気管は上気道(外鼻腔、鼻腔、咽頭腔、喉頭)と下気道(気管支、細気管支、肺胞)を接続する適度な硬度と柔軟性を兼ね備えた筒状の導管です。この気管が硬度を失い潰れてしまうのが気管虚脱です。気管はC状の気管軟骨が輪状靭帯によって結合していて、背側面は2層の平滑筋からなる膜性壁によって構成されています。正常な状態では軟骨が9割、膜性壁は1割の割合です。気管虚脱はこの軟骨の脆弱化と膜性壁の下垂という2つの要素からなり(とくに前者が重要です)、ステージによってさまざまな狭窄を呈します(グレードI:正常の内腔より25%の内腔の減少、II:50%の減少、III:75%の減少、IV:75%以上の減少)。原因は解明されておらず、犬における発生は、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、トイ・プードル、マルチーズなどのトイ種に多いですが、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬、柴犬などの日本犬種とそのMix種にも発生がみられます。発生年齢も1~17歳とさまざまで、雄の発生がやや多いといわれています。猫では稀な疾患です。
症状は発咳と重症になった時の呼吸困難やチアノーゼ、失神です。初期の段階での咳は「カッカッ」「ケッケッ」などの乾性で喉に何か詰まってる、痰が上手く出ないような状態に見えます。発咳は一時的で、飲水時や興奮時、運動や高温多湿な環境によって誘発されます。続いた咳の最後に「カ~ッ」と痰を切るような仕草で終わることも特徴です。気管内の分泌物が多くなると湿性の咳変わってきます。虚脱が重度になると発咳は悪化して頻繁となり、気管虚脱の典型的な症状の1つの『ガチョウ鳴き様発咳:Honking cough』が起こります。これは伸長した膜性壁が速い呼吸によって振動して生じる、あたかもガチョウが鳴いているような「ガーガー」という大きな呼吸音です。この咳が出てくるとグレードIII以上の状態です。
診断は、前述の発咳の臨床症状と触診による発咳テスト、聴診、レントゲン検査によって行います。正確なグレード分類には気管内支鏡の検査も必要ですが、診断には通常は必要ではありません。
次回に続きます。