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No.402 誤食をしたかもしれない時

『動物が何かを誤食したかもしれないが、食べたかどうかも、何を食べたかもよくわからない』ということはよくあります。金属や石のような硬いものならレントゲンにはっきり映るのですぐに診断可能ですが、プラスチック、布、紐、ビニール、サランラップなどの柔らかいものは、単純なレントゲン検査でははっきりわかりません。超音波検査も有用ですが、胃の中に食事が残っているとすぐにわからない場合があります。そのような場合に異物を確認する手段としては、

1.内視鏡
2.バリウム撮影
3.危険性の少ないものなら、時間をおいてもう1度レントゲンや超音波検査
の3択になります。

どの方法もそれぞれメリット・デメリットがあり、
1.のメリットは、眼で見るのとほとんど一緒なので異物の状態がよくわかる。異物によってはそのまま摘出できる。胃や十二指腸に病変が合った場合生検ができる。デメリットは全身麻酔が必要。胃と十二指腸までしかわからない。異物が確認できても紐状異物などで腸を括ってしまっている時は摘出できない。
2.のメリットは、麻酔がいらない。腸全体がわかる。デメリットは、流れない異物が有った場合は治療にはならない。バリウムが付かない異物は見逃される可能性がある。
3.のメリットは、麻酔がいらない。デメリットは、はっきりとした結果がわからない場合がある。
などです。

いずれにしても、動物の症状や状態、異物摂取の履歴、食べた可能性のあるものの安全性などを総合的に考慮して、様子をみる、吐かせる、内視鏡で取る、開腹手術で摘出するのどれかの選択となります。経験上、紐状異物のようなものでない限り、十二指腸を通過した異物は便と一緒に出てくることが多いですが100%ではありません。また、内視鏡の処置で、全身麻酔をかけると腸管の筋肉が緩んで異物が流れる場合もあります。このようなときは、治療が計画通りにいかない場合もあり、まさにケースバイケースです。いずれにしても早目の処置が重要です。


胃内異物のレントゲン

こちらもご参照ください
No396ユリ科の野菜の誤食
No350誤食の予防
No269紐状異物
No141消化管内視鏡


No.401 ウサギの病気の予防

皆様あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

ウサギは暑さ寒さともに弱い動物のため、温度や湿度管理に気を付けて飼育することが重要です。適正温度は18~24℃、湿度は40~50%です。適温を保つためにはエアコンを常に稼働させておく必要があります。

不正咬合、胃のうっ滞・毛玉症、ソアホック(足底潰瘍)、爪のトラブル、斜頸(エンセファリトゾーン)が来院理由として特に多くみられる疾患です。最近は高齢のウサギに心筋症もよくみられます。

・不正咬合の予防は、金属製のケージを齧らせないこと、チモシーや高繊維のフードを与えること
・胃のうっ滞・毛玉症を防ぐには、日々のブラッシングと毛玉予防除去剤(ラキサトーンなど)を与えること
・ソアホックにしないためには、床材を硬いものにせずに芝や土を使うこと、太らさないこと
・爪のトラブルは、1~2ヶ月に1度の爪切りで多くは防げます
・斜頸(エンセファリトゾーン)は、血液検査で抗体値をみて素因があるかどうかはわかりますが予防はとくにないので、症状が出たらすぐに病院へ
・心筋症は5~6歳になったら年に1~2度の健康診断を行って、心不全の症状が出る前に早く発見することが重要です

ウサギの平均寿命は8歳程度といわれていますが、現在は10歳を超える場合も珍しくありません。きちんとした知識を持って健康に長生きしてもらいましょう。


今年はウサギ年です

こちらもご参照下さい
No303ソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)
No266ウサギの斜頸
No201胃のうっ滞・毛玉症
No135 ウサギの不正咬合 (Malocclusion)


No.400 便秘のツボ

高齢の犬や猫では便秘が起こりやすいです。便秘がちの動物には以下のツボを優しく押してみて下さい。

尾根:尾の付け根;便秘、下痢
尾端:尾の先端 ;便秘、腎臓、腰痛、便秘、乾燥肌

太谿:後ろ足の内側、内果とアキレス腱の間;腎臓、腰痛、便秘、乾燥肌

お腹を時計回りに優しくマッサージすることも有効です

便秘は、気持ち悪さや腹痛を伴うだけでなく慢性腎不全の悪化因子であり、その他にも多くの問題を発生させます。

以下もご参照下さい
No329便秘はなぜ悪い
No314慢性腎不全(CKD)と便秘
No271猫の便秘

本年もお世話になりました。ありがとうございました。相変わらずのコロナ渦に加え戦争やインフレなど、明るい話題が少ない一年でした。2023年は良い年になることを願います。皆様、良いお年をお迎えください。


No.399 ジステンパー

ジステンパーウイルス感染症は、犬、フェレットがジステンパーウイルスに感染することで発症します。極めて感染力が強く、既に感染している犬やフェレットの目脂や鼻水、唾液、尿、便などに接触して感染(接触感染)したり、咳やくしゃみで空中に飛散したウイルスを吸いこんだりして感染(飛沫感染)します。地域や季節の差がなく発生し、死亡率が極めて高い病気です。

初めは、眼が開けづらい、目脂や鼻水、40℃前後の発熱、食欲や元気がなくなるといった症状が現れ、続いて咳やくしゃみといった呼吸器症状や、嘔吐・下痢などの消化器症状が認められます。これらは、細菌の二次感染によってさらに悪化し重度な肺炎を引き起こすことがあります。免疫が十分に応答しない場合、ウイルスは神経系にまで侵入し、脳脊髄炎を起こし、麻痺や痙攣(けいれん)、運動失調といった神経症状がみられます。神経症状は呼吸器系や消化器系の症状と同時に起こってくることもあれば、これらの症状が改善してから数週から数ヵ月後に突然現れることもあります。この他に脈絡網膜炎や網膜剥離、視神経炎による失明や化膿性皮膚炎、鼻やパッドの角化が進んで硬くなる(ハードパッド)が出ることもあります。病気が回復した後にも失明や神経症状、歯のエナメル質形成不全が後遺症として残ることもあります。

治療は対症療法のみで特効薬はありません。また、フェレットはほぼ救命できません。予防はワクチンです。効果は100%ではありませんが、きちんとしたプログラムで接種しましょう。フェレットのワクチンは日本に専用のものはありませんが、犬用を使用して免疫ができることが確認されています。


ジステンパーのフェレット


No.398 インスリノーマ

インスリノーマは、膵臓のインスリン分泌性β細胞の腫瘍であり、犬やフェレットにみられ猫では極めて稀な腫瘍です。ヒトのインスリノーマの約90%は良性ですが犬やフェレットでは悪性が多いです。

症状は、低血糖によるものと代償性カテコールアミンの放出によるものがあり、元気食欲の消失の他、痙攣発作、虚弱、運動失調、振戦、精神鈍麻などの神経症状が主体となります。

診断は、低血糖に関連した症状、血液検査で低血糖と高インスリン血症が同時に認められればインスリノーマが強く疑われます。超音波検査も診断と転移の確認に推奨されますが、インスリノーマの病変が非常に小さく膵臓の腫瘤が確認できないこともあります。CT検査が用いられることもありますが検出できない事もあります。治療も兼ねて試験開腹によって確定診断をする場合もあります。最も多い転移部位は、局所リンパ節と肝臓です。

犬のインスリノーマには、下記の臨床ステージングシステムが使用されています。
ステージI:転移なし
ステージII:リンパ節転移あり
ステージIII:遠隔転移あり

治療は、外科的切除が推奨されます。
ステージI:腫瘍だけをくりぬくように摘出する核出術ではなく、可能であれば膵臓部分摘出術を実施します。核出術は膵臓部分摘出術に比べ腫瘍制御と生存期間が劣ります。
ステージII:膵臓部分摘出術と腫大あるいは転移したリンパ節を可能な限り切除します。たとえ腫瘍を完全に摘出できず、減容積手術に終わっても低血糖を緩和できることがあるため、生存期間の延長が期待できます。
ステージIII:初期の場合を除き、手術適応とはならないことが多く、内科療法のみを実施します。

内科療法は、術前の安定化および手術適応とならないインスリノーマで実施され、血糖値を維持し、低血糖症を防ぐために行われます。具体的には、食事療法(単糖類を軽減した高タンパク・複合炭水化物を含有した食事を1日4~6回に分けて与える)や、プレドニゾロン、ジアゾキシド、オクトレオチドなどの薬剤を使用します。

化学療法としてはストレプトゾトシンが使用されますが、腎毒性が強い薬剤であり、大量の輸液の投与も必要となるため、腎機能や心機能が低下している場合は使用できません。そこで、まだ一般的な治療ではありませんが、腎毒性を軽減し腫瘍への薬剤濃度を高めることができる動注化学療法が、今後、切除不能なインスリノーマに有効となる可能性があります。

インスリノーマの予後は、臨床ステージや治療法により様々で、通常は要注意ですが、数回の減容積手術により、3年以上良好に経過した例も報告されています。犬のステージIIIの犬の中央生存期間は6ヶ月未満であり、ステージI、あるいはステージIIの18ヶ月に比べて顕著に短いです。保存的治療のみで治療した犬の中央生存期間は74日で、外科的治療を実施した犬の381日と比較して短いという論文がありますが、投薬に代替医療を加える事で2年以上生存した例もあります。また、膵臓の結節を外科的切除したフェレットの平均生存期間は462日(14日~1207日)と報告されています。

こちらもご参照下さい
No395 犬の低血糖


No.397 犬の股関節形成不全 (Canine Hip Dysplasia:CHD)

股関節形成不全(Canine Hip Dysplasia:CHD)は、主に大型犬種または超大型犬種に発生する整形外科学的疾患です。小型犬種および猫にも発症します。生まれた時は正常な股関節に徐々に緩みが生じ、股関節が変形し異常に成長してしまう疾患です。アメリカなどでは素因のある固体の繁殖を禁止してかなり減っている疾患ですが、日本ではまだまだ多くみられます。

股関節形成不全に関連した症状の発症する時期には2つの型があります。1つは若齢期に発症する型です。様々な程度の緩みが股関節に生じ、その緩みが股関節の支持組織(関節包、滑膜、大腿骨頭靭帯)の炎症の原因となり疼痛を示すこととなります。もう1つの型は中齢から高齢にかけて発症する型です。こちらは若齢期発現型とは異なり、股関節の緩みはないことが多く、関節構造の形成異常が認められる状態となります。関節の構造異常(不整合性、不安定性)に関連して骨関節炎 (Osteoarthritis: OA) が発症し進行し、関節軟骨の損傷、そして関節の可動域の減少が認められるようになります。

この疾患の特徴的な症状は後肢のふらつきです。両側後肢で同時に地面を蹴るように走行し、この走行形態をウサギ跳び様走行と呼んでいます。飼主様が気付かれるのは下記の様な症状です。また、多くの場合、症状が少しずつ進行していると感じているようです。

・散歩を嫌がるようになった
・散歩の途中に座りたがる
・寝ている状態から起き上がってからすぐの歩様がおかしい。
・長距離を歩けない。
・段差をいやがる
・車に飛び乗らなくなった

これらの症状は他の整形外科学的疾患(膝関節疾患、前十字靭帯断裂)や神経学的疾患(脊髄疾患、馬尾症候群)および後肢や骨盤領域の腫瘍性疾患などにおいても同様に認められる場合があるので鑑別する必要があります。

診断は、犬種、症状、触診、レントゲン検査などで行います。レントゲン検査は麻酔下で行うことが必要です。場合によってはCT検査が必要なことのあります。

治療は、内科的治療法と外科的治療法があります。どちらの治療法を選択したとしても、体重制限、運動制限、そして滑りやすい場所にマットを敷くなどの環境要因の整備を含めた保存療法が必須となります。

内科的治療法:薬剤や半導体レーザー、代替医療などを用い、疼痛を軽減することを目的として行います。股関節形成不全の主要な原因と考えられる股関節の緩みを矯正せず、障害された関節を回復させないため根本的な治療とはなりません。関節疾患の多くに言えることですが、内科的治療により疼痛を軽減させることは可能であり、管理が上手くいった場合には治療を必要としなくなることもあります。しかし異常な関節構造を正常に戻している訳ではないため完全に回復することはありません。

外科的治療法:現在、障害された関節を人工器具に置換する股関節全置換術 (Total hip replacement; THR) または障害された関節を切除する大腿骨頭・骨頚切除術 (Femoral head and neck osteotomy; FHO)があります。後者は当院で可能ですが、前者は専門医の手術が必要です。

一般的に、中齢から高齢で発症し体重の軽い個体の場合は、内科的療法で上手く行く場合が多いです。若齢で発症した場合や中型~大型犬や肥満の場合は、外科的な対応が必要となります。


両側の股関節形成不全

こちらもご参照下さい
No200 半導体レーザー
No103 前十字靱帯断裂2
No102 前十字靱帯断裂1
No31 膝蓋骨脱臼


No.396 ユリ科の野菜の誤食

玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどのユリ科の野菜を犬や猫に与えてはいけないのは、有機チオ硫酸化物という中毒成分が含まれているからです。この物質は、犬や猫の赤血球の中と膜に影響を与えて赤血球を壊し、溶血性貧血を起こします。ヒトは有機チオ硫酸化物を消化する酵素を持っているのでよほど過剰に摂取しない限り中毒にはなりません。

1.赤血球の中:有機チオ硫酸化物は、赤血球の中のヘモグロビンを酸化させてハインツ小体という物質を赤血球の中に作り、これが脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージという掃除屋さんに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、ハインツ小体だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。
2.赤血球の膜:有機チオ硫酸化物が赤血球の膜のタンパク質を酸化し、Eccentrocyteという凹んだ形の赤血球となり、やはり、脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、凹んだ形の部分だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。

溶血性貧血とは、血液中の赤血球が破壊されることで全身に酸素が行きわたらなくなり、酸欠状態になってしまうことです。そして、最悪の場合には破壊された赤血球からカリウムが流れ出し、高カリウム血症になって死に至ります。有機チオ硫酸化物は加熱しても効果を失わないため、加熱した食材だからといって安心はできません。また、液体にも溶け出る性質があるので、スープやお味噌汁なども要注意です。

ユリ科の野菜の中毒量はとても個体差が大きいため定められていません。個体によってはごく少量でも中毒症状を起こしてしまう場合があります。また、一般的に中毒が出る量は体重と比例するため、体重が軽い小型犬や猫の場合、大型犬よりも注意が必要です。少量なら症状が出ないこともあります。

中毒症状が出ると、貧血によって元気がなくなったりふらついたりします。貧血は数日間続くこともあります。溶血したヘモグロビンが赤い血色素尿として排出される場合もあります。また、嘔吐や下痢が起こることもあります。これらの症状は食べた後すぐに起こるとは限りません。数時間後~数日後に始まることもあります。無症状でも3~4日間は注意が必要です。食べてすぐの症状では、玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどに対するアレルギー症状が起こっていることもあります。急性の嘔吐・下痢、痒がる、発疹などの症状が出た場合にはアレルギーも疑います。

犬や猫がユリ科の野菜を食べてしまった場合は、なるべく早く病院に連れて行ってください。口の中に残っている分を取り出しガーゼなどの布を水で濡らして、歯や口腔内を拭いて少しでも有機チオ硫酸化物のエキスを取り除くと応急処置になります。

治療は、誤食してから1時間以内であれば吐かせる処置を行います。催吐剤を使う場合と内視鏡で胃洗浄を行う方法があります。また、血液検査を行って溶血が起こっているかどうかも検査します。溶血が起こっていた場合は、抗酸化剤やステロイド剤を投与し赤血球の破壊を止める治療を行います。また、ビタミン剤、強心剤、利尿剤などを投与して対症療法を行う場合もあります。それでも溶血が止まらない場合は輸血が必要になる場合があります。特効薬はありません。


らっきょう、アスパラガス、百合根もユリ科です


No.395 犬の低血糖

低血糖とは、血液中のブドウ糖の量を表す血糖値が極度に低下した状態のことです。低血糖になると、ぐったりしたり元気がなくなるといった活動性が下がる症状が現れます。散歩に連れ出そうとしてもあまり喜ばなくなります。さらに重度になると、後肢の麻痺や痙攣発作、嘔吐、失禁、震え、下痢などが起こる場合もあります。脈拍が早くなったり体温が低くなることもあります。

低血糖の原因は犬の年齢や犬種によっても異なります。また年齢に関係なく、キシリトールを摂取することで低血糖になることがあります。キシリトールは低カロリーの甘味料です。ヒトの糖尿病患者さんなどに利用されますが、犬には危険なので与えないようにしてください。

子犬の場合
生後3-4ヶ月程度の子犬が低血糖になる例がたびたび見られます。特にチワワやトイプードルなど小型犬の子犬に多いです。子犬は肝臓の糖を貯蔵する機能が不十分であることが原因です。空腹や体の冷えなどによって生じやすいので、食事を小分けにして与えたり、室温に注意するなどの方法で予防します。まれに重度の感染症、先天性の肝臓の病気が原因となる場合もあります。

成犬の場合
成犬の低血糖症はゴールデンレトリバーや5歳以上の中~大型犬に多く見られます。原因は、副腎皮質機能低下症によるホルモンバランスの崩れ、肝臓または膵臓の腫瘍などです。具体的な原因を突き止めることが重要です。

老犬の場合
老犬でも、低血糖の症状が現れることがしばしば見られます。元気がない、散歩の時に腰がふらつくなどを老化現象だと判断してしまいがちですが、低血糖症の可能性もあります。成犬の場合と同様にインスリノーマなどの膵臓の腫瘍や副腎の異常を考えます。

疾患を持っている場合
糖尿病の治療中でインスリン投与を行っている場合は、過剰なインスリンによって低血糖症になることがあります。その場合、インスリンの量が適切ではないのでインスリンの量を検討します。

応急処置
低血糖の発作が起きた場合、そのままにしておくと死亡する可能性もあります。直ちに応急処置が必要です。応急処置はガムシロップ、砂糖水、ブドウ糖といった糖分を与えることです。砂糖水の作り方は砂糖と水の割合を1:4で混ぜるだけです。無理に飲ませようとすると、気管に入るかもしれないので、注意しながら少量ずつ与えます。けいれん発作が起きているときは、歯茎にこすりつけるようにしてください。症状が落ち着いたらなるべく早く動物病院へお連れください。


No.394 猫ヘルペスウイルス感染症 (Feline Herpesvirus Infection)

猫ヘルペスウイルス感染症は、猫ヘルペスウイルス(Feline herpesvirus-1; FeHV-1)によって引き起こされる感染症の総称で、鼻炎と結膜炎などの上部気道炎が主な症状で、猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)とも呼ばれています。感染猫の口腔・鼻腔・結膜からの分泌物にウイルスが大量に含まれており、それを同居の猫などが口・鼻・眼の粘膜より取り込むこんで感染が成立します。感染したウイルスは鼻腔粘膜上皮で増殖後、結膜、咽頭、気管、気管支、細気管支に広がり発症し、その結果として粘膜表面の糜爛、潰瘍が起こり、結膜炎や鼻炎となります。稀ですが樹枝状角膜潰瘍という特徴的な角膜の症状が出る場合もあります。

典型的な症状は、発熱、沈鬱、食欲不振、結膜の充血、鼻汁、そして稀に流涎や発咳です。細菌などの二次感染が起こると分泌物は膿性となります。感受性の高い子猫では肺炎やウイルス血症を引き起こし、一般症状が悪化して時に死に至る場合もあります。口腔や皮膚の潰瘍、皮膚炎、神経症状、流産が認められることもあります。角膜の浮腫、血管新生、炎症細胞の浸潤、時に失明を伴う角膜実質炎と慢性の副鼻腔炎 は、FeHV-1感染により誘導された免疫介在性の疾患です。それ以外にも、好酸球性角膜炎、ブドウ膜炎などもFeHV-1によるものと考えられています。他の呼吸器病原体である、猫カリシウイルス、猫クラミジア、ボルデテラ菌、マイコプラズマなどと重感染を引き起こし重症化します。

猫以外にも、ライオンやチーターなどのほとんどの猫科動物が感染します。ワクチン未接種の飼育猫で高い抗体陽性率を有していることから、ほぼすべての飼育猫が感染する機会があります。急性症状から回復しても、ウイルスが神経節(主に三叉神経節)に潜伏感染し、生涯にわたりウイルスを保持することになります。その場合、ストレスや副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制剤の使用により、ウイルスは再活性化し、症状の再発や他への感染源となる場合があります。胎盤感染はありませんが、出産・泌乳がストレスとなりウイルスが再活性化し、その結果として新生児が感染します。新生子猫は移行抗体により防御されますが、この防御は抗体量に依存し、移行抗体(母親から初乳によってもらう免疫)が多い場合は発症を免れますが、少ない場合は発症します。多頭飼育がFeHV-1感染の重要なリスクファクターとなっており、シェルターや繁殖施設、猫カフェなどでの飼育はハイリスクとなります。

診断は通常症状やワクチン履歴から行い、状況に応じて、ウイルス抗原あるいは核酸の検出と抗体を検出する血清学的診断法や、迅速診断が必要な現場ではPCRによるウイルス核酸の検出を行います。

治療の基本は対症療法で、食欲不振、脱水などが認められれば点滴や強制給餌を行います。近年では少し高価ですがファムシクロビルという抗ヘルペス薬も使用します。二次感染予防のために、広域スペクトラムの抗生物質の投与も有効です。予防はワクチンですが、しっかりとしたプランで接種しないと効果がありません(とくに初年度が大切です)。また、免疫力の弱い個体では接種しても効果が出ない場合もあります。生活環境やストレスへの対策も必要です。


猫ヘルペスウイルス感染症の猫の結膜炎


No.393 咳の分類

咳は気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に出そうとする生体防御反応です。過剰な咳は動物のQOL(Quality of life;生活の質)を低下させます。咳が続く場合は、まず、1.持続期間、2.種類、3.原因部位を考えていきます。

1.持続期間
・~2週間
:発咳が始まって2週間くらいの場合の急性の咳の原因はボルデテラなどの感染症の場合が多く、同居動物の状態、ホテルやドッグランなどでの他の動物との接触、発熱や炎症マーカーの上昇などから判断します。
・2週間~2ヶ月:2週間から2ヶ月よくならない咳の原因は、免疫疾患やホルモン疾患(クッシング病など)、ステロイド剤や鎮咳剤による気道クリアランスの低下が考えられ、感染症の可能性は低くなります。
・2ヶ月~:感染症以外の原因を考えます。感染症の場合は耐性菌の出現や2次感染を考慮します。

2.種類
・湿性の咳:気道内分泌物(痰)が増加する疾患。慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支肺炎、誤嚥性肺炎、猫の気管支炎、喘息など。鎮咳剤は禁忌です。
・乾性の咳:喀痰を伴わず機械的刺激が関与する疾患。喉頭炎、心拡大による気管支軟化症、左主気管支の菅外性圧迫、腫瘍など。

3.原因部位

呼吸器の3区分

・咳のタイミング
上気道性(喉頭性);摂食・飲水時、吠えた時、興奮時、寝起き時
中枢気道性;動作・散歩時、興奮時
末梢気道性;安静時、睡眠時、寝起き時
・咳のタイプ
咳反射;深い吸気が先行する咳→末梢性
呼気反射;深い吸気が先行しない咳→ 喉頭性、中枢性
・Terminal retch(おじさんのえずきのような症状)の有無:
必発→喉頭性、末梢性
必発ではない→中枢性
・咳時の様子
立ち止まる→喉頭性、末梢性
動き回っている→中枢性
・咳の持続時間
単発性→喉頭性
持続性→中枢性、末梢性
1回の咳の時間
短い→喉頭性、中枢性
長い→末梢性

喉頭性:主に上気道の疾患
摂食・飲水時、吠えた時、興奮時、寝起き時
咳時は立ち止まる
単発性で短く強い
Terminal retchを伴う
中枢性:主に気管・気管支(気道内径2mm以上)の疾患
動作・散歩時、興奮時
動き回りながらの咳
持続性
Terminal retchは必発ではない
末梢性:主に末梢気道(気道内径2mm以下)、肺実質の疾患
安静時、睡眠時、寝起き時、散歩時には少ない
咳時は立ち止まる
持続性の長い咳、高調
Terminal retchを伴う