No.247 猫の変形性関節症 (Degenerative joint disease;DJD)

猫の変性性関節症(DJD)とは、関節に炎症が発生した状態で、関節面の摩耗や関節にかかる荷重バランスの変化によって軟骨にダメージが蓄積することで発症します。軟骨が破壊されると周囲の滑膜の炎症が誘導され、滑液中へのヒアルロン酸分泌が減ることでさらに軟骨代謝が悪くなり、軟骨の変性が進む悪循環により、関節構造は本来のクッションとしての役割を充分に発揮できなくなっていきます。痛みや運動障害、生活の質の低下をもたらす疾患です。高齢の猫の約90%の猫がX線検査でDJDの徴候を示し、うち40%の猫では疼痛に関連する臨床症状を示すとされています。

原因としては加齢による関節軟骨の老化がまずあげられます。猫では少ないですが、前十字靭帯断裂、膝蓋骨脱臼、股関節形成不全等の整形外科疾患や外傷、場合によっては栄養的な問題も要因となり得ます。そのほかスコティッシュフォールドなどの特定の猫腫に特徴的にみられる骨軟骨異形成症といった遺伝的疾患によって若齢から症状を現すこともあります。また、肥満による関節への負担増は疾患の発症と悪化のリスクを高めます。

しかしながら、猫のDJDは十分に診断・治療がされていません。その理由の1つに臨床症状として跛行が認められづらいということがあげられます。そのため、飼主さんはDJDの臨床症状を加齢に伴う変化と認識してしまうことが多くあります。このようなことから、猫の飼主さんに対するDJDのスクリーニングのためのチェックリストをノースカロライナ大学の榎本先生らが作成しました。

・あなたの猫は普通に跳び上がりますか?
・あなたの猫は普通に跳び降りますか?
・あなたの猫は普通に階段を上りますか?
・あなたの猫は普通に階段を下りますか?
・あなたの猫は普通に走りますか?
・あなたの猫は動く物(おもちゃなど)を追いかけますか?

上記に1つでも当てはまる場合は変性性関節症(DJD)の可能性があります。

治療のメインは痛み痛みの管理です。NSAID(非ステロイド系抗炎症薬)、サプリメント、半導体レ-ザ-などで炎症を取り除き痛みを和らげます。また、減量も重要です。早目に診断・治療をして、猫の痛みを取り除いてあげましょう。


No.246 ホルネル症候群 (Horner syndrome)

眼と眼瞼を支配している交感神経の麻痺によって起こる病態です。通常は片側だけに生じます。特徴的な症状は以下の4つです。

・瞬膜の突出
・縮瞳
・眼瞼下垂
・眼球の落ち込み

診断は上記の特徴的な臨床症状に加え、神経学的検査、フェニレフィリン点眼検査、血液検査やレントゲン検査、超音波検査、場合によっては、CTやMRIが必要な場合もあります。

原因は様々な原因により何処かしらの交感神経経路が遮断される事によって発生します。交感神経経路は大きく分けて以下の3つにわかれており、どの部位で遮断されるかで症状が異なります。検査を行っても原因が特定できない事もしばしばあります。頭部や頸部の外科手術の後に起こる場合もあります。
・脳から脊髄にかけて:
腫瘍や脳脊髄炎などに伴って発症することがあります。
ホルネル症候群以外の神経症状が出る事も多くあります。
・脊髄から頭頸部の神経節にかけて:
神経周辺の腫瘍や首に対する傷害(チョークチェーン、交通事故など)に伴って発症します。
・頭頸部の神経節から眼窩まで:
中耳炎やその他の原因で発症します。

治療は原疾患の治療です。特発性(原因不明)の場合は経過観察ですが、数週間~数ヶ月で自然治癒する場合もあります。


ホルネル症候群のゴールデンレトリーバー


No.245 愛玩動物と新型コロナウイルス(Covid-19)感染症について

海外において、動物への新型コロナウィルスの感染が報告されています。香港での新型コロナウイルス感染者の飼育犬への感染、ニューヨークやインドの動物園でのネコ科動物への感染、 ベルギーやアメリカでの猫への感染などです。しかし、これまで飼育動物から人に感染したという事例は報告されておらず、ベルギー当局も「愛玩動物から人に感染する危険性はない」としています。中国やドイツにおける感染実験では、豚や鶏は非感受性であり、犬も殆ど感受性がないとしています。しかし、猫とフェレットは感受性が高く、猫はヒトのような呼吸器症状を示さず消化器症状を示して、猫から猫への感染が見られると報告がありました。今、日本の施設でも確認中です。

感染したヒトと濃厚接触のあった動物が感染する可能性は否定できないことから、ご自身の動物を感染から守るためにも、飼主さんがしっかりした感染防御の対応をとることが最も重要です。
猫は外に放さず室内で飼育して下さい。犬のお散歩時は必ずマスクをして下さい。新型コロナウイルス陽性となった飼主さんと接触のあった動物に臨床症状が認められた場合は、事前にかかりつけの獣医師と電話相談のうえ、獣医師の指示に従い動物病院で診察を受けてください。

まずは、ヒトが感染しないことです。何かご質問があれば、お電話でのご相談もOKです(診療時間内にお願いします)。


No.244 新型コロナウイルスに対応している現場の声

新型コロナウイルスに対応されている、東京の大学医学部付属病院の看護師さんからの情報です。貴重な現場のリアルな声です。

この度、4月頭からコロナ外来に選出され、毎日PCRや入院手続きなど実施しています。今私から最新の情報を発信できるとおもい、情報をアップします。まず大事なのは漠然と怖がらないで、きちんと理解して適切に怖がろうということです。空気感染ではないので、ふわふわ飛んているのではなく接触!飛沫!人のしゃべるツバ!この見えない概念の理解が大事かなと思っています。マスクとマスクをしていれば基本的にうつりません!
以下、100人くらい問診した結果からの情報です。

<症状の特徴>
コロナウイルスは感染後7日~10日目にピークを向かえます。
1、最初に倦怠感が顕著に出る
2、頭痛がほとんどの人で出現
3、下痢(回数は多くない)も多い
4、途中から味覚と共に嗅覚も全くなくなる人が半分位いる
5、発熱 軽症:微熱がだらだらと続く
中症:39度台くらいまで上がる
重症:38度以上がずっと続く
特徴は一旦7日目くらいにおさまってまたぐんぐん出る
日内変動はある
6、咳や痰はあまり多くない印象
7、若くても息切れが出てくる
8、喘息や喫煙歴、糖尿病があると重篤化しやすい
9、肺炎像は両肺に淡い影がはっきりと出る
(レントゲンよりCTでしか読影できないことあり、CTがいいです)
<現在の治療>
対症療法のみ。当院では
○発熱、頭痛:カロナール(イブやロキソニンは×)
○抗生剤は基本的に効かないので飲まない
○咳:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物
○痰:カルボシステイン
○下痢:整腸剤(ミヤBMなど)
カロナールは400mg~500mg/回 3回まで

<PCR受けるまでの流れと結果>
1、発熱と上記症状があった場合保健所に電話。ひどいと2時間繋がらないとか丸2日間繋がらないという現状がある。繋がらなかったら他の近隣地域の保健所に電話してください。
2、経過観察と言われることが多い様ですが、そんな時は近医にまず電話をしてから受診。だいたい上の薬+医師によっては抗生剤を出して自宅待機となる。
3、解熱しない、もしくは症状が消失しない場合は遠慮なく保健所にもう一度電話する。
4、それからPCRの検査を受ける場所を指定される。
5、病院や検査所から直接電話がかかってきて受診の日時を聞く。
6、保健証と現金を持って検査場へマスクをしていく。
(保健が効けば料金は1000円程度。CTなどを撮影すると6000円程かかる)
7、薬が必要であれば依頼して帰宅。帰宅は交通公共機関を使わない。
8、翌日保健所が検体を持っていく。今検査が立てこんでいて月曜日に出した結果が金曜日にならないと戻ってこない。つまり5日間位かかる現状。
9、自宅で呼吸苦が出たら保健所に電話。万が一繋がらなくて危険を感じたら迷わず救急車を呼ぶ。
10、症状が落ち着いたら今後はPCRしないで2週間後から普通の生活になる方向。家族も2週間同じ対応で。

<実際にうつる場所の印象>
1、居酒屋や外食店のホールスタッフの手が怪しい!毎回手指消毒していなければウイルスのついたお皿をさげて次の人のお皿を運んでいる可能性が十分あります。
2、ライブハウス系の人はよく来ます。
3、陽性の出た人の家族はほぼみんな陽性です。
4、孫が祖父祖母宅に遊びに行って濃厚接触をする。
5、病院関係のクラスターとその家族や、それらの人と接触した人。

<入院となった場合>
1、指定病院がなかなか空いておらず、とにかく医師が電話して探し回る場合が多い。その間患者は待っていて家族が荷物をまとめて持ってくる。入院したら面会は一切禁止。現金、持参薬も一切持ち込み禁止。
2、とにかく病室の中から出れないで対症療法のみ。
3、呼吸状態が悪化したら、ICUで気管挿管し人工呼吸器をつけるしかできることはなく、あとは患者の免疫力で回復を祈るのみ(悪化しても回復する患者もいる)
4、万が一のことがあった場合は最後まで家族に電話をして状態を伝え、火葬してから遺族に遺体を返す。入院になった時点で軽症化するまで一切誰とも会えず、そして重症化したら一気にあっけなく…という印象があり、ここが怖いところです。
5、軽症になったらすぐに専用の移送の車でホテルへ移動して療養。結構これは早い段階でスムーズにいきます。新患者や重症者のベッド床を確保するために。

<私が気をつけていること>
1、口から入るのが一番うつるので食べる前、ドアノブなどどこも触らない状態にしてから、爪や指と指の間までしっかり洗う!これにつきます!
2、1日8時間睡眠(睡眠を十分にとる)
3、現金は一切触らず全て電子マネー。
4、クラスターになっている場所や病院はできる限り行かない。
5、携帯電話は食事中触らない。帰宅後はまず第一に消毒してから家にいれる。
6、マスクの表面は絶対に触らない。ポケットにしまった手は汚染されていると認識する(マスクは基本1枚/日)
7、タクシーに乗らない。実はコロナ患者さんはタクシーで移動してる人が多いので、タクシーは基本的にコロナウイルスウヨウヨです。

<患者の流れ>
1、3月の3連休で陽性となった患者のPCR検査はピークアウトしてから実施されている。若い人が多く軽症が多い。
2、4/5週はその家族が続々ときて陽性になっている場合が多かった。高齢者にうつり、重症な肺炎も多々見られるようになった。
3、4/12週はクラスター本人とその家族も一気に陽性となった印象。
4、陽性になった患者の同居人はだいたいうつるので適切な隔離方法を指導している。

以上です。必要以上に怖くなるような情報は避けたつもりです。

日本は他国よりだいたい2週間程、対策や実行が遅れている印象があります。お金の心配も絶対あると思います。ですが、目先のことより、今ぐっとこらえることが大事な命を救ってくれます。私が今いる病院の中もまさにコロナ戦争ですが、みなさんに応援してもらって私達医療従事者は頑張れています。本当に感謝しています。長々と失礼しました。

最前線は本当に大変ですね。当院でも、マスクでの対応、通常のアルコール消毒に加え、オゾンや、新型コロナウィルスを15秒で死滅させるマイクロシンをディフューザーで院内を循環させ対策をしていますが、マスク着用でのご来院、なるべく少人数でのご来院をお願いしています。院外やお車の中でお待ちいただくことも可能です。スタッフに申し添え下さい。


No.243 医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルスに対する不活化効果について

エタノールをはじめとして、新型コロナウイルスに対する消毒薬が不足しています。Twitterなどにも紹介されていましたが、北里大学大村智記念研究所 ウイルス感染制御学研究室I 片山和彦教授らの研究グループは、市場に流通している医薬部外品・雑貨のうち、主にエタノール、界面活性剤成分を含有し、新型コロナウイルスに対する消毒効果が期待できる、十分な供給体制を確保可能な市販製品を対象に、新型コロナウイルス不活化効果(病原体を死滅させること)を有する可能性について試験管内での評価を実施しました。この研究で評価した製品の選定にあたっては、研究結果の公開に異議を唱えないことを前提として国内複数企業へ製品サンプルの提供を要請し、同意が得られた企業の製品を使用しました。
各製品サンプルについては、製品のパッケージ裏面に書かれている使い方を参考にし、希釈が必要な場合には水道水を用いました。

研究結果

接触時間1分(製品裏面の使い方から、手指の洗浄、拭き取り洗浄を想定 )
不活化効果があった製品名
・かんたんマイペット(原液)
・クイックルワイパー 立体吸着ウエットシート香りが残らないタイプ(絞り液)
・クイックルワイパー 立体吸着ウエットシートストロング(絞り液)
・クイックルJoanシート(絞り液)
・クイックルJoan除菌スプレー(原液)
・食卓クイックルスプレー(原液)
・セイフキープ(絞り液)
・トイレマジックリン 消臭・洗浄スプレー ミントの香り(原液)
・ハンドスキッシュEX(原液)
・ビオレガード薬用泡ハンドソープ(原液)
・ビオレu薬用泡ハンドソープ (3倍希釈)
・ビオレガード薬用手指用消毒スプレー(原液)
・ビオレガード薬用ジェルハンドソープ (3倍希釈)
・ビオレu手指の消毒液(原液)
・リセッシュ除菌EXプロテクトガード(原液)

接触時間10分(製品裏面の使い方から、洗濯、器具の洗浄を想定 )
不活化効果あった製品名
・アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)
・アタックZERO(3000倍希釈液)
・クリーンキーパー(100倍希釈)
・ワイドハイターEXパワー液体(100倍希釈液)
・ワイドハイターEXパワー粉末(5.0g/L)
・ワイドマジックリン(10g/L)

試験系評価のために実施したエタノールについての試験結果
水道水で濃度を調整した10%、30%、50%、70%、90%のエタノールの不活化効果
接触時間:1分
不活化効果あり:50%、70%、90%エタノール
不活化効果なし:10%、30%エタノール
接触時間:10分
不活化効果あり:50%、70%、90%エタノール
不活化効果なし:10%、30%エタノール

まとめ
エタノールは、50%以上の濃度であれば、接触時間1分間で十分なウイルス不活性化が可能だと考えられます。不活化効果の確認された上記市販製品は、新型コロナウイルスの不活化に有効と考えられます。新型コロナウイルスの汚染が懸念される手指や硬質表面の洗浄の他、日常使用する衣類やリネン類の洗浄などに活用が期待できます。


No.242 新型コロナウイルスと猫とフェレット

インパクトファクター(良い論文の指標の1つ)の高い有名な科学論文雑誌Scienceに『Susceptibility of ferrets, cats, dogs, and other domesticated animals to SARS-coronavirus 2』(フェレット、猫、犬、およびその他の家畜のSARSコロナウイルス2に対する感受性)という論文がでました。要約は以下になります。

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年12月に中国の武漢で最初に報告された感染症COVID-19を引き起こします。COVID-19はこの病気を制御するための多大な努力にもかかわらず、現在100以上の国に感染が確認され、世界的なパンデミックを引き起こしています。 SARS-CoV-2はコウモリを起源とすると考えられています。 ただし、ウイルスの中間の動物の起源は不明です。 ここでは、SARS-CoV-2への人間と密接に接触しているフェレットといくつかの動物の感受性を調査しました。SARS-CoV-2は、イヌ、ブタ、ニワトリ、アヒルでは複製が不十分であることがわかりましたが、フェレットと猫は感染を許容します。猫は飛沫感染の影響を受けやすいことが実験的にわかりました。 私たちの研究は、SARS-CoV-2の動物モデルとCOVID-19制御の動物管理に関する重要な考え方を提供します。

猫やフェレットからヒトに感染が起こるかどうかの研究はこれからですが、実際には猫やフェレットが感染しているときは飼主さんが感染している場合がほとんどでしょう。猫、フェレットを飼っている方は、必ず屋内で飼育し、外出から戻ったときは、触る前に手洗いうがい、着替えをすることはもちろんですが、ご自分がヒトから感染しないように充分ご注意ください。また、新しい情報があればご報告します。


No.241 エキゾチックペットへの全身麻酔

犬、猫以外の動物を獣医の世界ではエキゾチックペットと呼びますが、これらの動物への全身麻酔は、犬や猫と違った難しさがあります。

動物への全身麻酔の流れは、ヒトの場合とそう大きな違いはありませんが、ヒトでは簡単にできることが動物では困難なものがあります。全身麻酔の第一歩は、その動物に対して安全に麻酔がかけられるかどうかを判断することです。身体一般検査のほか、血液検査、レントゲン検査などを行います。動物が高齢の場合や持病がある時は、超音波検査、血圧測定、心電図、その他の検査を行う場合もあります。これらを術前検査といいます。術前検査の結果をふまえ、手術において予想される侵襲の度合いや、興奮しやすい、ひどく臆病などの動物の性格なども考慮します。これらの情報を総合してリスク評価を行い全身麻酔を行います。しかし、動物種によっては術前検査が十分に行えない場合があります。例を挙げると、血液検査のデータは全身麻酔の前には欲しいものですが、小さな体重の軽いセキセイインコや文鳥などの小鳥やハムスターなどから、検査に必要な量の血液を取ってしまうと実際の血液量が不足してしまう場合があり貧血にして麻酔をしなければならなくなるので通常行いません。そのため、症状に表れていない病気を見落とすことがあります。また、ヒトの言葉を喋れない動物達にとって、頭痛があるとか昨日と何か違うというようはことを麻酔医に伝えることは出来ません。とくに高齢動物の場合、脳の中の疾患や検査結果に表れにくい問題などを持っている場合があり、全身麻酔時や覚醒時、麻酔後に予期しなかったトラブルが起こることがあります。

実際の全身麻酔の流れは、
1.準備:絶食、点滴、酸素化など
2.前投与:鎮静剤、鎮痛剤などの投与、モニターの装着
3.導入:麻酔薬の静脈投与、吸入麻酔のマスクや麻酔ボックス
4.気管チューブの挿管
5.局所麻酔、硬膜外麻酔の投与
6.維持:吸入麻酔薬、麻酔薬の持続点滴で維持。鎮痛剤の投与
7.気管チューブの抜管
8.覚醒
9.術後管理
簡単にはこのようになります。

導入時からは麻酔管理を行います。麻酔管理には2つの大きな目的があります。
1.手術時の危険から命を守る
2.術中・術後の痛みを取り除く
この目的のために、血圧・脈拍・心電図・呼吸数・体温・尿量・意識・血中酸素濃度、呼気時の二酸化炭素濃度などを測定・記録します。これを麻酔チャートと呼びます。近年、麻酔器や人工呼吸器、麻酔薬、鎮静薬などの発達は目覚ましく、毎年のように新しいものが出てきます。これらは安全な全身麻酔を行うにあたって獣医師の負担を減らしてくれます。しかし、いまだに、血圧計、心電図、SPO2、CO2といった全身麻酔では必須のモニターも小さな動物ではそのサイズがなく使用出来ない場合が多くあり、獣医師が五感でモニターをしている場面は多くあります。全身麻酔時にはとくに血圧の管理は重要ですが、小さな動物では点滴のルートも取れない場合が多く、昇圧剤などの投与も困難です。前述したように、そもそもきちんとした血圧計もありません。出血が多いなと思っても、輸血も出来ない場合がほとんどです。エキゾチックペットでは気管チューブの挿入も困難な場合が多く、人工呼吸器も使用出来ません。硬膜外麻酔も鎮痛剤も、エビデンスは少なく、効果をきちんと確認出来ていないものを経験的に使用している場合が多いです。また、逆に馬や牛などの大型動物は違った困難さがあります。競走馬などは全身麻酔の手術が行われていますが、多くの人数で特殊な機材が必要です。動物園の大型動物は手術室に入らなくてにフィールドで手術を行う場合もあります。

現在では、「安全」、「快適」、「確実」といった言葉が当然のように麻酔にも投げかけられています。今後AIの発達で全身麻酔もオートメーション化してくるでしょう。麻酔科学が発達した今でも、術中は大きな危険が潜んでいます。除痛と同じく「命を守る」働きが欠かせません。アメリカの大きな動物病院の統計では、犬猫における術前検査で全身麻酔をしても大丈夫だと判断して麻酔を行った場合の麻酔事故は1/1000だったそうです。獣医師の世界にも、海外で研修を受け、獣医麻酔専門医という肩書きの先生方が出て来ましたが、そのほとんどが犬猫専門で、エキゾチックペットの全身麻酔に関しては専門医の先生方も難しいと考えています。

どの動物も自分に麻酔をかけて欲しいなどとは思ってないでしょう。彼ら彼女らは未来の心配より今が快適かどうかで生きています。そのような動物に全身麻酔をして様々な処置を行うのはヒトの都合です。獣医師としては、1000回に1回にの失敗も許されません。麻酔のリスクとメリットを慎重に考えて注意深く全身麻酔を行うのはもちろん、テクノロジーの発展で1日も早く安全な麻酔が行われ、侵襲の少ない手術が可能になることが必要なのはヒトも動物も一緒です。

こちらもご参照下さい
No117 全身麻酔
No187 高齢動物の全身麻酔のリスク


No.240 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について 3

新型コロナウイルス(Covid-19)によって、香港で2頭の犬、ベルギーで1頭の猫が感染したという報道がなされましたが、詳細は不明であり、ウイルスの存在が感染、環境汚染、交差反応性、またはPCR試験自体の潜在的問題があるかないかも不明です。報道では、最初のポメラニアンは17歳で、隔離された後、新型コロナウイルスに対しては無罪放免になったそうですが、隔離が終わった2日後に亡くなったそうです。詳細はわかりませんが、17歳の犬を長い期間隔離すれば体調を崩しても何の不思議もありません。このような状況なので仕方ない面もあるかもしれませんが、本当なら悲しい話です。

米国疾病対策予防センター(CDC)によると、米国のどの動物もこのウイルスに感染していることは確認されておらず、犬や猫、他の動物が新型コロナウイルスに感染したりする確証はありません。

新型コロナウイルスにより、全米の保健当局は警戒態勢を維持しており、獣医の専門家は他のスタッフや飼主さんからのこのウイルスに対する質問に対し、この2点を知ってもらうべきと推奨しています。

1.現在、主な関心ごとはヒトの健康です。このウイルスは、ヒトに対して、発熱、咳、呼吸困難を伴う軽度から重度の呼吸器疾患など、インフルエンザのような症状を起こします。
2.現時点では、専門家は動物とヒトとの間の感染について懸念を表明していません。複数の国際保健機関が、ペットや他の家畜動物が新型コロナウイルス(Covid-19)に感染リスクがあるとは考えていないことを示しています。

志村けんさん始め、亡くなられた方々はとても残念で悲しいですが、日本は他の先進国に比べて、経済面を除けば、新型コロナウイルスと上手く付き合っている方ではないかと思います。高温多湿になる夏場に終息することを望みます。基本の換気の徹底、手洗い、手指の消毒、3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けるなど、まだまだ冷静な行動が必要です。


No.239 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について 2

前号のメルマガでお伝えした通り、香港から、犬が新型コロナウィルス(COVID-19)に感染したという話が流れましたが、新型コロナウィルスに感染しているヒトが飼っている犬に、PCR検査で弱い陽性反応が繰り返し出たということで、犬は反応が陰性になるまで隔離だそうですが、今のところその犬に症状はありません。現時点では、動物からヒトや他の動物に感染を媒介するかどうかはきちんとわかっていませんが、新型コロナウィルスが変異をすることに対しては警戒が必要です。

以下、国際獣疫事務局(OIE)からの見解です。
・先日の香港で見られたペットへの感染については、犬での発症の証拠はない。および、犬からヒトへの感染の証拠もない。
・ただし、感染していることがわかっているヒト、すなわち、新型コロナウィルス(COVID-19)の治療を受けている人は、動物との密接な接触を避けた方がよい。

混乱している理由の1つは、現在の新型コロナウィルスのPCR検査(遺伝子検査)の感度が70%程度だということがあります。感度とは「その疾患を持つ人が検査を行った場合に陽性となる頻度」であり、つまり感度70%の検査は30%の方は本当に新型コロナウイルス感染症なのに陰性と出てしまうということです(特異度という「その疾患を持たない人が検査を行った場合に陰性となる頻度」という言葉もあります)。つまり、PCR検査で陰性と診断されても、実は新型コロナウイルスに感染している場合もありますし、当然、陽性と診断されても感染していない場合も出てきます。現在の状況で陽性反応が出ると、本人のみならず周囲や各医療機関も大変なことになってしまうのはご存知の通りです。

現在当院では、通常のアルコール消毒に加え、オゾンや、新型コロナウィルスを15秒で死滅させるマイクロシンをディフューザーで院内を循環させ対策をしています。経済への打撃も大変なものになっています。春が来て気温や湿度が上がって早く終息して欲しいですね。

このようなセミナーも行われてます


No.238 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について

新型コロナウィルスの情報は混沌としていますね。かなりおかしなものも散見されます。2月28日付の、香港漁農自然護理署(Agriculture, Fisheries and Conservation Department;AFCD)によると、ペットの犬から新型コロナウイルスがPCR検査で低いレベルの陽性反応がみられたという報道がありましたが(この犬の飼主さんの60歳の女性は新型コロナウイルスに感染しています)、下記の理由から日本のペットにおける新型コロナウイルスの感染は、現時点において問題とならないと、東京都獣医師会から発表がありました。

1.現時点の漁農自然護理署(AFCD)の発表では、犬の鼻と口の粘膜にたまたま付着した新型コロナウイルスを検出してしまった可能性があり(新型コロナウィルスは環境にも残ります)、犬の体内で本ウイルスが増殖したかどうかは確定していません(犬が感染したことを確認したわけではありません)。
2.もし、ペットに新型コロナウイルスが感染するとしても、コウモリなどの野生動物との接触がほぼないとされる日本のペット飼育環境下においては、ペットへの新型コロナウイルスの感染があるとすれば、飼主さんからペットへ感染する経路しか考えられませんが、その可能性も非常に低いと考えられます。(新型コロナウィルスがコウモリによって媒介されたという証拠も、今のところありません)

まずは飼主さんが新型コロナウイルスに感染しないように注意し、落ち着いてペットに対応しましょう。
本件に関しては新しい情報が届きましたら随時更新します。