No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)

代謝性骨疾患は爬虫類・両生類でよくみられます。様々な理由により体内のカルシウムが不足して起こりますが、主な原因は、カルシウム・ビタミンDの不足、紫外線不足、リンの過剰摂取です。カルシウムは、丈夫な骨や甲羅の形成に必要不可欠なミネラル分ですが、爬虫類・両生類飼育において不足しがちです。体は血中のカルシウム濃度が低下すると、骨からカルシウムを放出して不足分を補います。骨から放出した分のカルシウムを正常に再供給できない場合、低カルシウム血症による症状と、骨の変形が起こります。

低カルシウム血症による症状
・食欲不振
・活力の低下
・チック(急に出現する運動や音声が不随意に繰り返し出現する状態)
・痙攣
・異常行動
・総排泄腔脱
・便秘
・卵塞

骨の変形
・各部の骨の変形(とくに下顎骨)
・嘴の変形(受け口)
・病的骨折
・骨が太く脆くなる
・歩き方がおかしくなる
・甲羅の変形(亀)
・甲羅が柔らかくなる(亀)

治療はカルシウムとビタミンの投与、紫外線の照射です。状態が上がってくるまでは、強制給餌や点滴なども必要です。予防には適切な食事内容を考えることが第一です。主にカルシウムやビタミンDといったサプリメントを上手に使うことが重要です。このほか、有効な紫外線の照射や適切な飼育温度を保つこと、十分に運動できるスペースを確保することも大切です。


上腕の病的骨折


No.322 去勢手術 (Castration)

去勢手術の流れについてご説明します。手術中の写真が苦手な方は見ない様にして下さい。去勢手術のメリット・デメリットについてはこちらをご参照下さい。(→No125 去勢手術・不妊手術)

1.全身麻酔下(→No117 全身麻酔)で剃毛し、睾丸の頭側を切開します(写真、右側が頭側です)。皮下組織を剥離し、筋膜を切り、筋肉を剥離し、睾丸にアプローチします。
術中写真1

2.睾丸を展開して腹腔外に出します。
術中写真2

3.デバイス(→No275 外科手術用エネルギーデバイス)を用い血管と組織を切断します。吸収性縫合糸で結紮し切断する場合もあります。精管と血管を用いて結紮することも出来ます。2と3を左右行います。
術中写真3

4.漿膜・皮下組織を縫合します。猫の場合は縫合が必要ありません。
術中写真4

5.皮膚を縫合します。ステープラー(外科用ホッチキス)を使用することもあります。猫の場合は縫合は必要ありません。
術中写真5

6.取り出した睾丸。
術中写真6

7.実際の手術時間は5分くらいです。出血もほとんどありません。上記の写真はいずれも小型犬のものですが、猫やフェレット、ウサギでも切開部位が若干違うくらいで手順はほぼ同じです。当院では1泊の入院をしていただいていますが当日返しも可能です。抜糸は術後1週間くらいで行います。猫の場合は抜糸も必要ありません。


No.321 セキセイインコの肥満

セキセイインコは肥満になりやすい動物です。個体差がありますが、
40g以上 肥満
40-35g 太り気味
35-30g 適正
30-25g 痩せ気味
25g以下 痩せ過ぎ
が、目安です。普段からご自宅でも週に1度くらいの体重測定を行うと良いです。

体重以外にも、胸やお腹が膨らむ、飛ばなくなる、便秘、便の切れが悪くなるなどは肥満のサインかもしれません。

肥満になる原因は、病気、加齢による代謝の減少、食べすぎ、運動不足などです。病気の場合、甲状腺腫や甲状腺機能低下症が原因の場合が多いです。甲状腺の機能が低下すると代謝が悪くなり肥満となります。加齢の場合は運動量が減り代謝が悪くなります。脂肪分の高い食事を控え老鳥用などのフードに切り替えましょう。遊んであげたり放鳥も必要です。

しかし、1番多い理由は食べ過ぎです。通常セキセイインコは、1度にたくさん食べるのではなく、自分でペース配分をしながら1日に必要な量を数回にわけて摂取します。太っているインコは、さまざまな理由からペース配分を誤り食べ過ぎてしまいます。

太って来たなと感じたら、まずは甲状腺の病気などがないか判断し、生活環境を見直しましょう。太りやすい環境は
・おやつを入れっぱなし(粟穂、かじりま専科など)
・脂肪分の多い餌を与えている(カナリヤシード、オーツ麦、麻の実など)
・放鳥時間や遊ぶ時間が短いなどの運動不足(おもちゃを上手く使ってください)
・羽切り(クリッピング)をしている
・睡眠時間が短い(1日12時間以上暗くしましょう)
・食べる事以外の楽しみがない
・一度にたくさんの食事を入れてしまう
上記のような環境であれば改善が必要です。


肥満(55g)のセキセイインコ


No.320 フレンチブルドッグの中耳炎

フレンチブルドッグは人気犬種ですが中耳炎(→No319中耳炎)の発症が増えています。通常、中耳炎は外耳炎が波及して発症しますが、フレンチブルドッグの中耳炎は、一見外耳道はきれいなのに、中耳の炎症・感染が起こります。若い犬で多く進行も早いです。解剖学的・遺伝的素因が原因とされていますが、実際にはよくわかっていません。

症状は、耳の痒みや痛み、耳垢の変化、耳の臭いの異常、症状が進めば、内耳にも炎症が波及して、斜頸や眼振、顔面神経麻痺などの神経症状も出ますが、無症状の場合も多いです。無症状だったのに急に中耳炎の症状を発症します。とてもやっかいな疾患です。

中耳炎の確定診断には、麻酔下でのビデオオトスコープ(VOS)、CT、MRIが必要ですが、日頃から外耳道を精査し、とくに水平道に異常があれば、なるべく早くの詳細な検査が推奨されます。

中耳炎の治療は、通常全身麻酔下で行います。一度悪くなった中耳や外耳道は完全には元に戻りません。病態が進行してしまうと、外耳道亜全摘出などの大きな手術が必要となります。予防は外耳道の観察、お手入れくらいしかなく、目に見えての症状が少ないので、早期発見もなかなか困難ですが、フレンチブルドッグの飼主さんは中耳炎に注意して下さい。


フレンチブルドッグは中耳炎に注意

こちらもご参照下さい
No319中耳炎


No.319 中耳炎 (Otitis media)

中耳は耳のうち、鼓膜から鼓室胞までを指し、鼓室胞の上部には耳小骨と呼ばれる3つの骨が存在しており、鼓膜側からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨といいます。通常は空気で満たされ音を伝導しています。これを骨伝導といいます。骨伝導のおかげで鼓膜が破れても音は聞こえます。

犬の中耳炎の多くは細菌性外耳炎による鼓膜の障害から波及し、猫では中耳や耳管の構造異常に起因する無菌性の液体貯留が原因の大部分を占めます。猫の中耳炎は稀です。また、犬猫問わず、耳道内にできた良性や悪性の腫瘤に続発する場合もあります。感染の有無や炎症の程度によって症状は様々で、軽症のうちは単なる外耳炎と見分けのつかない例や、全く症状を示さない場合もあります

中耳炎の診断には、耳鏡を用いた耳道の確認や細胞診、レントゲン検査を行いますが、よほど重度で典型的な例でなければこれらのみで確定診断はできません。中耳は鼓膜の奥にあるため通常の耳鏡で視認することは困難です。また、炎症のため耳漏や腫脹のある耳道では深部の確認がより困難になります。よって、確定診断にはCT、MRI といった麻酔下の画像検査を用います。CT、MRIは検査時に麻酔を必要とする代わりに、中耳の様子だけでなく周囲の組織の状態も正確に把握することができます。最近はビデオオトスコープ(VOS)と呼ばれる耳専用の内視鏡を用いた診断・治療も行われています。VOSは耳道や鼓膜を詳細に観察しながら同時に洗浄や採材、異物除去などを行うことができるため、難治性の外耳炎や中耳炎の症例に対し、非常に効果的かつ低侵襲な治療を行う事ができます。重度の外耳炎により外耳道が狭窄してしまっている場合や慢性的な中耳炎によって中耳周囲の骨や軟骨、鼓室胞が融解してしまっている場合など、VOSでの処置が選択できない場合には外科手術が適応となります。


緑の矢印が中耳炎の所見

こちらもご参照下さい
No57外耳炎1
No58外耳炎2
No188外耳炎3


No.318 臨床イナーシャ (Clinical Inertia)

イナーシャとは慣性という意味で、外からの力の影響を受けず、そのままの状態にある性質をいいます。惰性と言い換えることもできます。このうち、臨床イナーシャやクリニカルイナーシャと呼ばれるものは、たとえば獣医師側からみて、治療目標に達していないのに、いままでの治療を漫然と続けていたり、病因を検索しないまま放置していたり、動物の状況を確認しないまま、同じ薬を処方し続けていたりすることを指します。

こうしたイナーシャは、動物自身の身体を害することにつながりあってはならないことです。また、患者さん側のイナーシャも、治療における大きな壁となります。疾患によりますが、運動不足、飼育環境の改善などができないままでいたり、必要な検査を受けないでいると、将来、どんな薬も効かないなどの、取り返しのつかない状態になってしまう危険もあります。医療におけるイナーシャは健康や生命と常に隣り合わせです。

動物の医療で臨床イナーシャに陥りやすい疾患には、以下のものがあります。
・糖尿病(→No304糖尿病)
・上気道疾患(→No100気管虚脱と軟口蓋過長症1No101気管虚脱と軟口蓋過長症2)
・耳疾患(→No57外耳炎1No58外耳炎2No188外耳炎3)
・肝胆道系疾患(→No70胆嚢疾患)
・膵疾患(→No189膵炎)
・前立腺疾患(→No177犬の化膿性前立腺炎)
・関節炎(→No102前十字靭帯1No103前十字靭帯2)
・心疾患(→No194犬の僧房弁閉鎖不全症No222猫の肥大型心筋症No259高血圧)
・腎疾患(→No55慢性腎臓病1No56慢性腎臓病2No300慢性腎不全のステージ分類)
このように多くの疾患が挙げられます。慢性の病気のほとんどは1度なったら完治はしません。適切な治療と管理、病状が落ち着いていても定期的な検査が必要です。


No.317 脊髄空洞症 (Syringomyelia:SM)

脊髄空洞症とは、脊髄の中に過剰に脳脊髄液が溜まって、脊髄実質内に洞ができ、脊髄を圧迫することで起きる疾患です。脊髄を輪切りにした状態にすると、脊髄の中心部にトンネル状に脳脊髄液が溜まり、外側に脊髄を圧迫するため、脊髄に空洞ができたように見えるので脊髄空洞症と呼ばれています。先日、人気アイドルAKB48の柏木由紀さんがこの病気になり手術を受けたと報道され、聞いたことがある方も多いと思います。

脊髄空洞症は先天性のものと後天性のものに分けられ、先天性のものは、後頭骨や脊椎の奇形、キアリ奇形などが原因の場合が多く、後天性のものは脊髄の腫瘍や炎症、椎間板ヘルニアや環軸亜脱臼などがきっかけになり、脊髄の中心を流れる脳脊髄液の流れが異常になることで起こると考えられています。

症状は脊髄の圧迫の程度、発生した位置や年齢などで様々ですが、無症状なものから、重たい神経症状が出るものまであります。一般的な症状としては、感覚神経の異常が多く、皮膚をかゆがる行動(特に頸回り~体にかけて)、四肢のしびれ、足の開脚、体のゆがみ、頸の痛みなどが起こります。重症化すると体全体が麻痺して立てなくなったり、痙攣発作が起きたり、呼吸をする筋肉に麻痺が及ぶと呼吸が停止してしまう場合もあります。神経学的検査や症状から疑わしい場合は、確定診断にMRI検査を行います。

治療は、先天性の場合、前述のキアリ奇形と同様に内科的なものが中心で、小脳による脳幹の圧迫や脊髄空洞症による痛みや不快感を軽減するための内服薬を使用します。後天性のものは、原因に応じて外科手術の対応になる場合もあります。


緑の矢印の先の黒く抜けた部分が脊髄空洞症の所見

こちらもご参照下さい
No316キアリ様奇形
No82椎間板ヘルニア1
No83椎間板ヘルニア2


No.316 キアリ様奇形 (Chiari-like Malformation:CM)

キアリ様奇形とは、ヒトに見られる先天性奇形によって起こるキアリ奇形1~4型のうち1型に類似した奇形が犬で認められる事がわかり、その疾患に対する呼び名です。後頭骨形成不全症候群(Caudal Occipital Malformation Syndrome: COMS)と呼ばれることもあり、後頭骨とくに大後孔の奇形によって小脳ヘルニアを伴い、後頭蓋窩容量が減少している状態で、骨性の先天的奇形です。小脳の一部が頭蓋骨の穴から滑り出して脳幹を圧迫してしまい脳脊髄液の流れに変化を起こし、脊髄内に異常な液体貯留、脊髄空洞症(次回説明します)を起こし、様々な臨床症状を起こす疾患です。

小脳と脳幹が収まっている部分の頭蓋骨の大きさが、豆腐のように柔らかい内容物に対して少し小さすぎる事が根本的な異常ではないかと考えられていますが、詳細はわかっていません。キャバリアキングチャールズスパニエルが特に有名ですが、それ以外の小型犬種でも珍しくありません。

一般的に若い頃に発症することが多く、知覚異常、痛み、側湾症、ファントムスクラッチと呼ばれる片耳や肩の辺りを継続的に掻く行動異常などが認められます。キアリ様奇形を持つ犬は脳室の拡大、脳幹の形状異常に関連していると考えられる脳梗塞などを起こすことも知られており、それらによる痙攣発作や急性の脳障害などを起こす事もあります。本症を持つ患者さんのうち約75%は次第に症状が悪化することが知られています。診断には症状と神経学的検査の他、MRI検査が必要です。

治療は内科的なものが中心で、小脳による脳幹の圧迫や脊髄空洞症による痛みや不快感を軽減するために内服薬を使用します。外科的治療は後頭骨の一部を除去し、小脳による脳幹圧迫を軽減します。約80%の患者さんで症状の改善が期待できると言われていますが、数年かけて徐々に症状が再発することもありますので長期的な予後は要注意です。


キャバリアちゃんはとくに注意


No.315 眼窩下膿瘍

眼窩下膿瘍は、歯根膿瘍、根尖膿瘍などから生じる重度の歯周病の1つです。眼の下に膿瘍ができる病気です。小型犬で多く起こりますが、中型犬から大型犬、猫でも起こります。

原因は歯石が堆積し、歯周ポケットへ歯石が入りこみ、歯肉が退縮し、歯の周りから歯の根っ子(根尖部)に細菌(多くは嫌気性菌)が感染します。そして根尖部に膿瘍が形成され、眼の下が腫れます。痛みも強く食欲や元気がなくなる場合も多いです。多くが上顎の第4前臼歯の歯根の問題で起こりますが、第3前臼歯、第1後臼歯でも生じる場合があります。この3歯全てが悪くなっている場合もあります。

診断は特徴的な症状(写真参照)とレントゲン検査、ポケットプローブなどで歯周ポケットの深さを測定します。痛みが強い場合は全身麻酔下での検査となります。

抗生剤などで一時的に症状を緩和することは可能ですが、多くは再発します。きちんとした治療には原因歯の抜歯が必要です。きちんと処置をすると、眼の下の傷は1週間ほどできれいになります。また体内に膿があるとDICの状態になってしまうことがあります。

予防は歯石を付けないことです。歯周病、口腔鼻腔瘻の予防と同様、毎日のブラッシングと、ポケットまでの定期的な歯石取りが必要です。麻酔をしない歯石取りではあまり効果がありません。


眼窩下膿瘍のプードル

こちらもご参照下さい
No218 口腔鼻腔瘻
No144 播種性血管内凝固症候群(DIC)
No97 歯周病1
No98 歯周病2


No314 慢性腎不全(CKD)と便秘

我々獣医師の印象として、慢性腎不全(CKD)を持つ猫は健康な猫よりも便秘しやすいと考えてきましたが、今年の5月のアメリカからの報告で、慢性腎不全(CKD)と便秘の関連を調査した興味深い論文がありました。19ヶ国に渡る124匹の健康な猫と43匹のCKDの猫が調査対象でした。

結果は、健康な猫は1日1回は排便があり、CKDの猫で毎日排便があるのは58%でした(CKDの猫のうち18%はすでに下剤を使用していました)。CKDグループの多くの猫が排便時に、大きな声で鳴く・体の緊張・嘔吐を伴っていました。また、CKD猫の排尿頻度も、健康な猫よりも高かったことが報告されています。これはCKDの猫は、水をたくさん飲む多飲多尿症(PUPD)があるためだと考えられます。

この調査結果から、CKDを持つ猫は健康な猫よりも便秘しやすいことが示唆されます。また、毎日の排便がない場合はすでに健康でない可能性があるということも示しています。便秘はCKDを有する猫の重大な問題の1つです。原因には、脱水、電解質異常、胃腸機能の変化、処方された薬の影響などが考えられます。注意深く便秘の原因を特定し、CKD猫の便秘の発生を防ぐ必要があります。また、排便時に大きな声で鳴く・体の緊張・嘔吐の兆候は、潜在的な便秘の問題の可能性があります。

以前にも書きましたが、猫の便秘を軽く考えてしまうと、慢性的な便秘から発症する『巨大結腸症』になってしまうことがあります。また、腸閉塞や腸管穿孔(腸に穴があくこと)、肝疾患や敗血症で命に関わることもあります。「たかが便秘」と侮ってはいけません。とくにCKDに罹患している猫ちゃんは注意が必要です。

こちらもご参照下さい
No300慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療
No271 猫の便秘
No272 猫の巨大結腸症
No55 慢性腎臓病(CKD)1
No56 慢性腎臓病(CKD)2
No3 飲水量とPUPD