No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)

正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、血液は固まることはありません。しかし、何らかの原因により、血管内のあちこちに血栓が生じることがあります。血管内に血栓が無数にできることで、小さな血管が詰まり、本来は出血の抑制に必要となる血小板や凝固因子を使い果たしてしまい、実際には出血傾向となります。この状態を「播種性血管内凝固症候群(DIC)」と言います。

DICは見た目が比較的元気なときに、急に発症することもあり、血が止まらず大量出血によって死に至るケースも少なくありません。これといった特効薬もないので、いかに早期発見・早期治療ができるかがポイントとなります。DICの発症には、基礎疾患が関与しています。未だ確固たる機序は証明されていませんが、基礎疾患が悪化した際に、生体内の抗血栓性の制御をはるかに超える大量の凝固促進物質が血管内に流入することが原因であると考えられています。

凝固活動が活性化すると、血栓の元になる血小板や凝固因子が大量に消費され、それらが著しく減少します。その結果、凝固反応が加速化し、血栓の抑制機能を低下(血栓形成を促進)させます。さらに、血栓を溶かそうとして働くプラスミンが、本来の止血のための血栓をも溶かしてしまうため、出血傾向がさらに高まります。このように、血液を固める凝固作用と、固まった血液を溶かす作用が同時に起こることで大量出血が引き起こされます。なお、主な基礎疾患には、下記のようなものがあります。太字はよく見られるものです。

腫瘍性疾患:血管肉腫、血管腫、転移性甲状腺癌、転移性乳癌、前立腺癌、胆管癌、リンパ腫
感染性疾患:細菌性心内膜炎、犬伝染性肝炎、バベシア症、フィラリア症、猫伝染性膜膜炎
炎症:子宮蓄膿症膿瘍、化膿性皮膚炎、化膿性気管支肺炎、急性肝臓壊死、急性進行性肝炎、膵炎、出血性胃腸炎、多形紅斑
その他:ショック熱中症、肝硬変、毒ヘビの咬傷、免疫介在性溶血性貧血、アフラトキシン中毒、うっ血性心不全、胃拡張・胃捻転症候群、横隔膜ヘルニア、心弁膜繊維症、寒冷凝集素病、手術後、真菌性菌腫、腎アミロイドーシス、肺血栓栓塞症、肝リピドーシス

DICの症状は「出血」と「臓器症状」があり、どちらが強く発現するかは綿溶(血栓の溶解)と凝固の優位性によって異なります。綿溶が優位に働く場合には出血症状が発現し、凝固が優位に働く場合には臓器症状が発現します。

出血症状:血栓の元になる血小板や凝固因子が低下することで、出血傾向が高まります。止血作用が働いていると出血量はそれほど多くはありませんが、プラスミンの働きにより、止血のための血栓をも溶かしてしまうと、止血が追い付かなくなり、大量出血となります。DICに起因する基礎疾患のうち、悪性腫瘍、造血器腫瘍は出血症状が主です。

臓器症状:微小血栓が多発すると、各臓器に十分な血液が流れなくなり、いわゆる微小循環障害をきたします。その結果、十分な血液を供給できない臓器で機能障害を生じ、進行具合によっては全く機能しなくなる”不全”の状態に陥ります。DICでは、微小血栓が血管内のさまざまな部分に無数に発生することから、しばしば多臓器不全を引き起こします。臓器症状を呈する主な基礎疾患は、敗血症などの細菌感染症であり、薬物治療によって改善を図りますが、敗血症自体が生命にかかわる病気のため、DICを合併した敗血症患者の死亡率は60%以上にものぼると言われています。

DICの状態になってしまうと救命率は下がります。基礎疾患の治療が1番の治療です。小さな膿瘍からでもDIC になってしまう場合があります。DICに移行しやすい疾患のときは迅速な対応が必要です。


No.143 全身性炎症反応症候群 (SIRS)

全身性炎症反応症候群(SIRS)は『各種の侵襲により免疫担当細胞、あるいは炎症細胞が刺激を受け、炎症性サイトカインを産生し、それが血中へ入って全身を循環し全身的な炎症反応を引き起こしている状態』と定義されます。侵襲によって生体がどの程度反応しているかを知るためのものです。
SIRSは、手術、外傷、熱傷、炎症、感染症などの様々な侵襲によって起こります。本来のバランスを失ってしまったサイトカインが暴走している状態です。言い方を変えると、SIRSは高サイトカイン血症であるとも言えます。(サイトカインの内、IL-1,IL-6,IL-8,TNF-αなどを炎症性サイトカインと呼びます)
SIRSの状態になると、サイトカインの増加により準備された好中球が組織を攻撃してしまい、組織の酸素代謝がうまくいなくなり、最終的に多臓器不全になり、死にいたることもあります。ヒトでは発症者の約30%がショックを引き起こすとされ、一見元気そうに見えていても、SIRSの基準を満たし、さらに要因を多くもっている場合は急変する危険性が高いとされています。
また、SIRSはの概念は、様々な侵襲によって、生体が全身的な炎症反応を引き起こしているかどうかを、簡単に把握できる警告信号として利用することができます。


当然、動物の場合は、品種、年齢や環境などによっても心拍数、呼吸数、体温などは影響を受けますし、上記の基準に完全に沿った場合、集中治療の必要のない症例も多く拾ってしまい、死亡率が10%のものと50%以上のものをひとくくりにしてしまうという問題点がありますが(10%でも十分高い死亡率ですが)、比較的簡便なので,獣医学領域では、現場で多用されている概念です。
白血球以外はご自宅でも簡単に測定できる項目です。手術後や感染症の治療中で、ご自宅でケアする場合、飼主さんは理解しておいた方が良いと思います。

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No142 サイトカイン


No.142 サイトカイン (Cytokine)

白血球の働きは、この30年くらいで非常に多くのことが分かってきました。その1つがサイトカインと呼ばれる物質の存在です。サイトカインとは聞きなれない言葉かもしれませんが、医学領域では、炎症・免疫・アレルギー・感染症・抗腫瘍などの生体防御系に影響する多くのことに関わる物質です。

サイトカインとは、抗原が感作リンパ球に結合したときに、そのリンパ球から分泌される特殊なタンパク質の総称です。細胞間の情報伝達・コミュニケーションの役割をします。サイトカインの働きに異常が生じると、様々な病気の出発点になってしまいます。ひとつのサイトカインは複数の機能を持ち、その上、いくつものサイトカインが同じ機能を持っているという特徴があります。また、サイトカイン同士が互いに影響してサイトカインの産生を調節するフィードバック機能も備えています。なかなか複雑です。
主なサイトカインを簡単に以下に挙げます。

インターロイキン(IL):白血球が分泌し免疫系の調節、細胞間のコミュニケーション機能の役割をします。現在30種以上が知られています。また、単球やマクロファージが分泌するものをモノカイン、リンパ球が分泌するものをリンフォカインと呼ぶこともあります。
インターフェロン(IF-αβγ):腫瘍などの病原体やウィルスなどの異物が体内に入ったときに分泌されます。主な役割は抗腫瘍・抗ウィルス・免疫増強作用です。
ケモカイン:白血球を遊走させる活性を持つサイトカインのこと。50種類以上あります。
造血因子(CFS):血液細胞・免疫細胞の増殖・分化に関与します。
腫瘍壊死因子(TNF-α):腫瘍細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導します。

この他にもたくさんのサイトカインが見つかっています。これからもどんどん新しいサイトカインが発見されていくでしょう。


No.141 消化管内視鏡

内視鏡とは先端に小さなレンズを付けた細い管を体の中に入れ、モニターで観察・処置・検査材料の採材をする機器です。内視鏡には、気管や気管支を観察する「気管支鏡」、鼻の粘膜を観察する「鼻鏡」、耳の奥を観察する「耳鏡」、尿道や膀胱の粘膜を観察する「膀胱鏡」、関節内部を観察する「関節鏡」、胸腔の検査・手術のための「胸腔鏡」、腹腔の検査・手術のための「腹腔鏡」、そして消化管を観察する「消化管内視鏡」があります。今回はこの消化管内視鏡のお話です。

消化管内視鏡検査は検査する部位により種類が分かれます。胃を中心に見る場合は「胃内視鏡」いわゆる胃カメラと呼びますが、食道、胃、十二指腸はまとめて上部消化管と呼ばれますので、上部消化管全体を観察する場合は「上部消化管内視鏡」となります。通常は、胃だけを観察するよりも、食道、胃、十二指腸を含めて観察することが一般的です。犬や猫では胃よりも十二指腸の方が異常が出ることが多いです。また、大腸を調べる場合は、肛門から内視鏡を挿入して、直腸を含む大腸全体(場合によって回腸も)の検査を「大腸内視鏡」にて行います。なおこの検査を上部と対比して、「下部消化管内視鏡」と呼ぶ場合もあります。

消化管内視鏡を使用する場合、ヒトと動物の一番の違いはヒトでは喉の局所麻酔と状況によって鎮静剤ぐらいで施術が可能ですが、動物の場合は基本的に全身麻酔が必要となります。また、ヒトでは人間ドックの一環として行われることが一番多いのですが、犬や猫の場合は誤食した異物を取り出すために使用されることが多いです。

消化管内視鏡検査は全身麻酔こそ必要ですが、侵襲性が低いすぐれた検査です。異物の取り出し以外にも、慢性の嘔吐や下痢などの消化器症状の診断のために使用されます。バイオプシーと言って消化管粘膜の細胞を取ってくることにより、リンパ球形質細胞性腸炎、リンパ管拡張症、好酸球性腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、リンパ腫、その他の癌などの診断が可能です。また、小さなポリープなら切除も可能です。


内視鏡


No.140 痛み(Pain)

『痛み』とは、国際疼痛学会(IASP)で「組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・感情体験」と定義されています。ややこしいので簡単な例を挙げます。例えばドアに指を挟んだときのことを思い浮かべてください。このとき「痛い」は当然として「辛い」とも思わないでしょうか?「痛い」は感覚で「辛い」は感情です。ドアに指を挟んだときに生じる痛みは不快な感覚・感情体験です。テレビドラマなどで、このときに経験したのと同じような「ドアに指を挟む」場面を見ると痛いと思うことがあります。これは、今、実際に痛みがあるわけではないけれど、思い出して痛いと感じていることになります。このように、痛みには実際に経験して感じる痛み思いだして感じる痛みの2つの流れがあります。このような理由から、言葉によるコミュニケーションが取れない動物たちには、痛みがあるかどうか、痛みを感じているかどうかわからないから痛くないと考えるのは間違いといえます。

不快な痛みですが、痛みを感じるということは、生命の防御反応にとっては非常に重要です。痛みは組織や精神に何らかのダメージを与えます。普通に痛みを感じる私たちは、ドアに挟まれそうになったときに手を引っ込めたり、転んだときは受け身を取ったりと反応します。このダメージから逃げる反応こそが生命を守るために必要です。そのため、人を含め動物は痛みから逃げるという反応を持っているのです。ここに痛みが存在する意義があります。

では、痛みは重要な反応だから、そのまま取り除かなくても良いのでしょうか?10年前くらいまでは、動物の痛みは取り除く必要がないという考え方が一般的でした。動物は痛みに強いなどと思われていたのです。また、手術のあとなど傷口が痛いと動物は動かないし、傷口をあまり舐めないので、傷口が痛い方が早く治るなどとも思われていました。しかしそれは間違いで、痛みが続くことによって生体には様々な不利益が生じます。その主なものを挙げてみます。

痛みが身体に及ぼす影響
精神状態:気力の低下、不安感
→痛みの感覚の増強
呼吸器系:肺活量・肺のコンプライアンス・換気量の低下
→体の中の酸素の低下、二酸化炭素の上昇
循環器系:交感神経の緊張の増加
→心拍数・血圧の上昇、心臓への負荷の増大
内分泌系:コルチゾールの分泌促進
→ストレス反応の促進(心拍数・血圧の上昇)、体の負担の増加
代謝系:体内異化亢進、タンパク分解増加
→栄養不良状態、削痩、創傷治癒の遅延
その他:食欲低下、運動性・活動性の低下、血液凝固能の亢進
→血栓形成の促進

上記のようなことが痛みが続くことによって生じます。例えば、心臓の悪い犬の手術をしたあとに、きちんと痛みを止めてあげないと、血圧や心拍数の増大が起こって、肺に水が溜まる肺水腫という状況になってしまうことがあることはよく知られています。そもそも痛いのはかわいそうですよね。

現在、痛み止めの薬はよいものがたくさん出ています。状況に応じて使いわけをしています。


No.139 高齢猫の体重減少

「歳だから体重が減るのは仕方ない」「食欲はあるから体重は減っても大丈夫」と思われている方は多いと思いますが、2008年のアメリカの調査では、体重の減少が少ない猫ほど長生きという結果が出ています。高齢猫の体重減少を抑えると『病気が減る』『寿命が延びる』こともわかっています。

体重の変化は主に筋肉と脂肪の減少です。体重から脂肪組織の重量を引いたものを除脂肪体重(LBM)といいます。猫のLBMは12歳から減少しはじめます。このLBMを維持することが重要です。

よくある間違いの1つは高齢の痩せた猫に低カロリーのシニア食を与えていることです。まずは痩せた原因を掴まなければなりません。とくに13歳以上の猫は体重が減ってもエネルギー要求量が上がっています。健康な成猫のタンパク要求量は5g/kgです。そのうちの34%はたんぱく由来のカロリーが必要です。老猫は消化吸収機能の減退、代謝の変化によってもっと必要です。シニア食を与えるときは注意が必要です。5%以上の体重減少は非常に危険です。すぐにきちんとした対処が必要です。

高齢猫で体重が減少してくる主な原因となるものを挙げてみます(太字はとくに多い疾患)。

食欲は正常または亢進
・代謝性:甲状腺機能亢進症、糖尿病
・炎症性:炎症性腸疾患(IBD)

食欲は正常
・代謝性:甲状腺機能亢進症、糖尿病、先端巨大症、副腎皮質機能亢進症、タンパク喪失性腎症(ネフローゼ)
・腫瘍:消化器型リンパ腫
・栄養性:不十分な栄養
・炎症性:IBD、慢性膵炎、膵外分泌不全、リンパ球性胆管炎
・感染性:消化管内寄生虫

食欲減退
・嗅覚・味覚の低下
・口腔内疾患:歯周病
・代謝性:慢性腎臓病(CKD)
・炎症性:IBD、慢性膵炎、関節炎

食欲なし
・先天性異常:門脈体循環シャント
・代謝性:CKD、甲状腺機能亢進症と併発疾患、慢性胆管肝炎、糖尿病性ケトアシドーシス、重度のネフローゼ
・心血管性:重度の心疾患と悪液質
・感染性:細菌感染と発熱
・腫瘍性:癌性悪液質
・感染性:FIV、FeLV、FIP、FVR、トキソプラズマ、クリプトコッカス、全身性真菌症
・炎症性:IBD、慢性膵炎
・特発性:乳糜胸

このようにいろいろな病気が原因となります。病気が1つでないことも多いです。痩せてきたのを早期に発見し、原因を早期に特定し、きちんとした治療をして、体重と筋肉を元に戻すことが長寿のためには必要です。


21歳の猫ちゃん


No.138 第16回 飼主様向けセミナー

昨日の飼主様向けのセミナーにご参加くださった方々、ありがとうございました。是枝先生による跛行のお話はいかがでしたでしょうか?簡単にまとめると
・人工股関節
・股関節形成不全(HD)
・レッグペルテス(LCPD)
・前十字靭帯断裂(CCLR)
・犬猫の関節炎のサイン
のお話でした。

アンケートにあったご質問にお答えします

Q.一般の病院で人工関節の手術を専門医にやってもらうことは可能か?
A.高度な整形外科手術のための設備がある病院ならば可能です。当院は可能です。

Q.犬の人工関節の手術代は?
A.動物のサイズにもよりますが60-80万円くらいです(その約半分は、人工関節のキットの代金です)

また、参加されなかった方でも自宅でも応用できる関節炎のサインを挙げておきます。

犬の関節炎のサイン
・運動量の減少:走りたがらない、散歩を嫌がる、ボールなどで遊ばなくなる
・ジャンプできない:上り下りをしなくなる、車やソファに飛び乗らなくなる
・前肢:脚をひきずって頭が上下する(頭が上がってしまう胞の脚に問題)
・後肢:お尻が上下する(お尻が上がってしまう方の脚に痛みがあることが多い)
・関節の硬さ:関節が硬くなると歩幅が短くなる
・不自然な姿勢:
座り方や立ち方が不自然
脚が左右に流れる
体重が体の中心に来ていない
背中が丸まっている
通常犬の背中はまっすぐ、まっすぐでないのは痛みのサイン

猫の関節炎のサイン
・12歳以上の猫の90%に関節炎がある(治療を受けているのは7%)
・猫は身軽なため症状を見落としやすい
・ジャンプをしなくなった:猫は高いところに登ったりするのが好きな動物
・ジャンプが低くなった:ジャンプはするけど高さが低くなった
・関節の硬さ:歩幅が狭くなりゆっくり歩く
・歳を取ったように見える:
歳を取っても関節が健康なら俊敏
動きに制限が出ると歳を取ったようにみえる

関節炎は元に戻せません。悪化する前に、原因を特定し、早期に進行を抑えることが大事です。

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No102前十字靭帯断裂1
No103前十字靭帯断裂2


No.137 不整脈 (Arrhythmia)

先日、アイドルをやっていた女子高生が突然亡くなり、原因が不整脈だといわれていました。動物でも不整脈はあり、統計上はヒトより多くみられます。とくに症状がなくて、無治療や経過観察のみでよいものもありますが、虚脱や失神、重度のものは放っておくと突然死が起こるものもあります。

不整脈の診断の第一歩は聴診、次に心電図(ECG)です。他の疾患が原因だった場合など、普通の心電図でもわからない不整脈もあるので、血液検査や超音波、ホルター心電図などの追加検査が必要な場合も多いです。今回は犬や猫でよくある不整脈をご紹介します。

正常な心拍数の目安は、犬で1分間に70-160回、猫で120-200回ぐらいです。不整脈には様々な分類方法がありますが、わかりやすくするために、この目安より遅いものを徐脈性不整脈、早いものを頻脈性不整脈に分類し、頻脈性不整脈は上室(心房)性と心室性に分けて考えます(実際には分類が難しい場合もあります)。

徐脈性不整脈

・洞性不整脈(SA)
吸気時に心拍数が上昇、呼気時に減少する不整脈。基本的には治療の必要はありません。

・洞不全症候群(SSS)
心臓の調律を発する部分を洞房結節といい右心房にあります。この洞房結節の機能が低下して生じる不整脈を洞不全症候群(SSS)といいます。洞不全症候群は、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロックなどが複合して発生するもので、M.シュナウザー、M.ダックスフント、A.コッカースパニエルに多く、無症状の場合もありますが、アダムス・ストークス発作(失神)を起こすときは治療が必要です。I型からIII型に分類されています。迷走神経緊張、低体温、甲状腺機能低下症、高K血症などの他の疾患が原因の場合もあります。
I型:持続性の洞性徐脈
II型:洞房ブロック(S-Aブロック)、洞停止(Suinus arrest)
III型:徐脈と頻脈の繰り返し

・房室ブロック(AVB)
房室ブロックとは、心房から心室の電導遅延または途絶を意味し、程度によって第1度、第2度(MobitzI型、MobitzII型、高度)、第3度(完全)房室ブロックに分類されています。MobitzII型以降の房室ブロックは治療の必要があります。猫の失神を引き起こす房室ブロックは高度房室ブロックです(発作性房室ブロックとも呼ばれます)。高度房室ブロック、第3度房室ブロックでは突然死の可能性があります。

頻脈性不整脈

・上室性不整脈
上室性不整脈で最もよく遭遇するのは、僧房弁閉鎖不全症の末期に出現する、心房細動(AF) です。この不整脈が出てしますと僧房弁閉鎖不全症は予後不良です。このような事態にならないよう、僧房弁閉鎖不全症は早期からの治療が必要です。

・心室性不整脈
心室性不整脈の代表は心室期外収縮(VPC)で、様々な心筋症でよく出現します。ヒトでよく脈が飛ぶと表現されます。単発のものは経過観察でよいのですが、多発性、連続性の場合は治療が必要です。

不整脈のうち無症状なものは、健康診断などで偶然に見つかる場合も多いです。お家での対応は、安静時に胸を触って心拍数やリズムをみてみて下さい。以上がありそうな場合はご相談下さい。

心房細動の犬の心電図


No.136 犬ウィルス抗体価検査 (Canine VacciCheck)

今まで、外の検査所にお願いしなければならなかった、犬のジステンパー、パルボ、アデノウィルスの検査が院内で、そして外注よりも安価でできるようになりました。この3種のウィルスに対するワクチンはコアワクチンといわれ、犬の混合ワクチンの中で最も重要なものです。

最初の年のワクチンは必須ですが、2歳以降のワクチンについては、毎年必要なのかどうか、以前から議論がありました。今回、この3種のウィルスの抗体価を測定することにより、採血が必要なのと、次の日のご報告になってしまいますが、その年のコアワクチンが必要かどうかを判断できます。本当にそのウィルスに対して免疫を持っているかどうかは、メモリーBリンパ球なども関与して少し専門的な話になるのですが、抗体価がきちんと上がっていれば、そのウィルスに対しては免疫を持っている可能性が高いといえます。

残念ながら、レプトスピラや猫ちゃんのウィルスに関しては、今のところ外の検査所にお願いするしかありませんが、高齢だとか病気があるからワクチンが心配だという方には良い方法だと思います。しかし、検査で抗体価が不足しているという結果が出てしまった場合は、ワクチン接種が必要となります。

ウィルス抗体価検査をして抗体価が十分にあると判定された場合には、混合ワクチンをやらなくても、ワクチンをしていただいている方と同じ下記のサービスを継続させていただきます。

『当院で1年以内に、混合ワクチンを接種していただいているか、もしくはウィルス抗体価検査で抗体価が十分にあると判定されている場合(ワンちゃんの場合はフィラリアの予防も必要)』
・再診料無料
・爪切り、肛門腺の処置無料
・トリミング(有料)
・ペットホテル(有料)

ご希望の方は診察時にご相談ください。

残念ながら、ドッグランやドッグカフェへの入場、当院以外でのペットホテルやトリミングなどは、ウィルス抗体価検査だけでは断られる場合があるかもしれません。また、マンションなどにお住まいの場合、内規もよく考慮してご検討ください。

また、狂犬病ウィルスに対しても抗体価検査は可能ですが、今のところ、狂犬病予防注射は法律で年に一度の接種が義務付けられています。


No.135 ウサギの不正咬合 (Malocclusion)

ウサギの歯は解放性の歯根を持つ常生歯といい、月に1センチほど永久に伸び続けます。切歯(前歯)と臼歯(奥歯)2種類の歯があります。歯の働きは、上顎の2本と下顎の2本、そして上顎の前歯2本の裏に生えている2本の合計6本の切歯で牧草を切断し、左右に11本ずつ生えている臼歯で、切断した牧草などを下顎を臼のように動かすことによって細かくすりつぶします。 このような動きがきちんとできなくなると、切歯は唇を、上顎の臼歯は頬の内側を、下顎の臼歯は舌を傷つけます。このように正常な噛み合わせでなくなってしまった状態を不正咬合といいます。

主な原因は、先天性の解剖学的な異常の場合もありますが、多くは後天性で、食事の内容がペレットだけで牧草などを与えないために歯を削ることができなくて生じる食事性、 金属のケージをかじることにより歯が曲がって上下のかみ合わせが悪くなるなどの外傷性、老化や歯根部の感染、若いときのCa不足による歯槽骨の変形なども原因となります。

不正咬合の症状は、食欲不振、流涎が主ですが、とくに臼歯の不正咬合は重度になると顎の変形が起きたり、膿瘍ができたりします。このようになってしまうと完治は困難ですので、早いうちの対処が必要です。確定診断は通常、視診とレントゲン検査で行います。他の食欲不振を症状とする疾患との鑑別や顎の状態の把握のためには血液検査、超音波検査なども必要となる場合があります。

治療は、軽症の場合は内科的な処置で可能な場合もありますが、基本的には外科的に歯を削ることが主となります。切歯は無麻酔で処置が可能ですが、臼歯は全身麻酔が必要です。臼歯の処置を無麻酔でやると、出血による窒息や顎の骨折など、取り返しのつかない事故につながる可能性があります。また、奥の臼歯に関してはきちんとできませんし、皆様も、自分の歯を無麻酔で削られることを考えたら、非常に恐いと思います。

一度不正咬合になると、生涯にわたっての治療が必要です。予防は、切歯については環境の整備、臼歯については、とにかくイネ科の牧草(チモシー)を食べさせることです。日光浴を推奨する報告もあります。