレスを抱え込みやすく毛引きするといわれています。多くは心因性のストレスが原因です。原因を特定して取り除いてあげることが必要です。鳥類は外部の刺激にストレスを感じやすく、そのままの状態が続くと衰弱して突然死する場合もあります。他の動物と飼育スペースが同じ、体調不良、騒音や温度変化など様々な事が原因となります。常習化してしまうと原因を取り除いても、症状が無くならない場合もあります。また、神経質だったり臆病だったりすると、些細な事にもストレスを感じ毛引きを続ける様になります。飼主さんが日常的にコミュニケーションを取り、行動パターンや性格を把握して、それぞれに合った飼育スタイルにする事が大切です。

毛引き症に至るストレスの原因として、よくあるものをご紹介します。
・発情
発情期は気持ちが不安定、神経質になりイライラしやすくなります。そんな状態を発散させようと毛引きが始まる場合があります。発情行動は生後6ヶ月をくらいから見られ、季節に関係なく発情期になるインコもいれば、野生と同様に春先と秋口に発情する場合もあります。発情期の特徴としては、動きが活発になり陽気に踊るような仕草を見せたり、鳴き声が激しくなる場合もあり、細かい仕草には違いがありますが、落ち着きなく動きが大きくなりピョンピョン跳ねます。また、飼主さんに対して攻撃的になる場合もあります。興奮状態で自分の気持ちをコントロールできなくなり毛引きを行います。1年中発情期の状態が続くと発情過多となり、体調不良や寿命を縮める要因にもなります。落ち着いて生活できる様に、複数飼育の場合、別々の部屋を用意することが必要な場合もあります。
・退屈・暇
飼育下では運動不足になりやすく時間を持て余しがちです。お腹もいっぱいで特にやることもない状態になると、退屈になり毛引きが始まる場合があります。暇で退屈な状況を回避するため、放鳥したり、コミュニケーションを取る、おもちゃを与えるなども大切です。インコによっては構いすぎてしまうと、逆にストレスになってしまうことがあるので注意が必要です。性格や好みを考え、適度な距離感でコミュニケーションを取りましょう。
・寂しい
インコはヒトに慣れ、おしゃべりしたり、手乗りになったりと愛嬌のある姿を見せてくれます。甘えん坊の場合は、飼主さんが長時間家を開けた状態でいると寂しさから毛引きします。長時間1羽だけでいる状況はストレスが溜まりやすく刺激もないため毛引きが起きやすくなります。留守番の時間が長くなってしまう場合は、おもちゃや齧り木を入れておくなどケージ内の工夫をしましょう。ご家族の中で早めに帰れる方がいればお留守番する時間をなるべく短くしてあげるのも良いです。

治療の第一はストレスの原因を取り除き、良い環境で飼育することです。栄養バランスのとれた食事と十分な睡眠、適度なコミュニケーション、放鳥などの運動も必要です。また、部屋の温度管理、発情しにくい環境作りもポイントです。毛引き症になるインコは怒りっぽい場合が多いですが、ほとんどは不安やイライラからの影響です。神経質で臆病な性格の場合は、ドアの開閉音や車の音にもストレスを感じます。静かな風通しの良い適度に日の当たる場所にケージを設置し、おもちゃや齧り木なども使用します。

薬物治療は一時的に症状をよくする場合はあっても完全には治りませんし、安全性も証明されていません。エリザベスカラーも1つの方法ですがストレスの原因となる場合があります。当院では、生活の改善とともに代替医療(ホメオパシー、音響療法、漢方薬など)をおすすめしています。症状が出てからの時間の経過が長いと治療にも時間がかかります。毛を抜きやすい箇所として、胸や羽の付け根、肢などがあげられます。健康な時でも時々ボディーチェックをして早めに発見してあげるのが大切です。

毛引き症の治療は時間がかかります

以下もご参照下さい
No.405 小鳥の出血
No.354 病気の小鳥のご家庭でのケア
No.217 小鳥の卵詰まり
No.91 小鳥の基本


No.464 猫伝染性腹膜炎 (Feline infectious peritonitis: FIP)

 猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫で見られるコロナウイルス科の猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染症で、全年齢の猫で発症がみられますが、多くは1歳未満の幼猫で発症します。以前は発症するとほぼ100%亡くなってしまう非常に恐ろしい病気でした。発症の仕組みは現在でもきちんと解明されていませんが、コロナ渦でコロナウイルスの治療薬に対する研究が進み、早期に発見して治療を行えば、現在では80-90%の猫ちゃんを救命できるようになりました。

 猫腸コロナウイルス(FECV)は猫の腸管の上皮細胞で増殖します。病原性は比較的低く、感染しても症状を示さないことや症状はあっても軽度の下痢程度であることがほとんどで、糞便や鼻汁などを介して他の猫に伝染します。このウイルスが猫の体内で突然変異すると、FIPVが発生します。こちらは病原性が非常に強く、感染が成立しFIPを発症するとほぼすべての猫が亡くなってしまいます。FIPVは腸管内では増殖できないため、糞便中へウイルスが排出されることは基本的にはなく、FIPVが同居の猫に伝染することは少ないと言われています。

 症状はウェットタイプとドライタイプに分類されますが混在パターンも存在します。いずれのタイプにも共通して発熱、元気消失、食欲低下や体重減少などが現れます。
ウェットタイプ:子猫に多く、小麦色の腹水や胸水の貯留を伴う腹膜炎および胸膜炎が特徴的です。腹部膨満や呼吸困難などが起こります。
ドライタイプ:多臓器に化膿性肉芽腫と呼ばれる病変を形成します。黄疸や前ぶどう膜炎、発作、後ろ足の麻痺などの症状が引き起こされます。

 FIPには決定的な臨床症状や検査が存在しません。そのため1つの症状や検査から診断することはできず、複数の検査を行なって総合的に診断します。FIPを疑う臨床症状や背景がある猫では次のような検査を行います。

CBC:血液中の血球数やヘモグロビン濃度、ヘマトクリットなどを測定する検査です。FIPの猫では軽度から中程度の貧血や白血球の増加が見られることが多いです。また、FIPでは全身の血管に血栓が形成される播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる状態に陥ることがあり、その場合は血小板数の減少も見られるようになります。

生化学検査:血清中の成分を化学反応や酵素反応を利用して分析する検査です。FIPでは高蛋白血症が多くの場合見られます。中でもグロブリンの増加が特徴的です。高グロブリン血症はウェットタイプの約50%、ドライタイプの約70%で認められます。また、傷害を受けている臓器によっては高ビリルビン血症や肝酵素や腎数値の上昇などが確認されることがあります。中でも高ビリルビン血症はよく見られる異常の1つです。炎症マーカーであるSAAも上昇します。

レントゲン検査:典型的なウェットタイプの場合、胸水や腹水がみられます。これをレントゲンで確認し穿刺して胸水や腹水を抜いて調べます。無色~麦わら色の細胞数が少なく粘稠度の高い液体が採取されます。

抗体検査:FIPの猫では多くの場合コロナウイルス抗体価の上昇が確認されます。しかし、FIPVだけでなく、FECVの感染でも抗体価は上昇してしまうため注意が必要です。抗体価が上昇している場合は、それがFIPVによるものなのかどうかをしっかり見極める必要があります。症状がない猫でも抗体価の上昇が確認されることがありますが、この場合はFIPと診断されませんが100%ではありません。

病理組織検査・免疫組織化学染:これらはFIPの検査のゴールデンスタンダードと言われていて、組織の一部を採取し、病理組織像の確認を行います。FIPが疑われる猫では病理診断で血管炎や肉芽腫が見られることが多いです。免疫組織化学染色は抗体を使って組織内のウイルス抗原を検出する方法です。抗原の存在を顕微鏡下で確認することができます。ただし、抗原が検出されなかったとしてもFIPを除外することはできません。病理組織検査でFIPを疑う病変を確認し、さらにその病変内に抗体に反応するマクロファージの存在を確認できれば確定診断することが可能です。

PCR法:検査試料中にウイルス遺伝子が存在するかどうかを確認する方法です。PCR法には猫コロナウイルス全般の遺伝子を検出する方法とFIPVの遺伝子を検出する方法の2種類があります。いずれの方法でもウイルス遺伝子が検出されなかったとしてもFIPを除外することはできないため注意が必要です。

 治療は50年以上対症療法しかありませんでしたが、コロナ渦で開発されたレムデシビルやムティアンという抗コロナウイルス薬が使用され始め結果も良好な事が確認されましたが、輸入が必要な上とても高価でした。しかし、現在ではモヌルピラビルという薬が発売され手に入りやすくかなり安価になりました。治療後の後遺症などについての研究はまだまだこれからですが、一番可愛いさかりの猫ちゃんたちを襲うFIPが治療可能になったのはとても嬉しい事です。

モヌルピラビル

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