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No.343 大腸の悪性腫瘍

便秘が良くならないときは大きな原因があることが多く、その中で最も厄介なものが大腸の腫瘍です。とくに悪性のものには早い対応が必要です。大腸は盲腸、結腸、直腸からなり、ヒトは大腸癌や胃癌が非常に多いといわれていますが、犬や猫はそこまで多くはありません。おそらくは動物が比較的均一な食生活をしていたり、刺激物をほとんど食べないからだと考えられています。寿命の違いもあると思われます。しかし、まったく発症が無いわけではありません。通常の処置で便秘が改善しなかったり、嘔吐や痛みや便に血が混じる場合、症状、便検査、直腸検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などで大腸の腫瘍を疑った場合は、確定診断には大腸内視鏡検査が推奨されます。大腸の腫瘍には、リンパ腫、腺癌、平滑筋肉腫、肥満細胞腫、GIST(消化管間質腫瘍)などがあり、どれもが浸潤性に大きくなって便の通過を妨げるようになります。

大腸内視鏡検査で悪性の腫瘍が見つかった時の第一選択は外科的切除です。多くの場合が高齢の動物であることから飼主様が麻酔を心配される場合が多いのですが、腫瘍が小さいうちなら手術も比較的簡単で、手術だけで根治が見込める場合もあります。腫瘍が広範囲に広がっている場合や、他部位に転移がみられる場合は予後が悪いことが多いです。通常、盲腸、結腸の手術は開腹して行います。直腸の手術はプルスルー(引き抜き術)といって、肛門部から直腸を出して行います。また、腫瘍が小さくても、直腸(最後の大腸)の腫瘍で肛門括約筋を温存できない場合は、手術後も随意的な排便ができなくなり術後の管理が大変です。肛門の開口部だけでも残せると術後の管理は楽になります。

皆様、今年も1年間ありがとうございました。良いお年をお迎えください。


プルスルー後の肛門部


No.342 フェレットの脱肛

肛門から粘膜や直腸の一部が脱出すること脱肛と言います。正常でも排便時の息みで一時的な脱出がしばしば見られることがありますが、通常は排便後に自然に戻ります。 脱出が習慣となり、元に戻らない状態になったものが病気としての脱肛です。

とくに幼体のフェレットには脱肛が多く見られます。その理由はよく分かっていませんが、息み過ぎや肛門腺除去の手術の影響が原因として考えられています。

息むと腹圧がお尻にかかり脱肛します。ヒトの妊婦さんが妊婦してお腹の子が大きくなると痔になりやすいと言われているのと同じです。幼体のフェレットに脱肛が多い理由には、ふやかしたフードから固形フードへ切り替える時に、一時的にお腹を壊しやすいことがあげられます。他にも幼体は腸内細菌が安定しておらず、腸内細菌叢のバランスを崩しやすく、軟便や下痢を起こしやすいといわれています。フェレットの性格にもよりますが、興奮しやすかったり、あるいはケージから脱出しようと頑張って息んでしまうこともあります。胃腸に異物が詰まっていたり(消化管閉塞)、膀胱結石や尿道閉塞で尿が出にくい時も腹圧がかかります。また、フェレットは幼体期に肛門脇にある2つの臭腺を除去する手術を受けています。この臭腺を取り除いたがために、肛門に余裕が作られ、息んだときなどに脱肛しやすくなるのかもしれません。

脱肛すると痛いです。自然に治ることもありますが、早期対応しないと元に戻らなくなるので動物病院で治療を受けるのがベストです。軽度だと軟膏を塗って、粘膜の炎症を抑えるようにするだけで治ることもあります。しかし、薬を塗ってもフェレットが舐めてしまうために、塗り薬での治療は長期化することが多いです。便が硬くならないようにふやかしたフードを与えるなどして息む原因も減らすようにします。粘膜がひどく出てしまっている場合には、粘膜を中に入れて肛門の周囲を縫い合わせる手術を行います(巾着縫合)。この処置は局所麻酔で可能です。1~3週間後に抜糸します。重度の場合は全身麻酔下で大腸を腹壁に縫い付け、直腸が脱出しないようにします。

フェレットの脱肛は幼体に多いです


No.341 外耳道の手術

80%以上の犬が何らかの耳のトラブルを抱えているといわれています。軽症の場合は定期的な管理で十分ですが、外耳炎が慢性化して内科治療で耳道環境が改善しない場合は外耳道の手術が必要です。とくに、耳垢腺の過形成や耳道周囲の軟骨まで病変が拡がると内科管理は難しくなります。また、外耳炎が進み中耳炎になると治療はより大変になります。外耳道の手術には病変の拡大度合いにおいて以下の様なものがあります。病変の拡大度合いを術前に把握するにはCTが必要ですが必須ではありません。

1.垂直耳道切開術
垂直耳道壁を部分切除
適応
外耳道開口部の変性が軽度の場合
細菌が増殖しづらい耳道環境を作る
初期外耳炎の進行抑制
中耳炎の予防
ケアしやすい耳道を作る

2.垂直耳道切除術
変性・閉塞した垂直耳道を切除
適応
垂直耳道の軟骨変性が顕著
垂直耳道全体の非可逆性の変性
耳道環境を改善、外耳炎の進行抑制
垂直道の耳道の腫瘍
中耳炎の予防

3.外耳道亜全摘術
垂直耳道を全摘
水平耳道を5mm程度残して切除
適応
制御不能の進行性外耳炎
水平耳道まで病変がある場合
水平道の耳道の腫瘍
中耳炎の予防

4.全耳道切除術
すべての耳道を除去
適応
制御不能の進行性外耳炎
鼓膜の側まで病変がある場合
鼓膜の側の腫瘍
通常は中耳炎対応で5とセットで行う

5.外側鼓室胞切開
外側鼓室胞の尾腹側を切除
鼓室胞内を清浄化する
適応
制御不能の進行性外耳炎で鼓室まで病変が拡大している場合
中耳炎
耳道の腫瘍などで鼓膜の内側や鼓室胞まで病変がある場合
4と組み合わせて行う

2~5は耳道の再建術も必要です。以前は4や5の手術は耳道を再建せずに耳を閉じてしまう手術が主流でしたが、そのような手術では術後に瘻管を作ることがあり、とても痛く、再手術が必要になる場合が多くありました。手術は頻雑になりますが、耳道をきちんと再建することによりこのような状況を防ぐことができます。また、2~5は、術後月に一度程度の耳の穴周囲の毛刈りや耳道内の洗浄も必要です。
4~5の段階になると、手術後に顔面神経麻痺などの合併症が発生する場合があります。とくに短頭種では注意が必要です。
一度悪くなった耳道は完全には元に戻りません。外耳炎は内科治療で上手く行っていても、悪くならない様に生涯のケアが必要な場合が多いです。手術も次期を逸せずに1か2の段階で行うことが望ましいです。

こちらもご参照下さい
No320フレンチブルドッグの中耳炎
No319中耳炎
No188外耳炎3
No58外耳炎2
No57外耳炎1


No.340 ハムスターの脱毛

ハムスターに脱毛疾患は多いです。主な鑑別としては、

・痒みと発赤が酷い:アレルギー、細菌性皮膚炎、好酸球性皮膚炎
・痂疲が増えて掻痒がある:疥癬
・痒みはなく皮膚は比較的きれい:ニキビダニ
・幼体で痒みはない:真菌症(→No256皮膚糸状菌症)
・高齢で痒みはない:肝疾患、腎疾患、副腎疾患
・痒みはなく色素沈着がある:副腎疾患
・自壊や痛みがある:皮膚型リンパ腫(→No202リンパ腫)

いくつかの疾患が合併している場合もあります。診断は症状に加えて、年齢、皮膚のスクラッチ検査、ウッド灯検査、培養検査などを行い、難治性であれば皮膚の組織検査を行います。肝疾患、腎疾患、副腎疾患を疑う場合は、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などが必要です。

また、木屑系、チップ系の床材を使用している場合は、それがアレルギーの原因になっている場合があります。アレルギーに配慮とうたっていても良くない場合が多いです。チモシーや紙製のものに変えましょう。肥満や脂の強い食事も皮膚にはよくありません。

とくに高齢のハムスターは、診断がついても投薬が必ずしも有益にならない場合があります。抗生剤、抗真菌剤、駆虫薬など、ハムスター用に作られたものはありません。元気そうにみえても実際は内臓が弱っている場合もあります。そのような場合は副作用がほとんどない代替医療もオススメです。


ニキビダニ症で脱毛した高齢(2歳)のハムスター


No.339 流動食の与え方

高齢や病気のために、自分で食事が出来ない場合は流動食を使って、食べさせてあげることが必要です。動物の種類や状態によって様々な方法がありますが、基本的な手技は以下のようになります。優しく声をかけながら行いましょう。

1.頭を上に座らせます

2.汚れないようにタオルなどを口元や前頬部に添えます

3.後ろから保定して口の横から与えます

4.一度にたくさん与えずに、嚥下を確認してから次を与えます

5.時々水を与えます

6.時々背中を軽く叩いてゲップをさせます

7.タオルやガーゼ、歯ブラシなどで口元などをきれいにします

8.終了後20-30分くらいは、クッションやタオルなどを利用してなるべく体位を変えないようにします

9.大型犬などで体位の維持が困難な場合は左下に寝かせます(胃捻転の予防)

こちらもご参照下さい
No325胃瘻チューブ
No219高齢動物への給餌


No.338 猫の特発性膀胱炎

猫の特発性膀胱炎は間質性膀胱炎とも呼ばれ、きちんとした研究はありませんが、多くの猫が罹患すると考えられています。特発性とは原因不明という意味です。膀胱で無菌性の炎症が起こることにより出血する病気で、ヒトの女性の間質性膀胱炎に似ているといわれています。体質を持っている場合は繰り返し起こることが特徴です。一旦落ち着いたように見えてまたしばらくすると再発する事が多いです。ストレスが誘因になるともいわれています。

診断は、細菌性膀胱炎・膀胱内の結晶・結石、泌尿器系の腫瘍、腎臓や尿管、尿道からの出血などの他の疾患を除外することによって行います。具体的には、頻尿、血尿、排尿痛などの膀胱炎の症状、一般的な尿検査に加えて、尿の細菌培養、超音波検査、造影X線検査、場合によってCT検査などを行います。他の重大な疾患を見逃さないようにすることがとても重要です。

治療は炎症を和らげる薬の服用や副作用の少ない代替医療などを用いますが、頻尿や目に見えての血尿や排尿痛が無ければ、無治療で3-6ヶ月毎に検査をして様子をみることも多いです。その期間内でも目にみえての膀胱炎の症状がみられたら、その時点で治療が必要です。

体質が大きく関与していると考えられているので、長期間のお付き合いになることもあります。食事をウェットフードに変更したり、飲水量を増やすと少し楽になることがあります。また、トイレの見直し、ストレスの除去も重要です。今後の詳しい研究が待たれる疾患の1つです。

こちらもご参照下さい
No328尿石症:腎・尿管・膀胱・尿道結石
No224猫に水を飲んでもらう方法
No151猫の排泄の問題
No36猫の膀胱炎


No.337 レプトスピラ症の発生続報

先日、逗子海岸でレプトスピラに感染して亡くなった犬の続報です。(→No335犬のレプトスピラ症)

当該犬は2歳4ヶ月の去勢済の雄犬で、千葉県佐倉市在住、生活範囲は自宅周囲のみとのことです。

9月30日に嘔吐、下痢、食欲・活動性低下を認めるようになり10月4日に病院受診、その時の症状は、食欲廃絶、意識沈鬱、低体温(36.4°C)。 検査では急性腎不全、肝性黄疸。レプトスピラに対するワクチンの接種歴はなかったそうです。2歳で基礎疾患もなく、急性腎不全で黄疸、DIC (→No144種性血管内凝固症候群)による肺出血で死亡し、尿のPCR 検査 によりレプトスピラ陽性となったため、レプトスピラ症と診断されました。

残念ながら、このワンちゃんは亡くなってしまいましたが、この後、神奈川県でも千葉県でもレプトスピラ症の報告はありません。どおしても心配な方は、当院でもワクチンのご用意はありますが、横浜市では今のところ慌てて接種する必要はないと思います。


No.336 朝食前に黄色いものを吐く犬猫

朝食前に黄色いものを吐く犬や猫は結構たくさんいます。吐いた後にケロッとしている場合が多いので見過ごされがちです。ネットを検索すると、朝吐く犬や猫はお腹が空きすぎて胃酸・胆汁などの消化液が多く分泌され、この消化液が胃を刺激することで胃液を吐いてしまうと説明されていて「逆流性胃炎」「胆汁嘔吐症候群」などという名称が付けられています。しかし、これは最近誤りだということが分かってきました。

たしかに空腹時間を減らすとこの症状が軽減する場合もありますが、そもそも健康な犬や猫は12~24時間ぐらいの絶食では嘔吐はしません(ヒトも同じです)。朝食前に黄色いものを吐く犬や猫を精査すると、十二指腸炎や膵臓のトラブル、肝臓・胆嚢の疾患などが多く認められます。また実際に治療を行うと症状が治まる場合が多いです。

きちんとしたを診断するには、血液検査、便検査、レントゲン検査、超音波検査、内視鏡検査などが必要です。詳しい検査をした方が良い目安は、
・月に3度以上黄色いものを嘔吐する
・整腸剤などの簡単な治療に反応しないか、反応しても投薬を止めると同じ症状が出る
・3ヶ月以上症状が続いている
・小腸性の下痢がある
などです。

朝食前に黄色いものを吐くという症状を軽く考えず、早目に対処をしましょう。


朝食前に黄色いものを吐く場合は要注意

こちらもご参照下さい
No280リンパ球形質細胞性腸炎と炎症性腸疾患
No189膵炎
No154超音波検査
No141消化管内視鏡
No123下痢
No70胆嚢疾患


No.335 犬のレプトスピラ症 (Leptospirosis)

先日、逗子海岸でレプトスピラに感染して亡くなった犬の報道がありました。レプトスピラ症は、スピロへーター科・レプトスピラ属の細菌によって引き起こされる人畜共通伝染病です。犬だけでなく、牛、馬、豚、山羊、羊などの家畜をはじめ、ネズミやコウモリ、キツネなどの野生動物を含む多くの哺乳類に感染します。ヒトでは4類感染症に定められ、動物では一部の血清型が家畜伝染病予防法により届け出義務があります。

菌の感染はレプトスピラ症に罹っている動物の尿中に排泄された病原体を直接あるいは間接的に取り込むことによって成立します。つまり、尿で汚染された水や食物を摂取することで起こるということです。媒介の主役は都市部ではネズミだといわれています

レプトスピラ感染症は世界的に広く分布し特に高温多湿の熱帯亜熱帯で発生が多く、日本では関西以西での発生が主となっています。犬での発生状況は減少傾向ですが、毎年30件前後の発生報告があります。

感染した動物は急性の風邪の様な症状から、黄疸・出血・発熱・腎機能不全・肝機能不全を伴う症状を示します。一方で感染してもほとんど症状を示すことなく、菌を排出し続ける場合もあります。動物の種類によっては数週間から数年に渡り菌を排出します。また、犬は他の動物種よりも、腎不全・肝不全になる場合が多く、ハムスターは感染すると1週間ほどで死亡すると言われています。

診断は、禀告、臨床症状、菌の動態、抗体の推移等も考慮して総合的に行います。近年では血液を用いたPCR法・血清学的診断法の組み合わせにより確定診断します。潜伏期間は、数日から20日程度で、感染後1~3週間後に抗体価は最大になります。菌は発症前から間欠的に血中に現れ、抗体価の上昇とともに血中から消失し、尿中に排出されます。

治療は対症療法が中心で、腎障害、肝障害に対する治療、消化器症状に対する治療、DIC(→No144播種性血管内凝固症候群(DIC))に対する処置が必要となるケースもあります。病原治療としてはペニシリン、ドキシサイクリンなどの抗菌剤を使用します。

横浜市でこの病気を過度に恐がる必要はありません。全国手的にも感染犬はとても少数ですし、早期に発見してきちんとした治療をすれば助けられることの方が多いです。また、血清型が合わないと意味がないのですがワクチンもあります。当院にも御用意があります。ご心配な方はご相談下さい。


レプトスピラ症のワクチン


No.334 錠剤の飲ませ方

犬や猫に錠剤やカプセルを飲ませる基本的な方法をご説明します。確実なのは下記の方法です。

1.「今から飲ませるぞ」とヒトの方が構えてしまうと、犬や猫も嫌な予感がして警戒してしまいます。薬は見せないようにして、「何でもないよ」といった感じで近付きましょう。お薬を用意するところも見せない方が良いです。

2.優しく撫でながら背後から体をおさえ、利き手と逆の手の親指と人差し指・中指を犬歯のすぐ後ろに入れ、利き手も使って顔をしっかり上に向かせます。

3.利き手の人差し指・中指で薬を持ち、残りの指で下顎を引っ張り口を開きます。

4.喉の奥めがけて薬を落とし、利き手の人差し指で薬を一押しして喉の奥に押し込み、両手で口を閉めます。カプセルの場合は向きに注意しましょう。

5.10秒ほどそのまま上を向かせておき、喉を優しく撫でます。舌がペロっとしたらきちんと飲めている証拠です。よくわからない場合は口を開けて確認しましょう。

6.お薬の種類によっては、この後、シリンジなどでお水を少量飲ませる場合もあります。上手く飲めたら誉めてあげましょう。

上を向けることと、一押しがコツです。上手く行かない場合はご相談下さい。