未分類一覧

No.137 不整脈 (Arrhythmia)

先日、アイドルをやっていた女子高生が突然亡くなり、原因が不整脈だといわれていました。動物でも不整脈はあり、統計上はヒトより多くみられます。とくに症状がなくて、無治療や経過観察のみでよいものもありますが、虚脱や失神、重度のものは放っておくと突然死が起こるものもあります。

不整脈の診断の第一歩は聴診、次に心電図(ECG)です。他の疾患が原因だった場合など、普通の心電図でもわからない不整脈もあるので、血液検査や超音波、ホルター心電図などの追加検査が必要な場合も多いです。今回は犬や猫でよくある不整脈をご紹介します。

正常な心拍数の目安は、犬で1分間に70-160回、猫で120-200回ぐらいです。不整脈には様々な分類方法がありますが、わかりやすくするために、この目安より遅いものを徐脈性不整脈、早いものを頻脈性不整脈に分類し、頻脈性不整脈は上室(心房)性と心室性に分けて考えます(実際には分類が難しい場合もあります)。

徐脈性不整脈

・洞性不整脈(SA)
吸気時に心拍数が上昇、呼気時に減少する不整脈。基本的には治療の必要はありません。

・洞不全症候群(SSS)
心臓の調律を発する部分を洞房結節といい右心房にあります。この洞房結節の機能が低下して生じる不整脈を洞不全症候群(SSS)といいます。洞不全症候群は、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロックなどが複合して発生するもので、M.シュナウザー、M.ダックスフント、A.コッカースパニエルに多く、無症状の場合もありますが、アダムス・ストークス発作(失神)を起こすときは治療が必要です。I型からIII型に分類されています。迷走神経緊張、低体温、甲状腺機能低下症、高K血症などの他の疾患が原因の場合もあります。
I型:持続性の洞性徐脈
II型:洞房ブロック(S-Aブロック)、洞停止(Suinus arrest)
III型:徐脈と頻脈の繰り返し

・房室ブロック(AVB)
房室ブロックとは、心房から心室の電導遅延または途絶を意味し、程度によって第1度、第2度(MobitzI型、MobitzII型、高度)、第3度(完全)房室ブロックに分類されています。MobitzII型以降の房室ブロックは治療の必要があります。猫の失神を引き起こす房室ブロックは高度房室ブロックです(発作性房室ブロックとも呼ばれます)。高度房室ブロック、第3度房室ブロックでは突然死の可能性があります。

頻脈性不整脈

・上室性不整脈
上室性不整脈で最もよく遭遇するのは、僧房弁閉鎖不全症の末期に出現する、心房細動(AF) です。この不整脈が出てしますと僧房弁閉鎖不全症は予後不良です。このような事態にならないよう、僧房弁閉鎖不全症は早期からの治療が必要です。

・心室性不整脈
心室性不整脈の代表は心室期外収縮(VPC)で、様々な心筋症でよく出現します。ヒトでよく脈が飛ぶと表現されます。単発のものは経過観察でよいのですが、多発性、連続性の場合は治療が必要です。

不整脈のうち無症状なものは、健康診断などで偶然に見つかる場合も多いです。お家での対応は、安静時に胸を触って心拍数やリズムをみてみて下さい。以上がありそうな場合はご相談下さい。

心房細動の犬の心電図


No.136 犬ウィルス抗体価検査 (Canine VacciCheck)

今まで、外の検査所にお願いしなければならなかった、犬のジステンパー、パルボ、アデノウィルスの検査が院内で、そして外注よりも安価でできるようになりました。この3種のウィルスに対するワクチンはコアワクチンといわれ、犬の混合ワクチンの中で最も重要なものです。

最初の年のワクチンは必須ですが、2歳以降のワクチンについては、毎年必要なのかどうか、以前から議論がありました。今回、この3種のウィルスの抗体価を測定することにより、採血が必要なのと、次の日のご報告になってしまいますが、その年のコアワクチンが必要かどうかを判断できます。本当にそのウィルスに対して免疫を持っているかどうかは、メモリーBリンパ球なども関与して少し専門的な話になるのですが、抗体価がきちんと上がっていれば、そのウィルスに対しては免疫を持っている可能性が高いといえます。

残念ながら、レプトスピラや猫ちゃんのウィルスに関しては、今のところ外の検査所にお願いするしかありませんが、高齢だとか病気があるからワクチンが心配だという方には良い方法だと思います。しかし、検査で抗体価が不足しているという結果が出てしまった場合は、ワクチン接種が必要となります。

ウィルス抗体価検査をして抗体価が十分にあると判定された場合には、混合ワクチンをやらなくても、ワクチンをしていただいている方と同じ下記のサービスを継続させていただきます。

『当院で1年以内に、混合ワクチンを接種していただいているか、もしくはウィルス抗体価検査で抗体価が十分にあると判定されている場合(ワンちゃんの場合はフィラリアの予防も必要)』
・再診料無料
・爪切り、肛門腺の処置無料
・トリミング(有料)
・ペットホテル(有料)

ご希望の方は診察時にご相談ください。

残念ながら、ドッグランやドッグカフェへの入場、当院以外でのペットホテルやトリミングなどは、ウィルス抗体価検査だけでは断られる場合があるかもしれません。また、マンションなどにお住まいの場合、内規もよく考慮してご検討ください。

また、狂犬病ウィルスに対しても抗体価検査は可能ですが、今のところ、狂犬病予防注射は法律で年に一度の接種が義務付けられています。


No.135 ウサギの不正咬合 (Malocclusion)

ウサギの歯は解放性の歯根を持つ常生歯といい、月に1センチほど永久に伸び続けます。切歯(前歯)と臼歯(奥歯)2種類の歯があります。歯の働きは、上顎の2本と下顎の2本、そして上顎の前歯2本の裏に生えている2本の合計6本の切歯で牧草を切断し、左右に11本ずつ生えている臼歯で、切断した牧草などを下顎を臼のように動かすことによって細かくすりつぶします。 このような動きがきちんとできなくなると、切歯は唇を、上顎の臼歯は頬の内側を、下顎の臼歯は舌を傷つけます。このように正常な噛み合わせでなくなってしまった状態を不正咬合といいます。

主な原因は、先天性の解剖学的な異常の場合もありますが、多くは後天性で、食事の内容がペレットだけで牧草などを与えないために歯を削ることができなくて生じる食事性、 金属のケージをかじることにより歯が曲がって上下のかみ合わせが悪くなるなどの外傷性、老化や歯根部の感染、若いときのCa不足による歯槽骨の変形なども原因となります。

不正咬合の症状は、食欲不振、流涎が主ですが、とくに臼歯の不正咬合は重度になると顎の変形が起きたり、膿瘍ができたりします。このようになってしまうと完治は困難ですので、早いうちの対処が必要です。確定診断は通常、視診とレントゲン検査で行います。他の食欲不振を症状とする疾患との鑑別や顎の状態の把握のためには血液検査、超音波検査なども必要となる場合があります。

治療は、軽症の場合は内科的な処置で可能な場合もありますが、基本的には外科的に歯を削ることが主となります。切歯は無麻酔で処置が可能ですが、臼歯は全身麻酔が必要です。臼歯の処置を無麻酔でやると、出血による窒息や顎の骨折など、取り返しのつかない事故につながる可能性があります。また、奥の臼歯に関してはきちんとできませんし、皆様も、自分の歯を無麻酔で削られることを考えたら、非常に恐いと思います。

一度不正咬合になると、生涯にわたっての治療が必要です。予防は、切歯については環境の整備、臼歯については、とにかくイネ科の牧草(チモシー)を食べさせることです。日光浴を推奨する報告もあります。


No.134 プラークコントロール (Dental plaque control)

歯周疾患の原因は歯垢(プラーク)です。歯に付いたネバネバです。犬や猫は唾液のpHや成分、歯の形状がヒトと違うため、虫歯にはなりにくいですが、歯周疾患には非常に多く罹患します。歯肉・歯根膜・セメント質・歯槽骨のことを歯周組織といいます。歯周疾患は歯の病気ではなく、これらの歯周組織、歯の周りの病気です。歯周疾患が進むと、これらの歯周組織が崩壊して、歯肉が後退し骨の吸収が起こります。歯が家だとすると土台や基礎の崩壊と例えられます。3歳を超えた犬猫の8割以上が歯周疾患になっているという報告があります。

歯周疾患の予防には日頃からのプラークコントロールが重要です。現在、犬用のおもちゃ、ガム、ヒヅメ、歯のためのおやつなどがペットショップにたくさん並んでいて、歯茎のマッサージになる、歯が強くなる、歯石が取れるなどをうたい文句にしてますが、実際はどうでしょうか?
犬や猫は硬いものを与えると、奥歯のみを使って噛みます。これは犬や猫の歯が裂肉歯といって、獲物を引きちぎって飲み込む構造になっているからです。同じ歯ばかりにストレスがかかると歯が割れます。我々は臼歯の破損をよく診ます。また、これらで歯石が取れることもありません。ガムなどで歯石が取れるなら、ヒトでもわざわざ歯医者さんに行く必要はありません。

犬でも猫でも(ヒトでも)プラークコントロールには歯ブラシによる歯磨きが重要です。メインとなる毛先の柔らかい歯ブラシに加え、いろいろな形状の歯ブラシ、綿棒やガーゼ、指サックなども使うとやりやすいです。磨くときは、歯の表面のネバネバを取ることと、歯周ポケットを意識しましょう。最初は嫌がる場合が多いので、長時間行わず、少量のご褒美をうまく与えるなどして行ってください。また、最初は外側だけでも結構です。口の中を触られることに抵抗のないように徐々に慣らしましょう。口を全く触らせてくれない場合は、口を触る事から訓練するしかありません。焦らずに時間をかけて慣れてもらいましょう。歯磨きをさせてくれる場合でも、ある程度の間隔(通常は1~3年毎くらい)で、歯石の除去を含めた口腔内のケアを全身麻酔下で行う必要があります。詳しく聞きたい方は診察時にご相談ください。

最後によく誤解されている点を2つ。まずは、歯石を取ると歯石が付きやすくなるというのは都市伝説です。きちんとした処置をすれば、処置後に歯石が付きやすくなることはありません。また、無麻酔での歯石除去はほとんど意味はありません。歯周ポケットや歯の裏側の歯石がきちんと取れませんし、口腔内を精査することもできません。臭いの除去くらいにはなるかもしれませんが、きちんとした歯周疾患のケアのためにはおすすめできません。

こちらもご覧下さい
No18 歯石
No97 歯周病1
No98 歯周病2

動物用歯ブラシ


No.133 人畜共通伝染病3 (Zoonosis)

ズーノ-シスの最後は、真菌(かび)、寄生虫、原虫によるものを解説します。

原因が真菌によるもの

皮膚糸状菌症(真菌症):白癬などともいい、皮膚病(糸状菌症)にかかっているイヌやネコ、ウサギ、ハムスターなどと接触することで感染し、ヒトでも動物でも、円形の発疹、かゆみ、化膿などを起こします。ヒトは通常は抗真菌薬を塗ればよくなりますが、動物の治療も並行して行い感染源をなくすことが重要です。動物では通常内服薬での治療になります。真菌は非常にしつこいので、きちんとした治療が必要です。

原因が寄生虫によるもの

トキソカラ症(回虫症):犬には犬回虫、猫には猫回虫が感染することがあり、これらの回虫はトキソカラ属に分類されています。犬や猫の便の中に出てきた回虫の虫卵をヒトが飲み込むと腸の中で孵化し幼虫が生まれます。幼虫はヒトの体内では成虫になれず(稀に猫回虫では成虫になる場合があります)、眼、肝臓、心臓、肺、脳などを移動します。このような内臓幼虫移行症をトキソカラ症といいます。犬回虫の幼虫が眼の中に移動したものを「眼トキソカラ症」、犬回虫、猫回虫の幼虫が眼以外の体内に移するものを「内臓トキソカラ症」といいます。眼トキソカラ症の場合には、視力の低下、飛蚊症、視野が狭くなったり、視野内で見えない部分があるなどの視覚異常などが起こります。内臓トキソカラ症の場合には、気づかないときもありますが、全身の倦怠感や体重減少、吐き気や軽い腹痛などを起こすことがあります。また、肝臓に肉芽腫ができることもあります。
犬や猫では感染していても症状が現れない「不顕性感染」がほとんどです。しかし、幼犬に多数の成虫が寄生した場合は、お腹の異常なふくれ、吐く息が甘い、異嗜(いし:食べ物ではないものを食べること)、元気がない、発育不良、やせる(削痩)、貧血、皮膚のたるみ(皮膚弛緩)、毛づやの悪化、食欲不振、便秘、下痢、腹痛、嘔吐を起こします。体内に幼虫が寄生している雌犬が妊娠すると、胎盤や乳汁などを通して子犬にも感染します(母子感染)。

エキノコックス症:エキノコックス症は、キタキツネや犬が多包条虫とよばれる寄生虫に感染し、糞便と一緒に排泄された虫卵が、何らかの拍子に人の体内に侵入し、重い肝機能障害を起こす病気です。潜伏期間は5~15年で、発症すると病巣を外科的に切除する以外に有効な治療法はありません。日本では北海道だけに存在すると考えられてきましたが、2005年には埼玉県で捕獲された犬の糞便から、また、2014年4月には愛知県知多半島で捕獲された犬からエキノコックスの虫卵が確認されました。
犬はほとんどの場合、感染していても症状が現れない「不顕性感染」です。感染した野ネズミを食べたり、口にくわえたりすることで虫卵が体内に侵入し、感染します。感染した犬は、糞便中にたくさんの虫卵を排泄します。
エキノコックス症の予防方法としては、虫卵が口に入らないよう、一般的な衛生対策を行うことです。

原因が原虫によるもの

トキソプラズマ症:トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫の感染によっておこる動物由来の感染症です。 人を含めた多くの哺乳類や鳥類に感染することが知られています。ペットではとくに猫からの感染が問題となります。
ヒトを含む多くの動物が不顕性感染ですが、幼令や免疫機能が低下している場合は、重篤な症状が出ることがあります。注意が必要なのは、ヒトの先天性トキソプラズマ症です。これは、母体が妊娠の6ヶ月前~妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合、まれに胎盤を経由して胎児が感染し発症するものです。症状は、脈絡網膜炎(失明に至る眼の炎症)、肝臓や脾臓の腫大、黄疸、痙攣、水頭症、頭蓋内石灰化、精神遅滞、死流産等です。 胎児の発症率は、母体の感染が妊娠後期になるにつれて高くなります。妊娠初期では、胎児へ伝染するリスクは低くなりますが、万一感染した場合の症状は重くなります。
外に出る猫は、ネズミや鳥を捕食することでや土壌等を舐めてしまうことにより、感染することがあります。ヒトは感染した動物の糞便から感染しますが、感染力を持つようになるには4~5日かかるので、トイレはすぐに片づけるようにしましょう。そして、妊娠中はとくに注意しましょう。トキソプラズマ症の予防という観点からは、妊娠しても現在飼っているネコを手放したり、隔離したりする必要はありません。ご心配な方は医師、獣医師とよく相談してください。


No.132 人畜共通伝染病2 (Zoonosis)

前回はウィルスが原因のズーノーシスのお話でした。今回は細菌が原因の代表的なズーノーシスのお話です。

原因が細菌によるもの

レプトスピラ症:ワイル病、秋やみなどとも呼ばれるレプトスピラ症は、病原性レプトスピラ細菌(スピロヘータ)の感染症です。病原性レプトスピラは保菌動物(げっ歯類など)の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。ヒトや犬は、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に感染します。症状は急性の発熱や黄疸、腎機能低下などが見られ、とくに犬の場合は発症してから2~4日で死亡することもあります。治療は抗生剤と補液などで行いますが、犬の混合ワクチンの中にはレプトスピラ症に有効なものがありますのでワクチンでの予防が重要です。

猫ひっかき病(バルトネラ病):猫ひっかき病は、猫や犬にひっかかれた、もしくは咬まれた部位の炎症、リンパ節の痛み・腫れ、発熱などの症状を来す疾患です。夏から秋にかけて発生頻度が高くなります。原因は、バルトネラ属の菌が感染することによります。この菌は猫や犬などの動物の爪や口腔内、寄生するネコノミなどに存在します。 日本では猫の1割が感染し保菌しており、ヒトへの感染のほとんどは猫によるものと考えられています。とくにネコノミに刺された子ネコからの感染の危険性が指摘されています。バルトネラ菌の感染があっても猫や犬は無症状です。ヒトでも通常は6~12週くらいで改善しますが、稀に重症化するので、引っかかれたり咬まれたあとに、上記のような症状があれば病院を受診してください。

カプノサイトファーガ感染症:カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌を原因とする感染症です。犬猫の口腔内の常在菌で、犬猫は無症状ですが、高齢者や免疫力の落ちているヒトが、咬まれたり、ひっかかれたりして感染すると、発熱、倦怠感、腹痛、重症化すると、敗血症、髄膜炎、DICなどを生じ亡くなることもあります。口移し等の過剰な接触を行わない、動物からの受傷に気をつけることなどにより感染を防止できます。

パスツレラ症:パスツレラ属の菌によって引き起こされる日和見感染症です。日和見感染症とは免疫力が低下したときにだけ症状を示す感染症のことをいいます。パスツレラ菌は犬や猫の口腔内に効率で存在しています。犬や猫はほとんど無症状ですが、ヒトは犬や猫に咬まれたり、ひっかかれたりした場合に激痛を伴う患部の激しい炎症を起こします。また、重症化すると、呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重症感染症、さらには死亡例も報告されています。やはり、高齢者、糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患を持つ人が特に感染しやすいです。パスツレラ症も、口移し等の過剰な接触を行わないこと、動物からの受傷に気をつけることにより、感染を防止できます。

サルモネラ症:サルモネラ症は、サルモネラ属の菌の感染により急性胃腸炎などを起こす病気です。肉や卵の食中毒の原因菌として知られていますが、それ以外にも、爬虫類(ミドリガメ、イグアナ等)が原因となって、小児や高齢者が重篤な感染症にかかる例が報告されています。保菌動物は無症状です。ヒトでは、およそ半日から2日間の潜伏期間を経て、おへそ周辺の激しい腹痛や、嘔吐、発熱、下痢などの食中毒症状を引き起こします。熱は38度から40度近くまで上がり、下痢は水のような便で、血や膿が混ざることもあります。予防は動物に触ったらよく手を洗うことです。

Q熱:コクシエラ・バーネッティという細菌の感染によって起こる感染症です。以前は日本国内にQ熱は存在しないと言われていましたが、近年の調査によって、日本でもヒトや動物が感染していたことがわかりました。主に家畜やペット、野生動物の排泄物やダニなどから感染、発症します。動物が感染しても症状があらわれないことは珍しくありませんが、妊娠中の羊や牛が感染すると流産や死産におちいることがあります(この菌は胎盤で増殖します)。
ヒトでは2~4週間の潜伏期間を経て、頭痛や高熱、筋肉痛、全身の倦怠感、咽頭痛といったインフルエンザに似た症状があらわれます。急性のQ熱の場合、不明熱や肝炎など、様々な症状があらわれますが、ほとんどは肺炎や気管支炎、上気道炎など呼吸器系の症状です。経過は比較的良好ですが、髄膜炎や脳炎などの合併症のリスクは存在します。急性Q熱を発症したうちの一定割合の人は、心内膜炎など治療がむずかしい慢性Q熱に移行します。急性Q熱の場合、死亡率は数パーセントほどで、回復すれば一生涯つづく免疫性をえることができます。慢性Q熱では6ヶ月以上にわたって感染が継続するため、急性Q熱と比較すると症状が重篤化しやすいとされています。病気の経過もよいとは言えず、治療は簡単ではありません。慢性Q熱に移行しやすいのは、免疫力が低下している場合です。ある研究によると慢性期に移行すると、慢性疲労症候群様の症状が見られることがわかっています。これは睡眠障害やアルコール不耐症、寝汗、筋肉痛、関節痛、頭痛、微熱、慢性疲労に加えて、集中力や精神力の欠如、理性のない怒りなどの精神的症状が見られる病気です。

オウム病:オウム病は、クラミジア・シッタシという細菌を保菌している鳥類からヒトに感染を来す人獣共通感染症です。主に鳥類の糞の中に病原体がいて、乾燥するた糞が粉々になって空中に浮遊したものを、ヒトが吸引すると感染すると考えられています。ヒトの症状は、1~2週間の潜伏期間のあと、軽症のインフルエンザ様症状(悪寒を伴う高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など)から多臓器障害を伴う劇症型まで様々です。初発症状として、38℃以上の発熱、咳はほぼ必発で、頭痛も約半数に認められます。時に血痰(けったん)や胸痛を伴うこともあります。 重症例では、チアノーゼや意識障害を来し、さらに血液を介して多臓器へも炎症が及び、髄膜炎や心外膜炎、心筋炎、関節炎、膵炎などの合併症を引き起こすこともあります。ヒトでは30歳未満での発症は少ないと報告されています。発症日を月別にみると、鳥類の繁殖期である4~6月に多いほか、1~3月もやや多いとされています。 肺炎に占めるオウム病の頻度は、世界的にもあまり高いものではなく、日本でも1~2%程度です。
一方、鳥は発症すると、運動量の低下、食欲低下、痩せる、下痢、呼吸困難などの症状を呈し、糞に大量のクラミジアが混じることになります。治療をしないと、1~2週間で死亡します。鳥の体調に異常が見られる場合は、早めに動物病院に相談して下さい。抗生物質による治療ができます。
オウム病の多くは散発例で、これまで集団発生は極めてまれであるとされていましが、日本でも2001年以降、相次いで動物園などで集団発生が確認されています。しかし、鳥類はクラミジアを保有している状態が自然でもあり(20%の鳥が保菌しているといわれています)、菌を排出していても必ずしも感染源とはならないことを理解する必要があります。むやみに感染鳥を危険視すべきではなく、鳥との接触や飼育方法に注意を払うことが重要です。


No.131 人畜共通伝染病1 (Zoonosis)

「動物から人間に感染する、または感染すると思われる疾患」を人畜共通伝染病、ズーノーシスと呼びます。最近は鳥インフルエンザなども話題になっていますね。代表的なズーノーシスをご紹介します。

原因がウィルスによるもの

狂犬病:ほぼ全ての哺乳類に感染するウィルス性疾患です。感染した動物の唾液の中にウィルスが含まれ、咬まれることによって感染します。症状は1~3週間の潜伏期間のあと、発熱や食欲不振が出てきます。進行すると、痙攣や麻痺、水を呑み込めない(恐水症)などの神経症状を起こします。治療も困難で死亡率も高いです。日本では、狂犬病予防法の元、ワクチンによる予防が普及したことと、島国である利点もあり、約50年間発生がありませんが、海外との行き来が多い昨今、いつまた入って来てもおかしくない病気です。こちらもご覧ください。
No7 狂犬病予防注射
No47狂犬病予防注射について

鳥インフルエンザ:鳥インフルエンザとは鳥類に対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスからの感染症です。ヒトでは、感染した家禽(鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥)個体やその排泄物、死体、臓器などと濃厚な接触がない限り感染はしません。鶏肉や鶏卵を食べることによってヒトに感染はしません。お家の中で飼われている小鳥も同様で、簡単に伝染するものではありません。
ヒトでの最初の症状は、発熱や咳で通じようのインフルエンザと変わりませんが、重症化すると、全身倦怠感、筋肉痛などの全身症状を伴います。感染したヒトの致死率は、これまでのところ全体で約60%と高い数値です。ちなみに、通常の季節性のインフルエンザの致死率は0.1%です。
家禽での症状は、震え、起立不能、斜頚などの神経症状が見られたり、沈鬱、食欲低下、急激な産卵低下(停止)がみられることもあります。また、しばしば臨床症状を示さず死亡することもあります。予防・治療は法律によって 殺処分および移動・搬出制限によりまん延防止、早期撲滅を図ります。
セキセイインコや文鳥などの小鳥の症状は、きちんとした臨床報告がなく、わかっていません。ただし、家禽のウィルスから感染が成立するということは実験で証明されていますので、野鳥にはなるべく触らないようにしましょう。

ヘルペス:ヒトの口唇ヘルペスはヒト単純ヘルペスI型(HSV-1)によって引き起こされます。ほとんどは無症状ですが、免疫が低下したときに、熱の華、風邪の華、帯状疱疹、Cold soresと呼ばれる症状が現れます。経験のある方はご存知だと思いますが、めちゃめちゃ痛いです。HSV-1の感染はOral-Oral(キスという意味です)で幼少期に感染して、三叉神経に潜伏し終生感染し、定期的に再発します。WHO(世界保健機構)の試算では、全世界の50歳以下の約3人に2人が感染しているとされています。ヒトの症状は、通常2週間ほどで収まりますが、ウサギやチンチラ、新世界ザル(アメリカ大陸のサル、リスザル、マーモセット、タマリンなど)は死亡することがあります。
ウサギやチンチラは近年ペットとして人気の動物ですが、実験においてHSV-1への感染が証明されています(自然感染は稀です)。症状はヒトと違い、活動の低下/増加、運動失調、旋回運動、流延、失明などの神経症状が出ます。とくに鼻腔内からの感染では最短2日で症状を呈し、急速に死に至ることがあると報告されています。
また、旧世界ザル(ユーラシア大陸、アフリカ大陸のサル、マントヒヒ、オナガザル、ニホンザルなど)はヒトと同じような症状を呈しますが、新世界ザルはHSVに対して感受性が高く重度の全身性疾患を起こして、死亡することがあります。
いずれにしても、口唇ヘルペスが発症しているときに、これらの動物の世話をするときは、なるべく触れ合わない、マスクをする、手をよく洗うなどの注意が必要です。


No.130 犬や猫が吐くとき2(Reverse)

今回は「吐く」という症状の中、最も一般的な嘔吐において、こんな場合は要注意というお話です。前回書いたように、嘔吐と言っても原因はなかなか複雑です。以下のようなときは、早目の来院をおすすめします。

何回も繰り返す
月1~2回ぐらいの嘔吐で、その後ケロッとして元気であれば様子をみてもよいですが、週に2~3回以上吐くようならきちんとした検査が必要です。
腹痛がある
苦しそうに背中を丸めていたり、腹部の緊張が強い場合は腹痛の可能性があります。腹痛を伴う嘔吐は危険な兆候です。胃腸炎の他、各種の結石・尿閉などの泌尿器疾患も考えられます。
呼吸が悪い
嘔吐と共に短く浅い呼吸をしている時は、急性腹症(急激な腹痛によって緊急手術の適応か否かの判断が要求される症候。消化管穿孔、胃捻転、腸捻転、胆嚢破裂、腹膜炎、急性膵炎など)の可能性があります。すぐに病院へ。
吐いたものに異物がある
おもちゃの破片や植物など、食事以外の異物が混入している場合。
赤や黒っぽいものを吐く
少量の血が混じっていたり、重い潰瘍や腫瘍では、出血で嘔吐物がコーヒー色になっていることがあります。潰瘍や腫瘍、感染症などを疑います。
黄色っぽいものを吐く
よく誤解されていますが、黄色ものは胃液ではありません。肝臓から十二指腸へ分泌されている消化液の胆汁です。胃よりも深いところの問題を示唆します。肝胆道系疾患、膵疾患を疑います。
異臭がする
血の臭い(潰瘍・腫瘍)や便の臭い(腸閉塞)、酸っぱい臭い(膵炎)など、異臭にも注意が必要です。
他の症状がある
上記の腹痛や呼吸が悪いこと以外にも、下痢や発熱、食欲不振など、嘔吐以外にも症状を伴う場合は緊急性が高い場合があります。

また、フェレットでは犬や猫と同じように考えてもおおむね間違いはありませんが、ウサギやチンチラは食道の筋肉の構造上、吐くことが難しいので、吐いているときはかなり悪い状態です。すぐに適切な対処が必要です。

以下もご覧下さい

No.26 嘔吐と吐出
No.27 猫の毛玉症と猫草


No.129 犬や猫が吐くとき 1 (Reverse)

「吐く」は飼主さんにもすぐわかる症状です。犬猫は胃が横向きになっており、胃液も濃いので吐きやすい動物です。犬猫が吐いている場合には、まず「吐き出し(吐出)」なのか「嘔吐」なのかを考えます。また、似た症状で「嚥下困難」があります。この違いからだけでも、食べ物を吐き出した原因がどこにあるのか、ある程度、鑑別をつけることができます。以前にも、嘔吐・吐出のことは書きましたが、今回はもう少し詳しく解説します。

・吐き出し(吐出)
胃に達する前の食道に詰まったものを吐き出すことで、吐いたものは胃まで達していないため未消化の状態です。あまり大きな前触れがなく起こる場合が多く、唾を飲み込めないような様子が見られることがあります。
原因は主に食道にあり、頻繁な場合には、食道炎、食道狭窄、巨大食道症、血管輪異常(右大動脈弓遺残症)、食道の腫瘍などを考えます。

・嘔吐
胃に達した物が腹壁の収縮を伴い吐き戻されることで、吐いたものの消化が始まっている状態であることをいいます。犬猫が嘔吐をする際には吐き気やよだれが見られることがあり、不安そうな様子を見せることもあります。また吐いた物には、通常、白っぽい場合(唾液)、透明な場合(胃液)、黄色っぽい場合(胆汁)がありますが、血液が混ざると赤や黒いもの、コーヒー色のものが混ざります(吐血)。
嘔吐は、空腹時、早食いや、食後の急な運動などでも起こりますが、異物の誤食(猫の毛玉症もこちらに相当します)、胃腸炎、肝胆道系疾患、腎疾患、膵炎、潰瘍、腫瘍、脳神経系の病気なども考慮しなければなりません。

・嚥下困難
上手く食べ物が飲み込めないために食べ物を吐き戻してしまうことで、口の中、咽頭、食道の上部に問題がある場合に起こります。ゴクンと飲み込むことができず吐いてしまう状態です。
主な原因は歯周病、咽頭部の炎症・腫瘍・神経の問題、破傷風、日本では約50年発生はありませんが狂犬病などでもみられます。

以下もご覧下さい
No.26 嘔吐と吐出
No.27 猫の毛玉症と猫草


No.128 冬に気をつけたいこと

11月になり寒い日が多くなってきました。冬は寒さと乾燥に注意が必要です。ヒトよりも地面に近いところにいる場合が多い動物は寒さに敏感です。体が冷えると各臓器の力が弱まり、免疫力が下がったり血圧が上がったりして良い事はありません。また、乾燥は粘膜を乾かし細菌やウィルスへの抵抗力を低下させます。ヒトでも湿度50%以上の環境にいれば、インフルエンザウィルスの感染をかなり防げるといわれています。

犬、猫、フェレット、ウサギ、モルモットで実際に推奨される温度・湿度は、品種や年齢、健康状態にもよりますが、室温18~25℃前後、湿度は40~60%くらいです。とくに幼齢・高齢の場合は室温を20℃以上で24時間一定にしておくべきでしょう。ペットヒーターなど、狭い区域を温めるものを使用しても良いのですが、あくまでもエアコンの補助と考えてください(低温火傷にも注意してください)。また、乾燥を防ぐため、多くの場合は冬場は加湿器も必要です。

ハムスターの場合は、湿度は40~60%くらいでよいですが、前述の動物たちより寒さに弱いので室温は20~26℃にして下さい。とくに、室温が5℃以下になっていたり、昼間の温度と夜の温度差が5℃以上あったりすると、寒さに対抗するために消耗をできる限り少なくしようとした結果、疑似冬眠といって冬眠しているような状態になってしまうことがあります。もともとハムスターは冬眠をする動物ではありません。疑似冬眠は非常に危険な状態です。もし、なってしまったらすぐに病院で適切な処置を受けてください。とくに体力が落ちてくる1歳半以上のハムスターでは22℃以上の環境が良いでしょう。

小鳥も寒さや温度変化に弱い動物です。暖かめの環境、温度20~32℃、湿度50~60%が必要です。やはり、幼鳥・老鳥・病鳥などでは、少し温度を高め28~32℃くらいにしてあげてください(ヒトにとっては暑すぎますが)。とくに、小鳥が膨らんでいたり、羽を立たせていたりする場合は、すぐに温度を上げましょう。これは体温を失いたくないために、羽を膨らませて体温が逃げるのを防いでいる状態です。このような症状を見せ始めたら、相当悪くなっている場合があります。なるべく早く受診してください。

また、チンチラはもともと標高の高い高地の岩場の涼しい環境に住んでいたウサギの仲間です。暑いのは禁物。温度15~20℃、湿度40%ぐらいが快適です。

よくある事故は、エアコンを使用せず、ペットヒーターや毛布などのみで、寒さ対策をしている場合に起こります。必ずエアコンを使用しましょう。

動物種、その動物の状態によって快適な環境は違いますが、上記のことも参考にして寒い冬に対処してください。

以下もご覧下さい
No42:冷えについて