No.437 肛門嚢アポクリン腺癌 (AGACA)

肛門嚢アポクリン腺癌(AGACA)は、肛門嚢にできる腫瘍で、発生率は犬の皮膚腫瘍全体の約2%で、猫では極めて稀です。性差はないといわれています。局所浸潤性が強く、転移しやすい性質を持ち、一般的な転移部位は局所リンパ節(腰下リンパ節群)です。時に非常に小さな肛門嚢の腫瘍が、非常に巨大な転移巣を形成することもあります。また、症例の約25~51%で腫瘍に起因する高カルシウム血症がみられることがあります(腫瘍から上皮小体ホルモン関連タンパクが放出されることによります)。症状は肛門周囲の腫大(特に4時と8時の位置)、腫大したリンパ節に大腸が圧迫されることによるしぶり、便秘、便の形状変化(通常、平らになるかリボンのような形になります)、多飲多尿(高カルシウム血症による)、食欲不振、後肢の虚弱や跛行などがみられます。

診断は、肛門周囲の視診や触診、直腸検査などにより腫瘤を発見することでできますが、中には小さすぎて発見できず、リンパ節の転移病巣や高カルシウム血症で気付かれることもあります。臨床所見と細針吸引(FNA)で、ある程度AGACAであることは予想できますが、確定診断は切除後の病理組織学的検査になります。

治療は外科的治療が推奨されます。腰下リンパ節群に転移があっても手術適応となります。高カルシウム血症が存在する場合には、術前に生理食塩水による積極的な輸液や利尿剤の投与を実施し、腎臓からのカルシウムの排泄を増加させ状態を安定化させます。腰下リンパ節群への転移があり高カルシウム血症あるいはしぶりや便秘がある場合には、肛門嚢の腫瘤とともに可能な限り腰下リンパ節群の切除を実施します。それにより、高カルシウム血症の改善や排便困難の症状の緩和が得られます。手術に伴う合併症は、出血、感染、便失禁、低カルシウム血症、肛門周囲瘻孔の形成などがありますが、腰下リンパ節群は血管が入り組んだ領域に存在するため、切除は比較的難易度が高く、致死的な出血の報告もあります。

確定診断が付いた場合、可能であれば、会陰部および骨盤領域への外部放射線照射が推奨されています。また、手術不可能あるいは再発症例などにも症状を緩和する目的で放射線治療が利用されることもあります。放射線照射に伴う合併症には、急性障害として、大腸炎、放射性皮膚障害、膀胱炎、尿道炎です。晩発障害としては、慢性大腸炎、腸穿孔、胃腸管の狭窄、膀胱の線維化、骨壊死などがあります。放射線治療を実施できる施設は限られるため、様々な理由から実施できないこともあります。AGACAの犬の転移率は高いため、術後、カルボプラチンやアドリアマイシンなどの補助的化学療法の実施が推奨されます。化学療法単独では生存期間が短いため、外科手術との併用で実施されます。

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摘出した肛門嚢アポクリン腺癌