リンパ腫とは血液中の白血球の1つであるリンパ球が腫瘍化したものです。リンパ節から発生する場合と、関係のない臓器から発生することもあります。また、血液をつくる骨髄から発生した場合は白血病と呼ばれ、同じリンパ系の腫瘍ですがリンパ腫とは異なります。一般的な腫瘍のようにしこりを作ることもありますが、しこりを作らないこともあります。リンパ腫は悪性腫瘍の1つで以前は悪性リンパ腫とも呼ばれていました。リンパ腫には様々な分類が存在し、悪性度が低いものから高いものまであり、治療法も異なりますが、基本的には無治療でいると、様々な臓器に浸潤していき悪性の挙動を示します。
代表的な分類に発生部位によるものがあります。
多中心型リンパ腫
体の表面にあるリンパ節が腫れるもので、主に下顎リンパ節や、頸部のリンパ節、膝窩リンパ節などが大きく腫れます。一般的にリンパ腫のときのリンパ節は、固く、真ん丸になります。症状は元気がなかったり、熱が出たりすることや、頸部のリンパ節が大きくなり気道を圧迫すると呼吸が苦しくなったりします。犬のリンパ腫では最も多いタイプです。
消化管型リンパ腫
腸やその近くのリンパ節などが腫れるものです。腸全体でリンパ腫の細胞が増殖する場合や、一部で増殖し、腫瘍状になり腸閉塞を起こすこともあります。症状は食欲がなくなり、消化や吸収が悪くなり、体重が減少します。嘔吐や下痢が続くこともあります。猫のリンパ腫で多くみられます。
皮膚型リンパ腫
皮膚にリンパ腫の細胞が入り込み、皮膚炎を引き起こします。皮膚の感染症を伴い発熱が認められたり、強い痒みを伴うことがあります。口腔内の粘膜に病変が出ることもあります。
鼻腔内型リンパ腫
鼻の中にできるリンパ腫で、そのほとんどは猫に発生します。鼻水、鼻血、くしゃみ、顔の変形などの症状があります。
前縦隔型リンパ腫
胸の中のリンパ節が腫れます。炎症やリンパ流の流れが悪くなることにより、胸の中に水が貯まると、呼吸が苦しくなったり、咳がでるようになります。FeLV(猫白血病ウイルス感染症)陽性猫に多いです。
上記以外の部位でもリンパ腫は発生することはあり、症状はその部位により様々です。
悪性度は、悪いものから順に、高グレード、中グレード、低グレードに分類されます。また、免疫学的には、リンパ球はT細胞とB細胞に分けることができます。T細胞性リンパ腫の方がB細胞性リンパ腫と比べて悪いことが多いです。
リンパ腫の診断は、基本的には、腫れているリンパ節に細い針を刺して、細胞を顕微鏡で確認します。 一般的に悪性度が高いタイプのリンパ腫は診断することができますが、悪性度が低いタイプのものでは細胞の検査だけでは診断が不十分な場合があります。 その場合には、組織の検査が必要になり、病変部の一部を外科手術で採取する必要があります。また、リンパ球は多彩な種類がありますが、リンパ腫に侵された部位では単一のリンパ球の集団(クローン)となり、遺伝子検査が診断に役に立つこともあります。
リンパ腫には抗がん剤が有効で、消化器型リンパ腫の腸閉塞、皮膚型リンパ腫が一部にとどまっている場合などの特殊な場合を除いては、手術より抗がん剤の治療が選択されます。悪性度の高いリンパ腫では、無治療の場合にはその生存期間はおよそ1~2ヶ月といわれ、早期の積極的な治療が必要になります。腫瘍細胞が抗がん剤に耐性を身につけることがあり、それを防ぐために何種類かの抗がん剤を組み合わせて使用します(多剤併用療法)。悪性度が低いリンパ腫には副作用が少ない抗がん剤や腫瘍に対して効果のあるホルモン剤を使用します。症状がない場合には、無治療で経過観察する場合もあります。また、リンパ腫の種類によっては放射線治療も有効です。
リンパ腫は悪性の経過を取ることが多く、治療の見込みが厳しいものですが、適切に治療を行うと完治する可能性があります(犬の多中心型リンパ腫の2年生存率20~25%)。また、残念ながら完治することができずリンパ腫によって寿命が決まってしまう場合でも、代替え医療などを利用して負担を軽減することで、生活の質(QOL)を改善することができます。