No.209 胸水(Pleural fluid)

体内の水分を代謝する機能に異常が発生したことにより、心臓や肺を包んでいる胸膜に漏れ出した体液を胸水といいます。
胸水は、さまざまな機能障害を起こします。腹水などでもいえることですが、体内の一部に集中的に水が溜まってしまうと、臓器が圧迫され極端な負荷がかかります。
肺周辺で水が溜まると、肺が圧迫されてしまい呼吸困難になります。あまり運動をしなくなり、今までずっと元気で普通に生活していたのに突然元気がなくなったように感じられます。また、下痢、食欲不振、舌が変色するなどの症状が出る事もあります。

胸水が溜まる原因ははっきりとはわかっていませんが、もともと胸腔内には少量のリンパ液と組織液が存在していて、呼吸運動によって生じる肺や心臓との摩擦を軽減しています。この微量の胸水は、静水圧、血漿膠質浸透圧、胸膜の血管透過性の三つによって絶妙なバランスの元で維持されています。このバランスが崩れた時に胸水が溜まります。また、リンパ管や血管の損傷によっても生じます。

1.静水圧の上昇:うっ血性心不全などの心膜疾患で起こります。
2.血漿膠質浸透圧の低下:血液中のアルブミン濃度の低下(低蛋白血症)で起こります。低蛋白血症は、重度の肝臓病や蛋白漏出性腸症、蛋白漏出性腎症などが原因になります。
3.胸膜の血管透過性の亢進:主に胸膜の炎症によって起こります。非化膿性の場合は、悪性腫瘍、猫伝染性腹膜炎(FIP)、肺葉捻転、横隔膜ヘルニアなどが原因です。化膿性の場合は細菌感染が原因で、特に猫に多いです。
4.リンパ管や血管の損傷:リンパ管が破ける乳び胸という病気が代表です。他にも、悪性腫瘍、フィラリア、原因不明の特発性によるものがあります。

胸水はX線検査、超音波検査などで容易に発見することができます。発見したら胸水を針で抜いて、見た目の状態、比重、総蛋白濃度(TP)、細胞数、含まれる細胞の顕微鏡での観察を行います。胸水の比重、総蛋白濃度、細胞数によって以下の3つに分類します。

比重、総蛋白(g/dl)、細胞数(/μl)
漏出液(<1.018、<2.5、<1500):心疾患、低タンパク血症
変性漏出液(>1.018、2.5-7.5、1000-7000):心疾患、悪性腫瘍、乳び胸、肺葉捻転
滲出液(>1.018、>3.0、>7000):悪性腫瘍、胸膜炎、膿胸、猫伝染性腹膜炎

胸水が溜まる疾患は重篤なものが多いです。早期に発見して適切な治療が必要です。


Np.208 難産(Difficult delivery)

日本人にとっては犬は安産だという認識があると思いますが、現代では都市伝説です。従来日本にいた犬種は比較的体が大きく(小型犬とされる柴犬でも5kg以上)、体型もお産に適していました。パグやブルドッグ、シーズーなどの短頭種、チワワやティーカップ・プードルなどの超小型犬種については、母犬の産道に比べて赤ちゃんの頭が大きく、難産になることがしばしばあります。また、胎児が病気だったり、お母さんが体調を崩していても難産になることがあります。

一般的に以下に当てはまる場合は、帝王切開になる場合があります。
・短頭種、超小型犬種
・予定日から10日過ぎても生まれない
・直腸温の低下後、24時間経過しても陣痛が起こらない
・強い陣痛が30分以上あるが産まれない。
・微弱で休息期の長い陣痛が4~6時間続く
・緑色の液体排出(胎盤剥離の徴候)
・二次破水から1時間たっても産まれない
・母犬が激しい痛みを示している

動物の帝王切開はヒトと違って全身麻酔が必要になり、リスクが伴います。麻酔薬が胎盤を通って赤ちゃんの体や脳に入るため、赤ちゃんはスリーピングベイビーと呼ばれる眠った状態、もしくは呼吸が弱くなって生まれてくる場合がほとんどです。母親や胎児の状態が悪くならないうちに適切に判断して行うことが必要です。


No.207 犬の出産(Delivery)

犬の出産の流れについてご説明します。犬の妊娠期間は56~72日と幅がありますが、平均して63日です。交配した日がわかれば、出産予定日を予測できます。交配後30日くらいで超音波検査で妊娠の確認をして、出産予定日の1週間くらい前にはレントゲン検査で頭数と骨盤の大きさを確認し難産になりそうかを判断します。

出産の準備としては、静かな落ち着ける場所、産箱、体温計、助産が必要になったときのため、清潔なタオル、ハサミ、ドライヤー、バケツ、消毒薬、絹糸、体温ぐらいのお湯なども必要です。また、予定日の1週間くらい前になったら、母犬のお腹の毛を刈って赤ちゃんが母乳を飲みやすくしておきます。

通常、出産の1~2日前から落ち着きがなくなります。寝所を探し、注意深い行動をとるようになり、食欲も減少します。分娩直前12~24時間になると巣づくり行動をします。妊娠末期に起こるホルモンの濃度の変化によって、分娩8~24時間前に体温が急激に下がります。定期的に計っていると、分娩約1週間前くらいから直腸温の変動が始まり、個体差はありますが、小型犬で35℃、中型犬で36℃くらいまで下がります。大型犬では37℃以下になることはまれです。

出産の流れ
第1ステージ:身体が出産の準備をするステージで、体温が低下してから6~12時間続きます。舌を出してハアハア息をしたり、寝床を作り直したりします。体温を上げるための震えが見られる場合もあります。まれに吐くこともあります。
第2ステージ:直腸温が上昇し平熱、あるいはやや高温を保ちます。子宮が収縮するため、お腹に力が入ります。陣痛が始まると通常ならば一次破水が起こります。胎仔は外側に尿膜(黒っぽい膜)、内側に羊膜(白っぽい膜)と二重の胎膜に包まれていて、それぞれに胎水が存在します。一時破水は尿膜が破れることによって起こります。これにより産道は潤滑になり胎仔の娩出が助けられます。二次破水は羊膜が破けることで起きますが、そのまま娩出されることもあります。通常は娩出された時点で母犬が胎膜を破り、臍帯を噛み切って胎仔を舐めてきれいにします。ここで注意するべき点は、この作業を母犬がきちんとしてくれるかどうかです。分娩したまま何もしない場合は、ヒトの介助が必要です(助産、下記参照)。ただし、これはあくまでもやむをえない場合に限り、なるべく母犬に任せるようにします。全て娩出し終わるまでに、平均1頭あたり20~40分を要します。2時間以上間隔があくような時には病院にご連絡ください。
第3ステージ:それぞれの赤ちゃんの娩出後15分以内に胎盤が出てきます。必ず胎盤を確認します。胎盤がでてくる前に次の赤ちゃんの第二ステージが始まることもあります。とても吐きやすい時期でもあるため、胎盤はなるべく食べさせないようにしてください。誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。

最初の赤ちゃんに一番時間がかかり、その後は5~120分くらいで次の分娩が始まります。
赤ちゃんの数だけ第2ステージと第3ステージを繰り返し、6時間程度ですべての赤ちゃんが生まれますが、長いと12時間以上かかることもあります。

助産:母犬が赤ちゃんの面倒を見ない場合は、ヒトの介助が必要です。赤ちゃんが生まれたら羊膜を破り臍帯を切ります。臍帯の白線を確認し、白線の赤ちゃん側に絹糸などで結紮をして、ハサミで胎盤側を切ります。次にタオルで赤ちゃんを自分と向かい合うように包み、軽く振って羊水を出します。その後産湯を使い、タオルやドライヤーで乾かしたら初乳を与えます。

また、猫の場合は出産前の健診は犬と同様に行いますが、出産時にヒトが介入する必要は基本的にはありません。臍帯切りや産湯などをしてしまうと、お母さん猫の赤ちゃんへの興味が無くなってしまうことがあります。落ち着ける場所や産箱を用意して、お母さん猫に任せるのが基本方針ですが、万が一の時ために、助産の準備は犬と同じようにしておきます。


No.206 食べるのに痩せる場合

食べるのに痩せるという場合は消化器の病気を疑いますが、他の疾患であることもあります。単純なものは間違ったダイエットや食事量のミスによるカロリーの摂取不足、同居動物に食事を取られてしまっている場合などもありますが、食欲はあるのに痩せてきている状態がみられたら、以下のように原因を探して行きます。

1.便検査:便検査は消化器疾患の検査の基本の1つで、消化管内寄生虫疾患の発見や消化の状態を把握するために、身体一般検査と共に最初に行われる検査です。消化管内寄生虫がいても必ずしも下痢や嘔吐などの症状があるとは限りません。現在では、下痢を誘発する通常の便検査で発見できないような寄生虫や細菌、ウィルスをPCR法検査(遺伝子検査)によって診断することも可能です。
2.症状とシグナルメント(動物の年齢・性別・品種・雌雄など):次に体重減少以外の症状を探します。とくに吐出がある場合は巨大食道症などの食道疾患を、小腸性の下痢がみられる場合には消化管疾患を疑います。下痢や嘔吐がみられない場合でも消化管疾患がある場合があります。消化管疾患が原因でない場合は糖尿病、猫では甲状腺機能亢進症などの代謝性疾患を疑います。これらは血液検査で診断します。
3.特徴的な症状やシグナルメントがない場合:特徴的な症状やシグナルメントがなく病因が絞り込めないときは、やはり消化器疾患を疑います。膵外分泌不全吸収不良症候群炎症性腸疾患(IBD)を考えます。膵外分泌不全は血液検査で診断可能ですが、吸収不良症候群や炎症性腸疾患の診断には内視鏡による腸の細胞の生検が必要です。
4.その他:その他に考えられる疾患には、腫瘍全身性の炎症疾患に伴う悪液質(悪性腫瘍による、体重減少、低栄養、消耗状態)が挙げられます。これらは食欲不振を伴うことも多いですが、食欲が落ちない場合もあります。腫瘍が原因の場合は通常、大きな腫瘍がみられます。触診や画像診断でとらえられない腫瘍、骨髄腫リンパ腫の可能性も考えます。

このように、身体一般検査検査、便検査、血液検査、レントゲン・超音波などの画像診断、内視鏡検査などを状態に応じて使い、正確な診断をします。原因が複数の場合もあります。
以下もご参照ください
No41 1日当たりのエネルギー要求量(DER)
No40 ボディ.コンディションスコア(BCS)
No78 猫の甲状腺機能亢進症
No139 高齢猫の体重減少


No.205 第18回 飼主様向けセミナー ご質問への回答

飼主様セミナーでのご質問への回答です。

Q:家のチャイムが鳴って吠えるのはどうゆう気持ちなのでしょうか?ドアを開けたら静かにしてます。来客の顔を見てさっさと戻っていきます。
A:警戒心で吠えている可能性が高いです。治療はクレートトレーニングが効果的です
No196クレート
No197クレートトレーニング

Q:家猫で恐がって外に出ないのですが、外に出す必要はないのでしょうか?
A:都会では事故などの可能性が高くなるので、お家の中で良い環境を作ってあげて下さい

Q:眼や耳が不自由な動物とのコミュニケーションの取り方は?
A:老化が原因なら、まずはアクティベートというお薬を使ってあげて下さい

Q:Dog Whispererの正しい解釈は?
A:
ソファーの話;お客さんが怖いであのような行動を取ります。治療は犬の眼を見ないでお客さんからおやつを与えてもらうことから始めます。
トースターの話;トースターが怖いのです。治療はトースターと距離をおいておやつを与えるところから始めます。
No16学習その3 オペラント条件付け1
No17学習その4 オペラント条件付け2学習まとめ

Q:犬の散歩中にいつも猫にケンカを売られます。犬と猫はコミュニケーションが取れないのでしょうか?
A:犬と猫のコミュニケーションは可能ですが、同じ猫とのトラブルなら、お散歩コースを変えるのが一番良いです。

Q:犬の寿命、認知症の薬について
A:小型犬なら20歳の犬も珍しくなくなってきました。認知症には、アクティベートをまずは試してください

Q:猫が犬にちょっかいをかけてしまします。犬と猫を飼う場合の工夫、環境の整え型は?
A:猫が運動不足の可能性があるので、犬のいないところで、猫とたくさん遊んでみて下さい。環境の整備は、状況、関係性によって様々ですが、犬も猫も1匹で落ち着ける場所が必要です。また、安心して食事や睡眠、排泄が出来る環境を考えてあげて下さい。運動不足にならないようにすることも大切です。

Q:猫が爪とぎをふすまの縁に場合は、爪とぎをどこに置いたら良いでしょうか?
A:木製の爪とぎを、可能ならそのふすまの縁に置いてください

Q:犬、猫同時に飼う場合、多頭飼い、先住の動物がいる場合の新しい動物を入れる際の留意点は?
A:まずは十分なスペースが必要です。皆が安心して食事や睡眠、排泄が出来る環境が必要です。新しい動物を入れる場合は、すぐには会わさず、隣の部屋でお互いが見えないところでおやつをあげるところから始めて下さい

Q:走っているオートバイに対して吠えるときの対処は?
A:オートバイの音を聞かせておやつをあげるところから始めて下さい。飛びかかろうとするような犬は、イージーウォークハーネスなども利用してください

Q:フードの選び方と発色剤は入ってない方が良いですか?
A:選び方は、年齢、犬種、持病、飼主さんの事情によって様々です。発色剤の使用は無いに越したことはありません。


No.204 第18回 飼主様向けセミナー

昨日のウェスト動物病院飼主様向けセミナー『動物の行動学~犬と猫との幸せな付き合い方』にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。皆様と動物との幸せな関係の一助になったのなら嬉しいです。

以下、入交先生の講演からのピックアップです。


・劣位行動(自信のない行動):唇を舐める、口をモグモグする、歯を全部見せる、眼を反らす、あくびをする、パンティングなど
・優位行動(自身のある行動):行動を変えない
・劣位行動と優位行動が同時や交互にみられることもある
・社会性のある動物は本来ケンカをしたくない
・劣位行動を取る固体がコミュニケーションをリードする
・飼主さんと見つめ合うと幸せホルモン(オキシトシン)が出る。長いのはダメ
・学習能力9歳、知能指数2歳
・アルファーシンドローム(権勢症候群)は嘘
・体罰や圧力で威厳を保つのではなく、正しい方向に導き、教える
・「しつけ」とは動物に恐怖を与えることではなく、正しく学習させること


・食べ物が豊富であれば、社会を形成し個々を認識しあう
・友達同士は首から下を舐めるが嫌がる猫もいる
・仲良しはくっついて寝る
・尻尾を立てているときは機嫌が良い
・尻尾を立てて体をスリスリはお帰りなさいと言っている
・おもちゃは飽きないようにローテーションで与える
・柔らかいところに寝るのが好き
・隠れられるところが必要
・一番活動的なのは早朝と夕暮れ時(クレパスキュラ)
・トイレは大きく(頭からお尻までの1.5倍)、静かな場所、真っ暗になる場所はダメ、砂は細かめ、猫の数+1個のトイレが最低必要

などでした。次回はご質問への回答です。

以下もご参照下さい
No145 犬の行動学
No146 優位性行動・劣位性行動
No150 猫の行動学
No151 猫の排泄の問題


No.203 股関節脱臼

股関節脱臼は、犬や猫の脱臼の64%を占めていて比較的多いトラブルです。原因は大きな外力による外傷で、交通事故や落下などが多いです。ほとんどが片側性で両側性は10%以下です。35-55%の症例で胸部疾患などの他の外傷がみられます。

股関節は、骨盤と太ももの骨(大腿骨)をつないでいる関節です。骨盤には寛骨臼という「くぼみ」があり、大腿骨には大腿骨頭という「でっぱり」があり、この凹凸(おうとつ)がうまくかみ合うことで後ろ足の付け根がスムーズに動けます。股関節脱臼は、寛骨臼から大腿骨頭が外れてしまった状態です。

股関節脱臼のうちの約70%が前背脱臼で最も多く、大腿部が内転した格好になります。稀に腹側への変位があります。診断は症状と触診、レントゲン検査を行いますが、外傷性の場合は他の障害があることがあるので、血液検査や尿検査などの全身の検査も必要です。また、脱臼に先立つ股関節の基礎疾患(股関節異形成、レッグ・ペルテス病、股関節の関節炎など)の有無も検索します。これらの病態があると、後述の非観血的整復の成功率は激減します。

治療は、非観血的整復と観血的整復(外科手術)があります。
非観血的整復は、全身的な合併症と股関節の基礎疾患がなく、脱臼後3日以内の場合に選択されます。全身麻酔下か鎮静+硬膜外麻酔下で行われます。犬の場合は、股関節を整復した後、前背脱臼の場合はエーマースリング、腹側脱臼の場合はホブル(足かせ)という包帯を10-14日間行いなす。猫は整復のみです。
観血的整復(外科手術)は、非観血的整復が上手く行かなかった場合、脱臼後時間が経っている場合、股関節の基礎疾患がある場合などに選択されます。手術法には、関節包縫合、インプラントを使用した関節包再建術、トグルピン法などがありますが、大腿骨頭切除術(FHO)や人工関節全置換術(THR)が選択される場合もあります。観血的整復の成功率は75%といわれていて、なかなか治療の難しい疾患の1つです。


股関節脱臼の犬のレントゲン


No.202 リンパ腫 (Lymphoma)

リンパ腫とは血液中の白血球の1つであるリンパ球が腫瘍化したものです。リンパ節から発生する場合と、関係のない臓器から発生することもあります。また、血液をつくる骨髄から発生した場合は白血病と呼ばれ、同じリンパ系の腫瘍ですがリンパ腫とは異なります。一般的な腫瘍のようにしこりを作ることもありますが、しこりを作らないこともあります。リンパ腫は悪性腫瘍の1つで以前は悪性リンパ腫とも呼ばれていました。リンパ腫には様々な分類が存在し、悪性度が低いものから高いものまであり、治療法も異なりますが、基本的には無治療でいると、様々な臓器に浸潤していき悪性の挙動を示します。

代表的な分類に発生部位によるものがあります。

多中心型リンパ腫
体の表面にあるリンパ節が腫れるもので、主に下顎リンパ節や、頸部のリンパ節、膝窩リンパ節などが大きく腫れます。一般的にリンパ腫のときのリンパ節は、固く、真ん丸になります。症状は元気がなかったり、熱が出たりすることや、頸部のリンパ節が大きくなり気道を圧迫すると呼吸が苦しくなったりします。犬のリンパ腫では最も多いタイプです。

消化管型リンパ腫
腸やその近くのリンパ節などが腫れるものです。腸全体でリンパ腫の細胞が増殖する場合や、一部で増殖し、腫瘍状になり腸閉塞を起こすこともあります。症状は食欲がなくなり、消化や吸収が悪くなり、体重が減少します。嘔吐や下痢が続くこともあります。猫のリンパ腫で多くみられます。

皮膚型リンパ腫
皮膚にリンパ腫の細胞が入り込み、皮膚炎を引き起こします。皮膚の感染症を伴い発熱が認められたり、強い痒みを伴うことがあります。口腔内の粘膜に病変が出ることもあります。

鼻腔内型リンパ腫
鼻の中にできるリンパ腫で、そのほとんどは猫に発生します。鼻水、鼻血、くしゃみ、顔の変形などの症状があります。

前縦隔型リンパ腫
胸の中のリンパ節が腫れます。炎症やリンパ流の流れが悪くなることにより、胸の中に水が貯まると、呼吸が苦しくなったり、咳がでるようになります。FeLV(猫白血病ウイルス感染症)陽性猫に多いです。

上記以外の部位でもリンパ腫は発生することはあり、症状はその部位により様々です。

悪性度は、悪いものから順に、高グレード、中グレード、低グレードに分類されます。また、免疫学的には、リンパ球はT細胞とB細胞に分けることができます。T細胞性リンパ腫の方がB細胞性リンパ腫と比べて悪いことが多いです。

リンパ腫の診断は、基本的には、腫れているリンパ節に細い針を刺して、細胞を顕微鏡で確認します。 一般的に悪性度が高いタイプのリンパ腫は診断することができますが、悪性度が低いタイプのものでは細胞の検査だけでは診断が不十分な場合があります。 その場合には、組織の検査が必要になり、病変部の一部を外科手術で採取する必要があります。また、リンパ球は多彩な種類がありますが、リンパ腫に侵された部位では単一のリンパ球の集団(クローン)となり、遺伝子検査が診断に役に立つこともあります。

リンパ腫には抗がん剤が有効で、消化器型リンパ腫の腸閉塞、皮膚型リンパ腫が一部にとどまっている場合などの特殊な場合を除いては、手術より抗がん剤の治療が選択されます。悪性度の高いリンパ腫では、無治療の場合にはその生存期間はおよそ1~2ヶ月といわれ、早期の積極的な治療が必要になります。腫瘍細胞が抗がん剤に耐性を身につけることがあり、それを防ぐために何種類かの抗がん剤を組み合わせて使用します(多剤併用療法)。悪性度が低いリンパ腫には副作用が少ない抗がん剤や腫瘍に対して効果のあるホルモン剤を使用します。症状がない場合には、無治療で経過観察する場合もあります。また、リンパ腫の種類によっては放射線治療も有効です。

リンパ腫は悪性の経過を取ることが多く、治療の見込みが厳しいものですが、適切に治療を行うと完治する可能性があります(犬の多中心型リンパ腫の2年生存率20~25%)。また、残念ながら完治することができずリンパ腫によって寿命が決まってしまう場合でも、代替え医療などを利用して負担を軽減することで、生活の質(QOL)を改善することができます。


No.201 ウサギの胃のうっ滞・毛玉症

しぐさが可愛く、頭が良く、ヒトによく馴れ、鳴き声の問題もないウサギは、ペットとしてとても人気があります。ウサギによくある問題として、胃のうっ滞・毛玉症があります。
ウサギは毛づくろいによって、被毛を舐めとって飲み込んでしまいますが、嘔吐することができません。飲み込んだ被毛は、胃の中で食物と絡んでうっ滞が起こり、毛玉を形成します。食欲低下、腹痛、便の異常などの症状がみられ、急死することもあります。胃の運動機能を低下させるストレスや、異物の摂食、過食、運動不足、肥満なども原因となります。
診断は症状と身体一般検査に加えて、レントゲンや血液検査などを行います。軽症の場合は、点滴、胃腸蠕動促進剤、毛玉予防除去剤などを使用することによって回復しますが、重症の場合は開腹手術で毛玉を除去します。

日常の予防が大切です。以下のことを実践してみて下さい。
1.ブラッシングで、飲み込む被毛を最小限にする
2.運動をよくさせ、暇を持て余して過剰な毛づくろいをすることを避けることと、運動によって健康な胃腸蠕動を促す
3.イネ科の牧草(チモシー)を中心とした高繊維食を与え、胃腸蠕動の促進を促す。また、ペレットが好きなウサギはペレットを一気に過食する傾向があるため、給餌の回数を頻回にして1回の量を減らす
4.毛玉予防除去剤(ラキサトーンなど)を使用する

以上のことは、チンチラ、毛足の長い種類のハムスター、モルモットにもあてはまります。


ラキサトーン


No.200 半導体レーザー(Semiconductor laser)

半導体レーザーはダイオードレーザーとも呼ばれ、強い光のエネルギーを利用して、様々な治療を行うことが出来る医療機器です。出力や照射方法、またアタッチメントを変えることで様々な治療に応用できます。血行や細胞の活性化を促し、神経炎、関節炎、筋炎、皮膚炎、創傷などに対しての消炎、疼痛緩和、治癒促進に非常に効果的です。とくに神経や関節の炎症性疾患の治療において効果を発揮します。また、無麻酔では行えないような外科手術も、半導体レーザーを使用することで行える事もあるので、高齢や体が弱くて全身麻酔のリスクが高い動物、エキゾチックペットなどへの治療の幅が広がります。半導体レーザーによる治療は、動物に対して治療に伴う大きな苦痛を与えず、大きな副作用もありません。

獣医療界における主な適用には以下のようなものがあります。
・椎間板ヘルニアなどの神経疾患の疼痛の緩和、治癒促進
・関節炎の疼痛緩和、治癒促進
・創傷の治癒促進
・歯周病への抗菌、抗炎症作用
・小さな腫瘤の蒸散
・逆さまつげなどの脱毛
・手術時の血管シーリング(癒合・閉鎖)

半導体レーザーもにも欠点があります。眼に直接照射してしまうと白内障を誘発することがある、腫瘍に対しては大きくしてしまう場合があるなどです。しかし、きちんと使用する状況を選び、適切に使用すれば動物たちにとても恩恵の多い治療です。