No.502 リンパ球 (Lymphocyte)

リンパ球とは白血球の一種で免疫に関わる細胞です。白血球には顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、リンパ球があり、それぞれが免疫機能において重要な働きをしています。リンパ球はB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)に分類されます。

B細胞(Bリンパ球):白血球のおおよそ20~40%の割合を占めている免疫細胞です。侵入した抗原(ウイルス、細菌、カビ、微生物、原虫、寄生虫、花粉など)が危険であるかどうかを判断し排除する働きがあります。このB細胞が成熟すると形質細胞になります。形質細胞は、ヘルパーT細胞と協力をして、抗体(有害な抗原が体内に入ってきた際に攻撃をするタンパク質)を作り放出します。抗原と戦ったB細胞の一部はメモリーB細胞となって次回の感染に備えます。また、一度侵入したことのある抗原の情報を記憶しておくことができ、病気にかかりいくい状態を作ります。

T細胞(Tリンパ球):リンパ球のうち60~80%の割合を占める細胞です。ヘルパーT細胞は、樹状細胞(皮膚や血液中に存在する免疫細胞)から抗原の情報を伝達してもらい(抗原掲示)、キラーT細胞に指示をしたり、B細胞と協力して異物が危険なものかどうか判断したり、B細胞やマクロファージを活性化させます。マクロファージは全身に広がっている免疫細胞で、体内に侵入した抗原を食べて消化、殺菌することで感染を防ぎます。キラーT細胞は、ヘルパーT細胞から指令を受け、ウイルスなどに感染してしまった細胞を壊します。また、免疫細胞が過剰に働きすぎないようにコントロールするのが制御性T細胞です。各細胞に攻撃の終了を指示することで免疫異常を防いでくれます。このようにTリンパ球は免疫応答の司令塔の役割をします

ナチュラルキラー細胞(NK細胞):リンパ球の約10~30%を占めています。殺傷能力の高い免疫細胞で、全身をパトロールし、癌細胞やウイルスなどを見つけたら直ちに攻撃します。生まれつき体に備わっている免疫細胞(自然免疫)に分類されます。NK細胞には、レセプター(受容体)と呼ばれる、抗原を調べるためのアンテナのようなものが2種類備わっています。これらをうまく使い分けることで、ウイルスなどに感染した細胞と健康な細胞を見分けています。

リンパ球は、基本的に骨髄で作られます。ただし、B細胞に関しては、胎児の時は肝臓で作られており、生まれてからは骨髄で作られるようになります。リンパ球が最初に分化(細胞がそれぞれ機能を持つこと)する場所を一次リンパ組織といい骨髄や胸腺が該当します。B細胞やT細胞は、それぞれ骨髄や胸腺で少しずつ形を変えていき、免疫における自分の役割を明確にしていきます。免疫細胞が、ウイルスなどの異物に反応し、攻撃したり排除しようとする働きを免疫反応と呼びます。そして、その免疫反応が起こる場所のことを二次リンパ組織と言います。二次リンパ組織には、脾臓やリンパ管が該当します。


Bリンパ球のイメージ画


Tリンパ球のイメージ画


NK細胞のイメージ画

こちらもご参照下さい
No.500 免疫力
No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)
No.202 リンパ腫 (Lymphoma)
No.121 体表リンパ節の腫大 (Swelling of a lymph node)


No.501 レプトスピラ (Leptospirosis)

先日、金沢区の方でレプトスピラを発症した犬が報告されました。

以前にも書きましたが、レプトスピラは人獣共通の細菌(スピロ ヘータ)の感染症で、病原性レプトスピラは、主に保菌動物(ドブネズミなど)の腎臓から尿中に排出されます。保菌動物の尿で汚染された水や土壌 から経皮的あるいは経口的に感染します。河川や田んぼの周辺など、とくに大雨の後は注意が必要です。2003 年より 4 類感染症として届出が義務付けられている疾患です。

症状は、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充血などの感冒症状から重症となると多くは黄疸を呈します。急性腎不全によって多尿または無尿となっている場合もあります。治療が遅れると、炎症に起因する DIC(播種性血管内凝固症候群)や SIRS(全身性炎症反応症候群)による多臓器不全に移行し死に至ることもあります。

レプトスピラは、250 以上の血清型に分類されそのうち 7 血清型が届出対象となっています。血清型は地域によって偏りがあり、臨床症状とも合致しません。異なる血清型のワクチンは基本的に予防に有効ではありません。

診断は、PCR による遺伝子検査で感染は確定できますが血清型の分類はできません。感染初期は抗体が産生されていないため抗体価のみでは診断は困難です。感染初期には全血を材料とする遺伝子検査で、腎不全の認められる時期には尿を材料とした遺伝子検査で陽性となれば診断ができますが、陰性であっても本症を否定できないので1週間以上間隔をあけたペア血清を用いて抗体価を測定することが理想的です。また、ワクチンによっても抗体が検出されることがあります。

治療は、ストレプトマイシンやアンピシリンやアモキシリンという抗生剤を腎障害に注意しながら使用します。寛解後はドキシサイクリンという薬を数週間を投与し、尿中への排菌を防ぎます。治療が成功し回復した犬も、数か月から数年間、尿中にレプトスピラを排菌することがあるといわれています。

予防はワクチンですが、上述の様に全ての血清型に効果的ではありません。(ご心配な方にはワクチンのご用意はあります)現実的には、大雨の後に河川敷での散歩を控える、ドブネズミのいる場所に近寄らない、感冒症状がみられたら早期に受診することが重要です。


大雨の後の河川敷の散歩に注意して下さい

こちらもご参照下さい
No.433 肝細胞性黄疸
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.337 レプトスピラ症の発生続報
No.335 犬のレプトスピラ症 (Leptospirosis)
No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)
No.136 犬ウィルス抗体価検査 (Canine VacciCheck)
No.132 人畜共通伝染病2 (Zoonosis)
No.55 慢性腎臓病(CKD)1


No.500 免疫力

免疫力とは、体が病原体(ウイルス、細菌、寄生虫など)や異物に対して防御する能力を指します。具体的には体内に侵入した病原体を識別し、これを排除するために働く免疫システムの全体的な機能や効果を意味します。免疫力が高いほど、感染症にかかりにくく、病気からの回復も早くなります。免疫力は自然免疫と獲得免疫の2つから成り立っています。

自然免疫(先天免疫)
動物が生まれつき持っている防御機構で、病原体が体内に侵入した際に最初に反応する免疫システムの一部です。これは特定の病原体に対する防御ではなく、一般的な侵入者に対して広範囲に働くため、非特異的免疫とも呼ばれます。以下のような要素が含まれます。
物理的・化学的バリア:皮膚や粘膜、胃酸、涙などが病原体の侵入を防ぎます
細胞性免疫:マクロファージ、好中球、自然リンパ球(NK細胞)などの免疫細胞が病原体を識別し、攻撃・排除します
炎症反応:病原体の侵入により、感染部位が腫れたり熱を持つことで、免疫細胞が集まりやすくします
補体系:補体と呼ばれるタンパク質が、病原体を直接破壊したり、免疫細胞を引き寄せる役割を果たします。
自然免疫は、すぐに反応を開始するため、感染初期に重要な役割を果たしますが、一部の病原体に対してはこの免疫だけでは不十分な場合があり、その場合、獲得免疫が働きます。

獲得免疫(適応免疫)
自然免疫とは異なり、特定の病原体に対して体が学習して反応する免疫システムです。これにより、体は特定の病原体に対する記憶を持ち、同じ病原体が再び侵入した際には、迅速かつ効果的に対応できるようになります。以下の特徴があります。
特異性:獲得免疫は特定の病原体や異物に対して特異的に反応します。これにより、感染の種類に応じて適切な免疫応答が起こります。
免疫記憶:獲得免疫には記憶機能があり、一度遭遇した病原体を覚え、再感染時に素早く強力な応答を引き起こします。これがワクチンが効果を発揮する基盤です。
リンパ球:獲得免疫は主にBリンパ球(B細胞)と Tリンパ球(T細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)というリンパ球によって実現されます。
Bリンパ球;特定の抗原(病原体の一部)を認識し、成熟して、抗体(免疫グロブリン)を大量に産生する形質細胞となり病原体を無力化し、メモリーB細胞に記憶します。
Tリンパ球;ヘルパーT細胞が司令塔となり、キラーT細胞に指示を出しウイルスに感染した細胞を直接攻撃します。また、制御性T細胞が免疫系の暴走を起こさないように制御・調整します。
ナチュラルキラー細胞;殺傷力が高く、癌細胞やウイルスを見つけたらただちに攻撃します。
獲得免疫が一度活性化されると、その病原体に対する免疫力が長期的に持続することがあり、これが長期間の免疫記憶につながります。このため、一度かかった病気に対しては、二度目以降は軽症で済むことが多いです。獲得免疫は永遠にもっていられる場合ばかりでなく、一定時間が経過するとなくなってしまう場合も多いです。とくにワクチンで獲得した免疫は期間が短いといわれています。

免疫力を高めるためには、動物種によって異なりますが、日常生活の中で以下のような習慣や対策を取り入れることが有効です。
バランスの取れた食事:偏った食生活、肥満や痩せ過ぎには注意しましょう
十分な水分補給:とくに高齢動物や猫では水分が不足しがちです
腸内環境の整備:便の状態をよく観察してください
十分な睡眠:規則正しい時間に十分に眠ることが重要です
適度な運動:無理のない範囲で動物種や年齢に合わせた運動をしましょう
ストレス管理:長い時間1人にさせたり過干渉は止め、動物と良い距離感を持ちましょう。1人になれる場所、安心出来る場所を作ることも重要です
受動喫煙の防止:受動喫煙はリンパ腫はじめ様々な疾患の発生率を上げることが分かっています
衛生管理:飼育場所の掃除はこまめに、定期的なシャンプー、ブラッシング、動物種によっては水浴び、砂浴びを行いましょう
日光浴:ホルモンバランスを保ち、幸せホルモンといわれるセロトニンの分泌が活発になり、自律神経にも良い影響があり、認知症の予防にもなります
環境エンリッチメント:とくにエキゾチックペットでは飼育場所を広くしたり、本来の生息地の環境に近づけたり、給餌回数を考えるなどの工夫が重要です

これらの習慣を日常生活に取り入れることで、免疫力を維持し、強化することが期待できます。また、定期的に健康診断を行い体調管理を怠らないことも大切です。

こちらもご参照下さい
No.493 カロリー計算
No.485 動物の受動喫煙
No.428 日光浴
No.168 タンパク質の「質」
No.164 脳-腸-微生物相関
No.13 エンリッチメント


No.499 気象病

梅雨時期や台風が近付き気圧が下がると体調が悪くなることがあります。これを一般的には気象病と呼んでいます。気象病は、気圧の変動や湿度の上昇などの気象条件が人体に与える影響によって引き起こされる症状の総称です。ヒトの気象病の主な症状は、頭痛、めまい、倦怠感、眠気、食欲不振、イライラなどです。これらは、気圧の変化によって体内の血液や組織の圧力が変化し、血管や神経に影響が及ぶことにより生じます。獣医療では気象病という言葉は一般的ではありません。しかし気候の変化によって体調が悪くなる動物は多くみられます。

気圧が急激に下がると、てんかん発作などを持っている場合やセンシティブ動物の場合は、ウロウロと落ち着かなくなり、熟睡できなかったり、わかりにくいのですが頭痛を起こしている可能性もあります。気圧の変動は、胃腸の問題を引き起こすこともあります。検査では問題ないのに腸の運動が低下し、消化不良や腹痛、食欲不振を引き起こすことがあります。また、無駄吠えをしたり、攻撃的になったり、猫ではトイレに行かなくなってしまう場合があります。

多くの動物は雷や雨の前に変化を察知します。まだ晴れているうちからわかっている場合もあります。気圧の変動や静電気の増加などの前兆により不安や恐怖心を感じます。震えて部屋の隅に隠れたり、走り回ったり、家具をかじったりすることがあります。少し前の犬の研究では、激しい雷が起こると、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの血中濃度は40分にわたって270%も上昇するという結果でした。

梅雨時期や台風時は、動物に安心感を与えることが重要です。気象病に対処するために、以下の方法が役立ちます。
安全な場所の提供:落ちつける場所を提供しましょう。狭いスペースやベッドの下など、自分が守られていると感じる場所を見つけてあげることが大切です。パニックになっても怪我をしない様にしましょう。クレートや可能なら防音の処置ができると良いです。
そばにいる:多くの動物は飼主さんの存在で安心感を得ます。気象病の症状が現れる際にはそばにいて落ち着かせることも重要です。
リラクゼーション:動物がリラックスできるように、撫でられたりマッサージが好きな場合は行ってあげて下さい。普段からTVや音楽が好きな場合はかけてあげるのも良いです。

あまりに怖がっている場合は無理をせず、怪我をしない場所でしばらく1人にします。このような事をしても激しいパニックになる場合は薬の使用もありだと思います。今はかなり安全な抗不安薬があります。

気象病は、敏感な動物に影響を与えることがありますが、適切なケアとサポートによって症状を軽減できます。気圧の変化が激しいときに食欲が落ちる、動きが鈍いなどがあれば気象病かもしれません。そのような適切な対処の仕方を知っていることが大切です。


子犬と雨の日の子どもたち いわさきちひろ 作


No498 ドライフードとウェットフードの違い

ドライフードとウェットフードの違いのなかでとくに大きなものは水分の含有量です。水分含有量はドライフードでは10%程度、ウェットフードは75%程度となっています。ドライフードは水分量が少ない分必要な栄養素がバランスよく凝縮されています。カリカリ感を出すため炭水化物が多く含まれています。穀物を多く使用していて、アレルギーを持っている動物には使用できないことがあります。製造過程での加熱や乾燥によりタンパク質が変性することもあります。また、ウェットフードは柔らかく、炭水化物は少なめに作られているものが多いのが特徴です。

ドライフード
メリット:

・市販されている多くのドライフードが総合栄養食で、一日に必要な栄養素がバランスよく摂取できる
・種類が多く販売されており、種や年齢に合わせた選択ができる
・長期保存ができ、ウェットフードに比べ安価なものが多い
・フードをふやかしたり、知育トイに入れるなどアレンジができる
デメリット:
・水分量が少ないため、フード以外での水分摂取が必要
・粒が硬いため、口や歯の異常がある場合や消化機能が十分でない幼齢や高齢動物には向かないことがある
・匂いが弱く食いつきが悪いことがある

ウェットフード
メリット:

・豊かな香りで嗜好性が高い場合が多い
・タンパク質が多く炭水化物が少ない
・水分含有量が多いため、飲水が少ない場合や腎臓や膀胱疾患を抱えている場合によい
・柔らかく食べやすいため、口腔内や歯の異常がある場合や消化機能が低い場合も食べやすい
・カロリーが少ないため肥満の予防になる
デメリット:
・開封後は傷みやすい
・ドライフードに比べると高価な場合が多い

上記のようなものが挙げられます。一昔前は、ドライフードの方が歯石が付きづらいとか、咀嚼筋が鍛えられるといわれていましたが、歯石の付き方はどちらもそう変わりませんし、成体になってからドライフードを食べたからといって咀嚼筋が鍛えられる事もありません。様々な研究ではウェットフード中心の方が長生きという結果が出ています。

多くの量が必要な中型犬や大型犬はドライを中心に、腎臓の悪くなってきたシニアの動物にはウェットを中心になど、メリット、デメリットを知って両者を上手に使うことが大切です。フードの選択肢も増えることから、若いうちは両者を与えることがオススメです。


上手く使い分けましょう

こちらもご参照下さい
No.493 カロリー計算
No.192 ペットフード
No.8 ペットフードと手作りフード


No.497 猫マイコプラズマ感染症

マイコプラズマは細菌の一種で、ヘルペスウイルスやカリシウイルス、クラミジアなどと同じように、猫風邪の原因の一つです。そのため猫風邪にとても似ている症状がみられ、鑑別も難しいことがあります。

猫マイコプラズマは常在菌として健康な猫にも普通に存在しています。健康な状態で免疫力に問題が無い場合には感染しても発症することは多くはありません。しかし、栄養状態や免疫力が落ちていると発症することがあります。

特徴的な症状は、涙眼とくしゃみです。症状が進むと熱が出たり、鼻が詰まって食欲が落ちてきます。他の猫風邪と混合感染することが多い疾患です。混合感染した場合には重症化して肺炎や副鼻腔炎になってしまうこともあります。とくに子猫は免疫力が弱く重症化しやすいので注意が必要です。感染した猫の涙や鼻水などの分泌物の中に、猫マイコプラズマが含まれています。そのため、涙やくしゃみなどの飛沫から感染します。多頭飼育の場合、マイコプラズマに感染している猫は他の猫から隔離しておく必要があります。通常は症状から治療的診断を行いますが、確定診断にはPCR検査が用いられます。

治療には、マクロライド系の抗生剤を使用します。1月ほどの投薬が必要です。治療のポイントは症状を悪化させないことです。適温、敵湿度の環境にして、眼や鼻周りの汚れを綺麗にして、脱水を防ぐためにも水を飲ませ食事をきちんと採らせる。免疫力が落ちないようにして、定期的なワクチン接種で他の猫風邪を予防して合併症にならないようにしましょう。通常はヒトにはうつりません。


猫風邪の子猫

こちらもご参照下さい
No.394 猫ヘルペスウイルス感染症 (Feline Herpesvirus Infection)
No.312 副鼻腔炎 (Sinusitis)
No.287 猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)


No.496 猫喘息

猫喘息とは、突然呼吸困難に陥る慢性気管支疾患です。気管支に炎症が起こり、空気の通り道が狭くなっていく状態が徐々に進行していきます。肺や気管支での様々な変化は、最初は元に戻る変化ですが、慢性的になると元に戻り辛くなります。また、猫喘息は2~3歳ぐらいの若齢で発症すると重症化しやすく、4~8歳ぐらいの中齢で発症すると軽度から中等度の症状になりやすいといわれています。

症状は呼吸に関するもので、咳、呼吸が早い、疲れやすい、遊ばなくなった、喘鳴(息を吐くとき音がする)、開口呼吸などがあります。

犬は呼吸による空気の出し入れにより体温調節を行うので、口を開けて呼吸をしているところをよく見かけますが、猫が開口呼吸をしているときは、重度の呼吸器障害や状態の悪化であることが多く要注意です。また、猫喘息は発作的に呼吸困難や咳が起こり、突然激しい呼吸器症状が現れます。この発作は突然死を招く危険性があります。

原因や発症の仕組みは明確には分かっていませんが主にアレルギーによるものと考えられています。アレルギーの原因となるのは、ハウスダスト、花粉、洗浄剤、消臭剤、ヘアスプレー、煙草の煙、香水など、呼吸で吸い込むアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)です。カーペットや家具を新しく新調したり、新しい家に引っ越したりしたときに新たなアレルゲンにさらされることもあります。

猫喘息の診断は、症状、聴診、血液検査、X線検査、気管支鏡検査などによって行います。

治療は、気管支拡張薬、ステロイド剤、免疫抑制剤などを用い、重度なら酸素吸入を行います。また、代替医療が著効する場合もあります。投薬と同時に、環境中から疑わしいアレルゲンを除去するよう努めます。猫喘息は慢性疾患なので症状の改善があっても内服薬を急に中止することは出来ません。


喘息の猫の胸部レントゲン写真


No.495 クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)

クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)とは爬虫類、鳥類、魚類、両生類、哺乳類などの多くの動物種およびヒトにも感染する原虫(寄生虫の一種)です。オーシスト(成長段階のサナギの様なもの)は水中では数ヵ月感染能力を持ち、オーシストを含んだ水、感染した生体の吐物や便を口にしてうつります。薬剤耐性が強く、通常の塩素の消毒でも死滅せず、ヒトでも汚染された水から感染するため、衛生管理が整っていない場所で蔓延しています。近年、ヒョウモントカゲモドキで大きな問題となっています。

クリプトスポリジウムにも複数の種類がありますが、爬虫類では主に下記の2種が問題となり、複数の種類のクリプトスポリジウムが寄生することもあります。
C.serpentis:ヘビ・トカゲに寄生
C.varanii(saurophilum):トカゲに寄生、まれにヘビ

爬虫類では胃や小腸の粘膜にクリプトスポリジウムが寄生し、慢性的な胃炎や腸炎により下痢を引き起こし痩せていきます。通常、免疫力のある場合は無症状で、他の病気に感染したりストレスを受けると発病する可能性が高くなります。年齢や性差における感染率は知られていません。

クリプトスポリジウムの診断は糞便検査でオーシストを確認して診断できますが、検査を行っても 1 度では発見できないこともあり、数回の検査でも見つからないこともあります。確実な診断は吐物や糞を用いた遺伝子(PCR)検査になります。

有効な治療薬は無いので完治することは難しく、爬虫類の感染では完治することはないといわれています。しかし、パロモマイシンという薬がある程度は効果的で症状が改善したヒョウモントカゲもいます。


ヒョウモントカゲモドキは注意です


No.494 腎性貧血

腎臓はエリスロポエチンという名前のホルモンを分泌しています。このホルモンは骨髄の中にある造血にかかわる細胞に働きかけ、赤血球を作ってくださいという指令を出す重要なホルモンです。慢性腎臓病(CKD)になってしまった動物は、徐々に腎臓の機能が失われていきます。この時、血液から尿を作る働きや血液から老廃物を取り除く働きと一緒に、エリスロポエチンを分泌する働きも少しずつ失われ、体内のエリスロポエチンの量が減り、赤血球がどんどん減っていってしまいます。このように、腎臓の機能低下に伴って引き起こされた貧血を腎性貧血と呼びます。また、腎臓から分泌されるエリスロポエチンの量が減ることが貧血の大きな原因ですが、腎臓の機能が低下していることで体内にとどまっている老廃物の中には、赤血球を壊してしまうものも含まれているため、腎機能低下そのものも貧血の原因になります。

腎性貧血は、慢性腎臓病(CKD)の動物に一般的にみられる合併症ですが、過去の研究では、犬で4~70%、猫で32~65%で認められるといわれています。有病率と重症度はCKDのステージが上がると上昇します。また、腎性貧血は生存期間の短縮とQOLの低下に関連しています。数年前まではヒト用の赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)製剤が使用されていましたが、現在では猫用のESA製剤ダルベポエチンα(商品名エポベット)が開発され臨床現場で使用されています。

ESA製剤の使用開始は、重度の貧血が認められ、貧血が原因と考えられる臨床症状が現れた場合です。CKDの猫の場合Ht値が20%以下になると、食欲不振、虚弱、疲労、無気力、冷感への不耐性、嘔吐、睡眠時間の増加などの臨床症状が現れるようになります。ケースバイケースですが2週間に1度の投与が推奨されています。注意すべき合併症としては、造血の急速な亢進による鉄欠乏や、Ht値の治療後の上昇により、血液粘稠度が高くなることに伴う血栓塞栓症と高血圧です。とくに高血圧の発生率は40~50%との報告があります。


エポベット

こちらもご参照ください
No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.259 高血圧 (Hypertension)
No.38 貧血(Anemia)2
No.37 貧血(Anemia)1


No.493 カロリー計算

カロリーとは、エネルギーの単位です。1Lの水の温度を1℃あげるのに必要なエネルギーが1キロカロリー(kcal)です。エネルギーは、体を動かす大切な活動の源です。安静にしていても様々な臓器を動かすためにエネルギーが必要ですし、活動量が多ければたくさんのエネルギーが必要になります。食物にはエネルギーのもとになるタンパク質、脂肪、炭水化物の3大栄養素が入っていて、タンパク質は約4kcal/g、脂肪は約9kcal/g、炭水化物は約4kcal/gのエネルギー源となります。

カロリーが不足すると体重減少が起こります。また、成長期のカロリー不足は成長不良につながります。病気や加齢などにより食欲が長期間低下すると、低栄養状態に陥ります。低栄養状態になると、運動機能や免疫機能の低下、傷の治癒の遅延、薬の代謝異常などが起こるため、重度の食欲不振や絶食が続く場合には、シリンジによる強制給餌や胃瘻チューブなどの積極的な栄養補給を行う必要があります。摂取しているカロリーが減少しているのに体重が増加する場合、甲状腺機能低下症などの病気の可能性があります。

カロリーが過剰になると体重が増加します。理想体重よりも15~20%以上増加すると肥満と呼ばれる状態になります。肥満になると、膵炎や関節疾患、呼吸器疾患などになりやすかったり、手術時に麻酔が効きにくかったりするなど様々なデメリットが生じます。カロリーが過剰なのに体重が減少する場合には、タンパク漏出性疾患や糖尿病などの可能性があるため注意が必要です。

ペットフードの袋には体重あたりの給与量の目安が記載されています。しかし、動物に必要なカロリーは、年齢や不妊手術の有無、活動レベルなどで大きく変わってくるため、記載されている量が全ての犬にとって適正であるとは言えません。適正量をきちんと知るためには、必要なカロリー量を計算する必要があります。

必要なカロリーの計算式

一日に必要なエネルギー量(DER)、活動量がほとんどない時のエネルギー量を安静時必要エネルギー量(RER)と呼びます。DERは、RERに活動量や不妊手術の有無などを考慮した係数をかけることで算出します。

RER=〔体重(kg)〕0.75乗×70
電卓で体重(kg)×体重(kg)×体重(kg)→√ √ ×70

若干低値に出ますが、RERの以下の要な簡易な計算式もあります。
RER(kcal)= 体重(kg)× 30 + 70

RER×係数= DER

係数の目安 犬
未去勢・未避妊:1.8
去勢・避妊済み:1.6
肥満傾向:1.2~1.4
減量:1
活発・使役:3~8
安静:1.0
高齢:1.1~1.4
若齢:4ヶ月齢未満;3  4~9ヶ月齢未満;2.5  9~12ヶ月齢未満;2

係数の目安 猫
未避妊・未去勢1.4~1.6
避妊・去勢済:1.2~1.4
活動的:1.6
肥満傾向:1.0
減量:0.8
増量:1.2~1.4
成長期(1歳齢まで):2.5
妊娠中:繁殖時;1.6  分娩時;2.0
授乳中:2.0~6.0
高齢(7~11歳):1.1~1.4  超高齢:1.1~1.6
安静状態、重篤:1.0

DERが出たら、次に実際の給餌量を計算します。それぞれの食物が持つエネルギーを総エネルギー(GE)といいます。動物は口から入った食べ物のエネルギーをすべて吸収できるわけではありません。吸収できなかったエネルギーは糞便中に排泄されます。総エネルギー(GE)から糞便中のエネルギーを差し引いたものを可消化エネルギー(DE)といいます。つまり消化・吸収ができたエネルギーです。吸収したエネルギーもすべてが利用されるわけではありません。利用されずに尿中に排泄されるエネルギーがあります。可消化エネルギー(DE)からこれを差し引いたものを代謝可能エネルギー(ME)といいます。また、食べ物の消化、吸収および利用のときにもエネルギーが消費されます。代謝可能エネルギー(ME)からこれを差し引いたものが正味エネルギー(NE)です。この正味エネルギー(NE)が、体を維持するため、そして生産(発育、授乳、運動など)に用いられるのです。体を維持するのに必要な量以上の正味エネルギーがないと、発育、授乳、運動などの活動はできません。

給餌量の計算には、ペットフードに記載されている代謝可能エネルギー(ME)を用います。代謝エネルギーやME(kcal/100g)などと記載されているため、そこから量を計算します。

給餌量(g)=DER÷ME(kcal/100g)×100

この量を元に食事を与えます。

例:犬 10kg 3歳 健康 去勢済 代謝エネルギー357kcal/100gのフード

REP;10×10×10=1000 1000の√√=約5.6 5.6×70=392
DER;392×1.6=627.2kcal
給餌量;627.2÷357×100=約176g

簡易計算
REP;10×30+70=370
DER;370×1.6=592kcal
給餌量;592÷357×100=約166g


MEは代謝エネルギーの事です

こちらもご参照ください
No.325 胃瘻チューブ (PEGチューブ)
No.169 脂質(Lipid)
No.168 タンパク質の「質」
No.167 タンパク質(Protein)
No.166 炭水化物(Cabohydrate)
No.77 犬の甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)