今回は悪性腫瘍の進行度のお話です。少し難しいです。
WHO(世界保健機関)が採用している悪性腫瘍の進行度を評価する目的で規定された分類方法がTNM分類です。TNMとは、
T:Tumor(腫瘍);原発腫瘍の状態(大きさ、広がり)
N:Lymph Node(リンパ節);領域リンパ節の状態(リンパ節への転移の有無)
M:Metastasis(転移);遠隔転移の有無
Tは原発腫瘍の大きさや広がり(浸潤)の程度によってT1からT4の4段階に分類します。
Nはリンパ節転移がないと判断されたものをN0と表しリンパ節転移の進行度(どこのリンパ節まで転移しているか)でN1~N3の3段階に分類します。
Mは遠隔転移(肺転移、肝転移など)がなければM0転移が認められればM1と表され、何かの理由で遠隔転移の評価が不可能な場合はMxとされます。
悪性腫瘍の進行度を評価する基準には、もう1つ臨床病期分類があります。悪性腫瘍の進行度をステージI~IV(腫瘍によってはV)までの4期(腫瘍によっては5期)に分類し、進行度を評価します。
一般的な臨床病期分類は
ステージI:腫瘍が局所に浸潤
ステージII:腫瘍が周辺組織、リンパ節内に浸潤
ステージIII:ステージIIより広範囲に浸潤
ステージIV:遠隔転移が存在
さらにサブステージ分類というものがあり、臨床症状が特にないものはサブステージa、臨床症状があるもの(下痢、嘔吐、食欲不振など)はサブステージbに分類します。
サブステージ分類
サブステージa:臨床症状なし
サブステージb:臨床症状あり
上記のTNM分類を臨床病期分類の1つの指標として用いる場合もありますが、TNM分類がない腫瘍もあり、すべての臨床病期分類にTNM分類が用いられているわけではありません。臨床病期分類は、治療法の選択、予後の予測に有用です。
また、よく混同されている言葉に完治と寛解があります。完治は『すべてのがん細胞が根絶されていること』、完全寛解(CR)とは『詳細な検査を行ってもがん細胞が検出出来ない状態』で、がん細胞が1g以下の状態です。1gのがんには約10億個のがん細胞が含まれていると言われているので完治とは大きく違います。また『治療により腫瘍は小さくなったが、検査では一部病変が残存している状態』を部分寛解(PR)、『病変の進行が認められる場合』を進行性病変(PD)、『部分寛解と進行性病変の中間の病変』を維持病変(SD)と呼びます。また、完全寛解(CR)に部分寛解(PR)を加えたものを奏効率と呼びます。
WHOでは
測定可能な病変が50%以上縮小した状態を部分寛解(PR)
50%未満の縮小から25%未満の増大を維持病変(SD)
病変の25%以上の増大・進行を進行性病変(PD)
と定めています。
しかし、最近ではRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors )の評価が基準になりつつあります。WHOとRECISTの違いは、腫瘍の大きさの測定法、部分寛解(PR)と進行性病変(PD)です。
腫瘍の大きさの測定法:WHO;2方向から測定 RECIST;最長径を測定
完全寛解(CR):WHO;病変なし RECIST;病変なし
部分寛解(PR):WHO;50%以上縮小 RECIST;30%以上縮小
維持病変(SD):WHO;PR<病変
進行性病変(PD):WHO;25%以上の増大 RECIST;20%以上の増大
次回の治療の話で最後です。