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No.187 高齢動物の全身麻酔のリスク

高齢の動物に麻酔をかける時は、若い動物と違い、いくつかのリスクがあります。基本的には、麻酔前の一般状態と血液検査、レントゲン検査、超音波検査などの通常の検査で大きな異常がなければ、年齢が高いから麻酔ができないということはありません(若いに越したことはありませんが)。しかし、通常の検査ではわかり辛い疾患が隠れている場合があります。

全身麻酔時に重要なことはたくさんありますが、とくに重視するのが、呼吸と血圧です。この2つの管理がきちんとなされれば、通常、全身麻酔は上手くいきます。

しかし、一見元気そうに見えても、高齢動物では、脳腫瘍などの脳の疾患や、アジソン病や甲状腺機能低下症などのホルモン異常、洞停止や房室ブロックなどの不整脈などが隠れている場合があります。このような疾患があると、呼吸や血圧に変化が起きて、麻酔時にトラブルが起こる可能性が上がります。一般的に、脳腫瘍で神経症状が出るような状態はかなり進行した状態です。診断するには全身麻酔下のMRIが必要です。また、統計的にはヒトより犬の方が多いというデータがあります。副腎皮質機能低下症(アジソン病)や甲状腺機能低下症も疑わしい症状があれば術前に検査をしますが、費用がかかるため症状がなければ行われない場合が多いです。また、検査をしてもグレ-ゾーンの結果が出ることがあります。洞停止や房室ブロックなどの不整脈は術前に心電図を測定してもわからない場合があります。

このような疾患が隠れていた場合は、全身麻酔のリスクとなります。高齢動物では、検査の結果は正常でも若い時と違い各臓器の機能が弱ってきています。どの場合の全身麻酔もそうですが、メリット・デメリットを総合的に判断して、動物のために一番良い選択をすることが必要です。

こちらもご覧ください
No77 犬の甲状腺機能低下症
No80 副腎皮質機能低下症
No117 全身麻酔
No137 不整脈


No.186 AIM(Apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L)

東京大学の宮崎徹教授が発見し、教授のチームが研究している、血液中のタンパク質AIMは、現在では治療の難しい、腎不全、肥満、脂肪肝、肝硬変、糖尿病、動脈硬化、自己免疫性疾患、各種の癌、認知症などの様々な難治性疾患に対してとても効果的な治療が行える可能性が高いと期待されています。

AIMは、体の中で血液細胞の一種であるマクロファージだけが特異的に産生する分泌タンパク質で、マクロファージで作られた後いったん血液中に出ます。ヒトでは通常1ml当たり5~10μgぐらいの AIMを血中に持っています(全ての哺乳類はAIMを持っています)。AIMの機能について最初に発見されたのが、マクロファージ自身のアポトーシス(遺伝子にプログラムされた細胞死)を抑制して細胞を長生きさせるというものでした。そのため Apoptosis Inhibitor of Macrophage (AIM)と名付けられました(CD5Lと呼ばれることもあります)。

AIMはヒトや動物のIgMとくっついていて、体内で障害が起こると出動します(宮崎教授はIgMを航空母艦、AIMを戦闘機と例えていらっしゃいます)。AIMはヒトや動物の体内に起こった有害な免疫反応をきれいに掃除してくれます。ヒトを含め動物の体はAIMにより守られていて、生まれつきAIMが少ない場合、また、充分に持っていてもIgMからAIMが出動できない場合(ネコ科の動物はこのタイプのようです)。などに上記の難治性の病気が起こると宮崎教授のチームは考えています。

今年の飼主様向けセミナーに出席していただいた方の中には覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、私が癌にならない動物として紹介したハダカデバネズミは特殊なAIMを持っているそうです。

AIM凄いです。ヒトが120歳、犬や猫が30歳まで生きる時代が来るかもしれません。早く実用化して欲しいです。


ハダカデバネズミ


No.185 雷や台風、花火の音に対する不安症

これからの季節、雷や台風、花火の音に対する不安でパニックになる動物が多くみられます。これらの不安症は、前回解説した、なんでもかんでも怖い『全般性不安症(Generalized anxiety,GAD)』の1つと診断されることが多いです。

主な症状としては、
・パンティング
・隠れる
・飼主さんにくっつく
・排泄の失敗(猫トイレの失敗も雷恐怖症から始まるときがあります)
・流涎
・吠え、くんくん言う
・自虐、破壊
などがあります。雷や台風に対しては、来そうな天候のとき、あるいは雷や台風の前に不安行動をみせる場合もあります。

治療は程度によりますが、先に身体的な病気がないかを調べ、やはり全般性恐怖症という診断がくだれば、環境の整備と行動療法をします。ポイントは
・パニックになっても怪我をしない環境を作る
・隠れたい動物は隠れさす
・怖がる犬をなだめない
・ご褒美など入ったおもちゃで気を散らす
・拮抗条件づけ脱感作法(雷CDなどを使う)
です。花火など日時が分かっているものは、その間だけ逃げるのも1つの方法です。全般性不安症は症状が重篤な場合は、薬剤での介入をする場合も多くあります。ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬やホメオパシーなどの代替療法で上手く行く場合もあります。

こちらもご覧ください
→No59 雷恐怖症
→No183 犬の不安障害1
→No184 犬の不安障害2


No.184 犬の不安障害2

犬の分離不安症、前回からの続きです。

治療
安全対策、行動修正、薬物療法、代替医療
などを適切に組み合わせて行います。

安全対策:逃亡、破壊時、誤食などに注意し、必要なら動物病院で預かる場合もあります。

行動修正:基本的なものを挙げます。
・飼主さんが出かける前に10-15分ほど犬を無視する。「いってきます」のご挨拶もしない
・時間をかけてごほうびを取り出さなくていけないようなおもちゃ(コングなど)を出かける10分くらい前に与える
・帰宅後も10分ほど犬を無視
・飼主さんの外出時のルーティン行動を変える
・お出かけフェイントをかける
・クレートの変わりに大きめのサークルにする
・拮抗条件づけと脱感作法
・ベルなどを使うトレーニング (計画的留守番トレーニング)
・ケージトレーニング
このようなこと組み合わせて、根気よく行います。

薬剤療法:必要な場合は、抗うつ剤、抗不安剤などを適切に使用します。抗うつ剤は以前は三環係抗うつ剤(TCA)が使用されていましたが、現在では選択性セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)がよく使われています。しかし、抗うつ剤のみで治療はできません。薬剤は行動修正の補助のようなイメージです。また、抗うつ剤は効果が出るまで2ヶ月くらいかかります。そのため即効性のある抗不安剤を併用する場合があります。抗不安剤はベンゾジアゼピンという薬がよく使用されます。作用は、お酒によって酔い気分になって不安を忘れるというイメージです。

代替医療:行動修正の補助として、サプリメントやホメオパシー、漢方などを使用することもあります。抗うつ剤や抗不安薬よりも副作用が少なく、体質や証が合えば非常に効果的です。

予防:ペットショップや動物愛護センターから来たばかりときの最初が肝心です。犬は過剰に甘やかすことで分離不安症を発症することが分かっていますので、過剰に甘やかすことはやめ、いつでも飼い主離れができるようにしておきます。具体的には、生後1年間は別々に寝る、飼主さんが毎日の行動パターンを一定にしないことで何が起きても動じない子にする、社会性を身につけさせ、人や音、物などに慣れさせておく、などが挙げられます。パピークラスやワクチン時に専門家に相談することも大事です。

特殊な分離不安症もあります。

全般性不安症 (Generalized anxiety,GAD)
全般性不安症では、様々な活動や出来事について過剰な不安や心配が生じ、このような状態が通常ほぼ毎日6ヶ月以上続く場合をいいます。明確なきっかけがないにも関わらず、 常にリラックスできず、普通の生活を送る事ができずに、ちょっとした変化にも動揺し、小さな出来事に過剰に反応する場合です。なんでもかんでも不安という、とてもかわいそうな状態です。治療の対応は基本的には同じですが、薬剤の介入が必要なことが多いです。

音に対する恐怖症
音に対する恐怖症は、全般性不安症と診断されることが多いです。電子レンジや冷蔵庫、携帯の着信音など、様々な音が恐怖です。まずは、耳の病気や内分泌疾患がないことを確認します。この疾患も基本は分離不安症と同様の対処をしますが、症状が重篤なので、薬剤を使用することが多いです。


No.183 犬の不安障害1

不安とは「気がかりな心の状態。安心できないさま」のことをいいます。不安は、誰もが感じるもで、少々の不安を感じるからといって日常生活に支障をきたすわけではありません。不安障害とは、誰もが感じる程度をはるかに超える不安を持ち、それがもとで日常生活に支障をきたしてしまう状態をいいます。脳科学的には不安はセロトニンが不足していると考えられています。犬はヒトの言葉や行動を理解することにおいては9歳児の知能があると考えられていますが、精神年齢は3歳児程度です。このギャップも犬の不安を理解するために認識して下さい。

分離不安症(Separation anxiety)
犬の不安症で1番有名なものが分離不安症です。

定義
一般的に飼主さんという愛着を多く感じる人(達)が外出した時、あるいは外出を予測できた時に不安行動として、破壊行動、過剰な吠え、排泄行動などを示す。潜在的に恐怖、不安、飼主さんへの過度の愛着、適切な社会とのかかわりあいの不足などの問題も関連していることが多い。

分離不安症に関する特徴・危険因子
・品種・性別に差異なし
・どの年齢でも発症しうる
・譲渡された犬、迷い犬であった個体に多い
・飼主さんが一人暮らし
・飼主さんが出かけてしまうことに対する不安感が非常に高い
・飼主さんが外出の準備をしている間にarousal(脳興奮・覚醒=不安感)がどんどん増す
・飼主さんが出かけたときに不安感がピークとなる
・脳の興奮(不安感)を落とすために行動がでる

臨床兆候
不安から発現する行動すべてが当てはまります。
・過度に吠える
・トイレの失敗
・逃避を試みて破壊行動 をする
・脱毛や抜毛などの自虐行動
・不安になると水を飲む→多飲・多尿
・嘔吐・下痢
・過度の流涎
・同居の他の動物とのけんか
・飼主さんの臭いのついているものに対してのいたずら

上記のような行動があり不安障害を疑ったら、まずは以下の鑑別診断をします。

鑑別診断
・生理学的な問題:何らか内科的・外科的疾患があって、不安な気持ちが大きい時にも上記の症状が出る場合があります。とくに、整形学的な痛み、甲状腺・副腎などの内分泌疾患に注意します。
・行動学的な問題:行動学的にも鑑別診断が必要です。
分離不安症 (外出、分離のときだけ)
全般的不安症
認知機能不全 (Cognitive dysfunction)
学習、刺激欠如
その他

このようなことを踏まえ下記の特徴が多ければ、分離不安症と診断します。

診断
・飼主さん(達)が出かける際に過度に不安
・飼主さんの外出時のビデオや録音情報が犬のストレスや不安を示している
・特に不安を起こさせる異常が他に身体にみられない

前述したように、犬のヒトの言葉や行動のの理解力は9歳、精神年齢は3歳です。犬はヒトの言葉や行動を9歳の知能で理解していますが、心が追い付いていきません。飼主さんの外出を小さなことで認識してしまい不安になります。

次回は治療のお話です。


No.182 急な災害に備えて

災害時はご自分の安全が第一です。冷静になって、ご自分とご家族、ペットの安全を確保して下さい。ペットも突然の災害にいつもとは違う行動をとってしまうことがあります。リードやケージなどに災害に配慮した対策を考えることも必要です。

1.同行避難
避難する時にはペットと同行避難することが原則です。離れた場所にいた場合には、自分の被害状況、避難所との距離、避難指示などをしっかり考慮し、避難させるかどうかの判断が必要です。もし、ペットとはぐれてしまった場合には、ペットの情報を自治体の動物担当部署や警察等に届け出て下さい。

2.同行避難の方法
同行避難する際には、普段よりしっかりとリードの確認や首輪が抜けないかどうかの確認を行ってください。猫ちゃんやうさぎちゃん、その他の動物の場合でも移動しやすいようにコンパクトなキャリーバッグやケージに入れ、逃走しないようにガムテープで固定することなども必要です。

3.避難後の生活
様々な人が共同生活をする場において、ペットの存在は心の支えになるという方がいる一方で、アレルギーを持った方や、咬傷事故や鳴き声への苦情、体毛や糞尿処理など 衛生面でトラブルになることもあります。飼育管理は飼い主さんの責任で衛生的な管理を行うとともに、飼い主同士で周りの人に配慮したルールを作ることも重要です。

4.ストレス
ペットもストレスから体調を崩したり、病気が発生しやすくなるため、飼主さんはペットの体調に慎重に気を配り不安を取り除いてあげる必要があります。

災害時に備えて準備しておきたいもの (一例です)
・水(3日分程度)
・フード(1週間分程度)
・食事用の器(折りたためるものがオススメです)
・薬(1週間分程度)
・名札(連絡先付きの物)
・マイクロチップ
・リード
・キャリーケース
・飼育メモ(生年月日・病歴・ワクチン歴など)
・ペットシーツ
・タオル
・ビニール袋
・新聞紙

ポイント
1.いつもと同じものを
災害時はいつもと違う環境になってしまいます。普段と同じものを食べたり使ったりできるように日頃から準備しておいてください。なるべくコンパクトなものを用意して下さい。そして、薬など命に関わるものは、しっかりと準備してください。
2.情報がわかるように
東日本大震災の時には名札もマイフロチップもないワンちゃんや猫ちゃんが沢山いました。離れ離れになってしまった場合でも、できるだけ早く飼い主様の情報が分かるようにしてください。

災害時には、大きな混乱が予想されます。動物たちが安全・安心な生活を送れるように日頃から準備してください。詳しいことは、横浜市獣医師会のホームページの『人とペットの災害対策ガイドライン』のページをご覧ください。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html


車中泊


No.181 耳血腫(Aural hematoma)

耳血腫とは、耳介と呼ばれる犬の耳の軟骨付近の皮膚と軟骨の間に血液や血液を含んだ液体が溜まってしまう病気のことをいいます。ヒトの場合は柔道やラグビーなどの頭部に外傷を負うこのとあるスポーツによって生じるため「スポーツ外傷」と呼ばれることがあります。犬の場合も、打撲などの外傷によって内出血が起きること、強くひっかくことや、耳を掻いてできた傷に細菌が感染したりして発症します。外耳炎を伴っていることが多いです。耳血腫を引き起こすと耳が腫れあがり、熱をもったり、痛みや痒みをともなうことがあります。垂れ耳の大型犬に多く小型犬や猫では稀です。

治療には、内科的な治療と外科的な治療がありますが、内科治療ではステロイド剤やピシバニール(抗癌剤の一種)などを使用します。内科治療で治らない場合は外科手術となります。


犬の耳血腫

こちらもご覧ください→
No57 外耳炎1
No58 外耳炎2


No.180 ロッキングプレート (Locking plate)

骨折治療の基本は、折れた骨をもとの位置に戻し(整復)、固定することです。きれいに固定し、固定を妨げるような外力をかけないようにすれば、ほとんどの場合は後遺症を残さずに治ります。適切な治療が遅れたため治癒までに時間がかかったり、骨の変形が残ったり、あるいはくっつかないままになったりすることを避けるために、正しい診断と適切な処置の選択が重要です 。
骨折の治療には、大きく分けて、外固定(ギブスや副木)と内固定(ピンニング、プレート、髄内釘固定)があり、通常これらを症状にあわせて組み合わせて行います。現在の獣医学ではプレートが多く用いられます。

近年は、交通事故よりも、ソファーから飛び降りたとか、コードなどに引っかかったとか、同居の動物と激しく遊んでいたから、ヒトが間違って踏んでしまったとか、家庭内のささいな事故による骨折が増えています。今はトイプードルやチワワ、ポメラニアンなどの小型犬・超小型犬が人気犬種です。このような品種の骨折治療は、従来の古典的プレートでは困難で癒合不全(骨がくっつかないこと)の可能性が高かったのですが、ロッキングプレートの出現によって癒合不全のリスクが大幅に軽減されました。

古典的プレート法は、スクリュー(ネジ)でプレートを骨に押し付ける事で固定力を獲得していました。その際、骨を強く圧迫する事で骨膜の血流を阻害し骨折端の細胞が壊死するなどして治癒に悪影響を与えていました。
ロッキングプレートは、プレートとスクリューをロックする事によるAngle stability(骨の角度安定性)によって固定するもので、骨膜の血流を維持することができます。
簡単にいうと、古典的プレート法は『完璧な固定(骨を融かすリスクがある程に)』を重視しているのに比べ、ロッキングプレートでは『生物学的癒合を優先』した骨折治療となっており、従来の骨折治療のトラブルの多くを解決できる方法です。

ロッキングプレートの普及と種類が増えたことによって、犬や猫だけでなく、ウサギやモルモット、鳥類などにも応用できるようになりました。


ハトの骨折にロッキングプレートを用いた例
(注;この例では世界で1番細いロッキングプレートを使用していますが、これでもプレートが太過ぎて理想的ではありませんので、あくまで一例とお考え下さい)


No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)

前回の脾臓の病気の中でも一番多く、恐ろしいのが血管肉腫です。犬の脾臓の結節(しこり)には2/3ルールというものがあって、脾臓に何らかのしこりがある場合、その2/3は腫瘍性病変で、さらにその2/3は悪性腫瘍である。そしてその2/3が血管肉腫であるといわれています。血管肉腫は血管内皮由来の悪性度の高い腫瘍で、脾臓の他にも心臓(右心耳)、肝臓、皮膚など、いろいろなところに発生します。中でも脾臓での発生率が最も高いです。犬では6-17歳に起こり、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパードなどの大型犬によくみられ、猫では稀です。単発の場合もありますが、多発の場合もあります。血行性に転移・播種しますがリンパ節転移は稀です。破裂したもの、多発傾向のものは転移しやすいといわれています。

血管肉腫は被膜に包まれておらず非常に脆いため、破裂して出血したり、隣接する器官と癒着することがしばしばあります。内臓の血管肉腫(主に脾臓や肝臓等)によく見られる症状は腫瘍が破裂したことによる、急性の衰弱ないし虚脱(ショック状態)です。血管肉腫では貧血、血小板減少および凝固能の異常がみられることが多く、程度は症例により様々ですが、約50%は播種性血管内凝固(DIC)になるといわれています。また、腹腔内で破裂した状態でみつかると、ショックの改善→DICからの脱出→手術の成功とハードルの高い治療が必要です。治療が上手くいっても予後は2ヶ月くらいといわれています(ドキソルビシンという抗癌剤やホメオパシーなどの代替医療を用い、数年寿命が延びた例もあります)。まずは腫瘍が破裂する前に発見して手術で摘出したいところですが、現在のところ、内臓の血管肉腫を早期発見するのはなかなか困難です。好発犬種では定期的な超音波検査を行うことが推奨されます。

下記をクリックすると内蔵の写真が表示されます。見たくない方はクリックしないようにしてください。
血管肉腫の脾臓


No.178 脾臓の病気

脾臓は胃の下にある比較的大きな臓器で、主な働きとして、古くなった赤血球を壊す、抗体を作る、血液を貯留させておくがあります。いずれも重要な役割ですが、他の臓器でも代償可能なため摘出しても大きな問題は生じません。

犬やフェレット (稀に猫も) では、脾臓が腫れる脾腫や、脾臓にしこりができる結節性病変がよくみられます。基本的には、脾臓が大きくなり過ぎて他の臓器を圧迫したり、結節性病変が破裂したりしない限りほとんどの場合は無症状です。

脾臓が腫れている場合(脾腫)の主な原因(赤字のものは悪性腫瘍です)
・うっ血:フェレットで多い
・髄外造血:フェレットで多い、犬にもみられる
血球貪食性組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
肥満細胞腫:猫で多い、犬やフェレットでもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

脾臓に結節性病変(しこり)がある場合の主な原因
・血腫:事故などによる脾臓の内出血が固まった場合などにみられる
・結節性過形成:フェレットで多い
血管肉腫:大型犬で多くみられ、非常に悪性度が高い、脾臓の悪性腫瘍で一番多くみられる
間質肉腫:稀
組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
高分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

診断はレントゲン検査、超音波検査で脾腫や結節性病変を見つけ、状況によって針生検(バイオプシー)を行います(血管肉腫などの悪性腫瘍が強く疑われる場合、大出血が起こる可能性がある場合は行いません)。治療は経過観察を行う場合もありますが、とくに犬で血管肉腫をはじめとする悪性腫瘍を疑う場合は早期の脾臓の摘出が必要です。また稀ですが、ボルゾイやグレートデンのような大型で胸郭の深い犬では脾臓の捻転がみられる場合があります。この場合も脾臓を摘出することが多いです。また、脾臓そのものの病気ではありませんが、難治性の免疫介在性溶血性貧血のときに脾臓を摘出すると予後が良くなる場合があります。いずれにしても、酷い状態になるまで無症状な場合が多いので、10歳以上の犬や5歳以上のフェレットでは、定期的な超音波検査が推奨されます。