No.310 知育トイ

知育トイは、噛んだり引っ張ったりするロープやぬいぐるみなどの一般的なおもちゃとは違い頭を使うおもちゃのことです。頭を使わせることにより、しつけの効果を上げたり、退屈防止、早食いの防止、肥満や問題行動の予防・治療に用いられます。例えば、転がすなど、ある工夫をするとおやつが食べれるような知育トイは、ただ単におやつをあげる場合と違い考える力が身に付きます。種類によって難易度も違うので、ステップアップさせることが可能です。また、知育トイは若い動物のものだけではなく、老齢の動物でも認知症の進行を遅らせるためにも使用します。

最初は難易度の低い知育トイから与えましょう。転がして遊ぶタイプや、舐めたり齧ったりして遊ぶタイプは比較的簡単です。簡単なタイプに慣れてきたら、倒したり引っ掻いたりするような難しいものへ徐々にレベルを上げていってください。

ペットショップやインターネットで多くの種類の知育トイが販売されています。目的によって変えてみて下さい。例として
早食い防止:食べづらい食器、食事やおやつを中に入れられるもの
しつけや考える力を養う:難易度の高いゲーム感覚で遊ぶもの
暇つぶし:動物の興味をそそるもの

購入するのみでなく、手作りや環境を使うなどをして工夫してみて下さい。早食い防止には、部屋の中に4-5カ所くらいご飯を隠して探させながら食べてもらうのも良いです。犬も猫も鼻を使うと疲れます。また、自分で見つけたごはんには満足感があります。ガチャガチャの中身を取り出しておやつが通るくらいの穴をあけて与えるのもオススメです。犬も猫も頭が良いので、同じ知育トイばかりだとすぐに飽きてしまいます。複数個用意して、例えば曜日によって変えるなどをしてみて下さい。

飲み込める大きさの知育トイは与えないようにして下さい。食道に詰まる事故につながります。動物の大きさにあったものを使いましょう。各自に合ったツボにはまる知育トイ・遊び方を探してください。


No.309 デグーの4大疾患

デグーはモルモットやチンチラと似た齧歯類で、頭がよく(ヒトの3歳児程度の知能があるといわれています)、好奇心旺盛で人によく慣れ、仕草も可愛いので、近年人気が上がっている動物です。

デグーによくある疾患が4つあります。

1.自咬症:社会性が強いデグーは家族から離される時期が早かったり、1頭飼いだったり、飼育環境が良くなかったりすると、尾や陰部、手足などを齧ってしまう自咬症を起こすことがあります。飼育環境の見直し、ヒトが家族の代わりになって遊ぶ時間を増やしたり、知育トイなどを上手く利用してストレスの軽減をすることが大事です。

2.尾抜け(Slit tail)
デグーは野性下で天敵に襲われた時に尾を切って逃げることがあります。飼育下でも尾を引っ張ると尾の皮膚が抜けてしまうことがあります。通常2-3週間で皮膚が剥がれてしまった尾の部分は壊死をして落ち着きますが、外科手術が必要な場合もあります。

3.不整咬合
デグーの歯は切歯も臼歯も常生歯で一生伸び続けます。金属のケージなどを齧り過ぎると歯の噛み合わせが悪くなり、食欲不振となり、酷くなると、呼吸や眼にも障害がでます。歯が失活してしまう場合もあります(この原因はよくわかっていません)。治療は麻酔下での処置が必要な場合が多く、病態の詳細な把握にはCT検査が必要な場合があります。

4.糖尿病
デグーはインスリン活性が低く(犬の1-10%)糖尿病になりやすい動物です。肥満も原因となります。糖尿病になると白内障を発症します。果物などの甘いものは与えない方が良いです。治療は経口糖降下剤を与えます。


No.308 突発性攻撃行動

突発性攻撃行動とは、犬や猫が何の前触れもなく突発的にいきなり襲い掛かってくる攻撃行動のことです。特発的とは原因不明という意味です。90年代後半、イギリスで動物の行動治療をしている獣医師が、飼主さんに対して激しい攻撃を繰り返していたスプリンガー・スパニエルを診断したとのが最初だそうです。国内でも発症した犬が確認されています。ここ数年、猫でも見られることがわかってきました。しかし、まだ研究が進んでおらず症例も少ないため不明な点が多いとされています。激怒症候群、レイジ・シンドロームなの俗称で呼ばれる場合もあります。

不安や恐怖から発症する場合が多いとされていますが、犬に関する研究では、脳神経系の異常であるてんかん(→No89癲癇、てんかん)の発作により、激しい攻撃行動が起こっている可能性が高いとの報告があります。そのことから、猫に関しても原因のひとつとして、てんかんが関わっているのではないかと考えられています。

突発性攻撃行動を起こすと、人や他の動物に対していきなり制御できないほどの激しい攻撃を加えます。本気で噛んだり引っかいたりするため、大きなケガにつながるおそれがあります。最初の症状が出るのは、犬の場合は3才までがほとんどで、早いと1才未満で発症する場合もあります。猫の場合も同様で、比較的若い時期から起こりやすいと考えられていますが高齢でもみられることがあります。

詳細なコンサルティングと各種の検査を行い、痛みや他の問題行動(恐怖や防御性の攻撃行動など)を除外して診断を行います。脳疾患を除外するためにMRI検査が必要な場合もあります。突発性攻撃行動の可能性が高いと診断した場合は、恐怖や不安を抑えるため、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や抗てんかん薬が処方されます。定期的に受診していただき注意深く経過をみながらコントロールしていくことになります。


No.307 R-R変動率 (CVR-R)

R-R変動率とは心電図(→No306心電図検査)によって自律神経の機能の異常を調べる検査です。自律神経とは、意思とは関係なく無意識のうちに働く神経で、胃や腸の働き、心臓の拍動、代謝や体温の調節など、動物が生命を保つうえで欠かせない働きを担っています。自律神経は、正反対の働きをする「交感神経」と「副交感神経(迷走神経)」に分けられます。交感神経は活動時、緊張したとき、ストレスがかかったときなどに働き、副交感神経は、休息時、睡眠時、リラックスしたときなどに働きます。ヒトでは特に糖尿病の患者さんに多くみられる自律神経の機能障害の程度を検査するために多く用いられます。

心臓も自律神経にコントロールされており、息を吸うときは交感神経の働きで心拍が速くなります。逆に息を吐くときは副交感神経の働きで心拍がゆっくりになります。これを呼吸性不整脈といい、自然な現象です。

この差を数値化したものがR-R変動率で、自律神経の異常が分かる検査方法です。R-R変動率が0%に近づくと、自律神経による心臓のコントロールが失われている状況で、死亡率が高まります。

6%以上:正常
1.00~1.99%:予後不良
0.00~0.99%:1週間以内死亡率 80%
※認知症や交通事故によるショック状態では例外です
猫は参考値です。正常でも低い数値になることがあります


No.306 心電図検査 (Electrocardiogram;ECG)

心電図検査は、血液検査やレントゲン検査とならび、診察や健康診断の際に行われる頻度が高い一般的な検査です。心電図は心臓の異常を発見するためにとても有用な検査でありますが、心電図検査だけでは見つけることが難しい心臓病もあります。心電図は1903年にオランダの医学者アイントーベンによって考案されました。アイントーベンはその功績により1924年ノーベル医学生理学賞を授与されています。心電図検査は、当時のノーベル賞の受賞理由になりうる画期的な発見だったのです。そして100年近く経った現在でも使用されている素晴らしい検査です。

心臓は拍動すると同時に電気が流れているのですが、その電気興奮を波形として記録したものが心電図になります。現在、病院で行われる心電図検査は12誘導心電図といい、1枚の心電図記録には12種類の波形が記録されます。12種類もの波形を記録する理由は、心臓を流れる電気興奮を12の方向から観察し、全体像をしっかりと把握するためになります。

獣医学は日進月歩で様々な技術が開発されていますが、心電図検査が現在でも重宝されている理由は、動物に大きな負担をかけることなく実施することが可能で、すぐに波形記録を確認でき、得られる情報量が多いからということになると思います。しかし聴診器のみの診察では限界があるように、心電図検査のみでは心臓の状態や病気のことが全てわかるわけではありません。

血液検査ではその結果は数字となって表現されますが、心電図検査では波形が記録されます。心電図には、正常波形とされている波形記録があり、それに当てはまらなければ異常と判定されることになるわけです。しかし、正常波形ならば心臓に病気がなく、異常波形は心臓に病気を抱えている、と必ずしもなるわけではありません。

心臓は規則正しく動いていますが、それは心臓で規則的に電気が発生して流れているからです。心臓の規則正しさが乱れる不整脈(→No137不整脈)の診断は、心電図検査の最も得意とする領域になります。ヒトで多い「心筋梗塞」や「狭心症発作」のときには、心臓の電気的活動に異常が生じるので異常波形が出現します。また、猫でよくみられる「心筋症(→No222猫の肥大型心筋症)」という心筋に障害が起きている疾患でも異常波形が記録されることが多くなります。

しかし、犬でよくみられる、弁という心臓内の構造物の働きが悪くなっている弁膜症(→No194僧房弁閉鎖不全症)では、だいぶ進行してからでないと心電図波形は変化してこないことが一般的です。また、狭心症や不整脈などでは発作が起こったときでないと心電図波形に変化がみられないこともありますので、測定時の心電図が正常だからといって心臓病がないとは言い切れません。

逆に、健診結果で異常と判定された波形であっても、最終的に「問題なし」や「経過観察」と判断されるケース(病気とは言えず、治療の必要性なし)も結構あります。例えば、心臓の基本的な働き(全身に血液を送るポンプ機能)は正常で、突然死を起こす可能性は高くないと判断しうるのであれば、正常とはやや異なる電気興奮をしていたとしても、そのケースでは「問題なし」「経過観察」という結論になることがあります。

発作時の心電図記録が有用だと考えられるケースでは、運動負荷心電図や24時間心電図(ホルター心電図)といった特殊な心電図検査を行います。心臓の形態やポンプ機能を確認するためには、心電図よりも心臓超音波検査(→No154超音波検査)が有用になります。


No.305 血糖値

血糖値は糖尿病や低血糖などが疑われるときに測定します。動物で血糖値が上がる(高血糖)原因として代表的な疾患は糖尿病(→No304糖尿病)ですが、その他にもグルココルチコイド製剤など薬剤による高血糖、クッシング症候群(→No.79 犬の副腎皮質機能亢進症)、さらに膵炎(→No189膵炎)などが挙げられます。ウサギなどでは、痛みで高血糖になる場合があります。

一方で血糖値が極端に下がる(低血糖)原因としては、インスリン製剤の過剰投与、インスリノーマ、敗血症や肝不全、さらには過度な運動や若齢動物、そして長期間の絶食などが挙げられます。

これら高血糖および低血糖を引き起こす疾患のなかで、特に重要な疾患として糖尿病が挙げられます。

糖尿病治療時に使用するインスリン製剤を評価するうえで、重要な検査の一つに血糖値曲線の作成があります。使用するインスリン製剤にもよりますが、犬ならNPH製剤(ノボリンNなど)、猫ならインスリンデテミル(レベミル)を使用しますが(今は動物用のプロジンクもあります)、最低でも犬なら8時間、猫なら12時間、血糖値曲線を作ります(それぞれの使用するインスリン製剤の作用時間に合わせて設定します)。空腹時血糖値の測定から、食事を摂食させてからの1時間、そしてインスリン製剤を投与してからの1時間と3時間は、コンスタントに測定します。その後の測定間隔は、2~3時間を目安に測定します。このように血糖値の頻回測定は糖尿病症例における血糖値曲線を作成するうえで重要で、高血糖ピークおよびnadir(最低値)を把握することが、糖尿病症例に対するインスリン投与量の決定につながります。また、猫ではインスリン量決定のために、経口・静脈糖負荷試験が必要な場合があります。


No.304 糖尿病 (Diabetes)

糖尿病は、血糖値(血中のブドウ糖濃度)を下げるように調節するインスリンの分泌不足や作用不足により高血糖状態が持続し、多飲多尿・脱水・体重減少・白内障(犬)・サルコペニア(→No288サルコペニア)・後肢の虚弱・末期には糖尿病性ケトアシドーシスによる食欲不振・元気消失・衰弱や死亡を引き起こす病気です。犬も猫も中~高齢で多く発症します。

糖尿病で受診される方の主訴で一番多いのは「水をよく飲むようになり、痩せてきた」というものです。犬も猫も糖尿病になるとほぼ全例で多飲多尿が見られます。多飲多尿とは、これまでより多量に水を飲むようになり、尿量も増え、色が薄くなるような症状です。犬では肥満、クッシング症候群(→No.79 犬の副腎皮質機能亢進症)、未不妊雌の黄体期、膵炎(→No189膵炎)。猫では肥満、高脂血症、甲状腺機能亢進症(→No.78 猫の甲状腺機能亢進症)、尿路感染症、歯周病(→No97歯周病1→No98歯周病2)、末端巨大症、グルココルチコイド製剤などが糖尿病の基礎疾患になり得ることが明らかになってきています。

症状が多飲多尿だけの状態で見つかれば治療もスムーズに始められますが、そのまま放っておくとゴハンは沢山食べる割にどんどん体重が落ちていき、元気もなくなりグッタリするようになってしまいます。元気が無いような糖尿病の子に関しては通常入院での集中治療が必要となりますので、多飲多尿が気になったらなるべく早めに(元気なうちに)受診するようにしてください。

血液検査により血糖値の上昇を確認、尿検査で尿糖陽性を確認、基本的にはこれで糖尿病の診断はできる場合が多いです。あとは状態に応じて基礎疾患、合併症、現在の全身状態を把握するための検査を行って、重症度に応じて治療を組み立てていきます。

治療は食事療法と注射によるインスリン補充療法が主体となります。治療当初はインスリンの必要量を調べるのに数時間毎の血糖値測定が必要となりますので基本的には数日入院しての治療となります。ある程度のインスリン量が決まった時点で在宅でのインスリン注射を飼い主さんにしていただく形で通院治療に移行となります。

糖尿病は、ヒトではよく1型、2型といいますが、日本人の約95%は2型の糖尿病と言われています。2型糖尿病は 遺伝的に糖尿病になりやすい人が、肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発病します。インスリンの効果が出にくくなったり、分泌のタイミングが悪くなったりします。生活習慣の見直しを行うと改善したり、インスリン注射が必須ではありません。残りの5%の1型糖尿病は膵臓のβ細胞が壊れてしまい、まったくインスリンが分泌されなくなってしまいます。インスリンを体外から補給しないと生命に関わるため、インスリン注射を欠かせません。1型は子供や若い人に多く、2型は中高年に発症することが多い病気です。猫の8割は2型糖尿病と言われています。犬はどちらの型だか不明なことが多いようです。ほとんどは猫や日本人と同じように2型から発症したものと推測されるようですが、実際犬が具合が悪くなって病院に来る頃には病状が進んでいるため、1型と同じようにインスリン注射が治療には欠かせない場合が多いです。

糖尿病という病気は進行具合によって必要な入院日数や治療内容、救命率、当然ながら治療費に関してもかなりの差が出ます。多飲多尿は様々な病気のサインとしてとても重要な症状です、おかしいなと思ったらまずはご相談ください。


インシュリンと専用注射器


No.303 ウサギのソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)

ウサギの足の裏には犬猫のようにクッションとなる肉球がなく代わりに豊富な被毛で覆われています。しかし、何らかの理由で足の裏の毛が失われると、大きなトラブルになってしまうことがあります。ソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)とはこの足底の皮膚におこる病変です。足の中央付近とかかとの部分は骨が皮膚に近いため床ずれのような状態が発生しやすくなっています。脱毛し軽度に赤く腫れる程度から、重度な潰瘍を起こし、出血や感染を起こす場合もあります。感染が骨や関節にまで波及すると、断脚が必要になったり、全身的な敗血症に陥り死にいたるケースもあります。

フローリングでの飼育やケージの底が硬すぎることが大きな要因になります。本来は自然界の土の上のようにデコボコした環境が好ましいと考えられています。しかし、多くの飼主さんがスノコで飼育されているのに、病気になる個体と平気な個体がいるので、床材だけが原因ではありません。床が湿っていて不衛生だったり、ケージが狭すぎて運動不足だったり、栄養を取りすぎて肥満になることも原因として挙げられます。また、爪が伸びすぎていたり、全身的な体調不良や栄養失調でも発症の危険性が高くなります。

治療の最初は、飼育環境の再確認です。衛生的な環境で発症したのであれば、更にクッション性を持たせる為に、牧草を敷き詰めたり、市販の休足マットを何枚かケージに使用します。足の裏に糞尿が着いてしまわないようにマメにスノコやトイレの掃除も必要です。ケージが狭い場合は大きめのものを用意したり、肥満がある場合では、イネ科の牧草(→No282ウサギと牧草)を主食にして自然なダイエットを行います。感染による炎症が疑われる場合、抗生物質や消炎剤の内服や、クッション性のあるガーゼやコットンを当てたテーピングを行う場合もあります。テーピングの際はウサギがテーピングを気にして齧って食べてしまう(誤食)の危険性もあるので注意します。エリザベスカラーが必要になる場合もあります。非常に治療に時間がかかる病気なので、早期発見の為に日頃から足裏のチェックをしてあげてください。


足底皮膚炎のウサギ


No.302 UW25 (Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)

低分化型(高悪性度)リンパ腫(→No202リンパ腫)は、現在の抗癌剤治療では根治させることは極めて難しく寛解を維持させることになります。

根治:すべての腫瘍細胞が根絶されている状態
寛解:詳細な検査を行っても病変が検出できない状態
腫瘍細胞が1g以下の状態(1g=10億個)

抗癌剤治療を行っていく中で、QOL(生活の質)の改善を考えることが非常に重要になります。抗癌剤を使うことで腫瘍細胞を抑え込めたとしても、副作用で苦しむ期間が長ければ良い治療とはいえません。低分化型(高悪性度)リンパ腫に対する抗癌剤治療は、1種類の抗癌剤だけではなく数種類の抗癌剤を組み合わせて使用する多剤併用療法を行います。この多剤併用療法を用いることで、効果を強くしたり副作用を弱くすることが可能となり患者のQOLの改善につながります。

リンパ腫と診断し、未治療の動物を寛解状態に導入するために行うのが導入療法です。最もよく使用するのがCHOPを基本骨格にした多剤併用療法です。CHOPとは使用する抗癌剤のアルファベットの頭文字を表記したものです。CHOPを基本骨格にした多剤併用療法のなかでも、ウィスコンシン大学で考案された25週のプロトコールUW25(Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)
は、奏効率、奏効期間、生存期間を統合して現時点では最も好成績なプロトコールです(実際には各治療施設ごとにアレンジして、患者さんごとにプロトコールを作っています)。治療期間は約6カ月、奏効率は約94%、奏効期間期間中央値は約10カ月、生存期間中央値は約14カ月です。

Cyclophosphamid:エンドキサン;シクロフォスファミド
DNAに結合して、細胞の分裂・増殖を抑制します。骨髄抑制、出血性膀胱炎に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿

Hydroxydaunorubicin:アドリアシン;ドキソルビシン
強い抗癌作用を持ちます。DNAの複製に必要な酵素の働きを阻害します。容量依存で心臓が生涯される場合があります。猫やシェルティーでは腎毒性に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿

Oncovin:オンコビン;ビンクリスチン
微小管と呼ばれる細胞内の器官の働きを阻害し、細胞の分裂・増殖を抑えます。リンパ腫の他、白血病にも使います。神経障害が出やすく、指が痺れたり、歩行がおかしくなる場合があります。
投与後にチェックする症状
・脱毛
・だるそうではないか
・排尿困難はないか
・歩行に問題はないか

Prednisolone:プレドニン;プレドニゾロン
プレドニンは抗癌剤ではなく合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)です。本来はアレルギーや炎症を抑える薬として使われます。抗癌剤ではありませんが、リンパ腫の治療に使用されます。食欲増進作用も期待できます。

L-アスパラギナーゼ;ロイナーゼ
CHOPとは違いますが、治療がうまく行かない場合や、リンパ腫が再燃してしまった場合に使用します。腫瘍細胞が増殖するときに必要なアミノ酸の一種であるアスパラギンを分解し、栄養不足を引き起こして死滅させる作用を利用した抗癌剤です。単独使用でも功を奏する場合がありますが、腫瘍細胞がL-アスパラギナーゼに耐性を持つスピードはとても早いとされているため、その後の治療が重要となります。比較的副作用は少ないですが、繰り返し投与でアナフィラキシーを起こすことがあります。


UW25のプロトコールの1例(日本小動物がんセンター)


No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療

CKDのステージ毎の推奨される治療法です。ステージ分類は前回(→No300慢性腎不全のステージ分類)をご参照下さい。

ステージ1
・腎毒性のある薬は注意して使用
・腎前性(心疾患など)、腎後性(尿路結石など)の異常に対処
・新鮮な水を常に飲めるようにする
・クレアチニン、SDMAの変化をモニター
・原因または併発疾患の特定と治療
・収縮期血圧が>160または標的臓器に障害がある場合は高血圧の治療(→No259高血圧)
・持続的タンパク尿を呈する場合(犬>0.5 猫>0.4)、腎臓療法食と投薬
・血中リンを<4.6mg/dLに維持
・必要に応じ、腎臓療法食とリン吸着薬を使用

ステージ2
・ステージ1に準ずる
・腎臓療法食
・低カリウム血症の治療(猫)

ステージ3
・ステージ2に準ずる
・血中リンを<5.0mg/dLに維持
・代謝性アシドーシスの治療
・貧血の治療を検討
・嘔吐、食欲不振、悪心の治療
・必要に応じ、経腸または皮下補液による水和状態の維持(→No262皮下点滴の方法)
・カルシトリオール(活性型ビタミンD3製剤)による治療を検討(犬)

ステージ4
・ステージ3に準ずる
・リンを<6.0mg/dLに維持
・栄養および水和のサポートと投薬を容易にするための栄養チューブを検討

当たり前ですが、ステージが上がると治療も増えて大変です。早期発見のため、元気そうに見えても、8~10歳くらいまでは年に1回、10歳を超えたら、年に2回の定期検診がオススメです。