No.289 ヘビの便秘

爬虫類が持つ総排泄腔という器官は、排便、排尿、生殖、産卵などの機能を持っていますます。細長い身体を持つヘビは、尿と同時に作られる尿酸結石を詰まらせて便秘を引き起こしやすい動物です。食べ過ぎや運動不足は便秘を引き起こしやすくします。また、温度や湿度の低下も便秘の誘因となることがあります。温度が低いとヘビは熱源に巻き付き腸内の便を乾燥させます。湿度が低いと水分の蒸発量が増え状況を悪化させます。

治療の最初は飼育環境の改善です。空気を乾燥させる可能性のある木くずやダンボールで出来た備品を除去し、加湿器などを使い湿度を上げます。運動量を増やし、食事の頻度を減らし、食事を小さくして消化しやすいものを与えることも大切です。また15分温浴くらいの温浴を4~5日続けるのも効果がある場合があります。

それでもダメな場合は浣腸や下剤を用います。命にかかわるぐらいの便秘が起こってしまった場合には外科手術を選択する場合もあります。

ヘビの写真が出ますので苦手な方はクリックしないで下さい
写真1
写真2
便秘のコーンスネークの総排泄腔の膨らみ


No.288 サルコペニア (Sarcopenia)

サルコペニアという言葉はギリシャ語のsarcoという筋肉を表す単語とpeniaという欠乏を意味する単語を組み合わせた筋肉減少症という医学造語です。筋肉量の減少により筋力が低下し、身体機能が低下した状態です。加齢とともに筋肉量は低下しますが、日常生活にも影響が生じた状態がサルコペニアです。また、筋肉は基礎代謝を行い、エネルギーとなる糖質の代謝や体の老廃物となるアンモニアの処理も行います。このようなシステムにも支障が出ます。高齢動物でサルコペニアが起こると、優位に寿命が短くなることが知られています。

加齢で運動量が減って筋力、筋肉量が減って起こる1次性サルコペニアと、加齢以外にも原因がある2次性サルコペニアがあります。関節炎や慢性腎不全や歯周病、心疾患、低アルブミン血症、悪性腫瘍、犬の副腎皮質機能亢進症、猫の甲状腺機能亢進症などは2次性サルコペニアの原因となることがあります。これらが原因で筋肉の代謝にかかわるステロイドホルモンやサイトカインが健康時から変化することで、筋肉の分解量が産生量を上回ることから発症します。立っている時に後ろ足が震える、飲水量が増えたなどの症状と共に体重減少があればサルコペニアの可能性があります。

高齢になればなるほど体重は減りがちですが、体重の減少がみられる場合は、一見元気そうに見えても、病気がないかどうかを注意深く調べて、基礎疾患の治療、食事の見直し、状況によっては運動やリハビリを取り入れ、サルコペニアにならないようにしていくことが重要です。


No.287 猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)

猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)による上部気道(鼻腔、喉頭、咽頭)の感染症を猫ウイルス性鼻気管炎、または猫ヘルペスウイルス感染症といいます。発症猫からの直接感染が主体でとくに子猫の感受性が高いです(胎盤感染はしません)。潜伏感染していた母猫が授乳などのストレスで再活性したウイルスが子猫へ感染します。眼や鼻からウイルスが侵入し、末梢神経に侵入後、神経行性に上行し神経節に潜伏します。ライオンやトラなどの猫科の動物には感染しますがヒトにはうつりません。

主な症状は急性期では、発熱、食欲不振、沈うつ、くしゃみ、鼻汁、流涙、羞明などで多くは後に潜伏状態となります。子猫や免疫不全の猫では、気管支炎、副鼻腔炎、ウイルス血症などで亡くなってしまう場合もあります。潜伏期では、蜜飼いや環境の変化などのストレスでウイルスが再活性化して感染源となります。発症時には鼻汁や唾液、涙に多量のウイルスが存在します。角膜に感染すると、涙液減少、鼻涙管の閉塞などにより、ウイルスを除去することが困難となります。角膜の知覚神経(三叉神経の末端)に沿って樹枝状に潰瘍を形成します。潜伏感染する主な神経節は、三叉神経(眼神経、上眼神経、下眼神経)、顔面神経、交感神経、動眼神経です。また子猫では、結膜炎によって開瞼不全(眼が開けられない状態)となってしまう場合があります。

治療は対症療法、抗ウイルス剤の投薬や点眼薬ですが、状況によって点滴や抗生剤などを使用する場合もあります。一度かかってしまうと完治は難しい疾患です。症状が無い時もストレスを減らし免疫力を上げ、発症してしまったら早めに対処するのが現実的な方法です。予防はワクチンで猫のコアワクチンの1つですが完璧なものではありません。


開瞼不全の子猫


No.286 不妊手術(Spay)

不妊手術の流れについてご説明します。手術中の写真が苦手な方は見ない様にして下さい。メリット・デメリットについてはこちらをご参照下さい→No125 去勢手術・不妊手術

1.全身麻酔下(→No117 全身麻酔)で剃毛し、お臍の下を1cmほど切開します(写真、右側が頭側です)。皮下組織を剥離し、筋膜を切り、筋肉を剥離し、腹膜を切り、腹腔内にアプローチします。
術中写真1

2.子宮吊り出し鈎により子宮を吊り出し、卵巣を展開して腹腔外に出します。
術中写真2

3.デバイス(→No275 外科手術用エネルギーデバイス)を用い血管と組織を切断します。吸収性縫合糸で結紮し切断する場合もあります。2と3を左右行います。状況により子宮も摘出することもあります。
術中写真3

4.腹膜と筋層・筋膜、皮下組織を縫合します。
術中写真4

5.皮膚を縫合します。ステープラー(外科用ホッチキス)を使用することもあります。野良猫ちゃんなど抜糸が難しい場合は、皮内縫合などの抜糸がいらない縫合をする場合もあります。
術中写真5

6.取り出した卵巣。
術中写真6

7.通常手術時間は15分くらいです。出血もほとんどありません。上記の写真はいずれも小型犬のものですが、猫やフェレットでも切開部位が若干違うくらいで手順はほぼ同じです。ウサギは大きな盲腸があるため傷が少し大きくなります。当院では1泊の入院をしていただいています。術後1~3日くらいで元通りの元気が出てきます。抜糸は術後1週間くらいで行います。


No.285 低アルブミン(Alb)血症

近年、血液検査でアルブミンの低い動物が増えています。アルブミンは肝臓で合成される蛋白質で、血液の浸透圧の調節や脂肪酸、ビリルビン、無機イオン、薬剤などの保持や運搬を行なっています。アルブミンは脱水以外の理由で病的に増加することは無いとされるため、基本的にはアルブミンの低下のみが問題となります。血清中のアルブミン濃度が、正常値(2.5~3.8 g/dl)より低下することを低アルブミン血症といいます。

低アルブミン血症では、血液の浸透圧が維持できないため、血液中の液体成分が血管の外に出てしまい、浮腫、腹水、胸水といった症状を呈します。血清アルブミン値が2.0~1.5 g/dl以下になると、これらの症状があらわれ始めます。低アルブミン血症は、肝臓でのアルブミンの合成能低下、尿などへのアルブミンの喪失、そして飢餓などの栄養失調によるアルブミン原料の不足などが原因となります。また、輸液などで血液が希釈されてもアルブミンは低値を示します。

病気としては、各種の重度の肝疾患、腎臓からの漏出(ネフローゼ症候群など)、食事からの栄養の吸収不良や消化不良、飢餓による栄養失調、出血による喪失、広範囲の皮膚炎、腸からの漏出(腸リンパ管拡張症など)、腹水や胸水、過剰輸液などが低アルブミン血症の原因となります。また、傷が治り辛かったり、薬が効き辛くなることもあります。

検査結果が正常値を外れている場合でも、必ずしも病気とは限りませんが、原因は血液検査のみならず身体検査や他の検査も行って診断していきます。状況により経過観察を行ったりさらに詳しい検査を行うこともあります。近年では肝不全や腎不全より、消化管の問題がある場合が多いです。この場合、確定診断には内視鏡による消化管のバイオプシー検査か、試験開腹による腸の全層生検が必要です。症状が無い場合は経過観察や食事管理などで様子見をすることも多いですが、血清アルブミン値2.0以下が続く場合は、原因を確認しておいた方が良いです。


No.284 猫の副鼻腔炎

猫によくある疾患の1つに副鼻腔炎があります。鼻の奥にある空洞を副鼻腔といい、猫には鼻腔(鼻の内部)の上にある前頭洞、奥にある蝶形骨洞の2つがあり、ここに炎症を起こす事を副鼻腔炎といいます。副鼻腔の一部は鼻腔と繋がっているため、鼻腔内に炎症があると副鼻腔内に炎症が波及してしまうことがあります。鼻腔と副鼻腔の炎症は併発することも多いです。炎症の結果、副鼻腔に膿が溜まった状態を蓄膿症といいます。

症状は鼻水、くしゃみ、鼻づまり、呼吸困難、結膜炎や鼻炎が併発する場合もあります。原因の多くは、細菌や真菌、ウイルス感染(とくにヘルペスウイルス)による鼻炎からの感染・炎症の波及ですが、歯周病から口腔鼻腔瘻になり鼻炎、副鼻腔炎になる場合もあります。

治療は基礎疾患の治療、鼻炎の場合は鼻炎、歯周病が原因の場合は歯周病の治療が優先されます。また対症療法として、ネフライザー(吸入薬を入れて使用する吸入器)を使用したり、難治性の場合は外科的な対処が必要な場合もあります。とくに慢性化して頭蓋骨に感染や炎症が波及している場合や、持病があったり高齢などで免疫力が弱っている場合などは治療が困難となります。副鼻腔炎になる前、鼻炎や歯周病だけのうちに治療することが重要です。


副鼻腔炎の猫の鼻水

こちらもご参照下さい
No218 口腔鼻腔瘻


No.283 ウサギと野菜

ウサギにどんな野菜を与えたらよいのかよく質問を受けます。

与えてはいけない野菜の代表はユリ科の植物、ネギ類です。長ネギ、玉ねぎ、にんにく、ニラなどを食べると血液が壊され溶血性貧血を起こします。原因は血液を壊すアリルプロピルジスルファイドが含まれているからです。犬や猫、牛も同じです。猿は容量依存性、鳥では稀です。

また、ホウレンソウはアクやえぐみの成分のシュウ酸が入っているので避けた方が良いです。ホウレンソウはCaと結合して尿路結石を作りやすいです。尿路結石を作りやすいCaが多い野菜は、コマツナ、チンゲン菜、大根の葉、春菊、水菜、パセリなどです。少量なら問題ありません。

キャベツは文献によって評価がわかれている野菜です。理由はゴイトロゲンという甲状腺腫誘発物質が含まれているからです。実験動物のウサギで甲状腺腫が作られ、体重減少、低体温、心拍数の低下、免疫量の低下が報告されています。しかし、よほど食べ過ぎなければ問題ないと思います。

アボカドもペルシンという有毒物質が含まれているので避けた方が良いです。胃腸障害、肝不全、心臓のトラブルもあります。犬や鳥でも報告があります。

ウサギはビタミンAの欠乏症で、体重減少や成長障害、眼疾患(角膜ジストロフィー、網膜変性)、神経症状、不妊症、水頭症、スナッフル、腸炎などを起こすことがあるので、ビタミンAや体内でビタミンAに変化するβカロチンを含んでいる野菜を取ると良いです。サラダ菜、コマツナ、チンゲン菜、大根の葉、春菊、カボチャ、ホウレンソウ、パセリ、ニンジンなどに多く含まれています。ただしビタミンAは接取し過ぎると、体重減少、耳介軟骨変性、脱毛などが起こることがあるので注意が必要です。また、ペレットの酸化、質の悪い牧草、飢餓、腸炎、肝疾患などでもビタミンA欠乏が起こります。

これらのことを踏まえると無難な野菜は、サラダ菜、セロリ、ニンジン、ブロッコリーです。野草は、オオバコ、タンポポ、ハコベ、レンゲ、クローバー、ナズナ、桑の葉などがオススメです。農薬散布のないものを与えてください。また観葉植物は中毒を起こしやすいので与えない方が無難です。


ニンジンはウサギに良い野菜です


No.282 ウサギと牧草

ウサギは完全草食性です、牧草を常に与えて、ペレットと緑黄野菜は朝晩に与えると良いです。牧草:ペレット:緑黄野菜の比率は6:3:1ぐらいが理想です。

牧草はマメ科のアルファルファ、クローバー、イネ科のチモシー、イタリアングラス、オーチャードグラスなどがありますが、よく用いられているのはチモシーとアルファルファです。一般的にチモシーは成体向け、アルファルファは幼体・妊娠時向けですが、チモシーを幼体・妊娠時に、アルファルファを成体に与えていけないことはありません。また、一般的に生牧草は水分とビタミンAが豊富で、乾牧草は美味しくて香りがよく、ワラはビタミンやセルロース、リグニンが多く含まれていますが美味しくないといった特徴があります。

牧草の女王と呼ばれるアルファルファは肥満になるという話がありますが、そんなことはありません。ただし比較的Ca含有量が高いので多給すると尿路結石にはなりやすいです。また、蒸れた生のアルファルファは毒性を帯びるので注意が必要です。

チモシーは刈り取る次期によって、一番刈り、二番刈り、三番刈りに分かれます。
一番刈り:初夏のもので太くてしっかりしています。繊維質は一番多く含まれます。
二番刈り:夏~秋のもので細く柔らかいです。繊維質は一番刈りよりも少ないです。
三番刈り:初冬のものです。栄養価は一番低く繊維質も低いです。

ウサギが牧草を食べなくなった時の原因は大きく2つあります。
1.おいしくない:この場合は新鮮なものに変えるとか、牧草の種類を変えてみて下さい。三番刈りのチモシーは柔らかいし、イタリアングラスは甘いです。
2.歯がおかしい:この場合は動物病院で診てもらってください。

牧草は主食にも、おやつにも、おもちゃにもなります。ウサギにはバラエティーに富んだ牧草を与え、引っ張って食べるのも好きなので与え方に工夫をしてみて下さい。


No.281 ウサギの盲腸

ウサギの盲腸は壁の薄いコイル状の器官で右の腹腔を占め、胃の約10倍の大きさがあります。働きはビタミンB群・ビタミンKの合成や、血中尿素を利用した微生物発酵(嫌気的発酵)によってアミノ酸を合成し、VFA(揮発性脂肪酸)の合成・吸収も行います。エネルギー産生、腸内細菌叢の維持、水や電解質の吸収促進などにとても重要な臓器です。

ウサギはドロッとしたゼラチン状の膜に覆われたブドウの房状の盲腸便を1日に数回出して、1日に1~2回それを食べます(硬い便も食べます)。正確に言えば飲み込んでいます。盲腸便は胃体部で6~8時間かけて発酵し、乳酸(エネルギー)が生成され、ゼラチン状の膜が取れ小腸で吸収されます。このゼラチン状の膜は盲腸便を胃酸から守り消化・発酵を助けています。

肥満や高齢、病気などで、ウサギが食糞をできなくなった場合は体重が減少します。40日間の研究では、食事のカロリーを60%に減らしたくらいになると言われています。まだまだウサギの盲腸の研究はこれからたくさんの知見が出てくるでしょう。炎症が酷いと切られてしまうこともあるヒトの盲腸とは大きく違います。


ウサギの盲腸便


No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)

犬や猫、フェレットなどで、お腹を壊しやすく頻繁に下痢や嘔吐を繰り返すことがあります。食欲不振、嘔吐、下痢(軟便)、血便といった消化器症状の原因は実に様々です。食事の変更、気候・環境の変化、ストレスなどの一過性のものから、ある食材に対するアレルギー反応、腸内細菌叢の変化、感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)、腫瘍、原因不明の特発性のものもあります。とくに原因不明の慢性的な消化器症状は、リンパ球形質細胞性腸炎(Lymphocytic plasmacytotic enteritis,LPE)炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease,IBD)とも呼ばれています。ヒトではIBDは潰瘍性大腸炎やクローン病を示すのに対し、動物では『消化管粘膜の炎症性病変を特徴とする特発性で慢性の胃腸症候群』と定義されています。しかし獣医界ではLPEとIBDの定義はとても曖昧です。IBDの最も代表的な疾患がLPEと書かれている教科書があったり、LPEを除外してIBDを診断すると書かれているものもあります。

LPEやIBDの動物では、消化器症状の他、血中Albの低下、貧血、体重減少がよくみられます。診断には、レントゲン検査や超音波検査などをまず行い、腸の腫れなどを判定し疑いが強い場合、麻酔が必要になりますが内視鏡による腸細胞のバイオプシー検査や、試験開腹によって消化管前層生検をして、確定診断のための病理組織学検査を行います。慢性的な胃腸障害の犬猫、フェレットの病理組織学検査で1番よくみられるのはLPEで、次がIBDです。しかし消化管の病変は、しばしば分布や程度が文節的あるいは散在的で代表的な病変が生検標本に含まれない場合があります。そもそもLPEとIBD、腸のリンパ腫の区別は病理検査でも難しく、経過を見ることが重要で繰り返しの検査が必要な時もあります。

病気は同じ診断名がついても、簡単な治療ですぐよくなる場合とそうでない場合があります。LPEやIBDでも整腸剤や食事管理で簡単に軽快する場合と、抗生剤やステロイド剤、免疫抑制剤などが必要な場合があります。病理組織診断では、軽度、中等度、重度と記載されますがこれはあまりあてになりません。軽度でも難治性の場合や長期の投薬が必要になる場合もあります。とくに柴犬のIBDは予後が悪い傾向があります。治療に反応が悪い場合は繰り返しの検査を行い、リンパ腫などのさらに重篤な病気を見逃さないようにする必要があります。


リンパ球と形質細胞の浸潤がみられるLPEの犬の十二指腸の組織検査