未分類一覧

No.162 家庭での心肺蘇生 (Cardio Pulmonary Resuscitation:CPR)

考えたくないことですが、ご自分の大事な動物の心肺停止(CPA)をご自宅で見つけることがあるかもしれません。死後硬直が始まっていて体が固まってしまっていたら、いくら処置をほどこしても蘇生は無理ですが、まだ温かかったら、確立は低いですがチャンスはあります。今回はその時にご自宅で可能な心肺蘇生(CPR)の方法です。

最初に、意識があるかないか、呼吸をしているかどうか、股動脈で脈があるかないかを確認します。脈・意識・呼吸がなければCPR開始です。まず、目指すのは自己心拍再開(ROSK)です。

家庭でのCPR手順

1.家族全員を呼びながら舌を引っ張る
1人でも多くの人が必要です。胸部圧迫をする人、人工呼吸をする人、病院に連絡する人、タオルなどを用意する人、車の手配をする人など、人数が多いほどCPRは上手く進みます。大声でご家族を集めてください。また、舌を引っ張ると気道が開き、呼吸が再開するかもしれません。

2.胸部圧迫(心臓マッサージ):最重要
動物の向きは右下左下どちらでも良いので(イングリッシュ・ブルドッグだけは仰向け)、背側から基本ですが腹側からでも良いので胸部圧迫を始めて下さい。(動画参照)
胸郭の1/3-1/2の深さで圧迫し胸郭復帰(リコイル)という動作を1分間に100-120回、休まないことが重要です。10秒休むと蘇生率5%低下、休む前の状態に戻すまで45秒必要といわれています。しっかりやると結構きつい処置です。基本は2分で交代といわれています。
胸部圧迫では、全身灌流の30%の維持、換気(肺血流のサポート)、冠血流の改善(リコイル時)の効果を期待します。

3.人工呼吸
1分間に10回くらいの割合で、動物の頚を伸ばして鼻から大きく人工呼吸して下さい(マウスto ノーズ)。この時、胸部圧迫とバッティングしても構いません。
また、肺水腫などの場合は、鼻や口から多量の薄い血液のような液体が出てきます。この場合は動物を逆さまにして、液体を出してください。
また、1人しかいない場合はとても厳しいのですが、30回胸部圧迫→人工呼吸(鼻先から)2回を繰り返してください。

4.除細動器(AED)
もし、近くにAEDがあれば動物にも使用可能です。基本は1回目が3J/kg、2回目は5J/kgです。この数値を参考にしてやってみてください。除細動は、心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(VT)の時、いわゆる心臓が暴れている時に効果的です。

5.病院へ
病院と連絡が付いたら、可能な限りの胸部圧迫をしながら向かってください。この時、くれぐれも交通事故に注意して下さい。胸部圧迫は休まない方が良いのですが、飼主さんが事故に合ってしまったら元も子もありません。人数が少ない場合は必ずタクシーなどを使ってください。

股動脈は普段から触る練習をしていてもよいかもしれません。奇跡的な場合は別として、統計上はCPRを10分行っても自己心拍が再開しない場合、蘇生は困難です。それ以上の胸部圧迫は遺体を傷つけることになるかもしれません。

当院でも可能な限りの緊急の受付はしておりますが、前述のようにCPRの成功は人数がいないと難しいです。深夜の救急はDVMsどうぶつ医療センター横浜もご活用下さい。

DVMsどうぶつ医療センター横浜
TEL 045-673-1289 http://www.yokohama-dvms.com/
行かれるときは必ず当院からの照会であることを告げてください。初診料が半額になり、次の日の引継ぎもスムーズです。

以下のリンクから動画をご覧頂けます。音と通信容量にお気をつけください。
心肺蘇生(CPR)の動画


No.161 乾燥と痒み

冬でも痒みを持っている動物は以外と多いです。乾燥が大きな原因です。なぜ、乾燥すると痒みが増えるのでしょうか?簡単にご説明します。

皮膚は大きく分けて、表皮と真皮の二重構造になっています。表皮の一番外側を角質層といい外界に接しています。角質層は体内の水分を蒸発しないように保護すると同時に水分を保つ役目を持っています。しかし、角質層はとてもデリケートなので、空気の乾燥や皮膚を擦ったりしただけで傷ついてしまいます。角質層が傷つくことで皮膚のバリア機能がなくなり、皮膚から水分がどんどん蒸発してしまいます。こうして、いわゆる乾燥肌ができあがります。

つまり、乾燥からくる痒みの原因は、角質層のバリア機能がなくなり、乾燥した部分が敏感になり、外からの刺激を痒みと感じやすくなるからです。
このような状態になると、動物は痒みを我慢できずに、痒い→掻く→角質層のバリア機能が壊れる→痒みの悪化、という負のスパイラルに陥ります。犬の表皮はヒトの半分くらいの厚さなので掻くことに弱いです。

もう1つ、年齢を重ねると皮膚の細胞のターンオーバーのサイクルが悪くなり(正常で3週間)、みずみずしい皮膚の細胞が作れなくなるのも、痒みの原因の1つです。代謝の悪い皮膚細胞は外部のアレルゲン、花粉、ハウスダストマイト、ほこりなどの影響を受けやすくなります。

乾燥の対策としては、毛のある犬や猫の1番はシャンプーです。皮膚のコンデションに合ったシャンプーをぬるま湯で使用し、セラミドの入った入浴剤を使用すると効果的です。

実際の方法は、こちらもご参考にしてください
43犬のスキンケア1
44犬のスキンケア2
45犬のスキンケア3


No.160 呼吸困難2 (Dyspnea)

前回からの続きです。

気管・気管支内異物:突然の呼吸困難や突然の頑固な咳では、気管・気管支内の異物を疑います。開口呼吸、流涎過多、チアノーゼなどがみられることもあります。異物の大きさによっては突然死もあります。

喉頭~頸部気管の腫瘍:ほとんどが原発性腫瘍で転移性は稀です。喉頭には、横紋筋腫(オンコサイトーマ)、扁平上皮癌、リンパ腫、骨肉腫、軟骨肉腫、メラノーマ、線維肉腫、肥満細胞腫、腺癌などの様々なタイプの腫瘍が発生します。また、気管の腫瘍には、リンパ腫、軟骨肉腫、組織球性肉腫、腺癌、扁平上皮癌などがあり、いずれも大きくなると呼吸が妨げられます。

肺水腫:肺水腫は心原性(心臓のトラブルが原因)、非心原性(心臓以外のトラブルが原因)に分類されます。心原性は左心室機能が低下して左心房圧が上昇し、血液が肺に多量に貯留することによって起こります。原因は、犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では肥大型心筋症、拘束型心筋症から生じることが多いです。
非心原性では、様々な要因によって肺の毛細血管壁が病的に変化することで液体成分が滲み出しやすくなることにより生じます。原因は、重度の肺炎、気道閉塞、肺の外傷、重度の神経疾患、溺れる、アナフィラキシーなど様々です。

気胸:気胸とは胸腔内の肺の外側に空気(ガス)の貯まった状態です。縦隔気腫を併発する場合もあります。空気の漏れが継続する開放性気胸と、呼吸のタイミングに応じて開口部が閉鎖する閉鎖性気胸があります。空気の貯留が高度になると、肺内よりも肺外の気圧が高い緊張性気胸となります。多くは交通事故や転落などの外傷から生じますが、特発性(原因不明)もあります。また、肺生検や肺の手術後におこることもあります。主な症状は呼吸促拍、起坐呼吸、頻脈、チアノーゼなどです。

膿胸:膿胸とは胸腔内に、細菌、ウィルス、真菌、寄生虫、異物、外傷などにより感染が生じ、化膿性胸膜炎を呈している状態です。発熱、発咳、呼吸促拍、呼吸困難、食欲不振、元気消失、運動不耐性、虚脱、チアノーゼなどがみられます。重症化すると、呼吸不全、敗血症、DICのため死亡します。迅速な治療が必要です。

乳び胸:乳び胸とは、腸管由来の脂肪を大量に含有したリンパ液である乳びが、様々な原因によって胸腔内に貯留した状態です。胸管からの乳びの漏出で乳白色の胸水となります。
一次性乳び胸(特発性)と二次性乳び胸(腫瘍や炎症、肺葉捻転などが原因)に分類されます。一次性の乳び胸は、アフガン・ハウンド、ボルゾイ、柴犬、猫ではシャム猫やヒマラヤンに多いといわれています。呼吸困難、呼吸促拍、運動不耐性、体重減少などの症状を呈します。内科的治療は、乳び胸水の除去、低脂肪食、ルチンの投与(毛細血管を強化します)です。外科的治療は、胸管結紮に乳び槽切開、心膜切除などを組み合わせます。一般的に猫の方が予後が悪いです。

縦隔気腫:何らかの原因によって気管に孔があくことによって生じます。皮下気腫や気胸、を併発することもあります。原発性(嘔吐、咳、喀血、肺疾患、咽喉頭炎、薬剤投与の失敗など)と二次性(全身麻酔時の気管チューブ挿管、交通事故、腫瘍、異物)に分類されます。症状は頻呼吸、努力呼吸です。軽度のものは安静のみ、無治療で改善します。

縦隔腫瘍:犬猫とも胸腺腫、リンパ腫、異所性甲状腺癌、心臓原発性腫瘍(主に血管肉腫)などが多くみられます。症状は、腫瘍の大きさにより、無症状から、咳、呼吸困難など様々です。

横隔膜ヘルニア:横隔膜の先天的もしくは後天的開裂部から腹腔内の臓器が胸腔内に引き込まれてしまっている状態です。ほとんど症状を示さない場合もありますが、通常は頻呼吸、努力性呼吸、呼吸困難、チアノーゼなどがみられます。外科手術で対応する疾患ですが、とくに先天性、発生後に時間が経っている場合は、肺のコンプライアンスや腹腔の容量の問題などがあり、最適な手術法の選択と注意深い術後管理が必須です。

いずれの疾患も対処が遅かったり、適切な処置がなされなければ、命にかかわることが多いです。呼吸がおかしいと感じたら、すぐにご相談下さい。


No.159 呼吸困難1 (Dyspnea)

一口に呼吸困難といっても様々な呼吸状態があります。ヒトでは「息苦しい」と感じている状態が呼吸困難であり、「呼吸困難感」と表すこともあります。動物が「呼吸困難感」をもっているだろうと我々が予測できるのは、視診において以上な呼吸パターンを認識することからですが、その表現方法には様々な基準が存在し、日本の獣医学では今のところ統一性がありませんが、まずは簡単にご説明します。

呼吸パターンの表現方法
1.呼吸数↑・1回換気量→:多呼吸(Polypnea)、頻呼吸、呼吸促拍、あえぎ(Panting 100breaths/mim前後)
2.呼吸数↑・1回換気量↑:過呼吸(Hyperpnea)、呼吸亢進
3.呼吸数↑・1回換気量↓:浅呼吸(Hypopenea)、浅速呼吸、あえぎ(Panting 200breaths/mim超)
4.呼吸困難:呼吸困難(Dyspenia)、呼吸促拍

動物の呼吸が悪い場合、まずは緊急状態かどうかを見極めます。呼吸状態が悪いと、一般的な身体検査もできないような場合もよくあります。このような時は酸素室に入れて様子を観察し(原因によっては効果がない場合もあります)、状態が落ち着いてから検査・治療を行います。緊急の場合は人工呼吸器につないで、麻酔をかけて検査・治療をする場合もあります。

呼吸困難になる主な病気を挙げてみます。

短頭種気道症候群:チワワ、ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグ、キャバリア、シーズーなどのいわゆる短頭種における、軟口蓋過長、外鼻孔狭窄、気管低形成、気管虚脱などの複合的な呼吸器疾患の総称です。とくに呼気が上手く出来ません。症状は加齢と共に、いびき、睡眠時無呼吸症候群、運動不耐性などがみられ、重症例では、チアノーゼ、陰圧性肺水腫(上部気道閉塞の際に息を吸おうとして、過大な吸気陰圧をかけることで発症する肺水腫)や突然死を引き起こします。

喉頭麻痺:喉頭内筋の神経支配の障害により披裂軟骨や声帯壁の内転・外転が阻害され、とくに吸気時に問題が起こります。一般的に大型犬に発生が多いですが、中型犬、小型犬にもみられます。軽度では無症状、中等度以上では嗄声(しわがれ声)やストライダー(上部気道の閉塞とくに咽喉頭の問題で発生する喘鳴音)が生じます。重度では、陰圧性肺水腫、誤嚥性肺炎などを伴い突然死することもあります。多くは特発性(原因不明)ですが甲状腺機能低下症との関係が指摘されています。治療は軽度では内科的治療ですが重度では『披裂軟骨側方化術』という手術を行います。

次回に続きます。


No.158 猫の尿管結石 (Ureteral stones of cat)

尿管とは腎臓と膀胱を連絡する尿の通り路です。近年、猫で尿管にカルシウム系(シュウ酸カルシウムが98%)の結石が詰まる尿管結石が多発しています。尿管閉塞が起こると、1週間で腎機能の30%が、6週以内にすべての腎臓の機能が失われます。片側だけの場合は多くは無症状ですが、両側性の場合は尿が出ないので急性の腎不全となり、3-6日以内に死亡します。早期に発見したい病気の1つです。ヒトの場合と大きく違うのは、ヒトの場合の尿管結石は激痛がありますが、猫では痛みをあまり示さないことです。

原因は食事、遺伝の他、上皮小体機能亢進症や悪性腫瘍が基礎疾患としてある場合もありますが、多くは特発性(原因不明)です。

基本的な診断は、病歴、症状、身体一般検査に加え、尿検査、血液検査、結石を見つけるためレントゲン検査(尿路造影含む)、超音波などの画像診断を行います。現在は性能が良くなった超音波検査が主流です。しかし、猫の尿管の直径は約1mm、尿管結石の大きさは0.3-0.4mmです。結石が小さいこと、レントゲンに映らないタイプの結石が40%くらいあることなどから確定診断が難しい場合があります。超音波では実際の結石を発見すること、腎盂の拡張、尿管の拡張の所見などを探します。また、実際の手術時に結石の位置が画像診断の通りでないこともよくあります。

尿管の炎症が治まり、結石が自然に流れてしまうなんていう幸運なものも稀にありますが、通常はきちんとした治療が必要です。内科的には、点滴、αブロッカー、利尿剤、ステロイドなどが使われますが、外科手術が選択されることが多いです。とくに両側性の場合は緊急です。両側性で尿が出ない場合、24時間の内科的な治療で改善が認められなければ手術が必要です。手術法は、尿管切開-縫合、尿管膀胱吻合、尿管瘻、腎瘻、尿管ステント、皮下尿管バイパス(Subcutaneous Ureteral Bypass:SUB)などを状況に応じて行いますが、多く行われているのは、尿管を切開して結石を取り除く尿管切開-縫合です。この手術もマイクロサージェリー(顕微鏡や拡大鏡を使った微細な手術)となります。しかし、手術がうまく行っても22%の症例で尿管狭窄、40%の症例で再発があるという統計があります。なかなか手強い病気の1つです。

予防は基礎疾患があればその治療と、カルシウムを減らした食事療法、飲水量を増やすことなどが重要です。また、前述のように片側だけだと無症状なので、定期健診で早期に発見することが大切です。


腎盂の拡張した腎臓のエコー所見


No.157 ボローニャの学会 (Congress 2017 in Bolonea)

10月28日・29日にイタリアのボローニャで開催された統合医療(近代西洋医学と西洋医学の力が及ばないところを代替療法を併せて行う療法)系のコングレス(獣医学会)に参加してきました。

ボローニャは日本語のイタリアのガイドブックにはほとんど載ってなく、パスタのボロネーゼの故郷ぐらいの知識しかありませんでしたが、レンガで出来たオレンジ色の古い建物と、たくさんの塔がある落ち着いた街並みで、1304年に世界で初めて公開人体解剖を行ったという欧州一古いボローニャ大学がある学園都市でもあり、非常に文化水準が高く魅力的な都市でした。また朝と夕方には犬と散歩をしている人がたくさんいました。中~大型犬が多いのですが、犬同士で遊ばせたり訓練も行き届いていている様子で、犬文化の日本との違いを感じました。

コングレスは、街の真ん中からタクシーで10分ほど走ったところにある、周辺に緑が多いモダンなホテルで開催されました。
教育的なものから統計、症例発表まで内容は様々でしたが、世界中の獣医師から2日間で多くの発表がありました。中でも『抗生剤を使わずにハイリスクの感染症の治療を行ったケース』『慢性腎不全の猫おけるサプリメントとホメオパシーとロ-フ-ドでの管理』『犬の新しい栄養学の考え方』などはとても勉強になりました。私も末席で気管虚脱の話をさせていただきました。
統合医療系の学会だったこともありますが、世界的な傾向として、ヒトの医学も獣医学も抗生剤をなるべく使用しない方向にシフトしている印象を受けました。栄養学もペットフードに頼らず自然食を使うことが見直されています。ヨーロッパではレストランもヴィ-ガン専用のレストランがとても増えてきています。学説は時代によって変わって行きますが、現代の獣医学は半年もすると、今まで当然のように行われていたことが突然否定されることが多々あります。新しいことが全て正しいことではありませんが、当院でも最新の世界基準の獣医学をきちんと行えるようにしなければならないと強く思いました。

最後に余談です。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、ボローニャ中央駅は1980年8月2日の午前10時25分にテロの被害を受け、当時20歳の日本人留学生1名を含む85名が亡くなっています。今でも駅舎の時計は10:25で止まったままです。


ボローニャの街並み

ボローニャの遠景

サン・ピエトロ大聖堂

世界初の人体解剖教室

本場のボロネーゼ

レストランの天井のフレスコ画

止まった時計


No.156 犬の攻撃性行動

今回は犬の攻撃性行動についてです。

攻撃対象による分類
・身近なヒト・家族に対する攻撃性行動
・見知らぬ人に対する攻撃性行動
・犬どうしの攻撃性行動
・他の動物に対する攻撃性行動
・非生物に対する攻撃性行動

動機付け・対象による分類
・自己主張性・葛藤性攻撃行動
・同種間攻撃行動
・遊び関連性攻撃行動
・捕食性攻撃行動
・恐怖性・防御性攻撃行動
・縄張り性攻撃行動
・所有性攻撃行動
・食物関連性攻撃行動
・転嫁性攻撃行動
・母性攻撃行動
・疼痛性攻撃行動

このようにたくさんの分類がされていますが、心の中のことなのでなかなか簡単には答えに結びつかないことも多いです。実際には以下のような順で鑑別していきます。

攻撃性行動の鑑別診断
まずは体の病気じゃないかを鑑別します。

生理学的な問題
・痛み
・内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)
・脳腫瘍
・てんかん
・水頭症
・感染性脳疾患
これらが否定されたら、次に行動学的な問題を考えます。

行動学的な問題
・不安
・恐怖からの攻撃性
・学習(負の強化)
・関心を引くための行動
・認知機能不全症
・常同障害

体の病気があれば、もちろん先にその病気の治療をします。しかし身体の病気が理由で問題行動が生じている場合は、その病気が治っても問題行動が残ってしまうことが少なくありません。このような場合と行動学的な問題がある場合は、基本的には拮抗条件付け系統的脱感作法で対処します。

拮抗条件付け
拮抗条件付けとは、感情と印象の修正をおこなう手続きのことです。良くない感情を持っている刺激(嫌悪刺激といいます)と良い感情を持っている(快刺激といいます)を順に提示することで感情を変化させる学習です。主に恐怖刺激に対して使います。
例えば、耳掃除が嫌いで、耳を触られるだけで人を攻撃してしまう犬がいたとしましょう。まずは耳に触れるか触れないかの刺激を与え(嫌悪刺激)、我慢出来たらおやつ(快刺激)、だんだんと刺激を上げ、最終的には耳掃除(嫌悪刺激)の後におやつ(快刺激)というやり方です。

系統的脱感作法
系統的脱感作法は、簡単にいうと慣らしていくことです。刺激に対して反応しない、慣れていくことを「馴化」と言います。この馴化を起こしやすくするためにこの方法を用いることが多いです。刺激を小さいところから徐々にあげていき反応しなくなるように慣らしていきます。不安や恐怖反応に対して用いる方法で、拮抗条件付けを一緒に用いると効果的です。
例えば、雷の音でパニックになってヒトを咬んでしまう犬に、録音した雷の音を小さい音量から徐々に大きな音にして聞かせます(系統的脱感作法)。この時に上手くおやつを与えます(拮抗条件付け)。

現実的には時間がかかることが多いです。あまりに病理が深い場合は、心の問題でも、薬を使うこともあります。とにかく一番いけないのは体罰です。体罰は問題を深刻にします。

今回のメルマガは、入交眞巳先生(日本ヒルズコルゲート株式会社)のセミナーを参考にしています

こちらも参考にして下さい。
No14学習法その1馴化、洪水法、脱感作
No15学習法その2古典的条件付け
No16学習法その3オペラント条件づけ1
No17学習法その4オペラント条件づけ2 学習法まとめ


No.155 犬の発達行動学

子犬の発達期は、新生児期(0-2週齢)、移行期(2-3週齢)、社会化期(3-12週齢)、少年期(性成熟期まで)、青年期(社会化成熟期まで)と分類されています。

新生児期(0-2週齢)は、視覚、聴覚、嗅覚がまだなく、完全に母犬に頼っている状態。

移行期(2-3週齢)では、感覚器、五感が発達し、14-18日で聴覚が出現し、10-16日で目が開き、そのあとしばらくして目が見えるようになります。徐々に複雑な動きが出来るようになってきます。

社会化期の前期(3-6週齢)では、母犬、兄弟犬とのかかわりで社会化が行われていきます。母犬による排尿の手助けは通常5週齢目くらいまでです。この後に母犬によるトイレトレーニングが始まります。

社会化期の後期(6-12週齢)では、6週齢くらいから生活の中で周囲との関係性や他の動物との社会化が構築されていきます。いろいろなものに順応させるのに最適な時期です。脳はスポンジのように様々なことを吸収していきます。離乳は通常7-10週齢で、子犬は離乳を通して犬社会での優位行動・劣位行動の表し方を知ります。8-10週齢は恐怖期で、怖いということを覚えます。

少年期(性成熟期まで)~青年期(社会化成熟期)では、身体が急速に成長し、永久歯が生え始めて、活動性・興奮性が増します。兄弟犬同士での順位が決定され、反抗期に突入します。この時期トレーニングが困難になることがあります。

ブリーダーやペットショップからお家に子犬を迎え入れる時期は難しいですが、離乳が終わる8-10週齢目が推奨されています。早期離乳は攻撃性が増すといわれています。ただこの時期は前述のように恐怖期でもあるので移動などにも注意が必要です。動物の愛護・管理による法律でも『生後56日(8週齢)未満の犬やねこを親から離してはいけない』とされています。

今回のメルマガは、入交眞巳先生(日本ヒルズコルゲート株式会社)のセミナーを参考にしています。


No.154 超音波検査(Ultrasound)

超音波とは音の一種であり、通常ヒトが耳で聞こえる音(可聴音)より高い周波数の音をいいます。音の高さは周波数で表され、周波数Hz(ヘルツ)でその高さが決まります。周波数とは、1秒間に何回振幅するかということを表していて、1秒間に1000回振幅する音は1000Hzです。ヒトが耳で聞こえる音(可聴音)の周波数は20Hz~20キロkHz(キロヘルツ)で、超音波の周波数はそれよりずっと高い1~30MHz(メガヘルツ)です。

超音波検査(エコー検査)は、この超音波を利用した画像検査法の一つで、超音波を対象物に当てその反射を映像化することで対象物の内部の状態を調査することができます。非常に強い超音波は物質を破壊したり大きな熱を発生したりしますが、診断に用いる強さの超音波では生体に害がないとされています。

超音波検査のメリットは、基本的に麻酔や鎮静が必要でなく、動物に対しての侵襲が少ないこと。検査に本体装置以外の特別な器具が必要がないこと。対象物がリアルタイムに多方向から観察できること。軟部組織の解析能が非常に優れていることなどが挙げられます。

一方デメリットは、装置が高額なこと。骨や神経の診断に向かないこと。視野が狭いこと。術者の経験が必要なことでしょうか。

超音波検査は動物でも主に心臓と腹部の検査に重要です。 心臓の検査では、レントゲンでは心臓の形や大きさの違いくらいしか分からなかったものが、超音波では心臓の断面積・容積の変化など、内部の様子がよく観察できるようになります。 また、腹部の検査では、肝臓、腎臓、副腎、膀胱、尿管、膵臓、卵巣、子宮、胃腸、腹腔内のリンパ節や脂肪の状態の観察に使われます。その他にもレントゲンでは判断しにくい各臓器の内部構造(腫瘍、炎症など)や早期の妊婦胎児診断(胎児の生存の有無)などに使われます。


No.153 ケンネルコフ (kennel cough)

ケンネルコフは犬において非常によくみられる感染症です。犬伝染性気管・気管支炎とも呼ばれています。通常、数種の病原体、細菌やウィルスの飛沫感染によって引き起こされます。主な原因は、イヌアデノウィルスII型、イヌパラインフルエンザウィルス、犬ヘルペスウィルス、気管支敗血症菌(ボルデテラ・ブロンティセプティカ)、マイコプラズマなどです。

名前の通り主な症状は咳です。通常は荒くて大きな乾性の咳です。咳のあとに嘔吐する場合もあります。微熱や鼻汁がみられる場合もあります。興奮や運動で症状が悪化します。空気が乾燥している寒い時期に多いとされていますが、夏でも起こります。潜伏期間は3~10日と研究によって様々です。もともと若くて健康な犬がかかった場合は大きな心配はありませんが、老齢犬や幼若な犬、また免疫力の落ちてしまっている犬の場合は注意が必要です。

診断は、症状、発咳テスト(指で軽く頸部気管を圧迫します)、場合によってレントゲンなどの画像診断で行います。ケンネルコフと似た症状の病気、ジステンパーや肺炎、気管虚脱、心疾患などとの鑑別も重要です。

治療はもともと健康な犬の場合は、環境をよくしてきちんと栄養をとり、安静にしていれば、通常数日~数週間で完治しますが、こじらせると数ヶ月間咳が抜けない場合もあります(複合感染だと長引くといわれています)。首輪を使用している場合は胴輪にするなど、喉への刺激を避けます。抗生剤や鎮咳剤などが必要な場合もあります。予防は飛沫感染なのでなかなか難しいですが、咳をしている犬に近づかないこと、また、イヌアデノウィルスII型、イヌパラインフルエンザウィルスはワクチンで予防可能です。