No.392 鼻腔狭窄

鼻腔狭窄

鼻腔狭窄とは生まれつき鼻の穴が狭い状態のことを言います。見た目ですぐに分かります。鼻が狭くて症状が重いと鼻呼吸をする際にブーブーと音が鳴ります。症状が軽くても運動時や興奮した際に音が出る場合もあります。

鼻腔狭窄を起こしやすい犬種は短頭種と呼ばれるブルドッグやフレンチブルドッグ、パグ、シーズーなどのいわゆるマズル(鼻)が短い犬たちです。短頭種では短頭種気道症候群(BAS)と呼ばれる、鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、喉頭小嚢反転、気管虚脱などを引き起こすことがあります。スコティシュフォールドやマンチカンなどの猫の短頭種でも起こります。

鼻の穴が狭いと呼吸をするときに息を吸う強さが強くなります。常に強い力で息を吸う状態が続いてしまうと気道の圧力が上がり、喉頭虚脱や気管虚脱の原因となります。さらにその状態が継続すると喉頭虚脱や気管虚脱のグレードが進行し、呼吸困難や体温調節がうまくできずに高体温や失神の原因になり、悪化すると命に関わる状態になります。

根本的解決には外科治療で鼻の穴を広げる外鼻腔拡張術を行います。これは鼻の穴の狭い部分を切り取って鼻の穴を広げる手術です。術後は鼻の通り道が広がり、鼻呼吸がとても楽になります。今までブーブー聞こえていた呼吸音がなくなってスースー通るようになります。

また、鼻腔狭窄を患った子の多くは軟口蓋過長症を持っている場合があり、ガーガーを巻き込まれるような呼吸音も伴っている場合が多く、この病気も気管内圧を上昇させる一因となります。

鼻腔狭窄を患った1歳未満の犬に外鼻孔拡張と軟口蓋切除を行った場合の短頭種気道症候群の改善率は96%の一方で、より高齢で手術を行った場合の改善率は69%です。また、病態が進行した場合の短頭種の麻酔はハイリスクとなりますのでメリットとデメリットを検討し、総合的に判断します。気管が変形する前に予防的に手術をすることもポイントとなります。


鼻腔狭窄のパグ

こちらもご参照下さい
No101気管虚脱と軟口蓋過長症2
No100気管虚脱と軟口蓋過長症1


No.391 腸重積

腸重積は腸管の一部が腸管の中に入り込んでしまい抜けなくなる状態をいいます。腸閉塞を併発するため、緊急対応が必要な重篤な疾患のひとつです。猫よりも犬で多くみられ、とくに1歳未満の幼犬に起こりやすいといわれています。また、回腸と盲腸で起こりやすいといわれています。ひも状の異物により物理的に重責を起こしている場合もあれば、消化管内の寄生虫やその他の原因により、慢性的な腸炎を引き起こしているような場合に多いとされています。とくに成体では腫瘍などが引き金になっている場合もあります。特定の原因が見つからないこともあります。

症状は下痢、嘔吐、食欲不振などですが、腸重積を起こした犬や猫はあまり治療に反応しない、もしくは一度よくなってもすぐに再発します。体調に波があることも多いです。典型的な症状の場合、腹部を入念に触診すると腸の一部が固くなっているような場所を見つけることができるのですが、腹部の疼痛により腹圧が上昇し、あまりうまく触知できないこともあります。レントゲン検査、超音波検査が有用ですが、腹腔内の腫瘍と鑑別が困難な場合も多くあります。結局のところ、多くの場合では犬や猫の年齢、病状などから仮診断を付け、後付けで検査や治療を行っていくことがほとんどです。

基本的には外科手術が唯一の治療法になります。腸重積を起こしている腸の箇所は、重積部を解除したときにあまり損傷がないように見えたとしても、高い確率で再陥入をおこすため、重積が見られている腸を切除し、正常な腸同士を吻合する必要があります。症状が出てから時間が経っている場合、腸の壊死が起こります。このような腸は取り除かないといけないので、腸管を大きく取らなければならない場合もあります。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
猫の大腸の腸重積


No.390 カメの冬眠

温帯域に棲息するカメは寒くなると冬眠します。カメが冬眠をすると言うのは、自然界では当然のことであり、カメが寒さに対応する対策として本能的に行うものです。しかし、飼育下で冬眠させるのは簡単ではありません。健康に飼育するためには必ずしも冬眠が必要なわけではなく、一年中暖かな環境をつくることにより快適な生活をさせることが可能です。ただし繁殖を目的とした場合は冬眠が必要となります。また熱帯産のカメは冬眠できません。本州に棲息する野生のクサガメ、イシガメ、帰化したミシシッピーアカミミガメは通常11月頃から冬眠に入り、翌年3月中旬頃に冬眠から覚めます。これらのヌマガメは水温が20℃以下になると食事をやめ、水温の低下に伴い冬眠の準備のため池や川の水底にある泥や落ち葉の中にもぐるようになりますが、かなり冷えるまではときどき水面に出て呼吸します。水温が15℃以下になると完全な冬眠に入り、潜ったままでてくることはなくなります。この間の呼吸は咽頭の粘膜や総排泄腔内の毛細血管、皮膚呼吸によって賄っています。

冬眠のさせかた
冬眠に先立って、夏場に十分な栄養を与えることが重要で、栄養状態の悪いカメや小さなカメは冬眠を見合わせたほうがよいです。水槽で冬眠させる場合、深さが30cm以上のものを用意します。平均気温が20℃ぐらいに下がってからは食餌は与えず、水底に落ち葉や泥を15cm以上入れます。水底に潜っている時間が長くなってきたらできるだけ涼しく静かな場所に水槽を置きます。暖房等の影響を受け中途半端に温度の上がる場所は、完全な冬眠に入れずカメの体力を消耗させてしまいます。水深はカメの様子をみながらできるだけ深くしていった方が水温が安定しやすいです。冬季は水温が15℃以下で、凍ってしまわないような管理が必要です。冬眠から覚め、カメが動き出したら通常の水槽に戻しますが、すぐには食餌をせず、水温が上昇していき25℃に近づくと食べ始めます。衰弱しているようであれば自然に温度が上がるのを待つより、ヒーター等で温度管理した水槽に早めに移すほうが安全です。屋外の池で飼育している場合は、底に泥や落ち葉があれば寒くなると自然に冬眠します。水深40cm以下の浅い池や、水が凍るほど寒い地方では冬眠させないほうが安全です。

基本的には飼育下でのカメの冬眠はオススメしません。飼育環境を25℃以上、水中の温度は20℃以上の環境を継続して作って下さい。また、バスキングライトなどで、ホットスポットと呼ばれるカメの日光浴の代わりになる場所を必ず用意しましょう。気温差があると、中途半端に冬眠してしまう可能性があるため、冬眠しないように暖かく保つようにします。


No.389 カメの飼育

カメ目の自然界での生活様式は種により多様化していて、飼育管理法も大きく異なります。一般に飼育されることの多い種を生活環境によって以下の4つのグループに分けてみます。この4つのグループ以外にウミガメもありますが、水族館以外での飼育は困難なため割愛します。また、カメの飼育に重要な照明と食事についてもご説明します。

水棲ガメ(ミシシッピアカミミガメ等)
生活場所のほとんどを池や川、湖などの淡水域とするもので、通常鋭い爪とみずかきのある四肢を持ち水陸いずれにも対応できるものが多いです。小学校で飼育されることの多いミドリガメ(ミシシッピーアカミミガメの幼体)やゼニガメ(イシガメやクサガメの幼体)はいずれもヌマガメ科でこのグループです。

半陸棲ガメ(ハコガメやヤマガメ等)
ヌマガメ科の中でもハコガメやヤマガメの仲間は水辺の草むらや森林に棲息し、水を好む反面、より陸上での生活に適しています。天然記念物に指定されているセマルハコガメやリュウキュウヤマガメがこのタイプです。中国産のセマルハコガメやマレーハコガメ、スペングラーヤマガメといった種がよく飼育されています。

より水棲傾向の強いカメ(スッポンモドキ等)
産卵等の特殊な状況以外にはほとんど陸に上がらない種です。スッポンモドキのようにオール状の四肢で遊泳するものや、マタマタやワニガメのように水底でじっとしていることが多いもの、スッポンのように水底の泥の中に潜むものなどがこのタイプです。

陸ガメ(ギリシャリクガメやロシアリクガメ等)
生活場所のほとんどを陸上としていて、歩行に適した丈夫な四肢と乾燥に耐える皮膚を持ちます。通常草食性です。ロシアリクガメやギリシャリクガメなどの温帯域に生息するものはそれほど大きくなく飼育しやすく人気があります。陸ガメは大人しく平和的な動物ですが、ゾウガメやケズメリクガメといった大型種は力が強く、相応の設備が必要です。

照明
室内でカメを飼育する際には、照明に配慮が必要です。中波長紫外線(UVB)ライトと全てのカメに必要なわけではありませんがバスキングライトを用意します。日中は明るく、夜は暗くすることは多くの動物と同様、生活のリズムをつくる上で重要です。多くのカメが十分な明るさのもとで食欲や行動が活発となり、暗くなることで安心して休息することができます。

・中波長紫外線(UVB)ライト
多くのカメが正常な骨代謝に不可欠なビタミンD3を合成するために、中波長紫外線(UVB)が必要です。特に陸ガメでは、その食餌となる植物質のほとんどがビタミンDを含有しないことからも、UVBの照射は重要です。最良の方法は定期的な日光浴ですが、困難な環境ではUVBを含む広域スペクトルの照明灯の使用が必要です。このような照明灯はいくつかのメーカーから市販されていて、放出されるUVB量は製品によって差があります。カメにおけるUVB要求量の詳細は明らかにされていませんが、ペットショップで売っているもので通常充分です。

・バスキングライト
赤外線を出し亀の体温を上昇させる役割をもつライトです。一般にバスキングスポット(ホットスポット)を30~35℃程度に温められれば良いとされています。また、長時間点灯させているバスキングライトは高温になっており火傷に注意してください。バスキングライトの取り付け位置があまりに下過ぎると、カメが触ってしまう可能性があります。触れやすいのは頭や手です。水棲ガメの場合は夜間は温度の下がりにくい水中にいることも多いので使う必要性は薄いと思われます。

食餌管理
イシガメ、クサガメ、ミシシッピーアカミミガメ、スッポン等の水棲ガメの多くは肉食傾向が強く、自然界では小魚や甲殻類、その他の水棲生物を捕食しています。また種によっては水草等の植物質も多少食べています。飼育下では食用の魚介類を与えることもできますが、注意すべき点は、骨や内蔵を含む丸ごと与えられていないと長期的には栄養障害を起こす危険性があることです。生餌しか受け付けない種ではメダカや金魚、ドジョウ等の淡水魚やヌマエビ、ザリガニ等の甲殻類、その他の水棲生物、ミミズ等を与えます。ただし多くの種は水棲ガメ用のペレットを食べるので、質のよい製品を選べばこれだけでも栄養的に十分で衛生的です。また、小松菜やチンゲンサイのような葉野菜も少し与えるとよいです。給餌は幼体には毎日、成体には週に2~3回を目安に行います。
ハコガメやヤマガメのような半陸棲ガメの自然界での食性は様々ですが、飼育下では雑食性として解釈するとよいです。多くの種に推奨される給餌内容は50%の動物質と50%の植物質で、動物質のものとしてミミズ、ナメクジ、昆虫、その他の節足動物、もしくはドッグフードや水棲ガメ用のペレットを与え、植物質のものとして緑黄色野菜や豆類、イモ類等の野菜を主に少量の果物を与えるとよいです。偏食しがちな種が多く、幼体の頃から、できるだけいろいろな食物を食べるように訓練しないと栄養性疾患に陥りやすいです。ハコガメ専用のペレットも市販されており、食べる場合はこれらを主食でもよいです。給餌は幼体には毎日、成体には2日に1回ぐらいを目安に行います。
陸ガメのほとんどは草食性であり、通常は植物質のものを与えます。一般的に推奨されている給餌内容は90%以上の葉野菜(濃緑色の葉を持ち、カルシウムと繊維質に富んだもの、小松菜、チンゲンサイ、ダイコンの葉、サラダ菜、モロヘイヤ等)と10%までのその他様々な野菜(マメ類、イモ類、カボチャ、ニンジン等)です。ペレットを利用するのも便利です。果物は嗜好性のよいものが多いですが、草食性のカメに適した栄養組成のものはほとんど存在しないため、与えてもごく少量にすべきです。食事は毎日与えます。


No.388 高エネルギー外傷

高エネルギー外傷とは、名前の通り高いエネルギーが加わって生じた外傷のことをいいます。高いエネルギーが加わって生じた外傷の場合、一見元気そうに見えても、実は重篤な外傷である可能性が生じてきます。高エネルギー外傷の動物が救急搬送されてくる場合には、重篤な外傷が起こっているかもしれないと考えて治療します。

ヒトの外傷初期診療ガイドラインJATEC( Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)にはこう記載されています。

高エネルギー外傷
・高所墜落
以下の自動車事故
・同乗者の死亡
車の横転
車から放り出された
車が高度に損傷している
・歩行者・自転車が車に衝突された
・車に轢かれた
・転倒したバイクと運転者の距離が大きい
・機械器具に巻き込まれた
・体幹部が挟まれた

これを見ると、確かにエネルギーの高そうな事故ばかりです。都会では、犬の場合リードを外して逃亡をして交通事故に遭遇する、猫は高層階からの落下事故が多いです。

JATECでは、もう少し細かく高エネルギー外傷について記載されているのでそちらもご紹介します。

高エネルギー外傷の詳細
・高所墜落
成人:>6.1m (2階)
小児:>3.05m、もしくは伸長の2-3倍
・自動車事故  >45.7cmの車の陥入
車から放り出された(部分的もしくは完全に)
同乗者の死亡
・歩行者・自転車
車に轢かれた
>32.2km/hの速度の車と衝突
・バイクで>32.3km/hの速度での事故

高所墜落に関して成人と小児でその基準が異なることには注意が必要です。小児の場合には、例え1.5メートルからの転落でも高エネルギー外傷として対応する必要がある場合があるわけです。ヒトよりも体が小さい動物の場合、ヒトの基準より厳格な基準で考える必要があります。繰り返しになりますが、交通事故や落下事故などは、元気そうにみえても重症の場合が多くあります。事故にあわないことが一番ですが、万が一事故が起こってしまった場合は様子見をせず早目に受診して下さい。


No.387 ノーズワーク

ノーズワークとは、犬の嗅覚を使い、匂いを探し当てる遊びの一種です。犬はヒトが気付かない微量な匂いも嗅ぎ分けることができます。その嗅覚を活かした遊びがノーズワークです。ノーズワークは、狩猟本能に基づいた集中力を発揮することで、狩りを成功させるという体験を味わえます。ノーズワークは、ヒトが犬に教え込むものではありません。ヒトと犬がコミュニケーションを取りながら、犬が主体となって行うものです。

嗅覚がしっかりしていれば、どんな犬でも楽しめます。子犬から老犬、身体や視覚が不自由でも楽しめるのが魅力です。また、保護犬など心に傷を負った子のリハビリにも効果的です。臆病で自信がなく、人間に不信感を抱いている犬が、ノーズワークを通して自信を取り戻し協調性を養うこともできます。猫にも応用できます。

さらに、ノーズワークは、場所を選ばず狭い室内でも行えます。雨の日や散歩に行けない日は体力を持て余しがちです。そんなときにも、運動とストレス解消を兼ねたノーズワークでエネルギーを発散することができます。犬の好奇心や本能的な欲求を満たしながら、成功体験を積むことで自信に繋がるでしょう。

ノーズワークの具体的な方法をご説明します。市販のノーズワーク用のマットのおもちゃもありますが、ここでは家庭で簡単に出来る方法をご紹介します。

以下のものを準備してください。
・空き箱または、蓋に穴を開けたタッパー数個
・匂いが強いフードやおやつ
・ノーズワークマット(床のよだれ防止なので無くても良い)
空き箱でも良いですが、何度も繰り返し使えるタッパーがおすすめです。慣れてきて犬が簡単に見つけられるようになったら、匂いの弱いフードに変えても良いでしょう。

ノーズワークの進め方は、次の通りです。
1飼主さんがおやつを隠す。
2犬がおやつの匂いを元に探し、飼主さんに開けてくれるように合図をする。
3飼主さんが蓋を開けてあげる。
4犬が正解すれば、おやつが食べられる。

ノーズワークのやり方は難しくありません。犬の見えないところでおやつを空き箱やタッパーに入れたら、適当な場所に置いて犬に探させます。空き箱の場合は、中にフードを入れ適当な場所に置きます。犬がフードを見つければ、その場で食べられます。タッパーを使用する場合は蓋つきなので、犬が飼主さんに見つけたという合図をすれば、中に入っているおやつを食べられるというルールです。犬が迷っていたりフードが入っていないタッパーを選んだりしても飼主さんが正解を誘導するような行動をしてはいけません。初めは、おやつを入れたタッパーだけを使い飼主さんに合図をする練習をします。 何度か繰り返して学習したところでおやつの入っていないフェイクのタッパーも使って下さい。注意点として、おやつを入れるタッパーは必ず同じものを使用するようにしてください。あちこちに匂いが付いてしまうと犬が正解のタッパーを探せなくなります。

ノーズワークは犬にとって楽しいものですが集中力が必要です。意識して匂いを探し出すため飼主さんが想像する以上に疲れる作業でもあります。そのため、慣れている子であっても時間を決めて行い、適度に休憩を挟むようにしてください。初めて遊ぶ場合は5~10分程度を目安にすると良いです。犬の様子を見ながら集中力が切れる前に、おやつを見つけることができた状態で終わりにしましょう。コミュニケーション手段のひとつとして、「できたらいいね」というスタンスで取り組み、飼主さんも一緒になって楽しむことが大切です。犬が主体となって進める遊びなので自立心や独立心を養うことができます。飼主さんとの関係を深めるためのコミュニケーションの一環として、ぜひ楽しみながら行ってみてください。


犬はノーズワークが好きです


No.386 猫の理想のトイレ

猫がトイレが嫌で排泄を我慢すると様々な問題が起こります。各種膀胱炎、尿石症、尿閉などの泌尿器系疾患、便秘、また、問題行動となるスプレーなどの排泄の失敗にもトイレが大きく関係しています。
猫はもともと、大きな面積を使って時間をかけて排泄します。野生の本能が色濃く残っている猫にとって、排泄の最中は無防備になるので慎重になります。また臭いが残っていることは自身の存在を外敵にアピールしてしまうので、排泄跡を神経質に隠す習性があります。

猫の理想のトイレ
・体長の1.5倍以上の大きさ
・天蓋はなしもしくは高い天井
・細かい砂の粒で固まるタイプ
・近くにうるさい電化製品がない
・夜でも多少は光がある
・数は猫の飼育頭数+1以上

トイレの縁に立って排泄していたり、短時間しかトイレにいなかったり、排泄後すぐにトイレから飛び出して来たり、トイレのあとに後ろ足を振っているようなときは、そのトイレを気に入っていない可能性が高いです。とくに近年、掃除が少なく済んで、砂もまき散らされなくて済む、一見便利なシステムトイレが問題を起こしています。システムトイレだと、どうしても臭いが残ってしまいますし、使用する砂は吸水せず尿が落ちていく硬く目が荒いチップが多いためです。泌尿器疾患、便秘、排泄の問題行動がある場合は、もう一度トイレを見直してみて下さい。


No.385 スコティッシュフォールドの疾患

垂れた小さな耳、丸い顔でドラえもんのような風貌で、性格もおとなしく飼いやすいことで大人気のスコティッシュフォールド。日本では2021年まで13年連続の人気1位の猫腫です。そんな人気の一方で、「病気にかかりやすい」「寿命が短い」といった指摘もあります。海外(イギリス、フランス、ベルギーなど)ではスコティッシュフォールドの登録を認めない血統登録団体や繁殖を推奨していない団体があります。

スコティッシュフォールドの一番の問題は骨軟骨異形成症です。特徴である垂れ耳は、耳の軟骨が突然変異によって硬くなったものですが、骨軟骨異形成症では、耳だけではなく、本来クッションとして関節を保護する軟骨までが骨のように硬くなってしまいます。すると、四肢の関節、とくに足首が動かなくなったり、痛みが生じて、ジャンプや歩くのをためらう様子が見られ、痛みの程度によっては歩行すら困難になります。骨軟骨異形成症は、垂れ耳のスコティッシュフォールドは必ずかかるという報告がされていて、とくに垂れ耳同士で交配してできた子に症状が強く現れる傾向があります。

他にも、スコティッシュフォールド特有ではありませんが、遺伝的に肥大型心筋症など内臓の病気にかかりやすい傾向も指摘されています。また、交配相手に選ばれてきたエキゾチックショートヘアやペルシャに多いとされる嚢胞腎(のうほうじん)も、スコティッシュフォールドに多いといわれています。

骨軟骨異形成症も肥大型心筋症も嚢胞腎も、現時点では発症を防ぐことは残念ながらできません。また、特効薬もありません。飼主さんができるのは、定期的な健康診断(5歳くらいまでは年に1-2回、それ以上は年に3-4回)を行い、レントゲン検査や血液検査、超音波検査などで病気を早期発見し、必要なケアを早い段階からしてあげることです。スコティッシュフォールドは関節、心臓、腎臓に特に注意です。


スコティッシュフォールドの足首の骨瘤


No.384 輸血

輸血の時に供血する動物のことを「ドナー」、受血する動物のことを「レシピエント」と呼びます。輸血は移植医療の一種で必ずしも安全ではありませんが、事故などによる大量の出血、重度の貧血、低タンパク血症、止血異常の時は輸血が必要となる場合があります。

レシピエント側の輸血の副反応としては発熱が一般的ですが、涎、失禁、嘔吐などが起こる場合もあります。重度の場合はドナーの血液がレシピエントの血液を破壊する「急性溶血反応」などの命に関わる症状が発現します。初回の輸血の場合は抗体がないため、副反応のリスクは少ないですが、2回目以降の輸血の場合は抗体ができている可能性があるため副反応を起こす可能性があります。また、原因は明らかになっていませんがレシピエント側に妊娠歴があると重篤な副反応を起こしやすいとされているため注意が必要です。

輸血が必要な時は生命にかかわる危機が迫っています。動物の医療では血液バンクがないので慢性的に血液が不足しています。動物の高齢化によって輸血の必要な場面も年々増えています。ドナーにご理解いただける方はご協力ください。

理想的なドナーの条件(病院によって多少の違いがあります)


年齢:1~8歳
性別:♂;自然交配経験・予定なし ♀;妊娠・出産経験なく不妊手術済み
体重:15kg以上
予防:狂犬病ワクチン 混合ワクチン(5種以上) フィラリア予防 ノミ・ダニ予防
生活環境:室内外どちらでも可能
その他:健康であること レシピエントの経験がないこと


年齢:1~8歳
性別:♂;自然交配経験・予定なし ♀;妊娠・出産経験なく不妊手術済み
体重:3.5kg以上
予防:混合ワクチン(3種以上)ノミ・ダニ予防
生活環境:完全室内飼育
そ の 他:健康であること 猫白血病ウイルス・猫エイズウイルスが陰性(-)であること レシピエントの経験がないこと

輸血の流れ
1.獣医師がドナーの健康状態をチェックします(異常があった場合には献血を中止します)。
2.ドナーとレシピエントから少量の採血をしてクロスマッチ試験を行います(輸血をしても大丈夫な相性かどうかを確認するものです)。
3.ドナーの頚または脚の血管から輸血用の採血をします。採血量はドナーの体重や体の大きさによって変わりますが、犬で150ml-400ml、猫で35-60ml程度です(当然ですがドナーに問題が起こらない量しか採血しません)。
4.レシピエントの静脈から輸血を行います。副反応が出ないか確認します。
5.ドナーに採血量と同量程度の点滴を行い、獣医師が健康状態をチェックしてドナーは退院です(ドナーにご協力いただいた動物は3ヶ月間はドナーになれません)。

ドナーご協力のお礼
当院では、当日の血液検査と次回のワクチンを無料とさせていただいております。

こちらもご参照ください
No174猫の血液型と輸血
No173犬の血液型と輸血


No.383 尿道閉塞(尿閉)

尿は腎臓で産生され、尿管を介して膀胱に貯留されます。膀胱に貯留した尿が体外に排出されるときの通り道となる管状の器官を尿道と言い、結石や栓子(細胞や炎症産物が塊になった物)などが原因となって尿道が閉塞してしまい、排尿ができなくなることを尿道閉塞(尿閉)といいます。尿道がペニスの部分で細く会陰部でS字状に湾曲している雄猫に多くみられます。また、飲水量が低下しやすい寒い時期に多く発生します。肥満も尿閉の発症リスクを高めることが分かっています。

血尿や頻尿、粗相などの初期症状に加え、元気食欲の低下、嘔吐、トイレでつらそうに鳴くなどの症状が見られたら要注意です。排尿が完全に不可能となった場合には症状が急速に進行し、治療介入が遅れると急性腎障害により死にいたる危険性もあります。24時間で腎障害が危険な状態になり、48時間放っておくと亡くなるといわれています。

問診や触診で尿閉が疑われた場合、直ちに尿道カテーテルや生理食塩水などを用いて塞栓子を膀胱内に押し戻し尿道の詰まりを解除します。これら緊急処置の後、血液検査にて腎障害の程度を評価し、レントゲン検査や超音波検査で他の尿路系に異常がないかどうかをを調べます。通常、腎機能や膀胱機能が回復するまでの間、入院での治療が必要になります。入院期間は重症度にもよりますが、数日から10日程度となることもあります。

一度尿閉を起こした動物はそのままでは再発の可能性が極めて高い為、食事の変更や環境の改善など内科的な再発予防を行います。それでも再発を繰り返す、あるいはそのリスクが高い場合は、外科的な再発予防手術(会陰尿道路形成術)の適応になります。

当院でも毎年多くの尿閉の動物を診察しますが、治療する上で何よりも大切なのは早く病院に連れてきて頂くことです。緊急性のある疾患なので、少しでもおかしいと思ったらまずはご相談ください。とくに雄猫は注意です。


猫の尿道カテーテル(トムキャット)

こちらもご参照下さい
No328尿石症:腎・尿管・膀胱・尿道結石