No.242 新型コロナウイルスと猫とフェレット

インパクトファクター(良い論文の指標の1つ)の高い有名な科学論文雑誌Scienceに『Susceptibility of ferrets, cats, dogs, and other domesticated animals to SARS-coronavirus 2』(フェレット、猫、犬、およびその他の家畜のSARSコロナウイルス2に対する感受性)という論文がでました。要約は以下になります。

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年12月に中国の武漢で最初に報告された感染症COVID-19を引き起こします。COVID-19はこの病気を制御するための多大な努力にもかかわらず、現在100以上の国に感染が確認され、世界的なパンデミックを引き起こしています。 SARS-CoV-2はコウモリを起源とすると考えられています。 ただし、ウイルスの中間の動物の起源は不明です。 ここでは、SARS-CoV-2への人間と密接に接触しているフェレットといくつかの動物の感受性を調査しました。SARS-CoV-2は、イヌ、ブタ、ニワトリ、アヒルでは複製が不十分であることがわかりましたが、フェレットと猫は感染を許容します。猫は飛沫感染の影響を受けやすいことが実験的にわかりました。 私たちの研究は、SARS-CoV-2の動物モデルとCOVID-19制御の動物管理に関する重要な考え方を提供します。

猫やフェレットからヒトに感染が起こるかどうかの研究はこれからですが、実際には猫やフェレットが感染しているときは飼主さんが感染している場合がほとんどでしょう。猫、フェレットを飼っている方は、必ず屋内で飼育し、外出から戻ったときは、触る前に手洗いうがい、着替えをすることはもちろんですが、ご自分がヒトから感染しないように充分ご注意ください。また、新しい情報があればご報告します。


No.241 エキゾチックペットへの全身麻酔

犬、猫以外の動物を獣医の世界ではエキゾチックペットと呼びますが、これらの動物への全身麻酔は、犬や猫と違った難しさがあります。

動物への全身麻酔の流れは、ヒトの場合とそう大きな違いはありませんが、ヒトでは簡単にできることが動物では困難なものがあります。全身麻酔の第一歩は、その動物に対して安全に麻酔がかけられるかどうかを判断することです。身体一般検査のほか、血液検査、レントゲン検査などを行います。動物が高齢の場合や持病がある時は、超音波検査、血圧測定、心電図、その他の検査を行う場合もあります。これらを術前検査といいます。術前検査の結果をふまえ、手術において予想される侵襲の度合いや、興奮しやすい、ひどく臆病などの動物の性格なども考慮します。これらの情報を総合してリスク評価を行い全身麻酔を行います。しかし、動物種によっては術前検査が十分に行えない場合があります。例を挙げると、血液検査のデータは全身麻酔の前には欲しいものですが、小さな体重の軽いセキセイインコや文鳥などの小鳥やハムスターなどから、検査に必要な量の血液を取ってしまうと実際の血液量が不足してしまう場合があり貧血にして麻酔をしなければならなくなるので通常行いません。そのため、症状に表れていない病気を見落とすことがあります。また、ヒトの言葉を喋れない動物達にとって、頭痛があるとか昨日と何か違うというようはことを麻酔医に伝えることは出来ません。とくに高齢動物の場合、脳の中の疾患や検査結果に表れにくい問題などを持っている場合があり、全身麻酔時や覚醒時、麻酔後に予期しなかったトラブルが起こることがあります。

実際の全身麻酔の流れは、
1.準備:絶食、点滴、酸素化など
2.前投与:鎮静剤、鎮痛剤などの投与、モニターの装着
3.導入:麻酔薬の静脈投与、吸入麻酔のマスクや麻酔ボックス
4.気管チューブの挿管
5.局所麻酔、硬膜外麻酔の投与
6.維持:吸入麻酔薬、麻酔薬の持続点滴で維持。鎮痛剤の投与
7.気管チューブの抜管
8.覚醒
9.術後管理
簡単にはこのようになります。

導入時からは麻酔管理を行います。麻酔管理には2つの大きな目的があります。
1.手術時の危険から命を守る
2.術中・術後の痛みを取り除く
この目的のために、血圧・脈拍・心電図・呼吸数・体温・尿量・意識・血中酸素濃度、呼気時の二酸化炭素濃度などを測定・記録します。これを麻酔チャートと呼びます。近年、麻酔器や人工呼吸器、麻酔薬、鎮静薬などの発達は目覚ましく、毎年のように新しいものが出てきます。これらは安全な全身麻酔を行うにあたって獣医師の負担を減らしてくれます。しかし、いまだに、血圧計、心電図、SPO2、CO2といった全身麻酔では必須のモニターも小さな動物ではそのサイズがなく使用出来ない場合が多くあり、獣医師が五感でモニターをしている場面は多くあります。全身麻酔時にはとくに血圧の管理は重要ですが、小さな動物では点滴のルートも取れない場合が多く、昇圧剤などの投与も困難です。前述したように、そもそもきちんとした血圧計もありません。出血が多いなと思っても、輸血も出来ない場合がほとんどです。エキゾチックペットでは気管チューブの挿入も困難な場合が多く、人工呼吸器も使用出来ません。硬膜外麻酔も鎮痛剤も、エビデンスは少なく、効果をきちんと確認出来ていないものを経験的に使用している場合が多いです。また、逆に馬や牛などの大型動物は違った困難さがあります。競走馬などは全身麻酔の手術が行われていますが、多くの人数で特殊な機材が必要です。動物園の大型動物は手術室に入らなくてにフィールドで手術を行う場合もあります。

現在では、「安全」、「快適」、「確実」といった言葉が当然のように麻酔にも投げかけられています。今後AIの発達で全身麻酔もオートメーション化してくるでしょう。麻酔科学が発達した今でも、術中は大きな危険が潜んでいます。除痛と同じく「命を守る」働きが欠かせません。アメリカの大きな動物病院の統計では、犬猫における術前検査で全身麻酔をしても大丈夫だと判断して麻酔を行った場合の麻酔事故は1/1000だったそうです。獣医師の世界にも、海外で研修を受け、獣医麻酔専門医という肩書きの先生方が出て来ましたが、そのほとんどが犬猫専門で、エキゾチックペットの全身麻酔に関しては専門医の先生方も難しいと考えています。

どの動物も自分に麻酔をかけて欲しいなどとは思ってないでしょう。彼ら彼女らは未来の心配より今が快適かどうかで生きています。そのような動物に全身麻酔をして様々な処置を行うのはヒトの都合です。獣医師としては、1000回に1回にの失敗も許されません。麻酔のリスクとメリットを慎重に考えて注意深く全身麻酔を行うのはもちろん、テクノロジーの発展で1日も早く安全な麻酔が行われ、侵襲の少ない手術が可能になることが必要なのはヒトも動物も一緒です。

こちらもご参照下さい
No117 全身麻酔
No187 高齢動物の全身麻酔のリスク


No.240 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について 3

新型コロナウイルス(Covid-19)によって、香港で2頭の犬、ベルギーで1頭の猫が感染したという報道がなされましたが、詳細は不明であり、ウイルスの存在が感染、環境汚染、交差反応性、またはPCR試験自体の潜在的問題があるかないかも不明です。報道では、最初のポメラニアンは17歳で、隔離された後、新型コロナウイルスに対しては無罪放免になったそうですが、隔離が終わった2日後に亡くなったそうです。詳細はわかりませんが、17歳の犬を長い期間隔離すれば体調を崩しても何の不思議もありません。このような状況なので仕方ない面もあるかもしれませんが、本当なら悲しい話です。

米国疾病対策予防センター(CDC)によると、米国のどの動物もこのウイルスに感染していることは確認されておらず、犬や猫、他の動物が新型コロナウイルスに感染したりする確証はありません。

新型コロナウイルスにより、全米の保健当局は警戒態勢を維持しており、獣医の専門家は他のスタッフや飼主さんからのこのウイルスに対する質問に対し、この2点を知ってもらうべきと推奨しています。

1.現在、主な関心ごとはヒトの健康です。このウイルスは、ヒトに対して、発熱、咳、呼吸困難を伴う軽度から重度の呼吸器疾患など、インフルエンザのような症状を起こします。
2.現時点では、専門家は動物とヒトとの間の感染について懸念を表明していません。複数の国際保健機関が、ペットや他の家畜動物が新型コロナウイルス(Covid-19)に感染リスクがあるとは考えていないことを示しています。

志村けんさん始め、亡くなられた方々はとても残念で悲しいですが、日本は他の先進国に比べて、経済面を除けば、新型コロナウイルスと上手く付き合っている方ではないかと思います。高温多湿になる夏場に終息することを望みます。基本の換気の徹底、手洗い、手指の消毒、3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けるなど、まだまだ冷静な行動が必要です。


No.239 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について 2

前号のメルマガでお伝えした通り、香港から、犬が新型コロナウィルス(COVID-19)に感染したという話が流れましたが、新型コロナウィルスに感染しているヒトが飼っている犬に、PCR検査で弱い陽性反応が繰り返し出たということで、犬は反応が陰性になるまで隔離だそうですが、今のところその犬に症状はありません。現時点では、動物からヒトや他の動物に感染を媒介するかどうかはきちんとわかっていませんが、新型コロナウィルスが変異をすることに対しては警戒が必要です。

以下、国際獣疫事務局(OIE)からの見解です。
・先日の香港で見られたペットへの感染については、犬での発症の証拠はない。および、犬からヒトへの感染の証拠もない。
・ただし、感染していることがわかっているヒト、すなわち、新型コロナウィルス(COVID-19)の治療を受けている人は、動物との密接な接触を避けた方がよい。

混乱している理由の1つは、現在の新型コロナウィルスのPCR検査(遺伝子検査)の感度が70%程度だということがあります。感度とは「その疾患を持つ人が検査を行った場合に陽性となる頻度」であり、つまり感度70%の検査は30%の方は本当に新型コロナウイルス感染症なのに陰性と出てしまうということです(特異度という「その疾患を持たない人が検査を行った場合に陰性となる頻度」という言葉もあります)。つまり、PCR検査で陰性と診断されても、実は新型コロナウイルスに感染している場合もありますし、当然、陽性と診断されても感染していない場合も出てきます。現在の状況で陽性反応が出ると、本人のみならず周囲や各医療機関も大変なことになってしまうのはご存知の通りです。

現在当院では、通常のアルコール消毒に加え、オゾンや、新型コロナウィルスを15秒で死滅させるマイクロシンをディフューザーで院内を循環させ対策をしています。経済への打撃も大変なものになっています。春が来て気温や湿度が上がって早く終息して欲しいですね。

このようなセミナーも行われてます


No.238 新型コロナウイルスの犬や猫への感染の可能性について

新型コロナウィルスの情報は混沌としていますね。かなりおかしなものも散見されます。2月28日付の、香港漁農自然護理署(Agriculture, Fisheries and Conservation Department;AFCD)によると、ペットの犬から新型コロナウイルスがPCR検査で低いレベルの陽性反応がみられたという報道がありましたが(この犬の飼主さんの60歳の女性は新型コロナウイルスに感染しています)、下記の理由から日本のペットにおける新型コロナウイルスの感染は、現時点において問題とならないと、東京都獣医師会から発表がありました。

1.現時点の漁農自然護理署(AFCD)の発表では、犬の鼻と口の粘膜にたまたま付着した新型コロナウイルスを検出してしまった可能性があり(新型コロナウィルスは環境にも残ります)、犬の体内で本ウイルスが増殖したかどうかは確定していません(犬が感染したことを確認したわけではありません)。
2.もし、ペットに新型コロナウイルスが感染するとしても、コウモリなどの野生動物との接触がほぼないとされる日本のペット飼育環境下においては、ペットへの新型コロナウイルスの感染があるとすれば、飼主さんからペットへ感染する経路しか考えられませんが、その可能性も非常に低いと考えられます。(新型コロナウィルスがコウモリによって媒介されたという証拠も、今のところありません)

まずは飼主さんが新型コロナウイルスに感染しないように注意し、落ち着いてペットに対応しましょう。
本件に関しては新しい情報が届きましたら随時更新します。


No.237 新型コロナウイルスに対する東京都獣医師会による飼主さんとのQ&A

Q1.新型コロナウイルスはペット(犬や猫)にうつりますか?
A.飼い主様にとっては心配なことですね。 ただ、これまでに新型コロナウイルスが、犬猫を含むペットに感染したという報告は一切ありませんので、その心配はかなり小さいと考えられます。 しかし、今後状況が変化すれば、その可能性は完全には否定できませんので、随時情報を発信していきたいと考えています。

Q2.犬や猫にも「コロナウイルス感染症」があると聞いたことがありますが、それは人にうつりますか?
A.犬や猫にも固有のコロナウイルス感染症があります。 しかしコロナウイルスは「種特異性」※が高いため、これまで犬猫で報告されている 「コロナウイルス感染症」が、人を含めた他の種の動物に感染したという報告はありません。 犬の場合は軽い下痢症状、猫の場合は伝染性腹膜炎を起こしますが、どちらもまれな病気です。 犬のコロナウイルス感染症が猫にうつったり、あるいは猫のコロナウイルス感染症が犬にうつったりするのは一般的ではありません。
※「種特異性」とは
形態あるいは機能のうえで,ある種は共通にもっているが,他の種には認められない特色。

Q3.私は新型コロナウイルスに感染しました。ペット(犬猫)とどう接すればいいですか?
A.あなたが病院等、隔離された場所に行かなければならない場合には、安心してペットのお世話を頼める人に預けましょう。 あなたとペットが室内で一緒に生活していたのであれば、患者であるあなたが暮らしていた部屋にペットを残し、お世話に通ってもらう方法は、感染対策上お勧めできません。 ペットを預ける場合、念のために、被毛を洗浄するか、またはペットと接する際にはマスクやグローブをつけてもらい、お世話をした後は、丁寧な手洗いを励行するようにお伝えください。

Q4.飼っているペットが新型コロナウイルスに感染したのではないかと心配です。どうすればいいですか?
A.ペットが新型コロナウイルスに感染したかどうかを検査する方法は今のところありません。Q3で回答したように、新型コロナウイルスがペットに感染したという報告はありませんが、もし、ペットへの感染が心配であるなら、人混みに連れて行かないようにし、できるだけ感染のリスクを減らすよう注意して生活します。新型コロナウイルスに感染していた人とペットが濃厚に接触したことが分かっていて、その後ペットの体調が悪くなった、という場合には、かかりつけの動物病院に電話をしてください。


No.236 新型コロナウイルス(2019 n-CoV)

中国、武漢で発生した新型コロナウイルス(2019 n-CoV)に対する質問を毎日受けます。1番多い質問は、「動物にも感染するのか?」というものです。

現時点では、動物からヒトや他の動物に感染を媒介するというエビデンス(証拠)はありません。ご自宅の動物からヒトが感染することも、その逆も非常に考えづらいです。 しかし一方で新型コロナウィルスが「急激な展開を見せる」ことに対しては警戒が必要です。

世界小動物獣医師会(WSAVA )のOne Health Committee の委員長である Michael Lappin 先生は以下のこと推奨しています。

・十分に衛生状態を保てる限りは飼っている動物と一緒にいること
・猫は屋内にとどめておくこと
・もし家族や友人で新型コロナウィルス感染症で入院している者がいる場合は動物を預けに出すこと
・不安がある場合は速やかに獣医師に相談すること

また、一部の地域で販売されている犬で消化器症状を起こすコロナウイルスに対するワクチンも効果はありません。新型コロナウイルスは型が明確に異なるからです。

新型コロナウイルスについてはいまだに分からないことが多いです。今のところ、動物が感染しているかどうかの検査の方法もありません。とりあえずの課題は速やかにヒトでの感染をコントロールすることです。早く終息して欲しいですね。

世界小動物獣医師会(WSAVA ) による指針


No.235 角膜潰瘍 (Corneal ulcer)

角膜は眼球の前面で、映像を網膜に届けるために透明で、眼球内容物を守る強い膜です。約0.5mmという薄い膜であるにもかかわらず強度があり、表面から上皮、実質(コラーゲン線維)、デスメ膜、内皮の4層からなっています。眼の疾患の中でも角膜潰瘍はよく見られる疾患です。猫ではヘルペスウイルスが原因となっている場合が多くあります。

一概に潰瘍と言っても、その程度は様々で、軽いものから、上皮(一番上の層)の潰瘍を表層性潰瘍、実質まで達した潰瘍を中層性~深層性潰瘍、デスメ膜まで達した潰瘍をデスメ膜瘤、角膜に穴が開いてしまった状態を角膜穿孔といいます。また、角膜のコラーゲン線維が融解した状態の潰瘍を融解性潰瘍と言います。どの潰瘍も痛みや充血、目脂が見られ治療が必要です。とくに、デスメ膜瘤、角膜穿孔、融解性潰瘍は危険な状態です。それ以外にも、最近増加している、見た目的には重篤な潰瘍に見えなくても、数週間から数ヶ月間治らない自然発生性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)などがあります。

デスメ膜瘤
角膜潰瘍が深くなり、内側の薄い膜しか残っていない状態です。いつ角膜に穴が開いてもおかしくない状態です。角膜穿孔した場合には、失明の危険が高まるため、出来るだけ穿孔する前に外科手術により潰瘍を修復することが必要です。

角膜穿孔
角膜に穴が開いてしまった状態です。眼球内の主には前房水という眼の中の液体が眼の外に出て来ます。前房水だけでなく、虹彩や中には水晶体などが出てくることもあります。眼の中の構造物が出てくることはもちろん大変なことですが、前房水だけでも出て来た場合でも、眼球が虚脱し、眼内出血や網膜剥離、将来的に緑内障を引き起こし、失明にいたることもあります。緊急手術が必要になります。

融解性潰瘍
細菌感染などの要因で、角膜のコラーゲン線維を溶かす酵素が働き、丈夫な角膜を溶かしていく状態です。進行が早いことが特徴で、半日で角膜が真っ白に混濁し、ぶよぶよした状態になります。特にシーズーやパグなどの短頭種は融解性潰瘍を起こしやすい犬種です。酵素の働きを止め角膜の融解を止めないと角膜穿孔になります。

自然発生性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)
角膜の表面の上皮が剥離した状態で、表層性潰瘍に分類されます。通常、表層性潰瘍は1-2週間で治癒するはずですが、いつまでも良くも悪くもならない潰瘍です。この場合点眼だけではよくならないので、やはり角膜表面の外科処置が必要になります。治療用のコンタクトレンズなども使う場合があります。


角膜潰瘍


No.234 小型犬の橈尺骨骨折

橈骨、尺骨とは前足を構成する前腕部の骨で、これらの骨折はトイプードル、チワワやポメラニアンなどの小型犬でよく認められ、抱っこからの落下やソファーからのジャンプといった些細な事故の結果起こるものがほとんどです。通常は橈骨、尺骨の両方の骨折が起こり橈尺骨骨折と呼ばれますが、それぞれ単独での骨折が起こることもあります。診断は触診とレントゲン検査です。

治療は通常、外科手術が選択されますが、この部位は周囲の組織が少なく、血流が乏しい骨のため、他の部位の骨折と比べても骨がくっつかない癒合不全が起こりやすい上、特に多い遠位骨折(手首に近い方での骨折)では少しのズレが足の変形につながってしまいます。また、犬はヒトと違い、後肢よりも前肢の方に体重の負荷がかかっています。そもそも安静にするという概念はありません。適切な手術法の選択が必要です。

外固定や髄内ピンなどの固定法を単独で用いた場合には癒合不全などの合併症が起こるリスクが高く、特別な症例を除いてはプレート法または創外固定法などの方法で強固な固定をすることが望ましいとされています。プレート法と創外固定法にはそれぞれ特徴があり、骨折の形態や犬の年齢、体重、活動性、健康状態、飼主様のご意向など、様々な要素をもとに治療方針を決定します。

近年、血流阻害を起こしづらいロッキングプレートや、重量の軽いチタンプレートの登場で、癒合不全のリスクは格段に減少しましたが、プレートの破損事故なども稀にみられ、厄介な骨折の1つです。


トイプードルの橈尺骨骨折(チタン製のロッキングプレート)

こちらもご参照下さい
No180 ロッキングプレート


No.233 冬の乾燥と痒み

気温が低くなると血行が悪くなり、被毛や肌細胞に栄養が届きにくくなります。また、冬は皮脂膜も減少します。さらに、空気の乾燥により、被毛や肌の水分量が減り、皮膚表面に微細なひび割れができて、皮膚のバリア機能が低下します。バリア機能が低下すると、外部からの刺激を防ぐことができないため、刺激を受け続け、痒みの神経が皮膚の表面近くまで伸びてきてしまうことから、ちょっとした刺激でもかゆくなる、痒み過敏の状態になってしまいます。

室内でも、冬になると空気が乾燥する上に暖房が欠かせません。しかし、普通のエアコンは空気を暖めるだけなので、ますます湿度が低下してしまいます。そのような状態が続くと乾燥肌トラブルにつながります。できれば加湿器を使用してください。冬の犬や猫の室内の適温は、年齢や健康状態によっても異なりますが、目安は18℃~22℃、湿度は45%~60%です。この湿度にきちんと加湿するには、8畳のお部屋なら16畳分の加湿器が必要だといわれています。とくにマンションは乾燥しやすいので注意して下さい。また、電気こたつや電気毛布、ペットヒーターなどはかゆみがひどくなりがちなのと、使用を誤ると低温火傷のおそれがあるので注意しましょう。

また、冬はシャンプーにも注意が必要です。熱い温度のシャンプーや長時間の入浴は、皮脂や角層の保湿成分が奪われ、被毛もパサパサになります。ゴシゴシこすると、被毛も痛めるし、肌表面の皮脂膜を剥がし、角層を痛めてしまいます。優しく洗うようにしましょう。タオルドライ時も、なるべく、ふかふかのタオルを使用して下さい。

シャンプー中は角層に水分が入り込み、肌は一時的に潤いますが、お湯によって肌がふやけ、角層の細胞の間にゆるみが生じていますので、よりお肌の中の水分が逃げやすい状態になっています。シャンプー後はできるだけ早く、保湿剤を使って水分が逃げないように蓋をしてあげてください。当院では、ヒト用入浴剤のキュレルやフェルゼアをリンスやコンディショナーのように使うことを推奨していますが、被毛や肌に合えば何でも良いです。迷われる場合はご相談下さい。


キュレルの入浴剤

こちらもご参照下さい
→No161 乾燥と痒み