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No.522 ジリスの骨折

ジリスの骨は、ヒトや犬猫などと比較するとずっと軽くて薄く脆いです。そのため、外傷では骨折がとても多く起こります。とくに肢や腰の骨の骨折が多いですが、全身の骨が脆いのであらゆる骨を骨折します。

骨折の原因は、高い場所からの落下、着地の失敗、誤ってヒトに踏まれる、ケージやドアに挟まる、すのこに肢を引っ掛ける、回し車に引っかかる、抱っこを嫌がり暴れるなどですが、病気(上皮小体機能亢進症や骨粗鬆症、腫瘍など)に付随して起こる場合もあります。

治療は、骨をピンで固定する外科手術、バンテージでのギブス固定、ケージレスト(動きを制限すること)などを組み合わせて行います。骨折した部位や受傷部位の状態、年齢や一般状態などにより、どの治療方法を取るかを判断しますが、体が小さいので、プレートなどの強固な固定が可能なインプラントが使えないのと、骨が脆いため、犬や猫よりも治療が難しい場合が多いです。

骨折の治療は最初の2-3週間がとても重要です。自己治癒能力で、骨折を治すための細胞や蛋白がどんどん産生されるのが初めの2-3週間です。また、術後の安静も重要です。動きが激しいため、とくに肢の骨折では、環境の整備やきちんとした看護が必要です。犬や猫なら2-3ヶ月くらいで完治するものがジリスはそれ以上かかることもあります。最悪の場合断脚が必要な場合もあります。無治療だと咬んで骨が露出してしまう場合があるので早期の対処が必要です。


リチャードソンジリスの脛骨腓骨複雑骨折

以下もご参照下さい
No.327 ウサギの骨折
No.180 ロッキングプレート (Locking plate)


No.521 ヒストトリプシー(Histotripsy)

ヒストトリプシー(Histotripsy)は、高強度の超音波パルスを用いて組織を非侵襲的に破壊する技術で、ミシガン州立大学で開発されました。メスや針を使わずに、超音波によるキャビテーション(気泡の発生と崩壊)を利用して組織を破壊するのが特徴です。

これまで肝臓癌や膵臓癌、腎臓癌の治療の選択肢は主に手術、放射線療法、化学療法でした。これらには多くの場合深刻な副作用があります。現在、ヒストトリプシーがアメリカの50以上のヒトの病院で行われており、未来の癌治療として期待されています。

ヒストリプシーは、標的を絞った超音波を使用して、腫瘍内に微細な気泡を形成します。これらの気泡の形成と崩壊により生成される力によって腫瘍塊が崩壊します。全身麻酔は必要ですし、臨床的な積み重ねもまだまだ必要ですが画期的な治療法です。

健康な細胞にも影響を与える放射線療法などとは異なり、腫瘍のみに作用を集中させることで侵襲性が大幅に低くなり、周囲の健康な組織への損傷のリスクが軽減されます。しかも、腫瘍を破壊するだけではなく、免疫系が活性化するアブスコパル効果によって、他の部位の腫瘍も縮小させます。早く研究が進み、日本にも施設ができて、ヒトだけでなく動物達にも使用できるようになってほしいものです。


未来の癌治療ヒストトリプシー


No.520 食道裂孔ヘルニア

胸部と腹部を隔てる横隔膜には、大動脈と大静脈、食道が通る孔があります。この食道が通る孔が食道裂孔で、ここに胃の一部が入り込んでしまうことを食道裂孔ヘルニアと呼びます。

犬ではほとんどが先天性で1歳未満に多く、生まれつき食道裂孔が緩く、そこに胃が入り込んでしまうことで起こります。短頭種はリスクが高いことが知られていて、犬ではシャーペイやフレンチ・ブルドッグなどで注意が必要です。猫では3歳以上での発症が多く、加齢とともに食道裂孔がゆるくなり、ヘルニアが生じると考えられています。ペルシャやヒマラヤンでは注意が必要です。ウサギにも発症します。

症状としては、犬や猫で、流涎、吐き気や嘔吐、胃液の逆流などが見られます。若いころ無症状であっても、加齢や肥満、慢性の咳や嘔吐から発症する場合もあります。食べたものや胃液が逆流し、吐き気があったり、涎が多かったりなどの症状が見られます。こうした症状に関連して、逆流性食道炎や誤嚥性肺炎に発展する危険性もあります。また、子犬や子猫では、兄弟犬や兄弟猫と比べて発育が悪いケースもあります。無症状のことも多く、健康診断で偶然に発覚する場合もあります。

症状から食道裂孔ヘルニアが疑われる場合は、通常のレントゲン検査や造影レントゲン検査をして、胸腔に逸脱した胃を確認します。内視鏡で確認する場合もあります。

経過観察や内科的に治療を行うこともありますが、根本的な解決には外科手術が必要です。外科手術では、胃が再び食道裂孔に入り込まないように固定し、広がってゆるくなった食道裂孔を閉じて整復します。手術が上手くいけばその後は長く健康に過ごすことができます。


胸腔内へ飛び出している胃のレントゲン写真


No.519 フェレットの肝不全

飼いやすく可愛らしく人気のあるフェレットは、調子が悪い時や健康診断で肝臓が悪いと診断されることが多くあります。フェレットの肝臓疾患は、細菌性胆管肝炎、肝リピドーシス、リンパ球性胆管炎、肝臓癌やリンパ腫などの各種の腫瘍、胆石などの発生が多様に発生し、とくにリンパ球性胆管炎などは自己免性疾患として多発することでも有名です。しかし、近年になってフェレットから E 型肝炎ウイルス(HEV)が検出され、肝炎の原因の1つに考えられるようになりました。

HEVはヘペウイルス科ヘペウイルス属に属し肝炎を引き起こします。 シカ、ブタ、イノシシからヒトへのHEV の感染はよく知られていて人獣共通感染症として認識されていますが、フェレットのHEV抗原性や疫学は依然として不明です。ヒトに伝染するかどうかも明らかではありません。

実際の症状は、無症状のものから、急性肝炎や持続感染のパターンが知られ、それぞれの感染したヘペスウイルスの株などで異なることが予想されています。今後の研究で病原性が解明されていくと思いますが、現在のところ、日本では死後の剖検でないと確定診断ができません。治療も、肝臓の保護薬や点滴、その時の状態対しての対症療法が基本となります。


フェレットの肝炎に注意しましょう

こちらもご参照下さい
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス
No.365 門脈体循環シャント (Portosystemic Shunt:PSS)
No.344 犬の胆嚢粘液嚢腫
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.72 肝臓の検査2
No.71 肝臓の検査1
No.70 胆嚢疾患(Gallbladder disease)


No.518 免疫介在性溶血性貧血(IMHA: Immune-Mediated Hemolytic Anemia)

犬や猫の免疫介在性溶血性貧血(IMHA: Immune-Mediated Hemolytic Anemia) は、動物自身の免疫システムが誤って赤血球を攻撃・破壊することで引き起こされる病気です。これは自己免疫疾患の一種であり、特に犬では比較的よく見られる疾患です。猫でも発生しますが、犬に比べると少ないです。

IMHAには、以下のように一次性(原因不明)と二次性(他の要因に続発)があります。
1. 一次性(特発性)IMHA
原因が明確ではなく、免疫システムが自分の赤血球を異常に認識して攻撃します。犬ではこのタイプが多く、特に雌の中年期の犬で発生しやすいです。
2. 二次性IMHA
他の要因によって免疫が活性化し、赤血球が標的となる場合です。
・感染症(例:バベシア症、ヘモバルトネラ症、エールリヒア症)
・腫瘍(リンパ腫や血液の癌)
・薬物(例:抗生物質や免疫抑制剤)
・ワクチン接種後(稀)
・他の自己免疫疾患

症状は、貧血とその合併症によるものです。
・元気消失、食欲不振
・黄疸(粘膜や皮膚が黄色っぽくなる)
・青白い歯茎(貧血による)
・速い心拍や呼吸
・倦怠感、運動不耐性
・血尿や黒っぽい便
・発熱(炎症や感染が原因)
・血栓症(赤血球破壊の影響で血栓ができやすくなる)

診断は、症状、血液検査の貧血所見、赤血球の凝集、再生性貧血、スフェロサイト(球状赤血球)の出現、クームス試験、PCR検査(感染症の確認)、超音波検査、レントゲン検査(腫瘍や他の異常の確認)、骨髄検査などで総合的に行います。

IMHAは進行が速く、早期治療が重要です。最初はステロイド剤を使用し、効果が得られなければ、他の免疫抑制も使用します。輸血を行う場合もあります。二次性の場合は原因の治療が重要です。

IMHAは致死率が60%と高い病気ですが、早期診断と適切な治療が行われれば回復の可能性があります。血栓症や多臓器不全が主な死亡原因で、初期2~3週間が最も危険です。治療後も再発する場合があるため、長期的な経過観察が必要です。


球状赤血球

こちらもご参照下さい
No.432 溶血性黄疸
No.378 骨髄検査
No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)
No.38 貧血(Anemia)2


No.517 肝細胞の空砲状変性

犬や猫の肝臓のFNA検査(針生検)を行うと、空胞状変性という結果がよく出ます。肝細胞の空胞状変性とは、肝細胞内に空胞状の構造が現れる病理学的な状態を指します。これは肝細胞の異常な変化を示しており、さまざまな肝疾患や全身性の病態に関連しています。空胞は脂肪、グリコーゲン、水、またはその他の物質が溜まったものに由来します。空胞状変性が見られる時は、脂肪変性(最も一般的)、水腫性変性、グリコーゲン変性などが起こっています。

以下の疾患や状態が原因となります。
糖尿病:高血糖による代謝異常により、肝細胞に脂肪やグリコーゲンが蓄積します。
肝リピドーシス:猫ではとくに肝リピドーシスが発生しやすく、食事制限やストレスによる急激な食欲不振が誘因となります。肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積し、顕著な空胞状変性を引き起こします。
ホルモン異常:犬のクッシング症候群、猫の甲状腺機能亢進症などで、コルチゾールや甲状腺ホルモンの異常が影響を与える場合があります。
中毒:タマネギ中毒、キノコ中毒、薬剤中毒(ステロイド、NSAIDs、アセトアミノフェンなど)や有害植物による肝細胞障害。
感染症:レプトスピラ、猫伝染性腹膜炎(FIP)やその他のウイルス、細菌、寄生虫感染。
低酸素状態:ショックや心臓疾患による肝臓への血流不足。
栄養不足や過剰:肥満や飢餓状態による脂肪の異常動員、ビタミンE欠乏。
肝臓腫瘍:原発性、転移性の腫瘍。

確定診断は、症状、病歴、血液検査、レントゲンや超音波、CTなどの画像検査、肝臓の組織検査などで総合的に行います。治療も対症療法と原因疾患に準じて行います。


空胞状変性を起こしている肝細胞

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No.501 レプトスピラ (Leptospirosis)
No.464 猫伝染性腹膜炎 (Feline infectious peritonitis: FIP)
No.426 猫の肝リピドーシス
No.396 ユリ科の野菜の誤食
No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.296 生検
No.79 犬の副腎皮質機能亢進症(Cushing’s syndrome)
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)


No.516 アナフィラキシー

アナフィラキシーとは、アレルゲンの体内への摂取によって免疫系が過剰に刺激され、それに伴うさまざまな症状がみられる免疫反応の一種です。食べる、吸い込む、触れる、刺されることなどによって、アレルゲンが体内に入ります。アナフィラキシーは、アレルギー症状の中でも、アレルゲンの摂取直後から数秒~数十分以内という短時間のうちに全身性に、そして急速にアレルギー反応に伴う諸症状が発症する状態を指します。

アナフィラキシーは、発症が稀ではあるものの、通常のアレルギー反応とは症状の悪化の速度が異なりとても早く進行するのが特徴です。また、症状が急速に重症化することも少なくないため、発症後は速やかに、適切に対応しないと命にかかわる場合もあります。

発症の要因としては通常のアレルギーと同様に、症状を起こすアレルゲンを体内に取り込むことが発症のきっかけになり、食べ物、環境中の微細な粒子、投薬やワクチン接種、毒のある昆虫による刺傷、毒のあるヘビによる咬傷など、生活環境の中のさまざまなものが発症の要因になりますが、正確に特定できない場合も多いです。

主な症状は、顔の腫れ、気道の腫れ、膨疹(蕁麻疹)、血圧低下などが代表的です。嘔吐や下痢などの消化器の症状が見られることも稀にありますが、実際には急速な皮膚や粘膜の症状、血圧の変化が起こりやすい傾向があります。

顔の腫れ:顔の腫れの症状は、顔の皮膚全体が腫れて厚みが急速に増し、輪郭や顔貌が全く変わってしまうほど大きな変化がみられます。瞼の強い腫れで眼をきちんと開けない様子になったり、鼻先(マズル)や上唇が腫れあがって別の動物に見えるくらいに顔の形が変わった様に見える場合もあります。症状の進行は、顔全体がごく短時間で急速に腫れる場合もあるものの、まず瞼や唇など、粘膜の境目に近い部位から部分的に症状が出始め、時間の経過とともに徐々に顔全体に広がる経過をたどることが多いです。とくに最初のタイミングでは、瞼の症状が目立って見えることがよくあります。

気道の腫れ:気道の腫れは、外見からだとなかなか直接気づきにくい症状ですが、気道内の粘膜の腫れに伴って空気の通る部分が狭くなるため、呼吸のしにくさが強まる傾向があります。パンティングやゼイゼイするような喉鳴り、咳やえづく様子が見られることもあり、さらに悪化すると呼吸困難となります。

膨疹(蕁麻疹):膨疹(蕁麻疹)は、通常の湿疹とは異なりきれいな円形ではなく、ゆがんだ水玉模様のような赤い斑点状の盛り上がりが皮膚に広がるようにあらわれる傾向があります。お腹などの皮膚の薄い部位に目立って見られることもあります。被毛に隠れて見つけにくい場合もありますが、通常は痒みや違和感を伴う場合が多いです。

血圧低下:血圧低下の症状が起こった際には、急激にぐったりし、舌や口の中の粘膜の色が白っぽく変化し、薄い紫色になるなどの症状が見られます。アナフィラキシーの諸症状の中でも、とくに血圧低下が見られた場合は、その後急激にショック症状に至る場合がほとんどですのでより迅速な対応や手当が必要になります。

アナフィラキシーの症状が見られた際には、その後続けて、アナフィラキシーショックという状態になる場合があります。これは先述のアナフィラキシーの諸症状が進行し、ぐったりして動けない(虚脱)、舌が白くなる(循環不全)、脈が触れなくなる(血圧低下)、呼吸が正常にできなくなる(呼吸不全)といったショック症状が起こる状態です。このような状態になると、適切な治療をしたとしても命にかかわる場合があります。アナフィラキシーを疑う症状が見られたら、まずは速やかに適切な手当てを受け、さらなる症状の悪化を防ぐ対応がとても重要になります。


アナフィラキシーのマズルの腫れ

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No.382 皮膚のしこり(結節)2
No.160 呼吸困難2 (Dyspnea)
No.152 ヒアリ(火蟻)


No.515 チョコレート中毒

チョコレート中毒は、チョコレートやココア、それらの加工食品に様々な濃度で含まれるテオブロミンの過剰摂取により起こる中毒です。テオブロミンはカフェインと似た物質で、大脳や呼吸器、心臓、筋肉に対して強い興奮作用を持っています。チョコレートやその原料のカカオマス(カカオ豆)やコーラ、お茶などに含まれますが、とくにチョコレートやカカオ豆は高い含有量を持ちます。犬はテオブロミンの分解と排泄にとても時間がかかるため、テオブロミンの量が体の許容量を超え易く、ヒトと比べて中毒症状を起こしやすくなっています。猫はチョコレートを誤食する事は稀でしょうが、犬と同様に中毒を起こします。

症状は様々ですが、不整脈、とくに頻脈が一番の問題となります。また、下痢、嘔吐、発熱、興奮、多尿、ふらつき、パンティング(息が荒くなる)、腹痛、痙攣などが出る場合もあります。摂取量が多い場合には、昏睡状態から死に至ることもあります。

一般的に食べてから6~12時間後に中毒症状が現れます。犬の場合はヒトと違ってテオブロミンの代謝・排泄に時間がかかるため、チョコレートを食べてから24時間程度は中毒が起こる危険性がありますから、食べてしばらくしても何もないからといって安心は出来ません。摂取後3日くらいは注意が必要です。

中毒となる量は、体重・体格や個体差により差がありますが、テオブロミンの犬での致死量は約100~200mg/kg、猫で80~150mg/kgといわれています。軽度な異常は20mg/kg程度でみられ始め60mg/kgでも痙攣が起きる可能性があります。

体重に対してのチョコレートの摂取量から、大型犬では大量のチョコレートが必要なため、普通の家庭環境では中毒を起こしにくいです。しかし、中小型犬やチワワ、近年小型化が著しいトイ・プードルなど、2kg以下の超小型犬では体重あたりのテオブロミンの摂取量が多くなり易いため、チョコレート中毒が発生しやすい傾向があります。

チョコレートに含まれるカカオやテオブロミン含有量は製品には詳しく記載されておらず、さらにチョコレートの種類によっても大きな違いがみられます。また、チョコレートを原料とするさまざまな加工菓子ではメーカーの顧客相談窓口に問い合わせても詳細が不明または即答できないということが多く、危険性の判定が難しいのが実情です。

一般的にミルクチョコレートや市販のチョコレート風味の加工菓子類はカカオ含有量が元々少ないため、ある程度食べても治療の必要性ないものも多いと考えられますが、カカオ含有量の多いダークチョコレートやビターチョコレート、とくに製菓用のチョコレートや、それをふんだんに使用したホームメイドのチョコレートケーキなどの誤食には充分な注意が必要です。

テオブロミンの過剰摂取に対して有効な解毒薬はありません。可能なら吸収される前に催吐剤を用いて胃内から排泄させる必要があります。時間が経過して催吐処置が難しい場合や、中毒量を超え致死量の摂取が想定されるような場合には、緊急で胃洗浄を行うこともあります。

チョコレートを食べてしまってから時間が経過してしまっている場合は、催吐処置や胃洗浄は効果が低く対症療法となります。チョコレートを食べてしまった場合には、早急に動物病院にご相談ください。


チョコレートの誤食に注意して下さい

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No.9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬


No.514 フェレットの脾腫

脾臓の機能は主に造血、古くなった血球の破壊、血液の貯蔵です。脾臓の腫れを脾腫といいます。フェレットの脾臓の腫れは比較的よく見られる状態です。正常なものから腫瘍まで原因は様々です。

フェレットの脾腫は、生理的なもの、髄外造血、心筋症からの鬱血、過形成、炎症、インスリノーマ、副腎疾患、ヘリコバクター、消化管内異物、腸炎、上部気道感染症、歯牙疾患、アリューシャン病、リンパ腫などの腫瘍性疾患などで認められます。特発性(原因不明)の場合もあります。

初期は無症状の事が多いですが、巨大化すると胃腸を圧迫し、嘔吐や食欲不振を起こします。また、腫瘍性のもので破裂を起こすと、比較的元気だったフェレットが、急に虚脱や失神、場合によっては死亡することもあります。

診断は、触診、レントゲン検査、超音波検査、血液検査、FNA(細胞診)などを組み合わせて行います。とくに、腫瘍性疾患との鑑別は早期に行う必要があります。細胞診は鎮静、麻酔が必要な場合があります。

治療は原因疾患の治療と、検査で大きな問題がなければ、対症療法や経過観察を行いますが、腫瘍が疑われる場合、巨大化して胃腸の圧迫が激しい場合は外科的に摘出を考慮します。脾臓を失っても、生存には問題がありませんが注意深く判断します。


フェレットは脾腫がよく起こります

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No.178 脾臓の病気


No.513 猫の扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)

扁平上皮癌は扁平上皮細胞から発生するため、扁平上皮細胞が存在する場所であれば、どこにでも発生します。多くは、指(爪床)・耳・鼻・まぶた・口腔内などです。通常、単独の病変として発生しますが、多中心性扁平上皮癌(ボーエン病)と呼ばれる、体の複数の箇所に病変が発生するものがあります。多中心性扁平上皮癌は猫では稀です。

環境要因・遺伝的要因などの危険因子が複雑に絡み合って発症していることが多いです。紫外線・日光への曝露、タバコの煙、ノミ除け首輪などは、猫の扁平上皮癌の原因となるといわれています。また、白色および淡色の猫は扁平上皮癌を発症する可能性が高い傾向にあります。一方、シャム・ヒマラヤン・ペルシャ猫では扁平上皮癌の発症リスクが低い事が報告されています。

扁平上皮癌は、瞼・鼻・唇・耳・口腔内など紫外線・日光に曝露されやすい部位に発生します。足の指にも発生することがあります。見た目は、ただれる(潰瘍)、赤みを帯びて盛り上がる、カリフラワー様に増殖するといったものが多いです。また、破裂・自壊して出血することもあります。その場合は痛みを伴います。足の指にできた場合は、腫れ・痛み・爪の喪失・跛行を引き起こします。患部を舐めて噛むなど、自傷行為を起こすことがあります。

診断は針吸引検査(FNA)や生検により行います。FNAは針のついた注射器で病変から細胞のサンプルを採取し顕微鏡で観察します。生検は、腫瘍を外科的に切除し病理検査を行います。また、足指の腫瘍の場合には、扁平上皮癌(原発性)なのか肺癌の転移による腫瘍なのかをレントゲンやCT検査で判断します。猫の場合、足指の腫瘍の90%は肺から足指に転移したものといわれていて、これを肺趾症候群といいます。

局所浸潤性が高い扁平上皮癌ですが、顔面に発生するものは、顎下リンパ節や肺などへの転移する事があります。転移の有無を調べるには、触診、超音波検査・レントゲン検査を行います。リンパ節が腫大している場合には、リンパ節から採材し、転移の有無を確認することもあります。

治療は可能なら外科切除を行います。外科切除の前にはCT検査が望まれます。

その他の治療法としては、
・リン酸トラセニブ:チロシンキナーゼ阻害薬であるリン酸トラセニブは、扁平上皮癌の進行を抑え、寿命の延長を望める分子標的薬です。リン酸トラセニブにて治療した症例は、無治療群と比較して生存期間が3倍延長したとの報告もあります。
・NSAIDS:疼痛の緩和をします。
・ビスホスホネート:骨破壊を併発している扁平上皮癌の症例では、ビスホスホネートを使用することがあります。扁平上皮癌による骨破壊の抑制と疼痛緩和の作用があります。また、最近では腫瘍細胞抑制に寄与する可能性もあると示唆されています。
・食事療法:痛みなどから食事を思うように食べれず、QOLが悪化してしまう事が多いので、胃瘻チューブや食道チューブなどの設置も考慮し、QOL悪化を防ぎます。また、温めた柔らかく食べやすいフードが必要です。脱水を起こしやすくなりますので、積極的な水分の投与や点滴も必要です。
・代替医療:免疫力を上げるために行います。体質に合うと著効する場合もあります。
これらを組み合わせて治療を行います。

猫の扁平上皮癌(とくに口腔内)には、放射線療法が奏功しないケースが多いです。少量分割照射での生存期間中央値は2ヶ月とも言われています。ですが近年、外科切除・化学療法を組み合わせる事で、生存期間を延長できることを示唆する報告もあります。

口腔内に扁平上皮癌ができてしまい、外科治療が困難である場合は予後が悪いことが多く、生存期間は3ヶ月といわれています。しっかりと外科的に扁平上皮癌を取り切れた場合は長期生存が可能な場合もあります。


舌根部の扁平上皮癌
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No.485 動物の受動喫煙