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No.29 心臓疾患時の徴候1

犬も猫も、心臓のトラブルは思いのほか多いものです。心疾患時に見られる症状についてご説明します。

倦怠感、運動不耐

簡単に言えば『元気がない』ことです。もちろん、心疾患でなくても、多くの病気で元気がなくなります。心疾患で起こる場合は、心臓からの血液の拍出量低下に伴い、各臓器や組織の代謝に必要な酸素が供給出来なることが原因です。

もちろん、咳も、心疾患時のみに見られるわけではありませんが、主に心臓の左側(左心系)、左心房、左心室といった場所に問題がある場合に咳が出ます。高齢の犬に多い僧帽弁閉鎖不全症では左心房が拡大します。拡大した左心房が左気管支を圧迫刺激することにより咳が出ます(このタイプは、治療しても咳が止まり辛いです)。また、左心系のトラブルにより肺の血圧が上がり(肺うっ血)、これがひどくなると肺に水が溜まります(肺水腫)。これらの場合も咳が出ます。

一般的には、夜間に咳が始まる場合が多いです。これは、心臓が昼間は交感神経優位で動いていて、夜は副交感神経(迷走神経)優位で動くからだと言われています。交感神経と副交感神経を自律神経と言います。自律神経は自分の意思で動かしていない神経のことです。心臓の他には、肺、気管支、胃腸や肝臓、胆嚢、生殖器などにも分布しています。心臓では、交感神経が主に促進系を、副交感神経が主に抑制系を司っています。つまり、夜の方が心拍数が、ゆっくりになります。心臓はゆっくりの方が同じリズムを続けるのが不得手だと言われています(不整脈なども夜の方が出現しやすいです)また、前述のように、気管支にも自律神経があり、やはり、夜は副交感神経が優位です。気管支は副交感神経が優位だと収縮しやすくなります。気管支が収縮すると咳は出やすくなります。このようなメカニズムで、副交感神経優位の時間帯である夜の方が咳は出やすくなります。

また、心臓の話ではありませんが、猫の咳はアレルギー性の喘息で起こっていることが非常に多くあります。

呼吸困難

心疾患により、肺水腫が生じたり、血液の循環が悪くなって、胸に水が溜まったり(胸水)、お腹に水が溜まったり(腹水、後述します)すると、だんだん呼吸困難の状態になって行きます。パンティングとも言います。重度になると、寝ているよりも座っている方が呼吸が楽なので(横になると、片側の肺が圧迫されるため)、お座りの状態を続け(犬座姿勢)、眠れません。

高齢猫の場合、甲状腺機能亢進症でもパンティングが見られることがあります。

次回に続きます。


No.28 ウサギの不正咬合

ウサギの飼主さんに『メルマガにウサギがほとんど出てこない』と言われました。今回はウサギに一番多いトラブル、不正咬合についてです。

ウサギの全ての歯は一生伸び続ける常生歯です(無根歯とも呼びます)。ちなみに、成獣の歯の数は全部で28本で、生後約40日で乳歯から生え変わっています。常生歯は、チンチラやモルモット。ハムスターやラット、プレイリードッグの切歯(前歯)。象やイノシシの牙(犬歯)にも見られます。

不正咬合の病態は、先天的(遺伝的)、後天的な原因(事故、いつも金網などを齧っている、牧草を食べておらず、歯の運動が出来ていないなど)により、歯が変な伸び方をして噛み合わせが悪くなり食事をとり辛くなります。また、過剰に伸びた歯が、唇や舌や頬の内側を傷つけ口腔内が痛くなり、よだれが増えたり食欲が減退します。重度になると、歯の根っこに膿みを持ったり、咀嚼が上手くいかずに下痢を起こすなど、様々な問題が生じます。歯って大事なんですね。

診断は、飼育環境や食事を詳しく聞かせていただき、口腔内を口腔鏡で観察することやレントゲン検査などで行います。軽症の場合は内科的な治療によって口腔内の痛みを取り除き、歯の運動を再開させ磨耗をうながしますが、重症例では歯を削ることが必要になります。歯を削る場合に、切歯(前歯)の場合は麻酔は必要ありませんが、臼歯(奥歯)の処置には、基本的には全身麻酔が必要となります。

予防は、飼育環境の整備をして、歯に対する事故を防ぐことと、イネ科の牧草のチモシーを食べてもらって、なるべく、歯を使ってもらうことです。とくに、小学校などで、ウサギを飼育している場合、給食の残りで育ててしまっていると不正咬合が生じやすくなります。何校かの小学校でウサギの話をさせていただきましたが、残念ながら、小学生の先生方はこの知識がない場合が多く、たくさんのウサギが不正咬合になっている状況です。小学生のお子様がいる方は、機会があれば、学校のウサギちゃんにも注意してあげてみてください。


No.27 猫の毛玉症と猫草

前回に嘔吐の話を書きましたが、猫草を使って毛玉を吐かせる。ということを聞いたことがある方は多いでしょう。猫草は一般には燕麦やエノコログサなどのイネ科の植物です。ペットショップなどでも普通に購入できます。

たしかに、猫は猫草で毛玉を吐いてスッキリ。という顔をすることもありますが、月に2、3回ぐらいならともかく、頻繁に与えすぎると、様々な問題が起きます。

まずは、吐くことを続けていると食道炎が起こります。胃酸は強い酸性液です。食道は胃酸に耐えられません。食道炎が重症になると、食道が狭くなってしまったり、拡張したりして、非常に治療が難しい状態になってしまいます。

また、年配の猫や、病気で弱っている猫の場合は、吐ききれないで肺に吐物が入ってしまい、誤嚥性肺炎を起こしてしまう場合があります。

もう一つ、最近、よく言われるようになったのは膵炎です。吐くときは胃の中と十二指腸の中の圧力が上がります。十二指腸には膵臓から膵液が膵管を通って出てきます。十二指腸の内圧が上がると、膵液が膵管内を逆流し膵臓にダメージを与えます。猫は膵管の出口と肝臓から胆汁を運んでくる胆管の出口が非常に近いので、膵炎が重症化すると、胆管にもダメージが出て胆汁が流れなくなり閉塞性の黄疸が起こります。

以上のような理由から、猫草はなるべく使わず、ブラッシングをよくして毛を体内に入れないこと、ラキサトーンのようなもので入ってしまった毛を流してあげることが、猫の毛玉症の予防となります。ブラッシングの嫌いな長毛種の猫の場合は、定期的に毛を短くカットすることもお勧めです。また、ラキサトーンはウサギにもお勧めです。ウサギの毛玉症(正しくは食滞)は、パパイヤやパイナップル製品で予防することは困難です。


No.26 嘔吐と吐出

『うちの○○ちゃんは、よく吐くんですが、大丈夫ですか?』

非常に多いご質問です。大丈夫かどうかは、当然、原因によりますが、

『犬でも猫でも、月に2、3回でその後ケロッとしていて続かないなら様子をみても大丈夫でしょう。週に2、3回になってくるようなら原因を調べたほうが良いと思います』

と、お答えしています(ちなみに、ウサギちゃんが吐いている場合は大変です。ウサギは食道の構造上、通常は吐くことが出来ません。重篤な状態です)

動物が吐いている場合、まず、考えるのは嘔吐なのか吐出なのかです。吐出は食べ物が胃まで行かずに吐き出されることで、嘔吐は胃や十二指腸(胃の次の腸、最初の小腸)の内容物が吐き出されることです。

吐出の時は食べてから短時間に食事がそのまま吐き出されます。原因の多くは、食道拡張症、巨大食道症、食道内異物、食道炎、食道腫瘍などの食道疾患です。また、先天性の心臓の病気で右大動脈弓遺残(PRAA)も有名です。いずれにしてもきちんとした検査が必要です。実際の臨床現場では、リンゴや梨、キャベツの芯、ジャーキー、骨などを丸飲みしてしまい食道で突っかかってしまっている場合が多いです。食道では消化液は出ませんので、内視鏡などにより取り出すか、胃の中まで送ってあげる処置をします。上記のようなおやつを与える場合は大きさに注意して下さい。

嘔吐は、胃液だけの場合は透明~白っぽい液体です。胆汁が混ざると黄色っぽくなります。消化の始まった食べ物に胃液や胆汁が付いて吐き出されることもあります。重篤な疾患では血液が混ざり赤~赤黒くなることもあります。

透明~白っぽい液体のときは、お腹の空き過ぎや軽い胃腸炎、何か胃腸とは別の原因で気持ちが悪いこと(肝障害、腎障害、車酔いなど)を最初に考えます。

黄色っぽいものの場合は胆汁が色を付けています。胆汁は肝臓の中の胆嚢から胆管を通して十二指腸に送られる消化液です。また、十二指腸内の胆汁の出口のすぐ隣には、膵臓からの消化液の出口もあるので、胆嚢や胆管、膵臓のトラブルなども考えます。膵炎は犬にも猫にも最近大変多くみられます。もちろん、十二指腸自体が悪い場合もあります。リンパ球形質細胞性腸炎、リンパ管拡張症、IBD、リンパ腫など、たくさんの疾患があります。

食事と一緒に吐く場合、食事をすると吐いてしまうような場合は異物も考慮に入れます。異物を食べてしまっている場合も大変多いです。おもちゃ、果物の種、紐、コイン、靴下、下着、などなど…。中毒にならないもので胃の中で転がっているような異物は緊急性はあまりありませんが(もちろん、早急に取り除くべきですが)。紐のように腸を手繰ってしまうもの、小腸でストップしてしまっているもの、尖っていて胃腸を突き破ってしまうおそれがあるものなどは緊急疾患です。内視鏡や手術で取り出します。一昔前は吐剤を使って吐かせる処置も行っていましたが、誤嚥のおそれがあるため現在では推奨されません。また、内視鏡で取り出せるものは直径3cmぐらいのものまでです。異物摂取にはくれぐれも注意して下さい。

吐物に血液が混ざっていたら、胃潰瘍や、重篤な感染症、悪性腫瘍などの疑いも出てきます。重症の場合が多いです。一刻も早い処置が必要になります。


No.25 アトピー3

シクロスポリンA(CsA)

シクロスポリンは主としてヘルパーT細胞によるサイトカイン(免疫や炎症に関与する物質)の産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。もともとは臓器移植の患者さんのために作られた薬です。1ヶ月の間、毎日1回飲んで、状況が改善したら減薬していきます。1ヶ月で約70%の症例で効果が出ます。副作用は、最初に下痢や嘔吐などの消化器症状や食欲減退がみられることがありますが、徐々に消失することが多いです。大きな副作用はありません。猫にはとくに効果的な印象があります。問題点はインターフェロンγほどではありませんが、こちらも導入期のコストが高いことです。大型犬になるほど大変です。

ステロイド剤

T細胞への関与やサイトカインの合成抑制などによって炎症を鎮めます。安価ですぐに効果が発現し、ほとんどの症例で症状が改善する便利な薬ですが、問題は長期投与が必要となったときの副作用です。だんだんと効果が減ってくる(薬が増えてしまう)、肝機能障害、副腎疾患、糖尿病、皮膚が薄くなるなどの問題が生じます。何度も繰り返し起こってしまうアトピーの場合は投与を注意しなければなりません。薬が増えてしまうような状況のときは、別の治療を考慮する必要があります。

アトピーの治療は、シャンプーと前述の3つの薬剤(インターフェロンγ、シクロスポリン、ステロイド剤)が基本となりますが、細菌感染があれば抗生剤、真菌(とくにマラセチア)の感染があれば抗真菌剤、炎症性物質を調整する必須脂肪酸製剤やビタミンEやサプリメント、漢方薬を併用する場合もあります。また、どうしても上手く行かない場合はホメオパシー治療も効果的です。ホメオパシーも上記の全ての薬と併用できます。問題点は時間がかかることが多いことです。

アトピーの治療をまとめると

・まずは症状にあったシャンプーによるスキンケアをしっかり行う。

・除去食試験で食物アレルギーを除外する。

・減感作療法をしたい場合は皮内反応試験を行う。

・コストの問題がクリア出来るなら、若い動物の場合はインターフェロンγを、年配の胴部にはシクロスポリンを始めてみる。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、コストの問題がある、急いで痒みを止めたい、季節性があって暑い時期だけの痒みの場合などは、ステロイド剤を副作用に気をつけて使用していく。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、なるべくならステロイド剤を使いたくない、時間がかかってもよいなどの場合には、ホメオパシーなどの他の治療法を検討する。

といったところでしょうか。

他の項でも同様ですが、獣医学は日進月歩です。どんどん、新しい学説、エビデンス、検査法、治療法、薬が出てきます(もちろん、必ずしも新しいものが良いことばかりじゃありませんが)。半年も経てばこの項の内容もかなり違ったものになると思います。痒いというのは非常に辛いことです。もっと効果的で副作用が少なく安価な治療法が発見されて欲しいですね。


No.24 アトピー2

アトピーが疑われた場合に行う最初のステップは除去食試験です。今まで摂取したことのないたんぱく質や、人工的に合成したたんぱく質のフードを2~3週間食べてもらいます(一昔前は、2~3ヶ月の期間の試験が必要といわれていましたが、現在では2~3週間で十分だといわれています)。その間の注意点は、水とそのフード以外はおやつも含め、他のものはいっさい与えないことです。内服薬も使いません。シャンプーはOKです。25%ぐらいがこの試験にひっかかります。2~3週間で改善が見られた場合は、食事に気をつけることと、シャンプーで管理をしていきます。一般的に食物アレルギーの場合は、1歳未満から発症している。最初に顔面(とくに眼と口)と背中、肛門の周りから発症した。便の回数が多い(1日3回以上)。季節性がない。などが特徴です。

除去食試験で、食事が主な原因でない、食物アレルギーでないと判断された場合は薬物を使った治療になります。主なものをご紹介します。

シャンプー

アトピーの治療で、シャンプーは非常に大事です。以下に解説する全ての薬と併用します。ベタベタと湿っている、カサカサと乾いているなどの症状に合わせてシャンプー剤や保湿剤を選択し、可能なら週に2~3回行います。詳しくはシャンプーの回をもう一度ご覧下さい。最終的にシャンプーだけでアトピーの管理が出来れば理想的です。

減感作療法

皮内反応試験を行った場合は、減感作療法を行うことが可能です。薄い抗原から徐々に濃い抗原を注射し抗原に体を慣らしていく治療です。しかし、問題となる抗原が1つでない場合も多く、時間や費用の面から最近では行われる頻度が減っています。きちんと行うことが出来れば非常に良い治療法です。

インターフェロンγ

最近流行りの治療法です。抗原が体内に侵入すると、ランゲルハンス細胞(見張り役の細胞です)が異常を感知し抗原を取り込み、ヘルパーT細胞(免疫応答の根幹の細胞です)に提示します。ヘルパーT細胞にはTh1とTh2があり、通常は主にTh1が司令塔となり免疫グロブリンG(IgG抗体)を産生します。これが正常な免疫反応です。しかし、アトピーの場合はTh2が主な司令塔となってしまい免疫グロブリンE(IgE)を産生してしまいます。これは悪い免疫反応でトラブルを起こします。IgEが肥満細胞や好酸球を活性化させ皮膚に痒みが生じます。つまり、正常な場合はTh1>Th2でアトピーのときはTh1<Th2となってしまっているということになります。

インターフェロンγはTh1<Th2の状態をTh1>Th2の状態に戻すことによりアトピーを治療します。実際には、インタードッグという注射を週に2~3回、4週間程度継続し、その後、だんだんと回数を減らしていきます。3ヶ月以内に約70%の症例で効果が認められ大きな副作用はありません。問題点は導入期のコストが高いことですが、うまく行くと1~2ヶ月に1回の注射でよくなります。とくに5歳以下の若い動物で効果が上がりやすいといわれています。


No.23 アトピー1

アトピーとは簡単に言うと、環境中の抗原(免疫反応を起こさせる物質の総称、食物、花粉、ハウスダスト、ハウスダストマイト、カビ、昆虫など)に対する、不適当な、あるいは過剰な免疫反応のことです。

全ての犬うち約10%がアトピーに羅患しているといわれています。猫にはきちんとした統計はありませんが犬よりは少ないようです。初発年齢は犬で6ヶ月~7歳ということになっていますが多くの場合は1~3歳です。猫でも若いときに発症する場合が多いようです。80%は夏に始まり、多くの場合、だんだんと季節に関係なく痒みが出て来てしまうようになります。

遺伝性疾患と考えられていて、寄生虫(ダニ、ノミ)、ウィルス、細菌(ブドウ球菌)、カビ(マラセチア)などの感染で悪化します。好発犬種は、ウエスト・ハイランドホワイトテリアを筆頭とする各種テリア、M.ダックスフント、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、シーズー、柴犬、T・プードル(とくにアプリコット)、ポメラニアン、シャーペイです。なんか、日本で多く飼われているほとんどの犬種ですね。猫では好発種は認められていませんが、気管支喘息を伴う場合がよくみられます。皮膚病変はなく症状は咳だけという場合もよくあります。犬では咳を伴うことはまれです。

症状は、紅班(皮膚が赤くなること)と強い痒みが、顔面、四肢端、肘、腹部、脇、股、外耳、眼の周りなどに出ます。慢性化すると、皮膚は苔癬化(硬くなってくること)し、黒く色素沈着してきます。

診断は、病歴と臨床症状が主となります。臨床検査は、まずは、皮膚を軽く引っ掻いたり毛を抜いて、細胞と毛や毛根の状態、フケなどを顕微鏡で観察し、疥癬、真菌(とくにマラセチア)、接触性皮膚炎、細菌性毛包炎、ビヘイビア(精神的要因)などの痒みが強い疾患との鑑別をします。次に、症状によってですが、甲状腺、副腎、精巣、卵巣などの各種ホルモンの異常がないかを調べます。その後、食事に対するアレルギーを除外(除去食試験)し、必要ならば皮内反応試験(抗原を皮膚(皮内)に少量ずつ注射し、皮膚の反応を診る検査)を行います。

臨床症状からの犬のアトピーの診断基準です。

1.発症年齢が3歳以下

2.室内飼い

3.ステロイド剤に反応する痒み

4.慢性・再発性のマラセチア感染症

5.前肢に皮疹あり

6.耳介に皮疹あり

7.耳介辺縁には皮疹なし

8.背中側には皮疹なし

上記のうち5~6項目が当てはまる場合、アトピーを強く疑います。

治療はシャンプー、食事、外用剤、内服剤の組み合わせとなります。次回から詳しくご説明します。


No.22 高齢犬の変形性脊椎症

年齢が上がってくると、大型犬、小型犬に限らず、後ろの脚の動きがだんだんと衰えてきます。筋力が弱り、脚が細くなり、神経の伝達が悪くなり、手の甲で歩くようになり(ナックリング)、最終的には歩けなくなり、起立が出来なくなり、寝たきりとなります。

立位(立っている)→座位(お座り)→肘状位(伏せの状態で顔を上げている)→伏位(伏せの状態で顔を下げている)→臥位(横に寝ている)。この順番で大変な姿勢です。若くて健康なときはなかなか気付けませんが、立っていられるってことは、実は大変なことなんですね。

寝たきりになってしまったワンちゃんを再び起立させ、歩けるようにするのは非常に困難です。寝たきりになるのを1日でも先に延ばすため、1日でも長く一緒にお散歩に行けるために、出来ることをご紹介します。

高齢犬の後ろ脚が弱ってくる原因の多くは変形性脊椎症です。脊椎(背骨)と脊椎との間のクッションが弱くなり、隣り合う脊椎がCa沈着を起こしてくっついてしまい、神経が圧迫されて、最初は痛みやしびれが起こり、後にだんだんと麻痺していきます(犬ほど顕著な症状は出ませんが、猫にも変形性脊椎症はあります)。

痛みやしびれのレベルで気付いてあげられると治療が早く始められます。もちろん、変形性脊椎症だけでなく、椎間板ヘルニアはじめ、胃腸疾患、泌尿器系の疾患、生殖器系の疾患、各種の腫瘍などでも腰痛を起こすことがあります。まずは診察を受けてください。検査は神経学的検査とレントゲンが中心となります。

変形性脊椎症と診断されたら、マッサージ、ストレッチ、バランス運動などの理学療法やサプリメントの開始です。症状がひどい時は、レーザーや鍼、非ステロイド系の鎮痛薬を使用することもあります。

1番大事なのは体重の管理です。太っているワンちゃんは、食事を10~20%減らし、ご褒美も半分の量に減らしましょう(適正体重はご相談下さい)。学習の項でも申し上げましたが、ご褒美は貰えたことが嬉しいのであって量は関係ありません。また、おやつにしないで必ずご褒美にして下さい。コマンド(命令)を入れて、仕事をして、ご褒美を貰う方がワンちゃんにとって何倍も嬉しいことです(人も仕事をして報酬を得るのと、何もしないで報酬を得るのとでは満足感が全然違いますよね。苦労して手に入れたものの方が満足感が高い。動物行動学的に犬も同じです)。


No.21 マッサージ2

なでしこJapanすごかったですね。PCの仕事しながら観ようと思っていましたが、TVに釘付けでした。本当に嬉しかったです。アメリカも素晴らしいチームでしたね。

主なマッサージの方法をご説明します。

軽擦法(ストローキング):1番最初に行うマッサージです。手を広げて筋肉の上にぴったり接するように置き、体の表面を手で触れるようにして、頚の方から優しくゆっくり被毛に沿って行います。動物がリラックスするまで繰り返します。リラックスしたら、少し力を加えて深部組織もマッサージします。

揉拌法(ニーディング):動物がリラックスしてから行います。皮膚とその下の脂肪を丸めて優しくつまむように引っ張って動かします。尾から頭側へ、足先から腰の方に向かって行います。深部では筋肉を揉むことになります。痛みが出るようなら中止します。

強揉法(フリクション):広い範囲を施術できる方法です。指先を曲げ、筋肉を触り、筋肉に沿って優しく滑走させます。徐々に力を加えていきます。強揉法で狭い範囲を施術する場合は、皮膚を押しのけるようにしながら円を描くように曲げた指を動かします。筋肉の深い部分に達するまで徐々に力を加えてください。

円を描くような圧迫法:小さく局所的に深い組織のマッサージに使います。指先で施術したい部位に軽く力をかけ、小さな円を描くように動かします。硬くなっている筋肉のだんだんと深いところをほぐすようにします。強揉法の途中で行うことが多いです。

振動法(シェイキング):表層の筋肉をリラックスさせるために行います。局所や肢全体を振動させます。筋群を手で軽く握り、優しく前後に振ります。各方法の間に行うと効果的です。

叩打法(パーカッション):手をカップのように丸めて優しく筋肉を叩きます。血流を増加させる効果がありますが、嫌がる動物が多いです。個人的にはお勧めできません。

以上のように、様々な方法がありますが、愛情をもって優しく触ってあげるだけでも効果的です(お手当てという言葉があるくらいです)。お時間があるときに試されてみてください。また、わかりにくい、もっと、詳しく知りたいという方は、当院のマッサージ教室に是非いらしてください。暑さが落ち着いたら(8月末ぐらいから)再開予定です。


No.20 マッサージ1

マッサージは人の理学療法の1つとして必要不可欠です。動物においても効果的で、心地良さを感じてくれるワンちゃん猫ちゃんはたくさんいます。基本的なマッサージのやり方について解説します。

痛みや激しい運動は筋肉の緊張を引き起こし、筋肉は硬くなり、血流が低下します。血流が低下すると、その部位への酸素の供給が減り、老廃物を除去する力も低下します。そのため『痛み→筋肉の張り→痛みの増加』という悪循環に陥ります。マッサージの効果はこの悪循環を断つために行われます。また、痛みを緩和する脳内物質のエンドルフィンの放出を刺激します。マッサージにより血流が増加すると、組織の温度と弾力性が増し筋肉の回復を促します。医学的には癒着を剥離する効果もあります。そして、愛情を持ったマッサージは動物と飼い主さんの絆を深めます。

上記のことから、マッサージの適応としては

・脊髄疾患、関節疾患による筋肉の張りを改善するため

・筋肉や関節の機能を回復させるため

・神経疾患のときの体性感覚の改善のため

・血液やリンパ液のうっ帯の予防のため

・トレーニング前後の筋肉のケアのため

・癒着の予防、剥離のため

が、主なものとなります。

マッサージをしてはいけない場合もあります。炎症や感染、発熱があるとき、腫瘍や心疾患、出血性疾患のある場合は注意が必要です。また、触られたくないっていうペットちゃんもいます。触られるのが嫌いな動物には、本当に軽く短い時間から始め、焦らずに行って下さい。マッサージがストレスになってしまったら意味がありません。

マッサージの準備として、静かな部屋、軟らかく弾力性がある床材が必要です。また、術者がリラックスすることも重要です。

マッサージの方法には、軽擦法(ストローキング)、揉拌法(ニーディング)、強揉法(フリクション)、円を描くような圧迫法、振動法(シェイキング)、叩打法(パーカッション)などがありますが、簡単にいえば、擦る、揉む、叩くです。次回に解説します。