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No.59 雷恐怖症 Thunderstorm phobia

雷が鳴ると不安、脅え、パニック、問題行動を起こす犬や猫は、以外と多くいます。今回は雷恐怖症を考えてみましょう。花火恐怖症も同じような考え方ができます。

恐怖症を定義すると『実際の刺激とは不釣合いな、継続的な恐怖や不安などの不適応反応』です。雷恐怖症は軽度なもの(歩き回る、震える、隠れる、流涎)から重度なもの(パニック、逃避、破壊活動)まで様々な症状があります。パニックや破壊活動は動物もヒトも怪我をする可能性があります。多くの場合、雷恐怖症はだんだん悪化します。また、その子によって、雷、光、雨、風、暗闇などの実際の恐怖反応のきっかけは異なります。

基本的に動物は、強い恐怖や不安、脅えを感じると次のような生存反応をとります。

恐怖・不安・脅え→交感神経が活性化→副腎髄質からアドレナリン分泌→闘争or逃走

もう少し細かく全身を見ると、

行動:過剰な警戒、回避行動。ハンドリングや保定、撫でようとするだけでも攻撃が誘発されることがあります。

心臓:心拍数の上昇

内分泌:糖質コルチコイドの分泌上昇、血糖値の上昇

消化器:食欲不振、異常食欲、胃腸障害(流涎、嘔吐、下痢、しぶり、血便)

神経:活動性の増加、反復行動、振るえ、自傷

眼:瞳孔散大

肺:過呼吸

以上のような症状が見られます。雷恐怖症の原因はわかっていませんが、遺伝的傾向、過去の経験、学習などの全てがかかわっていると考えられています。また、分離不安などの他の問題行動を持っている動物は症状がひどくなる傾向があります。また、猫でも雷恐怖症はありますが、一般的には犬ほどひどい症状を出すことは稀です。

問題行動の治療の基本原則は


・不安の除去

・慣らすか忘れさせるか

・悪い行動は無視、良い行動にはご褒美
です。雷恐怖症でも同じです。具体的な対応として、不安の除去については、雷の音を聞かせない。窓を閉めて光を見せない。TVなどの音でごまかす。大好きなおもちゃで気を紛らわす。などの当たり前のことが基本となります。このような方法だけでうまく行く場合は良いのですが、激しい症状を示す場合は他の方法も必要となります。

雷を忘れさせることは出来ませんので、慣らすために雷の音の入った音源を用意します。聞こえるか聞こえないかの小さな音から聞かせて、その時にスペシャルなおやつを与えます。音を少しずつ大きくしていくわけですが、本当に少しずつ行って下さい。1回に30分の訓練をするより、5分ずつ毎日少しずつ行った方が効果はあがります。

また、訓練する時間がないし、本当にひどい症状を呈しているような場合は、薬剤を使用する場合もあります。

ベンゾジアゼピン系:短時間作用の抗不安薬。ジアゼパム、アルプラゾパム、クロラゼペートなど

セロトニン系:長時間作用の抗不安薬。フルオキセチン、バロキセチン、セルトラリン、クロミプラミン、アミトプチリンなど

フェロモン製剤:ドッグアピージングフェロモン(犬)、フェリウェイ(猫)

以上のような薬剤や製剤がありますが、当院では雷恐怖症にはホメオパシーを推奨しております。70~80%の犬に効果が出ます。簡単な投与で副作用もありません。ぜひご相談下さい。


No.58 外耳炎2 Otitis externa

外耳炎の治療のポイントは、対症療法と病因に対する治療があります。

対症療法

・異物(耳毛、耳垢、耳漏、寄生虫など)の除去:耳洗

・炎症の沈静化

・持続因子・悪化因子の除去:内科的、外科的対応

病因に対する治療(素因・原因への対応)

・外用療法、全身療法

どんな病気でもそうですが、外耳炎も軽度なうちは簡単に治癒しますが、病因が複雑な場合や慢性化したものは根気がいります。とくにブドウ球菌、緑膿菌などのやっかいな細菌の感染がある場合、ポリープなどによって耳道が狭められてしまっている場合、潰瘍を作っている場合、アトピーやアレルギーが関与している場合は治療に時間がかかることが多いです。また、アメリカンコッカースパニエル、フレンチブルドッグは、外耳炎が慢性化しやすい傾向があります。外耳道の外科が必要になる犬の80%以上がこの2品種です。また、スコティシュフォールド、アメリカンカールなどの耳の軟骨がもともと変性している猫も日頃のケアを十分にすることが必要です。

予防、お手入れのポイントは、

異物の除去:耳毛、耳垢の除去

洗浄:ベトつかないものを使用する。合剤を使用しない。

この2点が重要です。

耳毛は、毛の生えやすい品種、そうでない品種いろいろありますが、基本的には、1ヶ月に1度くらいの割合で抜くか切るかすることが必要です。

洗浄は、油性のものは奥まで届きませんし残ってしまうことがあるので、日々のケアには向きません。また、抗生剤+抗真菌剤+ステロイド剤などといった合剤の使用を漫然と続けていると、ブドウ球菌、緑膿菌などの薬剤耐性菌の出現や薬疹のリスクが高まります。必ず刺激の少ない洗浄液を使用しましょう。また、外耳道は粘膜なので、毎日触ってしまうと、トラブルが生じやすくなります。症状がある耳では週に1~3回、健康な耳の場合は月に2~4回ぐらいのケアが適当です。

また、綿棒などで耳をほじくるのは、うまくやらないと汚れを耳の奥に押し込むことになります。洗浄液を入れて、出てきた汚れをふき取るようなイメージで行って下さい。


No.57 外耳炎1 Otitis externa

よくある犬猫のトラブルの1つは外耳炎です。外耳は輪状軟骨、楯状軟骨、耳介軟骨という3つの弾性軟骨が組み合わさってできています。

動物の耳を覗いたときに、最初に見える比較的平たい部分を舟状窩(せつじょうか)、少し下に行ってヒダヒダが多くなって来たところを耳輪脚(じりんきゃく)と言い、この舟状窩と耳輪脚で耳介を形成しています(ちなみに耳輪脚のヒダヒダは、耳を縦に閉じるとうまく重なるようにできています)。耳輪脚の先が外耳道です。外耳道には縦の道(垂直外耳道)と横の道(水平外耳道)があり、その奥に鼓膜があります。

外耳炎の主な原因は

・外傷:自傷(自分での掻き壊し)、人為的(人による不適切なケア)

・脂漏のある湿疹:脂漏性皮膚炎(マラセチア)

・脂漏のない湿疹:アトピー、アレルギー(食物、寄生虫)

・その他:異物、感染症(疥癬、細菌、真菌)、免疫介在性疾患

以上のようなものが挙げられます。また、

外耳炎の素因としては

先天的要因として

・構造異常:狭い耳道、耳毛、下垂した耳介、深い耳輪脚

・機能異常:脂漏症、アトピー素因

・犬種:アメリカンコッカースパニエル、フレンチブルドッグ、スコティシュフォールド、アメリカンカール

後天的要因として

・環境要因:気候的要因(季節)、人為的要因(人による不適切なケア)

・身体要因:機能的要因(内分泌異常)、構造的要因(ポリープ、腫瘍)

以上のようなものが言われています。また、外耳炎がひどくなって慢性化してしまうのは、以下のような場合です。

慢性化してしまう因子(持続因子・悪化因子)

・薬疹

・二次感染:ブドウ球菌、緑膿菌

・外耳の病理学的変化:表皮肥厚、慢性炎症、潰瘍、耳垢腺の増生、石灰化

・中耳の病理学的変化:鼓膜穿孔、中耳炎、真珠腫

また、耳の痒みを放置すると、動物が激しく頭を振ることで耳介軟骨の骨折が起こり、その結果として軟骨内に激しい出血が起こることがあります。この状態を耳血腫といい、しばしば外科的な対処が必要となります。

一言で外耳炎と言っても、なかなか複雑ですね。

次回は治療・予防の話です。


No.56 慢性腎臓病(CKD)2

CKDの症状は病期(ステージ)によって異なります。早期では無症状のことが多いです。腎臓の障害が進むに連れ、多飲多尿(PUPD)、体重減少、食欲不振、貧血などが顕著になってきます。ステージが進んでしまうと、体内の不要な物質を尿から排泄できなくなり、尿毒症に陥ります。尿毒症の症状は、嘔吐、乏尿(尿が少なくなること)、虚弱、筋肉の減少、などです。最終的には、痙攣、昏睡などの症状が出て命を落とします。

IRIS(International Renal Interest Society)のCKDステージ分類

ステージ1 (残存腎機能33%):早期腎臓病期;血液検査異常なし

ステージ1~ステージ2 (残存腎機能25%):腎機能不全期;低比重尿、GFR(糸球体濾過率)の減少、血液検査異常なし

ステージ2~ステージ3(残存腎機能10%):早期腎不全期;低比重尿、BUN(血中尿素窒素)の軽度上昇

ステージ3~ステージ4(残存腎機能5%):尿毒症期;BUNの中等度から重度の上昇

ステージ4~:終末腎不全期;生命維持に透析ないし腎臓移植が必要

CKDの診断の難しいところは、腎臓の状態がかなり悪くなるまで症状がわかり辛いところです。一般身体検査に加えて、血液検査(BUN、CRE、Htなど)、尿検査、レントゲン検査、超音波検査、血圧測定、バイオプシー検査などを、必要に応じて組み合わせて診断を行いますが、上記のように腎機能の残りが33%ぐらいまでに落ちても、なかなか検査に引っかかってきません(早期発見にはGFRの検査が有効とされていますが、カテーテルを入れるなどの制約が多く、実際には実施し辛い検査です)。個人的に、CKDの早期発見には、多飲多尿(PUPD)の症状、低比重尿、血圧測定が重要だと考えています。

CKDの治療は原因疾患やステージ、合併症の有無によって異なりますが、

・ストレスを避ける

・療法食

・十分な水分摂取

・原因疾患の治療

・球形吸着炭製剤

・輸液

などが、中心となります。進行したCKDには輸液が重要になります。飼主様に、ご自宅での輸液のやり方をご指導させていただいて、実施していただいている方が、たくさんいらっしゃいます。輸液を覚えていただくと、生存期間の延長やQOL(生活の質)の改善が飛躍的に見られます。また、大学病院では、透析、腎臓移植などの研究と1部の実施がされていますが、透析は時間と費用の問題、移植は倫理的な問題があり、実際には、まだ、困難です。


No.55 慢性腎臓病(CKD)1

心臓疾患や腫瘍とならんで、高齢になった動物たちの生命をおびやかす病気の1つに慢性腎臓病(CKD)があります(以前は慢性腎不全と呼ばれていました)。CKDは『両側あるいは片側の腎臓の機能的、もしくは構造的な異常(両方の場合もあります)が3ヶ月以上続いている状態』と定義されています。CKDは早期に診断・治療することで、生存期間やQOL(生活の質)の改善ができることが明らかになっています。

CKDの主な原因としては

先天性(遺伝性・家族性)

・腎低形成・異形成、多発性腎嚢胞

・犬:バセンジー(近位尿細管再吸収障害)、コッカー・スパニエル(IV型コラーゲン欠損)、サモエド(IV型コラーゲン欠損)、ドーベルマン(家族性糸球体症)、ラサ・アフソ(腎異形成)、シー・ズー(腎異形成)

・猫:アビシニアン(腎アミロイドーシス)、ペルシャ(多発性腎嚢胞)

免疫疾患

・全身性紅班性狼瘡(エリテマトーデス)

・糸球体腎炎

・血管炎(FIPなど)

アミロイドーシス

腫瘍

腎毒性物質の摂取

腎の虚血

炎症、感染症

・腎盂腎炎

・レプトスピラ症

・腎結石

尿路閉塞

特発性(原因不明)

CKDでは、上記のような原因によって、慢性的に腎障害が進行し、その修復過程におこる線維化(糸球体硬化と尿細管と間質の線維化)を伴って、やがて大部分のネフロン(腎単位)が消失し、尿毒症に陥ります。

次回に続きます。


No.54 動物が快適な気温・湿度

去年も書きましたが、この時期、暑さが原因で体調を崩している動物がたくさんやってきます。熱中症・熱射病もそうですが、気温や湿度が上がり過ぎ、体に負荷がかかると、貧血や白血球の上昇(軽いショック状態のため)、痒みなども出てきます。

品種や年齢、体毛の長さ、持病の有るなし、気流(風通し)にもよりますが、犬の場合、快適な気温は20~24度、湿度は40~60%といわれています。最高でも室温25度以下、湿度60%を超えない環境が必要です。扇風機はそれだけではあまり役に立ちません。横浜市在住の方はほとんどの場合、エアコンが必要になるでしょう。また、お散歩も、日の出前、日が沈んで2時間以上たって、アスファルトが熱くなくなってから行くなどの配慮も必要です。パット(肉球)の火傷も防げます。

猫の場合は、砂漠地方の出身で、犬よりも暑さに強いと考えられていますが、やはり、室温25度以下、湿度50%以下の環境が良いようです。とくに、ふだんから、あまりお水を飲まないタイプの猫ちゃんは注意が必要です。日向ぼっこをしながら、水を飲むのを忘れてしまい、熱中症になってしまう猫ちゃんもいるぐらいです。これは、猫が砂漠地方の出身なので水を飲む習慣があまりないから。などと説明されています。

他の動物では、ウサギは気温16~22度、湿度30~60%。ハムスターは20~26度、40~60%。フェレットは15~24度、40~60%。プレイリードッグは18~24度、30~70%。モルモットは18~24度、50~60%。セキセイインコは20~28度、40~60%。文鳥は25~28度、50~60%。がお勧めです。参考になさって下さい。

こうして見ていくと、冷房が苦手な方にとっては、少し寒過ぎる設定ですね。もちろん、節電も大事な時期です。無駄はよくありませんが、最低限、動物たちが病気にならない環境は維持したいものです。


No.53 近いものほど

中部大学の武田邦彦先生のお話が興味深かったので引用させていただきます。

ヒトには、近いものほどバカにするという特徴があるそうです。とくに成長期、仕事を覚える若い時期などに顕著に見られるそうです。

例をあげると、学生時代には、自分のことを1番良くわかってくれて、1番親身に考えてくれるはずの『親』がうっとうしく、親より少し離れた『友人』の意見を尊重し、直接は接点のない『偉い人』の話はとてもよく聞く。また、就職して会社に慣れてくると、直接仕事を教えてくれた『身近な上司』のことをバカにして、『同僚』と自分たちに都合の良い意見(上司の悪口)を交わして鬱憤を晴らし、対して会ったこともない『業界の権威者』には尻尾を振る。というようなことです。

良い悪いではなく、これが、ヒトというものだそうです。一見、動物の話には関係なさそうですが…

毎年、多くの犬猫が殺処分になっていることは、みなさんもご存知だと思います。去年、神奈川県だけでも、犬515頭、猫4924頭、合計5439頭(行政や各団体の方々の努力で、全国的に見れば少ない方ですが)もの犬猫が殺処分を受けています。

行政の方々にとっても、すごく嫌な仕事だと思います。このようなことをマスコミは積極的には取り上げませんし、殺処分が少しでも減るため使われている税金も、まだまだ少ないのが現状です。一方、ホッキョクグマやパンダやトキについては、ちょっとしたことで多くの時間を使った報道がなされますし、注目度も高いです。また、パンダはレンタル料は1年1頭約1億円。トンボでもモグラでもネズミでも、命の尊さは同じだとは思いますが、ヒトと1番近くて仲良しのはずの犬や猫が、現在も、これほどたくさん殺処分されていることは悲しい現実です。納得できません。絶滅危惧動物を守ることと同列に語ることではないかも知れませんが、犬猫をはじめ、ヒトに身近な動物たちのことを、もう少し、しっかり考えるべきではないでしょうか。


No.52 食欲不振

食欲不振は様々な原因によって引き起こされます。重大な疾病であることもあります。一般的にはいろいろな病気の初期症状として現れます。食欲不振の症状のみで原因を特定することは困難な場合が多いのですが、まずは、最初のステップとして『病気が原因ではなく食べない状態』なのか『食欲がなくて食べられない状態』なのか『食欲はあっても食べられない状態』なのかを考えます。

『病気が原因ではなく食べない状態』というのは、普段から与える食事が多過ぎる場合や、選り好みの多い場合、急な食事の変更、運動不足、ストレス(ストレスは心の病気ですが)になるような環境の変化(新しい動物が来た、結婚などでヒトの家族が増えた、引越し、別離、離婚、死別)などが原因です。

『食欲がなくて食べられない状態』には、内臓系の疾患を含め多くの原因が存在します。まずは、急性なのか慢性的に食欲がないのかを判断し、他の症状(とくに体重減少、脱水、嘔吐、下痢、発熱、神経症状などは重要です)や、その動物の品種や病歴をよく吟味します。よくある原因としては、脳神経疾患、嗅覚の消失、痛み、各種臓器(心、肺、腎、肝、膵、脾、胃腸、血液)の疾患、感染・炎症、腫瘍、中毒、内分泌疾患、寄生虫などがあります(ほとんどの病気ですね)。

『食欲はあっても食べられない状態』という中で最もよく見られるのは、歯石が溜まり過ぎてひどい歯肉炎が起こり、口が痛くて食べられない場合です。この場合は悪臭と流涎が見られます。また、顎の骨折、咀嚼筋の異常や三叉神経麻痺などの口腔野の運動障害も原因となる場合があります(嚥下障害)。前庭障害などにより眼振が起こってしまった時もこの状態になります。

どの状態においても、必要に応じて、血液検査や尿検査や便検査、レントゲン検査や超音波検査、内視鏡などの検査を考慮します。これらを総合的に判断して原因を探します。治療法は原因、重症度によって変わりますが、どのような病気でも、早期に発見出来れば治癒率が高いことは言うまでもありません。


No.51 痛みについて3

動物の痛みの分類をしてみます。

性質による分類

・急性痛:障害、損傷によって認められる痛み。鋭く激しい。

・慢性痛:長期間持続している痛み。ズーンと痛い。じわっと痛い。

・癌性疼痛:癌やその治療に関連して生じる痛み。急性、慢性両方の性質を持ち、強い痛みが長期間持続する。痛みを完全に取り除くことが困難。

部位や原因による分類

・体性痛:骨、関節、皮膚などの損傷による痛み。鋭く疼くような痛み。急性痛とほぼ同じ。

・内臓痛:内臓を引っ張ったり、膨らませたり、炎症による痛み。ズキズキ、シクシクなどと表現されます。

・関連痛:実際には障害を受けていない部位や痛みの原因となっている部分から離れている場所で感じる痛み。深い部分の体性痛や内臓痛から引き起こされ、ゆっくりと進行します。

・異痛:軽くなでたり触ったりする程度の、通常は痛みにならないような刺激を痛みと感じてしまうこと。急性痛や体性痛がきちんと治療されていなかったり、軽い痛みが繰り返し加えられると起こることがあります。

・筋筋膜痛:硬直や筋痙攣、こわばり、関節の可動性の減少などと関連して、筋肉や筋膜、周囲組織に生じる痛み。

・神経性疼痛:神経への直接的な障害による痛み。激しくズキズキした痛み。

痛みにもいろいろな種類がありますね。最後に、痛みの客観的な測定法をご紹介します。いくつかの種類がありますが、『動物の痛み研究会』が作成した急性痛のペインスケールが良くまとまっています。いつもと様子が違って、以下のような症状が見られたら、お早めにご相談下さい。

犬の急性痛のペインスケール

レベル0:痛みの徴候は見られない。

レベル1(軽度の痛み):ケージから出ようとしない。逃げる。尾の振り方が弱い。人が近づくと吠える。反応が少ない。落ち着かない。寝てはいないが目を閉じている。元気がない。動きが緩慢。尾が垂れている。唇を舐める。術部を気にする。ケージの入口に尾を向けている。

レベル2(軽度~中程度の痛み):痛いところをかばう。第3眼瞼の突出。アイコンタクトの消失。自分からは動かない。じっとしている。食欲低下。耳が平たくなっている。立ったり座ったりしている。

レベル3(中程度の痛み):背中を丸めている。心拍数増加。攻撃的になっている。呼吸が速い。間欠的に唸る。震えている。頬に皺をよせる。体に触れると怒る。流涎。横になれない。過敏。術部を触ると怒る。

レベル4(中程度~重度の痛み):持続的・間欠的に泣き喚く。全身の硬直。持続的に唸る。食欲廃絶。眠れない。

猫の急性痛のペインスケール

レベル0:満足していて静か。快適。周囲に興味がある。術部や体に触れても痛がらない。

レベル1(軽度の痛み):症状は微妙。引きこもり。周囲に興味がない。触診に反応したり、しなかったり。

レベル2(軽度~中程度の痛み):丸まって寝ている。被毛は粗剛。食べ物に興味なし。触診に対して攻撃的に反応したり、逃げたりする。

レベル3(中程度の痛み):物悲しく鳴く。動こうとしない。触診に対して唸ったりシャーという。

レベル4(中程度~重度の痛み):周囲に反応しない。ケアを受け入れる。触診に反応しない。


No.50 痛みについて2

前回、痛みは生命を守る重要な感覚であるということをご説明しました。では、痛みを取り除く必要はないのでしょうか?実は、一昔前まで、動物の痛みは取り除く必要はないという考え方が一般的でした。お腹を開けるような大きな手術をしたあとに、すぐに立ち上がって歩き回ったり、ヒトなら気絶しそうな大怪我を負っていても食欲があったりする動物たちの姿をみて、動物は痛みに強い。痛みを取らない方が少しは大人しくしていて怪我の治りも早くなるから痛みを取る必要はない。などと考えられていました。しかし、現在ではそのようなことはありません。たしかに、痛みがあれば動物は大人しくしてくれるため、手術の傷口などには安心感はありますが、痛みがあることによって様々な生体への不利益もあることがわかってきています。主なものをご紹介します。

・感覚的側面:気力の低下、不安感→痛みの感覚の増強

・呼吸器系:肺活量低下、肺のふくらみやすさの低下→換気量の低下

・循環器系:交感神経の緊張→心拍数・血圧の上昇、心臓への負担の増加

・内分泌系:コルチゾールの分泌促進→ストレス反応の促進、心拍数・血圧の上昇

・代謝:異化亢進→栄養状態不良、痩せる、傷の治りが遅くなる

・その他:食欲低下、活動性の低下、血液凝固能の促進→血栓形成の危険性の増加

上記以外にも多くの理由が証明されてきていますが、そんなことよりも、痛いのはかわいそうですよね。痛いままにしておくのではなく、動物の痛みも取ってあげなければなりません。5年ほど前から、動物用の良い鎮痛剤が多くのメーカーから発売されています。現在では、手術をするときに、鎮痛剤を投与しないで行うことは全くと言って良いほどありませんし、関節炎やお腹の痛みなどの場合にも、鎮痛剤は積極的に使用します。ただし、ヒト用の鎮痛剤をそのまま動物に使用すると、まずい場合が多々あります。ご注意下さい。

痛みの感じ方をもう少し詳しく見て行きましょう。まずは、タンスに足の小指をぶつけてしまったときのことを想像してみて下さい(想像するだけで痛いですよね)。このとき、足の小指と周辺の組織は、ぶつかった衝撃で障害され、その障害がそこにある神経に伝達されます。この組織に障害を与える刺激を『侵害刺激』と呼び、その障害を受ける場所を『侵害受容器』と呼びます。『侵害刺激による侵害受容器の刺激』が傷みを感じる第一歩です。次に、ぶつけたことによって生じた侵害受容器の刺激の情報は、神経を通って伝わって行きます。ぶつけた指の周辺の神経からの刺激は脊髄(背骨の中の神経)の中に入り、大脳に伝達されます。大脳へ向かう途中、延髄、中脳を経由します。そして、大脳に伝達された刺激は、大脳新皮質感覚野に入り『痛いっ!』と認識されます。

このように、ぶつけた衝撃により神経が刺激される→刺激された神経の情報が伝達される→脳へ到達した刺激が感覚として認識される。という流れが、痛みを感じるメイン経路です。同時に、ぶつけた小指は腫れたり熱を持ったりしていきます。これは、ぶつけた衝撃で、小指とその周辺の組織に炎症性メディエーターといわれる化学物質が出るためです。こちらも、最初の刺激のように大脳に伝達されます。今度は伝達される神経の種類が異なるため、ぶつけたすぐあとではなく、少し経ってからジワジワと痛いと感じることとなります。

痛みを感じると、さすりたくなりますよね。そのときに、ぶつけた部分だけでなく、周囲もさすってしまうのはなぜでしょうか?これは、さすることにより痛みの伝わる感覚をごまかしているのです(ゲートセオリーと言います)。さすることで痛みの刺激が脊髄に入ることを押さえ、さすることによる振動で大脳での痛みの感覚の認識をごまかしているのです。その他にも、体には自らで痛みを抑制する働きがあり、これらは、大脳が全ての痛みの刺激を一手に受け、大きなストレスにならないようにするために働いています。

次回に続きます。