No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)

前回の脾臓の病気の中でも一番多く、恐ろしいのが血管肉腫です。犬の脾臓の結節(しこり)には2/3ルールというものがあって、脾臓に何らかのしこりがある場合、その2/3は腫瘍性病変で、さらにその2/3は悪性腫瘍である。そしてその2/3が血管肉腫であるといわれています。血管肉腫は血管内皮由来の悪性度の高い腫瘍で、脾臓の他にも心臓(右心耳)、肝臓、皮膚など、いろいろなところに発生します。中でも脾臓での発生率が最も高いです。犬では6-17歳に起こり、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパードなどの大型犬によくみられ、猫では稀です。単発の場合もありますが、多発の場合もあります。血行性に転移・播種しますがリンパ節転移は稀です。破裂したもの、多発傾向のものは転移しやすいといわれています。

血管肉腫は被膜に包まれておらず非常に脆いため、破裂して出血したり、隣接する器官と癒着することがしばしばあります。内臓の血管肉腫(主に脾臓や肝臓等)によく見られる症状は腫瘍が破裂したことによる、急性の衰弱ないし虚脱(ショック状態)です。血管肉腫では貧血、血小板減少および凝固能の異常がみられることが多く、程度は症例により様々ですが、約50%は播種性血管内凝固(DIC)になるといわれています。また、腹腔内で破裂した状態でみつかると、ショックの改善→DICからの脱出→手術の成功とハードルの高い治療が必要です。治療が上手くいっても予後は2ヶ月くらいといわれています(ドキソルビシンという抗癌剤やホメオパシーなどの代替医療を用い、数年寿命が延びた例もあります)。まずは腫瘍が破裂する前に発見して手術で摘出したいところですが、現在のところ、内臓の血管肉腫を早期発見するのはなかなか困難です。好発犬種では定期的な超音波検査を行うことが推奨されます。

下記をクリックすると内蔵の写真が表示されます。見たくない方はクリックしないようにしてください。
血管肉腫の脾臓

カテゴリー: 未分類

No.178 脾臓の病気

脾臓は胃の下にある比較的大きな臓器で、主な働きとして、古くなった赤血球を壊す、抗体を作る、血液を貯留させておくがあります。いずれも重要な役割ですが、他の臓器でも代償可能なため摘出しても大きな問題は生じません。

犬やフェレット (稀に猫も) では、脾臓が腫れる脾腫や、脾臓にしこりができる結節性病変がよくみられます。基本的には、脾臓が大きくなり過ぎて他の臓器を圧迫したり、結節性病変が破裂したりしない限りほとんどの場合は無症状です。

脾臓が腫れている場合(脾腫)の主な原因(赤字のものは悪性腫瘍です)
・うっ血:フェレットで多い
・髄外造血:フェレットで多い、犬にもみられる
血球貪食性組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
肥満細胞腫:猫で多い、犬やフェレットでもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

脾臓に結節性病変(しこり)がある場合の主な原因
・血腫:事故などによる脾臓の内出血が固まった場合などにみられる
・結節性過形成:フェレットで多い
血管肉腫:大型犬で多くみられ、非常に悪性度が高い、脾臓の悪性腫瘍で一番多くみられる
間質肉腫:稀
組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
高分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

診断はレントゲン検査、超音波検査で脾腫や結節性病変を見つけ、状況によって針生検(バイオプシー)を行います(血管肉腫などの悪性腫瘍が強く疑われる場合、大出血が起こる可能性がある場合は行いません)。治療は経過観察を行う場合もありますが、とくに犬で血管肉腫をはじめとする悪性腫瘍を疑う場合は早期の脾臓の摘出が必要です。また稀ですが、ボルゾイやグレートデンのような大型で胸郭の深い犬では脾臓の捻転がみられる場合があります。この場合も脾臓を摘出することが多いです。また、脾臓そのものの病気ではありませんが、難治性の免疫介在性溶血性貧血のときに脾臓を摘出すると予後が良くなる場合があります。いずれにしても、酷い状態になるまで無症状な場合が多いので、10歳以上の犬や5歳以上のフェレットでは、定期的な超音波検査が推奨されます。

カテゴリー: 未分類

No.177 犬の化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)

前立腺とは、膀胱の真下にあり、尿道を取り囲む様に存在しているオスにのみある生殖器です。主な働きは前立腺液を分泌し、精嚢から分泌された精嚢液を、精巣で作られる精子と混合して精液を作ること、および射精時における収縮や尿の排泄の補助などです。

犬の前立腺疾患は、良性前立腺肥大45.9%、前立腺炎38.5%、化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)7.7%、前立腺嚢胞5.0%、前立腺腫瘍2.6%、扁平上皮化生0.2%と分類されています。未去勢犬の前立腺は1歳から拡大し始め、6歳で80%以上、9歳で95%の犬が過形成を起こします。ヒトとはかなり病態が違います。重度になると便秘や排尿障害、会陰ヘルニア(→No116 会陰ヘルニア)などを起こします。

良性前立腺肥大は前立腺の良性過形成とも呼ばれ、5-6歳が発生のピークです。多くの症例で前立腺炎も合併しています。前立腺嚢胞とは前立腺の中に多数の嚢が作られてしまう状態です。片側だけ大きくなる旁前立腺嚢胞という病態もあります。そして、近年多くなってきているのが 化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)です。

化膿性前立腺炎とは、前立腺が化膿して膿がたまっている状態をいいます。前立腺内で発生した炎症によって膿が発生し、これが尿道を通じて排出されないと前立腺内に膿がどんどん溜まっていきます。この状態が化膿性前立腺炎です。化膿性前立腺炎の多くは、最初は無症状です。しかし放っておいて病態が進行すると、血尿、膿尿、腹膜炎、敗血症を起こしDIC(→No144 播種性血管内凝固)となって死に至ります。この病気のやっかいなところは、末期にならないと、発熱、元気・食欲消失などの症状が出ないことです。治療は外科的な介入が必要ですが、敗血症やDICの状態になると予後は厳しいです。

前立腺腫瘍以外のほとんどの前立腺の病気は若いうちの去勢手術で予防できます。子供を取らないのであれば、5-6ヶ月までの去勢手術がオススメです。

カテゴリー: 未分類

No.176 第17回 飼主様向けセミナー ご質問への回答

飼主様セミナーでのご質問への回答です。まずは講演の内容と関係のあるものから

Q:・がんの予防法はありますか?
・がん予防のための免疫を上げる方法はありますか?
・がんの予防になる食べ物を教えて下さい
A:がんの予防に決定的なものはありませんが、免疫力を上げるためにも、ストレスを減らした生活、バランスの取れた食事、適度な運動、感染症などの予防などは重要だと考えます。免疫力を上げる食べ物はヒトでは、キノコ類や海藻類などが有名ですが、動物ではきちんとした研究はありません。様々なサプリメントも同様です。

Q:がんになったら延命を選択し、予後を確認すべきでしょうか?
A:がんの種類とステージ、動物の年齢、状態によって変わります。手術のみで完治できる場合も多くあります。予後もあくまでも過去の統計学の数字です。様々な条件を考えて治療を獣医師と相談して下さい。

Q:できものがあった場合、どのくらいのペースでどのくらいに大きくなったら注意した方が良いか?
A:一概にはいえませんが、大きくなるのが早いものは悪性のものの疑いが強くなります。まずは、細胞の検査をしましょう。

Q:PET検査を受けられますか?
A:現在、北里大学(青森県十和田市)で可能です。費用は内容によって変わります。詳細はこちらにお問い合わせ下さい。→
https://www.kitasato.ac.jp/new_news/n20090416.html

以下は、今回のセミナーの内容とはあまり関係のない質問ですが、こちらからは、濱田が可能な限りお答えします。

Q:兄弟犬間輸血について教えて下さい
A:輸血のドナー(血液を与える側)にも様々な理想の条件がありますが、兄弟だからといって、必ずしも大丈夫とは限りません。兄弟間でも血液型特定検査、交差試験(クロスマッチ試験)を行います。これらの検査が大丈夫なら問題ありません。こちらも参考にして下さい。
No173 犬の血液型と輸血

Q:救急の時に病院到着までにやると良いこととやってはいけないことを教えて下さい
A:病気の種類や状態によって異なりますが、意識があれば、そのまま安静にしてお連れ下さい。また、心肺停止(CPA)の状態なら心肺蘇生(CPR)が必要です。
No162 家庭での心肺蘇生

Q:老化・認知症・介護・高齢動物の病気について教えて下さい
A:こちらを参考にして下さい→
No22 高齢犬の変形性脊椎症
No104 老化1 老化の定義
No105 老化2 外観と行動の変化
No106 老化3 体内での変化
No107 高齢動物の関節疾患
No108 高齢動物の歯の疾患
No109 高齢動物の心疾患
No110 認知症1
No111 認知症2 夜鳴き
No112 認知症3 徘徊
No113 高齢動物に対してできること1
No114 高齢動物に対してできること2
No115 高齢動物に対してできること3
No139 高齢猫の体重減少

Q:ホメオパシー・レメディについて
A:ホメオパシーは条件が合えば、副作用もなく、費用も安くとても効果的な治療法です。しかし、ホメオパシーの知識・経験の足りない医療従事者、もしくはホメオパシーのみを勉強した一般の方々によって安易に使用され問題となることがたびたびあります。この治療法は通常の西洋医学とは全く違った学習・アプローチをしなければなりません。また、ホメオパシーのみの治療を行う場合もありますが、基本的にはあくまでも西洋医学の補助と考えます。西洋医学の知識・臨床経験がないまま、この治療を行うと上手く行きません。基本原理などはこちらを参考にして下さい。
http://www.javh.jp/

Q:吐き気と下痢で病院に行くべきかどうかを教えて下さい
A:原因、年齢、持病などの状況にもよりますが、嘔吐の場合は、月に2-3回の嘔吐でその後にケロッとしていて、その他の症状がない場合は様子をみるもありだと思いますが、連続した嘔吐や、連続でなくても、週に2回も3回も吐いているなら、きちんとした検査・治療が必要です。
下痢の場合は少しずつの下痢をチョコチョコ繰り返していて、その他の症状がないなら食事を減らすなどして様子をみるもありだと思いますが、いっぺんにたくさんの下痢をしている場合や血便の場合、嘔吐などの他の症状がある場合は、きちんとした検査・治療が必要だと考えます。一昨日の平田先生の講演でも『様子をみることは全ての病気に対して選択しの1つであるが、それが1番良い選択であることは少ない』と言ってましたね。こちらも参考にして下さい→
No123 下痢
No129 犬や猫が吐くとき1
No130 犬や猫が吐くとき2

Q:いびきについて
A:動物の種類、品種、年齢、持病によっても違います。単純に肥満してきた、年齢が上がって軟口蓋が垂れ下がってきたなどという場合もありますが、気管虚脱、短頭種気道症候群、喉頭麻痺、異物、腫瘍などの場合もあります。急に始まったのなら、早い段階での検査がオススメです。こちらも参考にして下さい→
No100 気管虚脱と軟口蓋過長症1
No101 気管虚脱と軟口蓋過長症2
No159 呼吸困難1
No160 呼吸困難2

Q:オススメの食事について教えて下さい
A:食事や栄養は本当に難しい問題です。品種、年齢、持病、栄養状態、運動をどれくらいさせられるのか、飼主さんがどれくらい手間と時間とお金をかけられるのか、ペットフードを使うのか、全て手作りで与えるのかなどによって違います。基本的には質のよいペットフードを中心に、1-2割くらい味をつけていないヒトの食べ物を混ぜることを個人的にオススメしています。体重、便の状態、手作り食中心の場合は半年に1度くらいの血液検査も重要です。こちらも参考にして下さい→
No8 ペットフードと手作りフード
No9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬
No10 犬、猫に与えてはいけない食品、薬 その2
No40 ボディコンデションスコア(BCS)
No41 1日あたりエネルギー要求量(DER)
No84 犬のおやつ
No165 水
No166 炭水化物
No167タンパク質
No168 タンパク質の「質」
No169 脂質
No170 ビタミン
No171 ミネラル

Q:動物のストレスについて教えて下さい
A:動物にとってもストレスは重要な問題です。環境や食事、運動などはもちろんですが、犬や猫、うさぎ、フェレット、鳥などにおいては、飼主さんと動物との距離感がとても大切です。いうまでもなく動物は飼主さんファーストです。飼主さんにとっても自分の動物はかけがえのない家族です。しかし、その関係の距離感を間違えて接し続けると、飼主さん以外と遊べない、飼主さん以外に攻撃的になる、留守中に鳴き続けるなどの問題行動が生じます。この時、動物も大きいストレスを受けています。飼主さんからの過剰な愛情からストレスを受けている動物が多くいます。とくに犬とうさぎでよくみられます。また、いつか別れなければならない日が来ると、飼主さんのペットロスも大きな問題となります。その動物の習性・特性を理解し愛情を注ぐことが大事です。こちらも参考にして下さい→
No13 エンリッチメント

以上、ご参考になれば幸いです。

カテゴリー: 未分類

No.175 第17回 飼主様向けセミナー

昨日のウェスト動物病院飼主様セミナー『動物のがんについて』へご参加いただいた皆様、ありがとうございました。少しでもご参考になったなら嬉しいです。

平田先生の講演のサマリーです。

・動物にも人と同じ種類のがんがある
・ヒト:消化管のがんが多い
犬:できものの発生率は他の動物より多いが、良性のできものが比較的多い
乳腺や体表の腫瘍ができやすい
猫:できものはできにくいが、がん(悪性腫瘍)が比較的多い
うさぎ:子宮や卵巣のがんが多い
フェレット:膵臓や副腎などの内分泌のがんが多い
・良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは、その場所から動かないか転移するか
・良性腫瘍が悪性腫瘍に変わってしまう場合もある
・がん細胞は様々な体内の免疫細胞に勝ったエリートなので、エリートにならないうちにやっつける
・できものをみつけたら:細胞の検査→悪性の疑い→転移の検査→治療法の選択
・リンパ球などの免疫細胞は年齢とともに減る
・ヒトのがん年齢は40歳、犬猫は5歳くらいから
・犬や猫はヒトの5倍のスピードで生きているのでがんの進行も早い
・犬や猫の生命力はヒトより弱い
・抗がん剤は副作用は出にくいがヒトのように強くは使えない
・早期発見にはよく触ってあげること
・食欲があるのに痩せてきたら要注意
・乳腺がんの予防のためには、早期の不妊手術
・猫では室内飼いにしてウィルス感染の確立を減らす
・様子をみることは全ての病気に対して選択肢の1つであるが、それが1番良い選択であることは少ない
・様子をみて良いかは獣医さんと相談
・動物の医療はヒトの医療ほど進んでいない
・できることが限られている中で、家族間、獣医師などとよく話し合って治療を決めることが重要
・最新の治療が最高の治療とは限らない

などでした。

ご質問には、次回のメルマガでお答えします。

また、がんについてはこちらも参考にして下さい→
No92 腫瘍1
No93 腫瘍2 悪性腫瘍の分類
No94 腫瘍3 悪性腫瘍の進行度
No95 腫瘍4 悪性腫瘍の治療

皆様ありがとうございました!

カテゴリー: 未分類

No.174 猫の血液型と輸血

たくさんの血液型のある犬と違い、現在確認されている猫の血液型はA型、B型、AB型の3種類です。血液型を決定しているのは、両親から1本ずつ受け継ぐ血液遺伝子の組み合わせです。
A型の猫:A型遺伝子+A型遺伝子、A型遺伝子+B型遺伝子、A型遺伝子+AB型遺伝子の3パターン
AB型の猫:B型遺伝子+AB型遺伝子、AB型遺伝子+AB型遺伝子の2パターン
B型の猫:B型遺伝子+B型遺伝子の1パターン
基本はこの3パターンですが、A型遺伝子+AB型遺伝子でAB型というパターンも報告されています。また、A型の猫が多く(日本の猫では80-90%)、B型は稀で、AB型は非常に少ないとされています。

猫は血液型が犬と比べるとシンプルなため、輸血時には簡易キットで調べられますが、交差試験(クロスマッチ試験)も必ず行います。しかし、犬と同様に大規模な血液バンクはありませんので、輸血に十分な血液が手に入り辛いのが現状です。また、B型の血液をA型の猫に輸血するよりも、A型の血液をB型の猫に輸血する方が凝集が起こりにくいともいわれています。

どうしても、合う血液が手に入らない場合は、1回目の輸血においては、大きな問題が発生することは比較的少ないので、仕方なく違う型の血液を使うことがあります。しかし、この場合も交差試験でなるべく凝集が少ないものを使います。また、本当に緊急の場合は、異なる動物種間で輸血を行う、異種間輸血(Xenotransfusion)が行われる場合もあります。通常は避けられますが、輸血以外に手がないにもかかわらず、すぐに同種の血液が手に入らないときなどに窮余の一策として行われることがありますが、輸血後4日目くらいから徐々に抗体ができて赤血球が壊れ始めますので、相当な緊急事態以外では行いません。

最後に、よく質問を受けますが、犬でも猫でも血液型と性格は無関係です。性格は、両親のDNAはもちろんですが、母親や兄弟、ヒトとの関係などの、生まれた後の社会的な状況(とくに社会化期)・環境、栄養状態など、先天的・後天的な要素が複雑に絡みあって形成されます。

カテゴリー: 未分類

No.173 犬の血液型と輸血

犬の血液型はヒトよりも種類が多いです。血液型は赤血球の抗原の種類によって決まります。ヒトの血液型の一番有名な分類法はABO式で『A型、B型、O型、AB型』の4種類があることは皆さんご存知の通りです。しかし、犬の血液型は10種類以上あります。そして、驚くことに様々な研究によって今もまだ少しずつ種類が増えています。たくさんある血液型から稀なものを除いて、国際的によく認知されているのは以下の8種類です。DEA1.1, DEA1.2, DEA3, DEA4, DEA5, DEA6, DEA7, DEA8(DEA:Dog Erythrocyte Antigen犬の赤血球抗原)。

ヒトの血液型をABO式で考えた場合、血液型は1人に対して1つしかありません。しかし、ここに『Rh抗原』という別の分類法を加えると、赤血球上に2つの血液型が共存するという現象が起きます。Aさんは『Rh+A型』、Bさんは『Rh- B型』というようになります。ヒトとは少し違いますが、犬の場合も血液型の共存が起こります。ソラくんは『DEA1.1+DEA3』とかモモちゃんは『DEA1.1+DEA4+DEA7』といった感じです。犬の場合は抗原の数がヒトよりもはるかに多いため、共存パターンは複雑になります。

臨床の場で血液型がクローズアップされるのは、交通事故などの大きな出血を伴う怪我、病気による重度の貧血などで輸血が必要な場合でしょう。輸血で異なるタイプの血を混ぜると抗原抗体反応という拒絶反応が起きるときがあります。抗原が赤血球上にある分子の形状を示しているのに対し、抗体は血漿中に含まれるたんぱく質のことをいいます。この抗体は体内に自分のものとは違う血液が侵入してきたときに、その赤血球上にある抗体に取り付き機能不全にしてしまいます。これを凝集と呼びます。型が異なる血液どうしを混ぜていけない理由は、この凝集によって血液が使い物にならなくなるからです。

輸血時の凝集を予防するため、血液型特定検査、交差試験(クロスマッチ試験)という試験をします。犬の血液型を特定するには検査所に血液サンプルを送る必要があります。しかし急を要するときは、最も激しい抗原抗体反応を起こすDEA1.1のみをチェックします。日本では55%の犬でDEA1.1を保有していると考えられています。また逆にDEA4は全ての血液型の中で最も弱い抗原抗体反応しか引き起こさないため、万能血液と呼ばれています。DEA1.1チェックに加え、交差試験も行います。血液中に含まれる赤血球と血漿を分離して、
主試験:輸血を受ける側(レシピアント)の血漿×血液を与える側(ドナー)の赤血球
副試験:血液を与える側(ドナー)の血漿×輸血を受ける側(レシピアント)の赤血球
という組み合わせで、凝集が起こるかどうかをみます。

現在の日本には、動物用の大規模な血液バンクがないため、輸血に十分な血液が手に入り辛いのが現状です。2015年に中央大学の研究チームが犬用の人工血液の開発に成功しましたが、実用化にはまだ数年かかるでしょう。

カテゴリー: 未分類

No.172 急性胆管炎・胆嚢炎

近年増加している疾患の1つが、急性胆管炎・急性胆嚢炎です。獣医学領域では、胆管閉塞、胆管破裂、胆嚢破裂などとも呼ばれています。主な症状は、嘔吐、食欲不振、嗜眠、黄疸、腹部の疼痛、下痢、発熱などです。

ヒトでも診断基準や標準治療が確立されていなかった1980年代は、致死率が80%以上でした(現代でも10%の死亡率です)。そして、獣医領域では現在でも診断基準、標準治療もありません。

病態としては、胆管が閉塞し、胆管内に著明に増加した細菌とエンドトキシン(グラム陰性菌の細胞壁の構成成分で発熱、炎症などを起こします)が、血流内に逆流する胆管内圧の上昇がみられます。いずれも、胆管炎や胆嚢炎、胆石、胆泥などによる胆汁の排出障害が原因で、適切な処置をしないと敗血症、多臓器不全になり死に至ります。ヒトでは軽症・中等症・重症にわけられていて、中等症以上は外科的な介入が必要です。外科的介入で最初に行われるのは内視鏡による胆管のドレナージ(溜まった胆汁や膿などを体外に排出すること)です。十二指腸の胆管の開口部から胆管の中にステント(流れる道)を作ります。しかし、小型犬・中型犬・猫では胆管ドレナージの出来る径の内視鏡がありません。よって、内科的治療で状態が落ち着きしだい緊急手術となります。手術は通常、胆嚢摘出、胆管-十二指腸吻合を行います。

急性胆管炎・胆嚢炎の一番のリスクファクターはヒトでは胆石ですが、犬猫の場合は胆泥です。胆泥があっても多くの犬猫は無症状です。胆泥が多い場合、早期に手術してしまうか、きちんとした経過観察(1-3ヶ月に1度の超音波検査、血液検査)などが必要です。


胆泥のある胆嚢のエコー

こちらも参考にして下さい
No70:胆嚢疾患

カテゴリー: 未分類

No.171 ミネラル(Mineral)

ミネラルは無機質ともいい、骨や歯などの硬組織の形成や、細胞内外液の主要電解質、神経の伝達などの生理機能の調節を行います。ミネラルもビタミン同様、生体のエネルギー源にはなりませんが、体内のさまざまな酵素反応の活性化において重要な働きを担っています。

ミネラルにも必須ミネラルがあり、現在24種類あります。必須ミネラルは、多量ミネラルと微量ミネラルに分類され、多量ミネラルはカルシウムCa、リンP、カリウムK、ナトリウムNa、塩素Cl、イオウS、マグネシウムMgがあり、微量ミネラルは、鉄Fe、亜鉛Zn、銅Cu、モリブデンMo、セレンSe、ヨウ素I、マンガンMn、コバルトCo、クロムC、ヒ素As、鉛Pb、ニッケルNi、ケイ素Si、バナジウムV、フッ素F、スズSn、リチウムLiがあります。

ミネラルの適正量はその範囲が狭く、また相互に影響し合う特性を持つために摂取バランスが重要です。経口摂取されたミネラルは、小腸、大腸から吸収されます。体内で最も多く存在するミネラルはカルシウムで次はリンです。犬と猫のカルシウムとリンのバランスは、カルシウム1~2:リン1とされています。

良質なペットフードを主食としている場合は、ミネラルは十分に含まれているので、基本的にはサプリメントなどで補充する必要はありません。一方でミネラルの過不足はそれぞれの働きに影響を与えます。とくに小鳥や爬虫類ではカルシウム不足による、脚弱症や代謝性骨疾患が非常によくみられます。また、成体の犬猫、ウサギなどにカルシウムを与えすぎると結石の原因になります。ミネラルも過不足なく与えることが大事です。

ミネラル一覧表

カテゴリー: 未分類

No.170 ビタミン(Vitamin)

ビタミンは微量で生理機能の調節を行う有機化合物です。脂溶性ビタミンA、D、E、Kと、水溶性ビタミンのB群、Cに分類されます。脂溶性ビタミンには油脂に溶ける性質があり肝臓に蓄積されます。そのため、脂溶性ビタミンの過剰摂取は中毒症状をおこします。ビタミンAは野菜や果物に含まれているイメージが強いですが、実際に含まれているのはβカロテンというビタミンAの前駆物質です。ビタミンAはバターや肝臓などの動物性食品のみに含まれています。食事から摂取したβカロテンは、犬やヒトでは肝臓でビタミンAに変換できますが、猫はできないため、動物性食品からビタミンAを摂取することが必要です。経口摂取されたビタミンは主に小腸から吸収されます。

水溶性ビタミンは、水に溶けるので過剰な分は尿中に排泄されます。そのため、過剰摂取となるのは稀ですが、軟便、下痢をおこすことがあるといわれています。犬や猫ではヒトや猿などの霊長類、モルモットなどが体内合成できないビタミンCを体内合成することができます。そのため、サプリメントなどで過剰摂取するとシュウ酸カルシウムの尿石症を引き起こすことがあります。ビタミンB群は、エネルギー変換の補酵素、神経機能の調整、赤血球の構成成分などに重要な働きをしています。働きも多く水溶性で損失しやすいため、食事からの十分な摂取が必要です。また、生魚や甲殻類にはビタミンB1の吸収を阻害するチアミナーゼという酵素が含まれています。このようなものばかり食べていると、下痢、嘔吐などの消化器症状が生じ、重症化すると神経症状を呈し死に至ることがあります。猫にイカを与えると腰を抜かすなどと昔からいわれているのはこのためです。ローフード(生食)を行うときには注意が必要です。

βカロテン、ビタミンE、ビタミンCには抗酸化作用があり、活性酸素で細胞が障害を受けるのを防ぐ作用があります。疾病や肥満などで体内の活性酸素が増加する環境では、βカロテン、ビタミンE、ビタミンCの必要量が増加します。また、ビタミンの過不足は生体機能の調整に影響を与えます。例えば魚の不飽和脂肪酸は、活性酸素と結合して病気の引き金となる過酸化脂質を生成しやすいという性質がありますが、それを防止するのがビタミンEの抗酸化作用なので、ビタミンEの少ない食事を与えていると猫の黄色脂肪症が起こります。

ビタミンB群とビタミンKは腸内細菌によって体内合成が可能ですが、腸内環境が悪い場合や、抗生物質を使用している場合は注意が必要です。ビタミンDは紫外線を浴びることで体内合成できますが、犬猫では合成量が十分ではありません。また、犬はアミノ酸のトリプトファンから ナイアシン(ビタミンB3)を体内合成できますが、猫はできません、不足すると皮膚炎が起こることがあります。また、猫ではシアノコバラミン(ビタミンB12)の欠乏で嘔吐、下痢、食欲低下、活力低下、貧血などを引き起こすことが知られています。

ビタミン一覧表

カテゴリー: 未分類

最近の投稿