No.26 嘔吐と吐出

『うちの○○ちゃんは、よく吐くんですが、大丈夫ですか?』

非常に多いご質問です。大丈夫かどうかは、当然、原因によりますが、

『犬でも猫でも、月に2、3回でその後ケロッとしていて続かないなら様子をみても大丈夫でしょう。週に2、3回になってくるようなら原因を調べたほうが良いと思います』

と、お答えしています(ちなみに、ウサギちゃんが吐いている場合は大変です。ウサギは食道の構造上、通常は吐くことが出来ません。重篤な状態です)

動物が吐いている場合、まず、考えるのは嘔吐なのか吐出なのかです。吐出は食べ物が胃まで行かずに吐き出されることで、嘔吐は胃や十二指腸(胃の次の腸、最初の小腸)の内容物が吐き出されることです。

吐出の時は食べてから短時間に食事がそのまま吐き出されます。原因の多くは、食道拡張症、巨大食道症、食道内異物、食道炎、食道腫瘍などの食道疾患です。また、先天性の心臓の病気で右大動脈弓遺残(PRAA)も有名です。いずれにしてもきちんとした検査が必要です。実際の臨床現場では、リンゴや梨、キャベツの芯、ジャーキー、骨などを丸飲みしてしまい食道で突っかかってしまっている場合が多いです。食道では消化液は出ませんので、内視鏡などにより取り出すか、胃の中まで送ってあげる処置をします。上記のようなおやつを与える場合は大きさに注意して下さい。

嘔吐は、胃液だけの場合は透明~白っぽい液体です。胆汁が混ざると黄色っぽくなります。消化の始まった食べ物に胃液や胆汁が付いて吐き出されることもあります。重篤な疾患では血液が混ざり赤~赤黒くなることもあります。

透明~白っぽい液体のときは、お腹の空き過ぎや軽い胃腸炎、何か胃腸とは別の原因で気持ちが悪いこと(肝障害、腎障害、車酔いなど)を最初に考えます。

黄色っぽいものの場合は胆汁が色を付けています。胆汁は肝臓の中の胆嚢から胆管を通して十二指腸に送られる消化液です。また、十二指腸内の胆汁の出口のすぐ隣には、膵臓からの消化液の出口もあるので、胆嚢や胆管、膵臓のトラブルなども考えます。膵炎は犬にも猫にも最近大変多くみられます。もちろん、十二指腸自体が悪い場合もあります。リンパ球形質細胞性腸炎、リンパ管拡張症、IBD、リンパ腫など、たくさんの疾患があります。

食事と一緒に吐く場合、食事をすると吐いてしまうような場合は異物も考慮に入れます。異物を食べてしまっている場合も大変多いです。おもちゃ、果物の種、紐、コイン、靴下、下着、などなど…。中毒にならないもので胃の中で転がっているような異物は緊急性はあまりありませんが(もちろん、早急に取り除くべきですが)。紐のように腸を手繰ってしまうもの、小腸でストップしてしまっているもの、尖っていて胃腸を突き破ってしまうおそれがあるものなどは緊急疾患です。内視鏡や手術で取り出します。一昔前は吐剤を使って吐かせる処置も行っていましたが、誤嚥のおそれがあるため現在では推奨されません。また、内視鏡で取り出せるものは直径3cmぐらいのものまでです。異物摂取にはくれぐれも注意して下さい。

吐物に血液が混ざっていたら、胃潰瘍や、重篤な感染症、悪性腫瘍などの疑いも出てきます。重症の場合が多いです。一刻も早い処置が必要になります。