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No.515 チョコレート中毒

チョコレート中毒は、チョコレートやココア、それらの加工食品に様々な濃度で含まれるテオブロミンの過剰摂取により起こる中毒です。テオブロミンはカフェインと似た物質で、大脳や呼吸器、心臓、筋肉に対して強い興奮作用を持っています。チョコレートやその原料のカカオマス(カカオ豆)やコーラ、お茶などに含まれますが、とくにチョコレートやカカオ豆は高い含有量を持ちます。犬はテオブロミンの分解と排泄にとても時間がかかるため、テオブロミンの量が体の許容量を超え易く、ヒトと比べて中毒症状を起こしやすくなっています。猫はチョコレートを誤食する事は稀でしょうが、犬と同様に中毒を起こします。

症状は様々ですが、不整脈、とくに頻脈が一番の問題となります。また、下痢、嘔吐、発熱、興奮、多尿、ふらつき、パンティング(息が荒くなる)、腹痛、痙攣などが出る場合もあります。摂取量が多い場合には、昏睡状態から死に至ることもあります。

一般的に食べてから6~12時間後に中毒症状が現れます。犬の場合はヒトと違ってテオブロミンの代謝・排泄に時間がかかるため、チョコレートを食べてから24時間程度は中毒が起こる危険性がありますから、食べてしばらくしても何もないからといって安心は出来ません。摂取後3日くらいは注意が必要です。

中毒となる量は、体重・体格や個体差により差がありますが、テオブロミンの犬での致死量は約100~200mg/kg、猫で80~150mg/kgといわれています。軽度な異常は20mg/kg程度でみられ始め60mg/kgでも痙攣が起きる可能性があります。

体重に対してのチョコレートの摂取量から、大型犬では大量のチョコレートが必要なため、普通の家庭環境では中毒を起こしにくいです。しかし、中小型犬やチワワ、近年小型化が著しいトイ・プードルなど、2kg以下の超小型犬では体重あたりのテオブロミンの摂取量が多くなり易いため、チョコレート中毒が発生しやすい傾向があります。

チョコレートに含まれるカカオやテオブロミン含有量は製品には詳しく記載されておらず、さらにチョコレートの種類によっても大きな違いがみられます。また、チョコレートを原料とするさまざまな加工菓子ではメーカーの顧客相談窓口に問い合わせても詳細が不明または即答できないということが多く、危険性の判定が難しいのが実情です。

一般的にミルクチョコレートや市販のチョコレート風味の加工菓子類はカカオ含有量が元々少ないため、ある程度食べても治療の必要性ないものも多いと考えられますが、カカオ含有量の多いダークチョコレートやビターチョコレート、とくに製菓用のチョコレートや、それをふんだんに使用したホームメイドのチョコレートケーキなどの誤食には充分な注意が必要です。

テオブロミンの過剰摂取に対して有効な解毒薬はありません。可能なら吸収される前に催吐剤を用いて胃内から排泄させる必要があります。時間が経過して催吐処置が難しい場合や、中毒量を超え致死量の摂取が想定されるような場合には、緊急で胃洗浄を行うこともあります。

チョコレートを食べてしまってから時間が経過してしまっている場合は、催吐処置や胃洗浄は効果が低く対症療法となります。チョコレートを食べてしまった場合には、早急に動物病院にご相談ください。


チョコレートの誤食に注意して下さい

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No.9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬


No.514 フェレットの脾腫

脾臓の機能は主に造血、古くなった血球の破壊、血液の貯蔵です。脾臓の腫れを脾腫といいます。フェレットの脾臓の腫れは比較的よく見られる状態です。正常なものから腫瘍まで原因は様々です。

フェレットの脾腫は、生理的なもの、髄外造血、心筋症からの鬱血、過形成、炎症、インスリノーマ、副腎疾患、ヘリコバクター、消化管内異物、腸炎、上部気道感染症、歯牙疾患、アリューシャン病、リンパ腫などの腫瘍性疾患などで認められます。特発性(原因不明)の場合もあります。

初期は無症状の事が多いですが、巨大化すると胃腸を圧迫し、嘔吐や食欲不振を起こします。また、腫瘍性のもので破裂を起こすと、比較的元気だったフェレットが、急に虚脱や失神、場合によっては死亡することもあります。

診断は、触診、レントゲン検査、超音波検査、血液検査、FNA(細胞診)などを組み合わせて行います。とくに、腫瘍性疾患との鑑別は早期に行う必要があります。細胞診は鎮静、麻酔が必要な場合があります。

治療は原因疾患の治療と、検査で大きな問題がなければ、対症療法や経過観察を行いますが、腫瘍が疑われる場合、巨大化して胃腸の圧迫が激しい場合は外科的に摘出を考慮します。脾臓を失っても、生存には問題がありませんが注意深く判断します。


フェレットは脾腫がよく起こります

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No.178 脾臓の病気


No.513 猫の扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)

扁平上皮癌は扁平上皮細胞から発生するため、扁平上皮細胞が存在する場所であれば、どこにでも発生します。多くは、指(爪床)・耳・鼻・まぶた・口腔内などです。通常、単独の病変として発生しますが、多中心性扁平上皮癌(ボーエン病)と呼ばれる、体の複数の箇所に病変が発生するものがあります。多中心性扁平上皮癌は猫では稀です。

環境要因・遺伝的要因などの危険因子が複雑に絡み合って発症していることが多いです。紫外線・日光への曝露、タバコの煙、ノミ除け首輪などは、猫の扁平上皮癌の原因となるといわれています。また、白色および淡色の猫は扁平上皮癌を発症する可能性が高い傾向にあります。一方、シャム・ヒマラヤン・ペルシャ猫では扁平上皮癌の発症リスクが低い事が報告されています。

扁平上皮癌は、瞼・鼻・唇・耳・口腔内など紫外線・日光に曝露されやすい部位に発生します。足の指にも発生することがあります。見た目は、ただれる(潰瘍)、赤みを帯びて盛り上がる、カリフラワー様に増殖するといったものが多いです。また、破裂・自壊して出血することもあります。その場合は痛みを伴います。足の指にできた場合は、腫れ・痛み・爪の喪失・跛行を引き起こします。患部を舐めて噛むなど、自傷行為を起こすことがあります。

診断は針吸引検査(FNA)や生検により行います。FNAは針のついた注射器で病変から細胞のサンプルを採取し顕微鏡で観察します。生検は、腫瘍を外科的に切除し病理検査を行います。また、足指の腫瘍の場合には、扁平上皮癌(原発性)なのか肺癌の転移による腫瘍なのかをレントゲンやCT検査で判断します。猫の場合、足指の腫瘍の90%は肺から足指に転移したものといわれていて、これを肺趾症候群といいます。

局所浸潤性が高い扁平上皮癌ですが、顔面に発生するものは、顎下リンパ節や肺などへの転移する事があります。転移の有無を調べるには、触診、超音波検査・レントゲン検査を行います。リンパ節が腫大している場合には、リンパ節から採材し、転移の有無を確認することもあります。

治療は可能なら外科切除を行います。外科切除の前にはCT検査が望まれます。

その他の治療法としては、
・リン酸トラセニブ:チロシンキナーゼ阻害薬であるリン酸トラセニブは、扁平上皮癌の進行を抑え、寿命の延長を望める分子標的薬です。リン酸トラセニブにて治療した症例は、無治療群と比較して生存期間が3倍延長したとの報告もあります。
・NSAIDS:疼痛の緩和をします。
・ビスホスホネート:骨破壊を併発している扁平上皮癌の症例では、ビスホスホネートを使用することがあります。扁平上皮癌による骨破壊の抑制と疼痛緩和の作用があります。また、最近では腫瘍細胞抑制に寄与する可能性もあると示唆されています。
・食事療法:痛みなどから食事を思うように食べれず、QOLが悪化してしまう事が多いので、胃瘻チューブや食道チューブなどの設置も考慮し、QOL悪化を防ぎます。また、温めた柔らかく食べやすいフードが必要です。脱水を起こしやすくなりますので、積極的な水分の投与や点滴も必要です。
・代替医療:免疫力を上げるために行います。体質に合うと著効する場合もあります。
これらを組み合わせて治療を行います。

猫の扁平上皮癌(とくに口腔内)には、放射線療法が奏功しないケースが多いです。少量分割照射での生存期間中央値は2ヶ月とも言われています。ですが近年、外科切除・化学療法を組み合わせる事で、生存期間を延長できることを示唆する報告もあります。

口腔内に扁平上皮癌ができてしまい、外科治療が困難である場合は予後が悪いことが多く、生存期間は3ヶ月といわれています。しっかりと外科的に扁平上皮癌を取り切れた場合は長期生存が可能な場合もあります。


舌根部の扁平上皮癌
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No.485 動物の受動喫煙


No.512 小鳥の脛骨骨折

セキセイインコ、オカメインコ、文鳥などの小鳥の骨折は、屋内での放鳥時に落下やドアに挟まれたり、ヒトに踏まれるなどの事故で起こります。鳥類の皮質骨は非常に緻密で引張強度が高いのですが、非常に薄くて脆い面もあり、衝撃を受けると簡単に砕けたり砕けます。くる病の幼若鳥、代謝性骨疾患に罹患している時、産卵期の低カルシウム血症などの骨折も発生しやすいです。とくに小型種では脛骨骨折が多発します。

一般的な症状には、跛行、起立不能などです。食欲不振の場合もあります。

診断は、受傷の状況、症状、触診、レントゲン検査などで行います。

治療は、基本的には全身麻酔下でギブス固定かピンディングを行います。外科用アロンアルファを使用する方法も報告されています。開放性骨折になっている場合は断脚も考慮されます。通常、ピンディングの方が骨の整復は上手くいきますが、手術や処置が上手くいっても、神経機能が戻らなければ跛行が続きますし、血管損傷が激しければ後に壊死を起こすこともあります。

鳥の骨は繊維質を帯びており、外力に対してハガネのようにしなる性質があり、骨折の場合、骨折端がささくれによって離断しない傾向にあります。そして、特に幼若鳥あるいは小型のフィンチなどの代謝率の高い鳥では治癒が早く、通常3~4週間もあれば十分な化骨が期待できます。


セキセイインコの脛骨骨折

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No.475 開放骨折(複雑骨折)
No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)


No.511 ピーナッツとフレッド

SNSやYahooニュースで話題になっていたのでご存知の方もいるとは思いますが、アメリカのメディアによると、アメリカ、コネチカット州に住んでいたマーク・ロンゴさんは7年前、交通事故で母親を失った子リスを保護し8カ月育てて森に放しましたが子リスは怪我をして戻って来ました。野生に返すのは無理だと判断したロンゴさんは、このリスにピーナッツと名前を付けて飼育、愛らしい姿をインスタグラムに投稿するとフォロワーは60万を超えました。

ロンゴさんは昨年ニューヨーク州パインシティーに移住。自宅を「ピーナッツ・フリ―ダム・ファーム」と名付けた動物保護施設にして馬や牛なども飼育していたそうです。無許可で野生動物を飼うことは禁止されているため、ピーナツちゃんを教育用動物として認定してもらうため準備していました。

ところが、先月30日に州環境保全局の職員たちが施設にやって来て5時間にわたって家宅捜索し、ピーナッツちゃんと同居のアライグマのフレッドちゃんを押収しました。違法に野生動物を飼っていると複数の通報があったため調査したという事です。

そして今月1日、環境保全局はピーナツちゃんとフレッドちゃんを殺処分したと明らかにしました。CBSテレビによると、環境保全局は「リスが職員をかんだため、狂犬病検査のため2匹を安楽死させた」と説明していたそうです。

狂犬病に罹患しているかどうかを一番早く確実に診断できるのは脳の病理組織検査です。今回の状況の詳細はわかりませんが、やはり海外では狂犬病は怖ろしい病気の一つととらえられていると感じます。法律を守るのは大事なことだとは思いますが、この様な結果になった事にアメリカでも様々な意見があります。ロンゴさんのショックは大変なものでしょう。ピーナツちゃんフレッドちゃんには安らかに眠って欲しいです。


ピ-ナッツちゃん ロンゴさんのインスタグラムから

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No.231 もし動物に咬まれてしまったら
No.131 人畜共通伝染病1 (Zoonosis)
No.47 狂犬病予防注射について
No.7 狂犬病予防注射


No.510 冷えの悪影響

寒い季節になりました。冷えは健康にさまざまな悪影響を与えることが知られていますが、その理由はいくつかあります。

1. 血流の悪化
体が冷えると血管が収縮し血流が悪くなります。血液の流れが悪くなると、酸素や栄養素が体の隅々まで届きにくくなり疲労感やだるさが増します。また、冷えによる血行不良は筋肉の凝りや関節痛の原因になります。

2. 代謝の低下
体温が下がると基礎代謝が低下します。代謝が低いとエネルギーの消費量が少なくなり、体の機能が低下することで体重の増加や内臓の働きが鈍くなります。また、消化機能が低下すると便秘や胃もたれを引き起こすことがあります。

3. 免疫力の低下
体温が下がると免疫機能も低下します。体温が1度下がると免疫力が30%低下するといわれており、細菌やウイルスに対して抵抗力が弱り感染症のリスクが高まります。

4. 自律神経の乱れ
冷えは自律神経の働きを乱す原因となることがあります。冷えに対処しようとして体が血流を調整するため、交感神経が過剰に働き自律神経が乱れやすくなります。その結果、睡眠障害やストレスの増加、さらには消化不良やホルモンバランスの乱れを引き起こすことがあります。

5. ホルモンバランスへの影響
冷えはホルモンバランスに影響を与えることがあります。とくに、ホルモン代謝力の落ちている高齢動物、持病がある場合は注意が必要です。

これらの理由から、体を温めて血行を良くし基礎代謝を維持することが、動物の健康維持にとって重要です。温かい環境もそうですが、湿度も重要です。寒い時期は加湿をしましょう。適度な運動、食事も工夫して体温を保つことが冷え対策として効果的です。

推奨される室温と湿度の目安(個体差はあります)
犬:室温20~24℃、湿度40~60%
猫:室温20~25℃、湿度40~60%
フェレット:室温15~24℃、湿度40~60%
ウサギ:室温16~22℃、湿度30~60%
チンチラ:温度15~20℃、湿度30~40%
モルモット:室温18~24℃、湿度50~60%
ハムスター:室温20~26℃、湿度40~60%
セキセイインコ・オカメインコ:室温20~28℃、湿度40~60%
文鳥:室温25~28℃、湿度50~60%
ヒト:室温25~28℃、湿度50~60%


冷えには注意しましょう


No.509 リンパ液とリンパ管とリンパ節

リンパ液は、血管から出た組織液(体内の細胞に栄養や酸素を届けた後、血管に戻れなかった水分)の一部です。主成分は、血液の液体物質である血漿とリンパ球ですが、ほかにも傷ついた細胞や、細菌やウイルスなどの異物も一緒に含まれていることがあります。リンパ液は出口にある静脈に向かって一方向に流れています。

リンパ液が流れる管のことをリンパ管と呼び、リンパ液を元の血管に戻そうとする働きを持ちます。リンパ液をそのままにしておくと、量が増えすぎてしまい、浮腫みや腫れの原因となるため、リンパ管がリンパ液を血管に戻すことで、正常なバランスを保っています。また、血管が体内を円のように循環するのに対し、リンパ管は体の端の部分から中央辺りで途切れていて循環することはありません。リンパ管には、リンパ液が逆流しないように弁が付いており、リンパ液は単一方向にしか流れない点も特徴的です。リンパ液は筋肉のポンプ作用で流れています。

リンパ節はリンパ管の節目節目に存在する、豆のような見た目をした器官です。リンパ液の中のウイルスなどの異物をせき止めて、戦う役割があります。また、皮膚などから入ってきた細菌や、リンパ液内にある不要なものを濾過することで処理を行うという特徴があります。ちなみに、ヒトのリンパ節は400個以上と言われており、脇の下や膝裏、足の付け根など全身に存在しています。


リンパ液の流れが上手くいかないと浮腫みます

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No.502 リンパ球 (Lymphocyte)
No.500 免疫力
No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.121 体表リンパ節の腫大 (Swelling of a lymph node)


No.508 鼠径ヘルニア

ヘルニアは、臓器や組織など体の中の一部が、本来あるべき場所から出てきてしまった状態のことをいいます。鼠径とは太腿の付け根にある溝の内側部分のことです。解剖学的には、恥骨の左右の外側、股関節の前方部分にあたります。鼠径ヘルニアは、鼠径部の体壁に穴が開き、脂肪や腸管、膀胱などの腹腔内容物が皮膚の下に脱出した状態をいいます。

先天性と後天性があり、片側だけの場合と両側で発症している場合があります。穴が大きくなると腸や膀胱などの臓器が脱出してしまいます。ヘルニアの内容物が自由に動き、押すと元の位置に戻る状態を還納性ヘルニア、内容物が穴の部分で締め付けられて元の位置に戻れなくなった状態を嵌頓(かんとん)ヘルニアといいます。還納性ヘルニアを放置すると嵌頓ヘルニアになる場合があります。

どの犬種、年齢でも起こる可能性があります。かかりやすい犬種はペキニーズ、ゴールデン・レトリーバー、コッカー・スパニエル、ダックスフンド、バセンジーなどです。

先天性:生まれつき穴が開いている状態です。原因は不明ですが、雄に多く、ペキニーズ、ゴールデン・レトリーバー、コッカー・スパニエル、ダックスフンド、バセンジーなどが起きやすいといわれていますが、どの犬種でも起こります。潜在精巣(精巣が陰嚢に下降せずにおなかの中にある状態)の場合なりやすいという報告があることから、遺伝が関与していると考えられています。

後天性:中年齢の雌で多く見られます。交通事故などで体壁が破損したことで起こる外傷性と、高齢によって体壁が弱くなることで起こる非外傷性があります。妊娠やしぶり、肥満はおなかの中の圧を増加させるためヘルニアにつながりやすいです。後天性のヘルニアの場合も、鼠径部に生まれつき異常があるのではないかと考えられています。

脂肪が出ているだけなら無症状ですが、腸が脱出すると元気消失、食欲不振、嘔吐、下腹部痛などが、膀胱が脱出すると排尿困難やそれに伴う食欲不振、嘔吐などがみられます。何らかの理由で子宮が膨れている場合は子宮が飛び出すこともあります。

子犬の場合は成長に伴って自然に穴がふさがることがありますが、治療の基本は外科手術です。とくに、高齢犬や脂肪以外の腹腔内臓器が出ているようなら早期の治療が必要です。


鼠径ヘルニア


No.507 低グレードリンパ腫(小細胞型リンパ腫)

低グレードリンパ腫(小細胞型リンパ腫)は、高齢の犬猫に発症する傾向にあり、高グレードリンパ腫に比べるとはるかに長期の生存期間が得られます。発生部位によって、多中心型、消化器型、皮膚型、鼻腔内型などがあります。

診断は、リンパ節の針生検(FNA)、リンパ節の切除生検、PCR検査、消化管内視鏡検査などにより行います。試験開腹での検査が必要な場合もあります。

無症状のうちは治療の必要はない場合もあります。発熱、リンパ節の腫れ、咳などの呼吸器症状、食欲不振、下痢や嘔吐などの消化器症状、貧血、リンパ球の増加、低アルブミン血症など、なんらかの症状が認められた時は治療を開始します。

治療は抗癌剤投与になりますが、最初クロラムブシルもしくはアルケラン、プレドニゾロンなどの内服薬を使用します。この治療で、多くの場合、症状が改善します。

生涯に渡って投薬治療で管理できる場合も多く、また、投薬を止められる場合もありますが、症状が落ち着いていても定期的に検査を行い(1-3ヶ月毎)、状態が悪化しているようなら、UW-25などの強い治療に切り替えるタイミングを見極める事が非常に重要です。低グレードリンパ腫のうちは急変することは稀ですが、病態が進んでしまうと、臓器障害や悪液質、播種性血管内凝固(DIC)の状態になり、急に悪化する場合があります。


消化管型低グレードリンパ腫の病理像

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No.503 小腸性下痢
No.302 UW25 (Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)
No.296 生検
No.285 低アルブミン(Alb)血症
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)
No.38 貧血(Anemia)2
No.37 貧血(Anemia)1


No.506 モルモットの子宮疾患

モルモットの子宮疾患はウサギと同様に、子宮内膜炎、子宮水腫、子宮蓄膿症、子宮腺癌、子宮平滑筋肉腫、腺扁平上皮癌などがあります。基本的に卵巣疾患が原因です。不妊手術をしていない4~5歳以上で多く発症が見られます。ある程度進行しないと症状を見せないため、なかなか気が付きにくい疾患の一つです。

一番最初にみられる症状は血尿です。血尿は尿全体が赤くなったり、尿の中に血の塊がみられたり、鮮血が陰部から出てきたりと程度や状態は様々です。持続的に血尿がみられることは稀で、時々血尿になったり普通の尿になったりを繰り返すことが一般的です。また、初期には一過性のことも多く様子を見てしまいがちです。乳腺の腫れや腹部膨満などの症状が見られることもあります。重症になると元気や食欲がなくなってきます。

診断は超音波検査やレントゲン検査で行います。あまり大きくなってない子宮の場合は判断が難しい事もあります。また、可能なら血液検査も行い、他の病気との区別や重症度の判定を行います。

治療は、抗生剤や止血剤、ホルモン剤などで症状の改善がみられることもありますが、内科療法で完治させることは困難です。放置すると腹腔内出血や腹水貯留、播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こし手遅れになってしまうこともあるので、なるべく早期に卵巣子宮摘出手術を行います。

ここまではウサギの子宮疾患とほとんど同じですが、モルモットは卵巣が腹腔内の深部にあって、通常の腹部正中切開では展開が難しいため手術が困難です。状況によっては左右の腰背部の切開が必要な場合があり麻酔時間が延びます。また、痛みやストレスにも弱く、犬や猫だと通常行える、静脈点滴や気管チューブの挿入、静脈点滴、血圧測定などの各種のモニターも行えないものが多いです。しかし、病気が進行し貧血や多臓器に癒着を起こしてしまうと手術のリスクがより高くなるので、メリット、デメリットを理解してなるべく早期に手術することが重要です。確定診断には摘出した卵巣・子宮の病理診断が必要です。

予後は原因よって異なりますが、早期発見して手術・治療をして、悪性のものではなかった場合は予後は良好です。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
摘出したモルモットの卵巣と子宮