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No.406 副腎腫瘍

犬の副腎腫瘍は中高齢での発生が多いとされています。近年は画像診断機器の発達に伴い、診断される機会が増えてきました。猫では稀です。犬の副腎に腫瘤ができた場合、以下の可能性を疑います。
・良性腫瘍:副腎腺腫
・悪性腫瘍:副腎腺癌(副腎皮質由来)、褐色細胞腫(副腎髄質由来)、転移性腫瘍
・過形成

症状は通常、多飲多尿、左右対象の脱毛、被毛が薄くなる、皮膚が薄くなる、腹囲膨満が見られます。褐色細胞腫の場合は頻脈、失神、不整脈などが見られることがあります。また症状がなく、健康診断や他の疾患の検査の際にエコー検査で偶発的に発見されることもあります。

診断は、症状、身体一般検査、血液検査、尿検査、レントゲン検査、腹部超音波検査などを行います。症状と検査から副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)が疑わしければ、クッシング症候群を診断するための内分泌検査、ACTH刺激試験を行います。ACTH刺激試験の値が高ければ、下垂体性か副腎性かの鑑別を行い、副腎性が疑わしければ手術計画の立案ためにCT検査を実施します。

副腎腫瘍の治療に関しては外科療法が推奨されますが、比較的高い周術期死亡リスクを伴うことから、病態の重症度、基礎疾患、併発疾患をよく考えて実行する必要があります。特に右側は容易ではありません。内科治療という選択肢もありますが、症状を抑えられない場合があります。内科治療はトリロスタンという薬が用いられます。褐色細胞腫が疑われる場合は血圧や心拍数のコントロールも必要となります。血栓症の予防も行います。いずれにしても早期発見が重要です。


超音波検査で見つかった副腎の腫瘍

こちらもご参照ください
No79 犬の副腎皮質機能亢進症


No.405 小鳥の出血

セキセイインコや文鳥などの小鳥は少しでも出血すれば緊急状態です。鳥の血液量は体重10%ほどと言われています。そのうちの10%、体重の1%が安全出血量と想定されています。

例えば、平均体重(25~30g)のセキセイインコなら、安全出血量は約0.25~0.3mlです。1滴が約0.05mlなので、5~6滴出血すると危険領域です。1秒で1滴出血した場合、5~6秒で死亡する可能性があるということです。このため血液検査もリスクがあります。

小鳥に出血が起こる場面は、打撲時の内臓出血、筆羽(ひつう)出血、爪出血、胃出血、口腔内出血、鼻出血、採血、外科的処置などです。この中でご家庭で起こりやすいのは、筆羽出血、爪出血です。

筆羽出血:筆羽とは生えてきて間もない鞘(さや)に包まれた若い新生羽のことです。鳥の羽の成長スピードはものすごく早いのですが、そのスピードで成長できるのは血液から栄養を大量に供給されているからです。この血液を筆羽に送っている太い血管が筆羽の中心に走っています。筆羽が途中で折れてしまうと血管が破れて出血します。クリッピング(羽切り)の失敗でも起こります。筆羽は見つけにくいときもあるのですが、もし出血している筆羽を見つけることができたら、引っ張って根元から抜いてください。通常出血はすぐに止まります。

爪出血:爪を深く切りすぎると出血します。止血するのにはクイックストップという商品があると便利です。ペットショップで購入できるので、お家で爪切りをされる方は、1つ持っておくことをオススメします(犬や猫、ウサギなどの方も)。クイックストップは指に乗せて出血している爪の断面に塗り込みます。

出血が止まっても必ず病院での診察を受けて下さい。見た目には元気そうでも貧血が進んでいる場合があります。また、再出血は命にかかわります。


クイックストップ


No.404 停留精巣

精巣はもともと雌の卵巣と同じ起源を持つ組織です。犬では10日齢までには精巣が男性ホルモンの影響で陰嚢を目指して腹腔内から下降をはじめ、通常8週齢までには陰嚢内へと移動します。この時期を過ぎても精巣が下降してこない場合には停留精巣と診断されます。停留睾丸などとも呼ばれます。猫でも起こります。

精巣の下降がストップしてしまった部位がお腹の中であれば腹腔内陰睾、お腹から出て、鼠径部の皮下まで移動したものであれば皮下陰睾とよばれます。腹腔内陰睾と皮下陰睾はほぼ同じ確率でみられます。

停留精巣の原因は遺伝性と考えられますが、これは発生率において動物種や家系に偏りがあることと、停留精巣を持つ動物を繁殖に選別すると発生率が増えることから明らかです。

下降していない精巣は正常な性的機能が期待できません。本来、睾丸は陰嚢の中でなければ正常に機能できません。これは陰睾丸の存在する場所が陰嚢よりも体温が高いためで、精子の生成機能の面では明らかに劣ります。機能低下は皮下陰睾よりも周囲の体温の高い腹腔内陰睾でより顕著です。ただし、高体温下でも男性ホルモンは分泌されますので性欲は正常に見られます。

犬では下降していない精巣は正常なものと比べて腫瘍の発生がおおよそ13倍にもなります。精巣腫瘍自体の発生率は正常な精巣でも高く、精巣腫瘍の発生率という意味から停留精巣は非常に大きなリスク要因となっています。

繁殖を望まないのであれば、適当な時期(通常、生後5-7ヶ月)に去勢手術を行のがおすすめです。


猫の停留精巣(右側)

こちらもご参照ください
No322 去勢手術
No294精巣腫瘍
No125 去勢手術・不妊手術


No.403 悪性黒色腫 (メラノーマ;Melanoma)

悪性黒色腫(メラノーマ)はメラニンを形成するメラニン細胞が腫瘍化した悪性腫瘍です。犬や猫で比較的よくある癌です。オスに多く、主に高齢(10~14歳)でみられますが、若齢から中齢でも発生します。一般的に口腔内(歯肉や舌、硬口蓋、頬粘膜など)、皮膚、爪床、眼球内が好発部位ですが、その他の部位にも稀に発生します。また、口腔内で最も多く発生する癌が悪性黒色腫になります。口腔内のものは早期なら転移は少ないですが、爪床は転移しやすく、最も多いのがリンパ節と肺転移です。その他、腹腔内の臓器への転移などもみられます。

主な症状には以下のようなものがあります。
口腔内:口臭や口からの出血、食べ辛いなどの症状がみられます。これらの症状は歯周病でもみられるため、歯周病と間違われ、発見が遅れてしまうことも多いです。歯石が酷いと、その下から見つかる場合もあります。
皮膚:特に症状はなく、健康診断の際やご家族が皮膚のできものに気づいて見つかる場合が多いです。自壊して出血していることもあります。
爪床:爪をなめる、歩きにくそう、出血などがみられます。
眼球内:眼球内での悪性黒色腫の場合、ブドウ膜(虹彩、脈絡膜、毛様体)にできる場合が多く、転移率は比較的低いとされていますが、確認が困難なことが多く、確認できたころにはすでに腫瘍は大きくなっていることが多いです。

診断には針生検(FNA:細い針をさして細胞を採取する検査)が有用で、細胞内にメラニン顆粒を含んでいることが多いため診断可能です(眼球内を除く)。また、肉眼的に黒いことも診断の一助となります。しかし、細胞内にメラニン顆粒が認められないものや、肉眼的に黒くない特殊なメラノーマもあります。その場合は、針生検での診断は困難で組織生検が必要となります。また、悪性黒色腫と良性の黒色腫(メラノサイトーマ)は針生検や肉眼では判断できないこともあり、最終的な診断には組織生検が必要です。

悪性黒色腫と診断した場合、大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺や腹腔内の臓器への転移)の評価を行います。これをステージングといいます。同時に併発疾患がないかどうかも評価します。これらの評価には、針生検に加えて、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、状況によってCT検査(とくに口腔内の場合)が必要です。これらの検査を組み合わせて行い評価を基に治療方針を決定します。

犬の悪性黒色腫のステージ分類

治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和的治療」があります。根治治療とは癌と闘う治療であり、癌をできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。また、根治治療は長期生存(年単位)が目的ですが、完全に治すこともできる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いものでは、根治治療を行ったとしても数週間~数ヶ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療では主に3大治療「手術」「放射線治療」「抗癌剤治療・分子標的治療」と「代替医療」を組み合わせて行います。
一方、緩和治療は苦痛を和らげることが目的です。長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(月単位)であってもその期間のQOLを改善するために行う治療です。主に「痛みの治療」「栄養治療」「症状を和らげる治療」を行います。

予後の統計は、
口腔内
ステージ1;根治治療を行うことで比較的予後はよく数年単位の生存が期待できる
ステージ2・3;根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年
ステージ4;予後は悪く、数ヶ月で亡くなってしまう場合が多い
根治治療を行わない場合は予後は悪く2ヶ月程度で亡くなってしまいます。ただし、適切な緩和治療を行うことで動物のQOLを改善させることは可能です。
皮膚・眼球内;転移がない場合、根治治療を行うことで腫瘍を治すことができる場合が多い
爪床;根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年

メラノーマに限らずですが、悪性腫瘍は早期発見・早期治療が大切です。定期的な健康診断が重要です。また、ワクチン開発の研究もされています。

クリックすると、臓器の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい
摘出した口腔粘膜の悪性黒色腫と下顎リンパ節

こちらもご参照ください
No296生検
No292 TNM分類
No.94 腫瘍3 (Tumor) 悪性腫瘍の進行度


No.402 誤食をしたかもしれない時

『動物が何かを誤食したかもしれないが、食べたかどうかも、何を食べたかもよくわからない』ということはよくあります。金属や石のような硬いものならレントゲンにはっきり映るのですぐに診断可能ですが、プラスチック、布、紐、ビニール、サランラップなどの柔らかいものは、単純なレントゲン検査でははっきりわかりません。超音波検査も有用ですが、胃の中に食事が残っているとすぐにわからない場合があります。そのような場合に異物を確認する手段としては、

1.内視鏡
2.バリウム撮影
3.危険性の少ないものなら、時間をおいてもう1度レントゲンや超音波検査
の3択になります。

どの方法もそれぞれメリット・デメリットがあり、
1.のメリットは、眼で見るのとほとんど一緒なので異物の状態がよくわかる。異物によってはそのまま摘出できる。胃や十二指腸に病変が合った場合生検ができる。デメリットは全身麻酔が必要。胃と十二指腸までしかわからない。異物が確認できても紐状異物などで腸を括ってしまっている時は摘出できない。
2.のメリットは、麻酔がいらない。腸全体がわかる。デメリットは、流れない異物が有った場合は治療にはならない。バリウムが付かない異物は見逃される可能性がある。
3.のメリットは、麻酔がいらない。デメリットは、はっきりとした結果がわからない場合がある。
などです。

いずれにしても、動物の症状や状態、異物摂取の履歴、食べた可能性のあるものの安全性などを総合的に考慮して、様子をみる、吐かせる、内視鏡で取る、開腹手術で摘出するのどれかの選択となります。経験上、紐状異物のようなものでない限り、十二指腸を通過した異物は便と一緒に出てくることが多いですが100%ではありません。また、内視鏡の処置で、全身麻酔をかけると腸管の筋肉が緩んで異物が流れる場合もあります。このようなときは、治療が計画通りにいかない場合もあり、まさにケースバイケースです。いずれにしても早目の処置が重要です。


胃内異物のレントゲン

こちらもご参照ください
No396ユリ科の野菜の誤食
No350誤食の予防
No269紐状異物
No141消化管内視鏡


No.401 ウサギの病気の予防

皆様あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

ウサギは暑さ寒さともに弱い動物のため、温度や湿度管理に気を付けて飼育することが重要です。適正温度は18~24℃、湿度は40~50%です。適温を保つためにはエアコンを常に稼働させておく必要があります。

不正咬合、胃のうっ滞・毛玉症、ソアホック(足底潰瘍)、爪のトラブル、斜頸(エンセファリトゾーン)が来院理由として特に多くみられる疾患です。最近は高齢のウサギに心筋症もよくみられます。

・不正咬合の予防は、金属製のケージを齧らせないこと、チモシーや高繊維のフードを与えること
・胃のうっ滞・毛玉症を防ぐには、日々のブラッシングと毛玉予防除去剤(ラキサトーンなど)を与えること
・ソアホックにしないためには、床材を硬いものにせずに芝や土を使うこと、太らさないこと
・爪のトラブルは、1~2ヶ月に1度の爪切りで多くは防げます
・斜頸(エンセファリトゾーン)は、血液検査で抗体値をみて素因があるかどうかはわかりますが予防はとくにないので、症状が出たらすぐに病院へ
・心筋症は5~6歳になったら年に1~2度の健康診断を行って、心不全の症状が出る前に早く発見することが重要です

ウサギの平均寿命は8歳程度といわれていますが、現在は10歳を超える場合も珍しくありません。きちんとした知識を持って健康に長生きしてもらいましょう。


今年はウサギ年です

こちらもご参照下さい
No303ソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)
No266ウサギの斜頸
No201胃のうっ滞・毛玉症
No135 ウサギの不正咬合 (Malocclusion)


No.400 便秘のツボ

高齢の犬や猫では便秘が起こりやすいです。便秘がちの動物には以下のツボを優しく押してみて下さい。

尾根:尾の付け根;便秘、下痢
尾端:尾の先端 ;便秘、腎臓、腰痛、便秘、乾燥肌

太谿:後ろ足の内側、内果とアキレス腱の間;腎臓、腰痛、便秘、乾燥肌

お腹を時計回りに優しくマッサージすることも有効です

便秘は、気持ち悪さや腹痛を伴うだけでなく慢性腎不全の悪化因子であり、その他にも多くの問題を発生させます。

以下もご参照下さい
No329便秘はなぜ悪い
No314慢性腎不全(CKD)と便秘
No271猫の便秘

本年もお世話になりました。ありがとうございました。相変わらずのコロナ渦に加え戦争やインフレなど、明るい話題が少ない一年でした。2023年は良い年になることを願います。皆様、良いお年をお迎えください。


No.399 ジステンパー

ジステンパーウイルス感染症は、犬、フェレットがジステンパーウイルスに感染することで発症します。極めて感染力が強く、既に感染している犬やフェレットの目脂や鼻水、唾液、尿、便などに接触して感染(接触感染)したり、咳やくしゃみで空中に飛散したウイルスを吸いこんだりして感染(飛沫感染)します。地域や季節の差がなく発生し、死亡率が極めて高い病気です。

初めは、眼が開けづらい、目脂や鼻水、40℃前後の発熱、食欲や元気がなくなるといった症状が現れ、続いて咳やくしゃみといった呼吸器症状や、嘔吐・下痢などの消化器症状が認められます。これらは、細菌の二次感染によってさらに悪化し重度な肺炎を引き起こすことがあります。免疫が十分に応答しない場合、ウイルスは神経系にまで侵入し、脳脊髄炎を起こし、麻痺や痙攣(けいれん)、運動失調といった神経症状がみられます。神経症状は呼吸器系や消化器系の症状と同時に起こってくることもあれば、これらの症状が改善してから数週から数ヵ月後に突然現れることもあります。この他に脈絡網膜炎や網膜剥離、視神経炎による失明や化膿性皮膚炎、鼻やパッドの角化が進んで硬くなる(ハードパッド)が出ることもあります。病気が回復した後にも失明や神経症状、歯のエナメル質形成不全が後遺症として残ることもあります。

治療は対症療法のみで特効薬はありません。また、フェレットはほぼ救命できません。予防はワクチンです。効果は100%ではありませんが、きちんとしたプログラムで接種しましょう。フェレットのワクチンは日本に専用のものはありませんが、犬用を使用して免疫ができることが確認されています。


ジステンパーのフェレット


No.398 インスリノーマ

インスリノーマは、膵臓のインスリン分泌性β細胞の腫瘍であり、犬やフェレットにみられ猫では極めて稀な腫瘍です。ヒトのインスリノーマの約90%は良性ですが犬やフェレットでは悪性が多いです。

症状は、低血糖によるものと代償性カテコールアミンの放出によるものがあり、元気食欲の消失の他、痙攣発作、虚弱、運動失調、振戦、精神鈍麻などの神経症状が主体となります。

診断は、低血糖に関連した症状、血液検査で低血糖と高インスリン血症が同時に認められればインスリノーマが強く疑われます。超音波検査も診断と転移の確認に推奨されますが、インスリノーマの病変が非常に小さく膵臓の腫瘤が確認できないこともあります。CT検査が用いられることもありますが検出できない事もあります。治療も兼ねて試験開腹によって確定診断をする場合もあります。最も多い転移部位は、局所リンパ節と肝臓です。

犬のインスリノーマには、下記の臨床ステージングシステムが使用されています。
ステージI:転移なし
ステージII:リンパ節転移あり
ステージIII:遠隔転移あり

治療は、外科的切除が推奨されます。
ステージI:腫瘍だけをくりぬくように摘出する核出術ではなく、可能であれば膵臓部分摘出術を実施します。核出術は膵臓部分摘出術に比べ腫瘍制御と生存期間が劣ります。
ステージII:膵臓部分摘出術と腫大あるいは転移したリンパ節を可能な限り切除します。たとえ腫瘍を完全に摘出できず、減容積手術に終わっても低血糖を緩和できることがあるため、生存期間の延長が期待できます。
ステージIII:初期の場合を除き、手術適応とはならないことが多く、内科療法のみを実施します。

内科療法は、術前の安定化および手術適応とならないインスリノーマで実施され、血糖値を維持し、低血糖症を防ぐために行われます。具体的には、食事療法(単糖類を軽減した高タンパク・複合炭水化物を含有した食事を1日4~6回に分けて与える)や、プレドニゾロン、ジアゾキシド、オクトレオチドなどの薬剤を使用します。

化学療法としてはストレプトゾトシンが使用されますが、腎毒性が強い薬剤であり、大量の輸液の投与も必要となるため、腎機能や心機能が低下している場合は使用できません。そこで、まだ一般的な治療ではありませんが、腎毒性を軽減し腫瘍への薬剤濃度を高めることができる動注化学療法が、今後、切除不能なインスリノーマに有効となる可能性があります。

インスリノーマの予後は、臨床ステージや治療法により様々で、通常は要注意ですが、数回の減容積手術により、3年以上良好に経過した例も報告されています。犬のステージIIIの犬の中央生存期間は6ヶ月未満であり、ステージI、あるいはステージIIの18ヶ月に比べて顕著に短いです。保存的治療のみで治療した犬の中央生存期間は74日で、外科的治療を実施した犬の381日と比較して短いという論文がありますが、投薬に代替医療を加える事で2年以上生存した例もあります。また、膵臓の結節を外科的切除したフェレットの平均生存期間は462日(14日~1207日)と報告されています。

こちらもご参照下さい
No395 犬の低血糖


No.397 犬の股関節形成不全 (Canine Hip Dysplasia:CHD)

股関節形成不全(Canine Hip Dysplasia:CHD)は、主に大型犬種または超大型犬種に発生する整形外科学的疾患です。小型犬種および猫にも発症します。生まれた時は正常な股関節に徐々に緩みが生じ、股関節が変形し異常に成長してしまう疾患です。アメリカなどでは素因のある固体の繁殖を禁止してかなり減っている疾患ですが、日本ではまだまだ多くみられます。

股関節形成不全に関連した症状の発症する時期には2つの型があります。1つは若齢期に発症する型です。様々な程度の緩みが股関節に生じ、その緩みが股関節の支持組織(関節包、滑膜、大腿骨頭靭帯)の炎症の原因となり疼痛を示すこととなります。もう1つの型は中齢から高齢にかけて発症する型です。こちらは若齢期発現型とは異なり、股関節の緩みはないことが多く、関節構造の形成異常が認められる状態となります。関節の構造異常(不整合性、不安定性)に関連して骨関節炎 (Osteoarthritis: OA) が発症し進行し、関節軟骨の損傷、そして関節の可動域の減少が認められるようになります。

この疾患の特徴的な症状は後肢のふらつきです。両側後肢で同時に地面を蹴るように走行し、この走行形態をウサギ跳び様走行と呼んでいます。飼主様が気付かれるのは下記の様な症状です。また、多くの場合、症状が少しずつ進行していると感じているようです。

・散歩を嫌がるようになった
・散歩の途中に座りたがる
・寝ている状態から起き上がってからすぐの歩様がおかしい。
・長距離を歩けない。
・段差をいやがる
・車に飛び乗らなくなった

これらの症状は他の整形外科学的疾患(膝関節疾患、前十字靭帯断裂)や神経学的疾患(脊髄疾患、馬尾症候群)および後肢や骨盤領域の腫瘍性疾患などにおいても同様に認められる場合があるので鑑別する必要があります。

診断は、犬種、症状、触診、レントゲン検査などで行います。レントゲン検査は麻酔下で行うことが必要です。場合によってはCT検査が必要なことのあります。

治療は、内科的治療法と外科的治療法があります。どちらの治療法を選択したとしても、体重制限、運動制限、そして滑りやすい場所にマットを敷くなどの環境要因の整備を含めた保存療法が必須となります。

内科的治療法:薬剤や半導体レーザー、代替医療などを用い、疼痛を軽減することを目的として行います。股関節形成不全の主要な原因と考えられる股関節の緩みを矯正せず、障害された関節を回復させないため根本的な治療とはなりません。関節疾患の多くに言えることですが、内科的治療により疼痛を軽減させることは可能であり、管理が上手くいった場合には治療を必要としなくなることもあります。しかし異常な関節構造を正常に戻している訳ではないため完全に回復することはありません。

外科的治療法:現在、障害された関節を人工器具に置換する股関節全置換術 (Total hip replacement; THR) または障害された関節を切除する大腿骨頭・骨頚切除術 (Femoral head and neck osteotomy; FHO)があります。後者は当院で可能ですが、前者は専門医の手術が必要です。

一般的に、中齢から高齢で発症し体重の軽い個体の場合は、内科的療法で上手く行く場合が多いです。若齢で発症した場合や中型~大型犬や肥満の場合は、外科的な対応が必要となります。


両側の股関節形成不全

こちらもご参照下さい
No200 半導体レーザー
No103 前十字靱帯断裂2
No102 前十字靱帯断裂1
No31 膝蓋骨脱臼