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No.182 急な災害に備えて

災害時はご自分の安全が第一です。冷静になって、ご自分とご家族、ペットの安全を確保して下さい。ペットも突然の災害にいつもとは違う行動をとってしまうことがあります。リードやケージなどに災害に配慮した対策を考えることも必要です。

1.同行避難
避難する時にはペットと同行避難することが原則です。離れた場所にいた場合には、自分の被害状況、避難所との距離、避難指示などをしっかり考慮し、避難させるかどうかの判断が必要です。もし、ペットとはぐれてしまった場合には、ペットの情報を自治体の動物担当部署や警察等に届け出て下さい。

2.同行避難の方法
同行避難する際には、普段よりしっかりとリードの確認や首輪が抜けないかどうかの確認を行ってください。猫ちゃんやうさぎちゃん、その他の動物の場合でも移動しやすいようにコンパクトなキャリーバッグやケージに入れ、逃走しないようにガムテープで固定することなども必要です。

3.避難後の生活
様々な人が共同生活をする場において、ペットの存在は心の支えになるという方がいる一方で、アレルギーを持った方や、咬傷事故や鳴き声への苦情、体毛や糞尿処理など 衛生面でトラブルになることもあります。飼育管理は飼い主さんの責任で衛生的な管理を行うとともに、飼い主同士で周りの人に配慮したルールを作ることも重要です。

4.ストレス
ペットもストレスから体調を崩したり、病気が発生しやすくなるため、飼主さんはペットの体調に慎重に気を配り不安を取り除いてあげる必要があります。

災害時に備えて準備しておきたいもの (一例です)
・水(3日分程度)
・フード(1週間分程度)
・食事用の器(折りたためるものがオススメです)
・薬(1週間分程度)
・名札(連絡先付きの物)
・マイクロチップ
・リード
・キャリーケース
・飼育メモ(生年月日・病歴・ワクチン歴など)
・ペットシーツ
・タオル
・ビニール袋
・新聞紙

ポイント
1.いつもと同じものを
災害時はいつもと違う環境になってしまいます。普段と同じものを食べたり使ったりできるように日頃から準備しておいてください。なるべくコンパクトなものを用意して下さい。そして、薬など命に関わるものは、しっかりと準備してください。
2.情報がわかるように
東日本大震災の時には名札もマイフロチップもないワンちゃんや猫ちゃんが沢山いました。離れ離れになってしまった場合でも、できるだけ早く飼い主様の情報が分かるようにしてください。

災害時には、大きな混乱が予想されます。動物たちが安全・安心な生活を送れるように日頃から準備してください。詳しいことは、横浜市獣医師会のホームページの『人とペットの災害対策ガイドライン』のページをご覧ください。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html


車中泊


No.181 耳血腫(Aural hematoma)

耳血腫とは、耳介と呼ばれる犬の耳の軟骨付近の皮膚と軟骨の間に血液や血液を含んだ液体が溜まってしまう病気のことをいいます。ヒトの場合は柔道やラグビーなどの頭部に外傷を負うこのとあるスポーツによって生じるため「スポーツ外傷」と呼ばれることがあります。犬の場合も、打撲などの外傷によって内出血が起きること、強くひっかくことや、耳を掻いてできた傷に細菌が感染したりして発症します。外耳炎を伴っていることが多いです。耳血腫を引き起こすと耳が腫れあがり、熱をもったり、痛みや痒みをともなうことがあります。垂れ耳の大型犬に多く小型犬や猫では稀です。

治療には、内科的な治療と外科的な治療がありますが、内科治療ではステロイド剤やピシバニール(抗癌剤の一種)などを使用します。内科治療で治らない場合は外科手術となります。


犬の耳血腫

こちらもご覧ください→
No57 外耳炎1
No58 外耳炎2


No.180 ロッキングプレート (Locking plate)

骨折治療の基本は、折れた骨をもとの位置に戻し(整復)、固定することです。きれいに固定し、固定を妨げるような外力をかけないようにすれば、ほとんどの場合は後遺症を残さずに治ります。適切な治療が遅れたため治癒までに時間がかかったり、骨の変形が残ったり、あるいはくっつかないままになったりすることを避けるために、正しい診断と適切な処置の選択が重要です 。
骨折の治療には、大きく分けて、外固定(ギブスや副木)と内固定(ピンニング、プレート、髄内釘固定)があり、通常これらを症状にあわせて組み合わせて行います。現在の獣医学ではプレートが多く用いられます。

近年は、交通事故よりも、ソファーから飛び降りたとか、コードなどに引っかかったとか、同居の動物と激しく遊んでいたから、ヒトが間違って踏んでしまったとか、家庭内のささいな事故による骨折が増えています。今はトイプードルやチワワ、ポメラニアンなどの小型犬・超小型犬が人気犬種です。このような品種の骨折治療は、従来の古典的プレートでは困難で癒合不全(骨がくっつかないこと)の可能性が高かったのですが、ロッキングプレートの出現によって癒合不全のリスクが大幅に軽減されました。

古典的プレート法は、スクリュー(ネジ)でプレートを骨に押し付ける事で固定力を獲得していました。その際、骨を強く圧迫する事で骨膜の血流を阻害し骨折端の細胞が壊死するなどして治癒に悪影響を与えていました。
ロッキングプレートは、プレートとスクリューをロックする事によるAngle stability(骨の角度安定性)によって固定するもので、骨膜の血流を維持することができます。
簡単にいうと、古典的プレート法は『完璧な固定(骨を融かすリスクがある程に)』を重視しているのに比べ、ロッキングプレートでは『生物学的癒合を優先』した骨折治療となっており、従来の骨折治療のトラブルの多くを解決できる方法です。

ロッキングプレートの普及と種類が増えたことによって、犬や猫だけでなく、ウサギやモルモット、鳥類などにも応用できるようになりました。


ハトの骨折にロッキングプレートを用いた例
(注;この例では世界で1番細いロッキングプレートを使用していますが、これでもプレートが太過ぎて理想的ではありませんので、あくまで一例とお考え下さい)


No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)

前回の脾臓の病気の中でも一番多く、恐ろしいのが血管肉腫です。犬の脾臓の結節(しこり)には2/3ルールというものがあって、脾臓に何らかのしこりがある場合、その2/3は腫瘍性病変で、さらにその2/3は悪性腫瘍である。そしてその2/3が血管肉腫であるといわれています。血管肉腫は血管内皮由来の悪性度の高い腫瘍で、脾臓の他にも心臓(右心耳)、肝臓、皮膚など、いろいろなところに発生します。中でも脾臓での発生率が最も高いです。犬では6-17歳に起こり、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパードなどの大型犬によくみられ、猫では稀です。単発の場合もありますが、多発の場合もあります。血行性に転移・播種しますがリンパ節転移は稀です。破裂したもの、多発傾向のものは転移しやすいといわれています。

血管肉腫は被膜に包まれておらず非常に脆いため、破裂して出血したり、隣接する器官と癒着することがしばしばあります。内臓の血管肉腫(主に脾臓や肝臓等)によく見られる症状は腫瘍が破裂したことによる、急性の衰弱ないし虚脱(ショック状態)です。血管肉腫では貧血、血小板減少および凝固能の異常がみられることが多く、程度は症例により様々ですが、約50%は播種性血管内凝固(DIC)になるといわれています。また、腹腔内で破裂した状態でみつかると、ショックの改善→DICからの脱出→手術の成功とハードルの高い治療が必要です。治療が上手くいっても予後は2ヶ月くらいといわれています(ドキソルビシンという抗癌剤やホメオパシーなどの代替医療を用い、数年寿命が延びた例もあります)。まずは腫瘍が破裂する前に発見して手術で摘出したいところですが、現在のところ、内臓の血管肉腫を早期発見するのはなかなか困難です。好発犬種では定期的な超音波検査を行うことが推奨されます。

下記をクリックすると内蔵の写真が表示されます。見たくない方はクリックしないようにしてください。
血管肉腫の脾臓


No.178 脾臓の病気

脾臓は胃の下にある比較的大きな臓器で、主な働きとして、古くなった赤血球を壊す、抗体を作る、血液を貯留させておくがあります。いずれも重要な役割ですが、他の臓器でも代償可能なため摘出しても大きな問題は生じません。

犬やフェレット (稀に猫も) では、脾臓が腫れる脾腫や、脾臓にしこりができる結節性病変がよくみられます。基本的には、脾臓が大きくなり過ぎて他の臓器を圧迫したり、結節性病変が破裂したりしない限りほとんどの場合は無症状です。

脾臓が腫れている場合(脾腫)の主な原因(赤字のものは悪性腫瘍です)
・うっ血:フェレットで多い
・髄外造血:フェレットで多い、犬にもみられる
血球貪食性組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
肥満細胞腫:猫で多い、犬やフェレットでもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

脾臓に結節性病変(しこり)がある場合の主な原因
・血腫:事故などによる脾臓の内出血が固まった場合などにみられる
・結節性過形成:フェレットで多い
血管肉腫:大型犬で多くみられ、非常に悪性度が高い、脾臓の悪性腫瘍で一番多くみられる
間質肉腫:稀
組織球肉腫:大型犬で稀にみられ、非常に悪性度が高い
高分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる
低分化型リンパ腫:猫、フェレットで比較的多く発生し、犬にもみられる

診断はレントゲン検査、超音波検査で脾腫や結節性病変を見つけ、状況によって針生検(バイオプシー)を行います(血管肉腫などの悪性腫瘍が強く疑われる場合、大出血が起こる可能性がある場合は行いません)。治療は経過観察を行う場合もありますが、とくに犬で血管肉腫をはじめとする悪性腫瘍を疑う場合は早期の脾臓の摘出が必要です。また稀ですが、ボルゾイやグレートデンのような大型で胸郭の深い犬では脾臓の捻転がみられる場合があります。この場合も脾臓を摘出することが多いです。また、脾臓そのものの病気ではありませんが、難治性の免疫介在性溶血性貧血のときに脾臓を摘出すると予後が良くなる場合があります。いずれにしても、酷い状態になるまで無症状な場合が多いので、10歳以上の犬や5歳以上のフェレットでは、定期的な超音波検査が推奨されます。


No.177 犬の化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)

前立腺とは、膀胱の真下にあり、尿道を取り囲む様に存在しているオスにのみある生殖器です。主な働きは前立腺液を分泌し、精嚢から分泌された精嚢液を、精巣で作られる精子と混合して精液を作ること、および射精時における収縮や尿の排泄の補助などです。

犬の前立腺疾患は、良性前立腺肥大45.9%、前立腺炎38.5%、化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)7.7%、前立腺嚢胞5.0%、前立腺腫瘍2.6%、扁平上皮化生0.2%と分類されています。未去勢犬の前立腺は1歳から拡大し始め、6歳で80%以上、9歳で95%の犬が過形成を起こします。ヒトとはかなり病態が違います。重度になると便秘や排尿障害、会陰ヘルニア(→No116 会陰ヘルニア)などを起こします。

良性前立腺肥大は前立腺の良性過形成とも呼ばれ、5-6歳が発生のピークです。多くの症例で前立腺炎も合併しています。前立腺嚢胞とは前立腺の中に多数の嚢が作られてしまう状態です。片側だけ大きくなる旁前立腺嚢胞という病態もあります。そして、近年多くなってきているのが 化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)です。

化膿性前立腺炎とは、前立腺が化膿して膿がたまっている状態をいいます。前立腺内で発生した炎症によって膿が発生し、これが尿道を通じて排出されないと前立腺内に膿がどんどん溜まっていきます。この状態が化膿性前立腺炎です。化膿性前立腺炎の多くは、最初は無症状です。しかし放っておいて病態が進行すると、血尿、膿尿、腹膜炎、敗血症を起こしDIC(→No144 播種性血管内凝固)となって死に至ります。この病気のやっかいなところは、末期にならないと、発熱、元気・食欲消失などの症状が出ないことです。治療は外科的な介入が必要ですが、敗血症やDICの状態になると予後は厳しいです。

前立腺腫瘍以外のほとんどの前立腺の病気は若いうちの去勢手術で予防できます。子供を取らないのであれば、5-6ヶ月までの去勢手術がオススメです。


No.176 第17回 飼主様向けセミナー ご質問への回答

飼主様セミナーでのご質問への回答です。まずは講演の内容と関係のあるものから

Q:・がんの予防法はありますか?
・がん予防のための免疫を上げる方法はありますか?
・がんの予防になる食べ物を教えて下さい
A:がんの予防に決定的なものはありませんが、免疫力を上げるためにも、ストレスを減らした生活、バランスの取れた食事、適度な運動、感染症などの予防などは重要だと考えます。免疫力を上げる食べ物はヒトでは、キノコ類や海藻類などが有名ですが、動物ではきちんとした研究はありません。様々なサプリメントも同様です。

Q:がんになったら延命を選択し、予後を確認すべきでしょうか?
A:がんの種類とステージ、動物の年齢、状態によって変わります。手術のみで完治できる場合も多くあります。予後もあくまでも過去の統計学の数字です。様々な条件を考えて治療を獣医師と相談して下さい。

Q:できものがあった場合、どのくらいのペースでどのくらいに大きくなったら注意した方が良いか?
A:一概にはいえませんが、大きくなるのが早いものは悪性のものの疑いが強くなります。まずは、細胞の検査をしましょう。

Q:PET検査を受けられますか?
A:現在、北里大学(青森県十和田市)で可能です。費用は内容によって変わります。詳細はこちらにお問い合わせ下さい。→
https://www.kitasato.ac.jp/new_news/n20090416.html

以下は、今回のセミナーの内容とはあまり関係のない質問ですが、こちらからは、濱田が可能な限りお答えします。

Q:兄弟犬間輸血について教えて下さい
A:輸血のドナー(血液を与える側)にも様々な理想の条件がありますが、兄弟だからといって、必ずしも大丈夫とは限りません。兄弟間でも血液型特定検査、交差試験(クロスマッチ試験)を行います。これらの検査が大丈夫なら問題ありません。こちらも参考にして下さい。
No173 犬の血液型と輸血

Q:救急の時に病院到着までにやると良いこととやってはいけないことを教えて下さい
A:病気の種類や状態によって異なりますが、意識があれば、そのまま安静にしてお連れ下さい。また、心肺停止(CPA)の状態なら心肺蘇生(CPR)が必要です。
No162 家庭での心肺蘇生

Q:老化・認知症・介護・高齢動物の病気について教えて下さい
A:こちらを参考にして下さい→
No22 高齢犬の変形性脊椎症
No104 老化1 老化の定義
No105 老化2 外観と行動の変化
No106 老化3 体内での変化
No107 高齢動物の関節疾患
No108 高齢動物の歯の疾患
No109 高齢動物の心疾患
No110 認知症1
No111 認知症2 夜鳴き
No112 認知症3 徘徊
No113 高齢動物に対してできること1
No114 高齢動物に対してできること2
No115 高齢動物に対してできること3
No139 高齢猫の体重減少

Q:ホメオパシー・レメディについて
A:ホメオパシーは条件が合えば、副作用もなく、費用も安くとても効果的な治療法です。しかし、ホメオパシーの知識・経験の足りない医療従事者、もしくはホメオパシーのみを勉強した一般の方々によって安易に使用され問題となることがたびたびあります。この治療法は通常の西洋医学とは全く違った学習・アプローチをしなければなりません。また、ホメオパシーのみの治療を行う場合もありますが、基本的にはあくまでも西洋医学の補助と考えます。西洋医学の知識・臨床経験がないまま、この治療を行うと上手く行きません。基本原理などはこちらを参考にして下さい。
http://www.javh.jp/

Q:吐き気と下痢で病院に行くべきかどうかを教えて下さい
A:原因、年齢、持病などの状況にもよりますが、嘔吐の場合は、月に2-3回の嘔吐でその後にケロッとしていて、その他の症状がない場合は様子をみるもありだと思いますが、連続した嘔吐や、連続でなくても、週に2回も3回も吐いているなら、きちんとした検査・治療が必要です。
下痢の場合は少しずつの下痢をチョコチョコ繰り返していて、その他の症状がないなら食事を減らすなどして様子をみるもありだと思いますが、いっぺんにたくさんの下痢をしている場合や血便の場合、嘔吐などの他の症状がある場合は、きちんとした検査・治療が必要だと考えます。一昨日の平田先生の講演でも『様子をみることは全ての病気に対して選択しの1つであるが、それが1番良い選択であることは少ない』と言ってましたね。こちらも参考にして下さい→
No123 下痢
No129 犬や猫が吐くとき1
No130 犬や猫が吐くとき2

Q:いびきについて
A:動物の種類、品種、年齢、持病によっても違います。単純に肥満してきた、年齢が上がって軟口蓋が垂れ下がってきたなどという場合もありますが、気管虚脱、短頭種気道症候群、喉頭麻痺、異物、腫瘍などの場合もあります。急に始まったのなら、早い段階での検査がオススメです。こちらも参考にして下さい→
No100 気管虚脱と軟口蓋過長症1
No101 気管虚脱と軟口蓋過長症2
No159 呼吸困難1
No160 呼吸困難2

Q:オススメの食事について教えて下さい
A:食事や栄養は本当に難しい問題です。品種、年齢、持病、栄養状態、運動をどれくらいさせられるのか、飼主さんがどれくらい手間と時間とお金をかけられるのか、ペットフードを使うのか、全て手作りで与えるのかなどによって違います。基本的には質のよいペットフードを中心に、1-2割くらい味をつけていないヒトの食べ物を混ぜることを個人的にオススメしています。体重、便の状態、手作り食中心の場合は半年に1度くらいの血液検査も重要です。こちらも参考にして下さい→
No8 ペットフードと手作りフード
No9 犬、猫に与えてはいけない食品、薬
No10 犬、猫に与えてはいけない食品、薬 その2
No40 ボディコンデションスコア(BCS)
No41 1日あたりエネルギー要求量(DER)
No84 犬のおやつ
No165 水
No166 炭水化物
No167タンパク質
No168 タンパク質の「質」
No169 脂質
No170 ビタミン
No171 ミネラル

Q:動物のストレスについて教えて下さい
A:動物にとってもストレスは重要な問題です。環境や食事、運動などはもちろんですが、犬や猫、うさぎ、フェレット、鳥などにおいては、飼主さんと動物との距離感がとても大切です。いうまでもなく動物は飼主さんファーストです。飼主さんにとっても自分の動物はかけがえのない家族です。しかし、その関係の距離感を間違えて接し続けると、飼主さん以外と遊べない、飼主さん以外に攻撃的になる、留守中に鳴き続けるなどの問題行動が生じます。この時、動物も大きいストレスを受けています。飼主さんからの過剰な愛情からストレスを受けている動物が多くいます。とくに犬とうさぎでよくみられます。また、いつか別れなければならない日が来ると、飼主さんのペットロスも大きな問題となります。その動物の習性・特性を理解し愛情を注ぐことが大事です。こちらも参考にして下さい→
No13 エンリッチメント

以上、ご参考になれば幸いです。


No.175 第17回 飼主様向けセミナー

昨日のウェスト動物病院飼主様セミナー『動物のがんについて』へご参加いただいた皆様、ありがとうございました。少しでもご参考になったなら嬉しいです。

平田先生の講演のサマリーです。

・動物にも人と同じ種類のがんがある
・ヒト:消化管のがんが多い
犬:できものの発生率は他の動物より多いが、良性のできものが比較的多い
乳腺や体表の腫瘍ができやすい
猫:できものはできにくいが、がん(悪性腫瘍)が比較的多い
うさぎ:子宮や卵巣のがんが多い
フェレット:膵臓や副腎などの内分泌のがんが多い
・良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは、その場所から動かないか転移するか
・良性腫瘍が悪性腫瘍に変わってしまう場合もある
・がん細胞は様々な体内の免疫細胞に勝ったエリートなので、エリートにならないうちにやっつける
・できものをみつけたら:細胞の検査→悪性の疑い→転移の検査→治療法の選択
・リンパ球などの免疫細胞は年齢とともに減る
・ヒトのがん年齢は40歳、犬猫は5歳くらいから
・犬や猫はヒトの5倍のスピードで生きているのでがんの進行も早い
・犬や猫の生命力はヒトより弱い
・抗がん剤は副作用は出にくいがヒトのように強くは使えない
・早期発見にはよく触ってあげること
・食欲があるのに痩せてきたら要注意
・乳腺がんの予防のためには、早期の不妊手術
・猫では室内飼いにしてウィルス感染の確立を減らす
・様子をみることは全ての病気に対して選択肢の1つであるが、それが1番良い選択であることは少ない
・様子をみて良いかは獣医さんと相談
・動物の医療はヒトの医療ほど進んでいない
・できることが限られている中で、家族間、獣医師などとよく話し合って治療を決めることが重要
・最新の治療が最高の治療とは限らない

などでした。

ご質問には、次回のメルマガでお答えします。

また、がんについてはこちらも参考にして下さい→
No92 腫瘍1
No93 腫瘍2 悪性腫瘍の分類
No94 腫瘍3 悪性腫瘍の進行度
No95 腫瘍4 悪性腫瘍の治療

皆様ありがとうございました!


No.174 猫の血液型と輸血

たくさんの血液型のある犬と違い、現在確認されている猫の血液型はA型、B型、AB型の3種類です。血液型を決定しているのは、両親から1本ずつ受け継ぐ血液遺伝子の組み合わせです。
A型の猫:A型遺伝子+A型遺伝子、A型遺伝子+B型遺伝子、A型遺伝子+AB型遺伝子の3パターン
AB型の猫:B型遺伝子+AB型遺伝子、AB型遺伝子+AB型遺伝子の2パターン
B型の猫:B型遺伝子+B型遺伝子の1パターン
基本はこの3パターンですが、A型遺伝子+AB型遺伝子でAB型というパターンも報告されています。また、A型の猫が多く(日本の猫では80-90%)、B型は稀で、AB型は非常に少ないとされています。

猫は血液型が犬と比べるとシンプルなため、輸血時には簡易キットで調べられますが、交差試験(クロスマッチ試験)も必ず行います。しかし、犬と同様に大規模な血液バンクはありませんので、輸血に十分な血液が手に入り辛いのが現状です。また、B型の血液をA型の猫に輸血するよりも、A型の血液をB型の猫に輸血する方が凝集が起こりにくいともいわれています。

どうしても、合う血液が手に入らない場合は、1回目の輸血においては、大きな問題が発生することは比較的少ないので、仕方なく違う型の血液を使うことがあります。しかし、この場合も交差試験でなるべく凝集が少ないものを使います。また、本当に緊急の場合は、異なる動物種間で輸血を行う、異種間輸血(Xenotransfusion)が行われる場合もあります。通常は避けられますが、輸血以外に手がないにもかかわらず、すぐに同種の血液が手に入らないときなどに窮余の一策として行われることがありますが、輸血後4日目くらいから徐々に抗体ができて赤血球が壊れ始めますので、相当な緊急事態以外では行いません。

最後に、よく質問を受けますが、犬でも猫でも血液型と性格は無関係です。性格は、両親のDNAはもちろんですが、母親や兄弟、ヒトとの関係などの、生まれた後の社会的な状況(とくに社会化期)・環境、栄養状態など、先天的・後天的な要素が複雑に絡みあって形成されます。


No.173 犬の血液型と輸血

犬の血液型はヒトよりも種類が多いです。血液型は赤血球の抗原の種類によって決まります。ヒトの血液型の一番有名な分類法はABO式で『A型、B型、O型、AB型』の4種類があることは皆さんご存知の通りです。しかし、犬の血液型は10種類以上あります。そして、驚くことに様々な研究によって今もまだ少しずつ種類が増えています。たくさんある血液型から稀なものを除いて、国際的によく認知されているのは以下の8種類です。DEA1.1, DEA1.2, DEA3, DEA4, DEA5, DEA6, DEA7, DEA8(DEA:Dog Erythrocyte Antigen犬の赤血球抗原)。

ヒトの血液型をABO式で考えた場合、血液型は1人に対して1つしかありません。しかし、ここに『Rh抗原』という別の分類法を加えると、赤血球上に2つの血液型が共存するという現象が起きます。Aさんは『Rh+A型』、Bさんは『Rh- B型』というようになります。ヒトとは少し違いますが、犬の場合も血液型の共存が起こります。ソラくんは『DEA1.1+DEA3』とかモモちゃんは『DEA1.1+DEA4+DEA7』といった感じです。犬の場合は抗原の数がヒトよりもはるかに多いため、共存パターンは複雑になります。

臨床の場で血液型がクローズアップされるのは、交通事故などの大きな出血を伴う怪我、病気による重度の貧血などで輸血が必要な場合でしょう。輸血で異なるタイプの血を混ぜると抗原抗体反応という拒絶反応が起きるときがあります。抗原が赤血球上にある分子の形状を示しているのに対し、抗体は血漿中に含まれるたんぱく質のことをいいます。この抗体は体内に自分のものとは違う血液が侵入してきたときに、その赤血球上にある抗体に取り付き機能不全にしてしまいます。これを凝集と呼びます。型が異なる血液どうしを混ぜていけない理由は、この凝集によって血液が使い物にならなくなるからです。

輸血時の凝集を予防するため、血液型特定検査、交差試験(クロスマッチ試験)という試験をします。犬の血液型を特定するには検査所に血液サンプルを送る必要があります。しかし急を要するときは、最も激しい抗原抗体反応を起こすDEA1.1のみをチェックします。日本では55%の犬でDEA1.1を保有していると考えられています。また逆にDEA4は全ての血液型の中で最も弱い抗原抗体反応しか引き起こさないため、万能血液と呼ばれています。DEA1.1チェックに加え、交差試験も行います。血液中に含まれる赤血球と血漿を分離して、
主試験:輸血を受ける側(レシピアント)の血漿×血液を与える側(ドナー)の赤血球
副試験:血液を与える側(ドナー)の血漿×輸血を受ける側(レシピアント)の赤血球
という組み合わせで、凝集が起こるかどうかをみます。

現在の日本には、動物用の大規模な血液バンクがないため、輸血に十分な血液が手に入り辛いのが現状です。2015年に中央大学の研究チームが犬用の人工血液の開発に成功しましたが、実用化にはまだ数年かかるでしょう。