未分類一覧

No.106 老化3 (Aging) 体内での変化

老化によって体内では様々な変化が起こります。動物種、個体差もあり、一概にはいえませんが、一般的には下記のようなことが生じてきます。

心血管系:心臓の弁が肥厚して動きが悪くなり、血管の弾力性がなくなってくると、血流が悪くなったり、血液を送り出す力が低下します。小型犬では僧房弁閉鎖不全症、猫では高血圧・肥大型心筋症が多くみられます。

腎・泌尿器系:歳を取ると、血液をろ過して老廃物を体外へ放出し、必要な水分やミネラルを再吸収する働きをしている腎臓の中の糸球体の総数が減り腎臓の機能が低下します(→慢性腎臓病1慢性腎臓病2)。また、膀胱や尿道の筋肉が衰え失禁しやすくなります。雌犬の場合はホルモンバランスの問題失禁が起こることもあります。

骨・関節系:関節が老化すると水分やコンドロイチンが減って、軟骨がすり減って硬くなりクッションする力が弱くなります。ちょっとした外力で変形し疼痛がでます。触られるのを嫌がる場合、どこかに痛みがある場合がよくあります。骨密度や骨量が低下し、骨ももろくなってきます。1つ1つの行動に時間がかかるようになってきます。

胃腸系:胃腸の老化は他の部位に比べるとゆっくりだといわれています。胃腸系が老化すると、唾液、胆汁、膵液などの消化液の分泌が減少し食べ物の消化吸収がゆっくりになります。また、胃腸の筋肉量の減少により消化管の動きも鈍くなるのと同時に、体の筋肉量も落ちているので、排泄のときに踏ん張る力も弱くなり便秘がちになります。便秘がひどくなると、食欲がなくなったり肝臓などに負担がかかります。

次回からは、高齢動物に起こりやすい病気についてです。


No.105 老化2 (Aging) 外観と行動の変化

全ての動物が避けられない老化をケアして、快適な日が続くように、以下のようなサインに気を配ってみてください。生理的な老化だけではなく病的な老化を伴っている場合もありますので、サインがあれば早目の受診をおすすめします。

外観の変化
被毛:白髪が顔から目立つようになり徐々に体に広がります。犬では甲状腺機能低下症によって毛質が変わり、つやがなくなり薄くなります。
皮膚:弾力がなくなり、乾燥または脂漏の状態になります。イボなどのできものができたり、シミがでてきます。寝たきりの状態になってしまうと褥瘡ができやすくなります。
眼:視力の低下、白内障になります。
口:歯石がたまり歯茎が腫れ、歯周病を起こします。歯周病は心臓や腎臓に大きなトラブルを起こす場合があります。(→歯周病)
体重:基礎代謝や運動量が低下して食事の量が同じでも太りやすくなります。関節が痛いとか歯や口が痛くて十分なカロリーが取れなかったりホルモンの病気などで痩せる場合もあります。
体形:背中や後肢に痛みが出てくると、歩行時に前に体重をかけ後肢の負担を減らそうとします。その結果後肢や臀部の筋肉が落ちてお尻が小さくなります。側頭筋、こめかみの筋肉の減少がみられます。

行動の変化
歩幅:変形性脊椎症(→変形性脊椎症)などからの背中の痛みや後肢の各関節の痛みによって、後肢の歩様がトボトボと元気なく小刻みに歩くようになります
呼びかけへの反応の低下:耳が遠くなっている、関節などに痛みがあり動きたくない、頑張ってそばに行っても良い事がない、などが考えられます。
よく立ち止まる、階段を上らなくなった:視力が衰えて怖い、痛みがどこかにある可能性があります。
水をよく飲む:腎臓疾患、肝臓疾患、各種のホルモンの異常などでPUPD、多飲多尿症といわれる状態になります。(→PUPD)
認知症:いったん正常に発達した知能が後天的な脳の器質的変化によって低下する状態です。残念ながらヒトの場合と同じように良い治療法は今のところありません。とくに犬において大きな問題です。

次回は体内ではどういう変化が生じているかの話です。


No.104 老化1 (Aging)老化の定義

動物もヒトと同じように長生きになり、五感や免疫力、体の各機能が衰え、若いころは健康管理が十分でなくても元気に暮らせていたのに、歳を取ると、さまざまな病気にかかりやすくなったり、ちょっとしたことが大きな事故になったりします。少しでも長く快適に過ごせるように、歳を取った動物との付き合い方を知っておくことは非常に大事です。

歳を取ると現れてくる現象を「加齢減少」といい、この現象が『老化』です。老化は『体の成熟後に加齢に伴い起こる非可逆的な生理機能の衰え』と定義されています。老化は徐々に進行していく状態で、病気ではありません。年齢が上がると体の各細胞が置き換わる速さが遅くなり、体の各機能が低下していきます。簡単にいえば、白髪が増えた、目や耳が遠くなってきた、骨や関節が衰え動きが悪くなってきた、などが老化です。

老化が始まる年齢は、小・中型犬の場合7歳ころから、大型犬の場合5~6歳ころから、猫の場合は8歳ころからが目安です。小・中型犬で10歳ころから、大型犬の場合で7歳ころから、猫の場合は10歳ころから老化が加速します。老化のスピードは動物種、品種、個体によってそれぞれことなりますが、犬や猫の場合ヒトの4~5倍のスピードといわれています。

老化には「生理的な老化」と「病的な老化」があります。前者は年齢が上がればどの動物も経験する身体の変化です。後者は取るとかかりやすくなる病気が引き起こす身体の変化です。老化はある日突然に起こるわけではなく、毎日少しずつ進んでいきます。生理的な老化に病的な老化が加わると老化はより加速します。

次回は老化のサインの話です。


No.103 前十字靭帯断裂 2 Cranial Cruciate Ligament Ruputure (CrCL)

歩き方や痛みで前十字靭帯断裂を疑ったら、まずは触診によって確認します。患肢の筋肉の萎縮や膝関節内側部の肥厚、膝関節が腫れて動きにぐらつきが見られたら前十字靭帯断裂を疑います。また、『お座り試験(Sit test)』できちんとお座りができるかどうか。『膝の過伸展』で膝の痛みがないかどうかを確認し、整形学的検査の『前方引き出し兆候(Cranial drawer sign)』、『脛骨圧迫試験(Tibial compression test)』を行います。そしてレントゲン撮影を行い、実際に関節がずれている、関節包が腫れているなどの所見により診断を行います。関節鏡やMRIなどを行うこともあります。

治療は10Kg以下の犬で軽傷の場合は、安静、痛み止め、レーザーなどの保存治療で概ね上手くいきます(猫では体重が軽くても手術が必要な場合が多いです)。体重が多い場合、症状が重度の時、内科的な治療で反応が悪い場合は手術が推奨されます。

手術には関節内固定法、関節外固定法、矯正骨切り術、人工物を用いた靭帯再建術などの様々な手術法が議論されていますが、現在では15kgぐらいまでの犬に対しては術式も簡単で費用も比較的安い関節外固定法の1つであるラテラルスーチャー法、15kgを超える犬に対しては脛骨高平部水平骨切り術(TPLO法)が推奨されています(図参照)。

予防は体重管理と急な運動をさせないこと。また前述したように、膝蓋骨亜脱臼のある犬や高齢犬ではとくに注意が必要です。

前十字靭帯断裂まとめ
・犬で一番多い整形外科疾患
・前十字靭帯は脛骨が前に飛び出さないように制限している重要な靭帯
・体重の軽い犬は内科的治療
・体重の重い犬、猫は外科的治療
・予防は体重管理、急な運動を避けること

TPLO法模式図


No.102 前十字靭帯断裂 1 Cranial Cruciate Ligament Ruputure (CrCL)

犬の整形外科疾患で一番多いのが前十字靭帯断裂です。ヒトではサッカー選手やスキーの選手がよく前十字靭帯を痛めますが、犬でも小型犬から大型犬まで非常によく起こります。猫でもまれにみられます。

膝の上には太ももの骨、大腿骨が、下には脛の骨、脛骨があります。それぞれの骨の末端は軟骨で覆われており、間には半月板と呼ばれるクッションの役割をするものが挟まっています。大腿骨と脛骨は5つの靭帯でつながっており、最も太いのは膝のお皿(膝蓋骨)を介して前方にある膝蓋靭帯で、膝の内外側に一つずつ安定させるために内側側副靭帯と外側側副靭帯があります。さらに膝の中には前後の安定のために交差するように2つの靭帯があり、大腿骨の前方から脛骨の後方についている靭帯を後十字靭帯、大腿骨の後方から脛骨の前方についている靭帯を前十字靭帯といいます。前十字靭帯は大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように制限する重要な靭帯です(図参照)。

事故や激しい運動などによって急激な圧力が加わることが、前十字靭帯断裂の原因となります。急な運動も原因となることがあります。膝蓋骨亜脱臼がある場合は前十字靭帯損傷を併発しやすいといわれています。また、老化による靭帯の脆弱化や、肥満による膝関節への負担の増加も要因です。遺伝的要因もあります。

前十字靭帯が損傷すると痛みが生ずるため、足を上げたままケンケンで歩いたり、ひきずったりしてその足に体重をかけようとしなくなります。非常に軽い損傷であれば、ほとんど見た目にはわからないこともあります。軽い損傷であれば数日でその症状は消えますが、同じように足を使いつづけていれば完全に切れてしまうこともあります。もし完全に切れてしまうとその足は体を支えることができなくなってしまい、膝は正しく曲げ伸ばしをすることができなくなってしまうため、半月板が損傷して強い痛みが生じたり、通常と異なる方向に力がかかるようになるため関節が変形してくることもあります。
次回は前十字靭帯断裂の診断と治療の話です

犬の膝関節の模式図(内側側副靭帯と外側側副靭帯は省略)


No.101 気管虚脱と軟口蓋過長症2 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)

気管虚脱との合併症で多いのは、軟口蓋過長症です。軟口蓋というのは上顎の一番奥にある柔らかい部分です。ヒトではこの部分にノドチンコ(口蓋垂)があります。軟口蓋過長症はこの軟口蓋が長く厚くなり気管の入り口の喉頭蓋に被って空気の通りの邪魔をする状態です。好発犬種はブルドッグ、パグ、ボクサーなどの短頭種、キャバリア、ヨークシャー・テリア、マルチーズ、チワワなどにもみられます(気管虚脱の好発犬種と被ります)。やはり猫では稀です。軟口蓋過長症があると気道抵抗が増して気管虚脱を悪化させます。

軟口蓋過長症の特徴的な症状はいびきです。短頭種の犬でいびきの大きい犬は軟口蓋過長症を持っている場合がほとんどです。重症例ではチアノーゼや失神を起こすこともあります。

気管虚脱、軟口蓋過長症の治療は症状の重症度によりますが、急性の場合は、まずは酸素吸入が効果的です。薬剤としては、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張薬、ステロイド剤、鎮静剤などが使われますが、もともとが解剖学的な問題である病気なので外科的治療を選択する場合も多くあります。外科的治療の第一歩は、気管虚脱の犬すべてが軟口蓋過長症を持っているわけではありませんが、軟口蓋過長症をもっている犬に対しては軟口蓋の外科的矯正です。この手術は気管虚脱の手術に比べて短時間(通常15分程度)で行え、犬の負担も軽いです。この手術だけで気管虚脱の症状も改善される犬は多くいます。しかし、軟口蓋の矯正を行っても症状が軽減されなかったり、軟口蓋過長症を持っていない気管虚脱の犬で症状が重い場合は気管矯正術を行います。この手術は時間もかかり(通常3時間程度)犬の負担も大きいです。

当院では気管虚脱の内科的治療にホメオパシーを使用して良い結果が得られています。また、軟口蓋過長症を持っている犬に対しては去勢・不妊手術や歯石除去などを行うときに一緒に軟口蓋矯正術を行うことを推奨しております。また、このような呼吸器系の病気を持っている場合は高温多湿の時期や肥満は症状を悪化させるので、とくに注意が必要です。


No.100 気管虚脱と軟口蓋過長症1 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)

気管は上気道(外鼻腔、鼻腔、咽頭腔、喉頭)と下気道(気管支、細気管支、肺胞)を接続する適度な硬度と柔軟性を兼ね備えた筒状の導管です。この気管が硬度を失い潰れてしまうのが気管虚脱です。気管はC状の気管軟骨が輪状靭帯によって結合していて、背側面は2層の平滑筋からなる膜性壁によって構成されています。正常な状態では軟骨が9割、膜性壁は1割の割合です。気管虚脱はこの軟骨の脆弱化と膜性壁の下垂という2つの要素からなり(とくに前者が重要です)、ステージによってさまざまな狭窄を呈します(グレードI:正常の内腔より25%の内腔の減少、II:50%の減少、III:75%の減少、IV:75%以上の減少)。原因は解明されておらず、犬における発生は、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、トイ・プードル、マルチーズなどのトイ種に多いですが、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬、柴犬などの日本犬種とそのMix種にも発生がみられます。発生年齢も1~17歳とさまざまで、雄の発生がやや多いといわれています。猫では稀な疾患です。

症状は発咳と重症になった時の呼吸困難やチアノーゼ、失神です。初期の段階での咳は「カッカッ」「ケッケッ」などの乾性で喉に何か詰まってる、痰が上手く出ないような状態に見えます。発咳は一時的で、飲水時や興奮時、運動や高温多湿な環境によって誘発されます。続いた咳の最後に「カ~ッ」と痰を切るような仕草で終わることも特徴です。気管内の分泌物が多くなると湿性の咳変わってきます。虚脱が重度になると発咳は悪化して頻繁となり、気管虚脱の典型的な症状の1つの『ガチョウ鳴き様発咳:Honking cough』が起こります。これは伸長した膜性壁が速い呼吸によって振動して生じる、あたかもガチョウが鳴いているような「ガーガー」という大きな呼吸音です。この咳が出てくるとグレードIII以上の状態です。

診断は、前述の発咳の臨床症状と触診による発咳テスト、聴診、レントゲン検査によって行います。正確なグレード分類には気管内支鏡の検査も必要ですが、診断には通常は必要ではありません。

次回に続きます。


No.99 第14回飼主様向けセミナー

先日開催した第14回飼主様向けセミナーに参加いただいた皆様、本当にありがと うございました。今回は、米国獣医脳神経専門医の金園晨一先生に脳神経のお話をお願いしました。脳神経の基礎的なことと、主に椎間板ヘルニア、癲癇のお話 でしたが、有意義な時間になったでしょうか?

アンケートの質問の部分で、お名前のない方が数人いらっしゃいましたので、診察の時にでも おっしゃっていただければお答えしたいと考えております。また、ご要望の部分では、老齢動物のことを聞きたい。猫の話をして欲しいというご意見が複数あり ました。どういう形になるかはわかりませんが、今後、検討して、ご連絡したいと考えております。よろしくお願いします。


No.98 歯周病2 (Periodontal disease)

猫の吸収性病巣について簡単にご説明します。正しくは破歯細胞性吸収病巣といい、破歯細胞により歯が進行性に吸収される病変です。以前は齲歯だといわれていましたが、現在では違う病態だということが明らかになっています。ネックリージョンとも呼ばれています。症状としては、食欲低下、沈うつ、嚥下障害、口臭、疼痛などといわれていますが、経験上は、多くの場合吸収された部分が歯肉や肉芽組織で覆われているので無症状の猫が多いですが、病態が進めば前述のような症状がでてきます。原因としては、機械的刺激、免疫異常、Ca代謝の異常、栄養、炎症などが考えられていますが、よくわかっていません。

歯周病の治療のためには、歯石の除去や場合によっては抜歯が必要になります。歯石をきちんと除去するためには、動物の場合はほとんどの場合全身麻酔が必要となります。無麻酔での処置は歯の裏側やポケットの歯石がきちんと除去できませんし、前述のように骨が薄くなっている場合などには骨折や瘻管を作ってしまうおそれがあります。また、経験上、大きな歯石を除去すると腫瘍がある場合もあります。抜歯に関していえば無麻酔で歯を抜かれるなんて考えたくもありませんよね。

このような状態にならないように、日ごろのデンタルケアは重要です。最も基本的で効果があるのはやはり歯磨きです。しかし、いきなり歯ブラシを用いても犬や猫は嫌がります。最初はコミュニケーションの一環として、口の周りを触るのに慣れさせるところからはじめます。通常行っているブラッシングや頭をなでたりするとき、シャンプーのときなどに少しずつ口元にも触っていきます。そのときに口元を触らせたら誉めてあげたり、少量のおやつを与えます。それができるようになったら唇を反転させ口腔内に指を入れて歯の表面を触れることに鳴らしていきます。その次は歯の裏側を触られることに慣れてもらうというようにと少しずつ進めていきます。

口の中を触らせてくれるようになったら、まずはガーゼなどを指にまいて軽く歯をこすってみましょう。これが可能になったらいよいよ歯ブラシです。犬も猫もヒトに比べて歯の表面のエナメル質が薄いのでなるべく柔らかい歯ブラシを使用してください。ペーストは発泡剤の入っていないものを使っていただいても良いのですが、キシリトールの入っているものは絶対に使用しないでください。低血糖、肝障害を起こします。その他の口腔衛生商品、口腔内スプレー、口腔内洗浄剤、歯石付着予防療法食、デンタルガム、歯磨きガムなどはあくまでも歯ブラシによる歯磨きに併用するおまけだと考えてください。どんなに一生懸命に歯磨きをしても数年に1度は歯石を取る必要がでてきます。あまりひどい歯周病になる前に対処してあげてください。


No.97 歯周病1 (Periodontal disease)

3歳以上の犬猫のほとんどが歯周病であるといわれています。ヒトも犬も猫も口腔内環境は口腔内細菌と生体の組織防御機構の均衡によって維持されているのは同じですが、その環境は大きく異なります。

ヒトでの口腔内2大疾患は歯周病と齲歯(虫歯)ですが、犬では歯周病が多く齲歯は稀です。猫ではやはり歯周病が多く齲歯の発生はこれまで報告がありませんが歯の吸収性病巣は近年多くみられます。

歯周病がなぜ起こるかを考えてみましょう。歯周病は最初に唾液由来の糖タンパクが歯面に付着することでベリクルという被膜が形成され、その上にグラム陽性球菌が付着することから始まります。また、歯石も大きな原因の1つです。歯石は唾液中の炭酸カルシウムとリン酸カルシウムが歯垢の中に取り込まれ石灰化して歯石に変化します。犬猫の口腔内はpH8~9のアルカリ性(ヒトはpH6.5の弱酸性)のため、歯垢が歯石に変化しやすいと考えられています。犬では3~5日で、猫では1週間で歯垢が歯石に変化するといわれています。細菌や歯石の刺激で口腔内に炎症を生じると、歯肉辺縁より根尖部のいわゆるポケット(歯茎の裏側)の部分に歯石が入り込みます。この歯周ポケットは自浄作用を受けにくく細菌が停滞しやすくなります。このポケットの部分には嫌気性菌が優勢となり、様々な細菌が産生する代謝産物、酵素、内毒素などが歯肉に侵入し炎症を起こします。

ではなぜ、犬猫に齲歯がみられないのでしょうか。大きな理由は3つあります。まずは、そもそも歯の形態が違うこと、ヒトと違い犬猫の歯は短時間で採食するのに都合よくできており、隣どうしの歯の密着がヒトと比べると少なく、齲歯の原因となる細菌が歯の間に溜り辛いことになります。2つ目は、口腔内で歯周病を起こす細菌と齲歯を起こす細菌が違うことです。歯周病の細菌は前述のように各種の嫌気性菌で、齲歯の原因菌はStreptococcus mutans,Lactbacillusなどです。3つ目も前述の口腔内のpHです。酸性の環境では糖が口腔内にとどまりやすくなるため齲歯になりやすく、アルカリ性の環境だと齲歯にはなりにくのですが石は付きやすくなるといえます。

それでは歯周病を放置するとどうなるのでしょうか?まずは口臭の問題があります。ヒトの研究では、見えない審美として、快適な生活を送るうえで口臭は形態的な審美以上にQOLに与える影響は大きいという結果があります。口臭には大別すると生理的口臭と病的口臭があり、生理的口臭は口腔内を不潔にしていることや唾液分泌との関連(起床時に口の中が乾いている時や空腹時の口臭)が指摘されており、病的口臭は歯周病、口腔内腫瘍、口内炎によるものです。歯周病による口臭をしっかり除去するためには、ポケットの歯石を取らないと十分でないという研究データもあります。歯周病が進行すると歯周炎から根尖に病変が拡大していきます。歯の根っこが化膿して眼の下の皮膚に瘻管を作ったり(根尖部膿瘍)、犬の口腔と鼻腔を隔てている上顎骨の厚さは1~2mmしかないので、上顎歯の歯周病によってこの上顎骨が破壊されると口鼻瘻管となり鼻血がでたりします。また、小型犬では下顎の歯槽骨の重度の骨吸収が原因で歯周病性下顎骨折が起こる場合があります。この骨折は骨に細菌感染、炎症が生じているため非常に治り辛いです。また、ヒトの方でもいわれていますが、歯周病に関与するグラム陰性桿菌、内毒素、サイトカインなどの炎症性介在物質が全身循環に入り、心臓、肝臓、腎臓などに悪影響を起こします。

次回は猫の吸収性病巣と、歯周病の治療・予防の話です。