No.198 リラクゼーショントレーニング (Relaxation training)

リラクゼーショントレーニングは、犬専用のベッドやソファの上でリラックスして待つ練習です。やはりオペラント条件づけの正の強化を使います(→No16.→No17)。リラックスするにもトレーニングが必要だとは、犬にとっても大変な世の中になりました。前回のクレートトレーニング(→No197)と似ていますが、リラクゼーショントレーニングをしておくと問題行動の予防・治療ができます。

1.犬がリラックスできるベッドを用意して、ヒトの行き来があまり激しくない部屋の、犬が落ち着きやすい場所に設置する
2.ベッドの上におやつを数粒置き、犬がベッドに入ったり出たりするのを促す
×5~10回
3.ベッドの上で「おすわり」と「ふせ」を教える。教え方はおやつを使った通常の方法で良い
4.犬がベッドの上で「ふせ」ができるようになったら「まて」を教える。犬がふせたら、手をパーにして前に出し「まて」といって、3秒待たせたらおやつをあげる
×10回
5.手をパーにして前に出し「まて」といって、5秒待たせたらおやつをあげる
×10回
6.徐々に待つ時間を延ばしていき、15秒待てるようになるまで繰り返す
7.手をパーにして前に出し「まて」といって、飼主は後ろを振り向いて犬から目を離し、2秒後に犬をみて、おやつをあげる(眼を離しても待てる行動をさせる練習)
8.目を離して待てる時間を2秒→5秒→10秒→30秒→1分と延ばしていく
注)1分待たせるのはハードルが高いので、30秒を過ぎたら、振り返っておやつをベッドの方に投げ、「まて」のコマンドを繰り返し、ベッドにいることに対しての報酬を与える
9.「まて」といって、ベッドから数歩離れてみて、遠くからおやつを投げる

「まて」ということで、ベッドの上にいることを教えていきます。いきなり長時間は待てないので、待っている間はたまにおやつをベッドに投げたりして、ずっとベッドにいることをほめます。
勝手にベッドでリラックスしているときも、静かにほめてかわいがることで、ベッドの上でリラックスしておとなしくしていることは良いことであると学んでいきます。

今回の内容は、入交眞巳先生(米国獣医行動学専門医)の著書を参考にしています。


No.197 クレートトレーニング (Crate training)

基本的に犬はクレートが好きですが、時にはなかなか入ってくれない場合があります。そのときはオペラント条件づけの正の強化(→No16.→No17)を利用した、下記のような方法があります。

1.クレートの扉を開けて置き、クレートの入り口におやつを置いて、食べるのを静かに見守る
×10回
2.クレートの入り口のおやつを食べられるようになったら、クレートの入り口から5cm中へおやつを置く
抵抗なく食べる×10回
3.入口から10cmのところにおやつを置く。食べに行くのを静かに見守る
抵抗なく食べる×10回
4.さらに奥におやつを置き、同じことを繰り返し、一番奥に置いても抵抗なく食べるまで行う
×10回
5.完全に体をクレートに入れて、問題なくおやつを食べている間に扉を3秒だけ閉めて開ける
×5回
6.扉を5秒閉めて開ける
×5回
7.徐々に扉を閉める時間を延ばしていく。絶対に焦らずに少しずつ時間を延ばす
8.おやつを食べている間扉を閉めていられるようになったら、中にいる犬に扉の外からおやつをあげる
9.「ハウス」といってクレートに入る練習を始める。クレートを開けておき、「ハウス」といっておやつをクレートの中に入れる。
×10回
10.「ハウス」といったら、おやつを中に入れる前に自らクレートに入って待てるところまで繰り返し行う
11.「ハウス」といって自らクレートに入ったら、扉を閉めて外からおやつを与える
×10回
12.クレートの中に数分入ったままの状態を作り、30秒に1回おやつをあげてみる
×10回
13.クレートの中にいる間に、1分に1回おやつをあげる
×10回
14.ゆっくりすすめることで、「ハウス」といわれると自らクレートに入り、おとなしく待てるようになる

焦らずにチャレンジしてみてください。
今回の内容は、入交眞巳先生(米国獣医行動学専門医)の著書を参考にしています。


No.196 クレート (Crate)

ご自宅にクレートを用意している飼主さんは多いと思います。犬はもともとは洞窟で寝ていたといわれており、本来は周囲を囲まれたクレートで眠ることが好きです。外出のときだけの使用はもったいないです。クレートを有効活用すると、下記のようなメリットがあります。

・快適な寝床になる
・お留守番がしやすくなる
・しつけがしやすくなる
・良い意味でヒトとの距離感が取れる
・一人の時間が取れてストレスが減る
・問題行動の予防・治療ができる
・トイレとそうでない場所の区別がしやすくなる
・移動のときのストレスが減る
・車移動のときに、車内を歩き回らないので事故を防げる
・旅先でも同じ睡眠環境を保てる

クレートは犬にとって小さいながらも自分のお部屋、マイホーム、お城です。とても落ち着ける空間です。クレートの大きさは、寝床としての快適性を重視するなら、犬が体を伸ばして寝られるサイズが適当です。外出用に使うなら、クレート内で体をサポートしやすい、ややタイトなサイズが良いでしょう。犬が中でひと回りできる大きさがあれば十分です。移動が多い場合は、キャスター付きも便利です。可能なら、ハードクレートとソフトクレートの両方を用意すると便利です。何種類かのクレートを使い分けるのが理想です。
また、クレートに入っている犬に過度に干渉すると、せっかくの落ち着ける場所がだいなしになります。お掃除も犬がクレートにいないときにするなどの気遣いが必要です。夜間など、長い時間クレートにいるときには水分補給が出来ることも大切です。


No.195 シャンプーの方法

近年、犬や猫のシャンプー時の新しい考え方や、便利な商品がたくさん出てきています。

シャンプーの選び方
シャンプー剤は非常に多くのものが出回っています。ペットショップやネットで手に入るものに病院で処方される薬用シャンプーなどを併せたら数百種類となります。この中からそれぞれに適したものを探す時のポイントがいくつかあります。まずは『リンスインシャンプーはなるべく使わないこと』です。リンスインシャンプーは時間や手間は省けますが刺激は3~5倍と言われています。人でも以前ほど使用されなくなってきたのではないでしょうか。次に『ノミ取りシャンプーは使用しないこと』現在フロントライン始め、スポットタイプの駆虫薬の時代です。ノミ取りシャンプーの主成分のアレスリンよりも安全性が高いものばかりです。ノミ取りシャンプーを使うメリットは全くありません。

皮膚の状態には、普通肌(ノーマル肌)、乾燥肌(ドライ肌)、脂性肌(オイリー肌)、脂性肌でありながら乾燥しやすい肌の乾燥型脂性肌(オイルドライ肌)の4種類があります。皮膚にトラブルを抱えている場合は『皮膚がカサカサなのかベタベタなのか』『保水能力がきちんとあるか』を考えます。肌質によっては当然ながら使用するシャンプーは異なります。乾燥肌には保湿性の良いもの、湿性肌には脂をよく落とすものを、乾燥型脂性肌には脂をよく落とすシャンプーに保湿剤を組み合わせて使用します。薬用シャンプーといっても選択を間違えると逆効果になってしまいます。

良いシャンプー剤の条件
・NMF(アミノ酸)や細胞間物質(セラミド)を比較的多く残しつつ、皮膚の表面の汚れを洗浄できるもの
・低刺激性の界面活性剤を使用しているもの
・保湿成分(モノグリセリド、疑似セラミドなど)、両面界面活性剤など(補助界面活性剤など)を添加剤として含むもの
決められない場合はご相談下さい

シャンプーの流れ
1.ブラッシング:動物の毛は、頭→尾、体幹→肢先、といったような毛の流れを持っています。この流れに沿って、皮膚を傷つけないように優しくブラッシングをします。毛玉をなるべくとります。
2.体温より低い温度のお湯を使用し、全身をよく濡らします。お湯の温度が高いとセラミドが逃げてしまいます。優しくマッサージをしながら血流を促進します。5-10分程行います。15分以上行うと乾燥を助長します。この時に炭酸泉EXなどを使って炭酸泉にするのもオススメです。
3.きめ細かく泡立てたシャンプー剤で洗いはじめます。きめ細かい泡は汚れが吸着し、ゴシゴシ洗いをしなくて済みます。病変がある場合は患部から始めます。全身にシャンプーが行き渡たったら、そのまま5-10分浸透させます。泡立てるには泡シャンプーマシーンやジューサーを使うのもオススメです。
4.優しく洗い流し、必要なら保湿剤を使用します。
5.なるべく低温度のドライヤーで乾かします。ドライヤーもできるだけ低温度の方が皮膚や毛を痛めません。

乾燥と皮膚を傷付けることが大敵です。ゴシゴシ洗うこと、ゴワゴワしたタオルの使用、保湿されていない状態でのドライヤーなどは乾燥を助長するので控えてください。
頻度については、シャンプーを選べば毎日使用出来るのもありますが、目安として、暑い時期は週に1回、涼しい時期は2週に1回、皮膚炎の管理には週に2回程度がお勧めです。柴犬や猫ちゃんなど、シャンプーが大嫌いな場合はブラッシングを一生懸命にやっていただくことにより回数を減らせます。

こちらも参考にして下さい
→No12シャンプー
→No43 犬のスキンケア1
→No44 犬のスキンケア2
→No45 犬のスキンケア3
→No74 シャンプー後のトラブル


No.194 犬の僧房弁閉鎖不全症(Mitral regurgitation:MR)

左心房と左心室の間の2枚の弁が僧房弁です。僧房弁の変形が起こると、弁がしっかり閉じることができなくなり、本来、左心室から全身循環へ送り出されるべき血液の一部が左心房内に逆流してしまいます。そのため肺のうっ血が起こります。この肺のうっ血が進行すると肺水腫となります。小型犬に非常に多い病気です。初期段階では、軽度の心雑音だけで無症状な場合が多いですが、なるべく症状の軽いステージで発見し、治療が必要になったら内服薬を開始します。
心雑音強度は6段階に分類されています。Levine(レバイン)の分類と呼ばれています。聴診上重要な心音にはI音(僧房弁と三尖弁の閉鎖音)とII音(大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音)があります。
Levineの心雑音強度の分類
第I度/VI度:注意深い聴診のみによって聴き取れる雑音
第II度/VI度:聴診器を当てるとすぐ聴き取れるが弱い雑音、II音が聞こえる
第III度/VI度:II音が聞こえない
IV度/VI度:スリルがある(手で触って感じる心雑音)
第V度/VI度:聴診器で聴こえる最大の雑音で、聴診器を胸壁から離すと聴き取れなくなるもの
第VI度/VI度:聴診器を胸壁から離しても聴こえる強大な雑音

一般的に第III度/VI度以上の雑音があれば、心臓の詳細な検査が推奨されます。僧房弁閉鎖不全症についてはACVIM(アメリカ獣医内科学学会)が以下の様なステージ分類をしています。

ステージA:器質的異常なし(心雑音なし)
今後心疾患となる可能性あり(キャバリア、チワワ、マルチーズ、ダックスフントなど)
ステージB1:心雑音第III度/VI度、心不全の症状なし
心雑音はあるが結構動態に悪影響を与えていない初期の状態
心拡大なし
ステージB2-Mild:心雑音第III度/VI度
血行動態に悪影響を与えている可能性
軽度な心拡大あり
StageステージB2-Treatment:心雑音第III度/VI度
血行動態に悪影響を与えている
心拡大あり
ステージC:心不全兆候の既往あり(肺水腫による呼吸困難など)
現在、心不全(うっ血性心不全、肺水腫)の治療中
治療してもStageBに戻ることはない
ステージD:標準的な治療に反応しない進行した状態
繰り返すコントロール困難な肺水腫
心拡大の判定には以下の3つを測定します
1.LA/Ao ratio(左心房と大動脈径の比)>1.6
2.LIVIDD(拡張末期左心室内径)N>1.7
3.VHS(胸骨心臓サイズ)>10.5
(1.2.は超音波検査で、3.はレントゲン検査で測定)

ACVIMの指針 ではStageB2-Treatmentの段階からは投薬が必要です(他の心臓病の兆候、例えば高血圧や不整脈の有無などによっても異なります)。現在では施設は限られますが外科手術も選択肢となります。

こちらもご覧ください
No.29 心臓疾患時の兆候1
No.30 心臓疾患時の兆候2
No.109 高齢動物の心疾患


No.193 白内障 (Cataract)

多くの哺乳類にはヒトと同様に白内障が発症します。眼の中の水晶体というところの、一部もしくは全部が白濁する病気です。進行すれば視力は低下し、最後には失明する病気です。

白内障の発症の詳しいメカニズムは分かっておりません。原因としては、先天性に発症する先天性白内障、他の病因で発生する後天性白内障に分類されます。先天性のものは主に遺伝が関与していて、アメリカン・コッカー・スパニエル、プードル、ビーグル、柴犬などに若齢から白内障がみられる場合があります。後天性の白内障には、老年性の変化(8歳くらいからみられる場合もあります)の他、糖尿病などの代謝性の変化によるもの、外傷性、中毒性、進行性網膜萎縮などの網膜の疾患によるものがあります。

臨床的には、水晶体の混濁程度により「初発期白内障」「未熟期白内障」「成熟期白内障」「過熟期白内障」に分類され、初発期白内障では視力はさほど障害されませんが、未成熟白内障以上の白内障では視力がかなり障害されてきます。

治療法には「内科療法」と「外科的療法」があります。内科療法(点眼薬)は白内障の初期には進行を遅らせることができますが効果は限定的です。視力が障害されている白内障には、一般的な白内障用の点眼薬では視力を回復させることはできません。未熟期白内障以上は外科手術が推奨されます。視力が障害された目の水晶体を摘出し、眼内レンズを挿入します。ヒトの場合は日帰り手術が受けられ、保険も効くので、比較的早期に手術が行われますが、高齢の動物の場合、「もう年だから」で済まされることが多くみられます。現在では、犬や猫の白内障の手術は成功率も高く、広く行われるようになってきています。

犬の過熟期白内障


No.192 ペットフード

ペットフードは便利ですが、管理には注意が必要です。ドライフードでよくあるトラブルは、大きすぎる容量のフードを使ってしまうことです。例えば2kgのチワワちゃんに3kgのドライフードを購入して使うと1ヶ月以上食べることができます。しかし、賞味期限内であっても、開封したドライフードは少しずつ酸化し劣化していきます。また、湿気で風味や触感も落ちるので、味も落ちて動物たちも喜ばなくなります。このような悪くなったドライフードを食べるとお腹を壊すことになり、食中毒様の症状、嘔吐や下痢が起こり、酷い時には血便になったりします。ドライフードは開封したら、出来れば1週間、遅くとも10日間くらいでなくなる分量の大きさを購入して下さい。

また、ウェットフードは開封したら、なるべくその日のうちに使い切るのが理想です。どうしても残ってしまう場合には、タッパーウェアの様なものに移して必ず冷蔵庫に保存し、遅くとも2~3日以内に使って下さい。また、とくに猫ちゃんはドライフードだけだと水分不足になって、腎臓に負担がかかります。ウェットフードの使用がおすすめです。高齢動物も喉が渇いたというセンサーが鈍感になっています。十分な水分を取るためにも、ドライフードをふやかすとか、ウェットフードを併用するなどの工夫が必要です。

また、値段が高ければ良いフードということではありませんが、あまり安いものは注意が必要です。

一昔前までは、ペットフードはずっと同じものを食べた方が良いという考え方が主流でしたが、現在では、病気などで療法食を使っている場合を除き、いろいろなフードを使った方がアレルギー体質になりにくく、動物もフードの選り好みをしなくなるというメリットが考えられています。とくに猫ちゃんはフードの選り好みが起こることが多いので、若いころから、いろいろな味に慣れさせると良いでしょう。

また、フードの切り替えも、半分半分くらいから徐々に1週間くらいかけてという説明がされてきましたが、現在では、いきなり変えても大丈夫といわれています。いきなり変えるのが心配な場合は、以下の方法が良いでしょう。

1. 最初の2日は従来のフード7割に新しいフード3割を混ぜて与える
2. 問題がなければ次の2日で、半々ずつ混ぜて与える
3. さらに次の2日は、従来のフード3割、新しいフード7割にする
4. ここまでで大丈夫なら、完全に新しいフードに切り替える


No.191 嘔吐の色

犬や猫が嘔吐をしたときに、色を見るのは重要です。問題を突き止める手がかりになります。

透明な嘔吐:透明な嘔吐は胃酸がそのまま出ています。胃酸は消化に重要です。また、胃酸は酸性で酸っぱい臭いがします。犬の胃のpHは、空腹時2以下、2時間後4-6、5時間後6以上といわれています。胃内に食事が残っていてもpHは下がっている時があります。ドライフードは6-14時間で胃からなくなります。透明な嘔吐は、異物や、胃炎による胃の不快感、胃酸分泌過多などの胃のトラブルを考えます。
白い嘔吐:白い嘔吐は唾液が混ざっています。気持ちが悪くて唾液が増えた場合や、口腔内の疾患、食道の疾患などを考えます。胃液に唾液が混ざっても白い嘔吐になります。
黄色い嘔吐:十二指腸液が混ざっています。十二指腸液には胆汁が混ざっていて黄色く見えます。十二指腸液はアルカリ性で胃酸は中和されます。十二指腸の疾患の他、肝臓・胆嚢疾患、膵臓の疾患を考えます。
赤い嘔吐:口腔内、食道、胃などの上部の消化管からの出血を示唆します。歯周病や、上部消化管内の異物、炎症、潰瘍、腫瘍などを考えます。
黒い嘔吐:小腸からの出血、炎症、異物、潰瘍、腫瘍やDIC(→No144 播種性血管内凝固症候群)を考えます。

よく犬や猫は吐くと考えられていますが、本来は吐くのは異常なことです。吐くのを放っておくと、食道炎(→No190食道炎)や膵炎(→No189膵炎)になることがあります。目安は月に1~2回程度の嘔吐で、嘔吐後にケロッとしていれば、様子を見るのも1つの方法だと思いますが、嘔吐後にぐったりしたり、頻回の嘔吐だったり、週に2回も3回も嘔吐したり、嘔吐の回数が増えてくるようであれば、早急にきちんとした検査が必要です。フェレットはおおむね犬や猫の考え方と一緒で良いですが、ウサギやチンチラ、ハムスターなどのげっ歯類の嘔吐は深刻な状態が多いです。


No.190 食道炎(Reflux esophagitis)

最近多い疾患の1つは食道炎です。食道炎も重症化すると治療が困難な疾患の1つです。最も多いパターンは、胃食道逆流(GER)によって胃酸が食道に上り胃食道逆流症(GERD)が起こり、胃酸に耐えられない食道粘膜に炎症が生じます。炎症が粘膜を超えて粘膜下組織や筋層まで破壊してしまうと、その部位を修復しようと食道組織の線維化が進み、食道の内径が狭窄してきたり拡張してきたりする場合があります。この状態を食道狭窄症、食道拡張症と呼びます。誤嚥性肺炎を併発する場合もあります。
食道炎の症状は、首を触ると嫌がる、流涎、食後すぐの嘔吐、食べるのが遅くなった、食べるときに痛がるなどがあります。

原因は、胃酸の逆流の他に、異物の誤飲・誤食、喉頭炎・咽頭炎の波及、感染、全身麻酔(統計でGER16-55%、GERD2.7%と高い数字が出ています。若齢動物で多いといわれています)などがあります。

内科的治療は、粘膜保護剤のスクラルファート(アルサルミン)、胃酸分泌を抑えるH2ブロッカー(ファモチジン)、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)、制吐剤のメトクロプラミド(プリンペラン)、オンダンセトロン(サンド)、マロピタント(セレニア)、消化管の運動促進を促すモサプリド(プロナミド)などを使用し、食道炎に伴う痛みや胸やけなどを和らげます。
食道狭窄の状態になってしまった場合は、内視鏡を用いたバルーン拡張術を行います。食道拡張になってしまうと治療は大変です。上記の薬に加え、食事の後に立たせる、水の器を高い所に置いて誤嚥を防ぐなどの処置が生涯に渡って必要です。


No.189 膵炎(Pancreatitis)

膵臓は胃と十二指腸のとなりにくっついている臓器で、消化酵素やホルモンを分泌しています。この膵臓に炎症が起こることを膵炎と呼びます。膵臓の酵素は膵臓内では不活性の状態で存在し、腸内に分泌されて初めて活性化されます。この動態が何らかの原因で乱れ、膵臓内において膵酵素が活性化された場合に膵炎が起こります。

原因は、犬の場合、胃腸炎による激しい嘔吐・膵管閉塞・腹部の外傷・薬物投与・ウィルス感染などによる膵臓の障害が原因とされています。中年齢以上の犬での発症が多く、雌での発生が比較的高いです。ミニチュア・ダックスフント、ミニチュア・シュナウザー、プードル、コッカー・スパニエル、ウェスティなどの発症率が高いといわれています。脂肪分の多い食事を食べている犬や、肥満犬に発症する傾向があります。猫の場合は、ウィルス性疾患やトキソプラズマ症などの感染症、胆管肝炎、炎 症性腸疾患による炎症が膵臓に波及することが原因とされています。猫でも中年齢以上で多く認められます。しかしながら直接的な原因はまだわかっていません。また、犬でも猫でも普段から吐いているのを放っておくと、膵液の逆流が起こり膵炎になることがあります。

犬や猫が膵炎になると、食欲がない、食べたものや胃液を吐く、軟便、下痢、腹部の疼痛などの症状が現れます。猫の膵炎では、なんとなく食欲がない、なんとなく元気がないなどと症状がはっきり出ない場合もあります。膵炎には、急性のものと慢性のものがありますが、急性膵炎が重症化するとDIC(→No144 播種性血管内凝固症候群)の状態になって命を失うこともあります。

膵炎の診断はおもに血液検査と超音波検査で行います。血液検査では、現在犬と猫の膵炎の診断に最も活用されているのは、PLI(膵特異的リパーゼ)測定です。近年日本で迅速に検査結果が得られるようになり、約80%の診断精度があります。超音波検査では、腫大した膵臓と膵臓周囲の腸間膜の輝度亢進、膵管の拡張、腹水など診断に有用な所見が得られます。報告では、犬の急性膵炎の70%で超音波検査の異常があると示されています。

膵炎は点滴や薬で治療しますが、治るのには時間がかかります。また、いったん治っても再発して慢性化しやすいので、脂肪分の少ない食事を与えるなど、日々の注意が必要です。